インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第34話 俺の腕の中で必要な存在として

 

 

 

 

 今いるココは、中学時代の俺の常連場所だったが、IS学園に入ってもそれは変わらず、常連になりつつあった。昔のようにサボって昼寝をする為ではない。俺が怪我したからだったり、怪我した誰かのお見舞いだったり、だ。

 まぁ呼び名は違うけどな。今は「医務室」だ。医師が常勤しているからな。

 スポーツとはいえ、重火器でドンパチするISを扱う学校に「保健室」では、何かあった時に対処出来ないからだろう。

 個人的には「保健室」の方が好きだ。「女医」も捨てがたいが、「保健の先生」にときめくお年頃なんだよ俺は。

 そんな捨てがたい「女医」さんも、一通りの治療を施して何処かへ行ってしまった。この広い医務室に居るのは、全身を白い布地でグルグルとあちこち巻かれたミイラ男のような俺と、未だ目を覚まさず俺の隣のベッドで寝ているボーデヴィッヒさんだけだ。

 横たわっていた俺は、体を起こし、ベッドから降りる。

 俺は確かに全身包帯状態ではあるが、傷自体は大したことはない。全身の表面の皮が、ちょっと酷い日焼けの後のようにズル向けになり、肉には綺麗な切れ込みが入った程度だ。

 

 

 

「(京夜さん! これは大したことありますから!!)」

「(確かにね。流石にこの状態を日焼けレベルとは言えないわ)」

「(それから、肉に綺麗な切れ込みって、ステーキ作ってるんじゃないんですよ!?)」

 

 

 

 まぁ確かに、焼き加減レアのステーキみたいな状態ではあったよね。肉は若干焦げていたし、血も滴ってたからね。

 

 

 

「(まあまあ。ハツも、ミノも、ハラミも無事だったんだし、とりあえずは良しとしよう?)」

「(なんでステーキから焼肉に値段が下がってるんですか!? そうじゃなくて、もっと体に気を使ってください!! 本当に心配だったんですからぁ~)」

 

 

 

 ゴメンゴメン、からかいたくなっただけさ。そんなに大粒の涙をボロボロと流さんでも、俺は茜やティーナを残して死んだりはしないさ。

 だからとりあえず落ち着こうか、虐めてオーラ全開系裸エプロン姿の茜さん。これ以上そんな姿と顔を見せられたら、全てを忘れて茜のイジメに没頭してしまいたくなるから(笑)

 俺はそんなサディズムを断腸の思いで抑え込みながら、ボーデヴィッヒさんのベッド脇にある丸椅子に腰を掛けて、彼女の様子を伺う。

 とりあえずは、安らかなる寝息を立てている。もちろんISにより、外傷はない。だが問題なのは……

 とはいえ、直接会話し、彼女の精神状態を確認しないことには手の打ちようがないことは確かだ。出たトコ勝負みたいであまり好きではないが、仕方ない。

 

 

 

「うっ、ぁ……」

「! ……気が付いたみたいだな」

 

 

 

 ボーデヴィッヒさんは、意識を取り戻し、目を開く。両の目を。

 今の彼女は、その左目に眼帯をしていない。それに気付いた彼女は体をゆっくりと起こしながら、左手でその左目を隠す。左右の色の違うその目を。

 

 

 

「……誰かと思ったら……貴様か」

 

 

 

 その発言は、期待した誰かさんではなかったからか? それとも一瞬俺だって分からなかったのかもしれないな。

 今の俺の容姿はというと、VTSに一部散髪され、眼鏡を全損させられたので、IS学園に入る前の、いつもの、今まで通りの俺の姿になっている。

 眼鏡を外し、髪を縛っているこの姿に、見舞いに来た箒は不服そうな顔をしていたけどな。

 そこから、しばしの沈黙。俺は、どう話の流れを作るべきかと考えていると、ボーデヴィッヒさんは左目を隠していた手を降ろし、こちらを向く。

 

 

 

