もう一つの息抜きに書くと随分と酷いペースになってしまいます。
でもまぁ、エタらないんで勘弁して下さい。
モンスターの軍勢に敗れ、森という場所にトラウマじみたものを植え付けられた次の日。
今日も僕らはあの世界へと旅立っていた。
もう無茶は止めよう、と言うことで場所は草原。
生まれて初めてはるか地平線までーーその先の森は意図的に無視するーー続く緑を見て、ゲームだということも一瞬忘れて感動を覚えていた。
「昨日は人、人、人で違う意味ですごかったけど、こうしてみるとやっぱすごいなぁ」
「森も精巧な造りでしたが、広大な景色というのはなんとも人を圧倒するものがありますね」
レンとクラフトがそれぞれの感想を述べる。
僕もまた感想を述べようとしたところではたと気付く。
勘違いではない証拠に、クラフトが後ろで纏めている背中まである髪もまた揺れていた。
ーーこの世界には、『風』があった。
一人で密かに感動を抱いていると、どうやら三人の中で話が決まっていたのか、僕が最初にモンスターと戦闘をするということで行動をするらしい。
「でも、いいの?」
「ん、何がだ?」
「みんなこのVRゲームを楽しみにしてたんでしょ?戦闘だってみんなやりたいだろうし、それなのに僕一人に時間を取るなんて……」
「は?ーーあぁ、そういうことか。心配症なやつだな」
一応僕なりに心配したことだったんだけど、レイに一笑に付されてしまった。
どういうことだろうか?
「まぁ、時間ならいくらでもあるしな。そもそも俺達は戦闘なんかは他のゲームでもさんざんやってるからな。それよりはこれから一緒に動くお前を鍛えてた方が効率もいいんだよ」
お前はそんな頻繁にプレイしないだろうしな、と付け加えるレイ。
なるほど、確かにそう考えたらその方がいい気がしてきた。
僕もゲームをやるに当たって物語のヒーローに憧れるーーMMOなのだから全員が
ここはその考えに乗せてもらって、楽しんでみよう。
「分かった、ありがとう!」
「感謝なんかいらねーよーーそれよりしむらー、うしろー」
うしろ?
「ってうわぁ!?」
そこには草原を駆け、こちらへと突進して来る群青色の猪の姿が。
恐らくはーーほぼ確実にーーモンスターであろうそれを見て僕は酷く慌てた。
こちらを打ち倒そうと、悪意を剥き出しに襲いかかるその姿に恐怖してしまったのだ。
昨日はいろいろと麻痺してしまっていたが、そこには確かに敵対者へと向ける悪意があったのだ。
側に控える彼らなら、それはただのプログラムだと言っただろう。
しかし、仮想現実というものに触れてこなかった僕にとっては、襲いかかるそれは確かに
結果、武器を取ることも忘れて猪に吹き飛ばされる僕。
勢いのまましばらく転げ回り、やっと立ち上がって身体に何も違和感がないことに気付く。
痛みがない。
それどころか吹き飛ばされたというのに、目が回ったりもしない。
ーー当たり前だ。これはあくまで
限りなく
果たしてそこに猪はいなかった。
何故かーーその答えはすぐさま分かった。
仲間達が全員先ほどまで持っていなかった武装を取り出し、剥き身で持っている。
その上あの猪は僕に追撃をしてきていない。
恐らくは吹き飛ばされた僕を追おうとしてその前にレイ達にやられてしまったのだろう。
なんとも間抜けだが、僕の決意は早速無駄になってしまったらしい。
「おーい、大丈夫かー?」
「大丈夫ー」
初めての敵に、ただど突かれて、攻撃をする覚悟さえ持てない内に、仲間に倒してもらった。
仲間の方へ歩きつつ、華々しい戦果にため息を吐きながらレンの呼びかけに応える。
「まぁ気にすんなよ。VRゲームじゃ、初心者は大体二組に分かれてな。一つは敵に驚いて固まる方、もう一つは敵を前に猛って無茶する方だ。とは言ってもだからプレイヤーが二種類ってことはないんだ。VRに慣れると、そいつらは自分がどうだったかなんて忘れて成長すんのさ」
レイがとぼとぼと歩いてきた僕にそう言った。きっとレイなりに僕を励ましてくれたんだろう。
しかし、ここで異を唱える人間がいた。
「ちょっと待って下さい。それじゃあ私はどうなんですか?」
「知るか、初心者のテンプレに敵をさっさと倒してドロップ素材ににやつくなんて選択肢はねぇんだよ」
クラフトの問いにレイが冷たい目で答える。
クラフト……君って……
そしてクラフトの売り言葉にレイの買い言葉で、驚くほど早く言い争いに発展した。
仲がいいのはいいことだが、ここがモンスターが出る危険地帯だということを忘れているのではないだろうか?
