インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)


この話には、サブストーリーを書きました! 
外伝的な話ではなく、本編の一部ではありますが、別に読まなくても繋がりが分からなくなるわけではありません。
(どちらかといえば、本編から外した場面と言った感じでしょうか)

ちょっとでも気になる読者様がいらっしゃいましたら、ブログの方で掲載していますので、良かったら見てください!
(URLは後書きに記載しています。ブログ内の第42話の本文の「昨日の夜」をクリックすると閲覧出来ます)


第35話 俺は気付いていた

 

 

 

 俺こと黒神京夜がどんな人間であるかということは、以前にも語らせて頂いたので、変人で女好き、その上本質的には面倒くさがりというのは周知の事実であるとは思うが、それだけが俺の性格や内面を構成するわけではない。欠点的な話をすれば、まだまだ挙げ足りないのは間違いない。俺はマトモな人間ではないからな。

 そんな欠点たる部分を1つ、お伝えしておこう。出来れば嫌いにならないで欲しい。特に可愛い女子達に嫌われたら、毎晩枕を濡らすのは必然。

 俺はこう見えて「ワガママ」だ。「自分勝手」だ。

 え? 知ってるって? それでも知らなかったフリの出来ることが、コミュニケーション能力の高さを表すらしいぜ?

 俺は夕日の差し込む医務室で、ラウラを抱きしめながら、彼女にとっての必要な存在になると誓った。それを受け入れた。

 だが、勘違いしないで欲しい。俺はラウラに同情した訳ではない。憐れんで、手を差し伸べた訳ではない。

 もちろん、責任を感じていない訳でもない。彼女の心を折り、追い詰めたことから逃げるつもりもない。

 だが、彼女にとって、俺がそんな存在になると決めたのは、俺がそうしたいと思ったからだ。誰が何と言おうと。

 世界にたった1人でも、そんな存在がいるという事実は、どれ程までに心を満たすことか、ということを、俺は知っているから。

 俺にとって、ティーナの存在が、そうであるように。俺も、ラウラにとってそんな存在でありたいと思った。

 

 

 

 そんな『絆』を作りたかった。ただそれだけだ。そんな自己満足な理由だ。俺はワガママだからな。

 

 

 

 人は1人では生きられない。その言葉を、当たり前だと多くの人は思うかもしれないが、その意味を正しく理解出来ている人は少ない。

 自分とは、自身とは、他人が存在を認めることで、自分が存在していることを理解出来るのだ。他人と互いを見つめあい、比べることで、自分という個が理解出来るのだ。

 そんな他者との絆があって、初めて自分が世界に存在していると、思えるのだ。

 多くの人は、それが生まれつき与えられる。それは「血のつながり」。両親との絆。そんな当たり前に与えられるものを、生まれつき与えられなかった者は、それを埋める為の戦いをしなければならない。そんな悲しく辛い戦いを。そうしなければ、自分が存在出来ないから。自分が存在していると、理解出来ないから。

 試験管ベイビーとして生まれたラウラには、そんな絆はなかったのだろう。ありのままの彼女を認めてくれるような存在が。

 だから求めた。そんな存在を。一度は求め、そして諦めたそんな存在を。

 なら俺は、もうコイツにそんな悲しい戦いをさせない。させてなるものか。それが俺の自分勝手な思いでも、自己満足でも、俺がさせない。

 お前は世界にいらない存在ではない。お前あっての世界なのだから。

 俺は、ラウラの頭を胸元へ押さえつけている左手の力を緩める。するとラウラは顔を上げ、俺を見上げてきた。

 それはいつぞや望んだ、男子討伐の必殺技『上目使い』だ。それが今度こそはとばかりに繰り出されていた。可愛い顔の涙目のラウラに、俺はキュン死してしまいそうだ!

