インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第12話 俺もそばにいるから

 

 

 

 サアアアア……。

 

 

 

 シャワーノズルから噴き出す熱めのお湯を、肩口から胸元へ浴びて汗を洗い流す。体中にじんわりと掻いた汗は、動き回ったから出た清々しい汗じゃない。冷や汗に近い、嫌な汗。

 ピットに戻った後、すぐ部屋に戻ってシャワーを浴びている。汗と共にこの気持ちも洗い流してしまいたかったから。

 シャワーノズルの真下、正面に掛けられた鏡に目を移す。湯気で曇った鏡を手で拭くと、そこには当然わたくし、セシリア・オルコットの顔が見える。自分でも思う程、複雑な表情をしている。

 自分の体に視線を落とす。シャワーノズルからのお湯が、肌に当ってボディラインをなぞるように流れていく。均整のとれた体、綺麗な脚線美、少し慎ましやかにも感じる胸、キメの細かい白い肌。何一つ変わらない、いつも通りの自分。

 再び鏡に映る自分の顔を見る。だがそこに映る自分はいつも通りではなかった。理由は分かっている。先程の試合以降、頭から離れないことがあるからだ。

 クラス代表を決める代表決定戦。わたくしは1人の男に勝ち、……1人の男に負けた。

 

 

 

 わたくしが勝った男、――織斑、一夏。

 

 

 

 どうしていきなり彼のシールドエネルギーがゼロになったのかは未だに分からない。けれど、あの最後の一撃が当たっていたら、どうなっていたかは分からない。勝つには勝ったものの、腑に落ちない気持ちでいっぱいだった。

 けれど、あの他者に媚びることのない眼差し。強い瞳。そして、試合中に語った彼の決意。あの強固な意志の強さに、少なからず感心した。こんな男もいるのかと。彼に対する印象はさほど悪くないものへとなっている。

 

 

 

 そして……わたくしが負けた男、――黒神、京夜。

 

 

 

 いつもの彼の態度や言動、たまに長い前髪の隙間からレンズ越しに見える彼の瞳はある一人の男の人を連想させる。

 それはわたくしの父のこと。名家に婿入りした父。母に引け目を感じていたのか、母の顔色ばかりをうかがっている人だった。そしてISが発表されてから父の態度はますます弱くなったと感じていた。

 逆に母は強い人だった。女尊男卑社会以前から女性でありながらいくつもの会社を経営し、成功を収めた人だった。厳しい人だった。憧れの人だった。そんな母がなぜ父と結婚したのか分からなかった。いつも傍らに父を連れ立っていた母の気持ちは理解できなかった。

 だが、全ては過去のこと。両親はもういない。3年前に、事故で他界した。

 母の経営する会社が出資していたIS関連企業の開発施設で実験中、謎の爆発事故。視察に来ていた両親は巻き込まれた。

 陰謀説もささやかれたが、どうでもよかった。それがなんであれ、両親は帰って来ないのだから。

 手元に残った莫大な遺産を金の亡者から守る為、あらゆる勉強をした。その一環で受けたIS適性テストでA+が出た。政府から国籍保持の為に様々な好条件を出された。両親の遺産を守る為、即断した。そして……

 

 

 

 わたくしはイギリス代表候補生に任命された。

 

 

 

 与えられた機体は中距離射撃型『ブルー・ティアーズ』。第三世代兵器である『BT兵器』が搭載されている。それは……あの両親を失った爆発事故で開発していたものだった。

 

 

 

 因果を感じた。宿命を感じた。使命を感じた。わたくしは今まで以上に勉強に、訓練に励んだ。さらなる知識や戦闘経験値を得る為に日本のIS学園に入学を決めた。

 

 

 

 そして出会った。黒神、京夜に。

 

 

 

 先程の試合での彼はいつもとは全く違っていた。特に最後に詰め寄られた時の彼の瞳は、普段とは違うギャップもあったかもしれないが、とても強い意志が垣間見え、そして何より深い瞳をしていた。わたくしはそんな瞳をした彼に負けた。父と同じ瞳をしていた彼に……負けた。

 だからだろうか。今まで思わなかった、思いもしなかったこと今思う。父もまた、その心には強い意志を宿していたのはないだろうかと。そして思い出す。心のどこかで思わないようにしていたことを。否定していたことを。

