源氏の話はを作るために、弁慶編とかやり直してました。
弁慶可愛いよ、弁慶。
夕暮れの河原に数人の男女が対峙している。
「ミッレーニアムな僕らの相手をしてくれるのは、君達……ということでいいのかな?」
その中の、眼鏡をかけた細身の、いかにもインテリといった感じの男が、目の前の男女――大和達に語りかける。その言葉には、若干以上の見下しのニュアンスが含まれていることを大和達は敏感に感じていた。
「おうっ! 店長んトコの貴重な古書は絶っ対ぇ、渡さねぇし、アンタのトコの古書も絶っ対ぇ手に入れるっ! なっ、大和!」
キャップが大和の肩にガッシリと腕を回して大和に同意を求める。
「お、おう……」
キャップの勢いとは若干温度差がありながらも、大和は頷く。
「おーおー、なかなかロックなメンツが揃ってるじゃねぇか。九鬼従者部隊序列15位 ステイシー・コナーだ。この決闘取り仕切らせてもらうぜ」
豊満な肢体をメイド服で包んだ、金髪の外人が楽しくてたまらないといったふうに河原に集まった面々を見渡す。
大和達の方に居るのが、キャップ、弁慶、義経、水希、宇佐美。
インテリ風の男――武蔵文太の方に居るのは、与一、歩美、辰子だ。
「頼むぜぇ、おまえら……あんなイヤミな野郎に負けんじゃねぇぞ、バッキャロウ」
キャップがバイトをしている、川神書店の店長のべらんめぇ口調を聞きながら、大和はどうしてこんなことになったのか思い起こす。
この決闘の切っ掛けはついさっきの出来事だが、この問題の根本はもっと以前からあったようだ。余計な事柄を全部取っ払っていってしまえば、武蔵文太が店長の土地を買収したいらしく、ちょっかいをかけてきているのを店長が突っぱねていた。ということらしい。
そんなことを繰り返す中で、今日、近所の知り合いから店長が貴重な古書を大量に譲り受けるという事で、宇佐美代行業経由で放課後、大和達が集められその古書を運び出しをやっていた。そんな中、例の武蔵文太が現れた。そして文太は店長をうまく煽り、あれよあれよという間にお互い古書をかけての決闘という運びになってしまったのだ。
そしてその時に、大和が集めたバイトの面々、大和、水希、弁慶、義経――源氏のクローン達は社会を勉強するという事でバイトを推奨されている――が決闘に駆り出されてしまったのだ。宇佐美は大和達の派遣元として様子を見に来たらその場面にばったりと出くわして、巻き込まれてしまった。完全にとばっちりだ。
大和達は巻き込まれた形だが、川神書店の店長にはキャップがバイトをしていることもあり、とても世話になっている。それにあの武蔵文太という男も正直あまりいい感じはしないし、慣れ親しんだ川神の商店街を買いたたいているというのも気分としても良くない。なので、ここは一発目に物見せてやろうと、大和は気合いを入れる。
「そっちは武蔵さんいれて、4人しかいないみたいだけど、どうするの?」
大和が聞くと、
「ミッレーニアムな僕がそんなこと気付かないとでも思ったのかい? ちゃんとファーストクラスの助っ人を用意してあるのさ、もう着くころだよ」
髪をかきあげながらキザっぽく文太が答える。仕草が一々なんとも鼻につく。
「まぁ、なんでもいいけどさぁ……与一……アンタなんでそっち側にいるのさ」
「そ、そうだぞ、与一。義経は……寂しい」
弁慶と義経が与一に向かって視線を送る。
「ふんっ……たとえ共に育った仲間であろうとも、道を違えなければならない刻がある……いいか、姐御っ! 俺は、今日こそ姐御を倒して、俺の魂魄にこびりついた呪縛から解放され、自由という名の漆黒の翼を手に入れるっ!! かっ、かっ、覚悟しとけよ、姐御っ!!」
つまりは、弁慶に植えつけられた恐怖心を何とか克服しようと敵にまわったという事らしい。後半の言葉の震えを見ると確かに根深いレベルで弁慶への苦手意識があるようだ。
「あたしは与一くんに誘われたの。座で繋がった仲間のお願いはきかないわけにはいかないよねー」
