戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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直近3話の題名は戦真館のメンバーに厨二的な(二文字の)二つ名付いたらなんだろうな、
と考えてつけたものです。
鈴子が「風神」、鳴滝が「仁王」、四四八が「軍神」です。


第三十七話~軍神~

―――――白虎組 決勝―――――

  柊桜爛漫 vs 源氏紅蓮隊

 

 試合会場に現れた四四八と項羽をみた観客は一様にざわめいた。

 その対象は項羽。

 項羽の携えている武器が予選から使い続けていた方天画戟ではなく、弓であったからだ。腰にはしっかりと矢筒もつけている。

「んはっ! 皆、驚いているな! 西楚の覇王たる俺は弓も扱えるのだ!」

 そう言って手に持った弓――養由基の弓をぐっと突き出し、胸を張り、パートナー――四四八にどうだと言わんばかりに得意げな顔をする。

「それは驚くでしょう、パートナーの俺ですら知らなかったんですから……」

 四四八は少し呆れ気味に呟く。

「言ってしまっては楽しみが減るじゃないか」

 四四八の言葉に項羽は少しすねたような顔をする。

「いや、そういう問題じゃなくてですね、知っていたらいろいろと練習や作戦を……ああ、もう今更言っても遅いからいいです」

 そう文句を言おうとした四四八は途中で諦めたようにガックリと肩を落とす。

「とにかく、これで相手と同じような遠近のペアとなったので相性という意味では、同じ土俵に立てました。あとは如何にうまく連携して相手を倒せるかということです」

 気を取り直して、といった感じに四四八が項羽に言うと、

「んはっ! まかせろ、今までのようにバッチリ連携してやるさ。弓では初めてだが……まぁ、なんとかなるだろうっ!!」

と、やはり先ほどと同じように得意げに答える。

 ピクッと、四四八の顳かみが震える。

 次の瞬間、項羽の頬は四四八の両手に挟まれて横に大きく引っ張られていた。

「だから初めてにならない様に、何故、俺に前もって伝えておかなかったのですかと、言っているじゃないですかっ!!」

「ひはっ――ひはひ――ひひはひ、ひはひっ」(いたっ――痛い――柊、痛い)

 頬を左右から引っ張られて、パンパンと四四八の腕をたたいてギブアップの意思表示をする項羽。目には少し涙が溜まっていた。

 それを受けて、四四八は大きく一つため息をつくと、

「ふぅ……とにかく、相手は予選と決勝を通して四試合、遠近で勝ち上がってきたチームです気を引き締めていきますよ」

そういって項羽の頬から手を離す。

「――っつう……わかってるさ。でも、俺と柊が組んでるんだ、負けるはずがない! 俺達は最強だからなっ!!」

 拘束を解かれた項羽は頬をさすりながら、四四八に目を向けて、笑いながらそう言った。

「そうだといいですね……そろそろ始まりますよ」

「おうっ!!」

 四四八と項羽はそれぞれ武器を携えて開始位置へと向かう。

 

『さぁ、熱戦が続いております。続きましては白虎組の柊桜爛漫と源氏紅蓮隊の決勝戦となります。玄武組の決勝が行われないためこの対戦が準々決勝の最終試合となります』

『項羽が武器を変えてきたな。これで、パートナーの武具の相性的には五分になったって事だな』

『さて、こうなりますと個々の実力と同じくらい連携の練度が求められる戦いとなるやもしれませんね。柊桜爛漫はここに来ての武器変更、果たして吉と出ますか凶とでますか……』

『優勝候補ともくされている両チームの一戦、果たしてどんな結果になるのでしょうか。今! ゴングですっ!!』

 

 試合開始と同時に、義経と四四八が飛びだす。

 そして同時に京と項羽の弓から矢が放たれる。

 互いの矢は、先行する二人の耳元を通り過ぎ舞台の中央付近で迎撃し合った。

「――っ!!」

「んはっ!!」

 驚きの表情を顔に浮かべた京とは対照的に、狙い通り、と言った感じで笑みを浮かべる項羽。この一連の一射で京は項羽が伊達や酔狂で弓を持ったわけではない事を知る。項羽は明らかに京の矢を狙って撃ってきていた。

