インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

23 / 60
※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)


第23話 俺には決して看過できない問題だ

 

 

 

 昼休みの屋上。珍しく俺たちはここにいた。話は今朝に遡る。いつものメンバーで優雅なブレックファーストを嗜んでいると、箒が俺に手作り弁当をこしらえてくれると提案してきた。「天気もいいし、たまには屋上で食事でも」と。それに乗ってきたというか食いついてきたのはセシリアと鈴。「じゃあ俺も」と一夏も加わり、ピクニック気分で階段を上ってきた俺たちは、屋上備え付けの円テーブルにお弁当を広げてランチタイムを展開することとなった。

 メンバーは一夏、箒、セシリア、鈴、俺、そして転校生のシャルル・デュノア。流石に転校初日に1人きりであの腹を空かしたライオンの檻の中のような女子包囲網に放り込むような非人道的なことはできないという一夏の提案だ。まぁ尤もではあるな。

 俺は辺りを見回す。既に俺にとってはスモーキングタイムの常連場所であるこの屋上は、美しく配置された花壇に季節の花々が咲き誇り、欧州を思わせる石畳が落ち着いているとても居心地の良い場所だ。

 だがそんな説明をまるで否定するかのように現在屋上は貸し切り状態。俺たち以外は誰もいない。前にもちょっと話したがあまり人気がない。

 理由は主に日差しらしい。あまり日陰がないからなココは。うら若き乙女たちは紫外線から肌を守ることに余念がないということだ。

 今腰を下ろしている木製のベンチの真上にも日光を遮るものは存在していない。まだ心地よいと言えるレベルの日差しではあるが、夏場はとてもココで食事なんてできそうにないな。

 そんな俺たちは円テーブルを囲むように俺の左から一夏、デュノア、セシリア、鈴、箒と座っている。仲良し男女グループの仲睦まじい食事風景とは到底言えない一触即発な空気が場を支配していた。箒、セシリア、鈴が織り成す魔のトライアングルだ。

 それはなぜか。ただ俺に弁当を作ってくれるという流れまでは良かった。食費浮くしな。だがそこからなぜか「誰が一番美味しい弁当を作れるか」という流れになり……といった展開だ。

 

 

 

「ええと、本当に僕が同席してよかったのかな?」

「いやいや、男子同士仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうが、まぁ協力してやっていこう。持ちつ持たれつってヤツでさ」

 

 

 

 遠慮深い発言したデュノアに笑顔で答える一夏。友情を育むのはいいけど、持ちつ持たれつの割には結構俺が色々持っている気がするのは気のせいなんでしょうかね。

 

 

 

「じゃあ、まずはあたしからね!」

 

 

 

 1番手は鈴。取り出したるは1つの少し大きめのタッパーだ。飾り気の全くない容器の蓋を、鈴は自信満々な表情で開ける。そこに入っていたのは、片栗粉をまぶして揚げた角切りの豚肉を、シイタケやタケノコ、パイナップルと共に炒めて甘酢あんをからませた中華料理。酢豚だった。

 

 

 

「さあ、食べてみて!」

「じゃあ……」

 

 

 

 俺は持ってきたマイ箸を使って口へと運ぶ。その味わいは今時の黒酢を使ったものではなく、昔ながらの味だ。そう、遠い昔の日に食べたことのある、記憶に残る味だった。

 

 

 

「美味しいよ、鈴。とても懐かしい感じがする。良い味付けだな」

「そ、そう?」

 

 

 

 頭を掻きながら視線を下ろして照れた表情を見せる鈴。この味は、中華料理屋を営んでいたおじさんの、鈴のお父さんの味。もう食べることのできないと思っていた味。それを鈴は忠実にと言っていい程に再現していた。おじさんはもういないけど、おじさんの味は確かにここにある。それが……なんか嬉しかった。

 ご相伴にあずかる形の一夏たちの評価も上々のようだ。するとその味を認めつつ、悔しそうな顔をしていたセシリアが鈴に立ちはだかるべく声を上げる。

 

 

 

「次はわたくしですわね!」

 

 

 

 2番手はセシリア。赤茶色の籐で編みこまれたバスケットを開くとそこに入っていたのはサンドイッチだ。ベーコン・トマト・レタスの所謂BLTサンド。色鮮やかで食欲を誘う綺麗な見た目だ。

 ではさっそくと手掴みで一切れほうばる。次の瞬間、俺は驚愕する。シャリシャリ、ガリガリする歯ごたえ。途方もなく極限まで甘い味付け。鼻に抜けるバニラの香り。最近のBLTサンドはこんな独自の方向性を見出しているのか。

 

 

 

「面白い味付けだな。斬新でユニークで。美味しいよ」

「ほ、本当ですの!?」

 

 

 

 満面の笑みを見せるセシリア。その指先には絆創膏が。まぁ実家が由緒正しき名家である彼女の家にはお抱えのシェフも何人もいるだろうから、料理なんて恐らくしたことなんてないのだろうな。

 

 

 

「へぇ~、じゃあ俺も一口……」

「あ、けど一般ウケはしないかも――」

「!?!?!?――」

 

