インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
「では、話してもらおうか」
「う、うん……けど、大方調べは付いているんでしょ?」
まぁな。俺は青ざめた顔をしていた彼女に淹れなおしたコーヒーを手渡して席に着き、調べた情報を確認するかのようにその素性を語る。目の前にいる3番目を名乗った少女の来歴を。
『シャルル・デュノア』
本当の名は『シャルロット・デュノア』。量産型ISシェア第3位を誇るフランスの大企業『デュノア社』の社長である『クロード・デュノア』氏の一人娘。だが……
デュノアは伏し目がちに俯き加減で話す。
「うん、僕は愛人の子……らしいよ」
クロード・デュノア氏と正妻との間に生まれた子ではなく、実母と2人でフランスの郊外にて生活。2年前にその母が他界し、その際にデュノア家へ引き取られて現在はフランス代表候補生及びデュノア社のテストパイロット。どうやらこの情報に齟齬はないようだ。デュノアはこれに頷きを見せる。
「デュノア社は今、経営難に陥っているらしくて……」
欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているフランスは現在、自国の企業に第3世代型ISの開発を急がせている。量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』で世界第3位のシェアを誇っているデュノア社に対してもそれは同様だ。
ISの開発には膨大な費用が掛かる為、世界各国の多くの企業は所属する国からの支援で成り立っている。国からの要求に答えられない企業は援助を受けられなくなるだけではなく、下手をすればIS開発許可を剥奪され、コアを取り上げられてしまうだろう。
そんな中、ただでさえ『ラファール・リヴァイヴ』は第2世代最後発で、第3世代型のISの開発にデータも時間も圧倒的に不足していたデュノア社は……
「僕の目的は……男性操縦者である『織斑一夏』及び『黒神京夜』のデータを入手してくること」
「男性使用可能」というコンセプトの第3世代型IS開発プロジェクトを立ち上げ、その実現と成功の為に「産業スパイ」及び「広告塔」として『シャルル・デュノア』という3番目の男性操縦者を生み出し、IS学園に送り込んできたということだ。
やはりな。これは想定通りの筋書きだ。だが、まだ不明な部分がある。それについて確認する必要があるな。
「幾つか質問させてもらうが、いいか?」
「う、うん」
少し強張った表情を見せるデュノア。その顔は裁判で尋問を受ける被告人のようだ。別に俺は虐めてる訳ではないよ? まだね(笑) そんなことが出来るフレンドリーな関係になるか、敵対するかはデュノアの返答次第だ。
「まず……誰の指示で動いていた?」
「あの人からの……ち、父からの直接の命令だよ。男装して、『シャルル・デュノア』を名乗り、IS学園に潜入するように言われてきたんだ」
俺から視線を外し、デュノアは自分の胸元を掴む。恐らくコルセットを着けているのだろう。女の象徴とも言えるその胸元は全く主張していない。
「もう1つ。『デュノア』について、どの程度知っている?」
「へぇ!? それって会社のこと? え、えっとね……実はよく知らないんだ。正直僕にはどうでもいいことだし」
あはは、と愛想笑い。自暴自棄にも近い、まるで他人事のような、乾いた笑顔。見ていてとても痛々しい。達観を超えた、諦観に満ちた微笑み。
しかし……なるほどな。そーゆーことか。道理で腑に落ちない点が多いとは思ったっていたが、合点がいった。それが彼の思い、彼の意志ということか。
ならば俺が、俺が果たすべきは……
「最後に……デュノア、お前はこれから先どうするつもりだ?」
「どうって……多分僕は本国に呼び戻されて……」
「違う。お前自身がどうしたいってことだ」
少し強めの発言に、怯えと戸惑いが見え隠れしているデュノアは俺へと視線向ける。
「えっ? それは……せっかく皆とも知り合えたし、このままの学園に残りたいけど……」
「ならそうすればいい」
「え!?」
