【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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(●v●)
毎日更新はそろそろしんどいのでのんびり更新に切り替えるよ!


怨み骨髄に徹す

「目標、最終防衛ラインを超え第三新東京市直上に入りました!」

「了解。……非戦闘員の避難は?」

「昨日に完全完了済みです」

「了解。……総員、第1種戦闘配置! これより第5使徒撃滅の為、『ヤシマ作戦・改』を発動します! 作戦開始! 狙撃ポイント二子山にエヴァンゲリオン両機および『パイルキャノン』展開! 自動攻撃装置および無人攻撃機、砲撃開始!」

 

矢継ぎ早に飛ばされるミサトの指示を受け、慌ただしく動き始めるネルフスタッフ達。本部発令所の指示のもと動き始めた第三新東京市の兵装ビルが凄まじい勢いで第5使徒を集中砲火し、爆炎が第5使徒のATフィールドを焼いていく。

 

当然、そんなことをすれば反撃は必至。薙ぐように放射された荷電粒子砲が兵装ビルを焼き払い、ミサイルを撃ち落とす。だが、そんなラミエルに対し、第三新東京市全域から『煙幕』が吹き上がった。

 

それは、ただの煙幕ではない。亜鉛の蒸気だ。亜鉛の沸点は907度と比較的低温。ネルフの科学力ではこれを煮えたぎらせる炉の作成などいたって容易なことだ。無論、冷たい大気に解き放たれた亜鉛は急冷されて即座に固化するが、その粒子径は微細であり、空気の粒に落下を邪魔されながらふわふわと滞空する。

 

これを聞いても、で、亜鉛の微粒子が撒き散らされたから何なんだ、と思うかもしれない。

 

此処でポイントなのは、微粒子金属を空気中にばら撒いている事だ。この瞬間、空気は絶縁体では無く、ほぼ導体として見做せる。

 

「放電開始!」

 

ミサトの号令によって、第三新東京市のあらゆる場所に仮設された電極から、大電流が放出される。その向かう先はといえば、激烈に『プラス』に帯電しているラミエルの荷電粒子砲加速器だ。

 

せっかく束ねて集めて加速している陽イオンに電子がぶつかればどうなるか。当然中性化されてしまって、加速出来なくなる。なので加速器というものはあの手この手で電気対策をしているのだが、大電流をバチバチと流されるなんて想定していない。

 

ラミエルもそれは例外では無く、彼の加速器の内部で、電気的に中性化されてしまったウランが詰まりを起こし始めた。

 

もちろん使徒が持つS2器官の無限エネルギーを以ってすれば、加速出来なくはない。詰まったウランも、荷電粒子と一緒に外に出してしまえば詰まりは取れる。

 

だが、それはすなわち、ラミエルにとっては無用な砲撃を行わざるを得ないという事。

 

そしていざ発射したとしても、出てくる先は強烈な電場の中だ。若干とはいえ荷電粒子砲の照準はブレ、狙った所にあたりにくくなる。

 

さらに亜鉛の微粒子も中々の邪魔者。それなりに重い金属なので、荷電粒子の直進に対して抵抗力が生まれ、出始め部分の収束が甘くなってしまう。ということは荷電粒子が無事に集束する様に、放出時間を僅かとはいえ増やさねばならなくなるのだ。

 

これが水鉄砲ならあまり気にする必要は無い僅かなロスだろうが、これは荷電粒子砲である。コンマ1秒の照射延長でも、凄まじいエネルギー損失だ。

 

そして砲撃すればチャージが必要となり、砲撃するたびにラミエルの身体は徐々に高熱になっていく。そうなれば、行き着く先は、先日と同じ機能停止。

 

今回の作戦の思考は、至ってシンプル。ラミエルの武器である荷電粒子砲を可能な限り妨害し、絶え間ない武力行使によって二子山に展開しているエヴァへ注意を向けられる事を可能な限り阻害。ラミエルが過熱によって活動停止するなどの隙を晒した瞬間に、そこを最強の火力で狙撃するというものだ。

 

その攻撃手段としては当初戦略自衛隊の有する『ポジトロンスナイパーライフル』が検討されたものの、狙撃に日本全国の電力が必要となる点、ラミエルの荷電粒子砲を妨害すれば同じ荷電粒子砲であるポジトロンスナイパーライフルも妨害される点などから却下。

 

代わりに採用されたのが、第3使徒の武装である光のパイルを解析して建造された決戦兵器「パイルキャノン」である。

 

エヴァンゲリオンの運用を前提として製造されたこの武装を一言で説明するならば、『バカデカい徹甲弾をブチ込む滑腔砲』である。

 

そう聞けば、誰しも思うことがあるだろう。

 

————そんな物、エヴァに持たせないで据え付けて運用しろよ。

 

