インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
試合開始のアナウンスと同時にビーッと鳴り響くブザー。その音が切れる瞬間に、俺と鈴は互いに間合いを詰める。
その動きと同時に湧く場内。ワァーという歓声の中には俺を応援してくれる声も聞こえてくる。
ガギィン!!
瞬時に展開した【雪片弐型】が物理的な衝撃を受ける。
激しい鍔迫り合い。その後、鈴の青竜刀と呼ぶにはかけ離れた異形のブレード【双天牙月】の重みに競り負けて、俺は後方へ弾き飛ばされた。その衝撃で体勢を崩すも、セシリアに教わった
「ふうん。初撃を防ぐなんてやるじゃない、一夏」
「まぁ――な!!」
鈴の少し上から目線の発言に、俺は大した返事も返さず再び接近する。その動きに鈴も、まるでバトンでも扱うかのように両端に刃のついたブレードを回して迎撃態勢を取ってきた。
――「初手は接近。とにかく間合いを詰めて近接戦闘。間違いなく凰さんは一夏が詰めてくれば迎え撃ってくる。そこで必ず優位に立つこと」――
京夜が立ててくれた作戦を頭の中で確認する。
縦横斜めと高速回転しつつ、自在に角度を変えてくる鈴の攻撃を、俺は掻い潜りながら斬撃を放っていく。
重量ある鈴のブレードに比べて俺の【雪片弐型】は軽量で細身の刀。相手の攻撃をいなすか避けて、とにかく手数で勝負だ。
箒に特訓してもらったおかげと言える俺の攻撃は、徐々に鈴のシールドエネルギーを削り始める。
「ちっ!」
劣勢を感じたのだろう。鈴は後方に下がり距離を取る。その動きに俺はさらに詰め寄る。
すると鈴がニヤリと笑い顔。刺々しい肩アーマーがパカッとスライドして開いた。まずい! アレが来る!
俺は急停止、そして右方向へ平行移動する。鈴の開かれた肩アーマーの中心の球体が光った瞬間、見えない何かが俺の左側を通り過ぎた。
「へぇ。まさか【龍咆】を初見で躱すなんて……。随分と勉強してるみたいじゃない」
鈴の言葉を聞きながら、俺はシールドエネルギーの減少を確認する。どうやら完全には躱し切れておらず、少し掠ったようだ。やはりハイパーセンサーからの情報だけでは回避は難しそうだな。だが――
「もう負けるわけにはいかないからな!」
普通に考えれば歴然とも言える差を埋める為に、できる限りの特訓をしてきたつもりだ。後は何にも負けないこの気持ちを武器に絶対勝ってみせる!!
◇
「もう! なんで当たんないのよ!!!」
それから数分間。俺は鈴の繰り出してくる衝撃砲からの攻撃をただひたすら躱し続けていた。
先程とは違い、俺は鈴を中心にまるで円を、球を描くように近づかず離れず一定の距離を保ちながら上下左右、縦横無尽に飛び回り続けている。
回避し続けることができているこの現実に、俺は京夜の凄さを実感しつつ、地獄の特訓を思い出していた。
「はぁはぁ……こ、こんなんで、ほ、本当に躱せるのか?」
「まぁな」
放課後の特訓の最中。息切れ酷い俺の問いに、京夜は腕組みを崩して右手を顎に当てながら答える。セシリアもそうだが、京夜もポーズが様になってるよな~。仕草もそうだが、背が高くて佇まいが本当にカッコいい。憧れちまう。
それはさておき、京夜の考えてくれた特訓はこうだ。セシリアに協力してもらい、彼女の周りを一定距離保ちながらレーザーライフルでの攻撃を躱し続けるというもの。飛行速度に緩急をつけつつ、急加速、急停止、方向転換を繰り返す。そうやってとにかく変化をつけて止まらずに動き続けることが大事らしい。
「凰さんが代表候補生になったのは昨年の4月のようだが、専用機『甲龍』を授与されたのは今年に入ってからだ。搭乗時間はさほど長くない。それ故にまだ衝撃砲を完全に使いこなせておらず、現状では砲身射角無限というメリットを生かし切れていない」
ふむふむと頷く俺を見つつ、京夜は続ける。
「これなら砲身や砲弾が見えなくても、彼女の正面に位置取らないよう動き続ければ回避できるだろう。あくまで現段階ではだがな……」
あくまで現段階、絶対の保証はないとは言っていたがあの特訓は、この試合の中で直撃ゼロというこれ以上ない結果を生んでいた。京夜サマサマと言ったところだ。
俺は鈴の衝撃砲から繰り出される嵐のような攻撃を躱しつつ、再び作戦を思い出す。
――「近接戦闘では一夏に分があると認識させることができれば、間違いなく彼女は後方へ距離を取り、衝撃砲で攻撃してくる。そこで特訓で身に付けた回避行動を取り続けるんだ。そうすれば――」――
「あぁぁん!! もう!!」
――「性格的に彼女は焦れて、再び接近してくるだろう。今度は近接・中距離攻撃を織り交ぜた形を取ってくるはずだ」――
実は未来人なんじゃないかと疑ってしまう程だな、京夜の読みは。鈴は再びバトンのように両刃青竜刀を回したかと思えば、加速してこちらに接近してきた。
ココだ!! 俺は停止し、向かってくる鈴へ方向転換する。そして――
「うぉぉぉっ!!」
「!?」
俺は特訓中に身に付けたもう1つの技術である『
――「焦れて再接近してきた彼女の初撃は、大振りの逆袈裟になるはずだ。そこで一夏は隙だらけの右薙へ斬撃を放ち、その一撃で決める。『零落白夜』の最大出力、さらに互いに速度が乗っている状態ならば、ほぼ間違いなく一撃でシールドエネルギーを0にできるはずだ」――
ここまで京夜にお膳立てしてもらっておいて決められないとか、そんなの男が廃るってもんだ! 絶対決めてや――
ズドオオオオンッ!!!
