戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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こんなにポンポンかけるのは、原作をそれなりになぞってるからです。
1から10までオリジナルより数倍楽ですね。ホントに。


第二十九話~前夜~

 告知から9日という日はあっという間に過ぎトーナメントの予選が明日という日まで近づいた決戦前夜。

 各ペアは思い思いにその夜を過ごしていた。

 

 

―――――PICK UP 大杉栄光・黛由紀江+松風and大和田伊代―――――

 

 

 川神市内のマッグの店内に栄光、由紀江、伊予の3人が小さな机を囲んでハンバーガーをかじっている。

 

「それにしてもさ――」

 チーズバーガーをかじりながら栄光が話す。

「由紀江ちゃん、マジこういうとこ来た事ないのね」

「そういえば、まゆっちとこういうとこ来た事ないね」

 自身の顔と同じくらいの大きさがあろうかというビッグマッグを美味しそうにモグモグとやりながら伊予が答える。その姿は小動物の様でなんとも愛らしい。

「い、いや、私、あまり外食しないというか、する人がいなかったというか……興味はあったんですが、一人じゃなかなか……」

「マッグに女子高生が一人とか、そりゃもう苛めだべ……」

「まぁ……そりゃ、確かに……」

 松風の言葉の絵面を想像してあまりの侘びしさに頷く栄光。もう松風との会話に違和感はないらしい。

 

「まぁ、それはともかく……その年で親元離れて、川神で剣の修行でしょ?由紀江ちゃん偉いよなぁ」

「いえいえいえ、そんなことないですよ……修行中の身ですから……」

「そんなことなくないよー。私なら出来ないなぁ……友達とはなれちゃうし」

「伊予ちゃん……オイラ達にわかれを惜しむ友達はいなかったんだぜ……」

「お……おう……なんともツッコミ辛いコメントだな……」

 わいわいと賑わう3人(?)の中、一人うつむいて由紀江が話しはじめる。

「ですけど……最近は敗北続きです……驕っていたつもりはありませんでしたが、剣は私の唯一の取り柄です。それでここまで立て続けに負けてしまうと……」

「まゆっち……」

 そんな声になんと声をかけていいか戸惑う伊予。

「あ、あ、ごめんなさい……こんなこと……すみません」

 そう言って慌てて取り繕う由紀江。

 

その時――

 

「まぁ、別にいんじゃねぇの?」

 栄光がセットのコーラを飲みながら軽めの調子で答える。

「だってさ、由紀江ちゃんさっき言ってたじゃん。自分は修業の身だって」

「そ、それは……そうですが……」

「それに、途中どんなに負けたって、最後に勝ちゃあそいつの勝ちなんだよ。オレ達だって負けに負けに負け続けて、なんとか最後に勝ち拾ったんだ」

 そう言って飲んでたコーラを飲み干すと。

「だからさ、由紀江ちゃんも今どんな負けたって、最後の最後、絶っ対ぇ負けちゃいけねぇ時に負けなきゃ良いんだよ。修行中の身なんだしさ」

「大杉先輩……」

「まぁ、連敗街道だったら、オレのが全っ然先輩だからな!何でも聞いてくれよ!」

 そう言って栄光は明るく笑う。

 

「エイコー……まゆっちの『友達なれなかった記録』……パネぇぞぉ……」

「ま、松風!!」

「ぐおっ、それは……手ごわそうだ」

 松風の声に栄光が大げさにのけぞる。

「松風、そんなこと言ったら悪いって」

 伊予がクスクスと笑う。

「まぁ、とにかく。オレ達が出来るのは力の限り頑張るってことでさ、な!」

「はいっ!」

 由紀江はさっきとはうって変わって元気よく返事をする。

「頑張ってね!明日二人にハマスタ名物、番長丼差し入れるから!」

 伊予の言葉に――それ美味しいの?と聞く栄光。

 何言ってるんですか、ハマの番長がプロデュースした丼ですよ――いいですか?……

 伊予の番長丼制作エピソードが語られはじめた。

 栄光は若干引きながらも聞いてあげている。

 

 そんな二人を見ながら由紀江は、本当に自分は川神に来てよかったとそう思っていた。

 