「礼を……言う……べきなのか……よく分からないが……」

「!! 覚えて――」

「なんとなく……というか、感じただけというか……それもよく分からない……」

 

 

 

 分からない……か。それはそうだろう。彼女は俺の取った行動を思い出すことなど出来ないはずだ。

 根幹は彼女自身の意識体ではあったにせよ、あのコアの中にいた時のボーデヴィッヒさんは、コアがその存在を具現化し、固定していた。故に彼女自身は何一つ情報を得ることが出来なかったはずだ。おそらく一部同化したことによりコアの記憶が、ボーデヴィッヒさんへと僅かばかり流れただけだろう。

 礼か。それを言うべきか否か。自身が望んで織斑先生と一つになろうとしたことを、命に関わるからと、俺が助けたというか、止めた。もし同じ立場だったら、果たして俺は感謝するだろうか。

 

 

 

「話を……」

「ん?」

 

 

 

 彼女は、一度視線を自身の足元へ向けながら、ポツリと呟く。俺の反応に、その言葉を詰まらせるも口唇を噛み締めて、再度こちらを向き、吐露するように言葉を続ける。

 

 

 

「少しだけ、私の話を……聞いてくれないか?」

 

 

 

 俺達は視線を重ね合わせる。眼帯に隠されていた左目は、右目と違い金の色をしていた。窓際の椅子に座り、夕日を背にしている俺からは、暖かな光に照らされたその金色の瞳は、眩くも透き通り、まさに目を奪われる程の美しさを放っていた。

 より強くそう感じたのは、いつもとは違う眼光だったからだろう。オオカミのような孤高の瞳も今は、生まれたての子犬のように弱々しい。

 表情もまた、眼帯が取られて真の姿を現したその瞳のように、衰退した感情が、繕うことなく表れている。

 虚勢を張らず、自分の素をさらけ出そうとしているボーデヴィッヒさんに対し、俺は言葉を発さず、安心安堵出来るよう務めた笑顔で、ゆっくりと頷く。

 その所作に、彼女は自身のことを語り始めた。

 『ラウラ・ボーデヴィッヒ』の来歴。ここに至るまでの、根幹の物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『遺伝子強化試験体C―0037』

 

 

 

 それは、私の識別番号だ。

 私は人口合成させられた遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

 ただ戦いの為だけにドイツ軍に作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。

 成長する過程で、個体を識別する為に、識別番号とは別の記号を付与された。

 

 

 

 『ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 

 

 それがそのまま、私の名前となった。親など存在しない私の名前に、愛情ある意味などある訳もなく、ただ呼びやすいように付けられた。だだそれだけだった。

 頭で覚えるのは、戦闘における知識、戦略。体で覚えるのは、格闘術、射撃技術、各種兵器の操作方法。それが私を構成するものだった。

 遺伝子的に強化された私は、優秀だった。性能面において。最高レベルを維持し続け、トップの座に君臨していた。

 私は優秀であることを、特別誇りに思ったりはしなかったが、そうであり続ける努力はしていた。そうなるべく生まれた私にとって、それは当たり前のことと強制されていたこともあるが、それ以上に……私が私である為に、そうしなければならなかった。

 そして、世界は一変する。世界最強の兵器、ISの登場。それは、世界だけでなく、私自身や、私を取り巻く環境をも変化させた。

 ドイツ軍も世界各国に倣えとばかりにその兵器を導入し、私の訓練にも組み込まれた。そんな日々の訓練の中、貪欲で強欲なドイツ軍は、適合性向上の為、私にある処置を施した。

 

 

 

 『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』――脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理のことだ。

 

 

 

 疑似ハイパーセンサーとまで呼ばれるその瞳は、人間の境界を超えた世界を拝むことが出来るとされていた。

 されていた、というのは、私が世界初の被験者だからだ。理論上では完璧で、不適合も起こさず、危険性も皆無であると。

 結果的に、性能を発揮することには成功したと言えるだろうが、処置としては失敗した。

 金色へと変質した私の左目は、その能力にオンオフが付けられなかったのだ。

 ヴォーダン・オージェは、あまりにも多くの情報が、その瞳から脳へと伝達されて処理を行う為、とにかく消耗が激しい。常時使用し続けることは不可能であり、連続使用は20分が限界、それ以上は昏倒してしまう。

