戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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前回報告し忘れていたのですが、
長宗我部 対 鳴滝も感想に書いていただいた方のアイディアです。

いつもありがとうございます。


第三十三話~白虎~

―――――決勝第一回戦 白虎組 第一試合―――――

     柊桜爛漫 vs 大江戸シスターズ

 

 クリスとマルギッテは武舞台に向かう通用口を歩いている。

 手にはそれぞれの武器を携え、背筋を伸ばし歩いていく。

「なぁ、マルさん」

 クリスが口を開く。

「なんでしょう、お嬢様」

 マルギッテが答える。

「マルさんは柊くんと戦いたいのか?」

 思わぬクリスの言葉にマルギッテが一瞬口ごもる。

「……いえ、私はお嬢様とこの大会に優勝するために来ております。特定の誰かとの勝負を望んでいるわけではありません」

 口ごもったのは一瞬、次の瞬間には少尉としての顔に戻り毅然として前を向く。

「そうか、ふふ、マルさんらしいな」

 クリスはそんなマルギッテをみて、口に手を当てて花のように笑う。

 聞いている周りの人間も思わず微笑んでしまうような、そんな笑みだ。

 

 そんな笑みを不意に消してクリスは真剣な顔でマルギッテに話す。

「なぁ、マルさん……自分は……覇王先輩と戦いたい」

「お嬢様……」

「この前、自分はグラウンドで覇王先輩に負けてしまった……だから、もう一回戦ってみたい!……だから」

 そう言うとクリスはマルギッテの方を向いて、マルギッテの瞳を覗き込む。

 意志の強い、マルギッテを魅了してやまない瞳だ。

「だから、マルさんには柊くんの相手をしてほしい……頼めるか?」

 愛するクリスティアーヌ・フリードリッヒからのお願い。それはマルギッテにとって何よりも優先されるべき事柄、故に答えは一つしかなく。

「お任せ下さいお嬢様。柊四四八、完璧に封じ込めてみせます」

「うん、よろしく頼むぞ! やっぱりマルさんは頼りになるなぁ」

「ありがとうございます、お嬢様」

 

 そういうと、マルギッテは左目にあてている眼帯を外す。

 フツフツと自らの中に闘志が湧きあがってくるのがわかる。

 マルギッテは四四八が――千信館の面々が、従軍……もしくは軍隊というものに何らかの形で触れた事のある人間であることを半ば以上に確信している。

 おそらく忍足あずみあたりもそう思っているに違いない。

 そしてその中で、四四八は隊長的な役割を担っていたのではないか。

 そう思うと、四四八とマルギッテには共通点が多い。

 軍人であり、隊長であり、そして同じ旋棍使いである。

 

 故に興味つきない。

 故に試したい。

 

 闘志と一緒に興奮が湧きあがってくる。

 

 その時マルギッテは――しまった、と思った。

 自らの中にいる獣が猛っているのがわかる、武舞台が近づくにつれて聞こえてくる歓声に引きづられるように、自らの中の猛獣が外に出せと暴れている。

 そうなって、初めてマルギッテは自分が思っている以上に自分は柊四四八と戦いたがっていたという事を知った。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

 歓声が近付く。

 獣が猛る。

 

 通路が終わり武舞台へと出る、その時――柊が視界に入ったらそのまま飛びかかってしまいそうなほどに自身の獣が猛り狂った時。

 

「――マルさん」

――傍らで声が聞こえた。

 理性を総動員してそちらに向くと――

――パンッ!