 

―――――PICK UP 源忠勝・鳴滝淳士―――――

 

 

 川神繁華街の『梅屋』に二人の姿はあった。

 二人並んで座っている。

 微妙な時間帯だからだろうか、客は二人以外いない。店員も注文を出し終えて奥の方へ引っ込んでいる。

 二人とも無言で丼を掻き込んでいる。

 忠勝の傍らには一つ、鳴滝の傍らには二つの丼が既に空になって置いてある。

「なぁ……」

 箸を止めずに忠勝が鳴滝に声をかける。

「あぁ?」

 鳴滝も鳴滝で箸を止めずに目だけ忠勝に向けて答える。

 

「今更聞くのもなんなんだけどよ、なんで出ようと思ったんだ?」

 鳴滝の箸がピタリと止まる。

「……」

「別に答えたくなきゃ、答えなくてもいいぜ。ちょっと気になっただけだからな」

 忠勝は鳴滝が自分を見ているのも箸を止めたのも分かってはいたがあえて無視して丼の中から視線を動かさない。

 

 沈黙が流れる、数秒だったかもしれない。もしかしたら一分近かったかもしれない。

 少なくても忠勝にはそれなりの時間に感じられた。

 『梅屋』の店内CMだけが空虚に流れている。

 

「俺はよぉ……」

 そんな時いきなり鳴滝が話し始めた。

 忠勝がチラリとそちらを向くと鳴滝は丼をテーブルに置き、視線は前に向けている。

「俺はよぉ……この前、あいつらに最後まで付きやってやれなかったんだ……」

 話し始めた言葉は固く、そして重かった。

「罠に綺麗にはまってな、一緒にいた仲間を守ってやれなかったどころか……大一番では寝たきりの役たたず……こんな図体してながら壁にすらなってやれなかった……」

「鳴滝……」

「俺ぁ……もう、まっぴらなんだよ、あんなのはっ!だから、だからっ!」

 拳をギリリと握り、何かを迸らせようとする鳴滝の肩にポンと忠勝の手が置かれる。

「なぁ……あんま気負うなよ。熱くなりすぎると、出来るもんも出来なくなるぜ」

 その言葉で、鳴滝の身体からはち切れそうになっていた何かがすぅと抜ける。

「あぁ……そうだな……すまねぇ」

「別に、俺は何もしえねぇよ」

 この時初めて二人の視線が重なる。

 二人してフッと小さく笑う。

 

 すると、店の外で何やら怒号が聞こえる。

 酔っぱらいか、もしかしたら不良どもが大会の熱気に当てられて暴れているのかもしれない。

 

 それを聞いた鳴滝が立ち上がる。

 それを見た忠勝が、

「行くのか?」

と短く聞く。

「ああ、腹ごなしと前日練習だ」

 そう言って鳴滝がニヤリと笑う。

「しゃーねぇ、付き合うか」

 そう言って忠勝も立ち上がる。

「よろしく頼むぜ、相棒」

 鳴滝が珍しく冗談めかして忠勝に言う。

「ふっ……わかったよ、相棒」

 忠勝も小さく笑って答える。

 

 外の怒号が大きくなってきている、それなりに人数がいるのかもしれない。

 

――ごっそうさん。

 

 二人は心配そうに店の外の様子を気にする店員に声をかけ店を出る。

 店を出るとき二人はゴンッと小さく拳を合わせていった。

 

 

―――――PICK UP 島津岳人・長宗我部宗男―――――

 

 

 通称:変態橋のした、島津岳人と長宗我部宗男は二人で小さな宴を催していた。

「おぉう……この寿司、独特の風味があっていいな……」

 長宗我部の持ってきた四国名産のぼうぜ寿司をほおばりながらガクトが言う。

「そうだろ、そうだろ!四国は香川のうどんだけではないのだ。この様に素晴らしい名産品で溢れている!時期が時期ならば鮎を持ってきていた」

「相変わらず郷土愛に溢れたやつだぜ……俺様も土産を用意したぜ、川神名産じゃないがな」

 そう言ってガクトは黄色い袋を取り出す。

「これは……鳩サ○レーじゃないか……なぜだ?」

「鳩サ○レーは鎌倉銘菓!千信館は鎌倉!鎌倉を喰らって何かと話題の千信館を喰らってやろうというわけさ!!」

「なるほど!流石俺の相棒、考えることが粋じゃないか!」

 そういって二人で鳩のサブレーを木っ端微塵にしながら貪り食う。

 

