インフィニット・ストラトス a Inside Story    作:鴉夜

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※誤字、脱字は多いかもしれないです。表現も統一性がないかもしれません。なるべく修正します。ご勘弁ください。

また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)



第10話 俺が覚悟をするだけだ

 

 

「ここは……」

 

 

 

 そこは果てしなく広い場所だった。どこまでも広がっているように見えるのに、囲まれた空間であるようにも感じる不思議な場所だった。

 そこは見渡す限り草原だった。芝生というには少し長い、青々とした草がその大地を埋め尽くしている。だが、一般的に草を「青々とした」と表現したらその色は鮮やかな『緑色』を想像すると思うが、本当に『青色』をしている。『青』というより薄い『水色』の草が生えていた。

 そこから見える空は綺麗な夕焼けだった。鮮やかなグラデーションの空が雲一つなく広がっている。だが、太陽がない。いや、正確には存在している。俺の背中側に。太陽はまるで大地に対して平行方向に移動しているかのように、俺自身が360度回転してもその姿を目で確認することができなかった。

 そんな非日常が広がる世界は現実世界でないことを物語る。

 

 

 

「さて……行くか」

「行きましょう。こっちよ」

 

 

 

 俺はティーナをおんぶして、彼女の指差す方へ歩き始める。

 自分の足で歩けばいいのにと思うが、ティーナはこういう時、必ずと言っていい程にベタベタしてくるというか、くっついてくる。基本的にいつもおんぶ、抱っこ、肩車のいずれか。ちなみにティーナはさほど重くない。データ的にはかなり重いはずなのだけれどね。

 現実には生えないであろう水色の草を踏みながら前に進む。ところどころに1メートル程の高さの若木が植わっている。地面に生える草と同じ水色の葉をつけていた。

 しばらく歩くと、周りの若木とは違い真っ白な葉を付けている高さ10メートル程の大きな木が見えてきた。どうやらあそこのようだ。

 俺とティーナはその木の根元に立つ。よく見るとこの木は葉だけでなく幹までもが白い。見る限り全てが真っ白だった。

 上を見上げると、重なり合って真っ白なキャンパスのようにも見える葉の隙間から鮮やかな夕焼け色が見えた。暖かいとも冷たいとも言えない風に吹かれて葉が1枚、舞い落ちてくる。

 その葉はその木の根と根の間に挟まるかのように足を伸ばして座る少女の頭の上に落ちた。

 

 

 

「やぁ、こんにちは」

「ふぇ!?」

 

 

 

 少女はまるで幽霊でも見たかのような驚いた顔してこちらを向いたかと思えば、凄い勢いで立ち上がり木の陰に隠れる。そして顔だけ出してこっちを見てきた。そのリアクションにサディストの俺は心を激しくくすぐられるが……ここは我慢だ! このイジってください全開オーラ漂う彼女の俺に対する第一印象は大事だからな。

 

 

 

「はじめまして。俺は京夜っていうんだ」

「私は2度目ね。ティーナよ」

 

 

 

 俺とティーナの挨拶に彼女は、臆病な小動物のように体を震わせつつも、木の陰から出て来て俺の前に立つ。

 艶やかな黒髪。肩にかかる程の長さでそよ風に揺れている。キメの細かい白い肌。とても深い紫苑の瞳。薄い桜色の浴衣で黄色の帯、下駄は履いておらず裸足だ。ティーナより少しだけ背が高く、ティーナより遥かに大きい胸をしていた。整った可愛い顔にとてもビクビクした表情を浮かべている。

 

 

 

「あ、あのっ、は、初めましてっ、け、けど、どうして……」

「ああ、そうか」

 

 

 

 彼女が驚いている理由、それはここに誰かが来るのが初めてだからなんだろうな。その上、俺は人間で、しかも男。そりゃビックリもするか。まぁそれだけではないだろうけど。

 

 

 

「これから3年間、君の力を借りる為に挨拶に来たんだ。彼女……ティーナの力を借りてね」

「えっへん!」

 

 

 

 俺の背中の上で両の手を腰に当ててそんなに背を反らさないでくれ。転げ落ちるぞ。そんな無い胸張っても……ってイタタタタッ! 肩を握る力がパンパない! 過剰反応過ぎるだろ!?