 と、マルギッテの両頬に衝撃が走った。クリスがマルギッテの両頬を掌で勢いよく挟み込んでいたのだ。

 そして、クリスは手をマルギッテの頬にあててまま、

「うん、マルさんは今日も美人だ」

輝くように笑ってそう言った。

 

 不意に意識が鮮明になったのをマルギッテは感じた。

 マルギッテの内部で猛っていた獣が収まっていた。

 いや、収まってはいない。

 マルギッテの中で猛っていた獣がマルギッテとピタリと重なったのだ。

 

 マルギッテは自らの頬にあるクリスの手を愛おしそうに包み込み。

「ありがとうございます、お嬢様」

 そう、声をかける。

「うん! 頑張ろうな! マルさん!」

「Verständnis!! (了解)」

 

 そう声を掛け合って二人は武舞台へと飛び出していく。

 

 目標は既に武舞台の上から自分たちを見据えていた。

 四四八の視線が自らを貫いているのがわかる。

 

――ああ……ありがとうございます、お嬢様。私にこのようなチャンスをくれて……

 

 高鳴る胸を押さえながら目標と対峙する。

 さぁ、さぁ Zu jagen, wird angefangen! (狩りを始めよう!)

 

 軍人たちのミッションが始まる……

 

『さぁ、決勝トーナメントの第一回戦も後半戦に突入です。今回は白虎組の第一試合、柊桜爛漫と大江戸シスターズの対戦となっております』

『両チームとも高いレベルでまとまったチームだ、予想がしにくいな』

『柊様とマルギッテ様は使用武器が被っておりますな、この辺りもどう対応するか見ものですな』

『前評判の高い両チーム、どのような戦いが繰り広げられるのでしょうか。今、ゴングですっ!!』

 

 試合開始の合図と同時に、クリスとマルギッテはそれぞれ項羽と四四八へと向かい、二人の射程距離に入る寸前に飛びのき、武舞台の中でそれぞれ離れた位置に陣取る。

「――ふむ」

「――ほぉ」

 四四八と項羽はその意図を理解する。

「俺達に敢えて1対1を挑みますか……」

「面白い、受けてやろうじゃないか! なぁ、柊!」

 項羽が楽しそうに言う。

「ええ、売られた喧嘩です、買いましょう」

 そんな項羽を静かに見つめて四四八が頷く。

「んはっ! そうでなくてはな!」

 項羽はそれを聞いて興奮を隠くさずに笑う。

 

 四四八はマルギッテへ項羽はクリスへと向おうとした時、四四八が項羽とのすれ違いざまに、

「――、――」

項羽にだけ聞こえるように何気なく囁く。

 項羽は四四八に目を向けず方天画戟を地面に一回トンっとつけて了解の意を表す。

 何事もなかったかのように、各々の相手へと向かう二人。

 四四八がマルギッテと項羽がクリスと対峙する。

 

 そして、4つの影は同時にぶつかり合った。

 

 旋棍――とはどのような武器だろうか。

 広くアメリカや欧州の警察で使用されているのを見てもわかるとおり攻撃力だけでなく防御力、制圧力に優れた武具である。

 起源は中国そして琉球に渡る、故に動きは空手を応用したものが多い。

 打つ、突き、受け、廻し打ち、払い、絡め、蹴り。

 体術の優劣がそのまま武器の練度に直結するという武器だといっていい。

 そして、現在武舞台上に相対するは共に体術の練達者であり、熟練の旋棍使いである。

 

 そんな使い手どうしの戦いはマルギッテの裂帛から始まっていた。

 

「Hasen Jagd!! (野うさぎ、狩ってやる!)」

 力強いドイツ語の一言を合図にマルギッテは旋棍を旋回させながら、四四八へと襲い掛かる。

 掌の握りを一瞬緩めての廻しうち。

 通常の逆手握りから正拳突きの要領で出す打突。

 通常握りから旋棍を肘に沿わせた状態で打つ肘打ち。

 旋棍の長い部分を前に突き出しての一撃。

 スピートと間合いとそしてタイミングの違う旋棍での打撃をマルギッテは次々と繰り出し、四四八に浴びせかける。

 四四八はそれを同じく旋棍を使い、捌いている。旋棍と旋棍のぶつかる乾いた音が武舞台に響き渡る。

 その音の間隔がどんどんと早くなっていく。

 そんな絶え間なく続く連撃の間合いでマルギッテは右手に持った旋棍を離す。

 そしてすぐさま空中で旋棍の先端部に持ち返るとマルギッテが今まで持っていた取っ手の部分を鉤爪に見立てて強制的に四四八の足を払いにいった。

 

「――っ!」

 足を払われ空中に浮かされる四四八。

「もらうぞ! トンファー・マールシュトロームッ!!」

 マルギッテが浮いた四四八に向かい、空中での必殺の連撃を放とうとした時、四四八が空中で身を捻る。

 そして、旋棍の長い部分をトンっと地面に杖にみたてて当てると後方にバク転の要領で飛び退きながらマルギッテの追撃を回避する。

 四四八が両足で着地した瞬間、四四八は攻撃のためにマルギッテに向かって今度は自ら跳躍した。

――飛び蹴りっ!