思いもよらない話だったのだろう。目をパチクリさせながら唖然にも近い表情を浮かべている。
「俺が誰にもバラさなければいいってだけのことだ。俺や一夏のデータに関しては、俺が提供する」
「で、でもそんなことしたら……」
「特に問題ない。既にイギリスと中国には提供を始めている」
デュノアが転校してきた今朝のSHR前に、俺はセシリアと鈴に確認を取っていた。それは「祖国から可能な限り、男性操縦者の情報を採取するよう指示されていないか」ということだ。それに対する2人の回答はYESだった。
「IS学園への入学時、俺の……男性操縦者の稼働データの取り扱いに関する規約・事項について、特別何も言い渡されていない。それはつまり他国の生徒による情報採取についてはIS委員会も、日本政府も、ある程度想定された事柄だということだ。実際デュノアも含め、各国の代表候補生が相次いでIS学園に転入してきている。その内、大国であるアメリカやイタリア、ドイツあたりからも編入してくるだろう」
下手に規制を掛けることは男性操縦者を危険にさらしかねない。ならば敢えて規制しないことで各国の動きを誘導し、抑止効果を得ているということだ。
「だからデュノアが今のまま、この生活を続けたいのであれば……
「……」
「だから……」
俺はデュノアの頭に手を乗せて、その清潔感ある金糸の髪を、クシャクシャになる程に撫でる。「な、何?」と戸惑いを見せるデュノアに……いや、彼女に俺は満面の笑顔で答える。
「お前のことは、お前が決めろ。シャルロット」
「!! ……。あ、ありがとう」
俺のその言葉に、シャルロットはその瞳にうっすらと溢れた液体を人差し指で拭うと、屈託のない笑顔を見せた。男の、『シャルル・デュノア』としてのどこか社交的な笑顔ではなく、15歳の可愛い女の子の、『シャルロット・デュノア』としての笑顔だ。
俺はその無防備な笑顔に、我慢の限界が訪れた。
「だが、しか~し!! タダで協力は出来ないな!」
「へ!? けど僕、どうしたら……」
「決まっているだろう? その体で払ってもらう」
「体でって、えええっ!!?」
頬を赤くし、先程と変わらない程の動揺を見せるシャルロット。良いリアクションだ。
俺は彼女に近づき、正面から両手で肩を掴む。ビクンッと体を震わせ、これ以上ないくらい硬直させているのが手から伝わってくる。
「ほら、目をつぶって……」
「え、その、あ、あの!?」
そのまま俺は顔を近づける。その動きに、シャルロットは顔を騒がしく動かすも、観念したように眼を閉じた。
互いの口唇が触れ合うまで、あと10センチ……5センチ……3センチと距離を詰めたあたりで、俺は目を開いてその可愛いキス顔を脳内メモリーに保存しつつ、シャルロットの額を人差し指で弾いた。
「……痛ッ!」
「冗談だ」
目を開けたシャルロットにニヤニヤと笑顔で答える。からかわれたのが分かったのだろう。「もーっ! 京夜のバカ!」と頬を膨らませて火が出そうな程に真っ赤な顔のシャルロット。はぁ~スッキリした~満足した~。これ以上我慢していたら俺は発狂していたかもしれないな(笑)
それから少しの間。シャルロットと歓談を楽しんだ後、俺達はそれぞれのベッドに入った。色々あって疲れていたのだろう。ものの5分で彼女は眠りに落ちていった。
俺は天井を見上げながら知り得ていた情報と、彼女からの話を思い出しながら今後について思考を巡らせる。シャルロットが
「(……ティーナ。
「(わかったわ。けどホント、相変わらずね)」
仕方ないだろう? そういう性格なんだから。
俺はシャルロットを起こさないように音を立てずに自分のベッドから抜け出し、端末の電源を入れた。静まり返った真っ暗な部屋にディスプレイの光が灯る。ああ、またしばらくは寝不足の日々になりそうだ……ってそれはいつものことか。
◇
「おっす! シャルル!」
「あ、おはよう一夏」
俺は教室へ向かう途中の廊下で前を歩いていたシャルルに声を掛ける。佇まいだけでなく、歩く姿すらもどこぞの国の王子のようなこのクラスメイトが転校してきて一週間が経とうとしていた。昼食夕食だけでなく、最近は京夜達と一緒に放課後の俺の特訓に付き合ってくれたりなど、四六時中行動を共にし、友情を育むことが出来て、俺はこの女子だらけの高校生活の中で大分安らぎを得られるようになってきた。