 彼女は少し不審を宿した目で俺を見た後、ティーナに視線を移す。ティーナと彼女はしばらくの間、見つめ合う。ものの数秒。その後、何かを理解したかのように俺の方を見る。

 

 

 

「なっ、なるほどです。そういうことなんですね。分かりました。こ、これから宜しくお願いしますっ」

 

 

 

 そう言うと、元気よくお辞儀をして微笑みかけてきた。ティーナとの間にどのようなやりとりがあったかは俺には理解できないが、この状況を理解し、納得したようだ。まだ、その態度や表情、言葉ぶりから若干の緊張を感じるが。

 それにしても、やべぇ超可愛い。ティーナとはまた違う可愛さがある。笑顔も最高だが、きっと涙を浮かべた顔がたまらないだろうな。

 最近、俺の周りには女性優遇の影響をモロに受けた結果、こういう引っ込み思案というか、自信なさげな女の子は本当に見なくなってしまった。

 俺は最高のオモチャを手に入れたような気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから20分程、俺は『彼女をイジリ倒そう計画』を綿密に立てたい衝動を抑えつつ、あの真っ白な木に背を預けるように根元に2人並んで座り、俺とティーナと彼女の3人で談笑していた。ティーナは特等席と言わんばかりに膝の上に座って俺を座椅子にしている。彼女も会話をしていくうちに、徐々に緊張も解けてきたようだ。ドモったりすることなく会話できるようになってきている。

 

 

 

「そういえば、君の名前はなんていうんだ?」

「私は、IS学園所属、第2世代IS『打鉄』、コアナンバー316です」

 

 

 

 ここはキチンと明かしておかなければいけない場面だろうと思うので、ここで世界の真実を語るとしよう。誰に対してだとか、そういうツッコミは昔ながらに「今日は耳が日曜日なので」ということでスルーする。

 まず、先程からいる場所。世界のありとあらゆる場所を探しても決して存在しないこの不思議な空間は『()()()()()』の中だ。そしてその中にいた彼女は『()()()()()()()()()』なのだ。何も突拍子もないことを言っているつもりはない。山田先生の言葉を思い出して欲しい。

 

 

 

 ――「そ、それともう一つ大事なことは、ISには意識に似たようなものがあり……」――

 

 

 

 「意識に似たようなもの」と言っていたが、正確に、そして真実を語るならば『()()()()()()()()()』ということだ。ただ、世界はその真実を知らない。ISに携わっている人、IS操縦者であってもなんとなくの理解から、「似たような」という常識を生み出しているだけなのだ。

 

 

 

「それは君の所属や特徴みたいなもので、君の名前ではないだろう?」

「人間が個人を特定する為に、生みの親につけられる識別子のことですか? 私にはありません」

 

 

 

 彼女はそれを当たり前のこととして表情を変えることなく俺に言う。人格ではあるが、生身の体に宿っている訳ではない。彼女のその反応は当然のことと言える。

 だが俺はそれが嫌だった。俺はそれを認めない。怒って、泣いて、笑うことができる。それは俺も、ティーナも、彼女も、何の違いもない。例え世界中の誰もがそれを否定しても、例え『定義』が広過ぎると言われても、俺は1人の『人間』として付き合っていきたい。

 

 

 

「そうか、じゃあ俺が名前をつける。そう決めた。拒否は許さない」

「えっ、えっ?」

 

 

 

 俺は天を仰ぎ、彼女にふさわしい名前を考える。おどおどしていて俺のサディストの心をくすぐるこの少女に、ティーナにはない揉みごたえ最高そうな胸をしたこの女性に、とても可愛い顔で笑う女の子に負けない名前はなんだろうか。

 そして、俺は決めた。目に映るとても鮮やかなこの空を表す色の名に。

 

 

 

「今日から君は『(あかね)』だ。俺は今度からそう呼ぶから」

「茜……」

 

 

 

 コア空間の情景は彼女自身の心の有り様を強く表している。この真っ白な大木はまだ見ぬ『操縦者』への気持ちが表れているのだろう。周りに生えている若木はきっとこの木の実を植えて育ったもので、『今までに会った操縦者』たちの情報で構成されているのだろう。また会えた時に相手のことを思い出せるように。そんな彼女の空は彼女の暖かな優しい心を表しているように感じたからだ。

 

 

 

「改めて、これから宜しくな、茜」

 

 

 