――いいでしょう、着地の瞬間に終わらせてあげますっ!

 マルギッテは手に持った旋棍をクロスさせ四四八を迎え撃つ。

 

 跳躍の勢いそのままに四四八の右足が旋棍の防御を叩く。

――1。

 次に四四八は折り曲げていた左足を繰り出す。これも防御する。

――2。

 未だ空中にいる四四八は左足を防御された反動を使い空中でくるり身を捻ると勢いをつけて再び右足を伸ばす。タイミングを外したこれも、防御。

――3、飛距離も考えればこれで終わりっ!

 

 マルギッテが反撃にでようと前にいく瞬間、

――ゾクッ、

と、マルギッテは下からやって来る何かに反応した。

 何かわからないが自らの武芸者としての経験を信じ、頭を思いっきり後方に避ける。

 すると、いままでマルギッテの頭のあった場所に四四八の左足がマルギッテの鼻先をかすめながら持ち上げってきていた。着地の瞬間を狙われると読んでいた四四八の4擊目。

 しかし、四四八の攻撃はそこで終わりではなかった。着地した瞬間の右足をすぐさま踏切りマルギッテの逃げた頭部を追い右足を放つ、空中に残った左の踵が同時にマルギッテの頭を狙い落ちてくる。

「――くうっ!!」

 マルギッテは避けられないと悟ると、旋棍を頭の上下において備える。

 ガンッ!と獣の顎で噛まれたかのような四四八の両脚での一撃が旋棍に伝わってくる。

 そして四四八は軽やかに着地をするとトントンと二歩ほどそのまま後ろに下がる。

 お互いに体勢を立て直す。

「wunderbar……(素晴らしい)」

 マルギッテの口から感嘆の声が漏れる。

 マルギッテの口には笑みがこぼれていた。

 

 クリスと対峙した項羽はクリスに声をかける。

「久しぶりじゃないか、あれから腕はあげたか?」

「先輩の方こそあれから連敗続きみたいじゃないか」

「むっ、だが、あれを経て俺は強くなったぞ、あの時よりもなっ!」

「自分だってあの時と同じということはない!」

 そう言うと二人はお互いに武器を構える。

――そして同時に動き出す。

 「そうらっ!」

 項羽の方天画戟から繰り出される重い一撃を避けながら、

 「はっ!」

小気味のいい声と共にクリスの刺突がカウンター気味に振るわれる。

 項羽はその一撃を半身を開いて躱すと、懐に入ってきたクリスに対して再び方天画戟の一撃を放つ。

 クリスはそれをバックステップで項羽の射程距離の外まで飛び退く。

 初めから離脱を意識した動きだ。

 フェンシングの基本はヒット&アウェイ。

 クリスは前回の対戦の時の様な攻め一辺倒ではなく、防御を意識した基本的な戦い方に変えてきているようだ。

 