それはそうと……
「あれ? 京夜はどうしたんだ?」
「えっとね、今日は午前中用事があるらしくて休みだって」
「ふ~ん」
用事ってなんだろ? 家の事情とかか? ちょっと気になるが、まぁいいか。
俺はシャルルと何気ない男子同士の会話を楽しみながら教室のドアを開ける。すると入口付近の席の何人かの女子が、幾つかの本を見ながら何やら盛り上がっていた。
「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」
「え、そう? ハヅキのってデザインだけって感じしない?」
「そのデザインがいいの!」
「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」
「あー、あれねー。モノはいいけどーって感じなんだよね~」
どうやらISスーツについて盛り上がっているようだ。よく見渡すとクラス中はその話題でいっぱいだった。何社ものカタログをまるでファッション誌でも見るかのように……ってISスーツも女子からしたらファッションみたいなもんなのかもしれないな。
「でもさー」
「そうだね~やっぱり~」
「「トライラックス社のが良いよね~」」
「確かにね~。けどちょっと高いのが難点なんだよね~。デザインも性能も最高なんだけどさ~」
へぇ~。トライラックス社って最近(っていうかIS学園に入学してから)よく聞く名前だけど、結構人気があるんだな。確か「ここ5年くらいの間にIS産業で急激に頭角を現してきた企業だよ」ってシャルルが言ってたけど。まぁ男の俺にはあんま関係ないか。だって……
「そういえば織斑君はISスーツってどこのやつなの? 見たことない型だけど」
「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、もとはイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」
男の俺に既製品はないからな。タダで特注品だ。タダ最高。
っていうか今の俺、何気に凄くないか? 普通にIS関連の話題で会話が成立してるよ。一生懸命勉強している成果だな。最初はどうなることかと思っていたが、人間やればどうにかなるもんだよ。うんうん。
「へぇ~そうなんだ~。デュノア君は? って決まってるよね」
「うん。僕のはデュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品だね」
皆もご存じの通り、シャルルはあのデュノア社の社長の息子だからな。もし他社のISスーツを着ていたら色々問題になりそうだ。
それはそうと、いつも思うんだがシャルルのISスーツって着やすそうなんだよなぁ。俺もデュノア社に特注で作ってもらえないだろうか。
別にスーツがなくてもISを動かすこと自体は可能なんだが、反応速度が落ちるらしい。えっと確か……
「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾なら、衝撃吸収は出来ませんが、受け止めることが可能なんですよ」
すらすらと説明しながら教室に現れたのは山田先生だった。きっと先日からスーツの申し込みが始まったから予習とかしてきたんだろうなぁ。
「山ちゃん詳しい!」
「山ぴー見直した!」
「一応先生ですから。……って、あのですね……前から言ってますが、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと……」
入学から2ヶ月。既に山田先生には8つくらいの愛称がついていた。慕われている証拠ではあるが、人徳がなせる技とは言えない。なぜなら……
「えー、いいじゃん、ヤマヤン」
「ヤマヤンは真面目っ子だなぁ」
「固いよ~ヤマヤン。もっと楽にいこう?」
「ヤ、ヤマヤンはやめてください! も~、黒神くんのせいで……」
京夜の積極的な広報活動のおかげ(?)で山田先生の教師としての威厳は、正直見る影もないからだ。まぁ「元からない」なんて話もあるけど。
