インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)


この話には、サブストーリーを書きました! 
外伝的な話ではなく、ヒロイン視点です。別に読まなくても繋がりが分からなくなるわけではありません。


ちょっとでも気になる読者様がいらっしゃいましたら、ブログの方で掲載していますので、良かったら見てください!
(URLは後書きに記載しています。ブログ内の第42話の本文の「ええ、そうね」をクリックすると閲覧出来ます)


第42話 俺達は前へと進む

 

 

 

 休日の過ごし方というのは人それぞれ、多種多様、千差万別であることは誰もが等しく理解し、享受していることだろう。故に「休む日」とは書くが、休日は誰もが部屋で心や体を休ませることに終始するとは限らない。

 斯く言う俺も、自室に引きこもるようなことは、必要性が無い限りあり得ない。面倒くさがりな性格をご存じの世間様からしたらそれは意外かもしれないが、じっと部屋に閉じ籠っているのは性に合わないのだ。そんな俺の青春ラブコメが間違っているかどうかは定かでないが、どうやら俺はヒッキーや専業主夫、あるいは自宅警備員になる為の資質を兼ね備えてはいないようだ。

 とはいえIS学園に入学してからの休日と言えば、基本的には学園内に引き籠り、全て一夏への特訓へと割り当てていた。

 まぁその甲斐あってというべきか、ペアでの参加だったとはいえ一夏は学年別トーナメントで優勝する程には実力をつけた。ここまでくれば、それほどまでに特訓に時間を割く必要もないだろう。

 それにあまり根を詰め過ぎるのも良くない。一夏には青春を謳歌してもらいたい。それこそが俺の素直な気持ちだ……おお! 今の発言は京夜的にポイント高い、ってちょっとネタがくどいだろうか。

 

 

 

「(選べ――! ①間違って箒ちゃん達の前でエッチなDVDを再生しちゃう)」

「(②ま、間違って箒さん達の前で、えっと、その……か、官能小説を、ろ、朗読しちゃう……)」

「(選べるかぁぁぁ――!! っていうかネタが間違っているわ!!)」

 

 

 

 全く。俺の学園ラブコメを全力で邪魔しているのは、脳内選択肢ではなく君ら脳内彼女に違いない。

 いつもの事だが話が逸れた。戻ろう。

 ということで、しばらくは学生らしい休日を満喫することにした。

 そんな俺達は3人でIS学園の外へと出ている。

 

 

 

「はぁ~、シャバの空気は美味いぜ~!!」

「一夏、アンタにとってIS学園って監獄なワケ?」

 

 

 

 前回の流れから考えて、今一緒に居るのはシャルロットとラウラであると思った人が大多数だろう。その予想や期待を裏切ってしまい申し訳ない。

 だが物事には順序があるのと同様に、約束にも順番がある。俺には他にも約束していたことがあり、今日はこうして一夏と鈴と3人で出かけることになったのだ。

 とはいえ、特にコレといった目的意識のある約束ではなかった俺達は、なんとなく一夏達の地元へと足を運ぶこととなり、その流れでいつぞやの話に出てきた『五反田食堂』へ行くことになり、そこへ向かって商店街の中を歩んでいる最中だ。

 昔ながらの街並みを良い意味で留めているこの商店街は、シャッター商店街と呼ばれるような閑古鳥が鳴き叫ぶ街とは縁遠いと感じる程に活気があふれており、全体が休日の程よい賑わいを見せている。

 

 

 

「あ! お~い、弾!!」

 

 

 

 そんな商店街の一角。年季は入っているものの、不衛生さを感じさせない老舗の佇まいを見せる店の前に立つ青年に、一夏は手を振る。

 一夏より少し背が高く、紫がかった長めの髪にヘアバンド。比較的整った顔。黒を基調としたお兄系のファッションスタイル。ビジュアル系バンドマン? そんな印象を受ける男が、一夏の声に答えるように手を挙げた。

 

 

 

「遅せーよ、一夏。待ちくたびれたぜ」

「悪い悪い。わざわざ外で待っててくれたのか」

 

 

 