歩美はニコニコと笑いながら言う、暇つぶしと言ってもいいのかもしれない。
「あー、相手は大和くんだったのかぁ。断ればよかったなぁ」
辰子は口を尖がらせて呟く。辰子は大方、高額のバイト料で雇われたといったところだろう。
そんな風に両陣営が会話を交わしていると、残りの二人がやってきた。
「あれぇ、大和じゃん。オース! また背伸びた?」
と、軽やかに声をかける女性が一人。
「か、母さん! いつ帰ってきたの?」
「今日の午前中。寮のお前の部屋に荷物置いといたから」
「え? あの人、大和のお母さん?」
弁慶が驚いたように声を上げる。
「そうだよ。オッス! 咲さんっ!!」
キャップがそれに答えると、咲に挨拶をする。
「オッス、翔ちゃん! 相変わらず元気だね」
「お前んとこの母ちゃん、お前そっくりなのな……オジサンびっくりだぜ」
「義経もビックリだ……それにこの人……強い」
「あ、やっぱそうなんだ……でも、直江くんのお母さんってことは手加減……」
義経の言葉に水希が期待を込めて咲をみると、
「大和に会えて嬉しいけど。勝負事は別だぜ! 昔馴染みの頼みを聞いてきてみれば、相手が愛する息子……燃えるシチュエーションじゃん!」
そんな期待を真っ向否定する言葉が咲の口から発せられる。
「……ですよねー」
それを聞いた大和が予想通りという感じでガックリと肩を落とす。
しかし、咲よりも大きな驚きが待っていた。それは文太が用意した助っ人の最後の一人。
「実は僕の遠縁にあたる人、頼みますよ、おじさん」
「やれやれ、まったく何事かと思ってきてみれば……親戚付きあいも楽じゃねぇや」
そこに立っていたのは天神館の館長、鍋島正、その人であった。
「おいおい、敵さん。マジで勝ちに来てるぜ、ありゃ」
宇佐美が頭を抱えてこぼす。
「おいおいおい、本当に頼んだぜオメェたちよ」
それを見た店長も不安げな顔を見せる。
「大丈夫ですよ、店長」
そんな店長に大和が声をかける。
「今回は団体戦です。誰か一人が強いだけじゃ勝てません」
それを聞いた店長は、
「信じてるぜ、バッキャロウ……」
頷きながら答えた。
「よおし、メンバーも出揃ったところでルールの確認といくぜ。決闘は1対1のタイマンだ。両チームから一人づつ名乗り出て最大6戦。名乗りがなかった場合は、こっちでダイスを振るから出た目の奴が対戦だ。制限時間は3分、勝負がつかなかった場合は引き分け。6戦して勝ち数がイーブンなら、ラストの7戦で勝負を決める。勝ち負けはKO、ドクターストップ、ギブアップのどれかだ。質問は?」
「僕の方はないです」
「俺の方もありません」
「OKー、いい感じでギャラリーも集まってきたじゃねぇか」
そんなステイシーの言葉に促され橋の方を見ると、いつの間にか人だかりが出来ていた。その中に見知った顔もある。
「ほう、夕暮れの河辺で決闘とは、なんとも風流じゃないか」
「まったく、川神はとんでもないところですね。まるで時代小説の世界だ」
「あ、義経ちゃんに弁慶ちゃん! 与一くんもいるけど……敵方?」
京極、四四八、清楚の三人が橋の上から大和達を見ていた。こうやって遠目から見てもだいぶ目立つ三人組だ。
他にも、
「おや、咲ちゃん、さっき寮にいたと思ったらあんなとこでヤンチャしてるのかい。変わらないねぇ」
「へぇ、あれが大和の母上か。似てるなぁ」
「くうっ、私が図書館で見つけた新たなBL本にうつつを抜かしていなかったら、あの場にいて大和を助けられたのに!」
麗子、クリス、京といった面々が橋の上から観戦している。
「おい、あそこにいるの、お前の親父さんじゃねぇのか?」
「たっく、あの馬鹿オヤジ、また面倒事に巻き込まれやがって。年末年始はかきいれ時なんだから怪我して寝込んだら承知しねぇからな」
あちらの方にいるのは鳴滝と忠勝のようだ、この二人も随分と目立つ。
その他にも川神学園の生徒を中心に知り合いの姿が多く見える。