「と、とにかくですね。ちゃんと先生とつけてください。わかりましたか? わかりましたね?」
はーい、と聞きわけの良い返事を発するクラスメイト達。誰がどう聞いても言ってるだけの返事であることは間違いないだろう。きっと山田先生のあだ名は、ヤマヤンを筆頭にクラス中だけでなく、学校全体に蔓延し、その過程でさまざまなあだ名が増え続けてその結果、山田先生はIS学園のマスコットキャラとしてその地位を確かなものとするのだろう。どっかのドSなクラスメイトの思惑通りに。
「諸君、おはよう」
「「「お、おはようございます!」」」
ざわついていた教室が一変。私語なく、素早い動きで皆は各自席に着く。千冬姉こと織斑先生の登場だ。
今朝俺が出したクリーニング下ろし立ての夏用スーツに身を包んだ我が姉は、相変わらずの凛々しさで羨望の眼差しを一手に引き受けている。
だが、千冬姉に連れられて教室に現れた1人の見慣れない女生徒もまた同じくらいの注目を集めていた。
腰まで伸びた輝くような白銀の髪。開かれた右目は紅の色を宿し、閉じられた左目には黒い眼帯。同級生の中では一際小柄な体格。鈴よりさらに背が低い。
そして何より、後ろ手に組まれた腕と、踵を揃えてビシッと背筋を伸ばした立ち姿から受ける印象は『軍人』だった。
「山田先生、ホームルームを」
「は、はい。今日は見ての通り、転校生を紹介します!」
「「「えええええっ!!」」」
何とも微妙なリアクションだな。確かに驚きは皆から感じるんだけど、なんていうか条件反射的な印象すら受ける。先週シャルルが転校してきたばっかりだし、ちょっと耐性がついてるのかもしれないな。それとも転校生が女だからか? 女は現金な生き物らしいからな。
山田先生は、転校生に自己紹介を促す。しかし転校生は鋭く冷たい気配を纏わせつつ、無言のまま教室の女子達を下らないものを見るかのような目で見ていた。
そしてその視線は色を変えて窓際に立つ千冬姉へと向けられる。それはまるで上官に指揮を仰ぐ軍人そのものだ。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
佇まいを直し、敬礼を向ける転校生。その姿を見て面倒くさそうな表情を向ける千冬姉。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
2人の会話を聞いた俺は、転校生が間違いなくドイツ軍関係者であることに確信を持った。
とある事情で千冬姉は1年ほどドイツで軍隊教官として働いていたことがある。その後は1年の空白期間を経てIS学園の教官になったらしいということを山田先生や他の学園関係者から教えてもらった。
出来れば本人の口から聞きたいものだ。もちろん事後ではなく、事前や現在進行形で。家族なんだから。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「…………」
あっけにとられるとはこのことか。まさに必要最低限と感じるほどに簡素な挨拶。言葉の続きを待っているクラスメイト達の期待を裏切るように転校生は口を固く閉ざした。
「あ、あの、以上……ですか?」
「以上だ」
沈黙に支配された教室の状況を打開すべく若干引き攣った笑顔で話しかけた山田先生に返ってきた言葉は無慈悲と言える一言だった。こらこら、先生をいじめるんじゃない。ただでさえ京夜に散々弄ばれて大変そうなんだから。
すると、そんな転校生と目があった。
「! 貴様が――」
嫌悪というか、怒り心頭と言った雰囲気で俺の方へとやってくる。そして次の瞬間――
バシンッ!
「…………」
「うっ」
左頬にズキズキと感じる痛み。いきなり、殴られた。無駄のない動きで平手打ち。は? なんで? 意味が分からない。俺は何で殴られないといけないんだ?
そんな混乱状態の俺に、転校生は吐き捨てるように言葉を投げつけた。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
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