 互いに挙げた手でそのままハイタッチ。お前達がどのチームから何点取ったかは知らんけど、仲が良いんだな。そうか、さっき携帯で連絡を取っていたのはコイツか。

 

 

 

「久しぶりだな、鈴。元気そうで何よりだ」

「ホント久しぶりね。それにしても……あんま変わってないわね~弾。まぁ1年そこらじゃ、そんなに変わんないか」

「……。ああ、そうだな」

 

 

 

 2人は目を合わせながら、互いにニッと笑顔を見せる。

 悪友。一夏を含めた3人の談話するその姿に、そんな印象を俺は受けた。そして鈴の周りに彼らのような存在がいたことに、俺は顔が綻びそうになる。

 

 

 

「えっと、彼が?」

 

 

 

 やっと俺の出番か? っていうかステルス機能未搭載である俺を放置するとかあり得なくない? 放っておかれると何するか分かんないぜ? そういう危険を孕んだハードボイルド系を目指してますから、自分。

 

 

 

「ああ、俺と同じ男性操縦者の――」

「黒神京夜だ。学園では一夏の『ツッコミ』と『引き立て役』を担当している」

「俺に対しては基本ボケっぱなしのお前が、どの口でそんなこと言う!? 毎日お前へのツッコミで俺は疲労困憊なんだけど!?」

 

 

 

 一夏のリアクションに、「ハハハッ」を無防備な笑いを見せた彼は、再び俺に視線を合わせる。

 

 

 

「俺は五反田(ゴタンダ)(ダン)。知っているとは思うが、一夏と鈴とは中学からのダチだ。弾で構わないぜ」

「ああ。宜しくな弾。俺も京夜で構わないぞ」

 

 

 

 名字から察するに、この食堂の息子ってことか。一夏に負けず劣らず人当たりが良さそうだな。一夏とは違って鈍感そうではないが。

 すると一夏が自分の腹をさする。そういえばそろそろか。もう臨月らしいからな。まもなくベイビー誕生だ。誰の子とは言わないが……って分かってるよ。一夏は意外に燃費が悪いからな。

 

 

 

「とりあえず、飯食ってから出かけようぜ?」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 一夏の言葉に、弾は背にしていた後ろの入り口を開けて招き入れる。俺達はその店先掛けられた味わいある薹の立った暖簾をくぐって内へ。

 古き良き昭和の香りが漂う室内装飾の店内。壁に掛けられているのは、深みのある色合いの木彫りのお品書き。年輪を重ねた温かみのある木製の椅子とテーブル。この店が長年愛されているということが、この店内の至る所から伝わってくる。

 奥へずずっと進み、隅の4人掛けテーブルへ。俺の着席に合わせる様に、鈴は俺の隣を陣取る。そんな鈴の行動を「いつも通りだな」と言わんばかりな態度で一夏は俺の向かいの席へと腰を掛ける。

 弾はというと席には着かず、お冷をテーブルへと運んできた。

 

 

 

「何にする?」

「ん~。一夏、おススメは?」

 

 

 

 俺の問いに、一夏は顎に手を当てて考え込むポーズ。数ある味の記憶を呼び覚ましているようだ。壁を見る限り、メニューは豊富そうだしな。

 

 

 

「そうだな……何でも美味いけど、1番は――」

「あたしと京夜は『業火野菜炒め』定食ね!!」

 

 

 

 一夏の言葉を遮るように弾へと注文した鈴へと俺は視線を向ける。その顔は「何よ、文句あるわけ?」と言う程の理不尽さは感じないまでも、「私を信じなさい」という自信が色濃く出ていた。まぁいいけどさ。

 

 

 

「じゃあ、それで」

「……」

 

 

 

 ん? どうした? 俺の言葉に反応しない弾は、その顔に僅かばかりの驚きを表しながら鈴を見つめている。

 

 

 

「弾?」

「あ、ああ、スマン。2人は『業火野菜炒め』な。一夏はどうする?」

 

 

 

