BLEACH Fragments of Remnant   作:ヴァニタス

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六月の雨 毒散らす紫陽花

我々が、死を恐れ

忘却の悠遠(ゆうえん)へ押し流そうと、(もが)きながらも

破滅を望むのは

並び立つ隣人の死こそが

自らの生を鮮明に映すからだ

 

墓標に並べる、手向けの花が

自らの死を覆い隠すと 知っているからだ

 

 

死を想う時 そこに自らの終焉はない

あるのはただ 誰かの破滅を見据え続ける

生きた己に ほかならない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突き立てられた百の十字が、あらゆるものを灰燼に帰す。

 地獄ではない。そこにあるのは、全てを裁く神威の十字だ。黄金一色に染め上げられた世界の中で、それは星の(またた)きのように光り輝き闇を払う。

 威力など、気に掛ける者はそこにいなかった。そんな生易しいものではないからだ。砂も空気も永久(とこしえ)の闇も、全て等しく裁かれていく。都合百もの光の葬列が顕現し爆裂し、(ほろ)ぼしていく。

 そうして世界が光に満ち、輝きが次第に消えていった後――残っていたのは金糸を纏う、御蔭丸ただ一人だけだった。

 

「……――――星を斬り裂く刃無き爆剣が、お前を裁けないと云うのなら。星を亡ぼす百の刃で、お前の全てを討ち滅ぼす(まで)

 天に咲き散る百輪の十字は、死に逝くお前への手向けの刃だ。せめて一つの未練なきよう、一片も残さないと誓った葬列の花。

 ――それでもなお、生き続けるか。その不死性を見るに、お前は本当に神に愛されているのかも知れないな。アルヴァ」

 

 呟き、紅い眼球をゆらりと動かす。その先で闇は、既に増殖しつつあった。

 けれどそれは再生ではない。単なる増殖、死を前にして死に物狂いで生き抜かんとする足掻(あが)きに近い。かろうじて人の形になった闇は、棘の一本も生えていない。

 言わば、針金で作られた人もどき。骨すらも入らない細い手足と胴体に、丸い頭部と仮面だけが風船のようにくっついている。呼吸とも風鳴りともとれない擦過音が漏れる乱杭歯を、アルヴァはギシギシと軋らせていた。

 

「ギ……ギ、ヒィ……ヒ、ハハ、ハ……」

「……霊圧が尽きかけているようだな。百刃亡星に焼かれる寸前、霧の一片以外の全てを防御に使ったか。それならばまだ生きている事に得心がいく。

 だが、そこまでだ。如何にお前が霊圧を増殖出来ても、それほど消耗していては虚閃一発すら放てまい。その痩せ細った体躯さえ、動かせるかどうか。

 ……千年の殺戮の末がその様とは、哀れなものだな、アルヴァニクス。だが安心しろ――俺が今、引導を渡してやる」

 

 針金の手足で這いつくばるアルヴァに、冷たい声が降りかかる。御蔭丸はゆっくりと、しかし確実に掌へ逆十字を顕現させる。

 逆十字が出来るまで、それは僅か二秒だった。そしてその二秒の間に、アルヴァニクスは逃走した。

 

「ギィ、ヒィィ……まだ、だ……まだ、ダアアアアァアアアァァァアアアアァア!!!」

 

 大地にすりつけられる仮面に、二つの白炎が燃え上がる。その瞬間、アルヴァニクスの肉体から無い筈の霊圧が放出され――とっさに防いだ次の瞬間には、アルヴァニクスは霧となり空間に裂けた黒腔(ガルガンタ)へ消えていった。

 ――しまった……!

 その場当たり的だが的確な逃走に、御蔭丸は舌打ちする。

 御蔭丸の卍解、獄楽神天禍津は無形であるが故にあらゆる形に変貌する卍解。だが一口に変貌と言っても、全ての形へ零秒(ノーウェイト)で変化するわけではない。ただでさえ粒子の統制に思考を取られる中、粒子を組み合わせ一つの形に押し留めるのはそう容易い事ではないのだ。

 特に粒子の大部分を緻密に統制・結合させる『刃架恒牢』を発動している間、他の形の造成には数秒の遅延が発生する。造成を止めて別の攻撃をしようにも卍解の統制のために出遅れる。今はその隙を突かれ、黒腔への逃走をみすみす成功させてしまっていた。

 

「――だが、逃げられはしない。ここまで追い詰めたんだ、俺の誇りにかけて、お前は必ず殺し尽くす……!」

 

 閉じかけた黒腔へ御蔭丸も突進する。白い死神が世界に開かれた闇の口のような裂け目に消えた後、黄金の粒子も後を追うように黒腔へなだれ込む。

 そして全ての金色が消え、黒腔が静かに閉じた後。そこには黒い大地に広がる、戦いの爪痕だけが残されていた。

 

 

 

 太陽が天に抱かれている。

 暖かな陽光が降り注ぐそこは長閑(のどか)な草原だった。青々と生い茂る木々が静かに立ち、揺れる枝から飛び出した鳥が風に乗って草原を泳ぐ。森を見れば獣が木の影に走り去り、川を見れば魚が跳ねる。

 そのように静かに営まれる自然の景色に、一際美しい花畑があった。色とりどりの花が咲き誇り、太陽の光に照らされて鮮烈に輝いている。

 特に目を引くのが、この時期に開花を迎える紫陽花(あじさい)だった。青、赤、紫と束になって咲き乱れる花が、花畑全体に広がっている。

 

 そこへ、闇は落ちてきた。

 

「ギヒュッ、ギィ、ギヒィイィ……」

 

 髑髏(どくろ)が牙を剥くように空間が裂けて、そこから霧が吐き出される。黒く悍ましい、かろうじて人の形をしたそれは花畑へ落ち、呻きを上げる。

 立ち上がる事も出来ず倒れ伏すのはアルヴァニクスだった。針金のような手足でもがき、増殖させた己自身を周囲にまき散らしている。だが湧き上がり零れ落ちる霧はあまりに少なく、落ちた端から霧は薄れ、消滅していた。

 

「ギイッ、ィイィッ……馬鹿、な……こんな馬鹿な事が、在る筈がない……」

 

 醜い擦過音を漏らしながらアルヴァニクスは僅かに蠢く。胴体らしき針金状の部分は曲げる事も叶わず、針のような指は土さえ掻けず、逆に削れている始末。どう見ても死に体、もはや生など絶望的な有様で白い仮面の闇は呻く。

 

「私は……私は、神に遣わされた存在だ……生きとし生ける全てのものを殺すべく、望み()(まか)られた存在だ……それが何故、このような……在り得ぬ……在り得て、たまるものか……」

 

 ほとんどが罅割れた乱杭歯を打ち鳴らし、白炎の眼窩は虚空を見上げる。そこに信奉する神がいるかのように棘の消えた頭をもたげ――その眼前に、死神のように。白い狼の男が舞い降りる。

 

「――紫陽花か。そうか、もうこんな季節になっていたんだな……十年ぶりの光景だ」

 

 紫陽花の一つを手に取って、御蔭丸は遠い眼をする。そのまま視線を周りに投げ、懐かしいものを見るように眼を細めた。そして空を見上げ、不快そうに眉根を(ひそ)める。

 