(――これは侮れない)

 京はそう心の中で呟くと、義経を援護出来るようにすっすっすっと移動を開始する。

 項羽も京の移動に併せてつッつッつッと移動する。

 京は義経、四四八、項羽を常に視界に納められるように動いている。

 項羽も義経、四四八、京を常に視界に納められるように動いている。

 二人は右手に矢を携えながらいつでも矢を射れるように牽制し合っていた。

 

 義経と四四八は既に打ち合いの間合いに入っていた。

「はあああああああああああっ!!」

 日本刀と旋棍の間合いの関係上、まずは義経が日本刀の斬撃を四四八に叩き込む。

 唐竹、袈裟斬り、逆袈裟に鋭く、美しく、そして疾い斬撃が振るわれる。

 その一筋の閃光の様な斬撃を四四八は避ける、体捌きを駆使して受けずに、避ける。

「はあっ!!」

 義経がその斬撃の連続の中で、裂帛を轟かせ上段から下段に今までよりさらに鋭い一撃を放つ。

 四四八はそれを少し後ろに下がり、避ける。刀が地面すれすれまで振り下ろされる。

 振り下ろされた刀が戻る前に四四八が一歩踏み込もうとした時、未だ地面近くにある刀がするすると四四八の胸めがけて伸びあがってくる。

 義経が地面にある刀を戻さずに地面を擦るようにして突きを繰り出してきていた。

「はあああっ!!」

 しなやかな蛇が鎌首を持ち上げるような一撃。それを四四八は身体を横に開いて躱す。そして、躱すと同時に義経の刀の側面を右足の靴底で蹴り、踏みつける。

「くっ!!」

「――シっ!」

 四四八は閉じた口から鋭い息を吐きながら、刀を踏みつけた足を軸足として回し蹴りを義経の顳かみ目掛けて放つ。

「わっ」

 その蹴りを義経は上体を反らせながら義経は躱す。

 蹴りを躱された四四八はその蹴った足を義経の身体の前に落として、間合いを詰めることに成功する。

 

 攻守が入れ替わり、四四八の旋根が振るわれる。

 

 義経は四四八の突きと共に上半身へ振るわれた旋棍の打突を身体を捌いて躱す。そして、連撃の一瞬の間を使い刀を引き寄せると、その後の攻撃は刀で受けて捌く。

 そんな上半身への連撃のさなか、四四八は旋棍を空中で持ちかえると今まで持っていた取っ手の部分を使い義経の足を後ろから前に払う。

「ひゃあっ!!」

 足を強制的に払われ、背中から地面に倒れる義経。

 そこに旋棍の長い部分を使い、四四八が義経の顔を狙って追撃をかける。

「くうっ!」

 義経はその一撃を身体を転がして避ける。

 ガスッと、今まで義経の顔があったところに四四八の旋棍が突き刺さる。

 義経は旋棍を避けながら身体を半回転して、

「はあああっ!!」

身体がうつ伏せになった瞬間に刀を水平には疾らせて四四八の足を狙う。

「っ!」

 四四八はそれを上に跳躍して躱す。

 義経はそれを読んでいたかのように、身体をもう半回転させると仰向けの状態になり払った刀を身体の前に持ってくると、跳躍して自らの上にいる四四八目掛けて刀を振り上げる。

「ふっ!!」

 四四八はその刀を身体の前で旋棍をクロスさせて、受け止めた。身体は未だに空中にいる。

「まだまだっ!!」

「――っ!!」

 義経は受け止められた刀の峰を蹴り上げ強引に空中にいる四四八に刃を当てようとする。四四八はその刃を旋棍をずらして受け流す。

 

