インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)


第40話 俺は目を閉じる

 

 

 

 

 横たわるベッドから見える天井は、いつもと何も変わらない。寝つきの悪い僕が夢の世界へ誘われるまでの長い時間、ずっと見続けてきたIS学園の寮の天井。色々あった今日ですら、僕は未だに意識を保ったままだった。

 僕は体を起こして隣のベッドに目を向ける。そこにはルームメイトの京夜が安らかな寝息を立てていた。意外にも彼は寝相が良い。真上を向いたままの姿勢が多く、寝返りを打つところすらあまり見たことがない。

 僕は掛布団を払いのけ、互いのベッドの間側へと足を降ろして座り、改めて京夜の顔をマジマジと見る。

 黒神京夜。僕の男装を1日で看破したルームメイトで、トライラックス社の現社長で、そして……

 そして……優しい人。それは僕だけが分かる優しさ。突き放す優しさ。甘えさせない優しさ。

 もし僕の男装がバレたのが、そしてその経緯を話したのが一夏だったとしたら、一夏はきっと僕に優しい言葉を掛けてくれていたと思う。「ここにいろ」とか「大丈夫だ」とか。そんな僕の心を労わるようなことを言ってくれていただろう。

 もしそうであったのなら、僕もきっとそんな優しさに、ただただ甘えてしまうだけになっていたと思う。何もしないまま、何も変わらないまま、3年間という夢の時間を過ごし、何かのせいにしながら辛い現実へと戻るような道を進んでいたことだろう。

 だけど京夜は違った。僕に優しい言葉なんて掛けてくれなかった。僕を甘やかしたりしなかった。僕を憐れんだりしなかった。その上で、自分の事は自分でなんとかしろって、何もしない僕が悪いんだって、そんなことを誰よりも親身になって、僕に伝えてくれた。僕のことを考えてくれた。僕の為に行動してくれた。

 だからこうして僕は今、こんな気持ちでいられる。ルームメイトが、京夜で良かった。男装がバレたのが、京夜で良かった。京夜に出会うことが出来て……本当に良かった。

 僕の心は、京夜への感謝で溢れる。

 溢れ……ているんだけど……それとは違う別の感情がじわじわと心を浸食し、僕は持て余していく。たぶん僕は今、相当赤い顔してるよね。

 はぁ~。これ以上自分の中に芽生えた感情を偽ることなんて出来ないよ。もう皆に嘘はつかないって僕は決めた。だからこそ自分の気持ちにも嘘をつきたくない。

 そう、僕は――

 

 

 

 僕は恋をしてしまった。黒神京夜という男性に。

 

 

 

 イジワルで面倒くさがりだけど、僕のことを誰よりも考えてくれて、僕の間違いを遠慮なく指摘し、正してくれる優しさを持った彼に対する思いが、愛しさが、とめどなく溢れ出て止まらない。ドキドキして、なんだかムズ痒い。

 ハッ!? 何やってんの僕!? 僕はいつのまにか吸い込まれるように京夜の顔を覗き込んでいた。その顔と顔の距離は20センチ程。自覚したら胸の高鳴りが、ああ、もう何か凄いことに!?

 ああもうっ、寝よう! 明日はとっても大切な日なんだから!

 僕は再び布団の中へと潜り込んだ。とは言っても、すぐには寝れそうにない。今日はいつも以上に長い夜になりそうだよ。

 

 

 

 でもこれはきっと、京夜が悪いんだよ? なんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は朝からすこぶるテンションが低い。体もだるい。気分も重いし、胃も重い。当然と言えば当然だ。あの現場を見ていた人なら、誰もがそれを理由として納得し、俺に同情することだろう。

 それは今朝の出来事。それは朝6時から始まった事件とさえ言える。箒、セシリア、鈴に叩き起こされた俺は、そのまま食堂という名の取調室へと連行され、事情聴取を受けたのだった。せめて任意同行にして欲しかった。俺に人権はないのかもしれない。

 聴取の内容。それは「昨日どこに行っていたのか」ということだ。まぁアリバイ確認だな。そう言うとまるで俺が殺人事件の容疑者みたいだけど、どちらかと言えば未来的に俺が殺害されるのではないだろうか。

 部屋に、寮に、そして学園に居なかったという状況証拠しかない俺に、箒達は自白を強要する。傍らには朝飯にと持ってこられたカツ丼が。取調べには必須かもしれんが、朝から脂モノは胃もたれするわ。そういえばアレって刑事のオゴリじゃないんだぜ? ソースは俺。カツ丼だけに。体験談だ。

 とはいっても真犯人のシャルロットが自白をしていない以上、俺がゲロする訳にはいかない。俺は頑ななまでに黙秘権を行使した。

 すると互いに顔を見合わせた箒達はとりあえず何かを納得したようで、それでいて呆れたような顔を見せ、それ以上追及してこなくなった。

 そんな箒達に対し、理解があってなによりだと思ったことは確かだが、出来ればそういうのは完璧にやってもらいたい。言葉で直接的に言わなくなったのはいいことだが、そんな人すら殺せそうな追及の視線を送り続けないでもらいたい。やっぱり俺が被害者なんじゃなかろうか。

