戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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そろそろ、ストックがなくなる~
というか戦闘描写の難しいこと難しいこと……
戦闘描写をうまく書ける方、本当に尊敬します……


第四話  ~初戦~

「勝利条件はどちらかが『まいった』というカ、戦闘不能とこちらで判断した場合、また、規定時間内に決着がつかなかった場合は引き分けダヨ」

「ハイ!」

「わかりました」

「よし、二人共位置についテ、準備はいいかイ?」

「もちろん!」

「いつでも、大丈夫です」

 一子と鈴子はお互いに目をそらさずに相手を見据えている。

「では、川神学園 川神一子 対 千信館 我堂鈴子 薙刀勝負――はじメ!!!」

 

 まず、動いたのは一子、

「せいっ! やっ! はあぁっ!」

裂帛の気合とともに流れるような上下の3連撃を鈴子へと放つ。

 鈴子はその3連撃をその場を動かず、薙刀をつかい全て捌いてみせた。

「まだまだぁ――川神流 大車輪!!」

 最後に捌かれ弾かれた薙刀の力に逆らわず、体をそのまま一回転させて相手の力、自分の力、そして遠心力をも利用した一撃を鈴子めがけて打ち付ける。

 それを鈴子は捌かず、薙刀で受ける向きを調整し上方へと受け流す。有り余った力の一撃を受け流されて一子の体勢が崩れたところに……

 

「――はっ!!」

 

 鈴子の鋭い一撃が襲いかかる。

 

「わっ! ちょっと!! ひゃあ!!」

 

 顔を狙った突きの一撃を、海老反りになるような形で無理やり避けた一子はそのまま後方に飛んで体勢を立て直す――鈴子は試合開始と同じ場所で、同じ構えで佇んでいる。

 

 

「なぁ、鳴滝。対戦相手の彼女のこと我堂は知ってたみたいだけが、お前は何か知ってるか?」

「いや……千信館はいってからは、鈴子の言ったようにあんまり話してねぇからな、だが、半年くらい前に『県内にすごい奴がいる』って言うのを言ってた気がするから、まぁ、そいつがそうなんだろうな」

「へぇ、やっぱ相手結構強いんだなぁ。今のやつだって結構ヤバめにみえたし。我堂のヤツ涼しい顔してっけど意外と内心ドキドキだったりしてのかね」

「いやー、鈴子に限ってそれはないでしょ」

「うんうん、りんちゃん、顔に出やすいもんね~。だから顔に出てないってことは大丈夫ってことだよ」

「って事は、今はまだ鈴子は余裕なわけだな。でもあいつツメが甘いからなぁ、最後にポカしなきゃいいけど」

「ああ、それだけだな問題は。ホントにあいつはツメが甘いから……」

 口ではそう言ったものの千信館の面々は鈴子の勝利を疑っていない、この一年近く(もちろん体感時間だが)戦真館での地獄のような訓練と鋼牙や夜叉といった強敵たちと相対して乗り越えてきた仲間だ。

 越えてきた訓練と文字通りの死闘をくぐり抜けてきた経験そしてなにより、自分たちが培ってきた戦(イクサ)の真(マコト)が鈴子を勝利へと導いてくれるだろう。

 

 対決では同じようなやりとりがもう2回ほど繰り返されている――まず一子が仕掛け、鈴子が応じる、最後には鈴子のカウンターを一子がいなして仕切り直し。

 もちろん、大枠で見たときのやりとりが同じというだけで、細かな内容はもちろん違う、現に鈴子が最後にはなった一撃は一子の胸をかすめていた。それを物語るように一子の体操服は脇のあたりがザックリと切られている。

 ただ、大勢は変わっていない。

 攻める一子、受ける鈴子。

 

「ほう……なかなかに面白い」

「おや?珍しいですね、あなたが他の人間の戦いを見て興味を示すなど」

 同僚の――ヒューム・ヘルシングのつぶやきを聞いた、クラウディオは思わず問いかけた。

「ふん、内容自体は取るに足りない赤子のじゃれ合いだが……あの鎌倉から来てる赤子、なかなかにエゲつない攻撃をする。なぁクラウディオ、ヤツの3発の攻撃の意味、理解した奴は何人いると思う?」

「ふむ……そうですね。鉄心様、ルー様をはじめとした教師の方々は気づかれていると思われますな。生徒でいうと戦場経験のある、あずみ、それからマルギッテ様。剣聖黛様の娘、由紀江様もおそらく……あとは可能性があるとしたら四天王の松永様あたりでしょうか」