「んはっ! 寝てたら的だぞ!! 義経!!」

 その義経めがけて項羽が矢を放つ。

「やらせない」

 今度は京が項羽の矢を迎撃する。

「むっ!」

 迎撃された事に一瞬不満げな顔をした項羽は再び矢をつがえ放つ。

「本職が負けるわけにはいかない」

 京は一気に二本の矢をつがえて放つ。

 一発は項羽の放った矢。

 もう一発は空中で刃を受け流し身体が傾いた四四八へ。

 一本目の矢は項羽の矢を迎撃し、もう一本は四四八の顔めがけて飛んでいく。

 四四八は傾いた身体をその方向に思いっきりひねり空中で身体を回転させながら旋棍で飛んでくる矢を撃ち落とした。

 その隙に義経は起きあがり、トンと後ろに飛んで距離を取る。

 四四八もそのまま足で着地すると後ろに飛んで項羽の前に降り立つ。

 

 仕切り直しとなった。

 

「んはっ! どうだ柊、俺の腕前はっ!」

 弓を掲げながら項羽は得意げに胸を張る。

「正直、見直しましたよ、項羽先輩。流石に中華の英傑ですね」

 四四八は項羽に素直に称賛の言葉を投げる。

「そ、そうか……ま、まぁ、あれだ遠慮せずにもっと褒めていいんだぞ?」

 項羽は胸を張って明後日の方向を見ながらチラッチラッと四四八の事を盗み見る。顔が赤いのは試合で上気した……訳ではおそらくなさそうだ。

「はぁ……取りあえず、試合はまだ終わってないんですから油断しないで下さいよ」

 そんな項羽の変化にはまるで気付かず、ため息を一つついて四四八は義経と京に目を向ける。

「むーーー」

 そんな四四八を見てむくれる項羽。

 それを無視して四四八は話を進める。

「最初のやり取りでイロイロとわかったこともあります。いいですか……」

 そういうと四四八は少し身体を項羽の方に寄せると、項羽に囁く。

「――は、――を、――――ます」

「……ふぅん」

 項羽はそれを聞くと先ほどまでのむくれた顔を引き締めて、なるほどという感じで頷く。

「可能ならばそこを突きます」

「んはっ! 了解だっ!」

「じゃあ、いきますよ」

「おうっ!」

 四四八と項羽が臨戦体制に移るのを見て義経と京も構えをとる。

 

 四人の主役が踊る、第二幕が幕を開ける。

 

 義経と四四八は同時に前に出る。

 先程とは違い、一気に間合いを詰めない。お互いに余裕をもったゆったりとした、しかし、流れるような足取りですぅと前に出る。

 互いの間合いがギリギリまで接近した時、日本刀という旋根よりも長い間合いを持つ義経が自らの持つ刀を引き絞る。

 いつでも間合いに入ってもいいようにするためだ。

 しかし、その引き絞る動作に入る一瞬に項羽が四四八の背中を蹴った。

 四四八の身体が今までのスピードに、項羽の蹴りの勢いが加わった予想外の速さで一気に義経との間合いを詰める。

「――っ!!」

「――ッ!!」

 義経だけではなく、京もこのいきなりの接近に拍子を外され、矢を射るタイミングを逸した。

 その接近を止めるため中途半端にだが引き絞った力で刀を繰り出し四四八に一太刀入れる。

 四四八はそれを難なく旋棍で受けると、自らの間合いまで踏み込んできた。

「じゃあ、いきますよ」

「くっ!」

 緑色に輝く瞳で義経を見据えながら放った四四八の言葉を合図に、お互い間合いに入った二人の打ち合いが始まった。

「――シッ!!」

「はああああああああああああっ!!!!」

 旋根と日本刀がぶつかり合う。

 閃きのような相手の渾身の一撃を、自らの渾身の一撃をもって迎撃していく。

 そして、その合間、合間に、

「――えい」

「んはっ!」

互いの弓師の牽制や援護が入る。

 しかし、それも互いの弓師によって妨害をされながらの牽制であり援護であった。

 

 一瞬の油断も許されない、そんな四人の打ち合いが展開され続けていった。

 

 何合目かの撃ち合いと牽制のやり取りが進んだ時、義経は項羽が四四八の陰に隠れたのを見た。

――勝機っ!

