【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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焦眉の急

「千葉県沖太平洋上にパターン青! 使徒です!」

 

響く警報によって即座に召集されたスタッフ達。彼らが見つめるモニターの先、監視衛星からの映像に映るのは、どこか間抜けっぽい白い仮面と、黒い包帯の塊のような身体を持つ使徒だ。

 

第14使徒ゼルエル。神の腕の名を持ち、力を司る最強の使徒。

 

ゆっくりとネルフに向けて移動するその使徒は、あろうことか、自身を見つめる衛星と『視線を合わせて』見せた。直後、閃光。

 

「……使徒の狙撃により衛星消滅! 予備に、いやダメです、目標に高エネルギー反応!」

「国際インターネット回線途絶! 通信衛星が落とされ、いえこれは————北半球を現在飛行中の全衛星、目標により撃墜されました……!」

「本部の監視装置に切り替え————」

「待って! 対象は観測を起点に反撃している可能性があるわ! 観測中止、エヴァンゲリオンを出して防御配置! あの射程なら、『太平洋からここを狙える』わよ!」

「了解、エヴァンゲリオン全機発進準備!」

「シンジ君、アスカ、レイ、マリちゃん、カヲル君、発射前からATフィールド張っといて! 出待ちされるかも!」

『了解! 全く、早すぎるわよ使徒襲来』

『まぁ向こうさんも生存競争に必死なんだにゃあ』

『……負けてあげるわけにはいかないわ』

『ははは、仲良く出来るなら1番だけどね』

『シンジ君は優しいね。好意に値するよ』

『カヲル! アンタ隙あらば他人の彼氏口説くのやめなさいよね!』

「……はは、元気そうですね、子供たち」

「マヤも少し見習うべきかしらね?」

 

そう告げて『ハーブティ』を啜るリツコは、何とも穏やかな表情をしている。

 

そこに使徒への畏れは無く、彼女はただ冷静に戦況を分析していた。

 

————観測に反応して反射的に迎撃。

 

それは一見すれば不可能な行為に思えるが、マクスウェルの悪魔によれば『情報とエネルギーは等価』。見られていることを感知する能力というのは、あり得ないわけではないのだ。

 

そして、そんな微少なエネルギーを探知可能な存在が、ネルフに気づいていない訳はない。

 

だが、エヴァンゲリオンの射出より先に、リツコが最も頼りにする存在が、海中から現れた。

 

そして、その姿は随分と馴染み深いものだ。

 

「第3使徒出現! 第14使徒の推定現在位置に突撃していきます!」

 

黒い身体に骨の仮面と肩当て。イロウルとバルディエルの権能によって往時の姿を取り戻したサキエルが、重力制御と飛行能力にラミエルの電流操作を駆使したイオンエンジンをも駆使して超音速で洋上のゼルエルへと吶喊していく。

 

その手に輝くのは、光の杭。マトリエルから得たナノATフィールドの放出による分子分解能力とサンダルフォンの超高温をサハクィエルの重力制御とラミエルの電磁操作で収束させたその一撃は、あらゆる物体を光に還す消滅の槍。

 

数万トンの体重が、音の壁とともにその杭を打ち込むという初見殺しの一撃必殺が、サキエルの狙いであった。

 

だが、しかし。ゼルエルが眼前に展開した無数のATフィールドが、その破滅的な一撃を食い止める。

 

その総枚数、大凡5千。その内8割強を打ち破ったサキエルの突撃も称賛すべき威力だが、その猛撃もゼルエルの10m手前で停止し、そこにゼルエルの容赦ない反撃の破壊光線が打ち込まれた。

 

閃光。水中衝撃波。遅れて音。ネルフがガタガタと揺れるその一撃にしかし、サキエルは自身の背と正面にATフィールドを展開することで、『その場で喰いしばる』という無茶を通し、逆に光線を打ち込んでゼルエルの多層ATフィールドを焼き払う。

 

それはまさに神話の戦い。ぶつかり合う力と力は激烈な余波を巻き起こし、出撃したエヴァンゲリオン各機を暴風が襲った。

 

だが逆に言えばそれだけ。津波も、衝撃波も、未だ日本には届いていない。

 

その原因は、明らかにサキエルだった。

 

「何つぅ馬鹿でかいATフィールド……サキエルの奴、こんなもん維持しながらアレと戦ってるわけ?」

「強くなる程、全力を攻撃に向けるわけには行かなくなる。兄さんは今、人類を滅ぼさない事に力の大半を割いている筈だ。儘ならないものだね」

「助けに行かなきゃ……」

「シンジ。でも遠いわ」

「確かにエヴァの飛行は浮遊だからにゃあ。速度はあんまり……気合いで急ぐ感じかにゃ? ATフィールド踏んで加速すりゃあ無理じゃあないけど……どうするミサトちゃん?」

『JA-S型を出撃させるわ! 乗ってちょうだい!』

 

そう告げるミサトの声とともに出撃するのは、蜘蛛型巨大ロボ、JA-S型。エヴァンゲリオンのポーターとして各種武装を背負い、なんならエヴァンゲリオンも担いでしまえるお役立ちメカである。

 

反重力装置によって重量を軽減したこの機体は、飛行もできるスーパーメカとして完成していたのだ。

 

……無敵のATフィールドのせいで、コレでも強めの使徒相手では手も足も出ないのが切ないところだが。

 

「ひゃっほう騎兵隊の到着だにゃあ!」

「うっわ、武器山積み。流鏑馬でもしろっての?」

「弓で打つの?」

「いや弓矢は騎兵隊じゃなくてインディアン側じゃないかな……?」

「お。ワンコ君西部劇見るんだ。じゃあワイルドバンチ盗賊団になりきろう!」

 

ワイワイ騒ぎつつも、JAに取り付けられたエヴァンゲリオン用の『取手』を掴み光輪を浮かべて浮遊するエヴァンゲリオン零、初、弐、3、4号機。3と4は弐号機の予備パーツとネルフに保管してあったコアの予備で建造した『弐号機の色違い』でしかない。

 

コレに乗っているのはゼーレが送り込んできたものの懐柔されて速攻ネルフに鞍替えしたマリとカヲル。ピンクと銀の目立つカラーの新参者は、N2ロケットエンジンで現場に向けて急発進するJAの背から『130mm回転式8連装N2徹甲榴弾機関砲』という頭わるわるな武器を引っ張り出した。

 

まず130mmというのが頭がよろしくない。どう考えてもその口径は『艦砲』である。

 

そしてそれがなんと8連装でガトリング砲よろしくグルグル回る。素晴らしくバカだ。

 

挙句に弾薬はN2を遅延信管で炸裂させるスーパーアホアホキチガイ兵器である。およそ正気で考えられたモノではなく、人間の住む土地に向けて撃った瞬間、向こう2000年は戦犯として歴史に名が残るだろう。

 

だがマリは、エヴァの超視力が遠方のゼルエルを捉えた瞬間なんの躊躇いもなくその火力を解放した。

 

「にゃはははは〜! 最ッ高!」

「ちょっと馬鹿マリ! サキエルに当てんじゃないわよっ!?」

「お任せあれってねぇ!」

 

飛翔するアホすぎる火力の弾頭は、間違いなくゼルエルに向けて飛翔し、そのATフィールドにぶち当たる度に強烈な爆発を引き起こす。

 

立ち登る火柱とキノコ雲。砲撃を行いながら『騎兵突撃』を行うエヴァンゲリオン達は、ゼルエルを目指してその炎の中へと突入する。

 

最強の使徒との戦いが、今本格的に始まろうとして居た。


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