「まぁ、そんなとこだろうな。源氏の連中はまだヒヨっこだし、百代の奴は無理だろう、意味はわかっても理解はできまい」

「ふむ……」

「それにしても最初に顔……というか人中、そして次に首、最後のは左胸。全部一撃で相手を屠ることができるな人体の急所だ。そこを寸部狂いもなく、最短距離で攻めてきている……しかもだんだんと躱しづらい部分を狙ってな。さらに言うならあの川神の妹の攻撃からそういう急所を常に死角に置くように心がけている」

「つまり、相手を確実に倒し、そして自分はなんとしてでも生き残る――という強い覚悟をもって戦いに挑んでいる、と。確かにこういったことは習って身につくようなことではありませんからね、あの歳でそしてこの日本で、どうやったらあの様な人材が育つのか、千信館とはなかなか興味深いところですな」

「ふん、戦の真はいまだ健在か」

「戦の真……ですか?」

「かつて千信館は戦真館という名だった、俺も鉄心もかつて腕試しでそこの卒業生とは戦ったこともある、もちろん俺が勝ってるが、まぁ、面倒くさい奴等だった。そういう芯のある奴等は折れないからな」

「なるほど、戦の真で戦真館。名は変われど志は死なず、ということですか」

「なんにせよ、少しは面白い赤子たちが来たもんだ。さて、奴等は川神に何をもたらすかな」

 そんな執事たちの雑談の中でも、対決は続いている。

 

 我堂鈴子は考えていた。

 『どうすれば能力(ユメ)を使わずに目の前の相手に勝てるか』ということをだ。こんなことを戦いのさなか冷静に考えてる自分は正直好きではないが、そんなこと今はどうでもいい。

 本当にこの悩みが深くなったら、あの嫌味な眼鏡野郎に相談すればいい、自分の奴隷であるあいつなら泣いて主人の悩みを解決してくれるだろう。

 

 四四八がきたら怒鳴りつけられそうなことを考えながら、同時に現状を分析していく。

 

 今、自分は受けに回っているが本来のスタイルは一子と同じく、薙刀も自分も動きながら相手を翻弄していくスピードタイプのスタイルだ。

 ならば何故そうしなかったのか、それは一子がどのようなスタイルで来るかわからなかったからだ、もちろん、前もっての情報はあるが今回同じで来るかは未知数だ、故にまずは「見」を選択した。

 

 そしてそこでわかったことがある。

 

 おそらく単純な身体能力だけで言ったら相手の方が上であろうということ、従って、現在同じ土俵に上がる――動きながら相手と真っ向ぶつかるかる選択肢は捨てた。

 なぜなら、いま自分より素の身体能力の高いであろう一子と同じスタイルで戦って勝つには能力(ユメ)を使わざるを得ないからだ。

 もし封印して戦っても鈴子はこのスタイルを『能力(ユメ)前提で行うスタイル』として確立してしまっているため、思わず使ってしまうこともあるだろう。今はまだ、鈴子は――鈴子だけでなく他の千信館の面々もだが、この能力(ユメ)を使うことに躊躇している、仮にここで思い切っても心はそう簡単に割り切れない、そしてそこが隙になる。

 

 一部の一方的な戦いを除けば、戦いというものは隙の突き合いといってもいい。如何に隙を作らずに、相手の隙を誘い出し、その隙を突くか。乱暴に言えば戦いの大方はこういうことになる。

 

 だから、鈴子は自ら隙を作り出してしまいそうな選択肢を捨てた。

 

 では、どうするか。

 このまま受けに回り続けてもおそらく時間切れ。スタミナ切れを狙うにも相手はまだまだ元気そうだ。

 ならばこちらから動いて隙を作り出し、そこを突くしかない。

 隙を作り出すには相手の虚を突くのが常道、そして虚は相手が考えてもいないところを突くのが効果的。

 

 ならば……

 

 そう決意して鈴子は構えを変えた。

 

 

「え?」

 

 都合5度目の攻防が終わり、位置に戻った一子は相手の構えが今まで違うことに気づいた。奇妙な構えだ……

 

 鈴子は身体の右半身を一子に向けそのまま右腕を一子の方へ伸ばし、そしてそのまま薙刀も伸ばした腕から一直線になるような構えをとっている。あえて似ているものを探せばフェンシングの突きの構えだろうか。

 自分の薙刀の剣先と鈴子の薙刀の剣先交差している、交差しているがそこまでだ。剣先は間合いに入ってる、が、鈴子の腕は伸びきっているためそこから更に伸びてくることは考えにくい。

 薙刀自体が相当の長さの得物のため、片手で持っているのもなかなかの重労働のはずだ、メリットが見いだせない。

 

 と、その時鈴子が動いた。

 

 動いたが、一子には鈴子が動いたようには見えなかった。

 どういう動きをしたのだろう。

 一子には鈴子が一瞬にして膨らんだように見えた。

 