 義経はそう思った。

 今ならば項羽は四四八の援護が出来ない、射線上に四四八がいるからだ。援護しようとしても四四八に当たってしまうし、何より項羽は今、京の姿が見えていない可能性すらある。

 初めての遠近のペアで戦っている祖語がここにきて出てきた。

 そう、義経は確信した。

「やあああああああああああっ!!」

 故に、義経は京に咆哮で合図をしながら下段からの攻撃を四四八に放つ。

――このタイミングなら椎名さんが必ず援護をくれる!

 今までの四試合で培ってきた連携への絶対の自信が義経の身体を行動させた。

 

 しかし、そこに京の援護はなかった。

 

「え?」

 そのことに驚き横を見ると四四八の陰に隠れていた項羽が義経の横をすり抜け一気に京に向かって走っていくのが見える。

 京は四四八と向かってくる項羽、どちらを迎撃すればいいか一瞬迷ってしまったのだ。その一瞬は一秒半分にも満たない間だっただろう。しかし、戦いにおいて迷い、そして間を作り出してしまったことは確かであった。その一瞬を逃さず、四四八と項羽は行動を開始する。

「おおおおおおおおっ!!」

 四四八は緑色の瞳を一段と強く輝かせながら、上段から旋根の一撃を義経の頭上に振り下ろす。

「くうっ!!」

 それをなんとか刀で受け止める義経。

「おおおおおおおおっ!!」

 しかし、四四八は止められたことなどかまいもせず、そのまま旋根に力を込める。

「ぐ……」

 あまりの力に受け止めた刀ごと押し込まれガクリと膝をつく義経。

「義経っ!!」

 パートナーの窮地に思わず声を上げた京だが、既にすぐそこにまで項羽が迫ってきていた。

「もらったぞ! 天下五弓っ!!」

「くううっ!!」

 弓を引くのを諦め、持っていた矢を槍に見立てて京は項羽に一歩踏み込み突きを放つ。

「んはっ! 良い突きだ! だが、この西楚の覇王を打ち取るには――」

 そう言いながら、その矢の一閃を首を振って避けると、

「足りんッ!!!!」

裂帛とともに京の懐に飛び込み拳を一閃。

「ぐっ……」

 京は項羽の一撃を腹にまともに食らい、ドサリと武舞台に崩れ落ちる。

 

「それまでっ! 勝者っ! 柊桜爛漫ッ!!」

 勝鬨が上がる。

 

 わああああああああああああああああああああっ!!!!!!!

「椎名さんっ!!」

 

 熱いシャワーのように降り注ぐ歓声の中に自分を呼ぶパートナーの声を聞きながら、京の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

 

―――――

 

 

「んっ……」

 京が薄らと目を開けると、そこには見慣れない天井が広がっていた。

「私……そうか、最後、項羽先輩の一撃で……」

 そう、自らに起こった事を口に出しながら確認していく。

 そこに、

「あっ! よかった椎名さん、気がついたんだな!」

という、パートナーの声と共に、

「あ、京、気がついたんだ。心配したぜ」

という、予想外の人物の声が聞こえた。

「え? 義経に……大和?」

「うん、大和大和。意識、しっかりしてるみたいだな。これなら心配ないかもしれないけど、一応先生呼んでこようか」

「義経が呼んでくる、直江くんは椎名さんを見ててくれ」

「了ー解」

 医務室の扉を出ていく義経に大和はそう言って声をかけた。

「ふー、でも、ホント、大したこと無さそうでよかったよ」

 大和がベットの脇に座りながら京に声をかける。

「大和、なんでここにいるの?」

「ああ、ほら俺、一応、燕さんのチームのマネージャーって事で登録してあるからさ、関係者って事で入れるんだ」

「でも、控室には……」

「それは……まぁ、控室だといろんな目があるからさ、身軽なのを利用していろいろなトコで情報収集してたんだ」

「そうなんだ……」

「いや、でもホント京が倒れた時ビックリしてさ。まゆっちの時は人がいっぱいいたから寝てる時に様子見ただけだったけど、今はもう義経くらいしかいなかったからね、ちょっとお見舞いさせてもらったんだ」