 そんなガクトがサブレーを食べる手を止め長曾我部に聞く。

「なぁ、長宗我部。俺様達400万パワーズはどこまで行けると思う?」

「そりゃ、もちろん優勝だろうが」

「ところが、世間のやつらは俺様達の事をかませだと思ってるぜ」

「なんだと?そんなやつは高知のカツオに呪われてしまえばいい!」

「全く同感だ、パワーがかませなのはフィクションでしたかない。ボクシングでヘビー級が最強なのはパワーがあるからだ!だからこそ、このトーナメントでパワーの……筋肉の価値を俺様達は世間に知らしめなければいけないんだよ!」

「おう!敵の全てを、俺たちの筋肉で吹き飛ばしてやろうじゃないか!!」

 そう言って二人はガシっと手を組む。

 

「……むっ」

「お?」

 二人同時に何かに気づく。

「島津……おまえ、さらに上腕二等筋に磨きをかけたな?」

「長宗我部……おまえこそ弱点だった広背筋が盛り上がってるぜ……」

 二人してニヤリと笑う。

「腹ごなしに1レスリング……やるか?」

「望むところだっ!!」

 次の瞬間二つの身体がぶつかり合う。

 

「むぬぬぬ……ぬふ……ぬおおおおお……あああああ」

「ふぬっ……ああああっ、あっ……ほおおおおおおお」

 橋の下から濃厚な男のうめき声が響き渡る。

 その晩、その橋を渡ろうとした人間は踵を返し、別の道を探した……

 

 

―――――PICK UP 龍辺歩美・那須与一―――――

 

 

 川神の繁華街にあるファミレスの一角、真剣な眼差しの歩美と与一が向かい合って話をしている。

お互いに頼んだドリンクには手をつけていない。

 それほどまでに真剣に、開かれたノートを前に語り合っている。

 時々、白熱するのか歩美の方がズズっと与一に詰め寄る時がある、与一の方は大抵肘をついて横を向いている。

 だが、痴話喧嘩をしているわけではないようだ。

 二人とも人並み以上に目立つ容姿をしているのだが、なんというか二人のあいだにその手の類いの色っぽさが感じられない。

 『男が恋人に酷い仕打ちをして、その恋人の友人が男とその件に関して話し合っている』等というシチュエーションを想像力豊かな人間なら思い浮かべるかもしれない。

 

 そして、歩美が話し出す。

「――だから!」

 歩美はバンと机をたたいて与一に詰め寄る。

「ただ、語呂のいい言葉を並べるだけじゃダメなんだよ!そこに意味を持たせないと!じゃないとせっかくのルビふりが無意味になっちゃうでしょ!!」

「んなこたぁわかってる、だが、響きってのは重要だ。何事も言葉のリズムで人に与える影響は違う。言霊……おまえも同志なら知っているだろう……」

「そりゃわかってるけど……でも言霊も意味がないとのらないんだよ?与一くんもそれくらいわかってるでしょ?」

「……まぁ、な」

 

……二人はチーム名を決めていたのだ。

 

「 「 …… 」 」

 沈黙が流れる。

 

 その沈黙を破ったのは与一、目をキラリと光らせながら言葉を放つ。

「漆黒の死者たち ―デット・トリニティ―」

「死者じゃ縁起悪くない? 優勝狙ってんだから」

 歩美は抗議のあとに自らの案をいう。

「黒棺 ―BLACK STICKER―」

「棺だって縁起わりぃじゃねぇか……血塗られた十二星団 ―ブラッティ・ゾディアック―」

「わたし達二人だよ?12人もいないじゃん……混沌の調べ ―レクイレム―」

「悪くわねぇが……もうちょいインパクトが欲しいな……闇に包まれし漆黒の堕天使―The jet black angels―」

「長いっ!!……幻 ―アヤカシ―」

「それ短すぎだろ?」

 

