インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)


第27話 俺にとって攻略対象なんだから

 

 

 

 

「はー。相変わらずこの距離だけはどうにもならないな、京夜」

「確かに。けどこればっかりはどうしようもないしな」

 

 

 

 5限目の授業終了のチャイムと同時に、俺と一夏は言葉を交わすことなく互いに見つめ合いながら頷き、1階のある場所へと走っている。そこは校舎内に1箇所、この広い敷地内全てを含めても3箇所しかないポイントだ。入手難易度激高のレアアイテムがある訳でも、限定クエストが発動する訳でもないこの場所は、ご聡明な方なら既にお分かりだろう。トイレだ。

 

 

 

「!」

「……ぐえぇ!?」

 

 

 

 曲がり角の先に、ただならぬ気配を感じた俺は急停止。並走する一夏も襟首を掴んで停止させる。「何するんだ!!」と俺を攻める一夏にジェスチャーを送って黙らせて、2人でその曲がり角から先を覗き込む。

 そこにいたのは織斑先生とラウラ・ボーデヴィッヒさんだ。「私、先生のことが……」なんてユリ的展開がそこに広がって……などとそんな軽口がとても叩けそうにない空気が2人の周りを包んでいた。

 

 

 

「なぜこんなところで教師など!」

「やれやれ……何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

「このような極東の地で何の役目があるのですか!」

 

 

 

 織斑先生の現在の仕事に対する不満や、自身の思いの丈をぶつけるボーデヴィッヒさん。ここからでは後ろ向きの彼女の表情を見ることが出来ないが、全身から彼女の強い気持ちが伝わってくるかのようだ。

 それに対し、織斑先生は腕を組み、目を瞑っている。彼女のその気持ちをまるで受け流すかのような印象さえ受ける立ち姿だ。

 

 

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力が半分も生かされません。大体、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません。意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低い者達に教官が時間を割かれるなど――」

 

 

 

 捲くし立てるかのように彼女は自身の思いを口にする。長々と。とても彼女の口から発せられたとは思えない程に口早で。何かを誤魔化すように。何かを隠すように。そうでありながら、伝えたい何かが伝わる様に。願いが、思いが、その言葉には詰まっていた。

 織斑先生はそれを黙って聞いていたが、何か意を決したように声を発する。

 

 

 

「……そこまでにしておけよ、小娘」

「っ……!」

 

 

 

 凄みのある声。その声に含まれる覇気にボーデヴィッヒさんは竦んでしまう。恐怖なのだろう。圧倒的な力の前に感じる恐怖と、かけがえのない相手に嫌われるという恐怖。彼女からしてみれば、その威圧は拒絶にも近しいものだろう。

 

 

 

「さて、授業が始まるな。さっさ教室へ戻れ。今度はサボるなよ」

「…………」

 

 

 

 普段の声色へと戻した織斑先生にせかされてボーデヴィッヒさんは足早に去って行った。何一つ言葉を発しないまま。もう何一つ言えることがなかったのだろう。

 俺が小一時間程前に彼女に対して行った牽制。「一夏に対してボーデヴィッヒさん自身は何も出来ない」という事実。それを聞いた、理解した彼女が出来ること。それがさっきの訴えだったのだろう。

 俺は隣でその訴えを聞いていた一夏に目を向ける。一夏はこの場から離れて小さくなっていくボーデヴィッヒさんを、ただひたすらに視線で追い続けているようだった。

 一夏のその瞳は、何とも表現しがたい感情を宿している。きっと彼女が感じているであろう気持ちが、なんとなく理解出来るからだろう。この2人は……似ているからな。

 

 

 

「そこの男子ども。盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」

 

 

 

 どうやらこちらに気づいたようだ。バレたのならしょうがない。出席簿アタック覚悟で俺達は校舎の陰から姿を現して織斑先生の前へと歩み寄る。

 とりあえずの謝罪を試みようとする俺より先に、一夏はその口から言葉を零す。

 

 

 

「……千冬姉」

 

 

 

 バシーン!

