インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第3話 俺はそれを受け入れない

 

 

 

 俺こと黒神京夜がどんな人間であるかということは、先程のお伝えした通りで変人で女好きであるが、本質的なことを言えば『面倒くさがり』である。

 教室の扉を開けた俺はこれからクラスメイトの前で自己紹介をするのだが、まさか2人目の男が来るとは思っていないであろう女子たちに注目を浴びず、当たり前の如く受け入れられる為に現在、思考を巡らせている最中だ。確かに女子にモテモテの方が良いが、注目の的になる方が面倒くさそうだ。クラスメイトと聞いている1人目の男性操縦者である織斑一夏くんは結構なイケメンなので問題ないだろう。ただでさえ、いつも縛っている髪をほどき、いつも掛けないこんな瓶底眼鏡をしているのだ。大丈夫だろう。まぁこんな格好をするようお願いという名の命令をしたご令嬢は窓際で、しかも少し呆れ顔でこちらを見ているのだか……

 ともあれ最初が肝心。驚き溢れるこの教室で自己を紹介することにしよう。教壇の横に立ち、口を開く。

 

 

 

「皆さん、初めまして。世界で2番目のIS男性操縦者の黒神京夜です。宜しくどうぞ」

 

 

 

 一瞬の沈黙、その後、

 

 

 

「えぇぇぇぇ―――!」

 

 

 

 まぁそうなるよね。まさかの2人目だからね。女生徒の驚きの顔をこんなに見ることができてちょっと得した気分だ。

 さてさて、織斑一夏くんは……

 目の前に俺と同じ服を着た、同じ性別の人間がちょっと涙目で「助かったぁ」と顔で語りながらこちらを見ていた。黒髪でさわやかオーラ全開のイケメンだ。椅子に座っているから正確には分からないが、身長は俺よりちょっと低いくらい。筋肉隆々ではないが、それなりに引き締まった細身の体。これは聞いてた通りで、ニュースで見た通りだな。

 

 

 

「(京夜の方がカッコイイよ?)」

「(はいはい、ありがとう。そんなこと言ってくれるのはティーナだけだよ)」

「(そんなことないんだけどな……)」

 

 

 

 そんな脳内彼女との会話の中、席に着くよう担任である織斑千冬先生に促される。おお! 窓際一番後ろの特等席! 日頃の行いが良いからかねぇ~。

 軽く会釈をしながら女子の座る席の横を通り自分の席に着く。とりあえずファーストコンタクトとしては上々だろう。若干の注目は浴びたものの、男子2人を見比べた女子の視線は殆ど織斑一夏くんへと向けられている。『窓際のご令嬢』と『ブリュンヒルデ』と称された女性を除いて。そんなに見ても何も出ないよ? 袖から鳩くらいしか出せないから。いや鳩も無理だけど。

 さて、しばらくは観察。彼と彼女はどんな人間なのか。見極めることにしよう。人間観察ってきっと楽しいよね?

 

 

 

「(前から思ってたんだけど、京夜って面倒くさがりのくせに、「面倒くせ~」って言いながら首突っ込むよね?)」

「(そ、そんなことないだろ!? それじゃただの馬鹿みたいじゃん!)」

「(馬鹿と天才は紙一重らしいよ?)」

 

 

 

 馬鹿と天才の間には紙一重以上のものがあるだろう!? 馬鹿は見下されるが、天才は尊敬されるのだから。天才ではなく、天災なら紙一重より表裏一体といった感じかもしれんが。

 そんなことを思っていると、チャイムが鳴った。

 

 

 

「さぁ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

 

 

 なんなのあの鬼教官のような発言は。これは幸先が思いやられるな。あの有無を言わさない眼光。もしあの目つきで結婚を申し込まれたらどんな人間でも首を縦に振るだろう。横に振ろうものなら棺桶内に横になること間違いなし。

 おおっとその目つきで睨まれた。どうやら織斑千冬先生にはサトリの機能が備わっているようだ。主に悪口限定の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式当日から授業がある高校など一般的には殆どない。しかし、このIS学園は違う。コマ限界までIS関連教育する為、初日から授業だ。

 1時間目のIS基礎理論授業が終わり、今は休み時間。教室内のクラスメイトを始め、廊下に詰め寄っている他のクラスの女子や2年生、3年生の視線が俺ともう1人の男子に集まっている。正直煩わしい。