 理論的には完璧であっても、やはり人間の肉体の限界を超えることは出来なかったということなのだろう。遺伝子強化試験体である私ですら持続出来ないこの処置は、同じく何人かの被験者を生み出したそうだが、全て失敗し、闇へと葬られた。

 そして、それに引きずられるかのように、私もまた、さらなる闇へと転げ落ちた。

 常に左目を使用しなければ問題ないという理屈で施された暫定的な処理として眼帯の着用を余儀なくされ隻眼となった私は、距離感が全く掴めなくなり、今までのような成果を上げることなど出来なくなった。IS訓練の中だけでなく、あらゆる戦闘の分野において遅れを取るようになっていった。

 トップから転げ落ちた私に待っていたのが、同じ部隊員達からの嘲笑や侮蔑なら、まだその方が良かった。あざけ笑われる者として、私がそこに居られるのなら。

 だが『出来損ない』の烙印を押された私に待っていたのは、破棄だった。能力の低下が著しい私は、もう必要ない――と。

 遺伝子強化試験体であり、ヴォーダン・オージェ被験者である私は、さまざまな臨床試験を受ける実験体として、ラボへと送られることになった。

 そこに手を差し伸べてくれたのは、教官として就任したばかりの織斑千冬だった。

 

 

 

「1か月でコイツを部隊内最強の地位へと戻す」

 

 

 

 私の上官に、そう告げた織斑千冬の、教官の言葉に偽りはなかった。教官からしてみれば、軍に自身の能力を認めさせる為の手段の一つとして、私を利用しただけかもしれない。だが――

 だが、私は嬉しかった。初めて抱く感情が、心にじんわりと染みわたった。

 それはマンツーマンの指導により、IS専門へと変わった部隊の中で、再び私が最強の座に君臨出来たからではない。寝食を共にし、厳しいながらも親身に私へ訓練を施してくれたことが嬉しかった。

 教官は強かった。その強さに、その凛々しさに、その堂々とした様に、私は憧れた。こうなりたい。この人のようになりたいと。

 だがそれ以上に私は、教官のそばに居たかった。教官のその姿を見つめていたかった。私を……見て欲しかった。

 訓練のだけでなく、時間を見つけては会いに行き、話をしに行った。そんな中、何気ない会話の中で、私はその強さについて訊いてみた。興味があったことは否定出来ないが、さほど知りたかった訳でもない。ただの話題の一つだった。

 

 

 

「どうしてそこまで強いのですか? どうすれば強くなれますか?」

 

 

 

 だが、私は後悔した。聞きたくなかった。見たくなかった。

 あの人が、鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに浮かべた優しい笑みを。

 他の人には分からないかもしれない。だが、いつも教官の顔を見ていた私には、それが誰かのことを思って浮かべた笑顔であることがなんとなく分かった。分かりたくなかった。

 

 

 

「私には弟がいる」

「弟……ですか」

 

 

 

 空を仰ぎ、遠い目を向ける。遠い祖国に残してきた弟のことを思っているのだろう。その目は、いつもそばに居た私が初めて見る暖かな眼差しだった。

 

 

 

「あいつを見ていると、わかるときがある、強さとはどういうものなのか、その先になにがあるのかをな」

 

 

 

 優しい笑み。どこか気恥ずかしそうな表情。それを目の当たりにした私の心には、沸々と得体の知れない感情が湧きあがる。

 許せない。教官にそんな表情をさせる存在が。

 そんな風に教官を変えてしまう弟、それを認められない。認める訳にはいかない。

 だから――だから私はIS学園へ来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、主に自分の、今までの過程の話を、横たわるベッドの上で上半身を起こしながら、織斑一夏と境遇を同じくするIS男性操縦者である『黒神』という男に話した。