「ふん、太陽が照りつけていやがる。生前からそうだったが、あの光だけは好きになれん。

 陽の光は善くないものを隠そうとする。光を嫌い、後ろめたさを抱える奴らを影の中へ逃がしやがる。

 今もそうだ。お前のように殺戮を繰り返した悪意を俺の影に隠している。全ての命の上にあるからといって、所業はあまりに傲慢だ。だから俺は、晴れ渡った空って奴が一番大嫌いだ。

 太陽は影に闇を隠し、光の元に集うものへ影から死を運ぶ。だがその鮮烈な輝き故に、誰もそれに気付こうとしない。なあ、そうは思わないか――アルヴァニクス・エヌマニュエル」

 

 空から大地へ、褪め果てた眼光でアルヴァニクスを見下ろして、御蔭丸は造成した()(そう)を突き下ろした。黄金の(きっさき)は白い仮面に突き刺さり、死に体の闇が軋むような悲鳴を上げる。

 

「大神、御蔭丸……貴様……」

「悪いが、答えを求めたわけじゃない。少し時間が欲しくてな。ここにも『刃架恒牢』を築かなければ、お前に逃げ道を与えてしまう。だからもう少し寝ていて貰おうか」

「そんな事を許すとでも――」

 

 眼から白炎を吹き上がらせ蠢くアルヴァニクスは、直後斧鎗(ふそう)に胴体を断たれ、『綴雷電』を流される。蟲の脚のように切断されてなお動いていた針金の下半身はそれだけで消滅し、残る上半身も雷電で削られる。

 乱杭歯から悲鳴が上がり、黒い霧が立ち昇って消えた。『綴雷電』が消えた後には、針金から更に痩せ細った糸のようなアルヴァニクスが横たわる。どうやら増殖する事で消滅を水際で防いだようだ。

 それを興味の色なく見下ろして、御蔭丸は平坦に言う。

 

「言っただろう、答えは求めていない」

 

 冷たくも煉獄のように(たぎ)った響きに呼応して、彼方に黄金の壁が屹立(きつりつ)した。黄金一色に景色を染め上げていく壁は天を目指し、太陽を徐々に鎖していく。

 陽光が消えていく中で御蔭丸は、鬼のように影の這う貌をしていた。復讐を願う悪鬼の様相、それを大地から見上げるアルヴァニクスはギシギシと歯を鳴らしている。

 

「……こんな馬鹿な事、許される筈がない……我が神が許されるわけがない……こんな、神の名を騙る斬魄刀持つ死神風情に、この私が敗れるなど……」

「……アルヴァ。百年前からお前は事あるごとに神と口にするな。それは何だ?」

「何だ、だと? そんな事も分からず私を殺すと言ったのか……何たる不敬、何たる冒涜(ぼうとく)……神と名のつく代物など、この世に一つしかないだろうに……」

「知らんな。今や死神の俺にとって、神の名のつく存在など死神以外に在りはしない」

「違う……死神は神ではない……ただ歯車を回し、()き砕かれるだけの砂……神は、我が神は“絶対”だ……この世にて唯一、あの世にて真実、我が世にて永劫に生じるもの……それに比べれば、死神など……――!」

「…………何の話だ?」

「――神の話だ!!!」

 

 突如咆哮するアルヴァニクスに、御蔭丸は動じない。薄い眼光で見下ろしたまま、更に一本槍を突き刺す。それにもかかわらず闇は吼え、仮面を砕きながら頭だけを跳ね回らせる。

 

「神とは!!! 森羅万象天上天下一切衆生全てにおいて、唯一にして絶対の真理!!! 何人たりとも滅ぼせはせず、何人たりとも(あらが)えはしない、あらゆる頂点に立つ存在だ!!!

 それを貴様は崇めるどころか知りもせず、踏み躙り、(あまつさ)え名を騙った!!! それが、そのような冒涜が悪性が背反が、許される筈ないだろう――――――――!!!」

「……!」

 

 アルヴァニクスが乱杭歯を散らして咆哮した瞬間、燃える白炎の眼窩から黄色の虚閃が放たれた。再生する力もない闇からの不意の一撃に、御蔭丸は眼を見開く。

 そして避ける間もなく死神は、生物的に膿んだ光に呑みこまれた。周囲の花を散らし爆炎を上げる霊圧の光線を見上げて、アルヴァニクスはなおも吼える。

 

「貴様に私は殺せない!!! 私が貴様を殺すのだ、私が貴様を殺すのだ、私が貴様を殺すのだ大神御蔭丸――――!!! 神に遣わされしこの私が、“絶対”に相対しなお滅びぬこの私が、貴様を必ず殺すのだ!!!」

「…………そうか。だが俺はもう、一度お前に殺されている」

「!?」

 

 アルヴァニクスの白炎の眼が止まる。揺らめきが消えてただ見上げる闇の前には、片腕一本で虚閃を防いだ御蔭丸が立っていた。

 所詮は足掻く死に体の虚閃。天禍津からの供給で“黒死の霧(プラーガ・ニエブラ)”を消滅させる霊圧を放つ御蔭丸には、片腕だけで防げる程度でしかなかった。

 そしてもう、待つ必要はない。黄金によって天が鎖され、太陽は完全に隠された。それは無貌の死神が、死に体の闇を殺す合図。御蔭丸はアルヴァニクスを貫く槍からゆっくりと手を放し――掲げた腕に逆十字を造成した瞬間、周囲が黄金の霊圧で満ち溢れる。

 

「だからもう、殺されはしない。俺はかつての滅却師として、滅却師の誇りを貫き通す。

 終わりだ――――――――アルヴァニクス・エヌマニュエル」

「……………………終わり? 終わりだと……? そんな馬鹿な事があるか……こんな馬鹿げた終わりがあるか!!!

 こんなもので終わるものか!!! こんなもので、神に遣わされた私が死ぬものか!!! 私は死なない、私は死なない、私は死なない!!!

 私は――――――――」

 

 糸のような身体で喚き跳ねるだけの闇を見下ろす死神の眼は、ただただ(よう)として荒れ果てていた。白炎吹き上がる眼で射殺してくるアルヴァニクスを見ているようで見ず。天に掲げた逆十字を、血が滲む程握りしめ。

 そして――――――――

 

 

 

   φ

 

 

 

 生きるとは何だ。我々は何を以て、自らを生と断ずる。

 死ぬとは何だ。我々は何が故に、自らの死を恐れる。

 生者とは何だ。鼓動を続ける肉の塊をそう呼べばいいのか。

 死者とは何だ。鼓動の無い全ての物をそう呼べばいいのか。

 ならば私は何だ?