 俺は立ち上がり、彼女の方を向いて右手を差し伸べる。俺の膝の上にいたティーナは猿のように器用に俺の頭をまたいで俺の肩に座る。

 茜は少し驚いたような表情をしていたが、俺の手を取って立ち上がりそのまま握手をする。その頬は彼女の名前と同じ色に染まっていた。目にうっすらと水分を含みつつも、暖かい笑顔で俺を見る。

 

 

 

「はい! 宜しくお願いしますね!」

「私も宜しくね、茜! 私の方が先輩なんだから、ティーナ先輩って呼びなさい!」

 

 

 

 俺が肩車している相方も、俺の頭の上に乗り出して手を差し出す。どうでもいいけど、ティーナさんや? その『先輩』って前回のやりとりは伏線だったんか? 君の後輩の茜の胸は『ちっぱい』ではないけどね。頭に感じる胸の感触は何のクッションも感じない。もう少しあってもよかったかねぇ。

 茜は差し出されたティーナの手にも笑顔で答える。

 

 

 

「はい! 宜しくお願いしますね! ティーナ先輩!」

 

 

 

 握手する2人。これから俺たちは3人で新しい関係を築いていく。茜にはまだまだ話していないことだらけで、それを話さないまま巻き込むことに罪悪感を感じるが。これから先、多分辛い思いをさせることもあるだろう。共に泥にまみれてもらうこともあるだろう。既にその予定がこの後すぐ待っている。俺を蔑むかもしれない。俺を恨むかもしれない。だが、それでも俺が、必ず守るから。俺が、必ず……

 すると、ティーナが急に空を見上げる。

 

 

 

「京夜、箒ちゃんが呼んでる。試合、終わったんじゃない?」

「もうそんな時間か……。そろそろ戻らないといけないな」

 

 

 

 この空間は外界というか、ここの外と時間の進み方はあまり変わらない。

 一夏のヤツ、意外と頑張ったんじゃないか? ティーナが集めてきた情報を見た限りじゃ、一夏には分が悪過ぎると思っているんだが。もしかして、本当に意地やプライドで勝利しているかもしれないな。もし彼女の、白式のポテンシャルを理解して発揮すれば勝てる可能性は十分にあるとも思うが、そこまで求めるのはやはり酷かねぇ。

 俺たちのここから出る発言に茜は少し顔の陰りを見せる。

 

 

 

「そうですか……ちょっと寂しいですが……また、来てくださいね!」

「なに言ってるんだ? 茜も来るんだ」

「えっ!?」

 

 

 

 次の瞬間、俺たち3人の体は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

「気がついたか」

 

 

 

 俺は目を覚ます。先程説明しなかったが、当然の如くISのコアの中にいたのは俺の意識だけだ。体はISを身に纏った状態で立ち尽くし待機状態。どういった理屈や理論でそんなことができるのかを説明すると、ページ数で言えば軽く150ページくらいになりそうなのでここでは割愛させて頂こう。

 目を開けたそこには俺の他に箒1人だけが立っていた。一夏の試合終了を知らせに来てくれたのだろう。俺を起こす為なのか、右の手で俺の頬をなでるように触れている。他には誰もいない。もしこのシチュエーションを他の誰かが見れば、暗がりでいけないことしているように見えるのではないだろうか。

 その状態に気付いたのか、箒は俺の顔に触れていた手を恥ずかしそうに引っ込める。顔くらい、触りたいならいつでも構わないぞ? 別にお金取ったりしないしな。ある意味でそのリアクションが代金と言えるな、俺の中では。

 

 

 

「(スゴイですね! こんなことができるなんて!)」

「(でしょ!? 私って本当にスゴイのよ!!)」

「(スゴイです! ティーナ先輩! さすが先輩です!)」

 

 

 

 住人が増えて大分俺の頭の中が賑やかになったというか、騒がしくなったというか……。まぁ茜も驚きと喜びとでいっぱいなんだろう。眼の中が☆マークになるほど爛々と輝かして外の世界を見ている。今は新たな環境を楽しんでおくれ。しばらくしたら俺のイジリ包囲網から逃げられなくなるからな。

 

 

 

「(覚悟しておきなさいよ、茜。京夜って相当サディストだから)」

「(そ、そうなんですか? あの、不束者ですが、宜しくお願いします)」

 

 

 

 一体、君はどのような解釈でそんなことを言ってるのだろうか。まぁいい。ある意味では本人の了承を得たと言っていいだろう。おっ、ティーナ、分かってるね~。ちゃんと今の発言を録音しているとは。お主も悪よのう。