 一転。弾は少し慌てたような表情を一瞬浮かべ、そうかと思えば何事もなかったように冷静さを取り戻し、一夏に注文を促す。

 流石に趣味が人間観察の俺とはいえ、知り合って数分の彼の心情を把握することは困難を極めるが、何か動揺しているようだった。

 

 

 

「じゃあ、俺も」

「わかった。ちょっと待ってろ」

 

 

 

 そう言うと、弾は厨房へと向かった。それは俺達の注文を伝えに行くだけの行動なのだろうが、俺は先程の態度や表情が心に引っ掛かり、何かを感じずにはいられなかった。

 だが俺にそんな思考をさせないとばかりに、新たな登場人物が姿を現す。 

 

 

 

「お兄!! ちょっと――」

 

 

 

 厨房の近くの、店内と住居を繋ぐと思われる扉が開かれ、そこに声の主と思われる1人の少女が立っていた。

 

 

 

「あ、蘭。久しぶり。邪魔してる」

「い、一夏さん!?」

 

 

 

 蘭と呼ばれた少女は、一夏をその瞳に映らせると、激しく狼狽する。

 背中まである赤紫の髪にヘアバンド。幼く可愛らしい顔立ち。華奢な体つきではあるが、健康的な肌色。恐らく部屋着なのだろうその格好は、タンクトップにショートパンツというラフなスタイル。察するに、弾の妹なのだろう。

 

 

 

「久しぶりね、蘭」

「鈴さんまで!? 日本に帰ってきてたんですか!?」

 

 

 

 鈴とも知り合いのようだ。そりゃそうか。話を聞く限り、一夏と鈴と弾の3人はよくつるんでいたらしいし、きっとココにも入り浸っていたのだろう。

 

 

 

「まあね。今は一夏と同じIS学園に通っているわ。それより……」

 

 

 

 鈴は立ち上がり、近づいて彼女に何やら耳打ちをする。すると彼女は、顔を真っ赤に染め上げ、凄い勢いで住居へと引っ込んでしまった。

 

 

 

「蘭のヤツ、どうしたんだ?」

「べっつに~? 気にしなくていいわよ、一夏は」

 

 

 

 なるほどな。そういうことか。鈴の表情とその言葉から、俺は彼女の思いを理解する。確かにあの姿は思春期の女の子が意中の人に見せる格好ではないかもな。

 それから数分後。再び彼女は現れた。その姿は、先程までの無防備なラフスタイルを微塵も残していない。綺麗に梳かされ、セットされた髪。半袖の真っ白なワンピースに身を包み、その裾から覗く躍動感あふれる脚を覆う二―ソックスには、小さなフリルが装飾されており、彼女の可愛さをより際立たせている。一夏の好みを俺は知らないし、彼女がそれに合わせているのかは分からないが、まさに完璧。足先に至るまで全てに気合いが入っていた。

 ちなみに鈴の格好はというと、真っ赤なキャミソールにホットパンツ。足元はグラディエーターサンダルと、もう完全に夏仕様。動きやすく健康的でありながら、露出多めの女子力高いスタイルに、「似合ってる。可愛いぞ」と出かけ際に伝えたら、照れ全開で「ありがとう」と嬉しそうにしていた鈴の顔をお見せ出来なくて残念だ。

 

 

 

「着替えたの? どっか出かける予定?」

「あっ、いえ、これは、その、ですね」

「ああ! デート?」

「違います!!!」

 

 

 

 一夏……。これだけ言葉を濁らせてるんだから、彼女の気持ちが理解出来ないまでもスルーするくらいはしろよ……。相変わらず「察し」が無い奴だな一夏は。もしお前が窓だったら、隙間風入りまくりだぜ?

 彼女はそのまま俺達のテーブルの空いた席に、一夏の隣に座る。嬉々たる表情を浮かべている所悪いけど、このテーブルは4人掛けで、今たまたま空いていたそこは、俺達へ配膳する為に厨房へと向かった君の兄君の席であることは、分かってるよね? 