 しかし、項羽は今の一合のやり取りで戦法ではない別の違和感を感じとる。

 そして、武舞台の向こう側で四四八と打ち合っているマルギッテをみると、再びクリスをみて。

「ほう、なるほどな。そういうことか……」

「……」

 その声にクリスは答えない。

「部下の悲願をお膳立てか。将としては立派だが……舐められたものだな……この西楚の覇王が脇役扱いとはっ!!」

 そう言うと、項羽は方天画戟を両手で構えクリスへと突撃していく。

「そうら、そうら、そうら、そうらっ! 果たして逃げ続けられるかなっ!!」

 一気に間合いを詰めると、そのまま方天画戟を縦横無尽に振り回しクリスを攻撃する。

 クリスはその暴風雨の様な攻撃を後ろへ後ろへ回避しながら、

「マルさんは強い。自分はマルさんを信じている……それに――」

そう言うと、間隙をぬって鋭い刺突を放つ。

「ぬっ!」

 その顔面への攻撃を首をそらして躱す項羽。

「自分は……自分が勝てないとは思ってないっ!!」

 と、クリスは裂帛を轟かせる。

 それを聞いた項羽は、

「んはっ! その心意気や良しっ!!」

そう笑うと、再び方天画戟を振り回しクリスへと襲い掛かる。

「いいだろう、この西楚の覇王の首取れるものならとってみろっ!!」

「望むところっ!!」

 項羽とクリスの戦いは項羽の連撃の嵐に一瞬の閃きに似た隙をクリスが突く。

 そういった様相を呈していった。

 

 マルギッテと四四八の戦いは一進一退の攻防が続いている。

 互いに得物が同じなため、旋棍から繰り出される奇手のことごとくが読まれている、必然的に真正面からの打ち合いと蹴りによる攻撃が主となっていた。

 なにか、状況を変える一手が必要――

 そう、マルギッテが考え始めたとき、

「そろそろか……」

四四八の微かな呟きが耳に入る。

 

 四四八は目を左右に動かし状況を確認すると、今までよりも大きく後方に飛び退いた。

 四四八の呟きを聞いたマルギッテは『何かを仕掛けてくる』と考えあえて追わず、その場で構えを取る。

 と、

「はああああああああああああああああっ!!!」

四四八がこの戦い始めてあげた咆哮と同時にマルギッテに向かって四四八の旋棍の一本が飛んできた。

 そして、同時に四四八もマルギッテに向かい突進する。

「くっ!」

 若干不意を突かれた感じになったが、弾丸のように迫り来る旋棍をマルギッテは左手の旋棍で払いのける。

 そして、素晴らしい疾さで間合いを詰めてきた四四八の左手に残る旋棍の一撃を逆の右手で払う。

 その時、今の2つの攻撃を払ったことで空いたマルギッテの左胸に何も持っていない四四八の右手がするすると伸ばされ、とん、と掌が置かれた。

 肩と心臓の間に置かれた掌。

 置かれただけでなんのダメージもない。

 その掌を四四八が手首をスナップさせ投げるようにマルギッテの身体を押し出す。

 

「――っ!!!」

 

 次の瞬間、マルギッテは後ろへと吹っ飛ばされていた。

 項羽との戦いでも見せた、合気。

 あえて重心を崩して作った隙に絶妙のタイミングで力を加え、相手を飛ばす。

 

 飛ばされているマルギッテは自分に何が起きたか理解ができていなかった、いなかったが、自らに大きなダメージがないことを確認すると、瞬時に目標へと注意を集め、四四八が次に何をするのか見極めようとしていた。

――すると。

 どん、と背中に何かが当たる。

 身に覚えの有りすぎる柔らかな感触。

 それが何故、自らの背中に当たるのか皆目見当がつかなかったが間違えるわけがない。

「お嬢様っ!!」

「マ、マルさん!?」

 クリスもクリスで項羽に蹴られて後ろに吹き飛んだところにマルギッテにぶつかった為、混乱しているようだ。

 

「しまっ――」

「あっ――」

 同時に状況を把握し向き直った時には項羽と四四八がすぐそばまで迫ってきていた。

 

 開始前、四四八が項羽に言った言葉がこれ。

「5分前に、仕掛けます」

 つまり、5分間でお互いの1対1に決着がつかなければ仕掛けるということ、四四八が先ほど咆哮を上げたのは項羽への合図。

 故に、同じタイミングでそれぞれの相手をぶつける事で隙を作り出せたのだ。

 

 四四八の一撃がクリスに突き刺さった。

 項羽の一撃がマルギッテに突き刺さった。

 クリスとマルギッテはお互いがお互いをかばい合おうとして対面の敵の攻撃をくらっていた。

 

 二人同時にドサリを舞台に崩れ落ちる。

 

『それまでっ! 勝者っ! 柊桜爛漫っ!!』

 

 わああああああああああああああああああああああっ!!!!!!