 粗方話し終えた私は、視線をシーツの掛けられた膝の上に揃えた両手へと向けていた。横で聞いている黒神の顔を見ることが出来ずにいた。

 私の話を聞いて、コイツはどう思うのだろう。憐れむのだろうか、同情するのだろうか、困惑するのだろうか、嘲笑するのだろうか。

 その顔には、どんな感情が表現されているか、それを確認することに、少しばかり恐怖が芽生えていた。

 なぜ、大して関わりもないコイツに、こんな話をしているのだろうか。教官に鍛えられた私を、完膚なきまでに叩きのめす程の強さを持っていたからだろうか。それともよく分からないが、助けてもらった気がするこの感覚がそうさせたのだろうか。

 ……違う……な。違う。

 私はその理由を知っている。私を知っているからだ。

 コイツは、黒神は、私のことを知っている。理解している。そんな気がしたんだ。

 あの時、忠告された時にそれを感じた。私ですら気付いていない、気付かないようにしていた心の奥底を、見透かされたような気がしたからだ。

 今はもう分かっている。織斑一夏に対する強い敵対心。これがなんなのか。教官の経歴に傷を付けたことが許せない、とか、そんなのは自分を誤魔化す言い訳だった。

 

 

 

 私は――織斑一夏に、『嫉妬』したのだ。

 

 

 

 どれだけそばに居ても私が手に入れられないモノを、どれだけ遠くに居ても失うことなく持ち続けることの出来る織斑一夏が羨ましかった。憎かった。妬ましかった。

 私は……1人だったから。

 黒神は、恐らく私のそんな感情を理解してくれていた。だからこそ、織斑一夏の身を案じつつ、その上で、あのような言い方をしたのだろう。

 そんな私を知るコイツなら、私のことを……。

 限りなくゼロに近い、そんな砂粒ほどもない可能性に、私は縋ったのだ。

 私は、そんな自分をもう情けないとすら思えないでいた。全てを捨てて、それでも尚生き残ってしまった私には、もう誰も、この存在すら……

 

 

 

「大丈夫」

 

 

 

 黒神は、柔らかな声で、ゆっくりとした動きで立ち上がり、その大きな右手で私の膝の上に揃えていた両手に触れながら、その大きな左手で私の頭を胸元へと引き寄せた。

 

 

 

「『ラウラ・ボーデヴィッヒ』は、ここにいる。俺の腕の中で必要な存在として。他の誰でもない。今感じるこの温かさが、全てだ」

 

 

 

 心が、気持ちが、初めての言葉に、溢れる。

 それは、じんわりと染みだして、埋まらなかった隙間を埋めてくれるかのよう。

 

 

 

「私を……私の存在を、必要としてくれるのか? 私はここにいても――」

「ボーデヴィッヒさんが……いや……『ラウラ』が望むなら、俺はお前のそばで、お前の為に、笑ってやる。泣いてやる。怒ってやる。悲しんでやる。それに――」

 

 

 

 私の言葉を遮った黒神は、私の頭を引き寄せたその手で、私の頭を、髪を、優しく撫でた。ゆっくりと。穏やかに。それはまるで私の心を優しく撫でているかのよう。

 

 

 

「こうして慰めてやる」

 

 

 

 その言葉に、私は――言葉に出していた。

 それは、声に出して、初めて自分で理解出来たとさえ感じる、自分の心の根底にあった願望だった。

 

 

 

「お願いだ……私にとっての『何か』になってくれ」

 

 

 

 黒神は、それに対して何一つ答えなかったが、力強く抱きしめてくれた。

 

 

 

 私は、初めて、言葉にしなくても伝わる気持ちがあることを知った。

 私は、初めて、抱きしめられて、温もりとは何かを知った。

 私は、初めて、涙を流した。

 

 

 

 私が初めて流した涙は、心が満たされて溢れ出た涙だった。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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