 生まれもせず、死にもしない。

 そのようなものを、一体何と呼べばいい――――

 

 

 

 古い時代。人がまだ獣の狭間にいたかつての頃。

 一人の赤子が、(くら)い羊水の中で目を覚ました。

 何故目覚めたのかは分からない。ただの偶然かも、神の運命かも分からない。確かなのはその赤子には、意識があったという事だ。

 知恵もなく、言葉なくとも赤子には、そこに世界がある事が分かった。羊水に浮かぶ身体を動かせば、手や足が柔らかな壁にぶつかる。何か狭い場所に居るのだと、無垢な赤子は理解していた。

 暖かな羊水の微睡(まどろ)みの中で、赤子は静かに揺れている。いつか生まれるその時まで、狭い世界で成長する。

 けれど、その時が来ることはなかった。

 赤子は、水子だったのだ。

 

 次の目覚めは、初めて見る光の中だった。

 赤子にはそれが理解出来なかった。昏い羊水の中で眠り、目が覚めたら慣れ親しんだ羊水の感触も昏い世界もなかったのだから。

 赤子は光の眩しさに怯え、逃げた。あの暗く暖かな場所に戻りたい。その一心で逃げた赤子は、ついに羊水の満ちる妊婦の(はら)を見出した。

 だがそこで、赤子は止まる。妊婦はもう死んでいた。獣に襲われ、殺されたのだ。赤子は止まったまま、妊婦が喰い荒らされるのを見つめ続ける。そして獣が腹を食い破り、羊水が溢れだす。

 地面へ流れる羊水と共に流れ出してきたものを、赤子は何よりも恐れた。そして羊水の反射によって、流れ出してきたものと自分が同じ姿だと知った。

 その意味を、考える事はなく。直後現れた虚によって、赤子の二度目の目覚めは終わった。

 

 ……三度目は、得体の知れない半透明の物体の中だった。

 アルヴァニクス・エヌマニュエル。目覚めた瞬間からその名を認識した赤子だったものは、それが最も古い記憶であると信じている。その前の事など、何も覚えていないというように。

 アルヴァニクスにあったのは失くした中心(こころ)を埋める飢えだけ。人間ではなく同族に向いたそれは、産まれ持った能力で満たされていた。

 増殖する細菌。天井知らずに膨れ上がるアルヴァニクスの能力は増殖と自食を繰り返すだけで飢えを満たせた。悪夢のように際限なく、最上級大虚(ヴァストローデ)に至るほどに。

 誰にも気付かれず最上級になったアルヴァニクスはある日、幼い好奇心につられて半透明の揺り籠から出る。

 

 そして見たものは、永遠に続く殺戮だった。

 ただ自我を失わない為に喰らい合い、殺し合う無謬(むびゅう)の地獄。無意味と無価値を体現する大いなる(うつ)ろ達の破滅に、アルヴァニクスは歓喜した。

 仮に幼い子供が火を浴びても火傷を負わないのなら、子供は火遊びをするだろう。刃物に触れても手が切れないなら、刃を振り回して喜ぶ筈だ。

 アルヴァニクスもそれと同じ。幼い闇にとってそれは――とても愉しい、娯楽に写ったのだ。

 

 自分の何十倍も巨大な大虚に、齧られるのが愉しかった。

 黒い衣服を着込む何かに、斬り裂かれるのが愉しかった。

 白い外套を閃かせる人間に、射抜かれるのが愉しかった。

 

 アルヴァニクスは彼らの呼び方など知らない。ただ殺し合う快楽に身を任せて、幾百、幾千、幾万の存在を殺されながら殺し尽くした。

 積み上げた死体は決して食べない。増殖と自食で済むからそんな勿体無い真似はしない。せっかく手に入れたオモチャなのだ、アルヴァニクスは嬉々として死体を(もてあそ)んだ。

 当然怒り狂う者達がいて、しかし闇は理解せず。虚圏でも現世でも多くの命を葬り続けた。死体は余さず弄び、遊べなくなったら自分の目覚めた場所に捨てた。

 そして半透明の物体が黒く濁り、大地が屍になり始めた頃。殺戮に飽きてきたアルヴァニクスは積み上げた屍の山で、自らの運命を変える言葉を聞いた。

 

 死に損ないの化け物め。貴様など、この世に生まれるべきではなかったのだ。

 

 黒い衣服の何者かの、血反吐に染まった恨み言だった。

 アルヴァニクスは初め、鼻で嗤っていた。生まれるもなにも、虚は全て死んだ人間の成れ果てだ。大虚はそれの折り重なりでしかなく、それ以前の記憶も持たない。

 故に生まれを問うなど沙汰の外だ。元より無意味なのだから、そこに意味を見出そうとしても何にも成りはしないだろうと。

 幼い闇はそう思っていた。初めから知識として持っていたそれが答えで、それでいいのだと思い殺戮の日々を続けてきた。

 だがその日々にもついに飽き果て、アルヴァニクスが少しばかり成長した頃。まだ覚えていたその言葉が、闇の歩みを止める事になる。

 

 全ての虚は自らの無意味と向き合う。

 どのような虚であれ、それは一度考える事だ。何のために産まれたのか、何のために存在するのか。大半はそれを流して、自身の存在を失わないために魂を貪り続ける。

 されど永く生きる強大な虚、特に大虚は必ずそれに向き合わなければならない。敵の見えない高みまで昇り、それでなお存在し続けるために。

 ある者は無意味の螺旋に犠牲を見出し、自らを深い孤独へ閉じ込めた。

 ある者は無価値の果ての退屈に激怒し、ただ昂ぶる戦いを求め続けた。

 ある者は無感動に行く喪失の無い生に、虚ろに死を選んで飛び降りた。

 そしてアルヴァニクスは、それに答えを見いだせなかった。

 アルヴァニクス・エヌマニュエルは、そもそも生まれていないからだ。

 

 記憶ではなく、だがそれは怖気に似た確信だったのだろう。よく分からないが自分が生まれてない事は分かる、そんな奇妙な感覚がアルヴァニクスの脳にはあった。

 そしてそれを自覚した瞬間、アルヴァニクスは分からなくなったのだ。自分が存在し続けるその意味が。

 だからアルヴァニクスは考えなければならなかった。殺戮を止めて目覚めた場所でうずくまり、黒く濁った揺り籠の中で。闇はただ、思考の海に没していく。

 

 ――我々は存在の理由を定めなければならない。

 ――存在し続ける理由がなければ生きられない。

 ――だが、私はそもそも生きているのか。

 ――どれ程死のうと死なない私は。

 

 アルヴァニクスは考える。虚圏へ迷い込んだ死神に斬られながら。

 

 ――全ての生物は産まれを以て世界に落とされる。

 ――産まれたが故に生を強いられ、やがて死んでいく。

 ――産まれ堕ちれば、死んだも同然ならば。

 ――産まれ堕ちなかったから、私は死なないのか。

 

 アルヴァニクスは考える。不死たる己を喰らい合う虚達の屍に囲まれながら。

 

 ――生きるとは何だ。我々は何を以て、自らを生と断ずる。

 ――死ぬとは何だ。我々は何が故に、自らの死を恐れる。

 ――生者とは何だ。鼓動を続ける肉の塊をそう呼べばいいのか。

 ――死者とは何だ。鼓動の無い全ての物をそう呼べばいいのか。

 

 アルヴァニクスはある日、考えを止めて顔を上げた。いつの間にか半透明の物体は消えて、死骸の積み重なる黒い大地へと変貌した目覚めの場所。それに眼もくれず、アルヴァニクスは目の前の存在へただ純粋に問いかけた。