 諸君、ご存知だろうか。セミは1週間の命というが、実は観察されている環境下では1週間というだけで自然の中ではもっと長命なのだ。観察されているストレス等が原因で寿命を縮めてしまっているという現実。今この状況下でもそれは起こってるのではないか。俺が1週間で死んだらどうしてくれる? まぁ証明できないからただの突然死扱いだろうが。

 

 

 

「(視線で死線とか渡りたくない)」

「(大丈夫。京夜はストレス程度で死ぬ程、神経細くないから。寧ろ注目を浴びて喜ぶタイプじゃない)」

「(なんか酷いこと言われてない!? ってかスルーですか?)」

 

 

 

 この注目の中、この時を待っていた! とばかりに俺に駆け寄って来る人間がいる。先程、自己紹介の際に目の前に座って、ちょっと涙目でこちらを見ていたもう1人の男子、織斑一夏くんだ。

 

 

 

「よ! 初めまして! 俺は織斑一夏っていうんだ」

「ああ、初めまして。俺は黒神京夜。宜しくな織斑くん」

「一夏って呼んでくれ!」

 

 

 

 満面の笑みで俺に呼び捨てを勧める。イケメンの爽やかスマイルで。なるほど、聞いてた通りの人当たりの良さだな。呼び捨ては彼の親しくなる為の処世術と言った所か。

 

 

 

「わかった。じゃあ俺のことは京夜様で」

「様づけかよ!」

「冗談だ。京夜でいいよ」

 

 

 

 なるほど、正直な性格のようだな。とても扱いやすいし、読みやすい。いいツッコミになれるだろう。さぁ俺と年末の漫才番組でグランプリを目指そうか! 世界で唯一ISを使える漫才コンビ! もしかしたら流行るかも。

 

 

 

「(じゃあ私とはコンビ解散ね。涙を惜しんで応援するわ。)」

「(そ、そんな! 俺を捨てないでくれ! これからも最強の夫婦漫才コンビとして頑張ってこうよ!)」

 

 

 

 一夏を放置し、コンビ解散騒動を脳内展開していると周囲が少しざわめきだした。

 

 

 

「……ちょっといいか」

「え? ……箒?」

 

 

 

 そこには一夏に話しかける1人の女子が目の前に立っていた。どうやら牽制し合っていた女子たちの中、1人思い立って行動に出たようだ。

 黒い髪のポニーテールで白いリボン、平均的な身長ではあるが、どこか長身を思わせる体。恐らく鍛えているのだろう。程よく付いた筋肉がスタイルをさらに良く見せている。不機嫌そうな目つきをしているが、生まれつきとか言いそうな感じだ。

 

 

 

「久しぶりだな、一夏」

「ああ、6年ぶりだな! 元気だったか?」

「もちろんだ。一夏の方も元気だったみたいだな」

 

 

 

 どうやら2人は幼馴染というやつらしい。6年ぶりの再会。懐かしい記憶。蘇る淡い恋心。きっとこの後に「綺麗になったな」「何言ってんのよバカ!」とか青い春的な会話が繰り広げられるのだろう。まるでドラマ化された少女漫画を見ているようだ。茶菓子でも用意してじっくり……

 

 

 

「何をバカなことを考えてる?」

 

 

 

 あれ、最近の女子はサトリ機能ってデフォルトなんですか? ってか初対面の自分に対して発言がキツくないですかね? あぁキチンとした挨拶もなしにそんな妄想にフケってしまいイライラされていらっしゃる? では正しい礼儀を見せるとしますかね。

 

 

 

「ああ、ゴメンなさい、初めまして。俺は黒神京夜です。馴れ馴れしくキョウちゃんって呼んであげてくださいね! キラ☆彡」

「何が初めましてだ。相変わらずバカなことばっかだな京夜は」

「俺の時は様づけ要求だったのに、何で箒の時はそんなフランクなカンジ!? ってか2人は知り合いなのか?」

 

 

 

 そう、この女子は先程のクラスメイトの前での自己紹介の際に、呆れ顔を見せていた『窓際の麗人』の篠ノ之箒だ。箒と俺は拳と拳で語り合った強敵と書いて『とも』と読むにふさわしいライバル関係で……