「うーん……」

「むー……」

 そして再び二人は考え込む。

 こんなやりとりを既にふた桁以上繰り返している。

 よく見ると目の前のノートには意味不明……否、厨二的な要素にあふれた単語がひしめいてた。

この手のことにトラウマのある――例えば大和のような人間が見たら、その場で謝罪を繰り返しながらのたうち回ってもおかしくはない。そんな禁断の書になりつつあった。

 

 そして、思いついたように歩美が話しかける。

「ねぇ、与一くん」

「なんだ?龍辺」

「ここは、いったん基本に戻ろうかと思うんだ」

「基本に戻る?」

「うん、わたし達を引き合わせてくれたのは座の導きでしょ?って事はやっぱり神座大戦系列で攻めていくべきだと思うんだ」

「ふむ……一理あるな」

 顎に手を当てて与一が考える。

「んで、考えてみたんだけど……神座大戦で一番の遠距離キャラクターっていったら誰?」

「そりゃ、おめぇ……ザミエル卿こと、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ少佐だろう」

「だよねー、んで、ザミエル卿の詠唱の元ネタは?」

「たしか……『ニーベルンゲンの指環』だよな」

「ノンノンノン、そっちじゃなくて、初期の方。与一くん程の人間なら知ってると思うんだけどなぁ」

「待て……今思い出す!!あれは……この世に狩に勝る楽しみはない~。だから……『魔弾の射手』だ!!」

「Korrekte Antwort(正解)!」

 歩美はドイツ語で答える。

「だから……」

 そう言うと、歩美はノートの新しいページにペンをはしらせて、

そしてバン!と見開きで与一の前につき出す。

「『魔弾の射手 ―ザミエル―』? いいじゃねぇか!いいじゃねぇか!!流石だぜ!俺の魂がこれが決められた真名だと叫んでるぜ!!」

「オッケー、これで決まり!!わたし達は『魔弾の射手 ―ザミエル―』!狙った獲物は逃さない!!」

 二人はパンッとハイタッチをする。

 

 そして、二人はふぅと息をして、頼んで忘れていたドリンクを口へと運ぶ。

 その顔には、

――いい仕事したぜ。

 という達成感と満足感にあふれた表情が浮かんでいた……

 

 

―――――PICK UP 我堂鈴子and真奈瀬晶―――――

 

 

 鈴子と晶は川神駅前のうどん屋で夕食をとっていた。

 本来は晶の当番の日だが、トーナメント前日ということで各々、外に出ているため今日は各自でということになっている。

 そして寮に残っていた鈴子と晶でどこか行こうということで今に至っている。

 鈴子はきつねうどん、晶は卵とじうどんをそれぞれ啜っている。

 

「なぁ、鈴子」

 隣でうどんを髪が入らないように気をつけながら啜っている鈴子に晶が声をかける。

「なによ?」

「さっきからずうううっと、思ってたんだけどよ。なんでここにいんだ?」

「はぁ?なにそれ、私がうどん食べちゃいけないってこと?」

「違う、違うって。いや、鈴子あした出場するわけじゃん?なのにパートナーと打ち合わせとかないわけ?」

 それを聞いた鈴子が『ああ』というふうに納得して口を開く。

「しょうがないじゃない。不死川さん、練習とかも全然やらないんだもん」

 そう言って鈴子は再びうどんに視線を向ける。

「まぁ、それはそうかもしれないけどさぁ。いや、いつもの鈴子ならこんなチャンス『柊!これで私が勝ったら奴隷になりなさい!』とかなんとかで四四八に喧嘩ふっかけてんじゃないかなと思ってさ」

「何今の、もしかして今の私の真似?やめてよねガサツなあんたに私の真似ができるわけないじゃない」

「うるせーよ。で、どうなのさ、そこんとこ。趣向替えでもした?」

 それを聞いた鈴子は箸をおいて晶に話す。

「見くびらないでくれない、私は私の力を柊に見せつけて、あいつを屈服させたいの。タッグトーナメントなんてそんなんで勝ったって自分の力じゃないみたいじゃない。私はね正々堂々、柊を叩き潰してやるんだから。そしてあいつを奴隷にしてやるの!」