 

「生きるとは何だ。どうして貴様らは、自らの生を確信できる」

 

 返答は、怒りの籠もった霊子の矢だった。

 

「死ぬとは何だ。どうして貴様らは、自らの死を恐れている」

 

 返答は、憎しみの籠もった霊子の矢だった。

 

「……私は何だ。生きもせず死にもしない、ただ在るだけの私は何だ」

 

 神に討ち滅ぼされるべき存在だと、矢を放ちながら言葉を返された。額を穿たれても死なないアルヴァニクスは、耳に残った言葉を問う。

 

「――神とは何だ。それが何故、私に死を望む」

 

 神は、絶対だと、名も無き滅却師は最後に言い。そのまま黒い大地に倒れ、動かなくなった。

 

「……絶対? 絶対とは何だ」

 

 アルヴァニクスは考える。虚達が殺し合い、虚を追って虚圏へやって来た名も無き死神が殺し合いに混じり、そこへまた名も無き滅却師が殺し合いに混じる。

 殺戮がアルヴァニクスの周囲にあった。それを無意識に見て、意識の中で絶対について考える。自身の存在意義への問いかけは、自らを取り払った世界にある絶対への思索に変わり、そうしてアルヴァニクスは遂に見出した。

 

 ――あらゆるものは全て滅びる。

 ――生きていても生きていなくとも、やがては朽ち、土に還る。

 ――全てのものには終焉がある。

 ――その終焉とは、すなわち“死”だ。

 

 その考えは天啓(てんけい)のように、アルヴァニクスの全身を叩いた。泥血(でいけつ)鈍る地獄の中で、煉獄の光を垣間見たかの如く。闇は光に向かう。

 

 ――この世に“絶対”が在るのなら、それは“死”を於いて他にない。

 ――神が“絶対”だと云うのなら、“死”こそがあらゆる全ての神だ。

 ――ならば。“絶対”に逢うてなお死なない私は、選ばれたのではないか。

 ――神である、全ての終焉たる“死”、そのものに――

 

 ふと気付くと、アルヴァニクスの周りには“死”があった。積み重ねられた殺戮の末の、死と呼べるものだけが渦巻いていた。

 折り重なった死骸の底で、闇は厳かに両手を合わせる。祝福だと、アルヴァニクスは思ったのだ。選ばれた私への、この上ない祝福なのだと。

 ――その日、不死の闇は自らの神を見出した。この世全てに訪れる、“絶対”という“死”を。

 そして自らの神を知らしめんと、行動を開始したのだった。

 

 アルヴァニクス・エヌマニュエルは水子だった。

 それ故に無垢で、それ故に意味を求めた。

 自らの存在する意味、自らが存在していいと許される意義を。

 

 そして、アルヴァニクス・エヌマニュエルは虚だった。

 何に相対しても、返答は全て殺戮だった。

 だからアルヴァニクスは殺戮者となった。純真な白に赤を垂らして、全てが赤に染まるように。虚たる熱業の闇にとって、それだけが世界と繋がる手段だったから。

 

 ――こうして、生まれも死にもしない闇は、千年に渡り死を振り撒いてきた。自らの見出した神に従い、自らの体感した殺戮を以て世界と繋がり続けた。

 赤子の幼さ故に行いの善悪を問わず。

 赤子の無垢故に存在する意味を求め。

 赤子の純真故に嗤いを刻んで残酷に。

 その在り様を狂気に例えられた怪物は、光の中で猛り叫ぶ。

 

 私は――――――――こんなものを“()”とは認めない、と。

 

 

 

「こんなものを“()”とは認めない!!!」

 

 百刃亡星を放つ寸前、糸のように細り死にかけた闇はそう叫んだ。御蔭丸はその言葉に何の反応も示さない。杳として荒れ果てた眼で、アルヴァニクスを無情に写し。天に掲げた逆十字を血が滲む程握りしめ。

 そして、振り下ろそうとしたその刹那――――――――

 

 ――――――――()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――何だ? 仮面が――――

 

 御蔭丸が考えられたのは、そこまでだった。それ以上何かを認識する時間もなく、白い死神は遥か後方へ吹き飛ばされたのだから。

 

「――――!?」

 

 目まぐるしく回転する視界の中で御蔭丸は体勢を立て直して着地する。衝撃と突発的な事態の混乱を振り払って見れば、遠い花畑の中で生物的黄色の霊圧が噴火していた。熱風と吹き上がる溶岩を幻視してしまう程の霊圧に、御蔭丸は眼光をギラつかせて逆十字を振りかぶる。

 ――何かは分からんがこれ以上はやらせん!!

 

「『百刃亡星』!!!」

 

 黄金満ちる逆十字が突き立てられると同時に、天を鎖す粒子が光り輝き、百の葬列となって爆発する。先のように天禍津で覆った空間全てを均等に破壊するのではなく、爆撃の八割以上をアルヴァニクス本体にぶつける一点集中攻撃。

 世界に輝きが満ち、神の裁きが放たれる。断神刃衣を纏った御蔭丸以外の全てが光に塗れ、滅びていく。

 そして光と破壊圧が消えた中、紅く燃え盛る彼方を御蔭丸は睨んだ。土が溶解し泡立つ爆心地は自身の霊圧が飽和して他の霊圧が感じ取れないが、確実に仕留めたと断言できる破壊痕だ。

 ――都合百の星を亡ぼす霊圧の爆撃だ。

 ――二度受けて、生き延びられる筈がない。

 ――その筈なのに何だ、この悪寒は?

 ――それにあの、仮面が割れた直後の霊圧は――――

 御蔭丸が考えられたのは、そこまでだった。

 

「――――ギイイイイィィイイィイイイアアアアァァアアアアァアアア!!!!」

「――――馬鹿、な――――!?」

 

 天空引き千切る、破軍の狂声。震える空気さえ皮膚を焼くような、馬鹿げた霊圧を伴う絶叫。そして再び噴き上がる――黒い霧を伴った膿色の柱。

 

「生きているのか、アルヴァ!?」

 

 御蔭丸はそう叫びながらも、既に逆十字へ霊圧を籠めていた。アルヴァニクスの死を確信できなかった以上、そうするのは彼にしてみれば当然。故に驚愕で脳を彩られても身体が勝手に、アルヴァニクスへ攻撃しようとする。

 しかし腕を振りかぶる直前に、膿色の霊圧の柱が弾け――――黒い霧と共に広がる霊圧の波に触れた全てが、一切残らず()()()()()()

 その光景は、御蔭丸に攻撃ではなく防御を選択させるに充分有り余った。

 

「――――天禍津――――!!!」

 

 御蔭丸が叫んだ瞬間、天を覆う黄金の壁が全て霧散する。同時に粒子が超高速で吹き荒れ、白い死神の目の前に黄金の壁を形成していく。それも卍解の最大展開範囲を横断する程の巨大さでだ。

 ()()は危険なものだと、御蔭丸の本能が警鐘を鳴らし続けていた。アルヴァニクスの殲滅よりも自身の防御を優先させるべきだと一瞬で判断できる程に。だから闇が逃げられないよう造り上げた壁を放棄し、自身の防御に回らせる。

