「私は、ミカエルのモンスター効果を発動するわ!」
俺の言葉と共に、黄金の騎士は剣を振り上げる。その瞬間、骸骨にまみれ、紫色の空が支配する世界に一筋の光が差し込む。
「ラフポイントを1000払うことによって相手フィールド上のモンスターを一体、除外する!私は真紅眼の不死竜を選択!」
LP3400➝2400
そして黄金の騎士が剣を下した瞬間、黒龍の上から閃光が降り注ぐ。黒龍はその光に苦しみ、もがきながら消えてゆく。
「!」
「そして!ライトロード・アーク ミカエルでデスカイザー・ドラゴンを攻撃!」
その言葉と共に、黄金の騎士は腐り果てた竜に剣を振るう。
「……私はバスタ」
「お姉さーん!何処ですか~」
それに対して少女はセットされたカードを発動しようとした時、俺の耳に昨日聞いた少女……ナオミの声が入ってきた。その声が彼女にも聞こえたからだろうか、少女は罠を発動しようとした手を止めた。
その隙に黄金の騎士が竜の首を切り落とす。
「……グッ」
LP3600➝3400
少女が少ないダメージだが初めて苦悶の声を上げた。うーん、彼女は何かカードを発動しようとしていたみたいだけど……良いのかな?俺はどうしようか少しためらうが、ミカエルとルミナスの効果でデッキからカードを6枚墓地へ送りターンを終わらせる。
「……」
「そ、その、何かカードを発動しようとしていたみたいだけど……」
「問題ない」
俺の心配は少女の言葉によって止められてしまった。
「お姉さーん!お姉さん何処ですかー?」
そんな俺たちの微妙に気まずい空気を破るナオミの声。それを少女は少し煩わしい……というか面倒くさそうな顔をしながら聞いているのに気付いた。顔は無表情だが眉が下がっているのだ。
「……あなた、友達?」
「え、うん。そうだよ」
「そう……」
少女はそう呟くと、デッキの上に手を置く。そして一言
「サレンダー」
「え」
その瞬間、骸骨まみれの風景が一変し、ついさっきまで居た噴水広場に変わる。
サレンダー……簡単に言えば「降伏」だ。デュエルで勝てないと判断した時デッキの上に置くとそう言う意味になる。でも、アニメじゃサレンダーをしたデュエリストは見たことない。しかも今のライフポイントはまだ3000台。彼女のフィールドにはグラゴニスも居たし、まだまだこれからの筈だ。
「な、何で……」
「私の負け。あなたのことは私の本来の目的よりも下位に位置する」
「目的?」
「それは教えられない。禁則事項に抵触する」
そう言うと、彼女はデッキをしまってさっさと広場から立ち去ってしまった。
俺は彼女のその背中をぼーっと見ていると、背中に強い衝撃が走る。
「お姉さん!見つけました!」
「ナオミちゃん!」
「はい、すみません。待ちましたか?」
「それは……恵じゃないですか?」
とりあえず集合することに成功したナオミに、先ほどの少女のことを尋ねたところ簡単に答えが返ってきた。
「恵?」
「はい、レイン恵っていうんですけど。その喋り方と髪型、そしてアンデットデッキなら間違いなく彼女ですね」
「へ~」
どうやらナオミは彼女のことを良く知っているような口ぶりだ。それなりの有名人なのだろうか?
「同じクラスですよ。お姉さん、あの子とデュエルしていたんですか?」
「うん」
「結果は」
「一応、私の勝ちだよ」
「一応……?」
俺の言葉のに不思議そうに首を傾げるナオミ。でも先ほどのデュエルは俺も不思議に思っているので訂正はしない。
「その、恵ちゃんだっけ?彼女ナオミちゃんの声が聞こえた途端サレンダーしちゃって」
「え!?」
俺の言葉にナオミは驚いた表情をする。やはりこの世界でサレンダーをするデュエリストは珍しいようだ。というか元の世界でもめったに見ない。と考えているとナオミが俺の前でしなしなとへたれてしまった。
「も、もしかして私嫌われてる……?」
「あ、そっち?」
どうやらナオミ的には自分の声が聞こえた途端逃げたことにショックを受けたみたいだ……確かにそういうニュアンスにも取れなくもないな。でも先ほどの恵の動きはどちらかといえば何かを隠すような感じがしたから違うだろう。それに彼女みたいに献身的な子が嫌われるなんてないない。と半分男の勘で決めつける。
「どっちかと言えばナオミに見られたくないものがあったんじゃない?」
「見られたくない?」
俺のフォローにゆっくりと顔を上げるナオミ。その表情は何か心当たりがあるみたいだ。
「いえ、恵っていつも真ん中なんですよ」
「真ん中?」
「はい、デュエルも運動テストの時もいつも真ん中なんです。それで「至って普通の女の子だけど実は天才説」とか「情報統合生命体説」とかちょっと話題になった事あるんですよ」
「まあ、彼女は一切気にしてませんでしたけど」とナオミは付け足す。でも確かにあの喋り方で無表情だし、ちょっと神秘的に見えないこともない。
なんて思っていると「ところで、お姉さん……」とナオミが声をかけてくる。俺が彼女に視線を向けると少し眼を右へ左へとゆらゆら動いている……何か聞きたいことがあるのかな?
