戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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戦真館ペアチーム発表時の皆様の反応。

四四八×清楚 → モゲロ、四四八、モゲロ
 燕 ×水希 → ほうほう、なるほどなるほど
 鳴滝×忠勝 → キターー!ベストカップル、キターーー!!
 栄光×由紀江→ これ優勝候補じゃね
 歩美×与一 → 厨二乙wwwwwwwwwww
 鈴子×心  → 無反応…… 無反応!!!!!!!!


第二十八話~修練~

 タッグトーナメント開催告知から数日。

 日に日に高まる期待とともに、人々の話題にのぼる割合も増えていく。

――優勝候補はやはり武神だろう。

――いやいや、武神を負かした人間も出るそうだ。

――東ではあまり知られてないが、納豆小町は西では不敗だ。

――剣聖黛11段の娘も出るらしい。

――源氏クローンの公式戦初参加も見逃せない。 Etcetc

 そんな中、タッグトーナメントの出場者は短い時間を使い、互の連携を深めたり、敵の情報を収集したり、作戦をねったりと様々な動きを見せていた。

 

 

―――――PICK UP 柊四四八・葉桜清楚―――――

 

 

 鍛練場では手の空いた九鬼の従者たちが思い思いに鍛錬をしている。

 そこにジャージ姿の清楚に連れられて四四八がやって来る。

「これは……凄いですね、大型のジムでもここまで揃ったものはなかなかないんじゃないですか?」

 九鬼に来てから驚きの連続だが、鍛練場に関してもその驚きは続いていた。

「ふふふ、九鬼の従者部隊の皆さんが鍛えるところだからね」

 驚いている四四八を見るのが楽しいのか清楚が嬉しそうに返す。

 そんな時、鍛練場の中から声をかけられる。

「フハハハハーーーー、柊か!よく来たな、遠慮するな思う存分使うがいい!」

「よお、柊、来てたのか。なぁ、つかぬことを聞くが紋様見なかったか?」

 先に鍛練場にいた英雄と準だ。

 

「ああ、九鬼。すまないな、使わせてもらって。井上、九鬼の妹ならさっき廊下ですれ違ったぞ、ヒュームさんと一緒にあとで鍛練場に来ると言ってたけどな」

「なに!紋様がくると!!休んでる場合じゃねぇ!!そして今日こそ紋様の部屋にたどり着く!!!!」

「……おい、おまえ今、物凄く不穏なこと言ってるぞ?」

「柊!何を勘違いしてる。俺は別に紋様の部屋に行って何かを取ったりはしない!変態と一緒にするな!俺はただ紋様の部屋で深呼吸するだけでいいんだ!!それで俺は生まれ変われる……」

「おい、コイツ危険だぞ、連れてきていいのか?九鬼?」

「フハハハハーーー、心配するな、九鬼のセキュリティー、井上ごときに破られるほどヌルくはない!むしろ井上は自らの心配をすべきだと思うぞ」

 そういって英雄は入口をちらりと見る、それを四四八も目で追うと……そこには井上をじっと観察するクラウディオが控えていた。

「なるほど……確かに磐石だ」

 四四八は肩をすくめてそう言うと、

「じゃあ、九鬼、遠慮なく使わせてもらうよ」

「ああ、また後でな、できればともに食事でもしよう」

「ありがとう」

そう言って清楚の方へと向き直る。

 

「んはっ!待ちくたびれたぞ、まず何からやる?」

 清楚は既に項羽と入れ替わっていた。

「そうですね……連携の練習といっても一朝一夕でできるものでもありません。取り敢えずいくつかの約束事を決めて、そこから派生する何個かの状況での動きを決める……それくらいでしょう。基本は相手を分断してからの1対1が基本で良いのではないですか?」

「なるほどな……だが、難しい話はあとで清楚とすればいい!とにかく折角の機会だ!久しぶりにやろうじゃないか柊!」

 そう言って項羽は拳を握り構える。

 それを見た四四八はヤレヤレというふうに嘆息して。

「俺達が戦っても意味はあんまりないとおもいますが……でも、戦いに慣れるという意味で組手は有効ですね……わかりました、お相手しましょう」

 そう言って四四八もすっと腰を落とす。

「んはっ!そうでなくては、な!!」

 その言葉を最後に項羽と四四八は対峙する。

 