 

 

 

「綺麗な瞳だ」 

 

 

 

 俺は右手でラウラの顔に触れながら、その親指でラウラの左目から零れた涙を拭う。神々しいとすら感じる程の鮮やかな金色の瞳は、水分で揺らめいて、輝きを一層放っている。

 

 

 

「やめてくれ。これは……出来損ないの証だ」

 

 

 

 ラウラは俺から顔を背けながら、手でその瞳を覆い隠す。僅かばかりではあるが、顔に影を落としながら。

 そこには少しコンプレックスに近しいものがあるのかもしれない。破棄されそうになった苦しい記憶を呼び起こすのかもしれない。

 なら……

 

 

 

「じゃあ俺も、見せてやる。他の誰も知らない、とっておきだ」

 

 

 

 俺は右手の中指で、左目の眼球に触れる。そしてその角膜に装着されていた色つきのレンズを外した。

 俺はその目でラウラを見る。それは、存在する人間には、誰一人として教えていない、俺の秘密だった。

 

 

 

「左目が……赤い……」

「どうだ? お揃いだろ?」

 

 

 

 俺もまた、ラウラと同じ、オッドアイの瞳をしていたのだ。俺の左目は血のように赤く染まっている。そしてラウラと同じく、生まれついたものではない。

 それについて、今は触れないでおこう。その方がミステリアスで人気が上がるかもしれないからな(笑)

 

 

 

「一緒だな、俺達。けどこれは秘密にしといてくれ。俺とラウラとの2人だけの……な?」

 

 

 

 カラーコンタクトを左目へと戻し、ニヤリ笑顔で告げる。俺のその顔に、ラウラは優しい笑顔を返してきた。俺の言葉の裏に潜めた意味が伝わったのだろう。

 秘密を共有することが出来るような、そんな親しい関係を築いていこうという俺の思いが。

 そのラウラの笑顔は、今までに一度たりとして見たことのない、情に満ちた笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がお前を守るから。だからお前は、俺を守ってくれ」

 

 

 

 俺はラウラに、今日はここで休むようにと伝えてベッドへ横にさせ、医務室から自分の部屋へと帰る時に、そんなセリフを言った。

 その言葉に、ラウラがどんな顔をしていたかは、去り際の俺には分からないが、きっと大丈夫だろう。

 本当は「今までのお前の努力は無駄じゃない。織斑先生が織斑一夏を守るように、ラウラが俺を守ってくれ」――と、俺はそう続けようとして、止めた。

 今は敢えて言葉にしたくなかった。今は耳触りの良い言葉だけを聞いていて欲しかった。

 俺は廊下を歩きながら、そちらの問題についても何とかしたいと考えていた。守る守らないの話ではない。織斑姉弟とラウラとの関係についてだ。

 世界にたった1人でも、その存在を……という話をしたが、もちろん1人より2人、2人より3人の方が、より彼女は幸せになれるだろう。自分自身をより確かなものに出来ることだろう。

 それに俺は……いつまで彼女の拠り所でいられるか分からないからな。自分からそばにいると誓っておいて、お前は何言ってんだって正直非難轟々なことだろうとは思うが。

 俺は自分勝手だからな。ラウラのことを蔑ろにするつもりはないが、俺には成し遂げなければならないことがある。

 だからこそ、ラウラには俺以外との絆も築かせる必要がある。

 

 

 

「(そこの角で、待ってるわよ、その問題の相手)」

「(京夜さんの読み通り、医務室の会話を盗み聞いて、中に入るのは憚られたみたいです)」

 

 

 

 だろうな。それも計算通りだ。ラウラの容体を心配して医務室に来るのも、入室を遠慮するだろうことも。いつもと違って、今回は監視だけをお願いしたしな。

 今まで、事ある毎にティーナ達にお願いしていたこと。それは情報統制、情報管理だ。

 IS学園には至る所にカメラやマイク、そしてスピーカーが設置されている。その用途としては、抑止を目的とした監視の為だったり、迅速な連絡事項伝達の為だったりと、恐らく様々あるのだろうが、今それはどうでもいい。

