情けは人の為ならず   作:@@@@

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やっとSAO入りである。
遅い。更新速度も何もかもが。
文句は聞こう。批判も聞こう。罵倒も聞こう。
だからお願いです。
誰か誤字報告を……


03:誰よりも優しい男

『俺』は今、友人を訪ねてある安アパートへ向かっている。

向かっている、と言ってもそもそも近所なので歩くのは一、二分だ。大した距離でもないし、歳も近いので休日はたまにどちらかの家で暇を潰していたりする。

だが、今日は暇潰しに向かっているのではない。

実はその友人に頼みごとがあるのだ。

とあるゲームの先行配信版に参加したくて、そのための抽選に協力してもらいたい。ただそれだけだ。

抽選だからいくつも送れば当たりやすいとか、そんな理由じゃない。

そいつは運がいいのだ。それも頭がおかしいほど。

この前なんて人に買って上げたんだとか言って限定版のナーヴギアを手に入れやがった。あれはマニアが五倍の値段で取引するほどのレアモンだってのに。

たまたまナーヴギアを買ってくれって頼まれた日に、たまたまそれまで限定版ナーヴギアの宣伝をしない、つまりサプライズで売り始めた店に、たまたま開店直後に入れたから買えたらしい。知り合いに話を聞くとサプライズで売り始めた店はある程度あったらしいが、ど の店でも十五分も持たずに売り切れたらしい。

まぁ、そんな友人だから俺の分の抽選でも手続きしてくれりゃ、何とかなんじゃねぇかって思ってな。

 

ーー色々理屈をこねくり回したが、本音を言えば、俺はあいつにも色々と楽しんで貰いたいんだ。

あいつの家は娯楽がない。漫画もゲームも、何もない。

本人は人助けが好きで、それで満足してるって言ってるが、たまには自分だけの娯楽にのめり込んで羽を伸ばして欲しくてな。

この機会に俺と一緒にゲームにでも触れて貰えれば、少しは自分で楽しむことも覚えてくれるかもしれない。そしたら今度は自分でゲームを買わせて自主的に遊んで貰おうって寸法だ。

さて、家に着いたし、あいつに頼み込んでみるかな。

 

 

 

僕が家でいつもの休日のようにテレビでニュースを見ていると、玄関のドアが開く音がした。

 

「よぉ!実はユキにちっと頼みごとがーーって何だこりゃあ!?」

 

大方近所にいる友達が訪ねて来たのだろうと思っていたが、なんだか騒がしい。

 

「どうしたの?」

 

「いや、これどういうことだよ!お前なんでナーヴギア持ってんの!?」

 

あぁ、そう言えば玄関に置きっぱなしだったか。

どこに片づけようかなぁ……じゃない、聞かれてるんだった。

 

「いやぁ、実は前電機屋さんにアイロン買いにいったら当たっちゃってーー」

 

「アイロンいくら?」

 

「四千円」

 

「十分の一以下かよクソッタレが!」

 

僕に怒られてもねぇ?

 

「まぁいい、お前には今日頼みがあってな」

 

「あ、遊びに来た訳じゃないんだ」

 

そう言えば君に頼みごとをされるのは初めてな気がする。

 

「まぁそんなに困ってる訳じゃねぇんだが、取りあえず聞いてくれ」

 

 

HELP:頼みって言うのは簡単だ。ちょっとある抽選に受かりたいからお前の幸運に肖ろうと思ってな。抽選の手続きだけお願いしようと思って来たんだ。

自分でやりゃあいいって?

馬鹿言え、お前は知らないかも知れねぇけど、世界初のVRMMO、ソードアートオンラインのβテストの抽選だ。

ん?あぁ、MMOってのは、簡単に言やぁネトゲのことだな。

海外には回らねぇって話だが、日本人だけでもやりたいヤツは星の数ほどいるだろうよ。人数は千人だが、倍率百倍ーーいや、二百倍でもおかしくない。普通にじゃ無理だ。

そこでお前が出てきた訳だがーー

丁度いい、お前も一緒にプレイしないか?

なに、ゲームをプレイしてみればお前もハマるかも知れんしな。βテストでゲームの優先券も貰えるし、面白いと思ったら正式版も買えばいい。

それにお前がいればレアアイテムもガッポガポだろ!ハハハハ!!