 次の瞬間、鈴子は一子の間合いに入っていた。

 

 鈴子は薙刀の剣先をそのままに、右肘を曲げながら、すっと体を前に移動させたのだ。

 薙刀の剣先というわかりやすい目標が目の前から動かなかったため一子には一瞬、鈴子が近づいたことがわからなかった。

 

 鈴子が間合いに入ってきた瞬間、今まで静止していた剣先がいきなり一子の顔めがけて飛んできた、身体をひねってなんとか躱すが、既に間合いに入ってる鈴子が体勢の崩れている一子に2擊目をはなとうとした……

 

 その時――

 

「――えっ!」

 

 運が悪いことに2撃目を放とうとした時に踏み込んだ足が、グラウンドにある穴を踏みつけたらしく、鈴子はグラリとバランスを崩す。

 

「もらったぁ! 川神流 顎!!!」

 無理矢理体勢を立て直した一子の高速の上下二段擊が今度は体勢を崩した鈴子に襲いかかる。

 あたった!っと一子が勝利を確信した瞬間……

 

 鈴子の姿が掻き消えた。

 

 そう、一子にはまるで消えたようにしか見えなかった。

 鈴子が居たはずのそこには青の二筋の閃光が残っているだけだ。

 

「ワン子何呆けてる!後ろだ!!」

 反則だとは思ったが、思わず飛び出た百代の言葉に我に返る一子。

 

 と、次の瞬間……

 

「きゃあっ!」

 死角からの薙刀の一撃で一子は吹っ飛ばされた。その一撃を放った体勢のまま鈴子佇んでいる。

鈴子の瞳は青く輝いていた。

 

「勝者、我堂鈴子!!」

 

 ウワアアアアァァァァァァァァァァァッ!!

 大歓声が巻き起こる。

 

 その歓声に我に返った鈴子は慌てて、倒れた一子の下に向かう。

「ねぇ、川神さん大丈夫!? 私、こんなつもりじゃ……」

「いてててて……そんな顔しないでよ我堂さん、アタシが無理矢理頼んだ勝負だもん、負けちゃったのは悔しいけど……楽しい勝負だったわ。受けてくれてありがとう!」

「でも、私……」

「ねぇねぇ、それより、我堂さんってなんか堅苦しいから、鈴子って呼んでいい?」

「えっ……えぇ、もちろんいいけど」

「やったー、んじゃ、アタシの事も一子って呼んでね、じゃあまた勝負しましょうね!!」

 そういうが早いか、彼女は仲間のもとに走っていってしまった。

 

 ポツンと残された鈴子の肩にポンっと手がのせられる。

「お疲れ、我堂。いい勝負だったぞ」

「柊……私、能力(ユメ)を……」

「『能力(ユメ)の使用は各人の判断に任せる』が俺たちの取り決めだぜ?おまえも覚えてんだろ」

「そうだけど、やっぱり私は……」

「まぁまぁ、気持ちはわかるけどさ。使っちゃったもんはしょうがないし、別にそのことを糾弾するつもりもないし、それ以前にする理由がないよ」

「……うん、水希、ありがと」

「それに、なにかこの学園――というか川神は少々特殊なようだ、もしかしたら、俺たちの能力(ユメ)に対する新たな戦の真、見つけられるかもしれない。だから、気にするな」

「柊……」

「てかさぁ、勝ったおまえがそんな調子だとなんか、全然違うっつうか。なんか普段の鈴子ならここで『どう、勝ったわよ柊、約束通り奴隷になりなさい』とかの発言が出てこないとなぁ」

「そう、そうよ!私、勝ったんだからあんた奴隷になりなさいよ!」

「意味がわからん、なんで俺の身の振り方が第三者の戦いで決まるんだ」

「男らしくないわよ柊、約束守りなさいよ!!」

「そもそも約束していない」

「キーーーーッ! もう、ああ言えばこう言う……あんたみたいな男絶対モテないんだから!!」

「なんだよ我堂、調子出てきたじゃん」

「いや~、やっぱ、りんちゃんはこうでなくっちゃね~」

「おう、そんなことより、そろそろ行こうぜ。他の奴らも移動してる」

「そうだな、行くか」

 

 さっき自分が鈴子に行ったように、ここでなら自分たちの能力(ユメ)と向き合う、新たな戦の真が見つかるかもしれない、そんな思いを胸に四四八は仲間たちと教室に向かっていった。

 

 




初めて戦闘描写というものをを書きました
というか改めて読んだら、ほとんど書いてないし……
人の動きを文章で説明するのは、こんなにも難しいのですね。精進します。

お付き合い頂きましてありがとうございます。

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