 俺は他人に聞かれたくないような話をする時、ティーナ達に指示を出し、カメラ・マイクによる監視と、スピーカーを利用しての隔離を行ってもらっていたのだ。

 だが今回は違う。俺は聞かせたかった。ラウラの言葉を。思いを。願いを。そこの廊下のT字路の曲がり角に隠れるように寄り掛かる、貴方に聞いてもらいたかったのですよ、織斑先生。

 俺は、その横を通り過ぎる。視線を合わさず、声を掛けず、まるで気付かなかったかのように、そのまま。歩くスピードも変えないままに。

 

 

 

「黒神」

「……なんですか? 織斑先生」

 

 

 

 背後からの俺を呼ぶ声に、振り返る。そこにはいつも通りの凛々しくも厳しい顔をした織斑先生が、腕組み姿でこちらを見ていた。

 

 

 

「今回は、すまなかったな。手間を取らせた」

「それは一夏のことですか? それとも……」

 

 

 

 頭を下げることなく、感謝とも謝罪とも取り辛い発言に、俺は間髪入れずに問う。振り下ろされたブレードから身を挺して守った一夏のことを言っているのか、それともラウラの心と体を救おうとしていることなのかを。

 織斑先生は、何も答えない。俺へと向けられていた視線を、僅かばかり外す。直視することを憚られたように。

 それを見た俺は、言わずにはいられなくなった。

 

 

 

「織斑先生。先に謝罪しておきます。目上の人に対する物言いではありませんが、言わせて頂きたいと思います」

 

 

 

 俺の前置きに、織斑先生は再び俺と視線を合わせる。

 これは俺が言うべきこと。たとえ自分のことを棚に上げてると言われても、俺にはその義務があり、権利がある。

 

 

 

「中途半端に期待をさせるな。関わったのなら、最後まで責任を取りやがれ。世界に、全てに、無関係でいられると思うな」

 

 

 

 織斑先生は、両目を見開き、驚嘆とも言える感情の一端をその顔に垣間見せる。まるで俺の言葉に、啓発されたかのよう。

 もちろん俺の言葉使いもその驚きの一端を担っているのだろうとは思う。今までの俺は、不真面目で不出来な生徒の印象ではあっただろうが、目上の人に対しての敬語を崩したことはない。あの愛らしいマスコットキャラになりつつある山田先生に対してもだ。弄ったりからかったりはするけどな。

 俺はそのまま続ける。

 

 

 

「目を背けるな。ラウラは、いつでもアンタを真っ直ぐに見つめていた。少しでも大切に思う気持ちがその胸にあるのなら、受け止めてあげてくれ。願わくば……」

 

 

 

 そこまで捲くし立てた俺はハッとし、言葉を止める。これ以上は、俺が言うべきことではない。その先は、織斑先生がそう考え、そう決め、そう背負うと覚悟し、そう行動してもらいたい。

 織斑先生が、ラウラのことを大切に思っていることは既に分かっていた。彼女に対し、基本無碍に扱うような態度は取らないし、俺が暴走してしまったあの時、止めに入ったのはラウラの身を案じてだった。俺への敵対がその眼光には籠っていたからな。だからこそ俺は暴走したのだけれどってそれは置いといて。

 それに急遽決まった学年別トーナメントの仕様変更。あれも恐らく織斑先生が適当な理由を付けて学園に掛け合ったのだろう。ラウラが誰かとペアを組むことで少しでも仲間が、友達が出来るかもしれないと。不器用な織斑先生らしい安直な考えだったけどさ。

 だからこそ、織斑先生自身に考えてもらいたい。そうでなければ、俺が強要しては、意味がない。

 

 

 

「口が過ぎました。スイマセンでした」

 

 

 