 そして一拍間を置いた直後、先に動いたのはやはり項羽。

 真っ直ぐに動いた。

 そして項羽の右脚がうねるように跳ねた。

 次が左脚であった。

 次が右脚であった。

 次が左脚であった。

 次が右脚であった。

 今までの項羽と比べ、軽やかで華麗な攻撃であった。

 それを四四八は全て捌いていく、よけない、全て捌く。

「ふっ!」

 そこで項羽は不意に四四八の顔面に向けて右拳を放つ。

 脚の攻撃に、相手の眼と身体をなれさせておいての拳、完全に狙った攻撃だ。

 しかし――それも四四八は捌く。

「はっ!!」

 が、項羽としてもそれは想定内、流れた拳の勢いそのままに、身体を半回転させて綺麗な後ろ回し蹴りを放つ。これが本命。

 

 その蹴りを四四八は初めて避ける。

 横に最低限、避けたあとその蹴りを放った左脚を右手ですくい上げる。

「のあっ!」

 それにより、項羽の身体が空中でクルリと半回転する。

 うつ伏せの状態で床に落ちる直前、項羽は無理やり身体を捻り、片足で着地する。

「はあっ!」

 そのまま着地した脚で項羽は伸び上がるように四四八に拳を放つ。

 四四八も地面近くにいる項羽に拳を放つ。

 二つの腕が交差する。

 

 項羽の拳は四四八の顎でピタリと止まっていた。

 四四八の拳は項羽の鼻先でピタリと止まっていた。

 

――パチパチパチパチ

「うん――見事!」

 拍手の音に二人が振り返ってみれば、そこには九鬼揚羽が立っていた。

 後ろには紋白とヒューム、それから小十郎の姿も見える。

 

 拍手をしながら揚羽は鍛練場へと入ってきた。

「二人ともいい組手を見せてもらった」

 そう言いながら四四八の前に来ると、

「英雄と紋白の姉。九鬼揚羽だ。英雄が……というか、最近は九鬼自身が随分と世話になっているようで、すまないな」

そういって右手を差し出す。

「いえ、そんな……柊四四八です」

 そう四四八は名乗り差し出された右手を握る。

 

「まったく噂に違わぬ強さだな、心根(こころね)も素晴らしい。お前たちが惚れ込むわけだ、なぁ」

 そう言って控えているヒュームとクラウディオに声をかける。

「――フンっ」

「いえいえ……」

 声をかけられた二人は共に肯定の言葉は言わなかったが、口元は笑っているようにも見える。

「それにしても、惚れ惚れするような動きだったな、項羽も見事だったが……やはり、柊、お主の方が一枚上手のようだ」

 そう言って、四四八を見るとニヤリと笑い。

「私も元四天王の一人として試してみたくなった、一手付き合ってはもらえないか?柊四四八」

「え?」

 その思わぬ提案に四四八が驚く。

「何を驚く、ここは鍛練場で、我は元ではあるが四天王だ。強者を見れば挑みたくもなる」

 そんな揚羽の言葉に困惑していると。

「我からも頼む」

 英雄が横から声をかけてきた。

「姉上は強い。強いがゆえに相手を出来る人間も限られている。姉上の我侭、聞いてやってはくれないか」

「……九鬼」

 四四八はそれを聞くと、揚羽を正面から見て。

「わかりました、ご期待に添えるかどうかはわかりませんが、お相手務めさせていただきます」

 揚羽は笑みを浮かべ、

「恩にきるぞ、柊」

そう言ってすぅと腰を落とす。

 四四八も同じく腰を落とす。

 

「室内だからな、加減はしてもかまわん……だが遠慮はいらん、というか、したら承知せん」

「わかりました……」

 揚羽の言葉に四四八が答える。

 そして二人は対峙する。

 