  

 

 

「……蘭、そこは俺の……」

「何か、問題ある?」

「……いえ、ないです」

 

 

 

 俺達への配膳を終え、自分用の食事を持って戻ってきた弾は、その手に握られていたトレーを鋭い眼光をした妹君に取り上げられ、涙目で再び厨房へと戻っていった。

 あ~。そっか……そういう地位なんだ……。

 俺はまるで自分を見ているかのような弾のその哀愁漂う背中に、目から溢れ出る心の汗が頬を伝いそうになる。俺、弾と親友になれる気がする。いや寧ろ心友にさえなれそうだ。後でメールアドレスを交換することにしよう。

 

 

 

「えっと、一夏さん、鈴さん。そちらの方は……」

 

 

 

 そこからは俺と彼女、互いの自己紹介。流石に2度目なので割愛。弾の妹、五反田(ゴタンダ)(ラン)が彼女の名前。その事実に「リンリンに続いて、やっぱりランランキタ―」と喜ぶ脳内彼女。なんだかなぁ。

 そして俺達は目の前に運ばれてきた食事に箸をつけ始めた。俺は左足をガシガシ踏みしめる鈴の機嫌を宥めながらという難易度の高い昼食だ。何なのコレ? 食事の難易度が高いって。ココは食林寺なの? 食への感謝が足りないから見えないだけなの?

 鈴の不機嫌な理由は、どうやら俺が蘭に対して社交辞令的に口にした「その格好、可愛いな」という発言のようだが……。一夏が言わないから、それを促す意味でも吐いた発言だったのだけれど……なんで俺がこんな目に……。

 はぁぁ~。あー、この野菜炒め、美味いなー。

 

 

 

 

 

◇ 

 

 

 

 

 

「へぇ~楽しそうですね、いいなぁ~」

「まぁ、京夜がいるから退屈はしないな」

「そうね。京夜のおかげで退屈はしないわ」

「……俺はSNSサイトか何かか?」

 

 

 

 100万ダウンロード突破しても、記念でレアカードなんてタダでくれてやらんぞ! 課金しろ課金。

 俺達は食後の温かな緑茶を啜りながら、主に互いの学校での生活を話題に和気あいあいと閑話。

 最初こそ俺に対して少し警戒と言うか、距離を取っていた蘭だったが、今では一夏や鈴への接し方と同様、古くからの友人のように会話が出来るようになっていた。

 鈴も既に機嫌を直しており、楽しげな表情を浮かべている。耳打ちで「鈴の格好の方が、俺好みで可愛いぞ」という俺の言葉に顔を赤くして機嫌が良くなるあたり、その単純さが魅力の1つであることは間違いないな。

 ふと俺は通路を挟んで隣のテーブルに座る弾へと目を向ける。妹に追いやられ、1人きりで4人掛けのテーブルに座る彼は、なにやら浮かない顔をしていた。

 悲痛……とは流石に言い過ぎかもしれないが、まるで非情な現実を目の当たりにしてるかのような、そんな表情だった。「自席を追いやられたのは、何か俺に原因があるんだ、俺が悪いんだ!」なんていう明後日な方向の自責の念に駆られている……なんてある訳ないか。

 そんな少し影を落としたその表情に、一夏も気付いたようだ。

 

 

 

「? どうした弾?」

「へ? ああ、すまない。何でもない。つーか、やっぱり羨ましい過ぎるぜ。楽園過ぎるだろうソレ。俺もIS使えるようにならねぇかな~」

「お兄はバカだから無理でしょ」

 

 

 

 蘭のツッコミに、ワハハッという皆の笑い声。和む空気。

 だが……。

 だが俺には、欺きが人生で、息を吸うように仮面を被る俺には、弾の笑顔に何やら偽りめいたものを感じずにはいられなかった。

 彼が何を思っているのか。ティーナ達が集めてくる得意の事前情報も、共に過ごす時間から知ることの出来る彼の「為人(ひととなり)」も知らない俺には、推測することすらままならない。

 なら俺は、そんな邪推を捨てるべきなのだろう。場の空気を何より優先した彼に乗っかることが、俺の優先すべきことなのかもしれないな。

 

 

 

「弾の頭の具合は知らないが、もし弾がIS学園に来れたとしても、もう手遅れかもしれないぜ?」

「ま、まさか……」

「既にハーレム形成済みだ。とはいえ当の本人は……まぁダチである弾には分かると思うが……」

 

