【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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百錬成鋼

「「ちぇすとぉッ!」」

「ぬぉッ!? 危な————」

「隙あり」

「うおぉぉッ!?」

 

アスカとシンジによる、息のあった540度2段回転蹴り。それを辛くものけぞる事で回避したサキエルの頭部に対し、レイが容赦のないジャンピングフットスタンプを仕掛け、頭蓋骨圧砕を避けるべくサキエルは無様に地を転がる。

 

訓練2日目。午前からいきなり格闘訓練となったこの日は、前回同様サキエルとチルドレンの乱取りとなっている。

 

明らかに初日より連携力が増しているチルドレン達の猛襲に、サキエルは若干押され気味。

 

————訓練の成果が出ているとはいえ、これではあまり練習にならないのでは?

 

見学しつつもそう考えてしまうミサトだが、そんな彼女の心配は既にサキエルと加持が想定済み。

 

「妨害いくぞー」

 

そんなのんきな掛け声と共に加持が持ち出したのは、ピッチングマシンと大量のテニスボールだ。

 

連射仕様に改造されたそれをさながら銃架に置かれた重機関銃のように構えた加持は、チルドレンに向けて容赦なくテニスボールをブッ放す。

 

絶対に当たったら酷い目に遭うだろうその遠距離兵装に対するチルドレン達の混乱は中々のものであり、たちまち形勢は逆転。飛び交うボールを器用に避けつつ攻撃を行うサキエルによって、チルドレン3名はあっさりと討ち取られてしまう。

 

「……ボールは厄介」

「加持さんから先にやっちゃうとか?」

「アリなの?」

「すまんなシンジくん、アスカ、レイちゃん。残念ながら訓練の一環で俺への攻撃は禁止だ」

「えええ……難易度いきなり上がり過ぎてませんか」

「武器が欲しい……」

「レイちゃんが武器を使うなら僕も武器を使うけど良いかな?」

「よっしゃ、レイ、シンジ、今日はステゴロで行くわよ!」

「潔いね、アスカ……」

「……シンジのATフィールドから『でもそんなところも好き』という波動が……」

「レイちゃん、それをつつくと馬に蹴られて死ぬらしいぞ」

「怖い」

「ああ、怖いな」

「アンタらねえ、馬の前にアタシが蹴るわよ!?」

 

そう言ってプンスコと照れ混じりに怒りながら立ち上がったアスカと、同じく照れているシンジ。呆れた感じのレイ。

 

元気が復活したチルドレン達に対し、加持のピッチングマシンとサキエルの連携が再び牙を剥く。

 

何やらスポ根じみてきた特訓2日目は、順調に進んでいくのだった。

 

 

* * * * * *

 

 

さて。チルドレン達がトレーニングしている一方、ネルフ内にはもう一つの戦場が存在している。

 

現在リツコとサキエル——暗躍担当。気配遮断済み——が訪れているのは、そんな戦場の一つだ。

 

「総員退避! 総員退避! 発破1分前! 総員退避!」

 

計算され尽くした配置で仕掛けられた爆薬に包まれているのは、巨大な鉄の棒。高マンガンオーステナイト鋳鋼による直径1m長さ30mの巨大な丸棒に対し、現在爆発硬化処理が行われている真っ最中なのだ。

 

この巨大な鉄の棒は、エヴァンゲリオン用の『杖』。いわゆる『杖術』の為の武器である。

 

当然、プログレッシヴナイフのような超振動機能もなければ、ビームが出たりもしない。ただ凄まじく頑丈な鉄の塊である。

 

しかし、かえってその方が使い勝手が良いのでは? というサキエルの案で、さしあたって零号機用に準備されたのがこの1本である。

 

そして、リツコとサキエルはそれぞれ言い出しっぺと責任者という立場から、その製造工程の見学にやってきていたのだ。

 

「おお、コレはなかなか……これだけ離れていても煩いとは」

 

そうサキエルが言う通り、起爆した小型N2の群れが生み出す爆破は中々の轟音を伴っている。

 

隔離用のチャンバー内での作業でもそれなのだから、発生した衝撃の凄まじさが窺い知れるというものだ。

 

「発破に小型のN2爆雷を使って爆縮レンズを形成する、超圧縮加工ですもの。……世界で一番お金の掛かっている鉄棒かも知れないわね」

「レイちゃんが気兼ねなく使徒を撲殺出来る様にするには相応の強度が求められるからねえ」

「一切の逃げ場なく激烈な圧力を瞬間的に掛ける事で、高強度の鋼材を得る……原理としては鍛造に近いけれど、ここまで凄まじい爆発を『金属加工のため』だけに行ったのは私達が初めてじゃないかしら」

「……指向性かつ小型とはいえN2爆弾には違いないからね。ネルフの誇る研究設備でなければ爆発には到底耐えられなかっただろう」

「チャンバーはエヴァの複合装甲と同じ材質で作ってあるから、ある程度のエネルギーなら問題ないわ。それに……あなたが手伝ってくれるのだもの。心配は無いんでしょう?」

 

そう言って微笑むリツコに、サキエルは苦笑を漏らしてしまう。

 

実のところチャンバーの損耗対策として、サキエルのATフィールドが内部に展開されているのだ。

 

「……僕のATフィールドを過信するのもいかがなものかとは思うが」

「絶対防壁をエヴァなしでも使えるのなら、実験に利用しない手は無いもの。……じゃあ次はシンジくん用の超大型日本刀ね。赤熱している間に鍛造整形する必要があるわ。連続で発破するからそのつもりでよろしく」

「仕方ないなあ……」

「ふふふ、今まで諦めていたアレコレに手をつけられるというのは良いものね♡」

 

そう言ってニコニコと笑うリツコの表情は柔らかく、近くで作業しているマヤが見惚れるような『素敵なお姉さん』としての笑顔を浮かべている。

 

だがその笑顔の原因が『危険性が高くて出来なかった実験ができるぞ!』というマッドサイエンティストらしい欲望によるものだと知れば、サキエルのように苦笑する事になるだろう。

 

「アスカ用には何がいいかしら? あの子は器用だから、玄人好みのものの方が良いかも知れないわね」

「十文字槍はどうだろうか。器用に扱えればかなり強い筈だが」

「シンジくんとコンビでサムライごっこかしら?」

「杖術も武芸百般だしレイちゃんも仲間に入れてやって欲しい……」

「あら。『すごく頑丈な棍棒』を即座にレイ用の武器として推薦したのは貴方だった気がするのだけれど」

「人類が手に入れた最初の武器だし、人類初心者のレイちゃんにはちょうどいいだろうなと」

「そういう事にしておいてあげようかしら」

 

そう言ってまたニコニコと笑うリツコ。

 

笑顔の増えた彼女に対して、サキエルはここ最近苦笑か愛想笑いで返している。それは計算の結果であり、意図的な表情筋操作である。

 

だが、バグのせいなのか、時折表情筋が暴走して、指示もなく勝手に笑っている時があるのは困りものだなと、ご機嫌な博士の隣に立つサキエルは、自分自身に苦笑を漏らし————その苦笑自体がバグによるものだと気づいて愕然とするのであった。




また一つ歳をとってしまった……!

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