【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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内憂外患

「うん、まぁ、予想はしてたよ、うん」

 

大量のちびレイに集られる、同じく大量のサキエル。ネルフ脅威の科学力であっさりクローニングされ、人造の魂を付与されたレイの100人の妹達は、レイの記憶と思考パターンを組み込まれている。

 

故にこそ、サキエルは計画を聞いた時点からその養育に50体の人員を割いて居た。

 

そして今、サキエルの予想通り『哺乳類になる』事を決意したレイシリーズはサキエルに吸い付いており、1対2での苦しい戦いによってサキエル50体には疲労が蓄積————せずに、疲労集積担当のサキエルが寝込んでいるというわけだ。

 

冒頭のセリフは、この疲労集積担当のものである。

 

レイの許可を得て、というか最近レイの要請で添い寝が増えたので実質共用となっているベッドで横になる疲労担当は、体液を100人に啜られる感覚にゲッソリとしており、そこに更に何百何千人ものサキエルがタスクをこなす際の精神疲労が重なる事で、こうして寝込んでいるのである。

 

そしてそんな彼に寄り添うのは、別に癒やそうとかは考えていない本体の方のレイ。妹に触発されて『第二次おっぱいブーム』が来たらしい彼女は、疲労担当に添い寝をしつつ、その胸をちうちうと吸っている。

 

そんな彼女を優しく撫でている疲労担当はしかし、それでも癒されていた。

 

というか、そもそも授乳や仕事が嫌なわけではない。それに伴うやりがいや喜びは各端末に残り、疲労部分のみを集積されるから疲労担当が疲れているだけなのだ。

 

故に疲労担当は癒しを求めてレイを甘やかし、レイは甘やかされるままに甘えるというのが、疲労担当兼レイ担当な個体とレイとの最近の日常であった。

 

 

* * * * * *

 

 

一方で、アスカとシンジはといえば、朝からゴロゴロしているレイとは異なり、ジオフロントの人工自然の中にあるちょっとした公園に散歩にやって来ていた。

 

「レイの妹、今頃培養液から出されてサキエルに群がってる頃かしら」

「レイのおっぱい好きはアレ何なんだろうね。サキエルは妹も絶対そうなるって言ってたけど……」

 

そう言って苦笑するシンジが思い浮かべているのは、先日サキエルとリツコに連れられて見学に赴いた地下の培養施設。

 

5歳程の姿をした大量のレイがLCLにぷかぷかと浮かび、水槽の向こうのシンジたちを見つけては興味深そうにガラスにペチャっとほっぺをくっつけていた姿は、中々に愛嬌があった。

 

……サキエルの言う通りなのか、サキエルが水槽の近くに寄ると多くの個体が口をモゴモゴさせていたのはちょっと怖かったが。

 

「それにしても、結構未来感あったよね、あの培養装置」

「たしかに。リツコに軽く構造も見せてもらったけど、アレはSFの世界ね。……ま、エヴァに乗ってるアタシ達がそんな事言うのはどうなのかってのはあるけどさ」

「ははは、それはそうかも。僕もアスカも、目が光ってるし。十分SFっぽいよね」

 

そう言ってクスクスと笑うシンジは、青く輝く自身の目を指差してウインクして見せる。

 

それに対して『何よそのあざとい仕草』とシンジの頬をつつくアスカはイチャイチャとした雰囲気を出しつつも、シンジの雑談に乗っかった。

 

「というかクローンのレイ、デザイナーベイビーなアタシ、天才のサラブレッドなシンジ。どう考えてもアメコミの世界のヒーローチームじゃない?」

「X-MENみたいな?」

「そうそう」

「……追加メンバーとかいるよね、そういう場合」

「そういえばフォース以降のチルドレンが来たらそうなるわよね。……どんな子が来るのかしら」

「さっきの流れだと改造人間とか人型ミュータント?」

「有り得そうなのが怖いわ。使徒の力を取り入れたスーパーチルドレン! みたいな」

「ははは、B級っぽいね」

「確かにね」

 

そう言って笑う2人はしかし、帰宅した後にゴロゴロしていたレイと一緒に驚愕の連絡を受ける事になる。

 

 

「フォースとフィフスが日本に来るぅ!?」

「ああ。アメリカで最終調整中の3号機と4号機は後からになるらしいけどね」

「同居するの?」

「いや、そこはまだ決めてない。本人達の希望次第かな」

 

そう子供達に告げる育児担当サキエルは、内心に言葉を飲み込んだ。

 

————ゼーレからの刺客かも知れない。

 

そんな余計な言葉は、子供達に伝えるべきではない。ただ、サキエルはあくまでそれを念頭に行動するというだけの話だ。

 

————万が一、億が一、普通に良い子だったら気まずいけどね。

 

そう考えるその思考は裏切られるのだろう。そう思っていても、そう願わずにはいられない。

 

つくづく、甘くなってしまったものだと自分の『心』を自重するサキエルだが、感情と切り離された彼の演算回路は、冷徹にゼーレに対する警戒策を練り上げる。

 

ゼーレの送り込んでくる2名のチルドレン。その存在は、混乱から立ち直りつつあるネルフ本部に、新たな嵐をもたらそうとしていた。


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