「……大和」

 大和の言葉に驚きと、そして嬉しさを顔に浮かべた京は感極まったように大和の名前を呟く。

「まぁ、心配いらないみたいだし……俺そろそろ、行くね。先生にちゃんと見てもらえよ。んじゃ、また」

 そう言って、腰を浮かした大和の腕をガシッ! と京が掴む。気絶からたった今、復帰した人間とは思えない力強さだ。

「そんなに心配してくれたんなんて……もう、これは愛っ!! だね。大和、私も愛してるっ!! 誰よりもっ!!」

 そう言って腕をぐいと引き大和の身体をベッドに引きずり込もうとする。

「え? や? は? ちょ、と、取りあえず落ち着きませんかね、ねっ、京さん」

 全力でベッドに引きずり込まれない様に抵抗している大和は、文字通り鬼気迫る京に思わず敬語になる。

「ここにはおあつらえ向きにベッドがあるっ!! これはもはや完全なるフラグっ!! さぁ、大和、抱いてッ!! というか、挿れてッ!!」

「ちょっ、ちょっ、いや、いつもながらだけどさ、情緒とか恥じらいとかないわけ?」

「そんなものは、ないっ!!!!」

 とても、漢らしく断言する京。

「や、まじ、俺ホント行かなきゃまずいから。頼む……だれかーーーー、襲われるーーーーっ!!!!」

 大和の絶叫が医務室に轟く。

 九鬼の従者部隊が医務室に辿り着くまでに30秒、大和の声は医務室に響き続けていた。

 

 

―――――

 

 

 医務室を出て医者の先生を探そうとした義経は、隣の部屋から出てきた四四八とばったりと鉢合わせをした。

「わ、わ、柊くん?」

「ん? ああ、源か。先生なら中だぞ何か用か?」

「あ、椎名さんが起きたから……って、柊くん何処か痛めたのか?」

 義経が心配そうに顔を曇らせる。

「いや、試合後のメディカルチェックだ、源も受けただろう?」

「あ、そうか、そうだった。義経は忘れてた」

 そう言って義経はえへへと恥ずかしそうに笑う。

「あ、そうだ、終わった時は椎名さんを運んでいたから言えなかったけど……お疲れ様、柊くん」

 義経そう言いながら右手を差し出す。

「ああ、そちらこそ、お疲れ様」

 四四八はその手を軽く握る。

「やはり、柊くんは強いな、それに比べて義経はまだまだ未熟だ……」

「そんなことはないさ、今回の試合を決めたのは項羽先輩だ、俺だけの力じゃない」

「それでも、やはり、パートナーとの連携を柊くん達ほど深められなかったのは、やはり義経が未熟だったからだ……」

 義経はそう言って顔を伏せる。 

「源……」

 そんな義経を見た四四八は何か声をかけるべきかと考えて、試合中の感じたことを話すことにした。

 四四八は諭すように義経に話し始める。

「なぁ、源。なんで、俺達があの瞬間、源の思考を読むことが出来たと思う?」

 いきなりの四四八の問いかけに驚いたように身体を揺らすと、

「え? ……いや、義経はわからない……」

そう、申し訳なさそうに答えた。

 それを聞いた四四八は、

「源、おまえは椎名を信用しすぎていたんだよ」

そう言った。

 

 四四八が試合中、見つけて項羽に囁いた内容が、

『源は、椎名を、完全に信用してます』

というものだった。

 