 その一瞬で鍛錬所の空気がぴんと、張り詰める。

 鍛錬所にいた人間のすべての視線が集まる。

 そして、その空気が張り詰め、切れる寸前に二人は動いていた。

 素早い動きだ。

 足をさばいて二人は次々に位置を入れ替えながら、同時に手も出していく。

 手しか出さない、足は捌くためだけに使い拳と掌を交わし合う。

 しかし、それほど動いていながら……音がしない。

 相手の身体に拳や掌があたっているのかいないのか、それが傍から見てわからない。

 相手の拳や掌を躱しているのか逸らしているのか、それが傍から見てわからない。

 既に空間に約束されている線を、二人の身体が、拳が、凄い速さでなぞっていくようであった。

 二人の身体が接するところに、眼に見えない薄紙が1枚存在しているかのようだ。

――二人の速さが一段階上がる。

 しかし、その薄紙は破れない、二人の動きがどんなに速く、鋭くなってもその薄紙は破れない。

 

 美麗な無音の舞。

 人の肉体はここまで美しく動けるものなのか……と、それを見た九鬼の従者部隊の人間は後に語っている。

 

 そんな無音が2分も続いたとき、不意に音がもどる。

 ぱん。

 と、鋭い音がはじける。

 だん。

 と、床が鳴る。

 その音と同時に、揚羽の身体が大きく後ろに吹き飛んでいた。

 四四八が掌を突き出した形で止まっている。

 

「――見事っ」

 ヒュームが小さく呟く。

 

 飛ばされ尻餅を付いていた揚羽が打たれた腹を見つめて、四四八に目を向ける。

「うむ!良き一撃であった!さす……」

 と、四四八に向けて言葉をかけようとした時、叫び声とともに一つの影が揚羽の前に飛び出してきた。

「柊君っ!君という男は、揚羽様になってことをっ!!大丈夫ですか、揚羽様?心配しないでくださいっ!!仇はこの武田小十郎、命にかえてもお取りいたしますっ!!!!」

小十郎は拳を握り締め四四八を睨みつける。

 次の瞬間、揚羽の怒号が鍛練場に響き渡る。

「主に恥をかかせる従者がどこにおるっ!!!このたわけ者がっ!!!!!!」

「ぐわあああああああああああああああ、揚羽様ああああああああああああああ」

 怒号と共に放たれた拳で鍛練場から吹き飛ばされる小十郎。

 いきなりすぎる展開に、呆気にとられる四四八。

 

「見苦しいところを見せた、すまんな、柊」

 拳を放った揚羽が四四八に向かい、言葉をかける。

「あ、いえ……そんな……」

 なんと言えばいいのか、四四八は言葉につまる。

「これに懲りずにまた来てくれ、我も歓迎するぞ」

 そう言って揚羽は出口へと向かう。

「もしよければ食事をして行ってくれ、清楚たちも喜ぶだろう。ではまたな柊……おい!小十郎いつまで寝ている、いくぞ」

「申し訳ありません!揚羽様!!」

 ピクリとも動かなかった小十郎は揚羽の一言で飛びおきて揚羽のあとに続く。

 そんな揚羽を見送りながら、

「強い……人だな、お前のお姉さんは」

四四八は英雄にそう呟く。

 その言葉に英雄が頷く。

「うむ!自慢の姉だ!」

 そう言って二人は揚羽の出て行った方を見つめていた。

 

「如何ですかな?」

 クラウディオは揚羽と四四八の組手を見ていた李に話しかける。

「あのような素晴らしい散打は初めて見ました……」

「大会には彼につらなる方々が出場されます。きっとあなたの糧になると思いますよ」

「……楽しみです」

 無表情な顔に少し笑みを浮かべて、李が呟く。

 そんな時、李の横にステイシーがやってきて待ちきれないというふうに話す。

「あんなロックな組手されちゃあ血が騒ぐじゃねぇか!おい、李、私たちもやろうぜ!」

「ええ、わかりました」

 そういって、李はパートナーのステイシーと組手をはじめる。

 それを皮切りに、再び鍛練場に活気が戻ってくる。ただ戻ってきたわけではない、先ほどよりも熱を帯びて戻ってくる。

 

「ほほ、やはり良い刺激になりましたな」

 そう言って完璧執事はそんな鍛練場の様子を嬉しそう眺めていた。

 

 

