インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第20話 俺は死んだんだ。だから俺は……

 

 

 

 あたし、凰鈴音の初めての記憶。何も仰々しい話じゃない。あたしが覚えている一番古い記憶。思い出のこと。

 それは5歳の頃のこと。昔のあたしは、今のあたしを知っている人たちには想像もできないかもしれないけど、いつも泣いているような泣き虫な子だった。

 そんなあたしには幼馴染の兄妹がいた。中華料理屋を営んでいたウチの近所に住んでいて、あたしたちはいつも3人一緒だった。泣いていると、いつでも助けに駆けつけてきてくれて、頭を撫でてくれる優しい同い年の男の子と、いつも眩しい程の笑顔を向けてくれる体の不自由な1つ下の女の子。あたしはこの2人が好きだった。特にその男の子の事が大好きだった。

 日本人の父と中国人の母の間にあたしは生まれた。父さんと母さんは大恋愛の末の結婚だったそうで、いつでもどこでも2人の間には愛が溢れていたことを幼いながらにも感じていた。いつかあたしも大好きなその男の子と結婚してみんなで幸せに暮らすんだ、なんて思っていた。大好きな両親のように。

 だがそれは叶わぬ願いとなった。あたしが7歳の頃のこと。幼馴染の彼の家で爆発事故。後で聞いた話だけど、原因はガス漏れによるものらしく、家が全て吹っ飛んでいた。彼を含む一家4人と、たまたま出前を届けるために訪れていた父さんも巻き込まれた。

 その日、あたしは大好きな父さんと、大好きな男の子を一度に失った。

 それから数年間のことは……あまり覚えていない。覚えているのは涙の記憶。大好きな2人にもう会うことのができないという現実に泣くあたしの涙と……お父さんの写真を見ながら夜な夜な声無く泣く母さんの涙。

 そんな母さんが急に再婚すると言いだした。あたしが10歳の頃のこと。相手はウチの中華料理屋で働いてくれていた人。あたしの為にこのままでは、と考えてくれた親心による決断であったことは小学生のあたしでもなんとなく分かっていた。

 あたしも変わらないといけない。辛い感情も、苦しい気持ちも、忘れられない思いも、全部心の奥に押し込んで、泣かない元気いっぱいな女の子になるんだと誓った。

 再婚相手の勧めで長年住んだこの地を離れることになったあたしが、その引っ越し先の学校で最初に友達になったのが一夏だった。馬鹿で朴念仁だけど、気さくで明るいイイヤツ。顔もカッコいいし、一夏とつき合ったりしたら幸せかもと考えたこともあったけど、あたしの気持ちは微塵にも動かなかった。

 一夏はあたしを「鈴」と呼ぶ。あたしはその度に、同じように呼んでいた、大好きだったあの男の子のことを思い出す。彼への思いを思い出す。再婚しても未だ父さんのことが忘れられずにいる母さんの遺伝子を受け継いでいるあたしの彼への思いは、まるで呪いのようにあたしの心を離さない。

 中学2年生、14歳の頃のこと。再婚相手と離婚して中国に帰ることになった。母さんは……もう限界だった。父さんとの思い出が残る日本を離れて静かに暮らしたいという母さんの願いを、あたしは尊重した。

 生まれも育ちも日本のあたしのことを知る人は、当然中国にはいない。満足に中国語が話せなかったあたしの居場所はもうどこにもなかった。

 全ての居場所を失ったあたしは荒れた。発作的に、衝動的に暴力的行為に及んでしまいそうなあたしは、そのウサ晴らしで始めたISで実力が認められて中国代表候補生に選ばれた。

 与えられた専用機『甲龍』は、まるで自分を表しているかのようだった。()()()()程の理不尽な言動のあたしの心は、他人には()()()()感情で押し潰されそうだったから。

 そして今年の4月のこと。あたしは夢を見た。夢の中のあたしは、とある学園で楽しげに学校生活を送っていて、一夏やたくさんの同年代の女子たち、見知らぬ男子と一緒になって笑い合っていた。

 そんな幸せな夢が覚める頃、その夢の最後の情景。あたしはいつのまにか隣に立っていた少女に声をかけられた。

 

 

 

 「――待ってるよ」

 

 

 

 目を覚ましたあたしは、一夏のいるIS学園への転校を決めた。

 IS学園に転校してきて、一夏に紹介された3人の一夏のクラスメイト。1人は如何にも高飛車そうなイギリスの代表候補生。1人は一夏の小学校低学年の時の幼馴染。

 