 頭を深々と下げて、上げた俺は彼女を見つめる。この目に映る姿格好に、俺はVTSのことを思い出す。

 VTSの姿は『織斑先生』の姿だった。あの姿はラウラが、1つになりたいと、受け入れてもらいたいと願う織斑千冬の姿形だと、ラウラの深層心理に触れたVTSは判断し、模した姿だったのだろう。

 初期型の近接戦闘タイプのプログラム群であったにも関わらず、第1回モンド・グロッソ出場時の姿ではなくまた、2人が長く同じ時を過ごしたドイツ軍時代の軍服姿でもなく、今の織斑千冬。『織斑先生』の姿だった。つまりあの時のラウラの望みは、「戻りたい」ということではなかったいうことだ。

 だからこそこれは、願うことしか出来ない。これはもう、今の貴方にしか出来ないことなのだから。

 そんなお願いの意味も込めて、さらに一礼した俺は、向き戻り、自室へ戻る為に足を前へと進める。

 そこから数歩進んだ所で、再び俺は声を掛けられる。

 

 

 

「黒神……お前は、何者だ?」

 

 

 

 へぇ~。一夏やラウラを救ったことで、俺の好感度が少し上昇したみたいですね。

 今までは、俺に悟られないように裏でコソコソ探ってたのに、こんな直接的に聞いてくるなんて。そんな風に「疑っている」と伝えるということは、少しばかり俺に対する信用が生まれたということだろう。

 

 

 

「ただのしがない2番目の男性操縦者ですよ」

 

 

 

 振り返ることなく、俺は答える。俺の回答は最初から決まっている。何を探られても、どれ程の疑いを掛けられても、この発言に嘘偽りはないのだから。

 とはいえ、せっかくだ。ここで今後の展開の為の布石でも打っておこうか。

 俺は顔だけ振り返る。

 

 

 

「実は、春休みに吸血鬼を助けて、その眷族となり、すったもんだの末、人間を辞めることになった吸血鬼モドキだった、とか」

「……」

 

 

 

 織斑先生は読んでないようだ。反応が乏しい。失礼、パクリました。ワザとです(笑)

 

 

 

「実は、不慮の事故で死んだ俺は、神様ヨロシクテンプレで転生したチート能力所持の異世界人だった、とか」

「……」

 

 

 

 そんな怒りを露わにしないでくださいよ。俺がそういう生徒だって知っているでしょう? テンドンは笑いの基本なんですから。

 では……これでどうですか?

 

 

 

「実は、亀の甲羅を背負ったショッカーに拉致られて、秘密基地で()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()仮面ISライダーだった、とか……」

「!!!」

 

 

 

 今まで以上の反応を見せる。思い当たる節があるようだ。そんなリアクションが見れて、俺としては大満足であります、教官殿。

 

 

 

「何を信じて頂いても、それは自由ですよ。では失礼します」

 

 

 

 俺はそんな意味深と捉えられるような発言を残して、寮へと足を向かわせた。織斑先生は、流石に分かっているようで、俺の後を追ってこなかった。今は俺のことより、ラウラのことを考えるべきだからな。

 さて次は――と。

 俺は寮に向かったが、自分の部屋へは戻らずに、寮長室のドアを叩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明けて翌日の正午。昨日の騒ぎなど、まるでなかったかのように、いつも通りの日常だ……という文頭から始めようかと思っていたのだが、今日は朝から教室や廊下が何やら騒がしい。だが昨日の事件が起因している訳ではない。俺はそんな今の光景に、入学初日のことを思い出していた。

 クラスメイト達だけでなく、廊下に詰め寄るクラス学年問わずな女生徒達が、好奇の眼差しを俺へと向けているこの状況。珍獣でも観察しに来たかのような雰囲気。

 どうやら俺のイメチェンを見る為に、はるばる学園中から人が集まっているらしい。この状態を、人生に3回くらいやってくると言われているモテ期というのかもしれないな。

 まあ、それは置いといて……。ここで朝からその姿がお目に掛かれていない銀髪眼帯美少女と鬼教官の話でもしようかと思う。

 ラウラは例のVTSの件で、朝一から事情聴取を受けている。織斑先生も、その事後処理に追われているのだろう。現在学園からドイツ軍に対して問い合わせ中らしい。IS委員会からの強制捜査はほぼ確定だ。