 遠い地平線に壁を造成していたせいで端の方から壁は形成されていく。通常ならば間に合うべくもないが、単純な壁は天禍津の取る形状において最も基本的なもの。故に形成時間は一秒弱、霊圧の波動を防げる速さだ。

 黄金の壁が織り成されていく中、御蔭丸はアルヴァニクスを睨み続け――膿と黒に塗れた最中に、白炎の眼光と眼が合った。

 

「――――……成程……そういう事か」

 

 完成した黄金の壁を前に御蔭丸は呟く。絢爛と輝く紅の眼を見えぬアルヴァニクスへ向け、壁に当てていた右手をだらりと力なく垂れさせる。

 そして――内臓を吐いたかのような大量の血を吐き出して、そのまま大地に膝を屈した。

 

「げふっ、げほっげぼっ!」

 

 口を塞いだ指の間から鮮血が溢れ出る。息が荒く肩が震え、急激に充血した眼から血の涙が零れ落ちている。焼け焦げた土に染みる赤黒い血を睨んで、御蔭丸は空いた手を胸に当てて回道を巡らせる。

 

「……くそっ、アルヴァめ……まさかこの土壇場で、こんな力を発現するとは……」

 

 血と共に垂れる言葉は弱弱しい。元々白い肌からは生気が失われ、所々黒い斑紋が浮き出ている。それに異常な吐血と震え、全身に滲み始める痛みの(きょう)(おん)

 死神家業の中で幾度となく眼にしてきた症状を体感しながら、御蔭丸は黄金の向こう側にいるアルヴァニクスを幻視した。震える腕に、僅かばかりの力を籠めて。

 

「間違いない…………これは……――――(やまい)――――……!」

 

 御蔭丸が餓狼のように言った瞬間、黄金の壁の向こう側で絶大な霊圧が(ほとばし)った。

 

 

 

   φ

 

 

 

 病には多くの形がある。体調を崩す程度の軽いものから命に関わるものまで尺度は長いが、病には大別して二つに分けられる。自身の肉体・精神による内側の病と、外側の病だ。

 身体の外側からもたらされる病は、人から人へ移る事が最も恐ろしい。飛沫感染、接触感染、血液感染――その病にかかった者から発せられる様々な要因が、周りの者を同じ病に沈ませていく。

 では、アルヴァニクスによってもたらされたこの病は、どこから来た? 生物的黄色の霊圧が重くのしかかる中で、御蔭丸は血反吐を吐きながら感染経路を潰していく。

 飛沫感染は考えられない。今の御蔭丸は過剰な霊圧を身体に巡らせて“黒死の霧”を霊圧で消し飛ばしている。その段階まで引き上げられた霊圧は飛沫など簡単に消滅させる。

 接触感染や血液感染の可能性は高いが、それもない。アルヴァニクスに触れられたのは謎の変貌を遂げる前だし、血液にしても同じ事だ。経口感染や霊蟲などの媒介感染はそれこそ在り得ない。

 ――……考えられる可能性は、一つしかない……

 ――……だが、信じられん……あまりにも馬鹿げている。

 ――それでも考えられるのは……これしかない。

 

「間違いない、奴は……――――()()()()()()()()()()()()()

 

 莫大な霊圧による強力な回道をかけ続けているのに重症化する病を、御蔭丸はそう判断する。

 そうでなければ説明がつかない。回道で浄気結界を貼っても破られ、治らないと言う事は、今なお感染源と接触しているという事。そのアルヴァと壁一枚を隔て接触を続けているのが霊圧だけならば、それしか原因は考えられない。

 

「全く巫山戯(ふざけ)ている……この期に及んで、こんなデタラメな能力を有するなど……ぐふっ!」

 

 喉をせりあがる血を口から零して、御蔭丸は壁を睨んだ。苦しげに光る眼からも血が流れるが、拭う余裕はない。吹き上がるアルヴァニクスの霊圧が、御蔭丸の知る誰よりも醜く膨れ上がっている。

 それを前に傷だらけの狼は瞳を閉じた。(くら)(まぶた)の裏に願いの走馬灯を走らせて、御蔭丸は眼を開き、紅の瞳を鋭く削る。

 ――退路はない。

 ――アルヴァの病が霊圧感染ならば、奴の霊圧を浴びる限り完治しない。

 ――ここで攻勢をかけるしかない。

 ――奴がどのような変質を遂げているか定かではないが、それでもだ。

 

 震える手の中に十字架を生成し、出来る限りの準備をする。鬼道による身体強化、防護術式の展開、回道の自動発動、発動待機状態の鬼道の設置――短い時間にそれらを終えて、最後に天禍津との接続を最小限に絞る。

 此処から先、天禍津からの情報はほとんど役に立たないだろう。そもそも情報を拾う事さえ困難が予想される。それでも完全に切らないのは手札を確保する為だ。

 今持てるあらゆる手段を行使して、必ずアルヴァニクスを討ち斃す――その意志を宿した鮮血の瞳で、壁の向こう側の闇を睨んだ。そして、造り上げた天禍津の壁を解除する。

 

 黄金の壁が幕を引くように左右へ散っていく。煌びやかな光の先には、ただ恐ろしいものを煮詰めたような闇の嵐が吹き荒れていた。

 

「……――――征くぞ、アルヴァ」

 

 叩きつけられる病の霊圧に、一言そう応え。御蔭丸は対峙する。

 遥か茫漠の“死”が渦巻く、アルヴァニクス・エヌマニュエルと。

 

 

 

 敗北は必至だった。

 理由は単純、打つ手がなかったからだ。

 鬼道による身体強化も、張り巡らせた罠も、自動発動する回道も、攻撃を防ぐ防御術式も、全て役に立たなかった。

 単純で圧倒的な病の嵐。触れた端から感染し、増殖し、宿主を死に至らしめる。それらを前に出来る事は爆圧によって嵐を吹き消し本体を叩く事しかない。

 だが嵐全てが本体のアルヴァニクスにそれは通用しない。百刃亡星で消滅させられなかった以上、他に手立てはない。

 

 故に敗北は必至でそれでも御蔭丸は戦い――そして今、黒腔から落ちた地点から遠い花畑の上に横たわっていた。

 紫陽花の花びらがそこら中に舞っている。匂い立つ花の香りが、鉄臭い血に混じっている。そのただ中で浅い呼吸を繰り返す御蔭丸は、見るも無残な様相をしていた。

 肌は黒い斑点に覆われ、穴や破れた皮膚から血が溢れ出ている。顔色は白に輪をかけて蒼白で、紅い眼光ばかりがギラついていた。

 

「――――理解したか、大神御蔭丸。これが、我が神である絶対の“死”だ」

 

 それを見下ろすように宙に立っているのは棘だらけの闇だった。“黒死の霧”を潜めさせ、それでなお噴き上がる桁違いの霊圧が倒れた大男の傷を深くする。

 それを見上げる御蔭丸には、ある一点しか見ていなかった。宙に立つアルヴァニクスの、割れた仮面のその中身だ。

 穴の開いた脳髄が見えている。仮面の下には口も目も顔もなかった。ただ白い炎が前半分の無い頭蓋骨の内側で燃え盛り、その中に脳髄が浮いている。

 その中身に差して感想は抱かない。考えているのは、なぜ仮面が割れてこれ程の力を得たかだ。仮面は中心(こころ)の代わりに本能を隠すもの。死神にとってはそれだけの、斬って顔を見てしまうと斬りにくくなるというだけの仮面。

