あと要望とかは割烹で聞けとのことなので割烹も作りました。
「……この丸い物、美味しい」
「それはマカロンだね」
「……のぅ、ケンスケ、ワシ浮いとらんか?」
「そりゃホテルラウンジにジャージだもんなぁ」
「ん? 気になるなら服も奢ろうか?」
「ええ!? いや流石にそれは、申し訳のぅて胃の穴あきそうや……」
「鈴原、ジャージ以外も買えばいいのに」
「洞木さんが選んであげたら」
「……綾波さん、えっと、それって?」
「服を選んでもらうのは嬉しい。だから2人で買いに行けば良いと思う」
「……綾波、トウジと委員長の式には仲人で呼んで貰えよ。俺は友人枠でスピーチな」
「な、何を抜かしとるんやケンスケ、おま、結婚て……!」
「ちょっと鈴原! 声が大きい!」
「ぬおっ……す、すまんな」
「相田君、これが夫婦漫才?」
「綾波、お前カミソリみたいなボケ方するのな」
ワイワイと賑やかな少年少女を引き連れたサキエルが座るのは、レストランの隅、ムーディな音楽を流す音響装置の近くにある席。
騒いでいる少年少女の声はサキエルがATフィールドで音量を3割まで落としているため、他の客は特に意識を向けずに、各々朝食を食べている。
そんな中、子供達がビュッフェの料理を思い思いに確保しに行くのを待って、サキエルは口を開く。
「さて、相田君が言いたいのは、レイちゃんや、その友人のアスカちゃんやシンジ君がエヴァンゲリオンのパイロットかどうか、という話だったね?」
「え、良いんですか秋江さん」
「街中でする話じゃないとは言ったけど話せないわけでは無いからね。僕は別に機密とかはあんまり気にしてないし」
「おおーッ! 話がわかる!」
「……エヴァンゲリオンなぁ。噂の巨大ロボやったか?」
「まぁ、そうなるね」
「なんだよトウジ、お前エヴァに何か思い入れあったっけ?」
「いや……サクラが怪我したんは凄い爆弾のせいで、ついでに言うたらシェルターの手抜き工事のせいっちゅうんはわかっとるんやけどな。そんな凄いロボットがおるんやったら、なんでもっと早う戦っとらんかったんやろと思うてもうて……」
「ごめんなさい」
「ああ、すまん! ちゃうねん! ……言い掛かりなんは分かっとるんや。ワシがサクラをもっとよう見といたら良かった。そう思う勇気っちゅうんがないだけでな」
「……まぁ、当時はレイちゃんはエヴァの事故で腕を骨折して全身傷だらけでね。出撃したくてもできなかったんだ。許してあげてほしい。シンジ君は、そのフォローの為に急に呼び出されたばかりだったしね」
「そうやったんか……。改めてすまんな、綾波」
「良いわ。……鈴原君は妹さん想いなのね。優しい人は好き」
「好き!?!!?」
「落ち着け委員長、今のは『好感を覚える』みたいな意味で、委員長の『貴方の恋人になりたい』って意味とは違うよ」
「恋人!?!!?」
「……だめだこりゃ」
「ところでトウジ君。妹さんの怪我は?」
「あ、それはもう治ってピンピンしとります。ちょっと傷は残ってもうたけど、医者の先生が言うには大人になったら消えるっちゅう話で」
「それは良かった。……僕もその件には無関係じゃあ無いからね。後で妹さんにお土産でも買わせてくれないかな?」
無関係じゃないというか、トウジの妹の怪我の原因だろうN2爆雷の炸裂はサキエルのせいである。流石に詫びの一つはした方がもしも万が一露見した際の心象も悪く無くなるだろうとサキエルの論理回路は判断した。
「ええ、そんなん……」
「まぁ僕の心を助けると思ってさ」
「……そういうことなんやったら、貰うときます」
「ありがとう。で、シンジ君とアスカについてだったかな? この前写真撮ったから見るかい? もし第3新東京市に来る機会があったらレイちゃん共々仲良くしてあげて欲しいし」
「エヴァのパイロット! 激レア情報なのに良いんですか!?」
「レイちゃんの友達に、レイちゃんの友達の写真を見せるだけだからね? 何も問題はないさ」
「話がわかるッ!」
そう言って大興奮するケンスケと、まぁ普通にレイの友達とやらが気になるヒカリとトウジ。彼らが覗き込む中でサキエルはスマホを取り出すと、先日の引っ越し記念パーティーで撮影した写真を3人に見せてやる。
そこに映るのは、チーズフォンデュを頬張りつつ笑顔でピースしているレイと、キッシュを齧りつつ恥ずかしげにピースしているシンジ、そしてパエリアを掬ったスプーン片手に澄まし顔でピースするアスカだ。
「「「美形だ……」」」
「ちなみにパイロットの審査に顔面偏差値はないよ」
「嘘だぁ」
「2人ともモデルさんみたい」
「ちゅうか、満面の笑みの綾波にめっちゃ違和感あるんはワシだけか……?」
「こら鈴原、失礼でしょ!」
「構わないわ。私、学校では笑った事なかったもの」
「……いやまぁ、本当に変わったのはマジだよな。ちなみに何があったかって聞けるのか?」
「……。この前の、太平洋が凍った時の戦いなら。アスカとはそれで仲良くなった」
「おお! 聞きたい!」
「アレ、綾波らが戦った敵の仕業なんか……? そら、えげつない爆弾でもなんでも使うわな……」
「まだ海の氷、溶けてないもんね」
溶けてないのはサキエル本体がガギエルの冷凍をしている——どうにか1/3を食べ切った——せいなのだが、それをわざわざ言ったりはしない。
そして、レイの口から語られるエヴァンゲリオンの死闘——サキエルについては伏せてある——に興奮する少年少女達は、年相応の無邪気さを発揮しており、なんとも微笑ましい。
だが彼らは、そう遠くない未来に、その死闘に参加するかもしれないわけで。
————警護対象に加える必要があるな。
そう判断したサキエルは、3人の新たな
————だが、今は。
————楽しげなレイと友人達の行動をただ見守る、優しいお姉さんを演じることに努めよう。
「やあ、みんな、飲み物のお代わり、取ってきてあげよっか?」