 

 

 

「誰が世紀末覇者か!」

「何でわかったんだ! そんな細かい内容まで分かるなんて! 箒、俺の知らぬ間にそんな能力を……」

 

 

 

 もし箒にそんな能力が備わっているとしたらここでこんなことをしている場合ではない。すぐさま何かしらの防衛策を取らなければ! 箒愛用の真剣が俺の血で錆びることは間違いない。

 

 

 

「京夜、口に出してたぞ……」

 

 

 

 一夏、呆れ顔。その顔は既に10年来の友人のようだ。確実に『クラスメイト』から『友人』ランクアップしている。その成長速度なら『京夜マスター』の称号も夢ではないぞ! 名誉あることかどうかは知らないが。

 ってか声に出ていたのか……。よかった。どうやら俺の命は散らずにすんだ。

 

 

 

「はぁぁ……。京夜は引っ越した先で知り合って中学も一緒だったんだ」

「そうなのか! じゃあ箒にとっては俺と同じ幼馴染ってことだな!」

 

 

 

 幼馴染という一夏の言葉に若干不機嫌になる箒。適切で間違ってないと思うがそんなにイヤなんですかね。俺のハートは天地無用の割れ物注意なんですよ? 貴方は数少ない『京夜マスター』の称号をお持ちなのだから大事に扱ってもらいたい。ちなみに天地無用とはひっくり返してはダメって意味だからね? 逆でもギャグでもないよ?

 

 

 

「(箒ちゃんが不機嫌なのはそういう意味じゃないよ。それに京夜のハートは金庫みたいなカンジでしょ)」

「(どーゆー意味だよそれは)」

「(強固だけどそれ自体に価値があまりないってこと)」

 

 

 

 酷い言われようだ。でもきっとその中には価値のあるものが入ってるってポジティブに捉えて明日を生きることにする。別に泣いてなんかないんだからな!

 

 

 

「しかし、大分遅かったな。SHRには間に合うと思ってたんだが……」

「あ、ああ。手続きが色々面倒でさ。事前にやっておかなかったからさっきやる羽目になって……」

 

 

 

 ギロリ。睨まれた。目で俺に説教している。前もってやっておけば一緒に来れたのに! ってカンジだろうか。色々あるのですよ俺にも。例えば朝寝したり、2度寝したり、昼寝したり、夜寝したりね。

 

 

 

「そういえば、京夜はどうしてニュースとかになってないんだ? 俺以外に男性操縦者がいるなんてここに来て初めて知ったぜ」

 

 

 

 一夏が不思議そうに聞いてくる。そういえば君の場合は世界的な大ニュースになってたね。もう世界で君を知らない人はいないくらいに。家や学校まで押しかけて来ていて大変そうだったね。さてどんな言い訳をしようか。

 

 

 

「まぁ一夏は()()()だからな。しかもあの『ブリュンヒルデ』と称された織斑千冬先生の弟と話題性も抜群。それに比べて俺は一般の普通の学生と特に話題性のない、()()()()()()さ。だからじゃないかな」

「そんなことないだろ、だって世界でまだ2人しかいないんだぜ?むしろ……」

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 おっと時間切れだ。2時間目の開始を告げるチャイム。ベストタイミングだな。計算通りだ。どんな計算をしたかは神のみぞ知るといった所だが。その計算方法が知りたい方、とりあえず神様に会う必要がありますのでその方法を知ってる人に聞いてください。

 

 

 

「2時間目が始まるぞ。ほら箒、一夏も早く席につかないと織斑先生に怒られるぜ」

「ああ、また後でな」

「そうだった! もうこれ以上の脳細胞の死滅を防がないと俺の将来が心配だ」

 

 

 

 どういう意味だろう? SHRの様子を見ていない俺には知る由もなかったが3秒後に理解できた。1番前の席に間に合わなかった一夏は織斑先生の出席簿の餌食になっていた。あれは弟だからだよね? 姉弟間の愛のムチ的なやつだよね? そう信じたい気持ちを持ちながらも気を付けようと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――であるからして、ISの基本的な運用な現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ―――」

 

 

 