 

 

 そして……一夏と同じ男性操縦者の……『黒神京夜』ってヤツ。

 

 

 

 彼を初めて見た時、顔には出さなかったけど心の中では何とも言えない違和感のようなものを感じていた。最初はどこかであったことがあるのかも、と思って尋ねてみた。けど彼は知らないと言う。確かにあたしも聞いたことない名前だったし、気にしてもしょうがない。それ以上追及するのをやめた。

 それからしばらくして。授業中、屋上に向かう彼を見つけて追いかけた。なんでそうしたのか分からない。けど体が勝手に動いていた。

 屋上で彼の隣に座り、一緒に空を見上げていたひとときに、あたしは心地良さを感じていた。穏やかに流れる時間。もう何年も感じていなかった自分の居場所のような感覚。懐かしく感じる空間。あたしはそんな空気を作る彼のことが気になり始めていた。

 

 

 

 そして今日、あたしは夢にすら思わなかった現実を目の当たりにする。「あり得ないことなんてない」と言った一夏の言葉をこんな形で体験するなんて。

 

 

 

 侵入者からの攻撃を庇ってくれた時、あたしの名前を叫んだあの時、あたしはある1つの可能性を感じた。

 そして今、負傷してベッドで眠る彼のメガネを外し、前髪をかき分けて晒された素顔を見て、あたしは確信した。

 

 

 

 彼が……彼は、あの……

 

 

 

 それが分かった瞬間、あたしの心は溢れ出る思いで、もうどうにもならなくなっていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……」

 

 

 

 全身の、主に背中に走る痛みに呼び起されて、俺は意識を取り戻した。漂う消毒液の匂いが、ここが保健室なのだろうと推理させる。肌に感じる温もりに、自分がベットの上に横たわっているという事実を認識させられる。そして焦点が定まっていない寝ぼけ眼で辺りを見回した俺は、仕切られたカーテンの隙間から差しこんでくるオレンジ色の光から既に夕方であるという情報を得ていた。

 すると、愛すべき脳内彼女が心配そうな面持ちで声をかけてきた

 

 

 

「(きょ、京夜さん! 大丈夫ですか!?)」

「(ああ、どうやらまだ生きてるらしいな)」

「(まったく、茜に感謝しなさいよ? 茜が頑張ってくれたおかげなんだから)」

 

 

 

 シールドエネルギーを全て駆動エネルギーに転化した為、シールドバリアーはおろか絶対防御すら発動しない状態だった。普通ならそんな状態であのレーザーを食らえば、間違いなくISごと体が貫かれ即死だろう。

 だが俺は生きている、それはつまり……

 

 

 

「(そうか……茜が独断で……)」

「(その……ごめんなさい! 私、勝手に――)」

「(ありがとう茜。俺を助けてくれて、俺の事を思ってくれて……凄く嬉しいよ)」

 

 

 

 

 俺の言葉に、大粒の涙を浮かべる茜。そんな茜の艶やかな黒髪の頭を俺は笑顔で撫でてやる。責めたりするわけないだろう? むしろ心配させて、辛い思いをさせてゴメンと俺が謝らなきゃいけないくらいだ。

 

 

 

「(あんま心配させないでよね、京夜)」

「(ティーナも心配してくれたのか。ありがとうな)」

「(当たり前でしょ!? 忘れたの!? 言ったじゃない! ()()()()()()()()()()()()!!)」

「(……そうだったな)」

 

 

 

 苦笑いに近い複雑な顔をしているであろう俺に、ティーナはニッっと良い顔で笑いかける。その顔は俺が何度となく救われている笑顔だ。

 だがそれも一転、煩雑を極めるような表情を浮かべるティーナ。

 

 

 

「(それより……今は目の前のことをどうするのか、考えた方がいいわよ?)」

 

 

 

 目の前? 俺はその発言に意識が覚醒し、クリアになった視界に移ったその人物に仰天する。俺の横たわっているベッドの脇にある椅子に腰かけてこちらを見ている女子。その女子は窓から入ってくる風に、その特徴的なツインテールを揺らしながら、目には大粒の涙を浮かべていた。

 そして彼女の小刻みに震える手に持っていたモノを見て、俺は上半身を起こし、右手で自分の顔に触れ確認する。そこにはやはりあるであろうはずのモノがなかった。

 

 

 

「無事……だったんだ……」

 

 

 