 

 

 

「……学校では織斑先生と呼べ」

「……はい」

 

 

 

 いつもなら、あの打撃に大げさとも言えるリアクションを取る一夏だが、今は少し顔を歪めるも織斑先生に真正面から顔を向き合わせたままだ。

 しばしの沈黙。それを作るのは一夏。悔しさのような、やるせなさのような、苦虫を噛み潰したようなその表情から察すれば、恐らく次の一言が出せないのだろう。その内容自体が一夏の口を重くし、その内容を聞いた織斑先生の反応を一夏自身が恐怖に感じているからだろう。そんな印象を俺は受けた。

 もちろん一夏の今の気持ちが、俺の受けた印象通りかどうかは分からない。人は、他人のことを完全に理解しきることは出来ないのだから。

 しかし、そこは流石に姉弟といったところなのだろう。

 

 

 

「とっとと用を済まさんと、授業に遅れるぞ。勤勉さを忘れるな」

 

 

 

 そう言い、ニヤリと笑みを見せる織斑先生の表情に、一夏は何か納得したようだ。それは安堵や安心といったものかは分からないが、ある程度何らかの疎通が取れた様だった。普段の一夏らしい笑顔を織斑先生に返す。

 

 

 

「どうした京夜? 行こうぜ!」

「……ああ、そうだな」

 

 

 

 一声掛けた一夏は、再びトイレのある校舎の方へと走り出した。

 俺は少しそのまま、立ち止まったまま、織斑先生へと視線を移し、観察するかのようにその顔を見る。一夏を見送るその顔を。目元と口元が僅かに緩んだように感じるその表情を。それは……見たことのある表情だった。

 

 

 

「何だ、黒神。何か用なのか?」

「……いえ、別に……何でもありません」

 

 

 

 俺の視線に気づいた織斑先生は、先程の一夏へと向けられていた視線とは違う瞳でこちらを見る。俺に対する負の感情が見え隠れする瞳。この人は好感度パラメータが低すぎだろ。自業自得の部分が多いことは否定出来ないけどさ。

 今の疑心暗鬼な状態では、何を言っても駄目だろうな。地道にイベントをこなして上げていくしかない。彼女は、織斑千冬先生は、俺にとって攻略対象なんだから。色んな意味で。

 俺は一礼し、一夏の後を追った。なんとかトイレに間に合い、お漏らしも膀胱炎も免れた事実だけは告げておこう。俺の名誉の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 

 

 乱れた呼吸を正す為、一呼吸。少しため息も交じっている。その姿は周りから見れば一人途方に暮れているように見えるでしょうね。

 放課後の第4アリーナ。『ブルー・ティアーズ』を身に纏ったわたくし、セシリア・オルコットはここで学年別トーナメント優勝に向けて特訓中。京夜さんとのデートの為にも、是非とも優勝したい所ではありますし、皆さんの前で宣言した通り「優勝するのは自分以外あり得ない」と強く信じて……いえ、信じようとしている、が正しいのかもしれません。

 分かってはいますわ。一夏さんがもの凄いスピードで成長しているということは。今のままでは……一度手合わせし、手の内を晒してしまった今の状況では彼に勝つことが難しいことも。わたくしはこの学園に来て、あまり成長していないこともまた、身に染みて分かっている。

 だが実際の所、この先どういった方向性で訓練していけばいいか、見当もついていない。5重並列思考なんて、そうそう出来るものではありませんし、【ブルー・ティアーズ】の位置パターンを増やすにしても限界はある。

 唯一思い当たることといえば、『BT偏光制御射撃(フレキシブル)』。操縦者の適正がA以上で、BT兵器稼働率が最高状態にある時に使用可能とされている能力であり、射出されるレーザーそれ自体を精神感応制御によって自在に操ることが出来るとされているのですが……。

 先程から何度試していても、放たれるレーザーは曲がる気配すら見せてくれない。八方塞りとはこのことですわね。

 やはり京夜さんの助力を得ることにした方が良いのでしょうか。一夏さんの成長速度は、たしかに目を見張るものがありますが、それ以上に京夜さんのISに関わる知識量・情報量はあり得ないとさえ感じている。そして何より男性でありながら、あのISに対する理解度は、正直異常と言っても過言ではないのではないでしょうか。

 でも、そんな京夜さんは一夏さんの特訓に付きっきり。もっとわたくしのこともかまってもらいたいものですわ! 一緒に特訓してくれるとおっしゃっていたのに! それなのに……

 

 

 

 ピリリリリッ

 

 

 

 ふと携帯が鳴り響く。メール? どなたからでしょうか。『ブルー・ティアーズ』を介してハイパーセンサーに表示させる。

 

 

 

 ――「お疲れ様。特訓は順調? 学年別トーナメントまでは一夏に付きっきりだけど、それが終わったら一緒に特訓しよう。ちゃんとセシリアのメニューも考えているから。だからそれまでは1人で寂しいかもしれないが、頑張ってな。 京夜」――

 

 

 

 顔が綻ぶ。顔全体が熱を帯びていくのが分かる。まるで今、わたくしのことをすぐそばで見ていらっしゃったかのようなタイミングで内容のメール。嬉しい。一緒に居なくても、ちゃんとわたくしのことを考えてくれている。それが、何より嬉しい。心が満たされていく。彼への気持ちで溢れそうになる。

