インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
もちろんそんな面倒くさいことは、天地がひっくり返ってもやらないが、もし俺が生徒会長になった暁には、俺の寮の部屋から教室までと、教室からアリーナまでの間の廊下を全て『動く歩道』にしてやりたい。生徒会長にそんな権限がある訳がないのだが、俺が言いたいのはそれくらい学園内の移動は大変だということだ。馬鹿みたいに広すぎるんだよここは。税金の無駄遣いもいいとこだ。
そんな俺は一夏、デュノア、箒と共に第4アリーナへ向かって廊下を歩いている。いつも通りの一夏の放課後特訓の為だ。たまにはアリーナの方が俺の所に来いとか、そんなくだらないことを考えながら欠伸を噛み締める。
「第4アリーナでいいんだよね?」
「ああ。今日は使用人数が少ないらしいからな。模擬戦とか出来るかもしれないぜ!」
デュノアの問いに答えた一夏は、嬉しそうな顔を見せる。まぁ例の「学年別トーナメントで優勝したら……」のせいで、訓練に励む1年生が急増してアリーナ内に適度な空間が空いておらず、最近は基礎訓練ばかりになってたからな。正直飽きがきていたのだろう。
まぁ基礎訓練だけでも戦い抜けるようにはしてきたつもりだが、模擬戦が行えるならそれに越したことはない。実戦でしか得られないものもあるからな。
「そういえば、京夜の実力ってどうなの?」
一夏と共に俺の前を歩くデュノアは、その足を止めず、首だけをこちらに向ける。
その会話の内容は、特別気にする程のこともない、何気ない話題のように普通は感じることだろう。
だが、俺はそう感じない。先日から、いや一夏の特訓に参加するようになってから、コイツからは何かを探っているような印象をずっと受けているからだ。もちろん、それはデュノア社に……父親に命令されてとか、そういったものではない。おそらく好奇心だ。
デュノアが不思議に、そして不気味に思うのは、当然と言えば当然である。一夏の特訓を指揮しているのが俺だからだ。代表候補生のセシリアや鈴ではなく、ただの2番目の俺だから。そしてそれに対して一夏や箒だけでなく、セシリアや鈴も何も言わず、当たり前のように受け入れているからだ。
つまりこの質問は「実力が代表候補生並みだというなら、それに対して納得出来る」ということなのだろう。
「強いぜ。セシリアに勝ったこともあるしな」
「持ち上げるなよ一夏。あれは俺が試合中に怪我したから、優しいセシリアが降参してくれただけさ。俺の実力なんてトーナメントで1回戦突破出来るかどうかってレベルだ。一夏みたいに才能もないしな」
「……へぇ~、そうなんだ」
口ではそう言うデュノアの顔は、いつもの貴族スマイルではあったが、醸し出される雰囲気は納得していない気持ちが前面に出ていた。
別にデュノアのことが嫌いな訳ではないが、ここでその好奇心を納得させるような回答をする義理はない。
大体一夏達にだって俺は何一つ話していない。箒にすら、だ。
俺は右側を歩く箒の顔を見る。
「…………」
何一つ言葉を発することなく、俺の顔を見つめていた。強い意志を宿らせた瞳で。
そんな箒に、俺は笑顔で返す。そんな俺に、箒はため息一つと「しょうがないやつだ」と言わんばかりの顔を返す。
ISに関するある程度の知識や情報の見聞の広さを提示してはいるものの、大事なことは何一つ話をしていないそんな俺の意見を皆が受け入れてくれているのは、俺のことを信頼してくれているというだけだ。箒だけでなく、セシリアも、鈴も、そして一夏も。嘘ばかりのこんな俺を。……イイヤツらだよ。全く。
するとアリーナに近づくにつれなにやら慌ただしい様子が伝わってきた。廊下を走っている生徒も多い。騒ぎの中心は第4アリーナにあるようだ。
何だ? 今日はアリーナでコンサートでも行われているのか? 実は統廃合の危機にでも晒されていて、9人組のIS学園アイドルでも誕生したのか?
