インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第32話 俺にしか出来ないことだ

 

 

 

 ――「願うか……? 汝、自らの変革を望むか……? より強い力を欲するか……?」――

 

 

 

 私の奥底でうごめく何かは、私に問う。

 その問いに私、ラウラ・ボーデヴィッヒは答えない。それだけの渇望を、私はもう、持ち合わせていないから。

 私は――負けた。織斑一夏に。

 相手の力量を見誤ったからではない。冷静であったとは言えないが、実力で完全に負けた。私は織斑一夏に最早何一つ言うことすら出来ないだろう。

 分かっていた。勝つことも、負けることも、等しく意味などなかった。結果がどうであれ、織斑一夏は、私が憧れた織斑千冬の弟であるという事実に変わりはないのだから。

 織斑千冬にとって、織斑一夏は大切な存在であることには変わりないのだから。

 だから私は、もう何一つ必要としない。何一つ望まない。そんな空っぽな存在。生と死が等価値となり、ただただ戦いの道具として使われるだけの存在。

 もう……それでいい。

 だが、そう思う私に、うごめくそいつは、さらに言った。

 その言葉に、一粒の微かな思いが宿る。もし叶うなら――と。

 ならば、全てをくれてやる。意志も、命も、存在さえも。だから――

 私はその言葉に、手を伸ばした。

 

 

 

 Damage Level …… D.

 Mind Condition …… Uplift.

 Certification …… Clear.

 

 《 Valkyrie Trace System 》 …… boot.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああっ!!!!!」

 

 

 

 俺の目の前で、突然ラウラが身を裂かれんばかりの絶叫を発する。それと同時に、ラウラの身に纏われているISから激しい電撃が放たれ、そのIS自体が形を変え始めた。

 変形、変体などというような生易しい感じではない。装甲をかたどっていた線は全てぐにゃりと溶け、どろどろのものへと変化する。

 それはまるで泥人形を模るように、ラウラを粘土人形の骨組みでもするかのように、黒く濁った闇が、ラウラを飲み込み、何かを形作り始める。

 その表面は、脈動を繰り返しながら徐々に、そして加速度的に全身を成形させていく。

 そして出来上がったその様は、黒い全身装甲のISに似た『何か』だった。

 それは形状こそ、ISであると言えるが、機械的であるとはとても言えない。当然全身装甲ではあるが、先月の所属不明機とは似ても似つかない。

 ラウラとはかけ離れた背丈であり、似つかないボディライン、フルフェイスの目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしている。

 フルフェイスのアーマーを除けば、その装甲、その体躯、その立ち姿には見覚えがあった。

 そして、その手に握られている武器を見て、見覚えは確信へと変わる。

 

 

 

「【雪片】……!」

 

 

 

 その姿は、千冬姉の姿そのものだった。模倣ではない、完全なる複写(コピー)だった。

 俺は、無意識のうちに【雪片弐型】を握りしめ、中段に構えた。

 その刹那。その「何か」は俺の懐に飛び込んでくる。居合いに見立てた刀を中段に引いて構え、必殺の間合いから放たれる一閃。それは篠ノ之流剣術の型であり、千冬姉が得意とする必殺の一撃だった。

 放たれた太刀筋は、俺の脳内の千冬姉のイメージとシンクロするかのように合わさり、薙ぎ払われる。

 

 

 

「ぐうぅ!」

 

 

 

 その衝撃に【雪片弐型】は弾かれる。そして敵は、流れるように自然に上段の構えと移行し、唐竹に斬撃を放つ。

 重力により加速された、真上からの鋭い斬撃。俺は緊急回避を試みるも、躱し切ることが出来ず、その刃は左腕をかすめる。

 そのダメージにより、わずかに残されていたシールドエネルギーは尽き、白式は全身から光の粒子となって消えた。

 ただ一振り、【雪片弐型】を残して。

 ISが強制解除されれば、その武器も収納されるのだが、【雪片弐型】は装甲がなくなっても尚、俺の右手に握られていた。

 その不可思議な現象に、いつもなら疑問を持ったかもしれないが、今の俺には――どうでもいい。

 激しい怒りが俺の中でうごめいて、俺の体を突き動かす。右腕に握りしめた【雪片弐型】の重さを忘れてしまう程に俺の視界は狭まり、最早敵の姿しか映らない。

 ――許さねぇ。許さねぇ。許さねぇっ!