「ほら、ユキ君が呆れてるよ。ここも一応危険地帯なんだから。少しは落ち着きを持たない?」
「ん、まぁそだな」
レイ達も落ち着きを取り戻して、次のモンスターを探しに草原を歩くことにした。
そして歩き出して一、二分。
次の敵を見つけた。
今度こそ、と武器を取り出し、構え、相手ーーフレンジーボアの攻撃に備える。
向こうも丁度こちらに気づいたのか、先頭に立った僕に狙いを定め、突進を繰り出そうとする。
距離があるし、突進前に攻撃をするのは難しいだろう、ということで僕が選んだのは待ちかまえること。
相手の突進に合わせて攻撃する。それだけだ。
やがてフレンジーボアがこちらへと駆け出す。
僕はタイミングを合わせ、剣をーー振り下ろす。
「はぁッ!」
全力を込めたこの攻撃。
当たる!ーーそう確信した瞬間に気付く。
あれ?この猪そのままの勢いで突っ込んで来るんじゃないかな?
しかし時すでに遅し。
しっかりとした体勢で剣を振り下ろしたからもちろん飛び退いたりなんて出来ない。
あぁ、ぶつかるーーなんて考えがよぎった時。
昨日のような派手なエフェクトと共にフレンジーボアが光へと還元された。
どうやら僕はVRゲームをまだ現実と完全に分けて見れていないみたいだ。
ゲームでモンスターがやられると死体が残る、ということはない。
一撃で仕留めることができたために、敵は姿を消し、
「ふぅ、倒せたー」
しかし次はもうちょっと気をつけて攻撃を避けながら攻撃出来るようにしたいな。
「おぉー!アイツを一撃かぁー」
レイが歓声を零す。
ってあれ?じゃあみんなは一撃じゃ倒せないの?
「今の感じだとあれはクリティカルヒットだろうね」
レンが零す単語に興味を引かれた。
「クリティカルヒット?」
知らない単語だ。
レンの話を聞くと、どうやらクリティカルヒットなるものは五パーセントぐらいの確率で出る強い一撃らしい。貫通ダメージやらアタック二倍やら言っていたが簡単に言えばそんな感じらしい。
エフェクトが大きくなる、とのことだが……正直、どれくらいエフェクトが大きければクリティカルヒットなのかはよく分からなかった。
昨日も大体あんな感じだったし。
気を取り直して再び敵探しへ。
今日は僕が戦闘に慣れるまでこのままらしいし。
「あ、いた!」
少し遠くの方に敵が見える。
しかし向こうはこちらに気づいていないのか、とてとて歩いたり止まったりと、呑気にお散歩中な様子だ。
「アレなら丁度いいなーーおい、ソードスキルの使い方は覚えてるよな?」
「うん、昨日も使ったしね」
「ならアイツにソードスキルを使ってこい。これからはどんな奴にも状況に分けて使えないといけないからな。丁度いい練習台だろ」
確かにこのゲームの中核をなす技を使いこなすことは、これから戦闘をこなすに当たって大切かもしれない。
レイの言葉を聞いてそう思い、そして気づく。
「あれ?レイ達はソードスキルの練習しなくていいの?」
あぁ、とレイは零し、驚くべき事実を吐露する。
「俺たちは昨日でマスターした」
「えっ?昨日、あの後やってたの?」
「まぁ、俺を含めて三人とも飯、風呂、睡眠時間を除いてずっとやってたな」
あっけらかんと言い放つレイと頷くレン達。
……忘れていたが、そう言えばレイ達はネットゲームで有名になるほどには強い集団ーーギルド、とか言っただろうかーーに所属するメンバーなのだ。
時間が何よりも重要視されるネットゲームで活躍出来るほどの
まぁ、それはいいや。
今はソードスキルの練習だ。
昨日使ったソードスキルを思い出しながら、敵へと駆けていく。
距離が縮まってから、敵はやっとこちらへと気づいた。
だがもう遅い。
群青色の猪がこちらに向き直るよりも先に真横へと回り込み、剣を構える。
『スラント』の構えを認識し、体が動く。
最適化された斜めの切り下ろしを受けて、やはり大きなエフェクトと共に敵は光となって消えた。
残るのは素材アイテムのみ。
「またクリティカルヒットか!」
レンが驚いたように声を上げる。
今のもクリティカルヒット?
じゃあ、もしかしてーー
僕の仮説を証明するためか、偶然にも新しいモンスターがすぐそこに現れた。
取りあえず斬りつける。
光になってアイテムが残った。
驚くレン達を放っておいて、少し歩いて次のフレンジーボアを見つけ、斬りつける。
消えた。
ここまで来るといやがおうにも理解せざるを得ない。
「クリティカルヒットしか出てないーー」
そんな中で平然としている人が一人。
レイだ。
「まぁ、ナチュラルに数万分の一を当てる奴だしな。こいつの幸運ぶりを知ってるとあんまり驚かないっつうか納得っつうか……」
「あっ……」
「あっ……」
いや、二人ともそんな風に納得しないで欲しい。
は、はは、きっと五パーセントなんて嘘なんだ。
うん、そう思っていこう。
こうして、何とも奇妙で微妙なアインクラッドでの日々が幕を開けたのだった。
ユキの持ち物リスト
•初期装備一式
•リトルペネントの胚珠×6
•リトルペネントの茎×13
•ポーション×4
•SPポーション×2
•フレンジーボアの毛皮×2 ←new!
•フレンジーボアの牙×3 ←new!
クリティカル率百パーセント。
中途半端で無理やり区切ったけど、これ以上書こうとするとさらに遅れるんで勘弁して下さいッス。