「観戦するのは構いませんが、私より前に行かないで下さい」
李がそんなギャラリーの整理にあたっている。
「いいね、いいね、熱くなってきたじゃねぇか。よぉし、あったまってきた所で、早速初戦と行こうじゃねぇか! 名乗り出な! ロックン・ロールっ!!」
ステイシーが決闘開始の合図として、手に持ったマシンガンを空に向かって発射する。
「こういうメンドイ事はさっさとすませるに限る。先鋒は私が行くよ、大和」
ステイシーの合図の直後、弁慶が大和に声をかけながらゆらりと前に出る。
「姐御が来るなら俺が行く。俺はこのために道を違えたんだからな……」
それを見た与一が、今日日、ビジュアル系のロックバンドのヴォーカルでも着ないような、ベルトやチェーンが大量についた真っ黒なロングコートを脱ぎ捨てながら前に出る。
「まぁ、今年もそろそろ終わるから。この辺でいっちょ締め直すってのもいいかもね」
弁慶が錫杖を構えながら与一に向かって鋭い視線を投げる。
「はっ、はっ、はん! いつまでも、無力な少年だった頃の俺だと思うなよ! 少年は今日こそ、白銀の翼を手にいれ大空へと羽ばたのだっ!!」
弁慶の視線を明らかにやせ我慢という感じで受け止めながら、与一は弓を携える。
「……翼の色は漆黒じゃなかったんかい」
それを聞いた弁慶が、思わずツッコむ。
「弁慶……与一……」
そんな二人を義経が不安そうに見守っている。
「おおー、おおー、一戦目から源氏同士の戦いとはロックじゃねぇか! そらっ! 試合開始だッ!!」
ステイシーの号令とともに、再びマシンガンが空に向かって放たれた。
―――――
「んじゃ、ひっさびさに、本気でいこうかね」
弁慶は手に持った錫杖を与一に向けて、与一が引き絞っている矢に集中する。
「……神威を纏いし閃光の一矢よ……常闇を照らして眼前の敵を穿て」
与一はそんな弁慶を前に、口から詠唱のような言葉を紡ぎ出す。
(――こいつ)
与一の詠唱に弁慶が反応する。
「これは神話の世界で星となったサジタリウスの一矢……お前に受け止められるかな……」
その反応を見てとった与一が至極真面目な顔で、弁慶に語りかける。
しかし、弁慶は与一の技に驚いているわけではなかった。
(この能書き……いつ終わるんだ? かといって途中で襲えばそれを言い訳にするかもしれないし……面倒だなぁ)
弁慶はギリシャ神話におけるサジタリウスの矢について滔々と語る与一を見ながら嘆息した。
「……あれって結構続くのかな?」
与一の口上を聞いていた大和が、弁慶と同じようなことを考えながら思わず口にする。
「たぶん……まぁ、麻疹みたいなもんだからな見守っててやろうぜ。相当重症だがな」
その呟きを聞いた宇佐美が答える。口にこそ出さないが周りにいる人間の多くは大和と同じようなことを思っているだろう。
そんな中で歩美だけが目を輝かせて、
「いやー、相変わらず与一くんはキレっキレだねー。ここまで振り切れるといっそ清々しいよね! わたしだって自分の攻撃に技名つけて語るとか、流石にできないしねー」
と、感嘆の声を上げている。
「歩美ー、いいかげんにしないと柊くんに愛想つかされちゃうよー」
そんな様子を見た水希が向こう側の歩美に向かってやる気のない声をかける。
「――って事でだ……いくぜっ!!!!」
ようやく長い長い口上が終わり、与一の矢が放たれる。
その矢を弁慶がゆらりと躱す。
「――なっ!」
驚愕する与一。
「あのなぁ、与一。完全アウトレンジからの狙撃ならともかく、矢の向きも殺気もバレッバレのこの距離で私にそんなん当たるわけないじゃん」
そう言って、弁慶は一歩前にでる。
「くう……」
そのプレッシャーに与一が一歩あとずさる。
「つうわけで、聞き分けのない坊やへのお仕置きの時間だ……」
そう、弁慶はそろりというと、目にも止まらぬ速さで与一の後ろに回り込む。そして、回り込むと同時に与一の左腕をたたんで同時に左肩を極めながら右腕で顔を挟み込む。