 

 

 

強引な人だなぁ全く。抽選を押し付けて風のように帰って行ったよ。

でも、僕がゲームか……

子供の頃に友達と一緒に遊んだことくらいしかないからなぁ。

みんなでやると楽しい、であってゲームは面白い、っていう感想は特に持ってなかったんだよな。結局ゲームを買おうって考えたこともなかったし。

まぁ、ゲームって言うのはうまくやったもん勝ちじゃなくて楽しんだもん勝ちだ。

彼と一緒に飽きるまで楽しんでやろう。

そのためにはまず、抽選をやっとこう。

 

 

ごく普通に両方当たった。

ほんとに僕の幸運って何なんだろ。

 

 

体験版ソフトが昨日家に届いた。友人の彼によれば今日の正午からプレイ出来るらしい。それまでにログイン出来るように環境を整えておけとのことだ。

ネットゲームのログインに必要なもの……

アカウント名とパスワードかなんかだろうか?

あぁ、そう言えばナーヴギアを無線に繋いでおく必要もある。

後は……そうだ。昼からずっとVRに入る訳だから、ご飯も食べてからじゃないといけないな。意識がないままってことは戸締まりも必要になる。

思ったより大変だな。まぁ、続けていればいずれ慣れるだろう。そもそも次回以降は戸締まり以外必要ないだろうけど。

 

十一時に昼ご飯を食べ、半にはアカウントの作成を始める。

暇な午前中にナーヴギア本体の調整は済ませたので後はアカウントの製作だけだったのだがーー

 

「ゲームならキャラクターを作るよね……」

 

そのことをすっかり失念していたのだ。

ゲーム経験がないとは言え、流石にこれは我ながら恥ずかしい。

時間は二十分とちょっとしかないので急いでキャラクタークリエイトを始める。

名前は『Yuki』。

背丈、体重、体格、性別は元のまま。彼はVRゲームの経験者で、あまり変えすぎると動くときに違和感があると言っていた。経験者の言を蔑ろにして失敗するのも馬鹿馬鹿しいだろう。

顔は少し変える。彼が言うには顔は重要な個人情報の一つで、全く変えないのには危険が伴うこともあるらしい。

全体的に色を少し白くする。もともとよく外出していて黒めだったので、少しイメージが変わったかも知れない。今度は目を少し大きくしてみる。少しは変わったかな?後はーー駄目だ、下手にいじくると化け物みたいになりそうだ。髪でもいじって誤魔化そう。

次に髪をちょっぴり短めにする。色はーーどうせだし、派手めに明るい感じの緑色にしてみる。

うん、これならきっと大丈夫だろう。

自分で納得して先に進む。

この先はどうやらチュートリアルのようだった。オンラインでは出来ないことを今の内にやっておく、ということだろうか?

ストーリーの大筋だとか通貨の単位はコルだとかソードスキルのメリットデメリットだとか、初歩的なことを説明される。

スキップも出来るようだったが、せっかくなので説明書のおさらいをしておいた。

 

簡単なチュートリアルを終えて少しすると、ようやく十二時が近づいてくる。今更だが、もうちょっとキャラクタークリエイトを頑張ってもよかったかもしれない。

まぁ、今となっては後の祭りだ。悔やんでも仕方ない。

そうこうしていると十二時になり、『ログインしますか?』という画面(表示?)が目の前にポップアップした。

もちろん答えは『はい』。選択肢をタッチすると、チュートリアルで流れたものと同じ声が、『冒険者に幸運を』とアナウンスしてくれた。

 

幸運か……これ以上となると大変そうだなぁ。

 

そんな下らないことを考えながら、僕は『はじまり』に降り立った。

 

 

視界が白に染まり、ようやく周りが確認出来るようになると、そこは異世界だった。

建物は中世にまでタイムスリップしたかのような石造り。だがそこに人の手が入った安っぽさはなく、あくまで『この世界』と調和している。そして息を吸い込むことも出来れば微かな草の匂いを感じることもできる。まさしく『リアル(現 実)』。

