インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
俺が出会うまで、あと23分47秒。
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRをはじめますよー」
真ん中&最前列の席に座る俺、
「それでは皆さん、1年間よろしくお願いしますね」
……へんじがない。ただのしかばねのようだ。
変な緊張感に包まれた教室は沈黙が支配していた。その雰囲気に狼狽える山田先生。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
可哀想な山田先生に多少の同情は感じるが、正直それどころではない。寧ろ俺に同情してもらいたい。
何故なら、俺以外のクラスメイトが全員女子だからだ。
俺が同志と出会うまであと、19分22秒。
クラスに男1人というのは想像以上にキツい。クラスメイトほぼ全員からの視線を背中に感じる。多くの視線は、殺気が籠もっていなくても人を殺せるのではないか? 言い過ぎだとしてもノイローゼになる3歩手前だ。
救いを求めて窓際に目をやる。そこには幼馴染である
「……くん。織斑一夏くんっ」
「は、はい!?」
大声で名前を呼ばれて思わず声が裏返ってしまった。クスクスと笑い声。女性に対して苦手意識はないものの、その反応でノイローゼ2歩手前だ。
「あっ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」
山田先生が涙目になりながらペコペコと頭を下げていた。
「いや、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」
「ほ、本当? 本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」
俺の手を取って熱心に詰め寄る山田先生。いや、先生? これ以上先生に謝られると俺のクラスでの立ち位置がさらに悪い方向へ行きそうですよ? ほら注目もさらに酷く。ノイローゼ1歩手前です。あと1歩で試合終了ですよ?
しかしすると言った以上、引く訳にはいかない。今の世の中では珍しいと言われがちではあるが『男として』引く訳にはいかない。それにこの環境で生きていく為にも最初が肝心だ。
しっかりと立って、後ろを振り向く。背中に向けられていた視線が俺の顔に集まっている。まるで動物園のパンダにでもなった気分だ。アイツらはよく正気を保っていられると感心する。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
儀礼的に頭を下げて、上げる。当たり障りのない、特段面白くもない自己紹介ではあると自分でも思うが問題ないだろう。
問題……ないだろう? えっ、なんですかその視線は。終わりですよこれで。もう座りますよ?
しかしこの時、俺は初めて知った。視線は相手の行動をも制限できることに。その視線に俺は未だ座れずにいた。
というか、何で俺はここにいるんだー?
俺が親友と出会うまであと、15分39秒。
そもそも、事との発端は2月のこと。受験生である俺は私立藍越学園を受験するべく、受験会場へ向かっていた。本当は中学を出たらすぐに働きたかったけど、姉である織斑千冬こと千冬姉の暴力的反対には勝てず、学園の関連企業への就職ケアまでしてくれる家から1番近い藍越学園を受験することに決めた。
昨年起きたカンニング事件のせいで受験会場を2日前に通知するという政府のお達しがあり、4駅先の多目的ホールが俺の受験会場だ。
そこで……俺……迷子になる。
いやね、マジ迷路だよこれ。誰だって迷子になるよ? だからしょうがないんだよ。
そんな言い訳を自分にしながら近くのドアを開けた。大体これで正解だよ俺は。
そこにいた30代後半であろう女性教師に向こうで着替えるようにと言われる。今日日の受験は着替えまでするのか? ああカンニング対策か。
そんな、今にして思えばありえない馬鹿な思考をしてカーテンを開けたのが間違いその①だった。
そこには『お城に飾ってある中世の鎧』が鎮座していた。いや鎧というか人型に近いカタチをした『何か』だ。
そう、そこにはなぜか『IS』が置いてあったのだ。
しかし男である俺からしてみればこの鎧、この機械はマネキンと同じ。ただの物体だ。そう思って何気なく触ってしまったのが間違いその②だった。
「!?」
キンッと金属音が響く。
その瞬間、意識の中に直接流れ込んでくる夥しい数の情報。『IS』の基本動作から活動限界に至るまで。
次の瞬間、肌の上に直接何かが広がっていく感覚。『IS』が自身の周りに展開され、手足のように動かせる。
世界初の男性操縦者誕生の瞬間だった。
そして間違いその③はその瞬間を第三者に見られてしまったことだった。
あれよあれよという間に『世界で唯一ISを使える男』として世界的なニュースとなり、一躍時の人に。そして日本政府から保護という名目でIS学園へ強制入学、今に至るというわけだ。