 すらすらと教科書を読んでいく山田先生。幼顔のダメダメ教師かと思っていたのだが、意外としっかりしている。とても分かりやすい授業だ。周りのクラスメイトたちも事前学習の賜物なのか、山田先生の話に時々うなずいてはノートを取っている。授業の内容はIS関連ではあるものの、その授業風景は進学校のそれとそう大差ない感じだ。一部の生徒を覗いて。

 その一部の生徒の姿はまるで記念受験してマークシートだったから、ラッキーで受かったんで入学したものの全く内容についていけず右往左往しているみたいな。そんな生徒が1番前のど真ん中を陣取っている。あれは人間だろうか。頭から明らかに煙が出ている。最新鋭の男性ロボットではないか? だからISが使えるみたいな。

 その頭から立ち上る煙に気付いたのだろうか。山田先生が一夏に話しかけた。

 

 

 

「織斑くん、何か分からない所がありますか?」

「あ、えっと……」

 

 

 

 山田先生には分かってないようだ。1番後ろの席にいる俺にだって一夏の状態が分かるのに。後ろ姿しか見えていないがきっと教科書を見る目は泳いでいるだろう。どうやら一夏はちょっとおバカなようだ。そういえば一夏の偏差値ってどんくらいだっけ?

 

 

 

「(ティーナ、一夏の頭の具合ってどのくらいだっけ?)」

「(まぁ中の中ってカンジ? 本当の受験先も藍越学園だったしね。)」

「(IS学園はある意味エリート育成機関だからな~優等生の集まりだし、一夏にはちょっとキツイか?)」

 

 

 

 そんな心配をしている俺をよそに、一夏は先生に質問をするようだ。なるほど、流石に『何が分からないか』ぐらいは分かっているんだな。一夏はちゃんと『地図が読める人間』だったか。なら『地図を持っていても自分がどこにいるか分からず迷子』になるようなことは人間ではないということだな。あまり馬鹿であると俺の出来具合をどの程度にした方がいいか難しくなる所だ。

 

 

 

「先生!」

「はい、織斑くん!」

「ほとんど全部分かりません」

 

 

 

 ガクッ。つい机から肘が落ちてしまった。どうやらかなりの馬鹿だったみたいだ。『地図を持っていても自分がどこにいるか分からない』どころか『地図の文字も外国語で読めない』レベルだった。見てみろあの山田先生の顔を。引きつってるどころではないぞ。

 さてどうしたものか。こんなサルでも分かるIS入門の1ページ目に書いてありそうな内容も分からないとなると、ほぼ間違いなくあの織斑先生はお前の頭もサル以下なのか的に聞いてくるだろう。一夏がIS学園でも中の中ぐらいなら俺は中の下くらいの位置でいるつもりだったのだが……

 

 

 

「(別に勉強は適度の出来でいいんじゃない? そこまで彼を立てる必要はないと思うけど)」

「(それもそうか。あまりバカで補習とか面倒くさそうだしな)」

 

 

 

 俺は決して真面目な生徒ではない。屋上とかで昼寝とかしたり、タバコとか吸ってたい人だ。不良ではないよ? そういう青い春的なのを謳歌したい年頃ってだけさ。そんなことすれば補習や生徒指導室はセットでついてきそうなものだけど、そこはいらない。マジ補習とか反省文とか冗談じゃない。なので中学の時は上手いことやってきた。このIS学園でも上手いことやっていこう。

 

 

 

「え……。ぜ、全部、ですか……? え、えっと……織斑くん以外で、今の段階で分からないっていう人はどれくらいいますか?」

 

 

 

 挙手を促す山田先生。

 シーン……。

 誰も手を挙げない。当然俺も手を挙げない。別にクラスメイトたちは一夏を虐めたい訳ではないだろうが、流石にサル以下認定されたくないしな。

 すると教室の端で控えていた織斑先生が一夏の前に腕を組んでの仁王立ちだ。

 

 

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 

 

 パアンッ!