 

 

 俺の言葉に「あ~」と納得したような表情を見せるのは弾と蘭。 え? 鈴? 「アンタもそうでしょ!」と俺を睨みつける鈴なんて、俺には見えないよ? (汗)

 

 

 

「そうか……変わってないのか。正直ワザとやってるんじゃないかって思う時もあったんだが……」

「もう諦めた方がいいわよ。これはもう病気の一種よね」

「そうですね……」

「? 何の話だ?」

 

 

 

 誰の話しかすら理解出来ない当事者に、鈴と五反田兄妹は揃って落胆を見せる。特に弾の溜息は10歳老けこんで見える程に深い。

 相当苦労させられていたのだろうな。度重なる一夏のフォローに、面倒見が良さそうである彼の奔走している姿が目に浮かぶ。どれだけ面白いツイートを世に発信し続けるつもりですか、@ICHIKAくん?

 その後俺達は、お嬢様学校の生徒会長であり、休日も忙しいらしい蘭と別れて店を後にし、中学時代常連だったというゲームセンターへと向かった。別れ際、蘭に「一夏の生写真」をプレゼントすると、これ以上ないくらいにお礼を言われたことなんて、被写体の本人は知る由もない。

 一応俺の名誉の為に言っておくと、お金は取ってない。タダだ。流石に女子中学生に対してそんな阿漕な商売なんて出来ないからな。とはいえ現在中学3年生で、IS学園への進学を決めている彼女なら、来年には良いお得意様になってくれるだろうから、これは先行投資になるだろうという目論見が無いわけではない……ってアレ? これって言っちゃうと俺の名誉が守られてなくない? ああ、そうか。これが「汚名挽回」っていう謎の四字熟語に繋がる訳か。

 歩いて20分程で到着したこの場所は、商店街から少し離れた立地にあり、総合アミューズメントパークと呼ばれるような施設だ。カラオケやボーリング、ダーツやビリヤードなんかも出来る所で、この辺りの中高生達にとってはメジャーで定番な遊び場なのだろう。

 もちろんゲームセンターもあり、一夏達はよくジュースや昼食を賭けてレースゲームやエアホッケー等で勝負していたそうだ。

 ちなみにエアホッケーにおける【一夏VS弾】の現在の対戦成績は一夏の10連勝中らしい。これは弾が弱いのか、それとも主夫ヒーローである一夏の「意地でも奢らない」という執念の勝利なのか。

 って言ってるそばから連勝記録が『11』に伸びてるぞ。ちょっとは盛り上げることもしろや、一夏。完封って。必死過ぎるだろ。

 

 

 

「まだまだだな、弾! じゃあ、俺はウーロン茶で」

「くっそ~、覚えてろ~!」

 

 

 

 弾は奥にある自動販売機へ逃げるように走っていく。今日も今日とて織斑家の家計は守られたのだった~っていうかコレ視聴率取れんのか? 昔からライダー俳優はイケメンで、それが視聴率直結ではあるけれど、こんな盛り上がり皆無の30分番組を熱中して見てくれるのは金持ち専業主婦くらいだろ。このマダムキラーめ。

 

 

 

「一夏!! 次はあたしと勝負よ!!」

「いいぜ!! 返り討ちにしてやる!」

 

 

 

 俺の横で共に観戦モードだった鈴は、一夏と共にエアホッケーのすぐ隣にあるレースゲームへと向かった。

 皆様ご存じの、峠のキングを目指す豆腐屋の倅が奮闘するヤツで、2人は慣れた感じで筺体へと乗り込み、レースをスタートさせた。

 俺はというと白熱する2人から離れて壁際のベンチへと腰を掛け、ポケットへと手を入れる。食後の一服がまだだったしな。

 

 

 

「(流石に今は止めときなさい。補導されたら洒落になんないわよ)」

「(っていうか、いつでもダメです! 体に良くないんですから! 京夜さん、禁煙しましょう?)」

 

 

 