 なのに何故、それが割れた事を切っ掛けにこれ程の力が生まれたのか。御蔭丸には考えても分からない。死にかけた頭の中ではその疑問と、天禍津からの情報しか渦巻いていなかった。

 

「私の祈りに貴様は疑問を呈していたな。答えてやろう、大神御蔭丸。

 我が神たる“死”が、何なのかを」

 

 アルヴァニクスは燃える白炎の顔を空に向けたまま語る。狂気が鳴りを潜め理知的に話しているように見えるが、その実それはアルヴァニクスにしか見えない神への語りかけだった。

 

「“死”とは全てのものの終焉。この世で始まったものが最後に行きつく場所。最果てにあるがゆえに滅び去らない絶対の神。

 大神御蔭丸。お前は何故、滅ばぬ“死”が最後に待ち構えているのか考えたことはあるか?

 どうせ最後は死ぬしかないのならば、産まれた瞬間に死が訪れても善いではないか。わざわざこの苦界を生き延びらせ、その際果てに“死”に相対させる理由はない筈だ。

 故にこそ、それが“死”への問いの答え。

 “死”は求めているのだ――――貴方がたが、お前たちが、貴様らが生の内に得た、その全てを」

 

 闇は語る。千年の殺戮を経た“死”の先触れが、その始まりに視た天啓を。

 

「我々は“死”によって生かされている。誰もが“死”を恐れ、“死”を遠ざけ、故に生き永らえようとする。

 “死”がなければ、我々は果敢に生きようとはしないだろう。ただ貪り、ただ目合(まぐわ)い、ただ眠る。そんな醜悪で混沌で無様で、虚の如く無価値な生になる。

 故に“死”は我らの最果てに在り続けるのだ。我らの影に潜み続け、親を殺し、友を殺し、並び立つ隣人を“死”に沈める。それがなければ自らの生の実感はなく、生き永らえようとはしない。

 我々は“死”によって生かされている。故に大神御蔭丸――貴様ももう死すべきなのだ。

 貴様の生も、貴様の記憶も、貴様の想いも、貴様の面影も――全ては“死”によって得たもの。

 差し出さねばならんだろう? 貴様を生かした“死”に対し、貴様が唯一差し出せる供物として。

 それだけが我々に為せる――――神たる“死”への報いなのだから」

 

 闇が噴き出す白い炎が祈るように揺れている。その様を見上げる御蔭丸は、一瞬だけ驚いたように眼を見開き――直後、大地に積もっていた黄金の粒子が集い、一本の長刀となって転がった。

 

「……卍解の消滅か。

 知っているぞ大神御蔭丸。貴様の眼にはまだ闘志が宿っている。それに反する卍解の消滅は、持ち主の死期が近い事を意味しているとな。

 ――貴様が最早放っておいても死ぬというのならば、その前に私が葬ろう。貴様ほどの力と数奇な在り方は、“死”もさぞや喜んで下さるだろう……

 ……――――終わりだ。大神御蔭丸」

 

 アルヴァニクスの言葉と同時に、炎の顔の前に二つの霊圧が収束する。遺伝子のように螺旋を描く光の糸で繋がった二つの霊圧は――極大の虚閃となって、御蔭丸の姿を光に鎖した。

 現世に霊圧の閃光が走り、ついで巨大な爆発が起きた。膿色の光が拡散し、それが晴れた後、残ったのは巨大な大穴だけだった。

 

「……何だ、まだ動けたのか。愚かな事だ、少ない寿命を削るだけだぞ」

 

 闇は穴から横へ顔を向ける。白い炎が揺れる先に、斬魄刀を握った御蔭丸が岩にもたれていた。息も絶え絶えで今にも死にそうな男は、だが闘志に満ちた眼でアルヴァニクスを睨んでいる。

 

「理解出来んな。貴様は何故そうまで戦う? 私の願いにせよ、他の誰かの願いにせよ、もう貴様は死ぬだけだ。なのに何故だ、その双眸は百年前と何も変わりはしない。

 私のほとんどを殺し尽くしたあの時と、何故そうも変わらない――――?」

「…………知りたいか……アルヴァ……

 ……まだ、勝ち目があると……思っているからだ……」

「くだらん妄想だな。卍解どころか始解も使えぬ、私に殺されかけている貴様に一体何が出来る」

「……何も、出来ないさ……俺に出来たのは、今も昔も一つだけ……――――自分を壊す事だけだ」

 

 傷だらけの狼はそう言って、斬魄刀を天に掲げた。アルヴァニクスはその行為を訝しむ。

 

「……降伏か? 何のつもりだ、大神御蔭丸」

「……お前が何故、仮面が割れた事でそこまでの力を得たのかは分からない……分かるのは、“黒死の霧”の範囲が狭まった事だけだ……」

「確かに、私の“黒死の霧”はこの状態ではそう遠くまで広がれんようだ。で? それが何だと云う」

「……卍解は強制的に消滅したわけじゃない。俺が自分で解除したんだ。そうしなければお前に勝つ事は出来ないからな」

「何を馬鹿な事を――――」

「――――アルヴァニクス・エヌマニュエル」

 

 名を呼ばれ、アルヴァニクスは眼の無い炎で御蔭丸を見る。そこにいるのは百年前から変わらない、滅却師だった死神だ。

 その髪の白さと、その肌の白さと、その眼の紅さと、百万の虚を殺したその所業で虚の如きと呼ばれた死神は。

 

「俺の斬魄刀の能力は霊圧の蓄積と解放。始解ならば三日、卍解ならば九十九年蓄積出来る。

 その霊圧を一瞬で、全て解放したら、どうなると思う――――?」

「……貴様ッ……!!!」

「答えを教えてやろう――――――――卍解」

 

 厳かに。自らを壊すその銘を呼んだ。

 

「――――――――『(ごく)(らく)(しん)(あま)()()(ごく)(そう)(てん)(せい)』――――――――」

 

 

 

   φ

 

 

 

 千年前。

 死体が高く積み重なった黒い黒い大地の上で、アルヴァニクスは神を見出した。

 天啓を受け、祈り、“死”という神の尖兵となった。

 それから千年、目につくものと強い者達を片端から殺して殺して殺し尽くす、殺戮の日々を送っていた。

 だが千年前のあの日以来、アルヴァニクスは神を見ていない。

 あの天啓とあの祈りは、神を見たあの日だけの、己だけの特別なものだと信じていた。

 ならば――――今目にしている、これは何だ?