 

 クリスとマルギッテはその勝鬨と歓声を消え行く意識の中で聞いていた。

 お互いの手が重なっていた。

 どちらともなくその手を握る。

 そのぬくもりを確認しながら、二人は意識を失った……

 

 

―――――

 

 

 控室へと向かう通路にて、

「美しい……絆だったな」

クリスとマルギッテが最後に見せた行為を思い出し四四八が小さく呟く。

 最後の瞬間二人は、お互いがお互いを守ろうと行動した。その動きが敗北を決定づけてしまったわけだが、四四八はそれを愚策だと笑うことなど到底できない。彼女たちの見せた絆は素晴らしい、そう感じている。

 だから、そこを思い出したとき思わずそのような言葉が独り言のように飛び出たのだ。

「ぬっ! なぬっ!!」

 しかし項羽はそれを耳ざとく聞き反応して、

「おいっ、柊! 今、美しいと言ったか? それはあの二人の事か!?」

 そう、項羽は四四八に詰め寄る。

「え、えぇ、そうですが……よく聞こえましたね……」

 いきなりの項羽の反応に驚きながら四四八が答える。

 そんな四四八に項羽が早口でまくし立てる。

「い、いいか? 欧米人と言うのはだな、今どんなに綺麗でも、れ、劣化が早いんだぞ! すぐにシワシワなんだからなっ!」

「は、はぁ?」

「そういえば貴様……最後の掌底の一撃で胸を触っていたな……そうか、胸か、胸もか!! たしかにあの赤毛は凄まじいモノを持っているようだが……あの金髪の小娘には負けんぞ!!」

 そういってグググッと四四八の方へと胸を張る。

「……何言ってるか訳がわかりませんよ……次も試合があるんです、早く控室で休みましょう」

 そう言うと四四八はスタスタと控室へと向かって再び歩き出す。

「まて! 柊! 話は終わってない!! いいかそもそも……」

 そんな四四八を項羽が慌てて追う。

 通路からは項羽の声と四四八の力のない相槌が響いていた……

 

―――――決勝第一回戦 白虎組 第一試合―――――

  柊桜爛漫 ○ vs × 大江戸シスターズ

       試合時間 5分

 

 

―――――決勝第一試合 白虎組 第二試合―――――

  フラッシュエンペラー vs 源氏紅蓮隊

 

 

 英雄と準、そして義経と京が武舞台へと上がってきた

 大きな歓声の中で一際大きな声が、英雄に掛けられた。

「兄上ええーーー、我が応援してます、頑張ってくださいっ!!!」

 紋白だ。小さい体をピョンピョンと跳ねさせ、大きく手を振って英雄を応援している。

「おお! 紋!! 任せておけ!! フハハハハーーーッ!!」

 英雄は張りのある声を上げながら紋白の声援に答える。

 後ろで何故か準も同じように手を振っている、英雄よりもさらに激しく振っている。

 おそらく準の耳には紋白の『兄上』は英雄ではなく、自分に向かって言っていると変換して聞こえているのだろう。

「幸せな人ですね、準は」

「ロリコンだからねー」

 それを見た冬馬と小雪がとても微笑ましそうに笑っているが……四四八あたりがいたら非常に鋭いツッコミが入ったであろう。

 

 そんな英雄を準をみていた義経が小さく目を伏せて呟く。

「九鬼くんは肩を痛めているらしい……九鬼くんには今までもお世話になっている、だから義経はあまり無理なことはしたくはない……どうしよう……」

 そう悩んでいると、それを聞いた京が、

「クックックッ、心配しないで源さん家の義経さん。我に秘策ありっ!!」

そういって、『100点』と書かれたプラカードをすっとだす。

「おお! 本当か椎名さん!」

「うん、だからね耳かして」

 そういって京は義経の耳元に口を近づけると。

「――で、――やって、――――」

「うん、うん、わかった」

 しかし、その作戦を聞いても今一ピンと来てないらしく、

「わかった、わかったんだが……本当に大丈夫なのか?」

「クックックッ、任せなさい絶対に成功するよ」

「そうか、義経は椎名さんを信じる!」

 そう言って義経は純粋な瞳で京を見てお礼を言う。

「……なるほど、確かにこれはちょっとイジりたくなるかも。弁慶の気持ちちょっとわかる」

「ん? なんのことだ?」

「ううん、こっちの話。頑張ろう」

「うんっ!」

 義経と京は気合を入れて開始位置に立つ。

 