「「!?」」
完全に虚を衝いた俺の一撃が鈴の右胴に届きそうになった瞬間、轟音と共にアリーナに衝撃が走った。動きを止めた俺たちは辺りを見渡す。するとアリーナ中央から凄まじい煙が立ち上っていた。どうやら安全の為にアリーナ全体に張り巡らされている遮断シールドを貫通して、頭上から何かが降ってきたようだ。
「な、なんだ? 何が起こって……」
「一夏、試合は中止よ! すぐにピット戻って!」
鈴からのプライベートチャネルとほぼ同時に、ハイパーセンサーからの緊急通告が耳に入る。
――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。
「なっ――」
ハイパーセンサーからの情報に、俺は動揺する。
アリーナに乱入してきたのは正体不明のIS。そのISは先程遮断シールドを貫通してきた。ISのシールドバリアーと同じもので作られている遮断シールドを。それ程の攻撃力を持ったISにロックされている。これはマズイ!
次の瞬間、煙の中からの複数の光線が放たれる。その一つがアリーナの壁に直撃し、爆煙を上げた。目の前で起きた現実と、ハイパーセンサーの情報から、セシリアのレーザーライフルより遥かに出力の高いビーム兵器であることを認識し、戦慄が走る。
俺と鈴はそれを回避しつつ、アリーナ中央の煙が晴れて現したその異形ともいえる姿に釘付けになっていた。
2メートル近い巨体。合計4つのビーム砲台が装備されている両腕は異常に長く、つま先より下まで伸びている。首と頭が同化したような独特のフォルム。普通ではない数のスラスター口に、頭部の不規則に並ぶ剥き出しのセンサーレンズ。
そして何よりも特徴的、特異的とも言えるのが『
「お前、何者だよ」
「…………」
無駄とは分かっていても聞かずにはいられなかった俺の問いに当然、謎の侵入者は何も答えない。そして当然、その目的も分からない。
「織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」
割り込んできたのは、いつもより声に威厳を感じる山田先生だ。
確かに山田先生の言う通り、何もせず、すぐにこの場から離脱することは俺たちの身を守る最善の選択肢ではあるだろう。だが――
「――いや、先生たちが来るまで俺たちで食い止めます」
身が守られるのは俺たちだけで、観客席にいた人間に被害が及ぶ可能性は否定できない。誰かがアイツの相手をする必要がある。
「いいな、鈴」
「当然。誰に言ってんのよ」
俺の提案に、笑顔で答える鈴。自信満々な顔つきに頼もしさを感じる。
「織斑くん!? だ、ダメですよ! 生徒さんにもしものことからあったら――」
山田先生の制止の言葉も途中までしか聞けなかった。俺は地上にいた敵ISの突進攻撃を受けていたからだ。相手の動きに集中し、なんとか掠りもせずに回避する。
体勢を立て直した俺は、上を見上げて敵ISの動きを観察しつつ、鈴に近づく。
「向こうはやる気満々みたいね」
「みたいだな」
互いの背中を守るかのように、背を合わせてそれぞれの獲物を構える。
「一夏、あたしが衝撃砲で援護するから突っ込みなさいよ。武器、それしかないんでしょ?」
「その通りだ。じゃあ、それでいくか」
俺と鈴は視線を合わせることなく、即席コンビとは思えない程に息の合ったタイミングで飛び出した。
◇
所属不明機が侵入してきた直後、箒たちと観覧席にいた俺は席を立ち、我先にと出口に押し寄せる混乱状態の生徒たちの波に逆らうように反対方向へ走っていた。
ゴォォォン、という音と共に地響きが走る。俺はその揺れにも体勢を崩さず、一直線にAピットへ続く道を突き進む。
警報が鳴り響き、赤い光で照らされている通路は、この状況が非常事態であることを物語っている。
「(その後はどうだ? ティーナ)」
「(ダメね。7分前の出現座標には何もないわ。レーダーでも映像でも確認できない。完全なステルスね)」
ティーナは淡々と語る。俺もそれを当たり前の如く受け止める。互いに想定内であることによる余裕でもあるが、この程度の事は冷静さを失うような事態ではない。
「(学園側の方はどうだ? 茜)」
「(遮断シールド、レベル4へ移行。アリーナ内ドア、オールロック確認。間違いなく外部からシステムを掌握されています)」