 わたくしは……父が、優しい父が大好きだった。

 いつしか男というものはそういうものと植えつけられた常識のせいで、父を毛嫌いするようになった。この女尊男卑という変わってしまった『世界の常識』のせいで。いや、そうじゃない……

 

 

 

 変わってしまったのは『わたくしの心』だった。

 

 

 

 たとえ世界がどうであれ、自分の気持ちに自信をもっていれば、変わらずに父のことを見ることができていたはずだ。流されて変わってしまったのは紛れもなく自分の弱さなのだから。

 それも過去のこと。両親はもういない。父への感情を再認識しても、伝えることも、もうできない。だからこの話ももうおしまい。

 

 

 

 わたくしは、努力して、勝ち続けて、未来を掴むしかないのだから。

 

 

 

 心に自分なりの整理をつけて気を引き締める。この後、彼と一度対峙しなければならないのだから。先生から聞いたあの話が本当なら……わたくしは……

 決意を胸に見た鏡に映る自分の顔もまた、やはりいつも通りとは言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻はそろそろ夜11時を回ろうかという所。俺はシャワーを浴びて夕食、その後部屋でまったりのいつものコース。代表決定戦で痛めた左肩の痛みはいまだ引かないものの、普段の生活には支障はない。今日は色々あって疲れたし、もう寝ようかねぇと思っていたのだが突如、無性にコーラを飲みたくなった。俺はパンツ一丁の変態サイボーグの生まれ変わりかもしれないな。

 そんなことを独り言のようにつぶやいたら、隣のベッドで本を読んでいた箒に「そうかもしれないな」と冷たい顔で言われた。真剣に返されていたとしても、適当に返されていたとしても、その発言はちょっとしたボディブローだった。さっきはあんなに心配した顔をしていたのに。女は本当に現金だなと思い知らされた気がした。

 そんな俺は部屋の冷蔵庫にコーラがなかったので、食堂の自動販売機へ買いに出る。ちなみに、箒と俺の愛の巣にある冷蔵庫の名前は……まだない。「私も使うんだから、変な名前をつけるな」と言われたからだ。俺の持ち物ではないから強く言えない。

 自販機でコーラを買って部屋へ戻る途中、本日会いたくない人ランキング1位の彼女を見つけてしまい、目が合ってしまった。俺が負かした女子であるオルコットさんだ。遠目だったので俺を無視するかと思ったが、彼女は真っ直ぐに俺に向かって歩いて来る。彼女の目線は、俺にロックオンってカンジだ。美人系の彼女にそんな目で見つめられたら……ってなる所なのだが、箒並みに眉間にしわが寄っている。どうしよう。面倒な気配がする。俺の面倒アンテナがビンビン反応している。

 

 

 

「(父さん! 面倒な妖気です!)」

「(おい、キタロー!)」

「(えっと……あの……私……どうしたら……)」

 

 

 

 まだまだだな茜。そこは「いつから妖怪大戦争になったのですか!?」とかツッコんでくれないと! まぁそのツッコミも上手いかどうかは分からないがな。ここでのツッコミはこれだろっていうツッコミに自信のある方、ご連絡ください。ベストツッコミアワード開催は間近です。お急ぎを。

 そこまで体重はないだろうに地響きが起きそうな程、踏みしめるような足どりで俺の前に立つオルコットさん。回れ右してダッシュしたらダメだろうか。とりあえず、人として挨拶はしておこうか。

 

 

 

「どうも、こんばんは」

「ええ、こんばんは。体の方は大丈夫ですの?」

 

 

 

 俺の体を気遣う発言。今まで男の俺のことを気にかけるようなことなんて一度もなかったのに。この後に話す内容の大きさが想像できるな。やべぇ面倒くさ臭が漂ってきた。この臭いに効く消臭剤とかないもんだろうか。ネットでダース購入するね。間違いなく。

 

 

 

「まぁちょっとは痛むけど、大したことないよ」

「そうですか……」

 

 

 

 少し痛む肩を回す俺の姿を見て、ホッと安心したような表情はしない。そりゃそうだ。話のキッカケに過ぎないのだろうからな。やっぱりここは「三十六計逃げるに如かず」。中国古代の兵法の一つだ。俺はこの作戦を試みる!!!!

