ポケモンがいる時間 -A hand reaching your neighbor star-   作:スイカバー

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 そのガキに二度目に会ったのは、それから二か月後。シルフカンパニーの社長室でのことだった。

 

 シルフカンパニーはここ数年、ますます業績を上げ、カントー地方では二位以下に圧倒的に差を付けて、業界トップの企業としての名を欲しいままにしていた。

 

 そんな折、シルフの社長からロケット団総帥である俺に打診があった。ロケット団との縁を切りたいというのだ。元はただの研究所だったシルフが、企業としてここまで上り詰めることができたのは、ロケット団の協力の賜物に他ならない。だが、一大企業としてこれほど成長した今、このような暴力団との関わり合いがあることが世間に知られると、企業イメージとしていろいろと問題が起きかねない。だからロケット団との関係はもうこれっきりにしたい、という主張だった。

 

 もちろんそんなこと、ボスとして納得するわけにはいかなかった。シルフはロケット団が資金援助することでここまで育て上げたのだ。そして一方で、シルフからの上納金はロケット団の貴重な収入源にもなっている。おたがい持ちつ持たれつの関係でここまでやってきた。なのに一方的に関係を切ろうだなんて、許せるはずがない。

 

 俺は強硬策に出た。ポケモンタワーでの一件もあって、今度ばかりはボスとしての威厳を部下に示さなくてはならない。団員総出でシルフカンパニーに乗り込み、シルフの社長に直談判することにしたのだ。

 

 そこにやってきたのが、またしてもあのガキだった。いったいどこから嗅ぎ付けてくるのか。まさかユキナリの差し金なのか? いや、そんなことはない。やつは何も知らないはずだ。

 

 そんなことを考える暇もなく、ガキは社長室へとやってきて、俺のポケモンを倒していった。不覚を取った。ニドキングを本部に置いてきてしまったのが痛い。あいつがいればこんなガキ、相手ではなかったはずなのに。

 

 結局、この件が原因で、ロケット団はシルフと縁を切ることになってしまった。一番の収入源が立たれて、組織は財政難に陥った。いや、まだだ。いくら組織が縮小しようとも、この俺自身が強さを示し続ける限り、組織がなくなることはない。まだ挽回のチャンスはある。

 

 しかし二度あることは三度ある。俺はそのガキと三たびまみえることとなってしまった。それも今度はロケット団のボスとしてではなく、俺自身の強さが一番わかりやすい形で表れる、トキワジムのジムリーダーとしてだった。

 

 ジムリーダーは、その収入の少なさから、他に副業を持っている者がほとんどだ(俺のようにジムリーダーの方を副業としている者ももちろんいる)。だから毎日ジムに出勤できるわけではない。ジムリーダーとして門弟に稽古を付けたり、挑戦者の相手ができるのは、俺の場合、週に二~三日くらいのペースだった。特にここ数か月は、組織の経営が傾いたこともあって忙しく、ジムにはほとんど顔を出せていなかった。

 

 だからそれは不運だったとしか言いようがない。恐らくガキの方も、俺がトキワのジムリーダーだとは知らず、単にジムに挑戦しようと思って来ただけだったのだろう。俺の久々の出勤日と、そのガキの訪問が、偶然にも重なってしまったのだ。

 

 ガキは俺の姿を見て驚いたようだったが、俺は何食わぬ顔で挑戦者を歓迎した。それが無駄な取り繕いだとは痛いほどわかっていながら。

 

 バトルは一時間にも及ぶ長期戦となった。おたがいのポケモンが四体ずつ倒れ、残りは一対一。こちらが切り札のニドキング、ガキの方はカビゴンという巨大な重量級のポケモンだった。

 

 パワーはカビゴンの方が上なので、俺は肉弾戦を避け、遠距離からの攻撃を放った。

 

「ニドキング、”れいとうビーム”!」

 

 しかし、カビゴンの分厚い皮下脂肪によって、攻撃は吸収されてしまう。やはり接近戦ではないと効果は薄いか。次にカビゴンが攻撃の姿勢に入る。その全身を押し出し、鈍重の巨体とは思えないスピードでこちらに向かってくる。”すてみタックル”という技だ。

 

「受け止めて、”メガトンパンチ”だ!」俺はニドキングに指示を出す。

 

 だが、ガキの攻撃はその一手上を行っていた。”メガトンパンチ”がカビゴンの腹にストレートに決まったところまでは良かったが、次の瞬間、当てた部分が光を放って輝き始め、その光は腹から右腕の方に移動した。そして、その光る右腕がニドキングの横っ面へと叩きつけられる。ニドキングは崩れ落ち、気絶してしまった。

 

「”カウンター”か……」

 

 相手の攻撃を受け止め、倍の威力で返す技。そんなものを隠し持っていたとは……。とても十歳かそこらのガキの戦い方とは思えなかった。

 

 俺は敗北した。俺は三たびの邂逅で、このガキにたくさんのものを否定されてしまった。ボスとしての人望、組織力、そして俺自身の強さ。このままではこのガキは俺のすべてを奪っていってしまうのではないか。

 

 ジムバッジを手にするそのガキの笑みは、俺にはとてつもない恐怖の対象として映った。

 

 いったん、出直すべきときなのかもしれない……。

 

 その後、俺はロケット団の一時解散宣言を行い、自分自身を鍛え直す修行の旅に出た。再びボスとして相応しい男になるまで、俺は今の座を捨てることにした。ジムリーダーも辞職届を出した。やはり過去の栄光にしがみつくのではなく、もっと未来を見据えなければ。

 

 この宇宙のどこかには、まだ俺に手の届く星が瞬いているかもしれない。


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