 それは難しい提案だなぁ……ふとした時に口寂しくなるんだよ。飴とかガムじゃ正直物足りないしさ。

 まぁここで「俺が口寂しい時には必ずキスしてくれるんなら、止めても良いぜ?」って提案する手もなくはないけどな。ただ茜の場合は、その言葉に顔を真っ赤に染めて上げて動揺しまくりのナイスリアクションが期待出来る上、そのまま禁煙話も有耶無耶に出来るだろうけど、ティーナの場合はノータイムなノー躊躇で俺の口唇を奪うだろう。俺の金髪美幼女な脳内彼女は甘え上手な上、そういう恥じらいはないタイプだ。誰に似たのだろうか? 言わずもがな俺か。

 俺は喫煙を諦め、ポケットから手を抜いて深い溜息をつく。すると弾が戻ってきた。その手にはジュースの缶を幾つも抱えている。俺の隣に腰を掛けると、その1つを俺に手渡す。

 

 

 

「ホレ。俺のオゴリだ」

「悪いな、弾。サンキュ」

 

 

 

 俺は渡された缶コーヒーを開け、一口含む。弾も残りの缶を横に置き、その1つを開けてグイッと飲み出した。

 そこから数秒の間。俺と弾は互いに顔を合わせるわけでもなく、会話をする訳でもなく、ただ並んでそのベンチに座っていた。だが別に不快ではない。店内に流れる音楽や、ゲーム筺体から奏でられるサウンド、そして周囲の楽しげな騒ぎ声が相まって作られている大音量が、このさほど悪くない居心地の構築の一役を担っているのかもしれないが。

 ふと俺の視界には、俺の名前を呼びながらガッツポーズを取る鈴の姿が映る。隣の一夏は悔しそうな顔で、しきりに鈴に人差し指を立てて迫っていた。異常聴覚の持ち主でなくても一夏の「もう1回! もう1回!」が聞こえてきそうだ。

 俺は笑顔で軽く手を振る。するとそんな俺のリアクションに納得したのか、鈴は再び一夏と対峙し、レースゲームのマシンへと乗り込んだ。

 すると、徐に弾が口を開いた。

 

 

 

「……京夜のこと……だったんだな」

「何がだ?」

 

 

 

 僅かばかり思い詰めたかのような、それでいて心中でも語りそうな面持ちで呟いた弾に、俺は疑問詞を投げかける。すると弾は昔の事を語り始めた。

 それは今から2年程前の事。夏のある日、弾と鈴は、3人で一緒に帰ろうと一夏を探していた所、一夏が後輩の女子に告白を受けている現場を目撃してしまったらしい。その光景に「相変わらずモテモテね、一夏は」と言う鈴を見て、弾はある1つの疑問を鈴へと投げかけたそうだ。

 

 

 

「前から聞いてみたかったっていうのもあってさ。だから俺は聞いたんだ。『鈴は一夏の事を好きになったりしないのか?』って」

「…………」

「そしたらさ。鈴のヤツ、『もう2度と会えないかもしんないけど、あたしには忘れられない人がいるのよ。だからあたしはその人以外、好きになることはないわね』って言ったんだ。そん時の、悲しそうに笑う鈴の顔が、今でも俺の目には焼き付いてる」

 

 

 

 肘を膝に置き、両手を缶を持ちながら伏し目がちに語っていた弾は、頭を少し上げて鈴へと視線を向ける。

 

 

 

「けど……今の鈴を見て、わかった。それは京夜、お前のことだったんだな。そうか……また会うことが出来たのか……。それは……良かった……」

 

 

 

 目の前にある事実を受け止めるかのような言葉を発しながら、鈴を見つめている弾の目は、穏やかでありながら何処か寂しげで、そして……遠い眼差しだった。

 

 

 

 そうか……弾、お前は鈴の事が……。

 

 

 

 すると弾は、まるで迷いを振り切るような勢いで体を起こし、暗さなど微塵にも残していない表情でこちらを見る。

 

 

 

「鈴の事、頼んだぜ! アイツは、俺の大切な……ダチだからな!」

 

 

 