 

 

 

「じゃあ、また……」

「待ってください!! 貴方に、いくつか聞きたいことがありますの!」

 

 

 

 はい、アウト~。いや、分かってはいたよ? けど、何事も挑戦してみないと良い結果は生まれないからさ。

 俺は振り返って逃げようとした体を元に戻して彼女に向き合い、彼女の顔を見る。その表情は苛立ちと憤りと、そして何かしらの覚悟が共存できていないような、見る人が違えば、受ける印象も違うそんな表情だった。恐らくどれも彼女の気持ちなのだろう。

 

 

 

「貴方はなぜ、あのような戦い方をなさったのですの?」

「……あのようなって?」

「山田先生に聞きました。貴方は織斑一夏とわたくしとの試合中はピットにいて、わたくしたちの試合は見ていないと」

「……」

 

 

 

 あの子供先生、余計なことを。口止めはしなかったけどさ。逆恨み的に今後はもう『ヤマヤン』であだ名決定だ! 絶対クラス中に流行らせてやる! 1年1組の愛玩動物に仕立て上げてやる! っと今はそれどころではないな。

 

 

 

「織斑一夏との試合を見ていないのであれば、あのブルー・ティアーズの攻略の仕方は成り立ちません! ということは事前にわたくしの情報を仕入れていたのでしょう!? でしたらもっと戦略を練る時間はあったはずです! あんな奇をてらったような、自らの体を代償とするようなことをせずとも、あれほどの技術をお持ちなら!!」

 

 

 

 少し荒げた声で、若干興奮気味にまくしたてる。あれ程の技術……イグニッション・ブーストのことか。やっぱりバレたか。彼女の目の前で使ったからな。覚悟してはいたことだ。

 それにしても、彼女も流石はイギリス代表候補生ということか。なかなかの洞察力だ。少し侮っていた。やはり彼女も自身の弱点、というか欠点には気付いているということだ。さてどう言い包めようか。

 あの場でした『言い訳』に納得してくれなかった彼女に俺はさらなる『言い訳』を思考していたのだが……俺はその考えを捨てた。彼女の瞳を見て。

 複雑な表情とは違い、彼女のブルーの瞳はまぎれもない『覚悟』の色だった。元は俺が蒔いた種だ。その『覚悟』に『その場しのぎの言い訳』では彼女に対して失礼だ。

 俺は箒の許しは得ていないが、かけていた眼鏡を外して前髪をかきあげる。

 

 

 

「……それを聞くと、今までのプライドとか信念とか、そういったものをへし折ることになるかもしれない。それでも聞く覚悟があるのか、セシリア・オルコット」

「!!!」

 

 

 

 俺の今までとは圧倒的に違う雰囲気に、少し驚きと戸惑いを見せるもそれは一瞬。その強い覚悟は瞳だけでなく、表情が物語る程になっていった。

 

 

 

「はい。あります。わたくしは立ち止まる訳にはいかないのですから」

「……そうか」

 

 

 

 外した眼鏡を胸ポケットに入れた俺は親指で背後の食堂を指さして誘導する。ここで立ち話するような話ではないからだ。彼女からしてみれば、こんな話を誰にも聞かれたくはないだろう。黙って彼女は頷く。

 俺は振り返り、歩き出した。オルコットさんもまた少し距離を置いてついてくる。どうやら、長い夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年生の寮にある食堂での夕食時間は7時まで。部活とか委員会とかあって間に合わないこともあるので、一応8時くらいまでは食事ができる。それ以降は料理を作ってくれているおばちゃんたちが片づけに入り、そのおばちゃんたちも9時までには終わらせて帰ってしまう。今の時間帯ではもう誰もいない。ところどころにある間接照明が食堂を真っ暗にしない程度の明るさを保っている。

 俺は彼女を入り口付近に待たせて少し奥にある自動販売機へと足を運ぶ。ここの自販機設備は結構充実しており、ドリンク類はもちろん、カップラーメンなんかもある。売店も別にあるのだが、そちらもこの時間には終わっているので、喉が渇いた時やちょっと小腹がすいた時はここで補えるのだ。