 ゆっくりと距離を詰める俺は、肩を強烈な力で引っ張られ、動きを抑止される。そこに居たのは、俺を引きとめたのは、シャルルだった。

 

 

 

「一夏! 駄目だって! 危ないよ!」

「離せ! あいつ、ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」

 

 

 

 さっきのあの剣技、あれには見覚えがあった。忘れるはずもない。幼い日のこと。篠ノ之道場で千冬姉に習った最初の技。『真剣』の技だ。

 今でも思い出せる。冷たく鈍色に煌めいたその刀の重さ。手にしているだけでも汗が滲み、構えようにも腰の高さまでも上がらない程の重み。それは人の命を絶つものの重さだと。今でも耳に残っている。千冬姉の教え。

 いつも通りの厳しくも優しい眼差しでありながら、いつもとは違う表情の千冬姉を見たあの日から、少しでも千冬姉の力になりたくて、俺なりに追い求めてきた。――それを!!!

 

 

 

「どうしたっていうのさ、一夏!」

「あれは、千冬姉のデータだ! それは千冬姉のものだ! 千冬姉だけのものなんだよ!」

「けど白式のエネルギーも残ってない状況じゃ、危険すぎるよ!」

 

 

 

 俺の怒りの根源は、俺の声など聞く耳すらもたず、アリーナ中央から微動だにしない。どうやら一定距離内における武器か攻撃に反応するようだ。

 確かに白式のエネルギーは残ってない。だが――

 するとまるで俺を阻むかのように、アリーナにはアナウンスが流れる。

 

 

 

「――非常事態発令! 決勝戦は中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧に教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!――」

「ほら、一夏がやらなくても先生達が何とかしてくれる。だから――」

 

 

 

 シャルルのいうことは尤もなのだろう。理路整然としている。無理に危ない場所へ飛び込む必要はない。

 だけど! それじゃ駄目なんだ! これは――

 

 

 

「これは俺の戦いなんだ! 千冬姉は俺が取り戻す! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「!!!」

 

 

 

 肩に置かれたシャルルの手から力が抜ける。俺はその手を振りほどき、地を蹴った。

 限界だった。もう自分が抑えられない。俺の心は、憤怒の感情で溢れかえる。怒髪天に衝くとはこのことかと。怒りは、頂点を振り切っていた。

 

 

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 俺は、人間が扱うにしては長剣、いや大剣と言える【雪片弐型】を肩に担いで突っ込み、勢いをつけて両手持ちで振り下ろした。

 だが、素早く反応されて右手の【雪片】モドキに受け止められる。鈍い金属音。俺はそのまま、力任せに薙ぎ払われて吹き飛ばされる。

 受け身を取れず、横向きで地面へと転がる。生身の俺の半身は、土と擦り傷による出血で、赤黒く染め上がる。

 体勢を立て直そうとした瞬間。敵は間合いを詰め、俺にトドメと言える一撃を振り下ろしてきていた。

 【雪片弐型】で受けることは出来ない。体勢が悪すぎて、回避も間に合わない。絶体絶命だった。

 そして――

 ザシュッ、という肉の切れる音が俺の耳に届く。切り裂かれた髪の毛と、血しぶきが、まるでスローモーションのように空を舞う。

 だが――

 それは俺の髪でも、血でもなかった。痛みはあるものの、それは斬られたことによるものではなく、突き飛ばされたことよる腹への衝撃と、地に打ち付けられた臀部の痛みだけだった。

 

 

 

「……京夜?」

「おい……。冷静に……と、言っただろう?」

 