 そう言うと、差し込む光でエメラルドグリーンにすら見える鮮やかな瞳に留まっていた美しい液体が、あどけなさ残る顔をつたってとめどなく流れていく。

 彼女の発言、それは所属不明機からの一撃によって負傷した、彼女を庇って負傷した俺に対する安堵の発言ではないだろう。

 

 

 

「(……箒ちゃん同様、これ以上泣かしたら許さないわよ、京夜)」

 

 

 

 ティーナの言うとおりだ。今までの自分の浅はかな考えに自責の念を感じる。彼女の為、なんて言い訳だ。逃げ出すわけにはいかない。見て見ぬふりをするわけにはいかない。あるものをないものに、あったことをなかったことにはできない。それは今も、未来も、そして過去も……。彼女もまた、俺の背負うべき過去から続く現実なのだから。

 俺は顔を見せるように髪をかきあげ、微笑みかける。

 

 

 

「相変わらず泣き虫だな、鈴」

 

 

 

 その言葉に、鈴はベッドに座る俺の胸に顔を埋めるかのように抱きしめてくる。顔をくしゃくしゃにしながら、決壊したダムのように大泣きする鈴の頭を抱きかかえるように頬を当て、背中をさすりながら俺はあの屋上で感じた時のように、懐かしい空気を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっど、死んだっで、お、思っで……」

 

 

 

 言葉にならない程に泣きじゃくる鈴の頬をつたう涙を右手の親指で拭い、空いている左手で頭を撫でてやる。鈴は目を閉じ、落ち着きを取り戻しながら、俺の手の温もりを感じているかのような表情を見せ始めた。

 

 

 

「(……ティーナ、茜)」

「(分かってるわ)」

「(任せてください!!)」

 

 

 

 彼女たちは全てを言わなくても分かっている。そんな風に目と目を合わせるだけで意志の疎通ができるのであれば、全てを言葉にする必要なんてないが、多くの場合はそういう訳にはいかない。

 そしてこの場も当然俺はこれから何も知らない鈴に、言葉で話をしなければならないだろう。理解できるように、納得できるように。だが……これ以上誰にも、ティーナや茜のように余計な重荷を背負わしたくはない。

 俺は真実を語らない代償に責任を負う覚悟をする。

 

 

 

「鈴……色々と聞きたい事、知りたい事があると思う。だけど……悪い、何も話せない」

「何でよ!? 何があったのよ! レ――」

 

 

 

 俺は言葉を遮るように人差し指を鈴の艶やかな唇に当てる。ティーナや茜に頼んでいるとはいえ、呼んでほしくない。もう戻ることなんて、帰ることなんて、できないのだから。

 

 

 

「俺は死んだんだ。だから俺は……今の俺は『黒神京夜』なんだ……」

 

 

 

 俺の発言に、再び瞳が潤いだす鈴。俺の言葉に拒絶を感じたのだろう。

 俺はそのまま続ける。

 

 

 

「だけど……話せないけど……鈴は俺が守るから。昔みたいに鈴が泣いていたら何処からでも駆けつけるって約束するから。だから――」

 

 

 

 俺は鈴を抱きしめる。力強くではなく、優しく温かに。拒絶すれば振りほどける程の強さで。

 

 

 

「……それで許してもらないかな?」

 

 

 

 それに答えるかのように、鈴は俺を抱きしめ返してくる。優しくではなく、力強く。離れたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる程の強さで。

 

 

 

「……絶対、だからね。……もう何処にも……行かないでよ……」

 

 

 

 俺もまた、鈴の言葉に抱きしめる力を強くする。それに対して答えるかのように。

 そのまましばらくして、鈴は安らかな寝息を立て始めた。泣き疲れたのだろう。安心したのだろう。俺は寝てしまった鈴を抱きかかえて、彼女の部屋まで送り届けた。

 その帰り道、俺は鈴の言葉を思い出す。

 

 

 

 ――「……何処にも……行かないでよ……」――

 

 

 

 俺の強く抱きしめた両腕から、鈴が受け取ったのはその『約束』だったようだが、俺の伝えるべき気持ちはゴメンという『謝罪』だった。

 俺の未来は、さほど多くの『可能性』を残していない。それは俺がこの道を進むと決めた時、多くの幸せになりうる『可能性』はそぎ落とされたからだ。まるで綱渡りをするかのように、踏み外すことの許されない道の先にある未来でさえ、彼女の願いを叶える結果になる『可能性』は限りなく低いだろう。