―――――PICK UP 川神百代・川神一子―――――

 

 

 川神の象徴でもある、川神院。

 秋も深い時期だというのに修行僧達の熱気であふれかえっている。

 常に修行僧の熱気で溢れている川神院だが、最近は特に稽古に力が入っているように見える。

 もちろん、要因はタッグトーナメントだ。

 若い修行僧には出場を申請している者もいる。

 しかし、単純に出場者だけでなくそれに引っ張られるような形で川神院全体の熱が上がっている。 強者の気配がこの川神に集まっているのも遠因の一つなのかもしれない。

 

 そんな川神院の一角で百代と一子の二人は稽古をしている。

 珍しく姉妹で組手をしていた。

 一子が一方的に薙刀で攻撃しているのを百代が回避を続けている。

 そして時折、激を飛ばしながら大きく隙のある所に軽い一撃を一子入れている。

 

「ワン子!攻撃が単調になってきているぞ!相手の全体を見ろ!!」

「はいっ!」

「眼で攻撃場所を追いすぎだ!もっと、身体全部を使って相手を惑わせろ!!」

「はいっ!」

「戻しが遅い!攻撃のあとは常に相手の攻撃が来ることを想定しろ!!」

「はいっ!」

 そして、タンッと軽いジャブの様な打撃が一子の肩口に入る。

「くぅ――」

「どうした!もう終わりか!!」

「まだまだぁ!! 川神流 大車輪!!!」

 その言葉と共に、一撃によって若干離れた間合いを利用に一子は思いっきり薙刀を振り回す。

 しかし、百代はその斬撃を二発目まで避けたあと下から迫ってくる三発目を片手で受け止めると、

「わ、わっ、わっ!」

 ひょいっと薙刀ごと持ち上げ投げ飛ばした。

 一子は薙刀から手を離し、空中でクルリと一回転すると、足で着地する。

「ふうー」

 大きく息を吐く一子。

 

 そんな一子に百代が声をかける。

「ワン子、少し休憩にしよう。ほらっ」

 そう言って足元にあったミネラルウォーターのペットボトルを投げる。

「ありがとう!お姉さま!」

 そういってペットボトルを受け取ると一子は中身をグビグビと喉に流し込む。

 それを優しい目で見ながら、

「最後の一撃はなかなか良かったぞ、特に少し離れた間合いを利用したのはとてもうまい」

と、一子を褒める。

「えへへ」

 と、恥ずかしそうに笑う一子。

 しかし、そこに百代は、

「ただ、その過程で攻撃をもらいすぎだな。まぁ、私も人このことは言えないが……攻撃は基本的に喰らうもんじゃない避けるもんだ。幸いワン子は眼がいい。この大会はまず攻撃を喰らわないことを第一目標として掲げるといい」

そう言って注意点を上げる。

「はいっ!」

 一子から元気の良い返事が返ってくる。

 

 少し離れたところでこの光景を見ていたルーと鉄心が言葉を交わす。

「まさか、百代が一子をパートナーに選ぶとわネ」

「じゃが、なかなか二人ともいい感じじゃないか。一子は一子でレベルの高いモモと戦えて、モモはモモで一子に教えることで、自らの身体の動きを再認識している」

「たしかニ……いい傾向ですネ」

「ついこの前まで戦いにおいてモモは自分以外興味がなかったからの。重ね重ねじゃが、柊には感謝せんとな」

「そうですネ……」

 そして、鉄心は手をポンと叩いて眉毛をクイっと上げる。

「よし!柊には儂の秘蔵のグラビアコレクションから一冊進呈しよう!」

 残念じゃがあれを手放すか……と鉄心は断腸の思いを口から漏らす。

「やめてください学園長、川神院の品位を疑われてしまいまス」

「おい、ルー、儂のコレクションになにか問題でもあるのか!」

「大アリですヨ。まぁ、とにかくあそこは百代に任せておけば大丈夫でしょう。学園長他を見に行きますよ」

「……うむ」

 そう言って川神院のトップ二人はその場を去る。

 