『さぁ、白虎組第二試合は源氏クローンの筆頭、源義経の登場ですっ!』

『義経だけじゃなくパートナーの椎名京も天下五弓の一人としてとても優秀だ』

『非常に厳しい戦いになりそうですが、英雄様と井上様にも是非とも頑張っていただきたいですな』

『さぁ、注目選手が出場の第二試合、どのような展開になるのでしょうか。今、ゴングですっ!!』

 

 開始と同時に京は一本の矢をつがえ自分たちと相手との中間ぐらいの位置に矢を放つ。

 ボンっと小さな爆発音と共にもうもうと白い煙が立ち上る。

「おいおい、こりゃ、煙幕か?」

「おい、井上! あまり我から離れるなよ!」

 まったくの予想外の攻撃に慌てるフラシュエンペラー。

 その一人に忍び寄る二つの影。

「むっ!?」

 準が気配に気がつき周りを見渡そうとしたその時、左右の耳元でそれぞれ違う声が聞こえた。

 

「 「お兄ちゃーん、お願い……気絶して♡」 」

 

「ッ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 この武舞台の上で聞こえたからには、この声の主は義経と京のはずである、はずであるが……

煙幕とあえて幼く出された声により、準の脳には紋白に似た二人の幼女が自分のズボンを左右に引っ張りながら駄々をこねている……というストーリーまで脳内再生されてしまっていた、したがって……

 

「はい! よろこんでぇっ!!!!」

 

 そう言いながら、場外へ全速力で走っていき、壁に自らの頭を痛打させ意識を強制的に外へとはじき出すまでの一連の行動にでたことは、準の中では教義に殉じて死んだ聖職者にも似た神聖な行いであり、至極当然のことだった……

 

『そ、それまでっ! 勝者っ! 源氏紅蓮隊っ!!』

 大佐の勝鬨にも戸惑いが見える。

 

『い、今、何が起こったのでしょうか。煙幕がたかれたと思ったらその中から井上選手が飛び出してきて、自ら場外の壁にぶつかり気絶してしまいました』

『うーん、もしかしたら催眠術とかの類かもしれねぇなぁ』

『仮にそうだとしても、対象者を気絶まで追いやる催眠とはとても強力なものですね、もしかしたら源氏紅蓮隊にはまだ出していない奥の手があるのやもしれませんな』

 解説の二人も首をかしげている。

 

「すごい! 凄いな椎名さん! 言われた通りにやったら勝てたぞ!!」

 義経がピョンピョンと跳ねながら京の手を取る。

「はぁ……馬鹿ばっか……」

 京は呆れたように、倒れている準の見る。

 

 準は、

「おいおい、ちゃんと遊んでやるから引っ張るなって……あん? おっぱいが大きくなってきたって? ……お前のような奴はロリコニアには必要ない! 出て行けっ!!」

と、とても幸せそうな夢を見ていた……

 

―――――決勝第一試合 白虎組 第二試合―――――

 フラッシュエンペラー × vs ○ 源氏紅蓮隊

        試合時間 30秒

 

 




クリスが若干出来る子になってる……(こんなのクリスじゃないとかイワナイデ)
マルギッテはホントは百代の前くらいで一戦交えるのがちょうど良かったのかなと、
個人的には反省してます。

次は鳴滝・忠勝組と同様に注目度の高い第八戦を書いていきます。
みなさんのご納得のいく決着がかけてればと思ってます。

お付き合い頂きまして、ありがとうございます。

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