 そう言って『どうよ』というふうに晶を見下す。

「いや、あたしにそんな顔してもしょうがないじゃん……でも、ま、なるほどね鈴子らしいっちゃあ鈴子らしいや。ま、精々、頑張れよ、応援はしてやんねぇけどな」

 そういって晶はニヤリと笑う。

「別にあんたの応援なんていらないわよ、私は私の力で柊を手に入れ……やっつけるんだから!!」

 本音が思わずこぼれそうになった鈴子の言葉に晶が吹き出す。

「プッ……ハハハ、わかった、わかった。相手は手ごわいし敵は他にもいる、お互いに頑張ろうな」

「ふんっ」

 晶の言葉の意味を理解したのか、鈴子は顔を赤くしてそっぽを向く。

 

 そうして二人は再びうどんをすすりだす。

 外が寒くなってきたのでうどんの暖かさが何とも染みる。

――トーナメント終わってみんなが帰ってきたら蕎麦作ってやるかな。

 晶はうどんをすすりながら、そんなことを考えていた。

 

 

―――――PICK UP 松永燕・世良水希and直江大和―――――

 

 

 ガンッ!!という音と共に燕の拳が弾かれる。

「――いっつぅ」

 燕は殴った拳をブラブラと揺らして、冷やす。

 ここは大和の用意した七浜の地下ホール。

 そこにホールには似つかわしくない水晶の塊が鎮座していた。

 塊といっても大きさが尋常じゃない、燕の背丈ほどもあろうか。燕は今、その水晶を殴ったのだ。

 

「燕さん大丈夫?」

 水希が心配そうに言う。

「大丈夫、大丈夫!てか、これ相当だね……これならあの人の足止めにもバッチリだと思うよ。というか、よくこんなもん作れるね」

 今、燕が殴って強度を確かめたのは水希が創法で作り上げた水晶だ。

「まぁ、それが私の能力なんです、あ、因みにですけど鈴子も出来ますよ、あと柊くんも……」

「うへぇ……聞けば聞くほど難易度が高くなってる気がするよ……ゲームでいったら……ラスボス?って感じ」

「ラスボスかぁ、その表現なんかしっくりきすぎちゃってるなぁ」

 そう言いながら水希は自身が創造した水晶を崩の解法を使い崩す。

「でも……」

 そんな水希を見ながら燕は、

「ラスボスなら対策しっかりすれば主人公が勝つ!だよね!」

そう言って水希の肩をポンっと叩く。

 

「よし!じゃあ、あとは大和くんが帰ってきたら作戦会議でOKかな?」

「了解、燕さん」

 そんなことを話していると入口の扉がトントンと叩かれる。

 

「大和くんかな?どうぞー」

 燕が声をかけると、手にイロイロと荷物を持った大和が入ってくる。

「お疲れ様、二人とも。調子はどう?」

 そう言ってついさっき買ってきたと思われるスポーツドリンクを二人に渡していく。

「ぼちぼち、かな。でもやれることはやったと思うし。あとは明日を待つのみ。ね」

「うん!」

 スポーツドリンクを受け取りながら燕の言葉に水希が元気良く頷く。

「OK、気合十分だね。決戦は明日だし最後のミーティングちゃっちゃと終わらせちゃおう」

 そう言って大和は手に持った荷物から分厚いファイルを出して二人の前に広げる。

「これ、俺が調べた限りの対戦者のリスト。んで、こっちがそのなかでも有力候補者のリスト。昨日半分は渡してあると思うけど、これが残り半分ね」

 そう言って綺麗にファイリングされた資料をまとめて二人に渡していく。

「ひょえー、頼んだこっちが言うのもなんだけど……凄いね大和くん。一週間でこんなに集めたんだ」

「凄い……危険度と……対策まで書いてあるんだ」

 燕と水希は渡されたファイルとパラパラと見ながら感嘆の声を漏らす。

「まぁ、俺は別に戦うわけじゃないからね、ここまでが俺の本番。あと、危険度と対策に関しては燕さんと世良さんの話を聞いてつけてみたけど、いかんせん素人の考えだからあまり鵜呑みにしないほうがいいかもよ」