「(京夜!!)」
「(何だ? どうかした――)」
「(京夜さん! 急いでください! セシリアさんと鈴さんが!!)」
ティーナと茜の発言に、俺は観客席に繋がるゲートへと走り出す。俺の動きに驚きを見せる一夏達も、後についてくる。
セシリアと鈴に、何らかの危機が迫っている。俺の脳裏に過るのは、先日のクラス対抗戦に乱入してきた所属不明機のこと。これは可能性の問題。これはあり得る可能性で1番危険な想定。
あの時、所属不明機がクラス対抗戦に乱入してきた理由というか、その目的自体は、達せられているだろう。だが俺はここで不明瞭のままにした部分について説明しておく方がいいようだ。
それは所属不明機の最後の攻撃。「
簡素に、そして簡潔にその理由を述べるならば、「邪魔だったから」だ。では、それは誰にとってか。それはもちろん所属不明機に……所属不明機を操っていた黒幕にとって、ではあるが、どちらかといえばそれは間接的だ。直接的に、誰にとって邪魔だったのか。
それはあの場にいた人物にとって、だ。それは俺ではない。当然狙われた鈴でもない。狙撃を行ったセシリアなんてあの場では眼中にすらないだろう。そして……一夏でもない。
そう、それは箒だ。「鈴の存在は箒にとって邪魔」だと、黒幕はそう感じたのだろう。
その黒幕が誰なのかについてはここで触れるつもりはないが、ともあれその黒幕が、鈴だけでなく箒にとって邪魔になりうる者を狙う可能性は今も十分あり得るということだ。
俺達は観客席にたどり着き、ステージへと視線を向ける。中央に立ち上る爆炎の中に複数の影が見え隠れしていた。
俺は状況を確認するべく、周りの見回す。ステージには既に他の生徒はおらず、観客席の生徒達は、その状況を観覧しているようだった。良かった。どうやら所属不明機が乱入してきたとか、そういう状況ではないようだ。もしそうなら皆逃げ惑っているだろうからな。
だがしかし、セシリアと鈴に何かあったのは事実。一体何が――
ドガァン! ドゴォォッン!!
その煙の中から、はじき出されたように影が飛び出してきた。セシリアと鈴だ。
既にかなりのダメージを受けている。機体のところどころが破損し、ISアーマーの一部が完全に失われている。ダメージレベル的に、相当なものだ。
そして再び立ち上る煙を切り裂くように何かが飛び出した。それは2人の体を捕まえて煙の中心へと引きずり、たぐり寄せていく。
あれはワイヤーブレード。つまり……
煙が晴れて『シュヴァルツェア・レーゲン』が姿を現す。そしてそこから、ただただ一方的な暴虐が始まった。
「ああああ!」
その腕に、脚に、体に拳が叩き込まれる。シールド・エネルギーは
しかしそれを理解しているだろうその拳は止まらない。鈴とセシリアを殴り、蹴り、ISアーマーを破壊していく。
「セシリア! 鈴!」
特殊なエネルギーシールドで隔離されたステージには、こちらの声は届かない。それでも一夏はそのシールドを両手で叩きながら、2人の名前を叫ぶ。箒もデュノアも心配そうな顔で、2人を見ていた。
だが、俺はその光景をただ茫然と見ていた。
その姿を。
2人の辛そうな姿を。
大切な人達が苦しんでいる姿を。
……。
俺は一夏の肩に、手を置く。
「……一夏。……『零落白夜』でアリーナのバリヤーを切り裂け。……今すぐに」
「ああ!! わか――!!?」
こちらに顔を向けた一夏の表情が、どうだったかはわからない。驚いていたような気はするが、どうでもいい。
そして、ここからは、正直な所、ほとんど覚えていない。
俺の頭に、心に、フラッシュバックされる映像。
それは血生臭いなにか。
真っ赤に染まった視界。
塞ぎたくなる凶音。
腐り爛れて放たれる悪臭。
嘔吐く程の味。
失われていく感覚。
それは俺の中に巣食う原風景。
ただ、それだけ。それだけのこと。
それに俺が囚われてしまった。それだけのこと。
それだけの――
◇
私は驚いていた。今の京夜の顔を見て。
私と京夜はもう4年近く、ほとんど毎日一緒に居る。中学では「黒神京夜・篠ノ之箒の夫婦コンビ」なんて噂される程に四六時中。まぁそう言われるのはかなり恥ずかしかったり、その……嬉しかったり……って何を考えているんだ!? 私は!!