 弾は笑った。二カッという効果音が生まれそうな程に。

 それは全力全開の作り笑顔。恐らくは辛く苦しい現実を受け入れる為の、そして恐らくは鈴の笑顔を守る為の。

 そんな……そんな男の笑顔だった。

 俺は笑顔で拳を弾の前に突き出す。何も言わない俺の突き出した拳の意味を理解した弾も拳を突き出して、俺の拳に突き合わせた。

 一夏もそうだが、弾も良いヤツだな。出会ってまだ数時間の関係だが、俺の中には弾に対する信用や信頼が芽生え始めていた。

 

 

 

 だからだろうか。俺の口から言葉がこぼれてしまったのは。

 

 

 

「……もし……」

「ん? 何だ、京夜」

「……いや。やっぱり、いい」

 

 

 

 人の気持ちは強要出来ない。鈴の思いがそうであるように、この先弾が、鈴ではない別の誰かを思うことは、自由なのだから。

 だからこれは俺のエゴでしかない。だからこれは頼むべきことではない。だからその内容すら伝えるべきではないだろう。

 

 

 

 ――もし俺がいなくなった時のことなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は17時頃。落ち着いた気温と、時たま吹き抜ける風に心地良さを感じる時間帯ではあるが、7月も既に中旬。日は大分長くなり、辺りはまだ夕方と言える程の暗さは感じない。

 一頻りゲームを満喫した俺達は、再び商店街へと戻ってきていた。夕食前のこの時間は、昼の時よりさらに賑わいを増しており、俺達はその中を散策するかのように練り歩いていた。

 片手にはそのあまりにも美味しそうな匂いに吸い寄せられ購入した肉屋のメンチとコロッケ。美味いよな、こういうのって。

 すると急に一夏が立ち止まる。

 

 

 

「ああ、そうだ! 俺、ちょっと実家に寄らないと。千冬姉のスーツとか整理してクリーニング出すの忘れてた」

「そんなら、俺もそろそろ帰るわ。店、手伝わないと」

 

 

 

 腕時計に目を向ける弾。なんでも、夕方から夜にかけて混み始めるらしい五反田食堂の強制労働を余儀なくされているらしい。

 どうやら弾は五反田家ヒエラルキーの最下層の住人のようだな。こんな所にも女尊男卑の影響が……ってこれは関係なく弾の立場が弱いだけだろう。俺と一緒だ。

 

 

 

「じゃあここでお開きだな。一夏、どうする? 俺達も一緒に行くか?」

「待たせるのも悪いし、2人は先に帰っててくれ! じゃあな、弾! また連絡する!」

「おう、一夏。またな!」

「時間には気をつけなさいよ。千冬さんに怒られても知らないんだから」

「ああ!」

 

 

 

 一夏は回れ右して走り出す。IS学園で心身鍛えられている一夏はそのまま、あっという間に商店街に溢れる人混みの向こう側へと見えなくなっていった。

 

 

 

「俺も行くわ。またその内4人で遊びに行こうぜ」

「5人……でしょ。また蘭を除け者にすると、後が大変よ? 特に弾が」

「ハハハ……そうでした」

 

 

 

 弾は頭を掻きながら、少しばかり顔を引き攣らせる。恐らくは今日の夜に開催されるであろう、身の毛もよだつ蘭からの「お話」に恐怖しているのではなかろうか。俺も帰ったら……あるのかな? お話……。

 

 

 

「じゃあな、鈴、京夜」

「ええ、またね」

「……ああ。またな」

 

 

 

 手を振りながら弾もまた、商店街の奥へと去って行った。

 俺はその場に立ち尽くしながら、徐々に見えなくなる弾の背中を目で追い続けていた。先程の、笑顔で告げた弾の別れ際の言葉に、妙妙たる男の強さのようなものを感じ、心を打たれていたからかもしれない。

 

 

 

「なぁ、鈴」

「ん? 何よ?」

「良いヤツだな、弾は」

「ええ、そうね」

 

 

 