「いや、こういうデータ的なのは参考にはなるからね。うーん、大和くんに頼んでよかったよ!」

「そうだね、そのおかげで私たちは練習と作戦に時間をかけられたから」

「美人のお姉さんたちにそう言ってもらえると俺の苦労も報われるってもんだよ、ホント」

 そう言って大和は肩に手をやりコキコキと鳴らすと、それを見た燕はニヤニヤしながら、

「相変わらず、年上殺しだねぇ大和くんは」

と言い、水希も、

「ホントホント、可愛い顔して油断も隙もないよね」

と言って大和に悪戯っぽく笑いかける。

 そんな二人の返答に大和は肩をすくめると、気を取り直してと言う感じで1本のUSBメモリーを燕に渡す。

「それ、姉さんと覇王先輩と戦った柊の映像、燕さんが持ってるのとは別のアングルのを探してきたから良ければ見てみて。世良さんは……別にいらないよね?」

「うん、柊くんの強さはイヤッてほど知ってるからね」

「至れり尽くせりだね……ありがと、大和君」

「どういたしまして。んじゃ、予選の大まかな流れだけ確認して今日は終わろう」

「了解」

「うん、あー、私もお腹すいちゃった」

 

 そんな二人を眺め大和は口をひらく。

「予選トーナメントは1チーム3試合。全部勝たなきゃダメ。ただ九鬼の見立てで有力候補者は適当に振り分けられるみたいだから強敵と当たる可能性は低いと思う」

 紙を見ながら大和が話す。

「決勝トーナメントの事を考えると平蜘蛛はもちろんだけど、出来るなら世良さんの創法も隠しておきたいから予選は時間をかけずに終わらせたい、理想は瞬殺。疲れもためたくないしね」

「うん」

「わかった」

「試合は3試合あるから出来れば役割は変えた方がいいと思う、1試合目は燕さんが牽制で世良さんがアタック。2試合目は逆にする……みたいにね」

「ふむふむ」

「うんうん」

「まぁ、あとは相手によって臨機応変ってトコかな。二人とも強いだけじゃなくて頭もいいからその辺は試合中に決めてもらえばいいと思う。敵の情報は随時、俺が燕さんの携帯に連絡します。直前はそれを参考にしてもらってもいいかも。他に質問は?」

「大丈夫!」

「こっちも大丈夫!」

 それを見た大和はウンと頷いて立ちあがる。

 

「よし、じゃあ今日はこれで終わり。ねぇ、二人ともお腹すいてません?」

「あー、すいてるすいてる」

「さっき言ったけど、私はお腹ぺこぺこー」

「中華街で飲茶の食べ放題予約してあるんだ、前夜祭ってことで今日は俺がおごります」

「わー、きがきくねー」

「もー、大和くん出来る子!!いい子いい子!!」

 そう言って燕は大和をハグして頭をなでる。

「ああ、もう、わかった、わかりましたから。早く着替えて行きましょうよ、外で待ってますから」

 

 そう言って大和は燕のハグから逃げて扉に向かう。

「大和くんなら覗いてもいいよん」

 そう言いながら燕が意地悪そうに笑う。

――私は困るんだけどー、とこちらは水希。

「はいはい、わかったから、風邪引かないようにね」

 その軽口に適当に答えて大和は外にでる。

 流石に12月も近く夜は冷えてきている。

 ブルリと一つ震えて、明日の大会に思いをはせる。

 思い浮かぶのはやはり自らが憧れる男・柊四四八の顔。

――待ってろよ、柊。

 大和は星が輝き始めた空に向かって我知らず大きく拳を突き出していた……

 

 




可愛いなぁ、歩美と与一。
個人的にこの作品の最萌キャラです、セットでw
四四八がいないのはいつもどおり、
清楚と噛み合わないイチャイチャかましてるからだと思ってください(見たい!って酔狂な人がいたら追記しますw)

人気の高い、栄光、鳴滝のそれぞれの様子を書いてみました、
らしさが出てればいいなぁ。

お付き合い頂きましてありがとうございます。

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