 

 

 

「(大丈夫よ! 『5分で書ける! 遺言書入門』を世界最大面積を誇る熱帯雨林と同じ名前の通販サイトへ注文しといたわ)」

「(これでいつ殺害されても大丈夫ですね。でも商品が到着して読破して書き残すまでは生き残ってくださいね、京夜さん)」

「(ティーナだけでなく、なんで今日は茜もそんなに辛辣なんだ!? 俺のメンタルは高野豆腐並なんだぞ!?)」

「(だ・か・ら!! 前にも言ったけど、シリアス過ぎると出番が減るのよ!!!)」

「(高野豆腐って。意外と固いじゃないですか、京夜さん……)」

 

 

 

 という訳で、そんな寝起き最悪で、殺人視線を送られて、脳内彼女に追い打ちを掛けられて、しまいにはカツ丼で胃にボディブローを喰らった俺が、SHR前にこうして机に突っ伏してしまうのは仕方のないことだろう。

 

 

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

 

 

 教室へと姿を現した山田先生ことヤマヤン。その姿は、今の俺に負けず劣らずの酷い顔をしていた。足元も覚束ず、フラフラしている。大丈夫か? 何か心身共に疲弊するようなことでもあったのだろうか。

 

 

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、既に紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

 

 

 不可解極まりないヤマヤンの説明ではあったが、『転校生』の単語にクラスの皆は反応し、ざわつき始める。

 ……転校生……ね。その言葉に、俺は辺りを見渡す。騒ぎ立てるクラスメイト達の中に、我がルームメイトの姿を確認することが出来なかった。つまりは……そういうことだ。

 

 

 

「じゃあ、入ってください」

「……失礼します」

 

 

 

 山田先生の呼びかけに、教室の扉を開けて恐る恐る入ってきたのは、女子の制服に身を包んだ金髪美少女だ。スカートから覗く生足は、ゴクリと喉を鳴らしそうになる程に艶かしい。いいモン持ってんな、お前。

 

 

 

「シャ、シャルロット・デュノアです」

 

 

 

 父親と和解し、憂いのなくなったシャルロットは、昨日の今日でクラスメイト達に真実を打ち明けることを決意し、実行したということだ。

 その2度目となる自己紹介に、俺を除くクラス全員がぽかんと……してると言える程ではないな。思った通りだ。

 人間観察が得意の俺調べによる現在の『唖然顔ランキング』。第1位は断トツで織斑一夏。完全にフリーズ。若干青ざめ気味のその固まった顔は、是非とも写真に収めたくなる程だ。第2位は同率で箒、セシリア、そしてラウラ。開いた口が塞がってないぞ。

 

 

 

「皆……ゴメンなさい!!!」

 

 

 

 シャルロットは勢い良く頭を下げ、そして恐る恐る上げた。その瞳には、申し訳ないという思いと、そして不安が色濃く表れている。

 

 

 

「実は僕……女子……なんだ。その……色々あって、男のフリをしなきゃいけなくて……でも……皆にこれ以上嘘をつきたくなくて……」

 

 

 

 俯き顔で、そして少し青ざめた顔色のシャルロットは、視線を誰とも合わせることが出来ていない。

 彼女はそのまま、視線を泳がせながらもグッと決意をしたかのような表情を一瞬浮かべ、そして続けた。

 

 

 

「許してもらえないかもしれないけど……僕は正直に、シャルロット・デュノアとして、皆と友達になりたいんです! 改めてよろしくお願いします!!」

 

 

 

 真っ直ぐクラスメイトに向き合い、再びの頭を下げたシャルロットの姿は、発せられた声同様に僅かばかり震えている。無理もない。最初からこれ以外に彼女が出来ることはない。謝罪しか、謝ることしか出来ない。どれ程辛くても、苦しくても、許してもらえるまでその頭を下げ続けることでしか、その先へと進む道はないのだから。

 けど心配すんな。恐らく、いや間違いなく――

 

 

 

「ヨロシクね! シャルロットさん!」

「やっぱり美少女だったか~。そりゃそうだよね~」

「なんか事情があると思って聞かないでいたんだけど、言えるようになって良かったね!」

「!! ……皆、ありがとう!!」

 

 

 

 ほらな。一夏や箒達はともかく、やっぱり皆は気付いていたか。そりゃそうだよな。結構ツメが甘かったし、なによりこういうことって男子より女子の方が敏感だからな。ちなみに女子の第6感にはちゃんと根拠があるらしいぜ? まぁ俗説に近いのかもしれないが。

 さて、これでシャルロットの望みは全て叶っただろう。父親には娘として、クラスメイトには同性の友達として、彼女『シャルロット・デュノア』は皆に、そして世界に受け入れられたということなのだから。