「お前は、椎名が何か援護したとき、そちらを気にするそぶりを見せなかった。おそらく援護が来て当たり前、というふうに考えていたんじゃないのか?」

「あ……うっ……そうかもしれない……」

「なぁ、源、仲間を信用するというのは悪いことじゃない。むしろ素晴らしいことだ」

 顔を伏せた義経に四四八は優しい声で語りかける。

「だから、源の行動は間違っているわけじゃ、決してない――ただ……」

「ただ?」

 義経は顔を伏せたまま四四八この言葉をきき返す。

「仲間というものは信じて、頼るものだ……しかし、縋るものではない……と、俺は思っている」

「え?」

 その言葉に義経が顔を上げる。

 四四八が口元に優しげな笑みを浮かべて義経を見ている。

「信頼と依存は近いようで決定的に違う。俺はそう思っている」

 その言葉を聞いた義経が、

「義経も……その違い、いつかわかるかな?」

不安そうな顔で四四八を見上げて聞いてきた。

「わかるさ、だって源には武蔵坊と那須っていう素晴らしい仲間がいるじゃないか」

 四四八はそう自信有りげに答えながら、義経の肩をポンポンと叩く。

「あ……そうか……うん、うんっ! そうだなっ!」

 そう言って四四八の言葉に頷くと、

「ありがとう! 柊くん、義経は柊くんと戦えてよかった!」

明るく笑って四四八に礼を言った。

「そうか、伝説の源九郎義経にそう言われると嬉しいな」

 四四八も笑って義経に答える。

 

「椎名が待っているんじゃないのか?」

「あっ! そうだった、ありがとう! 柊くん」

 四四八の言葉に思い出したようにあっ、と口を開けると扉を開き中に入ろうとする……その時、義経が振り返り、

「なぁ、柊くん……義経の事は義経と呼んでほしい。源だとF組の源くんと解らなくなってしまう……」

と、申し訳なさそうに四四八に頼む。

「ああ、わかった。早く行ってやれ、義経」

「うん! ありがとう! 柊くん」

 そう明るい声を残して義経は扉の中に消えていった。

 扉の向こうで義経は、

「うん、やはり柊くんは凄い! 義経は絶対、柊くんになるんだっ! 頑張るぞっ!!」

そう、決意を新たにしていた。

 

 それを見送った四四八は、踵を返して控室に向かおうとすると……

「またか……またなのか……」

 そこに、地の底から這い出てくるかのような声が前方から聞こえる。

 驚いて顔を上げると、そこには曲がり角から顔だけ出して、こちらを何か怨念がこもっているかのような視線で見ている項羽の姿があった。

「うわっ! っと、項羽先輩ですか脅かさないでくださいよ」

 思わず四四八が上げた声には答えず、

「戻ってくるのが遅いと思って来てみれば、なんだ、次は義経か。なんだなんだ、そんなに女が好きか、好きなのか――なぁ、どう思う、俺……」

と、四四八を三白眼で睨みながら、ブツブツをこぼしている。

「――ふむ――うむ――やはりそうか、優勝して温泉旅行。これで決めてしまうしかないのだな――うむ――わかってる……」

「なにを一人でブツブツ言っているのですか」

 四四八が近付いて、項羽に声をかける。

 すると、

「柊っ!!」

と、いきなり大きな声で四四八の名前を呼ぶと、四四八の襟を掴み顔をぐぐっと近付けて、

「絶っっっ対、優勝するぞッ!!」

と、四四八の目を睨みつけながら宣言する。

「え? あ……はい……」

 その勢いと、何をいまさらという言葉に頷きながら、気の抜けた返事をする四四八。

「――よしっ!」

 しかし、項羽的にはその答えで満足だったのか、一つ大きく頷くとズンズンと控室の方へと戻っていく。

 四四八はその後を首をかしげながらついていく。

 

 選手の少なくなった廊下には二人の足音だけが響いていた。

 

 

―――――白虎組 決勝―――――

柊桜爛漫 ○ vs × 源氏紅蓮隊

   試合時間 12分35秒

 

 

 ―――――玄武組 決勝―――――

飛燕飛翔 不戦勝 vs ダブルKOによる対戦者なし

 

 

―――――準決勝 組み合わせ―――――

 

準決勝 第一試合

川神シスターズ vs 川神アンダーグラウンド

 

準決勝 第二試合

柊桜爛漫 vs 飛燕飛翔

 

以上

 

 

 

 




(前書きの続き)
出てないキャラだと晶は「菩薩」あたりでしょうか。
水希、歩美、栄光はなかなか思い浮かばなかったので何かいいのがあったら教えてくださいw

如何でしたでしょうか、
最近、ちょっと影が薄めな四四八ペアです。
項羽の弓はSやり直してたら対燕の時に「~弓もいいが」とか言ってたんで使わせてみました。

残りの試合も少なくなってきました。
この戦闘描写の連続なんとか書き切りたいと思ってます。

お付き合い頂きまして、ありがとうございます。

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