 前言撤回。上手いことやっていけなそう。あの鬼教官は成績が優秀でも理不尽に出席簿クラッシュを炸裂してきそうだ。あれが鉄の板なら間違いなく猟奇殺人へと発展していそうだ。頭部がトマトのように潰れて。大して好きでもないトマトに、しかも潰れたトマトになりたくない。

 

 

 

「お前はどうなんだ黒神。まさかお前も捨てたとか言わないだろうな」

 

 

 

 えっ、それはフリですか? そのハリセンとは言い難い音と痛みを伴う凶器という名の出席簿でツッコミを入れたいのですか? 一夏のネタに負けない一撃を放り込みたい衝動に駆られていることは間違いないですが、流石にそこまで2人目になると、織斑先生の火に油を注ぐ行為となり潰れたトマトどころはなくなってしまう気が……我慢、我慢だ京夜。生きてこの教室を出て、好きでもないトマトを昼休みに食べたいのなら!

 

 

 

「……ちゃんと読んできました。暗記している程とは言えませんが、予習してきました」

「いいだろう。当然だ」

 

 

 

 どうやら無難な回答ができたようだ。何この地雷除去作業のような緊張感は。ちなみに俺が用意した一撃は「ネットオークションで3円で落札されました」だ。初めの一歩で見事に地雷HIT、そのままあの世への一歩になっていただろうな。

 

 

 

「織斑、必読と書いてあっただろうが馬鹿者。あとで再発行してやるから1週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、1週間であの分厚さはちょっと……」

「やれと言っている」

「……はい。やります」

 

 

 

 ギロッと一夏を睨む鬼教官。もはや鬼教官ではなく鬼だね。悪魔だね。あのデーモンの血筋でよくあんな素直で馬鹿な弟に育ったものだよ。どっかの22世紀の青タヌキロボットとその妹みたいだ。ダメな兄貴は上澄みで作られたみたいな。あれ、知らない? 結構マイナーな設定なのかな。

 

 

 

「(まぁ耳をかじられた自分の姿を見て青ざめて青くなったとかいう設定があったとかも言われてるしね。知らない人もいるかも)」

「(かゆい所に手が届くホントに出来た相方だよティーナ)」

 

 

 

 科学技術はあーゆー青タヌキロボットを製造するような方向性で進んでいれば世界はもっと平和で幸せだったのかなとこのIS学園で考える。俺がどうこう言える立場ではないが。

 

 

 

「……貴様、『自分は望んでここにいる訳ではない』と思っているな?」

 

 

 

 一夏の表情を見て心を見透かしたようなことを言う織斑先生。ギクリという効果音が聞こえてきそうな一夏の表情。一夏がこのIS学園に入学する羽目になったのは本人の意思ではないことは分かっているが、君が姉に怒られることは君の過失だからな。織斑先生というDV姉の暴力から守ってあげる術は持っていないが、幸せな学園生活を支援するつもりだ。この学園の、いや世界的なスターに仕立てあげてやるさ。主に俺の平穏と幸せと責任の為に。

 

 

 

「望む望まざるにかかわらず、人は集団の中で生きていかなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

 

 

 とても辛辣な言葉を告げる先生の発言に一夏は少し覚悟を決めたようだ。しかしとても現実主義の発言だな。彼女も辛い現実を受け止めなければ、直面しなければ生きていけなかったのだろうか。両親のいない中、弟を育ててきた彼女なりの人生の先輩として教えられる一つなのだろう。

 

 

 

「え、えっと、織斑くん。分からない所は授業が終わってから放課後教えてあげますから、がんばって? ね? ね?」

「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」

「ほ、放課後……放課後にふたりきりの教師と生徒……。あっ! だ、ダメですよ、織斑くん。先生、強引にされると弱いんですから……それに私、男の人は初めてで……で、でも織斑先生の弟さんだったら……」

 

 

 

 一人妄想世界にダイブ中の山田先生。そういえば山田先生はこの学園の卒業生だったな。つまり女子高出身。しかも男の人は初めてって……女の人なら経験があるってことですか? やっぱこういう閉鎖的な女の園ではそうゆう百合的な展開が満載なんだろうか。先生、ダメですよ女同士なんて。確かに可愛い先生の百合的行為はとても眼福かもしれませんが、やはり生産性がそこにはありませんよ。女の相手は男と何億年前から決まっていることなんですから。初めてが怖いんですか? でしたら俺に任せてください! ですからその豊満な胸を俺に預けて……

 ゾクッ。凄い殺気を感じる。

 まるで今にも俺の首根っこを掴んで吊るし上げて、言い訳とか遺言とか聞いておきながらさらにキツく首を絞めて発言させない理不尽な殺人鬼が潜んでいるみたいな。一体何処から……。