 だが拍手喝采のクラスメイト達とは対照的に、シャルロットの目の前に座る一夏は未だその状況を飲み込めていないようだ。それに気付いたシャルロットは一夏へと顔を近づける。 

 

 

 

「改めて宜しくね、一夏。……ゴメンね、男じゃなくて……」

「あ、ああ……」

 

 

 

 シャルロットの言葉に、あまりにも拙い返しをする一夏の顔は、もしかしたら真っ赤になっているのかもしれないな。一番後ろの席に座る俺には、それを確認することは出来な――

 

 

 

「おい! 京夜!! お前は知っていたのか!?」

 

 

 

 俺の心の声が聞こえていたのだろうか。一夏は立ち上がりながら振り返り、俺へと顔を向ける。予想通り、少し頬が赤い。

 本当はそこについてからかいたい所ではあるけれど、自重せざるを得ないな。なぜならここは冷静に返しておかなければならない場面。先程の一夏の発言に、クラスメイトの女子が全員、俺に多種多様な視線を向けているのだから。

 

 

 

「まさか。いや~ビックリしたなぁ~女だったなんて」

 

 

 

 とりあえずはこの程度を返しておけば大丈夫だろう。正直知っていたかどうかなんて他人には確かめようがないからな。俺がシラを切り通せば、今朝のような尋問レベルで済むだろう。決して楽な尋問ではないけど、拷問よりはマシだ……ってそんなことを思うようになってしまった俺って可哀想でしょうがないと思いませんか。

 ということで事態は収束へと進むだろう。自白以外に、皆がその真実など知る由も――

 

 

 

「……酷いよ、京夜。最初から知ってたくせに。それをネタにあんなことやこんなことを……僕、初めてだったのに……」

 

 

 

 おい!? 何言ってんだ、この金髪ボクっ娘は!?

 シャルロットは顔を両手で隠し、泣いているかのような仕草を見せる。だが俺に見えるのは、僅かに開かれた指の隙間からこちらを見てる目と、隠し切れていない少しばかり上がった口角。コイツ! ワザとか!? デコピンの仕返しか!?

 周囲は今世紀最大のざわめきを見せる(あくまで俺感性)。そんな「ざわ……ざわ……」っという空気と共に、俺には圧倒的恐怖の視線が主に2方向から向けられる。見えない、見えないよ俺は!! 俺にはドス黒いオーラを纏った黒髪ポニーテールと金髪縦ロールの女子なんて見えないから!!

 

 

 

「京夜ぁっ!!!!!」

 

 

 

 その怒号と共に、蹴破られたかのような勢いで教室のドアが開かれ、そして2組に在籍している茶髪ツインテール女子が現れた。

 おい!? 今は2組もSHR中だろ!? っていうか、どうやって1組の状況を知ったんだよ!? 盗聴器か!? それとも内通者か!? 俺にプライバシーはないのか!?

 だが今はそんな状況じゃない。いつまでもヤラレキャラだと思うな!? 俺を誰だと思ってやがる!

 1番後ろの窓際に席を置く俺はISを展開し、すぐそばの窓の手すりに足を掛けて飛び降りた。え? 逃げるよ? ほとぼりが冷めるまで逃げ回るよ? ここ一番の時って、やっぱり得意技を放つのが良策でしょ。

 だが俺は驚愕した。まさに驚天動地。いやむしろ驚天停地? なぜかと言えば、それは全世界が停止したからだ。

 いや、間違えた。どうやらそうではない。俺だけが止まっているようだ。俺は手足すら動かせず、空中で停止していた。地球上にいるにも関わらず、重力の影響を受けておらず、慣性の法則を無視していた。ん? 慣性?

 

 

 

「……嫁よ……どういうことか説明してもらおうか……」

 

 

 

 身動き出来ない俺の後ろに立っていたのは、右腕にISを部分展開した銀髪眼帯女子の姿だった。

 おい、ラウラ!? 【AIC】の使い所が間違っているだろ!? いや、それ以上に箒達から影響受け過ぎだ!! 箒達も、この無垢な少女に何を吹き込んでんだよ!? 確かに心の中で願っただけで、直接お願いした訳ではなかったけれどもさ!! 

 そんな俺は、未だ停止したままの体とは対照的に、思考はもう一歩先へと進んでいた。

 「一寸先は闇」とはよく言ったものだ。俺の心は激しい恐怖という名の闇に支配されそうになっていた。今後、事ある毎に合作で描かれるであろう地獄絵図の作者が、1人だけでなく2人増えそうという事実に。

 まさに地獄の米国国防省(ペンタゴン)。俺には彼女達が織り成す五芒星のセキュリティーを突破することなど一生を掛けても出来ないのかもしれない。

 俺は目を閉じる。なんてことはない。痛いのは最初だけだから。意識が飛ぶまでの辛抱なのだから――さ(泣)。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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