 俺は小銭を入れてミルクティーを購入する。正直、自販機で購入したドリンクなんて口に合わないとか言われそうではあるが、他にないのでしょうがない。イギリス人だからミルクティーだ。安易かもしれんがな。

 俺はそれを持って彼女の所へ戻る。先程買ったドリンクを渡して窓際のカウンター席へと向かった。間接照明の真下なので丁度いいだろう。

 彼女を先に座らせて、俺もその隣に座る。

 そこから少しの沈黙。時間にすれば30秒程ではあったが、それ以上に長く感じられた時間であった。俺はその間に……

 

 

 

「(ティーナ、頼む。茜はフォローを。……ゴメンな、茜)」

「(りょーかい。まかせて)」

「(は、はい。大丈夫です、頑張ります! だから気にしないでください。全部聞いて納得した上で、一緒にいることにしたんですから)」

「(……ありがとう)」

 

 

 

 俺は外を見渡す。窓の向こうにはIS学園の中庭が見える。とはいっても明かりが外灯しかないので真っ黒な世界が広がっているようにしか見えない。

 俺は中に視線を移す。こちらも暗くてテーブルや椅子がうっすらとしか見えない。食事時なら空いてる席を探すのが一苦労な程、多くの人が集まる場所だ。彼女とも何度か一緒に食事をしたっけな。

 俺はそこから話出すことにした。

 

 

 

「ここで何度か一緒に食事をした時に話していたことと、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットという肩書きと名前を元に、イギリス国内から得られるだけのデータを収集した。戦闘記録から、試合映像まで可能な限り」

「……」

 

 

 

 彼女は顔色一つ、表情一つ変えない。俺が一夏との試合を見ていないことを知っているのでこれは予想していた範疇ということだ。俺はそのまま続ける。

 

 

 

「俺はそのデータを元に分析、解析を行った。パターンや癖、弱点たる部分の洗い出しまで全て。その中で、いくつか疑問に思ったものがあった。それは……」

 

 

 

 俺は決断する。これを言ってしまうと、もう戻れない。『言い訳』もできない。逃げることもできない。面倒になることも分かっている。だけど、俺は言う。

 

 

 

「『なぜ、実弾兵器を実装していないのか』ということと『なぜ、近接戦闘をまるで行わないのか』ということだ」

「!!」

 

 

 

 彼女は驚きを隠せない。動揺が節々に表れている。空けていないミルクティの缶を強めに握りしめる彼女の手は少し震えているようにも見えるが、俺はそれでも続ける。

 

 

 

「レーザー系は確かに強力ではあるが、連射性能は明らかに劣るし、レーザーを阻止するシールド兵装もあるだろう。機体特性を考えると、サブマシンガン等の実弾兵器は戦略の幅を確実に広げるはずだ」

「……わ、わたくしは」

「当然、分かっているはずだ。そして打診もしているのだろう。だが、その要望が応えられていない」

「……」

「そして、お前は追い詰められても、たとえ負けても近接戦闘用の武器を展開しない。以前、現イギリス代表と模擬試合をしたことがあっただろう? その試合、まだ戦える状態ではあったが、お前は降参した。今回の俺と同じような状況で」

「!!」

 

 

 

 そして俺は彼女の『核心』たる部分に触れる。そして俺は彼女の心をへし折る。傍から見れば、高飛車とかプライドが高いとか言われるその心を。

 

 

 

「セシリア・オルコット。お前はイギリス代表候補生だが……第三世代兵器『BT兵器』第一次運用試験者、つまりテストパイロットなのだろう? お前自身の誇りともいうべき『BT兵器』の……な」

 

 

 

 一瞬ではあるが目を見開いて俺を見た彼女は、何かを観念したように一度目を伏せた後、暗闇が広がる世界の見える窓の方を向き、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから彼女は俺に自分自身のことを話し始めた。事故で亡くした両親のこと、そんな自分が『BT兵器』テストパイロットに選ばれたこと、だが所詮データ採取を目的とした実験機のパイロットでしかなく、代表候補生ではあるがあまり期待されている訳ではないこと、色んな物を守る為にも『BT兵器』だけで上り詰めようとする強い決意などなど。

 俺はティーナの集めてきた情報を元にある程度の推測は立っていた。そもそも『BT兵器』は1対多数の戦闘を想定してる軍用向き兵器だ。競技向きの兵装ではない。そして『BT兵器』はまだまだ実戦投入できるレベルのものではないからだ。

