ポケモンがいる時間 -A hand reaching your neighbor star-   作:スイカバー

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第43回 ハナダ携帯獣学会 19XX年度春季大会

 

 

口頭発表<午後の部> B会場

タマムシ大学大学院携帯獣学研究科遺伝子学専攻助教授 フジ・ウィステリア

          「携帯獣の真実-平行世界からの侵略者-」

 

 

○質疑応答記録

――ヤマブキ科学大学のアワダチです。興味深く拝聴させていただきました。えー、質問ですが、この論文の記述では、ポケモンは百数十年前に初めてパラレルワールドからやってきたと解釈しているように思われるのですが、現実にはポケモンの化石が各地で発見されています。厳密な時期は明らかにされていませんが、少なくとも一万年以上昔のものであることは確かだと言われております。このように、事実として絶対的な時間的差異の矛盾が存在する以上、この論説は私にはにわかに承服しがたいのですが、フジ先生はどうお考えでしょうか。

 

フジ「ご質問ありがとうございます。化石については、そうですね、確かに太古からポケモンが存在していたことを裏付ける証拠として、目下研究対象の的となっているようです。しかし、化石というのはあくまでそれがその時代に存在した、というただの痕跡に過ぎません。肉などの軟質部分は経年劣化で失われていますし、骨や歯なども大部分は化学変化によって変質します。いうならば化石はその生物の実態そのものではなく、単なる情報でしかないということです。既存生物の化石には、一部実体が残っているものも発見されていますが、ポケモンでは今のところそのような例はありません。これはどういうことかというと、情報の入れ替わりによる産物なのだと思われます。紙面の第三節で述べていますが、ポケモンはその実体だけでなく、記憶や痕跡などの情報すらも入れ替えることが可能です。化石という痕跡はつまり、既存生物の痕跡の入れ替わりと等価交換でこの世界に持ち込まれた、単なる副産物であるというのが私の見解です」

 

――タマムシ大学のハコベです。フジ先生、お久しぶりですな。いやはや、あのフジくんをまさか先生と呼ぶ日が来るとは……。あ、こりゃ失敬。フジ先生は私のかつての教え子でして。しかし、これは昔の君からは想像もつかない、随分と大胆と言いますか、突飛な論文ですな。我々の領域で、こんなデータもろくに記さずに、ただ妄想を書き散らしただけの文章を見ることになるとは。これは論文というより、ただのエッセイではないですかな。正直言って、失望しましたぞ。君には少なからず才能を感じていたのに。……ああ、質問でしたな。ではずばり、いったいどういうわけでこんな世迷言を垂れ流そうと思ったのか。その理由をお聞かせ願いたい。

 

フジ「それは質問でしょうか? データに乏しいのは事実ですが、それについては、最終節にも書いています通り、まず仮説を立ててそれからデータで立証していくという演繹的な手法で進めていこうということです。それから、なぜ仮説のみの段階でこのような論文を発表するに至ったかですが、それは一刻も早くこの事実を世に公表するべきだと考えたからです。仮にこの仮説がすべて間違いであったならそれでも構いません。どんな汚名も甘んじて受け止めましょう。しかし、もしこれが真実であったなら、のんびりデータを集めて検証していたのでは手遅れになってしまう。例え論文の通例としては不適当な形であっても、何としてでも多くの人に知ってもらいたい。それが理由です」

 

――ニビ科学博物館学芸員のオオバです。大変面白い論だとは思うんですが、皆さん同様、私も簡単には信じられません。先ほどのアワダチ先生のご質問とやや被るんですが、えーと、やはり百数十年前にポケモンが初めて現れたという点です。各地の古い民話などによると、それよりももっと昔、少なくとも三百年以上も前から人々はポケモンと共に暮らしていたという記述が複数見られます。これについては、どう解釈したらよいものでしょうか。

 

フジ「ご質問ありがとうございます。まず、民話は私の専門ではありませんし、そもそも私は科学研究における民話の信憑性というものをあまり信じていません。ですがあえて解釈を加えるならば、その民話の中でポケモンと称されているものは、実は後付けで定義されたものと考えるのが自然だと思われます。その時代においては未発見であったこの世界の既存生物が、ポケモンの発見以降、あれは実はポケモンだったのではないかと囁かれるようになったというだけで、ポケモンがそんな昔からいたという証拠には恐らく成り得ないのではないかと考えています。もちろん専門外の話なので、断定することは避けますが……」

 

――失礼しました。

 

フジ「いえ、ところでその民話の本のタイトルを教えていただけませんか」

 

――ええと、あれは当方の博物館の蔵書で、確かシンオウ地方から取り寄せた、『シンオウ昔話』だったかと思います。

 

フジ「ありがとうございます」


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