だが僕はーーいや、誰もがここは『フィクション(空想)』であることを知っている。

だからこそ、この圧倒的リアリティに驚愕させられる。

そこまで感じて、ふと意識が戻る。

 

「ーーいけない、合流するんだった。『黒鉄宮』に行かないと」

 

全百階層からなるというこの『アインクラッド』の最初ーー第一階層には、黒鉄宮という大きな建物があるという。以前からWebで公開されていたので知名度も高い。

結局僕は一度も調べなかったけど。

 

最初にいた広間から見える、大きく黒い建物ーーあれが黒鉄宮だと思われるーーに向けて歩いて行く。

何百人もの人があそこに向かってるように思えるけど、無事に合流ーー

 

と、そこまで考えた時にある考えが頭をよぎってしまった。

考えたこともない、盲点だった。

 

……相手の顔も名前も知らない。

そう、ここはVRMMOの中。

普通の待ち合わせと違って相手に会えないからと電話することも出来ず、相手の顔も現実とは違うものになっている。もちろん名前も違うため、行き交う人の上に表示されるプレイヤーネームなどかけらも役に立たない。

 

……詰んだんじゃないかな?

 

悲観に暮れていると、横から声がかかった。

 

「お?お前ユキか?いやー、やっぱりお前はほとんど何も変えなかったな。髪が明るい茶色じゃなかったところ以外は全部予想通りだ、うん」

 

筋肉があるがそれでいて細身な体型ーー俗に言う細マッチョで、顔はクールという言葉を体現したかのようなキリッとした目に、固く引き締まった口元。そしてイメージを強調するような暗めの藍色の髪。それらを見ているとまるで物語の中の登場人物なのではないかとも思えて来るが、その軽い喋りで全て台無しになっている。

こんな知り合いはいないが、僕があまり体型などを変えていないことを知っているなら、僕の知り合いということになる。

 

「え?じゃあまさか君はーー」

 

言葉の途中で口を手で塞がれた。

僕が一体何をしたとーー

 

「はいストップ。ナチュラルに実名バラそうとしない。実感沸かないかもしれないけど、ここネット上だから」

 

「あ、そっか。ごめん」

 

危うくナチュラルに名前を出そうとしてしまった。

えっと、彼の名前は……

 

「レイ?」

 

「おうーーってなんだその顔は?いいじゃねぇかネトゲでどんな名前使おうが!」

 

「君はザ、日本人な名前だからねぇ……」

 

今更だけど彼はやっぱりもっと活発な感じのキャラクターにするべきだったんじゃないかな。

突っ込みに走ってるところを見ると違和感しかないよ。

ボケに走ってるーーわざとじゃないがーー僕が言っていいことじゃないかもしれないが。

 

「ところで、このままここにいていいのかい?」

 

「あぁ、待ってる奴がいるんだ」

 

「君が待っている人物というとーー」

 

「多分お前が考えてる通りの奴らだ。と言っても今回の抽選に当たったのは俺を除いて二人しかいないけどなーーっと、噂をすればって奴か」

 

彼と話していると、前から近づいて来る二人組が目に入った。どうやらレイを見つけて気づいたようだ。

 

「やぁ、レイ。そっちの方がレイが言ってた人かな?よろしくね」

 

背が高く、人懐っこそうな『レン』がそういった。輝くような金髪がよりいっそうそのイメージを強めている。

 

「あぁ、よろしく」

 

「こいつゲームのゲの字も知らねぇんだ、よろしくしてやってくれ」

 

「んじゃ、まずは素材集め……もとい、戦闘にでも行くか」

 

僕よりも深い緑の髪をした、一見おとなしそうな『クラフト』の提案に、全員が賛成した。僕は少し置いてかれ気味だったけど。

 

街を出て草原に向かうと、そこには既に人混みが形成されていた。

まぁ、ファンタジーゲームを始めたらきっと最初にやるのは敵を倒すことだよね。

 

「ここで狩るのは流石に無理か……」

 

「あっちに森があったと思う。行ってみようか」

 

あれよあれよと計画変更。次は森に行くらしい。

敵強くなったり……しないよね?