 

 

 

「(いえいえお代官様も……って京夜って時代劇なら悪代官ってハマり役よね)」

「(そういうティーナも中々似合っているぞ、越後屋)」

「「(当然!!)」」

 

 

 

 何が当然なのかは俺もティーナも分からないが、俺たちはどちらかといえば、正義の味方というよりは、悪の組織の方がきっと向いてるだろうという共通認識であることは間違いなかった。やっぱ正義の味方より悪の組織の幹部とかの方がカッコイイからな。流石は俺の相方、分かってる~。それにしても……

 

 

 

「(おい、茜。頑張って俺たちに絡んでついてこないと、あっという間に空気だぞ。いるのかいないのか分からない存在になるぞ)」

「(えっ、えぇぇぇ!? それはイヤですぅ~頑張りますから~)」

 

 

 

 はぁ~いいな、この子。その泣き顔最高だよ。イジめたくてイジめたくてしょうがない気持ちにさせる顔だね。ゾクゾクするって俺は真性の変態か? いえ、私は変人です。って俺は一体何を言ってるんだろう。

 

 

 

「話は済んだのか?」

「ああ、問題ない。結構時間取れたしな」

 

 

 

 箒の問いに俺は答える。

 箒は知っている。『ISには人格がある』ことを。だからこそ織斑先生の発言に対して心配してくれたのだ。俺が『ISの人格』を、『()()()()()()()』を『人』として見ていることを知っているから。

 

 

 

「名前は何て言うんだ?」

「『茜』だ。良い名前だろ?」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 箒は知っている。俺が愛着を持って名前を付けることを。今までの付き合いの中で、冷蔵庫や扇風機を名前で呼ぶ俺にウンザリしつつも、それに付き合ってくれた。

 

 

 

「私は篠ノ之 箒だ。宜しくな、茜」

「(あ、あのっ、茜です! よ、宜しくお願いしますっ!)」

 

 

 

 箒は俺の体に展開されているISに触れる。茜もそれに言葉で答えるが、今のお前の言葉は箒には届かない。残念だがな。その内、会話させてあげられるようになればいいが……

 すると、ゲートが再び解放される。どうやら一夏が戻ってきたようだ。頭の中が『はてなマーク』でいっぱいそうな顔をしつつ、このピットを飛び立った時とは違った形状の白式を身に纏った一夏が降り立った。

 どうやら一次移行(ファースト・シフト)はうまく行ったようだな。だが、破損しているように見えない。終わってからシフトしたのだろうか。それとも無傷の勝利なのか? 

 すると、織斑先生と山田先生もピットに戻ってきた。そのまま2人とも一夏に近づく。織斑先生の顔を見た一夏は先程とは違い、なんかバツの悪そうな顔をしている。どうやらやっぱり負けたようだ。

 

 

 

「よくもまあ、持ち上げてくれたものだ。その上、あれだけ大見得切って、それでその結果か、大馬鹿者」

「……はい」

 

 

 

 そのまま小言を続ける織斑先生。途中に浮かれて油断していただろうとか、武器の特性を考えろとか。厳しいな織斑先生。愛の鞭なのかもしれないが。ほぼ初心者に言うレベルではないだろ。

 一夏の説教中? 指導中? の間に俺は箒に、ざっとではあるが一夏の試合の内容を聞いた。あくまで箒の視点からの話ではあるが、なんとなく理解できた。一夏のヤツ、そんな決意表明を……カッコいいじゃねぇか。是非とも頑張ってもらわないとな。それに、意外と観察力はありそうだ。洞察力、考察力もまあまあだな。やはり実戦の方が伸びがよさそうだ。今後の訓練に生かしていこう。しかし、それにしても……

 

 

 

「(【雪片】か……。まさかそこまでしてくれるとは……)」

「(予想以上に一夏のことを気に入ってくれているのね、彼女)」

 

 

 

 白式を見た時、間違いなく彼女であり、武器は近接系であることは予想できていたが、まさか【雪片】とは思っていなかった。

 だが、それで一夏の負けた理由が分かった。まったくと言っていい程破損がないしな。たぶんシールドエネルギーが殆どない状態でシフトし、その後【雪片】の能力を使ったのだろう。

 

 

 

「身をもって分かっただろう。明日からは訓練に励め。暇さえあればISを起動しろ。いいな」

「…………はい……」

 