 『BT兵器』を扱える人間は少ない。セシリア・オルコットのBTシステム適性はA判定。これは結構稀にみる才能だろう。そして、このBTシステム適性は空間認識能力に大きく関わりがある。

 遠隔攻撃を行うこのシステムは、主に相手の位置を0とした座標空間を脳内に展開する。レーザービットは座標に配置していくのだ。何でもかんでも自由に動かせる訳ではない。そして複数のビットを操ることから動かす位置にはある1つの絶対条件を満たさなければならない。

 その条件は「ビットの射線軸に他のビット、及び自分自身を配置してはいけない」ということだ。簡単に言えば、意識してないと自分のレーザーが自分に当たるよ!?ってことだ。

 その位置を常に計算しながら自由に4つのビットを高速で動かすというのは自身の位置取りも含めた5重並列思考を行わなくてはいけなくなる為、殆ど不可能に近い。そこで彼女はその配置をいくつかのパターンとして持っていたのだ。

 一夏も気付いたであろう「ビットの動きがそれほど複雑ではない」というのはそこだった。つまり、1つのビットを動かす時はそれに合わせて決められた位置に他のビットを動かしているということだ。よって相手からしてみれば自分の動きによって決められたパターンを誘い出し、特定の位置にビットを誘導できる。

 また、ビットを動かしている際に自分自身が動けないのも、そのパターン内に自分の位置を含んでいないからだ。

 さらに言えば、レーザービットとミサイルビットを併用できない。空間座標に位置取りするレーザービットとは違い、ミサイルビットは直接相手にぶつけなければならない。これは脳内では別の処理だ。

 故に『BT兵器』の現段階の完成度では初見には強いが、対策を練られると圧倒的に弱い。パターンが読めれば、幾つかのビットの位置でその他のビットの位置を把握することもできる。

 だが、彼女はそれでも『BT兵器』にこだわっていた。両親の残してくれたものだからだろう。それ故に近接戦闘を行わない。それは彼女の決意の表れだった。

 全てを話した彼女は、少しの沈黙の後にいつもなら絶対にしないあろう発言をする。

 

 

 

「やはり……わたくしには無理なのでしょうか……『ブルー・ティアーズ』では……」

 

 

 

 弱々しい彼女の声。最初は気付かなかったが、彼女のことを調べ上げた俺には分かっていた。彼女の高飛車な態度やあのプライドの高さは彼女の精一杯の『強がり』であったことを。

 今日の代表決定戦。俺が最も意識していた部分は『一夏より俺の評価が低くなるようにすること、目立たないこと』ではあった。だが、それと同時に『彼女が、その強がりを保てるようにすること』ということも意識していた。それ故に左腕を犠牲にしたのだ。「負けたのは、連戦の上、俺の体を気遣ったからで、実力では負けていない」と彼女が思えるように。そんな『()()()』を用意したのだ。まぁ俺が勝つ為に『BT兵器』を落とさなければならなくなったので急遽変更して用意した『言い訳』ではあったことは否定しない。『言い訳』としては弱くなってしまったことも否定しない。

 

 

 

 だから俺は作戦を実行すると決めた時に覚悟した。彼女の強がりを失わせてしまった時、その『()()()()()()』覚悟を。

 

 

 

「そんなことはないさ。オルコットさんも、『ブルー・ティアーズ』もまだまだこれからってだけだ」

「……そうでしょうか……」

「ああ、大丈夫さ。今度、特訓しようぜ。一夏と箒とオルコットさんと俺と、みんなでさ。だから……」

 

 

 

 俺は彼女の頭を軽くなでる。触れるか触れないか分からないくらいに優しく。とても大切にしているものを扱う時のように。

 弱々しくて、いつもとは違った淡いブルーの瞳でこちらを見る彼女に、俺は微笑んで答える。

 

 

 

「もう一人で頑張らなくていい。みんなもいるし、俺もそばにいるから」

 

 

 

 それを聞いた彼女は……泣き崩れてしまった。握りしめてぬるくなってしまったミルクティの缶に頭を乗せるように蹲りながら。俺はそんな彼女の頭を優しく撫でて彼女が落ち着くのを待った。

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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