 千年前に見た神のそれより遥か煌めく、黄金に満ちたこの光景は――――

 

 

 

 アルヴァニクスは呆然と空を見上げていた。身体をピクリとも動かさず棘だらけの姿の頂上の、白く燃え盛る炎すら止めて、脳髄だけでその光景を見る。

 黄金の光が降り注ぐ――――楽園を描いたかのような遥か天空の世界を。

 その光景の形容の仕方が、アルヴァニクスには分からなかった。言葉や感情で、とても語り切れるものではない。

 ――何だこれは。

 ただ心を打つ黄金の世界には、神がいない事だけが理解出来た。確信できるのだ――描かれたあの世界に、“死”の怖れが何一つない事。

 ――在り得ない。

 自らの神を否定するその光景に、アルヴァニクスは激怒するべきだった。それまでの殺戮と、積み上げた死体と、捧げ続けた祈りが、立ち尽くす闇にそうしなければならないと幾重にも幾重にも訴えていた。

 ――在り得てたまるものか。

 それでも、アルヴァニクスは動かなかった。それを発現させた死にかけの死神に眼もくれず、立ち尽くす事しか出来なかった。

 ――こんな、我が神をも超える、これ程の世界を描きながら――

 呆然と見上げる、“死”の無い世界。怖れ無き世界を写す黄金に輝く天空から、光だけが降り注いでいる。その光を一身に浴びて、アルヴァニクスは――無い筈の歯をギシリと、蟲翅のように軋らせた。

 ――――()()()()()()()()()()()()()――――

 

 そう思った瞬間、突然に、その光景は終焉した。

 

「……ナニ……!?」

 

 天空の世界に罅がはいる。硝子(ガラス)に蜘蛛が這うようにある一点から止め処なく、罅は広がり全土に渡り――そして、全ての空が墜ちてくるように、音を立てて崩れ去った。

 

「……ぐっ、うぅ……げほっ……」

 

 同時に聞こえる、弱弱しい苦悶の声。呆然としたまま首を下に向けば、岩にもたれかかった御蔭丸が血を吐いている。

 だがそこに居たのは見知った男ではなかった。

 骨のように白かった筈の肌が、浅黒くなっている。同じく硬質な髪も黒く、血を垂らしたような紅い瞳も真っ黒に染め上っている。

 そんな死神を、そんな滅却師を、そんな大神御蔭丸を――アルヴァニクス・エヌマニュエルは、一度として見た事がなかった。

 

「……何だ、その姿は……大神御蔭丸、貴様一体何をした……?」

「ごほっ……言った通りだ、アルヴァ。天禍津の持つ全ての霊圧を一瞬で解放し、お前とお前の“黒死の霧”に余さず降り注がせた……やった事は、それだけだ」

「…………そんな筈はない……この()が、この()(ども)が、この私が、何も感じなかったのだぞ……?

 お前は何もしていない……そうでなくては、そうでなくてはならない……」

「そうか……何も感じなかったか。なら、俺から言える事はたった一つだ……――――

 ――――アルヴァニクス・エヌマニュエル。お前はもう、滅んだのさ」

「何、を……――――」

 

 そう告げられた、その瞬間。

 死にかけた黒い男へ伸ばされようとした、棘だらけの細い腕が。

 

 何の前触れもなく、崩れ落ちた。

 

「――――!? 何だ、これは――――!?」

 

 呆気なく肘から落ち地面にぶつかる前に(ほど)け、散り散りになり消滅した自らの腕を見てアルヴァニクスは絶叫する。

 

「馬鹿な――――私の腕が“消滅”しただと!? いや、それよりも何故再生しない!? 何故増殖出来ない!! 大神御蔭丸、貴様は何を――――!?」

「……認めたくないのか? アルヴァニクス。お前はそこまで理解の遅い奴ではなかったはずだ。

 言った通りさ、お前はもう滅んでいる。お前にさえ感知できない程の霊圧が――お前の全てを滅ぼしたんだ」

「私に感知できない霊圧だと!? そんなものある筈がない!! この私でさえ感知できないなど、どれほど膨大な霊圧、を――――……」

「……――――それだけの霊圧だったんだ。俺の九十九年はな」

 

 話す間もアルヴァニクスの崩壊は止まらない。棘が次々と抜け落ち、身体の端から塵となって消えていく。

 アルヴァニクスはどうにかしてそれをとどめようとするが、何をしてもそれを止める事が出来なかった。

 

「ギイ、ギィイイィ、ギィイイイイイィィィイアアアァアアァアアアアァアアア!!!」

 

 それでなお諦めはしない。崩れ去る闇は喉の無い身体から千切れるような叫びを引き摺り出し――胴体を走る白い螺旋の仮面紋が広がったかと思うと、そこから()()()()()()()()()()が這い出てきた。

 そのアルヴァニクスは這い出てきた元よりも鋭く熱く凶悪だった。そのアルヴァニクスの仮面紋が広がり、また新たなアルヴァニクスが這い出る――その繰り返しを見せつけられる御蔭丸は、冷たい呼吸に溜息を混じらせる。

 

「…………どこまでも規格外だな、お前は。こんな今際(いまわ)(きわ)にさえ、新たな能力を発現するか。

 ――――進化。お前の場合は突然変異が近いかも知れんが、適応と先鋭を繰り返すその能力は、本来ならば神の地平すら超える禁忌の力なのだろう。

 だがなぁ、アルヴァ。死んだお前の一体何処に、進化に足り得る余地がある。

 お前はもう死肉の集まり。ただ壊れ滅んだ細菌たちの残滓に過ぎない。進化が生あるものの特権である以上――滅んだお前にその能力は使えない」

 

 血を吐く御蔭丸がそう言うと、新たに這い出たアルヴァニクスが早々に崩れ、消えていった。それに気付いた最初のアルヴァニクスは絶叫を止め…………呆然と、黒い男に呟く。

 

「私は……滅びるのか?」

「……そうだ」

「私は……消えるのか?」

「……そうだ」

「私は……――死ぬのか?」

「ああ、そうだ……アルヴァニクス・エヌマニュエル」

「……ハ……ハハッ、ハ……ハハハッハハ、ハハハッ……――――」

 

 乾いた声で闇は嗤った。茫洋と、自己を喪失してしまったように。端々から崩れながら壊れた嗤いを垂れ流すそれを、御蔭丸は黙って見つめる。

 両腕の肘から先が消えてもアルヴァニクスは嗤ったままだった。肩から先が消えても嗤ったままだった。両足が崩れ始め、細くなっていっても嗤ったままだった。やがて胴体に及び、頭部まで消え始めた頃。

 

「ハハッ、ハハハッ……――――ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 突然だった。白い炎と削れた頭蓋と脳髄しかなかった闇に突然乱杭歯が生え、脳を掻くように蟲翅を掻き鳴らす。ギチリギチリと軋る音を聞きながら、御蔭丸は闇を見続ける。

 

「これが“死”か!!!

 私がこれまで幾度も幾度も幾度も、あるゆる遍く全てのものたちに振り撒いてきた、どうしようもない抗いようのない逃げられないものか!!!

 なんたる無慈悲さよ!!! なんたる恐怖よ!!! なんたる絶望よ!!!

 私が殺した全てのものは、こんなにも素晴らしいものと相対していたのか!!! こんなにも恐ろしいものと相対していたのか!!! こんなにも甘やかなものと相対していたのか!!!

 私もようやく味わえるのか!!! 我が導きを、我が祈りを、我が神を!!! この全身に受け入れる事が出来るのか!!!