 

 

 ISを待機状態に移行させ、がっくりうな垂れて頷く一夏。君の姉は傷口にワサビを塗るようなことを平気で言うよね。顔色や表情から相手の考えとか読むのがあまり得意ではない一夏には言葉で伝えないと分かってもらえないですよ? そんな「とりあえず無事でよかった」って安心した顔されてもさ。

 

 

 

「えっと、白式は織斑君が呼び出せばすぐに展開できるようになってますが、規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はい、これ」

 

 

 

 入学前に配られた入門書と同じくらいの電話帳サイズである「IS起動におけるルールブック」を一夏に手渡す。山田先生も意外と生徒の気持ちが理解できていないですね。一夏のブロークンハートにまさかの追撃って。一夏のうな垂れ角度は30度から45度まで下がってますよ。それはルールブックの重さのせいではないと思いますが。

 一夏はそのサスペンス劇場で凶器になりうる鈍器ともいえるルールブックを抱えてこちらに来た。

 

 

 

「残念だったな一夏、あとちょっとだったみたいだが……」

「……ああ、箒に聞いたのか。くそ、悔しいぜ……」

「専用機での初めての試合にしてはかなり凄いと思うぞ。だが、やっぱり『男として』は悔しいよな。じゃあもう誰にも負けないように特訓だな」

「ああ、次は必ず勝つ」

 

 

 

 悔しさが顔からにじみ出るような表情をしていたが、握り拳を前に出して決意を口にする一夏。熱血だね~。その熱意でこの先に立ちふさがるであろう困難にも弱音を吐かずに立ち向かって欲しいものだ。とりあえず、君の直近の敵は今、君が手に持っているそれを読破することだからな。頑張れよ。

 

 

 

「……フォーマットとフィッティングは終わっているようだな」

「そのようですね。それで、黒神くんの試合ですが、今オルコットさんがエネルギー補給を行っていますので、そちらが終了次第の開始になります。約5分後くらいでしょうか。こちらでゲートを解放しますので、それを合図としてください」

 

 

 

 織斑先生と山田先生がこちらに来て俺の状態を確認する。ちなみに第2世代『打鉄』は量産型である為、専用機のようにフォーマットとフィッティングに時間はかからない。それに形状変化もしない。あくまで一般的にではあるが。

 俺は問題ないことを見せる為に両手を上げ下げしてみたり、少し動き回ったりする。

 

 

 

「では、観覧室へ戻る。山田先生、織斑、篠ノ之、行くぞ」

「はい。じゃあ黒神くん、頑張ってくださいね」

「俺は負けたけど、京夜は勝ってくれよな!」

「はっきり言って勝てる自信はないけど、まぁ頑張るよ」

 

 

 

 織斑先生、山田先生、そして一夏は三者三様の言葉を告げてピットを後にする。それにしても織斑先生? 山田先生や一夏みたいにちょっとは応援してくれてもいいんじゃないですか? このクラス代表決定戦に俺を無理やり参加させたのは貴方ですよね? 別にそれでいじけたりはしませんが、ちょっとは何かあってもいいのではないでしょうか。まぁ一夏にも言わないのに俺に言う訳ないか。

 そういえば、箒はまだここに残ったままだ。何かあるのだろうか。俺は箒に視線を移す。

 

 

 

「箒は行かないのか?」

「ああ、京夜がピットを出たら行くつもりだ」

 

 

 

 別にここにいても面白いことはないと思いますが……。もしかして何かネタを要求されてる!? 箒が大爆笑するようなネタなんて仕入れてないんだが……って分かってるよ、俺はそこまでバカじゃないし。そこそこに長い付き合いだ。密度の濃い時間を過ごして来ている。箒の考えることなんて……

 

 

 

「京夜……お前、最初から勝つ気がないだろ」

「!?」

 

 

 

 俺が箒の考えていることが分かるように、箒もまた俺の考えが分かったようだ。全てが分かる訳ではないみたいが、妙に鋭い時があるんだよな。

 確かに俺には勝つ気がない。いやむしろ負けるつもりでいる。本当は茜の初陣だし、勝って華々しいデビュー戦にしたい所ではあるが、一夏が負けた以上それはできない。もし一夏が勝つようなことがあれば話は別であったがな。

 

 

 

「京夜が私以外の女に……いや、たとえ誰であっても負ける所なんて……見たくない」

 

 

 

 うつむき加減で、視線を下ろして箒は言う。ふてくされたような顔をしつつも、水晶のように綺麗な眼球は若干の水分を含んでいる。

 ズルいぞ箒! 俺がそういうの弱いの知っててやってないか!? ああ、分かってるよ、そういうのわざとやるようなヤツではないことぐらい! けど、俺にも色々考えがあるのですよ!? ここは涙を飲んでくださいよ! だから我慢してくださいよ! ってもうおおおおあああああああ!!!!!