 その殺気の出処を俺は綿密に探る。きっと某国の特殊部隊のスパイとか紛れ込んでいるに違いない。或いは異世界の魔王とかがラノベ的展開でクラスメイトに扮しているとか。そうに違いない。そうに違いない。そうに違いない。そうに違いない。

 そうに違いな……分かってる。その殺気を放っている人物はずっと俺を睨んでいるからな。あのポニーテールのマイ幼馴染が。全身からどす黒いオーラを放ちながら目が殺気で光っている。その姿は冗談でなく世紀末覇者ですよ? まぁ昇天するのは俺になりそうですが……

 

 

 

「(ねぇ京夜、確か身長って180センチぐらいだよね? じゃあちょっと小さいけど175センチのヤツを注文しとくね)」

「(それって何の注文なの!?  棺桶!? 棺桶なの!? っていうか俺が死ぬこと確定!? しかも土葬なの!? その上、身長に足りてない棺桶に無理やり詰め込む気なの!?)」

「(お前はもう死んでいる)」

「(まだ何もしてないのに!? せめて世界の中心で火葬にしてあげて!?)」

 

 

 

 そんな死んだ後の死体処理方法の話をしている中でも山田先生は未だ妄想世界の住人だ。頬を赤らめて照れているその仕草はとても教師とは思えない。新学期初日から貴方の教師としての威厳が大暴落ですよ? 株式市場はあまりの下落に大混乱です。山田先生の教師生活も倒産寸前といった所だ。

 

 

 

「あー、んんっ! 山田先生、授業の続きを」

「は、はいっ! あっ……うーいたたた……」

 

 

 

 山田先生の威厳の下げ止めを図るべく声をかけた織斑先生の計らいも虚しく、慌ててズッコけクスクスと笑いの渦中にある山田先生。もうダメだな。威厳消滅確定。きっと明日からはヤマヤとかアダ名で呼ばれるのは間違いないだろう。ほらとなりの女子も、その向こう側の女子もみんな貴方を見て微笑んでますよ。そんな山田先生の今後の前途多難な教師生活を応援するべく、クラスメイト内で流行るであろうアダ名を積極的に広めることとしよう。涙を浮かべながらヤメてくださいと喜ぶ先生の顔が目に浮かぶ。

 そんなクラスの雰囲気に危機感を覚えたのだろうか。織斑先生が発言する。その発言はこの学園の本質を語る言葉だった。そして世界の現実であった。

 

 

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『()()』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしない為に基礎知識と訓練だ。理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 

 

 一夏を含む多くのクラスメイトたちはきっと正論だと思ったであろう。自分たちはそういったものを扱う為にこの学園に来たのだと。

 しかし、俺は落胆していた。織斑千冬がそう思っているということに。そしてそう言い切る織斑千冬に怒りを、憎しみを感じてしまっていた。長い前髪と瓶底眼鏡で隠れていなければ、周りが引いてしまう程の酷い目をしているだろう。

 その分厚いレンズの向こう側に箒の姿が見て取れた。俺のことを心配してこちらを見ていてくれていた。その心配そうな顔を見て冷静さを取り戻す。どうやら殺気までは出さずにすんでいたようだ。

 眼鏡をズラし、前髪の隙間から箒にアイコンタクトを取る。ありがとう、大丈夫だと。流石は幼馴染、伝わったようだ。少し安心した顔で前に顔を戻す。

 

 

 

「(ティーナ、大丈夫か?)」

「(……大丈夫。京夜が落ち着いてるんだから)」

「(ああ、箒に感謝だな。俺もまだまだってことだ)」

「(それでも凄い事だよ。助力があったとしてもね)」

 

 

 

 そこにあるひとつの現実。それは真実ではなく多くの人間がそう見て、そう思って、そう考えて、そう決めた事柄。それが現実。

 俺はそれを受け入れない。俺だけは味方でいる。そう決めた。たとえ世界がそう認めなくても。

 俺はそれを受け入れない。俺だけは理解者でいる。そう決めた。その辛い現実をどれだけ突き付けられようとも。

 俺はそれを受け入れない。俺だけは彼女の……。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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