「その、話は変わりますけど……名前とか」
「あ、そうだね!言ってなかった」
そうだ、彼女に名前を言っていなかった。というか元々の目的はそれじゃないか。
「私の名前は再道ユウなんだって」
「サイドウユウ……ですか?じゃあ、ユウお姉さんって呼びますね!」
そういうと嬉しそうに「ユウ、再道ユウかぁ……」と嬉しそうに呟くナオミ。そんな姿を神様が付けた安直な名前も少し良いものに聞こえてしまう。
「ではユウお姉さん!私に出来ることなら何でも言ってください!」
「本当?」
昨日ちょっと会っただけなのにここまで尽くしてくれるのか……ほんと良い子だな~。そう思い頭の中で困っていることを思い浮かべるが……まずは金だよね。あとは部屋に日用品を揃えないといけないし、仕事を無い。
「まあ、頼めることが有ったら頼むね……」
「はい!」
さすがにそんな事を女子高生に頼むのはどうかしてるなと俺は頭の中で判断した。
俺が思っていた以上に遊戯王の世界は暮らしづらかったのであった。
「見つけた」
その後ナオミと別れた後、俺のア住むアパートの前に先ほどデュエルをしていた銀髪の少女……レイン恵が立っていた。銀髪の髪が決して表情を動かさない彼女の代わりに風に揺られ微かに動いている。
「……何でここに」
俺は思わず、彼女から一歩下がって彼女の動きを警戒する。先ほどのデュエルの前の発言などから考えて、おそらく俺を狙っているのだろう。彼女の体格からして殴り合いにはならないだろうけど、気を付けていて損は無い。
そんな風に考えている俺をよそに、彼女は俺のほうをジッと見て口を開いた。
「約束」
「……へ?」
「約束、デュエルの前にした」
約束?確か「彼女が勝ったら俺の正体をすべて教える」だったか?そして彼女が負けたら……。
「私をあなたの好きにしていい」
「え、えぇっ!?」
少女はさらりと思いっきり爆弾発言する。そこに恥じらいは全く無く、驚いているこっちがおかしいのかと自分を疑ってしまう。
「で、でもそれはあなたがサレンダーしたからだし……」
「関係ない。私は負けた」
「で、でも……」
「けど条件がある」
俺が戸惑っているうちに彼女がいきなり約束付け足してくる。というか彼女は約束は決定済みのようだ。
「私には質問されても答えられないことがある」
「禁則事項って奴?」
「そう」
どうやら彼女には何か言えない使命があるご様子……でもそれ以外は何をしても良いんだよね?彼女ずっと表情が変わらないけど中々の美少女……っていやいやいや。
「私には与えられた目的がある。その為なら負けることもいとわない」
「だから、「バスター・モード」を使わなかったんだ」
「……気づいていた?」
「デスカイザー・ドラゴンが場に居て、「バスタ」って付く罠カードはそれくらいしか無いじゃない」
彼女がミカエルの攻撃を受けるときに発動しようとしていた罠は「バスター・モード」。シンクロモンスターをデッキに居る「/バスター」と名のつくモンスターするというちょっと変わったカードだ。それを使えば「デスカイザー・ドラゴン/バスター」になり、攻撃力は2900。攻撃力2600のミカエルでは敵わなかった。
「ま、もう済んだことだし別に気にないけど……」
けど、もっと本気で戦ってほしかったなぁと心の中で思う。彼女は中々の実力者だったし、俺もデュエル中は結構ノリノリでやってしまった。
「そうだなぁ……じゃあ」
「……」
「暇な時でいいから、また来て。そしてデュエルして」
「……分かった」
俺の言葉に無表情で返答する恵。俺の願い事にどう思っているのか分からないが、こうしてこの世界でまた新たな友達が出来たのであった。