俺が共犯者と出会うまであと、14分10秒。
やばい、ちょっと昔話へトリップしてしまった。約1分の間に自己紹介の期待値はうなぎのぼりだ。このままではマズイ。ここで黙ったままだと『暗いヤツ』のレッテルを貼られてしまう。
箒のヤツはしばらくこちらを向いていたが、またボーッと窓の方を向いている。薄情者め。
俺は深呼吸をして思い切って口にした。こういう時も大体これで正解なんだよ俺は。
「以上です」
がたたっ、思わずズっこける女子が数名。気持ちは分かる。約1分程待たされてそれだけかよ! ってことだろう。
パアンッ! そんな俺に強烈なツッコミが頭部を襲う。
「いっ――――!?」
恐る恐る振り向く。その尋常ではない破壊力を持った、そしてとても慣れた叩き方には叩かれ覚えがあった。
そこには黒のスーツにタイトスカート姿のスタイルの良い女性が立っていた。しかし全身を覆うオーラと目つきはまるで獣そのもの。
「げぇっ、関羽!?」
パアンッ! 第二波炸裂。あまりの音に周りが若干引いてる。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
トーン低めの声。そこにいたのは我が姉、千冬姉だった。
俺が宿敵と出会うまで、あと13分43秒。
あれ、なんでここに千冬姉がいるんだ? 月に1、2回程しか家に帰ってこない職業不詳の実姉は。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田先生。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
俺が聞いたこともない優しい声で山田先生と話をしている。えっ、先生? 千冬姉って先生だったの? ってことはもしかして担任の先生って……
「諸君、私が織斑 千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。できない者にはできるまで指導してやる。私の仕事は弱冠15才を16才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
さすがは我が姉。もうその発言は教師ではなく独裁者ですよ? さぞかし周りの女子たちは顔が引きつっていることだろう。
「キャ――――! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様の為なら死ねます!」
そんな心配は無用のようだ。先程までこの教室を支配下に置いていた沈黙様が退陣し、黄色い声援が響いている。千冬様って。お姉様って。遠路はるばるご苦労様ですが、皆さん頭大丈夫でしょうか。
「……毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
ポーズでなく本当に鬱陶しがっている我が姉。「いつまでもあると思うな人気と仕事」って言葉があるくらいなんだし、もうちょっと優しく……
「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」
「でも時に優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾して~!」
どうやらここはSM館でもあるようだ。俺にそういう趣味はないので、今後このクラスでやっていけるかとても心配だ。
「で? 挨拶も満足にできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は――」
パアンッ! 第三波炸裂。俺の脳細胞が心配です。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
――と、このやりとりで姉弟であることが教室中にバレた。
「え……織斑くんって、あの千冬様の弟……?」
「ああっ、いいなぁっ。代わって欲しいなぁっ」
代わったらそれはそれで大変だよ? 既に俺の脳細胞は大変なことになってるし。
俺が無知と出会うまで、あと51秒。
「諸君、ここでもう1人このクラスの仲間を紹介する。おい、黒神! 入ってこい!」
クラスメイト全員の自己紹介が終わった後に千冬姉が言う。そういえば1番後ろの窓際の席が空いていたな。入学早々の重役出勤とは大した女子もいたもんだ。百合全開な女子より仲良くなれるかもしれないな。
しかしこの期待は、良い意味で裏切られることになる。
俺が可能性と出会うまで、あと12秒。
この時、俺は知らなかった。この出会いが人生の別の可能性となることに。
俺が運命と出会うまで、あと3秒。
この時、俺は気付かなかった。この出会いによって運命が動き出したことに。
俺が出会うまで、あと……
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