 学年別トーナメントの方はというと、途中で中止を余儀なくされたが、客観的には、変異したとはいえラウラを一夏が倒したように見えることもあり、判定で【一夏・デュノア】ペアの優勝という形になった。

 これは俺の思惑通りだ。俺は『シュヴァルツェア・レーゲン』のコアにお願いして、あのVTSの姿を維持してもらい、一夏との決着を演じてもらった。

 これで一夏の評判も上がり、一夏自身も決着が付けられて万々歳という結果を生み出すことが出来たという訳だ。

 ちなみに中止となった2年生3年生の決勝戦は、後日の放課後、観覧自由のアリーナで事務的に行われるそうだ。下馬評では、3年生はカナダの代表候補生が、2年生は生徒会長でもあるロシアの代表候補生が有力らしい。まぁ今の所どうでもいいが。

 2組の鈴も含め、いつものメンバーが睡眠学習中の俺を起こすべく、そして昼食を共にするべく合流する。すると一瞬、周囲がざわめく。そんな状況に、俺達はざわめきの中心である開かれた教室の扉の前に立つ人物へと目を向ける。

 そこに立つのは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。こちらへとゆっくりと歩いてくる。鈴とセシリアを始め、俺の周囲は若干嫌悪の表情を浮かべる。

 一夏はというと、少し複雑な表情だ。まぁ無理もない。

 ラウラはそのまま、俺や一夏の前に立つのかと思いきや、セシリアと鈴の前に立つ。2人は嫌悪から警戒へと表情を変える。

 

 

 

「セシリア・オルコット、凰鈴音」

「……なによ?」

「……なんですの?」

「この前は……済まなかった」

 

 

 

 ラウラは両手を太腿の横にピシッと揃え、深々と頭を下げる。俺達を含め、それを見ていたクラスメイト全員が、驚きを露わにしていた。彼女達からしてみれば、今年の重大ニュースの一つとして、年の暮れに語られそうな程の出来事だったようだ。

 

 

 

「私が愚かだった。完全な八つ当たりだった。どうか許してほしい」

 

 

 

 今までの彼女なら天地がひっくり返っても出てきそうにない発言に、目をパチクリさせたセシリアと鈴は、なぜか揃って俺の方を見る。

 俺はその2人の視線を何だか直視出来ず、目を背けてしまった。なぜだろう。イヤな予感というヤツだろうか。直感とか信じてないんだが。

 そんな俺のバタフライ泳法全開の視線に、セシリアと鈴と、それから箒は互いに顔を見合わせ、何か分かり合ったような空気を作る。

 

 

 

「別に、いいわよ、もう!」

「ええ。もう過ぎたことですわ」

「!! ……ありがとう」

 

 

 

 鈴とセシリアの笑顔に、ラウラは頭を上げ、救われたような顔を見せた。周囲もその空気に安堵する。クラス全体が、ほんわり和やかな雰囲気となった。皆も何気に心配してくれていた、ということなのかもしれないな。

 「友達」も、その存在を認め合える一つと成り得るからな。是非とも女同士の友情を育んで貰いたい。ここはあまり俺の手出しが出来る所ではないが、今の反応を見る限り、その歩みは遅いかもしれないが、大丈夫だろう。

 

 

 

「織斑一夏。お前にも謝罪したいと思っていた。済まなかった」

「お、おおう……」

 

 

 

 先程と同様に、ラウラは一夏へと向き合い、頭を下げて謝罪する。俺はそんなラウラの行動に、感心に近い感情を覚えた。

 俺はラウラに一夏達に謝るようになんて伝えていない。促すようなことすらしていない。自発的に、暴言すら浴びせられかねない相手へ謝罪することが出来るその胆力に対し、称賛したいとさえ感じる程だ。