 

 

 俺の目の前には京夜がいた。顔だけをこちらに向け、俯せに倒れていた。背中に目を向けると、IS学園の制服が、縦に切り裂かれていて、さらに多量の真っ赤な液体でグチャグチャになっていた。

 怒りが一気に降下する。だがそれは冷静さを取り戻すわけでなく、俺の心は、千々に乱れる。

 そんな中、ふいに千冬姉の言葉が脳裏に過った。それは俺を激しい後悔へと導くのだった。

 

 

 

 ――「いいか、一夏。刀は振るうものだ。振られるようでは、剣術とは言えない。そして、命を絶つものの重さを振るうこと。それがどういう意味を持つのか、考えろ。それが強さということだ」――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信仰する宗教が関連しているのか、普通にファッション性を重視しているのかは知らないが、多国籍学園であるIS学園の制服は種類が豊富だ。あまり奇抜でなければ改造もOKらしい。

 そこで俺は自慢の美しい背中を見せびらかすべく、制服の背中にパックリと切込みを入れて、今年の流行カラ―らしい「赤」を取り入れるべく、白地を真っ赤に染め上げている所だ。

 勢い余って背中の肉と皮を切り裂いちゃったり、染料をケチって自分の血液を使っちゃったりしたけど、ドンマイドンマイ! ――なんて軽口叩いても、状況が軽くならないのはなぜだろう。当たり前か。

 ボーデヴィッヒさんの異変にいち早く気付いた俺は、完治して間もないセシリアと鈴に、観客席で待つように伝えてピットへ向かい、そこからステージへと侵入。一夏の生身にブレードが見舞われるギリギリの所で、一夏を突き飛ばし、その間に割り込んだという訳だ。

 俺は地面とハグ中の体を起こしながら、一夏の様子を伺う。

 とりあえず身体に影響はなさそうだ。右腕と右大腿部に擦り傷はあるものの、それ以外は無傷に近い。とりあえずは一安心だ。

 俺は視線を体から顔へと移す。怒りはどうやら治まったみたいだな。激しい動揺は見て取れるが。

 

 

 

「き、京夜! だ、大丈夫か!?」

 

 

 

 青ざめた顔の箒は、茜の展開を解いて俺へと駆け寄ってきた。デュノアも心配げな面持ちでこちらを見ている。ああ、俺の体か。そういえば痛いな背中。

 自分の背中を肉眼で確認することは、今の状況では出来ないから正確なことは分からないが、出血は酷いものの、肉と皮が切り裂かれた程度で、骨や臓器に影響しているわけではなさそうだ。

 箒の頭に手を当て、「大丈夫だ」と伝えた俺は、再び一夏の方を向く。すると一夏は両手と膝を地面について、うな垂れているかのような姿勢で、俺の顔を見ていた。慚愧に堪えないといった表情を浮かべながら。

 

 

 

「京夜! すまない、俺は、俺は……」

「気にするな。お前が無事ならそれでいい。それに……あんなの見たら、怒り狂って我を忘れてちゃうなんてこともあるだろ?」

 

 

 

 切り返しに、どっかのイケメンが良い笑顔で吐いたセリフを言ってやった。

 そのセリフに、少し救われたような顔をした一夏を見て、よしと頷いた俺は立ち上がり、黒く変色し、変体したISへと視線を向ける。

 それは武器を持った敵意ある者がいないからなのか、それとも自分の敵と言える程の手練れはいないということなのか、右手にブレードを携えたまま、構えを取ることすらせず、静態していた。まるで銅像のように。

 『VTS』……か。未だ存在していたんだな。この虫唾の走る代物は。

 VTS――正式名称『ヴァルキリー・トレース・システム』。過去のモンド・グロッソの戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステム。現在ではあらゆる企業・国家で開発が禁止されているプログラム群のことだ。