 

 

 俺の忠告を聞かずして味の前衛芸術とも言えるこのサンドイッチを口にした一夏はその場で悶えて青い顔を変化する。その後、凄い勢いでペットボトルのお茶を喉に流し込んでゼェゼェと息を切らした一夏は、息を整えながら恐る恐るセシリアに問う。

 

 

 

「セ、セシリア? あのさ、味見とかは……」

「しておりませんわ。本と同じになればよいのですから必要ないのではありませんこと?」

 

 

 

 セシリアの言葉と、一夏のリアクションに箒たちはうわぁ……とかなり引いた表情を浮かべてバスケットに伸ばした手を引いた。

 キョトンとした表情を見せるセシリア。箒たちは躊躇なく掴んだサンドイッチを食べ切った俺を心配するような、それでいて俺に味覚障害疑惑を持っているような表情を浮かべている。

 失礼だな君たちは。セシリアに対しても、俺に対しても。確かに100人が100人全員が美味しいと言うような弁当ではなかったけどさ。少なくとも愛情という最高のスパイスは効いていたと思うし、それに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったんだからさ。

 かと言って「美味しい」と言った手前、後でセシリアが恥を掻かないようにフォローするさ。面倒くさいけど。

 

 

 

「ゴホン。では最後は私だな」

 

 

 

 そう言って程良いサイズの一般的な弁当箱を差し出す3番目の箒。蓋を開けると、鮭の塩焼きに鶏肉の唐揚げ、こんにゃくとゴボウの唐辛子炒めにホウレン草のごま和えというバランスの取れた献立がそこにはあった。

 

 

 

「じゃあまあ、いただきます」

 

 

 

 とりあえず俺はメインである唐揚げを一つほおばる。噛み締める度にあふれ出る肉汁。ショウガと醤油と、そしておろしにんにくが旨みをさらに引き立てている。

 

 

 

「うん。相変わらず箒の料理は美味いな。絶品だ」

「当然だな」

 

 

 

 自信満々な表情を見せる箒。唐揚げは冷めることを計算された濃いめの味付けで、不思議と後味がしつこくなく、それでいて隠し味である適量の大根おろしが堪らなく食欲を増大させる。仕込みに相当時間がかかっているな。前もって準備していたのだろう。

 箒は別のタッパーに用意しておいたその唐揚げを皆に振舞う。一夏とデュノアの笑顔と、セシリアと鈴の悔しそうな顔が物語るのはかなりの高評価ということだろう。

 俺は3人が作ってくれた弁当を全て平らげ、お茶で一息つく。はぁ~食った食った。お腹一杯になる程に食べて、財布の中身が減らないって最高だなぁ。

 こうして楽しい昼食は幕を閉じたのだった。

 …。

 ……。

 ………。

 …………。

 あれ? おかしいな? 場面転換しないなぁ~(汗)

 

 

 

「(そりゃ無理でしょ。箒ちゃんたちの視線、気付いているでしょ?)」

「(茜! 今すぐ俺を視認できないようにISをステルスモードで展開! ティーナは逃走経路の確保! 可及的速やかに……)」

「じゃあ京夜! そろそろ誰が一番か、決めてもらうわよ!」

 

 

 

 中々の反応速度だな鈴。流石は中国代表候補生ということか。いち早い発言で俺の逃走を阻止できるようになるとは。この幼馴染、さらに出来る様になった。

 さて、どうしたものか。三者三様のお弁当を食した俺に、三者同様に詰め寄ってくる箒、セシリア、鈴の3人。誰が一番美味しかったか優劣を決めろということだ。懐かしい味だった鈴。独創的な味のセシリア、そしてオーソドックスな和食の箒。はてさてどうしたものか。誰を選んでも角が立つのは間違いないし……

 俺は悩みながら視線を落とす。すると左側に色鮮やかで食欲を掻き立てる香りのお弁当が広げられていた。俺は吸い寄せられるようにその中にあった卵焼きを箸で掴み、そして口へと運ぶ。こ、これは……

 

 

 

「美味い! 勝者は一夏!!」

「「「へぇ!?」」」

「?」

 

 

 

 弁当の献立の中で最もポピュラーで定番だと俺が思うのが卵焼きだ。シンプルで誤魔化しの効かないメニューだからこそ、その腕前が相当なものであることが分かった。

 

 

 

「凄いな一夏。正直驚いた。料理人でも目指していたのか?」

「あ~、別にそういう訳ではなくて、ウチは千冬姉と俺の2人家族だから、俺が家事をするしかなくて得意になったっていうか……」

 

 

 

 ……そういえばそうだったな、織斑家は。あまりそれについてこの場で触れるべきではないな。暗い話題で変な空気になる前にここは1つ、俺が『笑い』を提供しますかね。

 

 

 

「なんだ一夏、そんなに俺の嫁になりたかったのか? 俺はいつでも歓迎するぜ?」

「「「「な!?」」」」

 

 

 

 俺は一夏の肩に手を置いて少し顔を近づける。その距離はやおい好きの女子にはたまらないであろう近さだ。果てしない妄想が生まれ、薄い本が大量発行されてしまうであろう親密な距離だ。

 

 

 

「ちょっと一夏! 邪魔しないでよ!!」

「そうですわよ! 一夏さん!!」

「馬に蹴られて死ね! 一夏!!」

「ちょ、ちょっと待て! 俺は何もしてないぞ!」

 

 

 

 俺を攻め立てていた女子3人は、今度は一夏をギャアギャアと攻め立てる。これがISが世界に与えた影響、女尊男卑が生み出した悲しき現実なのか! ISが、ISの存在がこんな攻撃的な、猟奇的な女子を生んでしまったと言うのか!