 

 

 

「あ、セシリア」

 

 

 

 ちょっと、どなたですの? 人が幸せを噛み締めている時に話しかけてくるのは。

 そこに居たのは鈴さん。中国代表候補生の凰鈴音。わたくしのライバルの1人。それは代表候補生としてだけではなく、恋のライバルでもある。

 どうやらそんな同じ条件で考えることはやはり同じようですわね。彼女は『甲龍』に身を包み、その両手には大型の獲物を携えている。

 

 

 

「奇遇ね。あたし、学年別トーナメントに向けて特訓してるんだけど」

「奇遇ですわね。わたくしも全く同じですわ」

 

 

 

 わたくし達は視線の間で火花を散す。彼女も当然、優勝を狙っている。いえ、京夜さんとのデートを狙っているという方が正しいでしょうか。

 

 

 

「ここでどっちが上かをはっきりさせておくっていうのも、悪くはないけど……」

「ええ。楽しみは学年別トーナメントに取っておく方がよさそうですわ」

 

 

 

 今度は互いに笑顔を見せる。不敵とも取れる笑み。ですがそんな中、わたくしは彼女への対抗心を燃やすと同時に、充実感のような喜びも感じていた。

 言いたいことが言い合える。そんな存在が、そんな『友達』と育む学園生活が本当に心地良い。満ち足りている。居場所だと感じられる。

 あら? どうやらそんなところも同じだったようですわね。わたくし達は先程とは違った、柔らかな微笑みを互いに見せた。

 だが、そんな空気を遮って超音速の砲弾が飛来する。

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

 緊急回避の後、わたくし達は揃って砲弾が飛んできた方向を見る。そこには見覚えのある漆黒の機体が佇んでいた。

 第3次イグニッション・プランでトライアル中のドイツの第3世代型。機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』登録操縦者――

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

「……どういうつもり? いきなりぶっ放すなんて、いい度胸してるじゃない」

 

 

 

 鈴さんは、連結した【双天牙月】を肩に預けながら、衝撃砲を準戦闘状態へとシフトさせる。

 わたくしは、逆に戦闘態勢は取らず、なるべく表情を変えないよう努めながらも、警戒心を高めていた。中国の代表候補生である鈴さんとは違い、あの機体『シュヴァルツェア・レーゲン』を、同じトライアルに参加する者として、既に情報を得ていたから。

  

 

 

「中国の『甲龍』に、イギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、大したことはなさそうだな」

 

 

 

 今ここで戦闘を行うことは、今後を考えるとリスクしかない。何事もなくやり過ごそうとしたのですけれど、わたくしはその発言に、冷静さを失ってしまった。わたくしの『ブルー・ティアーズ』を馬鹿にされた、それはまるで、父と母を馬鹿にされたような気がしたから。

 鈴さんもまた、彼女の発言に相当な不快感を覚えたようで捲くし立てる。

 

 

 

「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやって来てボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

「あらあら鈴さん。こちらの方はどうも言語をお持ちではないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ? 犬だってまだワンと言いますのに」

「はっ……機体も大したことなさそうだが、それを扱う貴様らはそれ以前の問題のようだな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけ取り柄の国はな」

 

 

 

 祖国まで侮辱するような発言を!!

 わたくしも鈴さん同様、【ブルー・ティアーズ】を周囲に展開し、準戦闘態勢へと移行させる。

 挑発、と分かってはいましても、そこまで侮辱されて我慢なんて――

 

 

 

「ああ、わかった。わかったわよ。スクラップがお望みなわけね!」

「はっ! 纏めて相手をしてやる! 大した実力もない貴様らでも、2人掛かりなら私の憂さ晴らしの相手くらいにはなるだろう。下らん種馬を取り合うようなメス共が!」

 

 

 

 ぶちっ――!

 何かが切れる音がした。それは鈴さんも同じでしょうね。同じ相手の思いを寄せる者として、その発言、我慢出来そうにありませんわ! 『ブルー・ティアーズ』や祖国の事だけでなく、京夜さんを―――

 

 

 

「――今なんて言った? その発言は絶対に――」

「ええ、彼を……京夜さんを侮辱するような発言はたとえ誰でも――」

「「許せない!!!」」

 

 

 

 わたくし達のその発言に、それを冷ややかな視線で流すとラウラ・ボーデヴィッヒは僅かに両手を広げてこちら側に向けて振る。

 

 

 

「とっとと来い」

「「上等!!」」

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。



【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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