「――っ!! ちょ! 姐御っ!! これは、やばっ!!」
自分にかけられている技が何であるか察した与一は顔を青くして弁慶に声をかけようとするが、その前に口を右腕で塞がれる――技が極まった――チキンウィング・フェイスロック。初代タイガーマスクが得意とした、プロレスの関節技の中でも地味ながら一際『キク』サブミッションだ。
「源氏式ぃ――」
「ひぃっ!」
弁慶の掛け声に与一の口から恐怖の空気が漏れる。
「チキンウィング・フェイスロォックッ!!!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああっ」
与一の絶叫が夕暮れの川辺に木霊した。
川神書店 1 ― 0 駅前書店
―――――
「OK,OK! 初っ端からロックな試合だったぜっ!!」
ステイシーがカラカラと笑いながら二戦目の仕切りに入る。
先程まで弁慶のサブミッションで絶叫を上げていた与一は河原の向こう側で気を失って寝ている。時折、ビクリと身体を震わせながら、
「くっ! やめろ……やめろ……俺のそばに近寄るなぁあ!」
などと、声を上げている。悪夢を見ているのだろう。
「んじゃ、源氏に続くロックな奴等はどいつだ! 名乗り出な! ロックンロールっ!!」
「ひゅう! やっぱ川神は面白いわ。身体も火照ってきたし私が行くよ!」
そう言うと、いち早く文太側の咲が前に出る。
「あ、あの、咲さん。出来れば、咲さんは後ろのほうが……」
それを見た文太が咲に声をかけるが、
「あっ?! 泣き虫文太が私に指図するだと? 随分偉くなったじゃねぇか? あぁ?」
「ひいっ!」
往年を思わせる咲のメンチに思わず文太が尻餅をつく。
「凄いね、直江くんのお母さん。ここまで殺気が届いたよ」
「鎌倉にも有名な伝説の不良という人がいたみたいですけど、不良も極めるとあの域まで達することができるんですね」
「まぁ、武芸者や軍人以外で常に戦いに身をおいているのは、ヤクザと不良くらいなものだ、さもありなん、ということだろう」
橋の上の清楚たちが咲について口にする。
「咲さんには色んな喧嘩技、教わったからな。師匠に成長を見せるときってことで、次は俺が行くぜ! 大和!」
そう言ってキャップが飛び出していった。
「おー、かかってきな、翔ちゃん! 可愛がってやるよっ!!」
「しゃあ! 行くぜ! 咲さんっ!!」
「OKッ! んじゃ、第二戦だ! 二人とも気張りな! ロックン・ロールっ!!」
マシンガンが空に向かって轟いた。
―――――
「ほらほらほらっ!! どこまで成長したか、見せてみなっ!!」
咲の素早い拳が次々にキャップを襲う。
「ひょ! うおっ! わっと! 昔と全然変わってないじゃないですか! 咲さん」
その攻撃をアクロバティックに躱しながらキャップが咲に声をかける。
「あったぼうよ! ご主人さ……あの人を守るためだ、なまってたまるかっての! そらそらそらっ!!」
「すげぇな、お前の母ちゃん。元ヤンなんだっけ?」
宇佐美の問いかけに。
「うん、川神統一してた……らしいよ」
大和が答える。
「あー、そういえば鎌倉にもいたなそんな人」
それを聞いた水希の言葉に、
「なんか、ライバルみたいな人が鎌倉ってか湘南にいたらしいから、その人かもね」
再び大和が答える。
「そ、そうか――不良は強いんだな……そうか……」
「おーい、義経。余計なこと考えるんじゃないぞー……っと、待てよ。無理やり悪ぶってる義経というのも、それはそれで……」
そのやりとりを聞いた義経が、なにか考え込もうとするのを弁慶が止めようとして……やめる。
そんな、川神書店側の軽いやりとりに反して、キャップは咲の連撃に反撃できず防戦一方となっていた。このまま逃げ続けて引き分けというのも考えたが、この咲の猛攻を3分も凌げる自信はキャップにはなかった。
(うし! んじゃ、やるか!)