 鈴は笑顔でそう答えた。いつもと何ら変わりない笑顔で。

 もしかしたら心が気付かない様にしていたのかもしれないが、恐らく鈴は弾の気持ちに気付いていないのだろう。それは鈴が他人の気持ちに対して鈍感であることも否定出来ないが、必死なまでに弾が自分の思いを隠し通した結果ではないかと思う。

 この笑顔はきっと、自分の気持ちを犠牲にしても弾が守りたかった顔なんだろうと思うと、俺に出来ることはそれを受け継ぐことだけなのではないかという考えが生まれ、それに心が揺さぶられる。

 俺は右手を差し出す。すると鈴は僅かに頬を染め、照れくさそうな態度で視線を外しながらも俺の手を握った。

 その温もりを感じながら俺は前を向き、そのまま歩き始める。俺達の周りを包む空気は、いつぞやの屋上で感じた懐かしさ。俺の視界は、そんな郷愁を感じるような美しい淡い暖色が広がる。このまま、昔のように仲良く笑顔で、いつまでも一緒に居てその笑顔を守れたらとさえ感じてしまう。

 とはいえ、それはものの数秒。

 魂の深い所からの声に、俺の視界は醜悪な赤と黒に染まり、俺はその向こう側を、遠くを、見据える。

 ……分かっている。分かっているさ。

 

 

 

「こうしてると、昔を思い出すわね」

 

 

 

 鈴の声に、俺は我に帰る。まるで視界が、この世界に定着するように、見える景色がいつも通りに戻る。

 俺は再び鈴へと顔を向ける。すると鈴は既に俺を見つめていた。

 先程とはまた違う笑顔。屈託のない活発な少女の笑顔ではなく、穏やかで温かい眼差しの、優しい笑顔。同じようにこの空気に触発された、昔を懐かしむ笑顔なのかもしれない。

 

 

 

「……そうだな。俺が手を引いてないと、鈴はいっつも泣いてばっかだったっけ」

「そ、それは! あたしを置いて、すぐにどっか行っちゃうからでしょ!」

 

 

 

 まさしく赤面の至りと言える程に顔を赤くして動揺する鈴のリアクションに、俺はついついニヤニヤしてしまう。可愛いヤツだ。

 「まったくも~」と呟きながら呼吸を整えた鈴は、俺の手をキュッと、強めに握る。

 

 

 

「だから……」

 

 

 

 立ち止まり、次の言葉が発せられるまで、コンマ数秒。刹那。俺は瞬間的に、何らかの感情故に生まれた間であることには気付く。

 だが俺にはそれがどのような感情なのか、鈴の続けた言葉と表情を見るまで、想像すら出来なかった。

 

 

 

「たとえアンタがどっかへ行っちゃっても、絶対探し出してついていってやるんだから!」

 

 

 

 そして俺はその感情に、その思いに、意表を突かれたのだった。きっとこれ以上ないくらい無防備で間抜け顔を、俺はしていたことだろう。

 「アンタ」という呼び方。強気な物言い。あくまでも俺の行動を縛る訳ではないという言い方。そして何よりその太陽のような、満面で自信に満ちた笑顔。

 それは……間違いなく、俺への思いが籠った笑顔だった。

 俺は目を閉じ、写真に残されたならトラウマ必死の顔を整える。そして目を開き、真っ直ぐ鈴を見つめながら、同じく笑顔を返した。

 俺に出来ることは、それだけだった。紡ぐ言葉は、吐いた端から偽りへとなってしまいそうで。今だけは嘘を吐きたくないと思った俺に出来た答えは……笑顔だけだった。

 そんな俺の答えに納得したのかは分からないが、鈴は俺の手を引き、再び歩き始めた。

 

 

 

「京夜! 今度は2人きりで出かけましょ!」

「そうだな。鈴とデートか。楽しそうだ」

「ちょっと遠出とかもいいわね! 遊園地とか!」 

「園内走りまくりで、アトラクション完全制覇とか?」

「当然!!」

 

 

 

 俺達は前へと進む。普通の学生のこんな何気ないやりとりを交しながら日常へと続く道を。あとどれくらい、俺達は同じ道を歩めるのかは分からないまま。

 俺はその時まで、この手を決して離さないと心に誓い、帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 




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 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


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