だが、この兵器にはエヴァンゲリオンが絶対に必要なのだ。

 

理由は、この兵器の馬鹿げた構造にある。

 

この兵器、劣化ウラン製の砲弾を『N2爆雷を起爆させて打ち出す』という超脳筋アイテムなのだ。

 

核爆弾以上の出力を持つ爆弾を発射薬として使うのは、当然ながら常識の埒外。秒速10km、マッハにして30という恐ろしい速度でブチ込まれる巨大な劣化ウランの杭は、MAGIの試算が正しければ確実に第5使徒のATフィールドを貫通できる。

 

だが、そんな起爆力を受け止められる砲身などこの世に存在しない。そこで採用されたのがエヴァンゲリオンだ。

 

「シンジ君、レイ。この作戦は貴方達がATフィールドを安定して展開する事に掛かっていると言っても過言ではありません。……訓練通り、落ち着いた操作をお願いするわ」

「はい、リツコさん」

「了解、赤木博士」

「MAGIのサポートで、エヴァンゲリオン両機のATフィールド位相を調整して、発射の瞬間にATフィールドを砲身内壁として展開。起爆したN2爆雷の全ての威力を飛翔体を発射する為のエネルギーに転換させた、超威力徹甲弾で使徒を撃滅する。その作戦に重要なのは、タイミングよ。……第一射で仕留められなければ相手の反撃でこの二子山は吹き飛ぶわ」

「……あの……タイミングって、どうやってはかるんですか?」

「もちろんMAGIの予測……の中で、最も確率の高いタイミングで発射するわ。……不本意だけど、その為の鍵は————」

 

そう告げたリツコが、チラリと二子山から見える芦ノ湖に目を向けた直後、ネルフ本部からの通信が、リツコ達のいる二子山へと到達する。

 

「パターン青! 第3使徒です!」

 

 

* * * * * *

 

 

————時刻は遡る。

 

ラミエルの荷電粒子砲を直撃させられたサキエルは、N2爆弾の直撃以来、いやそれ以上に満身創痍の状態にあった。

 

何しろ、芦ノ湖の湖底に沈む彼の肉体は、四肢を失った上半身しか残されて居ない。更に言えば、その残った体でさえ、重度の熱傷でドロドロのケロイドになっていた。

 

それでも、サキエルは生きていた。生きて、恐怖して、恐怖のあまりに————怒り狂っていた。

 

怒りとは、生物が真に追い詰められた際に起動する戦闘状態。アドレナリンによって心臓に負荷をかけ、痛覚を遮断し、複雑な思考を制限して肉体機能を『戦闘』へと集約させる生体システム。

 

ヒトの模倣を行った事でサキエルに組み込まれたその防衛システムは、S2機関を臨界稼働させ、湖底の泥や湖水を無理矢理肉体に吸収してリソースとしてサキエルの肉体を復元していく。

 

だが、人間がそうであるように、怒りとは本来瞬間的な物。人間離れしたサキエルといえど、怒り狂っていられたのは精々が1日。その間に怒りの力で大方肉体は再生していたが、肉体に負荷をかけ過ぎて若干グロッキーだ。

 

それに怒りが醒めてしまえば、残るのは恐怖。

 

————勝てるかァあんなモン!

 

的な結論をサキエルのパターン青色の脳細胞が導いてしまうのも無理はない。

 

だが。生物が怒りの後に、その原因を排除できなかった場合、起動する第二の防衛機構がサキエルの中で起動した。

 

————怨嗟である。

 

この怨み晴らさでおくべきか、というやつだ。怒りほどの瞬発力も出力もないが、その代わりに『相手を破滅させる』ことをタスク処理の上位に組み込むプログラムである。

 

この瞬間から、サキエルは第5使徒ラミエル絶対ぶっ殺すマンと化した。思考内でシミュレートを繰り返し、自身の肉体を強化し、使徒殺しを真面目に考え続けていた。

 

サキエルに知恵の果実を食べた者たちのような知識はない。あるのは経験からの推論だけだ。

 

そして結局、サキエルが建てた作戦は、『小さいヒト達に便乗する』だった。

 

今までの経験上、使徒が現れればヒト達は必ず戦いにやってくる。それがどんなに無謀であっても。————察するに、サキエルと同じく、ヒト達も『完全生物の誕生』に思うところがあるのだろう。

 

であれば、サキエルをこの湖まで吹き飛ばしたあの一撃に対抗する手段を、小さいヒト達は必ず考え、実行する筈だ。それをサポートしてやれば、あの凶悪な使徒にすら打ち勝てることだろう。

 

ならば、サポートという観点から見たサキエルの役目とは、一体なんだろうか。

 

そう考えた末に自分が出した『とある結論』に、サキエルは抵抗感を抱きつつも、自身の案なのだからと納得させて覚悟を決めたのだった。


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