 この日を私は――――どれ程夢焦がれてきた事か!!!」

 

 それは誰にでもわかる歓喜だった。狂った喜びであった。アルヴァニクス・エヌマニュエルの、歪んだ祈りの結実だった。

 

「…………死ぬ事が、そんなに嬉しいか。アルヴァ」

「嬉しいとも!!! 貴様には何一つ理解出来んだろうがなア!!!」

 

 喜びに震えるアルヴァニクスに、御蔭丸は眼を細める。空の歯車の回る壊れた瞳で、狂い悶え滅んでいく闇を静かに見据え続ける。吐かれる言葉に何を想うでなく、ただその最期を見逃さないために。

 

「貴様には分かるまい、大神御蔭丸!!! もはや自身の滅びすら放棄した蠢く人形風情の貴様には!!! 私の歓喜の何たるかを理解する事は出来まい!!!

 だが理解出来なくとも聞いてもらうぞ!!! 我が喜びを、我が宿願の果てを!!! この世のあらゆる全てのものよ、耳をすませて聞くがいい!!!

 ああ、私は――――

 

      ――――――――生きていた――――――――!!!」

 

 アルヴァニクス・エヌマニュエルは、世界の全てにそう吼えて。

 最後の一片まで崩れ去り、この世から完全に死に絶えた。

 

「……アルヴァ。お前が何を求めていたかなんて、俺には分からない」

 

 灰も残さず消えた宿敵の痕を前に、御蔭丸は小さく呟く。

 

「戦いばかりがお前の願いだと、ずっと思っていた。けれどお前の喜びは別にあった。

 見誤ったと責めてくれるなよ? 元より俺に、それを判断する心なんて残っていない」

 

 その言葉は真実だった。死した後、アルヴァニクスと相対するまでの御蔭丸はそうだった。面影である彼に心無く、ただ積み重ねられた願いが壊れた心を支えていた。

 

「……だけど、一つだけ。これだけは言わせてほしい」

 

 けれど、アルヴァニクスとの戦いだけは違った。誰に願われて殺したのではない――彼は自らの心をもって相対し、心をもって討ち滅ぼしたのだ。

 だから呟く御蔭丸の顔は、誰の面影も無く荒れ果てている。かつて戦い、全てに打ち勝ち、全てを取り零した、泣き喚く少年のように。黒い狼は無表情に、アルヴァニクスのその痕を見る。

 

「――――ありがとう、アルヴァ。お前のおかげで、俺はこれからを生きていける」

 

 平坦で空虚なその声は、けれど壊れた筈の彼の心が僅かに宿っていた。

 傷だらけの狼は悼むように眼を閉じる。黙祷のように、あるいはその死を糧に前に進むために。

 御蔭丸はしばらくそうして――眼を開けたあと、前のめりに身体を折って大量の血を吐き出した。

 

「げほっげほごほっ……クソ、病は治らんか……」

 

 死覇装を赤く汚して血反吐混じりに悪態をつく。今の御蔭丸にはそれだけしか出来なかった。

 回道は使えない。技術があり気力があっても、御蔭丸には霊圧がない。

 肌と髪と眼の色が変化したのは――いや、生前のそれに戻ったのは御蔭丸の霊圧が限界まで小さくなっているからだ。

 霊圧が持ち主の容姿を変質させるなら、その逆も然り。霊圧をほとんど消費した今の状態は言ってしまえば霊が見えるだけの人間とほとんど変わらない。

 

「……天獄……」

 

 それに、ボロボロになっているのは御蔭丸だけではない。朧な眼を先に向ければ、粉々に砕けた斬魄刀の破片が散らばっていた。

 アルヴァニクスを倒した技は正確には技ではない。名前こそついているものの、本質はただの自爆特攻だ。

 器に溜まった水を一気に捨てるのは難しくない。器を持って傾ければ済む。壺であっても転がせば水は全て流れるだろう。

 だがそれが川ならば、池ならば、湖ならば簡単にいかない。非力な人間がそれらの形を留めたまま水を流す事は出来ず――故に決壊と言う形をとる。

 天獄もまさにそれだった。卍解により、九十九年という歳月の霊圧を蓄積する能力――それを一瞬で全て解き放って、刀身が無事で済むわけがない。

 精神世界に耳を澄ませても、天獄の声は聞こえなかった。

 

「……死んじまうなァ……このままじゃ……」

 

 力の入らない身体をもたげて、御蔭丸は空を仰ぐ。いつの間にか太陽は翳り、曇天が一面に広がっていた。

 ほどなく黒い雲から水滴が落ち――雨となって御蔭丸に降り注いだ。

 

「……嫌だなァ……死ぬのは」

 

 その雨に、黒い瞳から流れる涙が入り混じる。

 

「ようやく……生きたいって思えるようになったんだ……

 誰かの願いじゃなく、面影じゃなく……俺が生きたい……そう、思えるようになったってのに……」

 

 無念に満ちた表情で、荒れ果てた男は(かす)かに呟く。心を壊したその後で、それは初めて浮かべた――虚の如くと呼ばれた彼の、その心の表れだった。

 

「クソ、チクショウ……死にたくねえ……死にたくねえな……

 ……――――俺は、生きていたい――――……」

 

 だが、いくら呟いても答えるものはいない。アルヴァは死に、天獄が砕けた今、御蔭丸を助ける者はいなかった。

 冷たくなっていく身体が、御蔭丸の言う事を聞かなくなっていく。なけなしの心で動けと命じても、(まぶた)はゆっくりと降ろされていく。

 そして、御蔭丸の視界には暗闇だけが残り。やがてそれを視る御蔭丸も消えてしまうと思われた――その時。

 

「――――よお。すげえじゃねえか」

 

 不意に、気高い獣のような声が。雨に混じって落ちてきた。

 

「見せてもらったぜ、お前の『果て』。まさかあのアルヴァニクスを()っちまうとはな。今度手合せしようぜ、お前となら愉しく()れそうだ。

 ――おい! 四番隊との連絡はついたか?」

「はい! 卯ノ花隊長が直々にいらしてくれるそうです!」

「そいつは良い、(れつ)(ねえ)さんが来るんなら治せねェ奴はいねえからな。

 ……っと、お前、まだ生きてるよな? 流石に死んでたらどうしようもねェ、生きてんなら返事しろ」

 

 バシバシと強く叩かれる両の頬に、御蔭丸は思わず眼を開けた。

 掠れる視界の中で、最初に思い浮かべたのは獣だ。獣のように鋭い目つきと、並みより頭一つ高い背丈。

 一見して粗野に見えるざんばら頭が特徴的な――隊長羽織を着た知らない死神だった。

 

「……あな、たは……どちら様で、しょうか……?」

「あァ? なんだお前、俺の事知らねーのか?

 ……まあ、俺もお前の事なんか知らねーからお互い様ってやつだな。一応、自己紹介ってのをしてやるよ。

 

 ――――俺は『剣八』。

 七代目十一番隊隊長――――(くる)()(しき)剣八だ」

 

 ざんばら頭を掻きながら刳屋敷はそう言って――猛禽のような笑みを刻んだ。

 




原作より六七五年前の出来事。

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