 そんなラウラの変貌ぶりに、一夏はというと、驚きと戸惑いがそのイケメンな顔面をシェアしていた。

 だがそれは一瞬。すぐさま相変わらずの衝撃的な打撃音を、その頭部で響かせ、その顔は苦痛に占有されていく。

 

 

 

「お前は、マトモな返答が出来んのか」

「ち、ちふ……織斑先生」

「……教官」

 

 

 

 いつのまにやら一夏の背後に立っていたのは、織斑先生だった。まぁ正直近づいてきていたのは知っていたけど。いつものBGMはどうしたんですか? 唯我独尊、傍若無人な織斑先生らしからぬ登場ですね。

 

 

 

「織斑……いや、一夏」

「へぇ!?」

 

 

 

 今まで散々学園での呼び名を強制してきた織斑先生が、敢えて自分から、家族同士の呼び名で呼ぶということに、そして少しばかり言い淀むその姉の顔に、一夏は驚きを隠せない。

 

 

 

「ラウラと、仲良くしてやってくれ。コイツは……コイツは大事な、私の妹分なんだ。……頼んだぞ」

「千冬姉……」

 

 

 

 通り際に、ラウラの頭に軽く触れ、織斑先生は教室を後にした。いつもの少し張りつめた空気ではなく、とても柔らかで温和な雰囲気をこの場に残して。

 俺達は、その織斑先生の言葉と空気に、互いに笑顔を見合わせる。心に穏やかな気持ちが芽吹くのを感じた。

 一夏は、去りゆく織斑先生を見送った後、俺の顔を見る。俺は何も言わず、頷く。俺の、一夏へのお願いは、昨日の夜に伝えたからな。

 ラウラはというと、下を向き、目に力が入っている。いつも通りの眼帯により、片目しか見えていないが、今にも零れそうな涙を堪えているような印象を受けた。

 

 

 

「ラウラ。織斑先生が姉なら、一夏は兄ってカンジじゃないか? 『兄さん』って呼ぶのはどうだろうか?」

 

 

 

 俺は、より身近に感じることの出来るよう促す。そんな俺の提案に、激しく動揺するも、こちらを見たラウラは、落ち着きを取り戻しつつも、モジモジしたような表情を浮かべる。

 

 

 

「え、えっと……その……に、兄さん?」

 

 

 

 顔を真っ赤に染めて、上目使い気味に一夏を見ながらそう呟くラウラのその健気な態度に、一夏は一発で完全にやられたみたいだ。

 そりゃそうだろう。こんな銀髪美少女から「兄さん」なんて呼んでもらえたら、流石の姉萌え属性である一夏でも、「妹もアリかも?」なんていう贅沢で無駄な思考が生まれるに違いない。まぁそれはないか。

 

 

 

「……京夜。何だか俺、今すげぇ幸せな気分だ。こんな可愛い妹が出来るなんてな」

 

 

 

 ……ああ、わかっている。お前も1人だったからな。織斑先生という肉親が存在してはいても、小学校低学年の頃からほとんど1人きりだったと聞いている。

 もし両親がいれば、弟や妹がいれば、なんてことを、夢の世界に旅立つ前の1人きりの布団の中で、流れ出そうになる涙をこらえながら、想像したりしていたことだろう。

 

 

 

「宜しくな、ラウラ」

「ああ。こちらこそ宜しく、兄さん」

 

 

 

 互いの手を結び合う。互いに少し頬を桜色に染め上げながら。気恥ずかしさがこちらに伝わってきて、少しムズ痒い。けど、悪くない。微笑ましいとはこのことを言うのだろう。

 そんな幸せな空気を等しく享受しながら、ラウラを含めた俺達7名は食堂へと足を向けた。

 

 

 

 だが、約1名。その顔に僅かばかりの影を落としていたことにも、俺は気付いていた。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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