 禁止されている理由。それは搭乗者の精神、脳に異常をきたすからだ。長時間使用すると下手すれば植物人間となり、病院のベッドで一生を終えなければならなくなる程だ。

 公表された当初は「ISコアとは別の専用演算処理装置を機体に組み込み、ISのシステム領域にインストールされた専用プログラムと戦闘データが、より最適な行動を判断し、ISを介して脊髄へ直接命令信号を送り、その動きを実現する」というものだった。

 その後、研究が進むにつれ、ISコアと専用演算処理装置との共存が上手くいかず、さらには戦闘状況の把握及び判断をするアルゴリズムの稚拙さも相まって、事実上頓挫せざるを得なかった。

 だが裏ではその実現の為に、非人道的な実験に手を染めた組織が存在した。そのコンセプトは「専用演算処理装置を組み込まず、搭乗者の脳に直接処理させる」というものだった。こうすることでISコアとの共存を意識する必要がなくなり、さらには戦闘状況の把握や判断のアルゴリズムも、搭乗者の戦闘経験によって補うことが出来るだろうと。

 これを実現させる為に、行われていた人体実験。それは「専用プログラム及び戦闘データを、搭乗者の脳に直接インストールする」ことだった。

 人間の脳へ干渉するというのは、現在においてもまだまだ未開の領域。実際この実験で、何十人もの精神崩壊者を生み出した。

 1年程前に突然、この実験が明るみに出ることとなり、IS委員会がこのシステムの開発を禁止したという経緯だ。

 ちなみにISが変体するのは、ヴァルキリーの戦闘を完全に再現する為だ。プログラム起動の際に、ISのシステム領域にも合わせて干渉し、量子変換されている武器や装甲を、そのプログラムに合わせた状態へとカスタマイズするのだ。

 再現するヴァルキリーの体躯と武器に重点を置き、本来の姿とは異なる形状へと無理やり顕現させる為、形だけが似通ったような、質の悪い、あんな不出来な代物になってしまっている。

 初期の近接戦闘タイプのプログラムだな。ベースは第1回モンド・グロッソの織斑先生だろう。【雪片】がそれを語っている。

 それにしても……VTSとボーデヴィッヒさん。最悪の組み合わせだ。恐らくはドイツ軍なのだろうな、組み込んだのは。

 VTSの起動プログラムキー。あれはヴァルキリーを受け入れるかどうかだから。つまりこの場合は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 彼女は織斑先生の弟子。故に初期の近接戦闘タイプが組み込まれている。さらには軍属であるが故に扱いやすい。生死も含め。ドイツ軍からしてみれば、これ以上ない好条件の組み合わせだったということだろう。

 ……やりきれないな。

 ……。今はそんなことを気にしている時間はない。なんとかしなくては。

 

 

 

「デュノア。コア・バイパスによるエネルギー譲渡、出来るか?」

「へぇ!? う、うん、出来るけど……」

「じゃあ、エネルギーを全て一夏の『白式』へ譲渡してくれ」

「お、俺にやらせてくれるのか!?」

 

 

 

 大分意外そうだな一夏。俺の傷を気にしてるのか? 俺の言葉を無視した猪突猛進ボーイには「おあずけ」を食らわしたいのは山々だがな。

 俺の言葉に、デュノアはリヴァイヴからケーブルを伸ばして一夏のガントレットへと繋げる。しばらくして、全てのエネルギーの受け渡しの終了合図のように、デュノアの体に纏われていたリヴァイヴは光の粒子となって消えた。

 

 

 

「これはお前の戦いなんだろ? まずは『白式』を一極限定モードで展開しろ」

 

 

 

 頷く一夏は、『白式』を一極限定モードで展開する。リヴァイヴから譲り受けたエネルギー残量では恐らく通常モードでの展開は無理だろうからな。

 すると光の粒子は、一夏の右腕周りだけに集中し、【雪片弐型】を握る右腕の装甲だけが再構成された。

 それを目で見て確認した一夏は、先程とは違い、引き締まった顔を見せる。状況が理解出来ているようだな。これだと防御出来ない。相手の攻撃を喰らえば間違いなく致命傷だ。一撃決着の勝負になることを認識した顔なのだろう。