キャップはそう、腹をくくると、攻撃を躱すと同時につま先を土の中に潜り込ませる。そしてそれを蹴り上げて砂を飛ばす。
「なっ!」
咲の動きが一瞬止まる。
「よっしゃっ!」
そこに、キャップが突撃しようとすると……
「なーんてな」
咲の軽い声がキャップの耳に届く。そして、下がったと思っていた咲がいつの間にか目の前に現れたかと思うと、次の瞬間にはガッシリと頭を掴まれていた。
「翔ちゃん、それ教えたの私だぜ? 翔ちゃん、すばしっこいからなあ、いつも捕まえるのは一苦労だ」
そう言ってニヤリと笑う。全て咲の手の内だったということだ。
「まだまだ、師匠越えなんてさせねえよっ! とっ!」
そんな声と共に咲の額が、キャップの額にぶつかる。
ヘッドバット、単純だが非常に威力の高い攻撃だ。
「がっ!」
はじめの一撃で朦朧とする中、キャップはかつて――喧嘩でパンチとかキックとかあんま効かねぇよ。お互い訳分かんないでやってるからな。だから決めては頭突きと噛み付き、こんなんでも喧嘩は充分勝てるんだぜ――そんなことを言っていた咲の言葉を思い出す。
「よく耐えたけど、これで……終わりっ!!」
3回目の額への攻撃でキャップは地面に崩れ落ちた。
顔面ではなく額に攻撃したのは咲の優しさだろう。
「いい線いってたけど、まだまだだぜ。翔ちゃん」
そう言ってニヤリと笑うと、咲は倒れたキャップを担ぐと、息子の方へと歩き出した。
川神書店 1 ― 1 駅前書店
―――――
「これで互いに1勝1敗だ。一歩リードするのはどっちだぁ! 3戦目だ名乗り出なっ!」
「んじゃ、次はおじさんが行くわ」
ステイシーの掛け声と同時に宇佐美が前に出る。
「え? ヒゲ先生でるの?」
その行動に驚いた大和が声をかける。
「いや、だって、多分あの鍋島って人はラス前でしょ? 武蔵文太は最後かもしれないけど、それだとおじさんの勝敗で勝負が決まっちゃうかもしれないじゃん。おじさんそんな責任取りたくないの。だから勝っても負けてもいいこの辺ででときたいのさ」
大和の言葉に、宇佐美が答える。言っていることは最もではあるのだが……大人としては至極、格好が悪い。
「その飾らない発言、俺は好きだよ。頑張ってねヒゲ先生」
「おう、俺の勇姿、しっかりと梅子先生に伝えてくれよ」
「了解」
それを聞くと宇佐美はゆっくりとステイシーの方へと歩いて行った。
「ふむ……相手はあの中年ですか……じゃあ、板垣さん今回はあなたでお願いします」
宇佐美の姿を見た文太が辰子に声をかける。
「えー、私、大和くんとがいいー」
それを聞いた辰子がぐずるが、
「ここで、確実に1勝しておきたいんですよ。勝ったらバイト代に勝利給を上乗せしますから、お願いします」
という文太の言葉に、
「しょうがないなぁ……天ちゃん達とご飯食べたいし、わかった」
そう言って頷く。
「ありがとうございます」
文太は慇懃に礼をして、辰子を送り出す。
「OKーっ、出揃ったなっ! 異色の組み合わせの第3戦だっ! ロックン・ロールっ!!」
ステイシーのマシンガンが空へと放たれた。
―――――
「おーし、いっくよー」
どう聞いても人を攻撃するような掛け声ではない、ゆるい声を上げながら、辰子が宇佐美に襲い掛かる。
「うわっとっ!」
その攻撃を宇佐美が避ける。掛け声のゆるさとは裏腹に、重さと強さののった攻撃だ。
「やーー」
触れただけで吹っ飛びそうな一撃を避けながら、宇佐美は反撃のチャンスを待つ。
そして――
「よっと!」
重さと強さは相当だが、あまり早くない辰子の攻撃に合わせて、鋭いカウンターを辰子の顎へと叩きつける。見るものが見れば感嘆の声をあげてもおかしくない様な、そんな綺麗なカウンターだ。この一撃を見ても宇佐美がただのボンクラでないことがわかる。
「わっ!」
その一撃によろける辰子。
「あんまり力を使わずに相手を倒す。おじさん結構やるでしょ」
しかし、辰子はその一撃をうけてよろめきはしたが、倒れはしなかった。