その証拠と言わんばかりに俺の目に映るのは、建物内から脱出できずに扉周辺に群がっている生徒たちだ。学園側のシステムクラックには物理的破壊も含めてまだ相当時間が掛かるだろう。
「(学園側からトレースしろ、ティーナ。だが無理はするな。可能な限りで構わない。第一優先は感付かれないことだ)」
「(わかったわ。それにしても……)」
「(ああ、間違いないだろうな)」
世界各国の軍事衛星350基以上の包囲網を掻い潜ることのできるステルスシステム。掌握されるまで学園側に一切気付かれていないシステムハック。そして遮断シールドを突き破る程の攻撃力を持ったあの機体。その事実に疑う余地は微塵も入り込む隙間はないだろう。
「京夜!」
「京夜さん!」
俺は呼ぶ声に立ち止まり、後ろを振り返る。逃げ惑う生徒の中、同じようにその波を掻い潜りながら姿を現したのは箒とセシリア。どうやら俺を追いかけてきたようだ。
「どちらへ行かれますの?」
「2人を助けに行くつもりだろう?」
セシリアの問いに答える間もなく俺の考えを口にする箒。肯定も否定もしない俺に2人は確信めいた目で見つめてくる。この状況でのこの行動は流石にバレバレか。
俺にも当然2人の考えが分かっていた。口にしなくてもその顔、その瞳が語るのは間違いなく俺を同じ思いだろう。
そして何よりこの2人は何を言っても決して引かないだろう。俺が覚悟し、背負うしかない。
「……反省文50枚は間違いないぞ?」
溜息1つ吐いた後の、俺の最後の忠告に無言で頷く2人。やはり意志は固そうだ。
俺は数秒、目を閉じて思考する。箒とセシリアを交えたシミュレーションを脳内に展開、そして茜に指示を出す。
茜からの完了報告を得た俺は制服のズボンのポケットから小型携帯端末を取り出す。その端末のホログラムディスプレイに映し出されたのはこの第2アリーナの立体案内図だ。3階のBピット真上に位置する扉の場所が赤く点滅している。
「セシリアはここへ。そこだけは外への扉が開くようになっているはずだ。到着後、ISを展開し待機。狙撃に備えてくれ。指示はこちらから出す」
「わかりましたわ!」
言って、すぐさま来た道を戻るかのように180度反対方向へ走りだすセシリア。頼むぞ、と声をかけると、短いながらも嬉しそうな返事を1つ返してきた。
彼女は代表候補生だ。戦闘訓練も相当受けているはず。それに今回は主に遠距離からの支援だし、危険が及ぶようなことはないだろう。
「さて……」
今は時間のない状況。俺はセシリアと同様、端末に案内図を表示しながら箒に作戦を説明する。それを聞く箒は表情一つ崩さずに頷く。
正直なことを言えば、あまり気の進まないプランだ。セシリアは、この事態を収拾する為に一翼を担ってもらう役どころだが、箒はむしろ……次へ繋げる為の布石としての意味合いが強い。
そんな利己的な思考による作戦で、箒を危険に晒すことに躊躇いがないと言えば嘘になるが……俺には成し遂げなければならないことがある。
「……危険なことをさせてすまない。だが……」
俺は箒の手を握り、顔を見つめる。ビクッとなりつつも箒もまた俺を見つめ返してきた。
「お前のことは、俺が命を賭けても守ってみせる」
「!!!……ああ!!」
俺の決意が伝わったのだろう。少し頬に赤みが差しつつも、とても嬉しそうな笑顔を見せる箒。信頼してくれていることが伝わってくるそんな箒の顔に、俺は嬉しい感情が生まれる半面、締め付けられるような気持ちだった。いつかきっとこの笑顔を見ることができなくなる日が来るのだろう。俺を蔑み、憐れみ、嫌悪の眼差しを向ける日が来るのだろう。
だが俺もまた笑顔で答える。さっきの言葉に嘘偽りはないのだから。今も昔も、そしてこの先も。自己満足になってしまっても、拒絶されてしまうことになったとしても、絶対守ってみせる。
共に走りだした俺たちはつきあたりのT字路で別れて互いに反対方向へ駆け出す。
数秒、前に進んだ俺はふと振り返る。その先には躊躇など微塵も感じられない後ろ姿の箒が徐々に小さくなっていくのが見えた。
そんな箒を見つめながら俺は、自身で背負うと決めた覚悟の重みを再度認識し、心に刻む。そして振り返り、走り出すのだった。
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