 俺がそんな世界の不条理に嘆き悲しんでいると、デュノアが近づいてきた。

 

 

 

「京夜って、意外とズルイんだね」

「俺は面倒なことが嫌いな性格なんだよ」

 

 

 

 ニヤリと笑顔でそう答えた俺に「一夏も大変だね」とデュノアは言う。ハハハッと苦笑いを浮かべながらも心配でもしてそうな顔で。イヤイヤ。違うからな? 

 そんなデュノアの顔と発言に、一夏や箒達は、一斉に笑い出した。そりゃそうだろう。流石に本気にしないだろ普通。コントだよ。お笑いだよ。俺の悪ふざけのフリに皆が乗っかってくれただけさ。まぁこんな笑いある空間が俺達の日常だっていうのをお前に見せたかったっていうのもあるけどな。

 一夏達の笑いに、キョトンとした顔をしていたデュノアも、ようやくその悪ふざけに気付いたようで、一緒になって笑い合っていた。それは先程までのどこか余所行きの笑顔ではなく、心からの笑顔だった。

 俺達は、その笑顔に少しばかりの短くなった互いの距離を感じつつ、晴れ渡る空の下、有意義な昼休みを過ごした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。夕食を終えて部屋に戻ってきた俺は現在、自慢のコーヒーメーカーで入れたコーヒーをルームメイトと2人で飲んでいた。ちなみにディナーはランチとは違って箒、セシリア、鈴、そして俺の4人だった。一夏とデュノア? 奥の席が桃色の香りと共に盛り上がっていたので、恐らく相変わらずの女子包囲網&質問攻めにあっていたのだろう。そこに巻き込まれるのは面倒なので、敢えて声をかけなかったのだ。 べ、別に強がっている訳ではないからな!? 同じ男性操縦者なのに俺は人気がないからってひがんでいるとかそんなんじゃないから!!

 

 

 

「(別にいいじゃない? 箒ちゃんたちだけでなく、あたしや茜にもモテモテなんだから。これ以上求めたら(バチ)が当たるわよ? 寧ろ(バツ)を与えてあげるわ)」

「(そ、そうですよ京夜さん! 私たちだけじゃ、足りませんか?)」

 

 

 

 その上目使いは破壊力が限界突破のオーバーキル過ぎるぞ茜! 萌え死寸前だ! 

 まぁ確かにティーナの言うとおり、目を引くような美少女たちに囲まれてリア充全開な学園生活ではあるけれど、男っていうのは、いつまでも果てしない欲望を追い求めて生きる愚かな生き物なんですよ。ってコラ、ティーナ! 「愚かな」な部分に激しい頷きをしない!

 

 

 

「じゃあ、改めてよろしくね、京夜」

 

 

 

 そう言うのは今日からルームメイトとなったデュノア。デュノアは既に寝間着というか、部屋着に着替えており、恰好だけはリラックス感を醸し出しているが、俺の目には緊張や警戒が表情や視線の動きから垣間見えていた。

 ジーッと観察するように見つめていた俺の視線に気付いたのだろうか。少し頬を赤くして焦り顔を見せる。

 

 

 

「えっ、え~っと、そ、そうだ! シャ、シャワーの順番とかどうしようか!?」

 

 

 

 ドモり過ぎの発言。アタフタ落ち着かない行動。映画版のテンパってる青ダヌキの形態模写展開中か? ってくらい挙動不審だ。

 サディストの申し子たる俺なら、当然ここは……となる所だが、今はそんな気分ではない。そんな状況ではない。俺には聴取しなければならないことがあるからだ。

 同じ代表候補生でも、コイツはセシリアや鈴とは違う。コイツは自分の意志でこのIS学園に来ている訳ではないのだから。俺には決して看過できない問題だ。

 俺はティーナたちに指示を出す。そして内ポケットから1枚の写真を取り出し、デュノアの前に投げつけた。

 

 

 

「……その前に、少し大事な話をしようか」

「!!!」

 

 

 

 その写真を見たデュノアは先程を超える動揺を見せる。映っているのはある1人の人間だ。同年代くらいで、中性的な顔つきで、155センチくらいで、華奢な体つきで。見る人が見なくても、その写真に映るのは、今俺の瞳に映る人物と同一人物だと言うだろう。だが……

 

 

 

「何が目的だろうか、シャルル・デュノアくん? いや、シャルロット・デュノアさん?」

 

 

 

 その写真に写るデュノアは、世界で3番目の男性操縦者ではない。ただの一人の少女の姿だった。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。