「うー、痛いーなー」
それどころか、ダメージもあまりないように見える。とんでもない打たれ強さだ。
「いや、こりゃ、まいったね……おんなじこと何回かやって引き分けに持ち込むのが妥当かね」
それを見た宇佐美がボヤく。
「もーー、いくよーーー」
体勢を立て直した辰子が再び宇佐美に襲い掛かる。先ほどよりも……疾い。
「おっと――コイツは、ちょっと避けるのに徹するかね――」
宇佐美はそう言いながら、その辰子の突進をよけようとした時……グギッという身体の中から響く音と共に、腰に鋭い痛みがはしる。
「グアッ!」
その痛みのため、宇佐美の動きが止まる。そこに、辰子のラリアットがぶつかってきた。
「ギャアっ!」
辰子のラリアットをもろに受け吹っ飛ばされる宇佐美。
そのまま、宇佐美は立ち上がることができなかった……
「ヒゲ先生、大丈夫?」
「宇佐美先生、大丈夫ですか?」
倒れた宇佐美のもとに仲間が駆けつける。
「いたたた……ラリアット喰らったとこもそうなんだけど、それ以上に避けるときに腰が……グギって……いてててて」
そういって宇佐美は立ち上がろうとして……痛みに再び腰を抑えて、芋虫のようにうずくまる。
「べ、弁慶。宇佐美先生をなんとかできないか?」
心配そうな義経の声に弁慶が、
「ヒゲ先生、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してな」
宇佐美にそう言うと、腰の一点を錫杖の先端でグリッと思いっきり押す。
「いでででででででっ!! 痛ぇよ、弁慶、なにすんだ!」
あまりの痛さに宇佐美が飛び起きて、弁慶に文句を言う。
「って、あれ? 腰が動く……」
しかし、起き上がって腰が動くのを確認すると、ビックリしたように弁慶を見る。
「まぁ、関節痛みたいなもんは、こう言う応急処置でなんとかなるからね」
「そうか、サンキュー弁慶……いてて、あ、でもやっぱラリアット喰らったとこもいてぇわ」
「それは流石にどうしようもない」
「だよねー、いてててて……あー、さっきよりだいぶマシだが、やっぱ腰も痛ぇわ……」
宇佐美はそう言いながら腰に手を当ててうめいた。
「おい、お前の親父さん……」
「いうな……」
鳴滝の問いかけを途中で切る忠勝。
倒れて起き上がれなかったときは河原に飛び出しそうになったが、その後、起き上がったのを確認すると、ホッと小さく息を吐いた。そして、クルリと踵を返して橋から離れようとする。
「おい、最後まで見ていかねぇのか?」
「俺は年末年始の仕事に影響出したくねぇから、親父がどうなるか見たかっただけだ。ダメージは受けたみてぇだが仕事できねぇほどじゃねぇし、俺はもういい」
つまり、宇佐美が心配で見守っていた……ということなんだろう。
そんな素直じゃない友人の言葉に可笑しさを覚えながら、
「そうか、まぁ、世良達もやるみてぇだし、俺はもうちょい見てくわ」
そう、鳴滝は言った。
「ああ、んじゃあな」
それを聞いた忠勝はそのまま帰ろうとする。
その背中に、
「源!」
鳴滝が声をかける。
その声に忠勝が振り返ると、
「親父さんに伝言は?」
鳴滝が聞いてきた。
それを聞いた忠勝は、少し顔をしかめたあと、
「シップは机の引き出しの一番下。バンテリンはその隣。寝るときはうつ伏せに寝やがれ、馬鹿オヤジ!」
そう鳴滝に答えた。
それを聞いた鳴滝は片手を上げて了解の意を示すと、再び橋の下に目を向けた。
それを見た忠勝も再び歩き出して、今度は振り返らなかった。
決闘が始まった頃は、沈みはじめだった太陽が既に半分近く沈んでいる。
貴重な古書をかけた決闘も半分が消化されていた。
川神書店 1 ― 2 駅前書店
如何でしたでしょうか。
最近、戦真館の面々があまり出てなくて申し訳ありません。
次は水希と歩美をちょろっと書こうと思ってます。
源氏編にして、主要な流れがまだゲームで出てなくて後悔しそうになったのは内緒。
お付き合い頂きまして、ありがとうございます。