 俺が鈴に対してできること、それはこの学園にいる間だけでも笑顔で居られるようにすることだけだ。鈴だけじゃない。箒もセシリアも、そして……一夏も。

 俺の失われた幸せの分だけでも、と決意を胸に俺は部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生?」

 

 

 

 副担任の麻耶の声に、私は目の前の端末ディスプレイに割り込まれたウィンドウを確認し、入室許可を出す。幾分かいつもよりマシな動作で入室してきた麻耶の姿を確認する。

 ここはIS学園の地下50メートル。レベル4権限を持つ限られた人間だけが出入りできる空間だ。学園のシステムの中枢にあたる部分でもある。

 私はここで2時間程、あの所属不明機の戦闘記録を繰り返し見ていた。黒神が凰を庇い、一夏がとどめを刺したあのISの映像を。

 麻耶は私の前に立ち、報告に入る。

 

 

 

「あのISの解析結果が出ましたよ」

「ああ。どうだった」

「はい。あれは――無人機です」

 

 

 

 人間が乗っていなかったこと自体はさほど驚く話ではない。あの動きを見ればそれは一目瞭然だったからだ。一夏や凰、そして黒神もそれに気付いていたからこそ、あの全力攻撃だったのだろうからな。

 だが問題なのは、現時点で世界中のどの国も『IS無人化』という技術を完成させていないということだ。つまり『遠隔操作(リモート・コントロール)』か『独立稼働(スタンド・アローン)』があのISには組み込まれていたという事実。これは世界にどれ程の影響を与えるか計り知れない。学園側もそれを考慮し、厳重な緘口令を敷いていた。

 

 

 

「コアの方はどうだった?」

「……それが、登録されていないコアでした」

「そうか……やはりな……」

 

 

 

 私の発言に、怪訝な表情を浮かべる麻耶。

 

 

 

「何か心当たりがあるんですか?」

「いや、ない。今はまだ――な」

 

 

 

 そう言って、私はディスプレイへと視線を戻す。何か言いたそうな、聞きたそうな雰囲気を醸し出していた麻耶だったが、何も言わず退室した。恐らく隣に運び込まれた不明機の残骸のさらなる精密解析を行うのだろう。

 目の前にあるディスプレイに映る所属不明機。操縦者が学生とはいえ、現在の最新鋭の機体2機を相手にたった1機で圧倒する脅威の性能。未だ世界各国が到達していない領域の技術。そして未登録のコア。確信はないが……間違いなく……

 溜息をつきながら、先程まで飲んでいたコーヒーに口をつける。生温い黒い液体の程良いに苦みを味わいながら、私はとある人物のことを思い出していた。

 恐らく、今回の騒動の張本人はアイツだろう。まったく、一体何を考えているんだアイツは。

 幾つか考えられる理由はあるが……正直、それ以上は考えるだけ無駄だろうな。

 私はキーを叩く。すると先程まで所属不明機中心に流れていた映像が切り替わり、それに対して応戦するある1機のIS中心の映像となった。それは一夏の『白式』でなく、中国の最新鋭ではなく、このIS学園の生徒であれば誰しもが触れる、触れたことのある機体だ。そしてそれを纏った操縦者の姿を怪訝な眼差しで見つめる。

 世界で2番目の男性操縦者……『黒神京夜』……

 先日のクラス代表決定戦の時といい、今日の騒動の時といい、何かと違和感を感じる。その動きに何か意図的なものすら感じる程だ。

 コイツも謎に包まれている部分が多い。突如として現れた2番目。国際IS委員会が発見し、このIS学園へ送り込まれた一夏と同い年の男性操縦者。

 だが一夏とは異なり、世界にその存在が公表されていない。IS委員会が発見してきたのにも関わらずだ。そして何より不可解なのはその存在を公表する意志も、非公表としたい意志も見えないことだ。つまり世界に対して、()()()()()()()()()()()()()()という姿勢。これはIS委員会の何らかの策略なのか……それとも……

 少し調べてみる必要がありそうだな、素性も含めて。受け取った資料では日本の片田舎の出とはなっているが……それもどうだかな。

 私は部屋を出て、地上へ上がるエレベーターに乗り込み、一夏たちの元へと足を運ぶ。緊急事態だったとはいえ、あのバカ共には現在反省文を書かせている最中だ。

 確かに気になることは多々あるが、私は軍人でもなければ、もうIS操縦者でもない。このIS学園の教師だ。生徒たちのこれから先の未来の為に、身を粉にして働くと心に誓ったのだ。だから私は……

 そんな決意を胸に、私は生徒の待つ教室に戻った。

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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