 

 

 

「だがちょっと待て。このままだとボーデヴィッヒさんの命が保証できない」

 

 

 

 一歩を踏み出そうとしていた一夏はその言葉に、一瞬身を震わせる。当然だ。もし一夏のブレードがあのISに見舞われていたら、どうなっていたか分からない。お前は、一瞬の激情で、一人の人間の人生を絶つことになりかねなかったのだから。少しは反省しろ。

 俺はそのまま続ける。

 

 

 

「俺があのISの中から彼女を引きずり出す。合図したら、あのISに零落白夜を最大出力でブチかませ」

 

 

 

 再び無言で一夏は頷く。今度はかなり強張った表情を浮かべて。そんな顔するなよ。確かに俺の役回りは危険だが、これは譲れないのさ。他に手はないしな。

 

 

 

「箒。茜を」

 

 

 

 俺は箒の前に立ち、手を差し出す。

 だが、箒は動かない。後ろ手に組んで、少し俯き加減に目を背けている。

 そんなに心配か? そりゃ確かに、背中からの出血で、後姿を踵まで真っ赤に染め上げてしまっている俺を心配するなっていうのは結構無理があるかもしれんが。

 だけどこれは俺にしか出来ないことだ。彼女を、いや()()()を救えるのは俺しかいない。

 

 

 

「大丈夫さ。俺は嘘吐きだが、そういう嘘はつかない。知ってんだろ? 信じて待っててくれ」

 

 

 

 箒を安心させる為に、俺は自信が満ち溢れているような笑顔を作る。心配するな。俺はまだこんな所で死ぬわけにはいかないんだからさ。

 そんな俺の言葉と作り笑顔でも、箒にとって精神安定剤レベルの効能はあったようで――

 

 

 

「……分かった。信じる。必ず無事に帰って来てくれ」

 

 

 

 今にも泣き出しそうな程に眉根を寄せながらも、箒は口元に笑みを無理やり作り、茜を差し出してくれた。

 俺はその手渡された十字架のネックレスを握りしめる。その手の隙間から光が溢れ出し、俺を包み込む。粒子は加速し、体に『打鉄』が纏われていった。

 

 

 

「(ティーナ。戻ってきてるな?)」

「(もちろん。準備も万端よ)」

「(茜。制御は任せる。帰ってくるまで持ちこたえてくれ)」

「(わ、わかりました! なるべく早く帰ってきてくださいね!)」

 

 

 

 裸エプロン着用で俺の帰宅を心待ちにしていてくれ、と茜に欲望全開なリクエストをして、俺は黒いISへと体を向けて、真正面から向き合う。

 まずは張り付かなければならない。――行くか。

 俺は加速し、特攻を開始した。そんな俺の動きの呼応するかのように、【雪片】を俺の頭部へと振り下ろしてくる。

 俺はそれを躱し、両手を黒いISへと突き立てた。まるで泥沼へ手を突っ込んだように、俺の両腕は、その黒い胴体へと突き刺さる。

 黒いISは俺を引きはがそうと、肩を掴んでくるが、俺はスラスターを吹かしながら、その状態の維持を図る。

 するとそんな俺に反発するかのように、黒いその体から稲光を発し、放電をし始めた。

 その激しい雷は、俺の体を切り刻む。バリンッと亀裂音を響かせ、眼鏡が砕け散った。さらにはシールドバリヤーを貫き、俺の皮を裂く。放たれる電熱は、肉を焦がし、肌を伝う血を蒸発させる。

 轟く雷鳴の中で、一夏達の、俺を呼ぶ声が微かに聞こえる。だから心配すんなって。この程度、大したことはないから。

 伝わるかはどうかは分からないが、視線と口元でそう言った俺は、目を閉じ、肉体の制御を茜へと預け、ティーナと共に意識をコアへ潜行させていった。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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