 

森に到着すると、確かに人は少なかった。しかしーー

 

「早くこのモンスター倒せ!間違っても『実つき』は倒すんじゃねぇぞ!他の奴を倒したら撤退ーーウボアァァ!!」

 

「またやられたか!くそ、数が多くて『パアァァァン』割 り や が っ た の は ど い つ だ ! 」

 

「『パアァァァン』あはははは『パアァァァン』」

 

「一人発狂してんぞ!取り押さえろ!」

 

「おいやめろ馬鹿。この戦闘は早くも終了ですね」

 

一面のモンスター、モンスター、モンスター。

 

「素材は沢山落ちてそうだけど……」

 

「行ったら死ぬまで出れそうにないですね……」

 

「初心者までいるウチにゃ無理だな。帰ろう」

 

三者三様に顔をひきつらせている。モンスターだらけなのは分かるが、どうやらそれ以上にヤバい状況っぽい。

さて帰るかと反転後退しようとしたのはいいがーー

 

「ーーって後ろから大群が!?」

 

「やっぱ戦うしかないのか……」

 

「まぁ、デスペナがあってもどうせレベル1の初期装備だしね。運良くいくらか持って帰れることを祈っておこう」

 

と言う訳で急遽参戦。

蛇足だが、デスペナルティは経験値の一パーセントと装備以外のアイテムのランダムドロップである。MMOの平均的なペナルティより厳しいらしい。ホームページに書いてあった。らしい。僕は見てないからね。

とはいえ、今までVRRPGどころかゲームさえやったことない人間をモンスターの大群と戦わせるとは……

嘆いていても仕方がないので、取りあえず最初から持っていたスモールソード片手に近くのモンスターーーリトルペネントに切りかかってみる。

反応が鈍いのか、いまいち反撃などもして来ないのはいいが、切った時のエフェクトの大きさに少しビックリしてしまった。

気を取り直して次はソードスキルを使ってみようと、剣を『スラント』の(斜めに切り下ろす)形に構える。

すると剣が発光し、体が勝手に理想的なフォームでやはり過多に思えるエフェクトと共にリトルペネントを切り裂いた。

リトルペネントの上に表示された(HPバー)が短くなって遂には消えると、そこにはアイテムだけが残された。

ーーなるほど、これが戦闘か。

確かに、普通(日常)では絶対に味わえないようなスリルはゲーマーを虜にするのかもしれない。

でもーー

 

「ゲーム初心者には敵が凄く怖く感じるんだけどっ!」

 

今敵を倒したというのに右を見れば敵、左を見れば敵の状況だ。倒す快感より殺される恐怖の方が圧倒的に大きい。

だがしかし、現実は非情である。

今ので一人くらい助けに来てくれれば、とも思ったが、今の声に気を取られた一人が「あばばばば」という謎の悲鳴を上げてポリゴンと化しただけだった。

それどころか、人数が減ったせいで一度に襲いかかってくる敵が増え、どんどん苦しい状況になっている。

何人かは必死に抵抗しているが、クラフトなんかは諦めて落ちているアイテムを拾い始めている。あ、死んだ。

どんどんどんどん人が減っていく。敵の数は減った気がしない。もしかしたら実際に増えているのかもしれない。

は、ははは、僕もアイテム拾おー。

いろいろと諦めてアイテムを拾い始める。

知らないものを手に入れるというのはなかなか楽しいかも知れない。

 

とか考えてたら死んだ。

怖くなかった分戦うよりはマシだった。

 

 

SOLVE:レイ

いや、なんか、ごめんな。うん。

気にしてないって?あぁ、ありがとう。

そうだな、これからは身の丈に合ったプレイをしよう。

ほんと、ごめん。これからもっと気をつけるわ……

 




ユキの持ち物リスト
•初期装備一式
•リトルペネントの胚珠×6
•リトルペネントの茎×13
•ポーション×4
•SPポーション×2

もちろん茎なんてのはオリアイテムです。
アイテムはたまに(やったことない)SAOゲームのwikiでも見ながら出したり頭捻って出したりします。ご了承下さい。タグにもつけておくべきか。
あと持ち物リストは不定期に出します。

更新速度はこれからはもうちょっと早くなりますよ?ほんとですよ?
新年度で大学生活にゴタゴタしてただけっすから。
それでは。

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