とにかく! それだけ京夜とずっと一緒に居る私が、一度として見たことない顔をしていた。ただただ受ける印象はとても無機質な……そんな顔だった。
セシリアや鈴のことも心配ではあるが、私はそんな京夜のことが心配で、心がざわつく。
「おおおおおっ!」
もう1人の幼馴染である一夏は『白式』を展開し、右手に握られた【雪片弐型】に『零落白夜』を発動させ、アリーナを取り囲んでいるバリヤーへと叩きつける。
切り裂かれたバリヤーの隙間を突破し、一夏は中へと侵入する。それに続けと言わんばかりにデュノアもISを展開し、ステージへ。
そして、京夜はそのまま……生身のまま、ISを展開させることなく侵入し、ステージに降り立つ。
私もまた、その後に続く。何となく京夜をこのままに……1人にしてはいけない気がして。
すると、引き裂かれたそのバリヤーがみるみるうちに修復されていく。そして復元が完了したかと思ったら、観客席全体が物理シールドに覆われていった。学園側がこの状況に干渉してきているのだろうか。だったら事態の収拾に教師達が出てきてもよさそうだが。
「その手を離せ!!!」
次の瞬間、一夏は瞬時加速でボーデヴィッヒとの距離を詰める。右手には『零落白夜』を発動させたまま。一夏め。相当逆上しているな。ただでさえ『白式』は燃費が悪い。その上感情的で直線的な動き。冷静さを失ってしまっては勝てるものも勝てないぞ!
一夏はそのまま、ボーデヴィッヒに刀を振り下ろす。
「ふん……」
一夏の刃が届く寸前。ボーデヴィッヒは右手を広げて一夏の前に突き出す。その瞬間、一夏の動きがビタッと止まる。振り下ろそうとしていた腕だけでなく、体自体が、空中で停止している。そうか、これが……
「し、しまった! 【AIC】か!」
「……やはりこの私と『シュヴァルツェア・レーゲン』の敵ではないな。――消えろ」
肩の大型カノンが接続部から回転し、ぐるんと一夏へと砲口を向ける。危ない!!
だが、次の瞬間――
「!!!」
「――ガハッ!!?」
その間に割り込んできた
割り込んできたのは、京夜。それを理解するのに、私は少し時間が掛かった。目に見えている姿は京夜そのもので、疑う余地もないのだが、身に纏う雰囲気が違い過ぎる。それはこの場にいる者全てがそう思っているようだった。
「き、貴様は……」
「……一夏。……デュノアと共にセシリアと鈴を医務室へ。コイツの相手は俺がする」
「!!! わ、わかった」
圧倒的な威圧感に、一夏は従うしかないといった感じだ。抵抗できない。それ程の圧迫感がアリーナを支配している。
状況の打開を図ったのはボーデヴィッヒ。
「貴様、何を―――!!?」
その言葉は最後まで発せられることはなかった。京夜は右手に茜の……『打鉄』のブレードである【葵】を展開させる。ISは、一度量子変換の予兆を見せたが、京夜のその身に纏われることはなく、ブレードだけがその手に握られていた。
京夜はそのブレードを、170センチはあろう刀を軽々と振り回し、目に見えない程の速さの片手5連撃。セシリアと鈴を拘束していたワイヤーブレードのワイヤーを断ち切り、ボーデヴィッヒへと斬撃を放って、吹き飛ばす。
京夜は無言のまま、ボーデヴィッヒとの距離を詰める。そのあまりの動きの速さに、動揺が伺える表情を浮かべながらもボーデヴィッヒは、一夏の時と同様に【AIC】で動きの停止を図ろうとしていた。
だが右手を広げた瞬間、京夜は目で追うことすらままならない速さで、ボーデヴィッヒの側面へと移動し、がら空きとなった右脇へと右薙・左薙の2連撃。
ボーデヴィッヒはその衝撃に顔を歪ませる。京夜はそれを見ることすらなく、右足で横蹴りを放ち、再び彼女を地べたへと転がした。
私はその太刀筋、その動きに寒気が走っていた。京夜が強いことは知っている。だが、まさかISと生身で戦える程とは思っていなかった。人外とさえ言える強さ。身が竦む程の殺気。それが今の京夜を形作るものだった。
京夜がボーデヴィッヒの相手をしている隙に助け出されたセシリアと鈴、助け出した一夏とデュノアも、その姿に茫然とすることしか出来なかったようだ。アリーナの端でただこの光景を見つめていた。
そして……ボーデヴィッヒはその顔に恐怖の色を覗かせていた。京夜はゆっくりと歩き出す。一歩一歩。少しづつ詰まる間合い。彼女はその度に、顔色が青ざめていく。
その恐怖に耐えきれなくなったのか、ボーデヴィッヒは空へと離脱を試みる。京夜はISを纏っていない。故に空は絶対的安全圏と踏んだのだろう。
だが……
「ガハッ!!」
その動きより早く、京夜は飛び上がり、空へと逃げようとするボーデヴィッヒをブレードで叩き伏せた。
俯せに倒れるボーデヴィッヒの体を、京夜は踏み蹴る。まるで本でも読んでいるかのように。無表情で。何度も何度も何度も何度も。
最初こそ悲痛な叫びを上げていたが、徐々に、次第にボーデヴィッヒの声は聞こえなくなる。ISはシールド・バリアーにより破損しておらず、彼女の体も外傷はほとんど見当たらないが、ボーデヴィッヒの精神はもう……
京夜はボーデヴィッヒの体から足を下ろし、両手で握りしめたブレードを高々と上げ、そして……振り下ろした。
ガギンッ!!