 頭の中で大絶叫した後、俺はふぅ~と一息だけため息をついた。

 

 

 

「……わかったよ、箒。なんとかして勝つよ。だからそんな顔するな」

「ホ、ホントか!?」

 

 

 

 先程とは打って変わって嬉しそうな顔をする箒。コイツ、やっぱり計算してないか? 実は某人気アイドルグループのコントに登場する「計算高いぶりっ子キャラ」のモデルじゃないか? 凛々しい箒がぶりっ子する姿は想像できないが、ちょっと見てみたい気もするな。

 

 

 

「俺はやると言ったらやるし、やらないと言ったら絶対やらない。今回は箒の為にやることにする。だから、もう観戦室に行って俺の活躍を楽しみにしとけ。俺はこれから作戦考えるから」

「ああ!! わかった! 絶対勝ってくれ!」

 

 

 

 そう言うと箒は軽やかな足取りでピットを後にした。後ろ姿なので顔は見えないが、全身からにじみ出ているオーラが本当に嬉しそうだ。そんなに俺に勝ってもらいたいもんなのか。もしかして、裏で『賭け』とかやってるのか? 俺のオッズが高いから勝ってもらいたいとか。……ないな、それは。

 中学時代に俺が胴元でクラスの男子生徒全員と、ある美人女性教師のパンツ当ての『賭け』をした時に、俺以外ならトラウマになる程に激怒されたからな。まぁ『賭け』だけであそこまでボコられた訳ではないだろうが。

 

 

 

「(なんだかんだ言っても箒ちゃんには甘いよね~)」

「(しょうがないだろ? さてどうしたものか……)」

「(あの~京夜さん、ティーナ先輩。相手の方はそんなに強いんですか~?)」

 

 

 

 相手はイギリス代表候補生だ。第3世代の専用機持ちでその上、『BT兵器』を携えている。傍から見たら男の俺が、さらに第2世代の近接戦闘系訓練機では勝ち目がないと誰もがそう予想し、そう判断するだろう。だが……

 

 

 

「(いや、普通に茜とティーナの力を借りたら余裕過ぎる。おつりがくるくらいだ。だが、それじゃダメなんだよな~)」

「(そうなのよね~)」

「(???)」

 

 

 

 俺とティーナの発言に茜は首を傾げている。そりゃそうだろう。まだ何一つ説明してはいないのだから。

 要点だけ説明すると、今回のクリアするミッションは『初心者に見えるように実力をセーブしつつ、相手に勝って、最終的に一夏より評価が低くなるような試合をする』ことだ。『相手に勝って』がなければ、難易度Dランクの楽勝ミッションだったのだが……

 誰もいなくなり、どこからともなく聞こえてくる微かな機械音が聞こえる以外は何一つ聞こえないピットに1人残った俺は目を閉じて、脳内で複数のシミュレーションを展開する。この難易度Sランクともいうべきミッションを攻略する為に。だが、やはり完璧にクリアできそうにはなさそうだ。

 俺はその中でも最もリスクの少ないものを選択する。このプランだと対戦相手、つまりオルコットさんと恐らく織斑先生には感づかれる可能性が高い。だが、織斑先生には最初から疑念の視線を送られているので、その疑念が少し強まるぐらいだろう。そして、オルコットさん。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットについては……()()()()()()()()()()

 すると、ごごごんっ、という音と共にゲートが解放されて空が見える。どうやら出番のようだ。 さて、愛おしき幼馴染の為に、あの映画のトム・クルーズのように無理難題をクリアして見せようじゃないの。

 俺は脳内で作戦を再度確認する。この作戦のキーポイントは『奇襲』『事前情報』そして『犠牲』。成功率は25%って所か? まぁ高い方だな。

 俺はふっ、とニヒルに笑いながら武器を片手に飛び立った。

 

 

 

 

 

 




『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
 設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。


【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/

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