金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。そこには京夜の太刀を、同じブレードで防ぐ千冬さん……織斑先生の姿があった。
「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
私はこの時、織斑先生の乱入で、事態は収束へ向かうだろうと、安堵した。恐らくそれは一夏も、デュノアも、セシリアも、鈴も、おそらくボーデヴィッヒでさえも、この場にいる全ての、この状況を見ていた全員がそう思っただろう。
だが事態は、より最悪な方へと進んだことを、私は一本の電話によって知ることになる。
「箒ちゃん!!!」
その声に、聞き覚えのあるその声に、私は一驚する。その声は私のポケットから聞こえてきた。そこから取り出したのは携帯。それは何の操作もしていないのに、既に通話中となっており、通話相手として表示されていたのは……目の前で織斑先生と鍔迫り合う『京夜』の文字だった。
訳が分からないまま、私は携帯を耳に当てる。
「ティーナ!? 一体どうやって――」
「京夜を止めて! 止められるのは、箒ちゃんしかいない! このままじゃ――」
続くティーナの言葉に、私は驚きを隠せない。冷静さを失い、気が動転してしまいそうな、とても俄かには信じられない発言だった。嘘だと信じたい発言だった。
だが、ティーナの言葉をまるで証明するかのように、京夜に異変が訪れる。
その変化は「劇的に」というよりはむしろ……「より深刻に悪化した」印象を、京夜の放つ殺気から感じ取った。
背筋をも凍らすような、静かに足元から這いよる殺気は、まるで恐怖で心を鷲掴みにするかのような凶悪なものへ。
―――狂気。凶気ともいうべき禍々しさ。とても人間の放つものと理解も認識も出来ない程の。
「ヴガァア゛ァァァアーーーーッ!!!!」
視界に入った織斑先生に、京夜は奇声を上げる。私が聞いたこともない声。竦みあがってしまう程の声。
「!!! クッ!」
織斑先生は顔を歪めていた。この状況を見ていた誰もがその姿に驚倒の感情を覚えただろう。あの織斑先生が、かつて世界最強と言われた、ブリュンヒルデと称されたあの千冬さんが、鍔迫り合いで京夜に競り負けてきている。
京夜のブレードの刃が徐々に織斑先生へと近づいていく。そして――
「―――ッ!!」
「ち、千冬姉!!」
京夜は自身のブレードを手放し、互いのブレードの刃がぶつかり合っていた点の裏側の、ブレードの峰に対して後ろ蹴りを放つ。あまりの動きの速さと衝撃に、堪えきることが出来ず、私の方へ20メートル程、織斑先生は吹っ飛ばされてきた。
手放され、蹴りの衝撃により空中へと弾かれた自身のブレードを掴むと、京夜は一気に距離を詰める。速い! 先程よりも、もっと。瞬時加速と比較しても遜色のない程に。その距離は縮まっていく。
誰もがその狂気たる殺気と、尋常ではない動きに、全身が竦んで動けないでいた。一夏ですら、かろうじてその声を上げることが出来ただけだった。
だが、私の体は、動き出していた。ティーナの言葉が耳から離れないでいた私は、動き出していた。
――「このままじゃ、織斑千冬を殺してしまう!!」――
京夜にそんなことして欲しくない。させたくない。ここで止めなければ京夜が、私の大好きな京夜が戻ってこないような気がする。もう一緒に居られなくなるような気がする。京夜から発せられている狂気より、京夜に対する思いと、京夜を失う恐怖が私を支配して、私の体を動かした。
「京夜!!! 駄目だ!!!」
ブレード振り下ろそうとしている京夜と、体勢を立て直そうとしている織斑先生の間に、私は両の手を広げて割り込んだ。
『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
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