 そんなことを話しているとは露知らず、姉妹は二人で話している。

「ん~」

 百代が首をかしげる。

「どうしたの?お姉さま?」

「ん~、いやな、こんなにワン子と一緒にいるのに何か物足りないと思ってな」

「アタシが妹分ということだとすると……弟分!大和分が足りないのかもね!」

「おお、なるほど。最近あいつ燕のところばかり行くからな……少々、お仕置きが必要かもな……」

 そう言って、百代はニヤリと笑う。と、同時に燕にいじられる大和を思いだし、胸がチクリと痛む。

「でも、今は燕先輩と世良さんのマネージャーだしねぇ」

「ふん、マネージャーである前に私の弟だ。それは何よりも優先される!」

 そう言うと、百代は空になったペットボトルをベコリと握りつぶした。

 そして一子に向き直ると。

「ワン子!次は連携の練習だ、時計を10分にセットしろ。時計がなるまで止まるなよ」

「はいっ!お姉さまっ!!」

 そして、二人は再び鍛錬へと戻っていく。

 

 百代は身体を動かすことで、さきほど感じたチクリした心の痛みを忘れようとしていた……

 

 

―――――PICK UP 松永燕・世良水希and直江大和―――――

 

 

 コッコッコッと複数の足音が重なっている。

 大和と燕、そして水希は階段を下りていた。

 階段自体はそれほど長くなく、すぐに扉にぶつかる。その扉を先頭の大和がためらいなく開けると 壁に手をやって電気のスイッチを探し、つける。

「おおっ!」

「わあっ!」

 パチッと電気をつけて現れたホールはかなりの広さがあり、片面の壁にはガラスが一面に貼られている。

 ここは七浜のとある一角。繁華街の地下に降りたところにあるホール、大和が練習場を確保したと言って、燕と水希の二人を連れてきていた。

「ここ、通常だと大きめのダンスユニットとかバレエ団とかの練習で使われてるんだってさ。一応一週間、四時から九時まで『直江』の名前でとってあるからその時間ならいつ来ても使えるよ。時間外で使いたいときは一本連絡くれれば相談してみる」

「大和くん、こんなとこよく知ってるね」

「というか、高いんじゃないのよく知らないけど……」

 そんな二人の声に、大和は携帯をひらひらさせながら、

「人脈ってのはこういう時のために結んどくもんなの。それに、俺はマネージャーだからね、其の辺のことは気にしないでいいよ。別に無理してやってるわけじゃないし」

と言う。

「地下だから二人で何か奥の手を練習するにはいいと思うんだよね。一応どこに目があるかわからないから川神から離れて七浜にしたから万が一にも漏れることはないと思うし……」

 その言葉に、燕は大和を抱きしめながら、

「んー、大和くん最高!気遣い出来る子はお姉さん好きだぞー!!」

「ちょっと、ちょっと、燕さん恥ずかしいってば!」

「ふふ、仲いいね」

そんな大和と燕を水希は微笑ましげに見つめる。

 燕のハグをなんとか抜け出した大和は時計を見ながら、

「一応三時間後にもっかい顔出します。それまでは俺、外で有力対戦者の情報集めをしてますからなにかあったら携帯で呼んでください。じゃあ」

そういって、大和はホールから出ていく。

 その後ろ姿を見送った燕が、

「よし!んじゃ、やりますか!」

そう言って水希に声をかける。

「了解!」

 そんな燕の言葉に水希が答える。

 

 大和は地上への階段を上っていった。

 階段を上りきったところで、男に声をかけられる。

「大和ちゃーん、何今の娘達、激マブじゃね?」

 口調は軽いが、歳はそれなりにいっているように見える男だ。

「下手に手出さないほうがいいですよ、二人ともトーナメント出場者ですからね。火傷じゃすまないかも」

 そう言って男に向かって首をすくめる。

「マジで?こえーこえー……まぁ、いいや、大和ちゃん例のモノちゃんとあるの?」

「当たり前。はい、どうぞ」

 そう言って、大和は男に封筒を渡す。

 男が封筒を確認すると……そこにはタッグトーナメントのチケットが五枚ほど入っていた。

「おーおー、マジかマジか。もうこれネットとかでもプレミア付いちゃてよ、ちょっとやそっとじゃ手に入らねーんだよ」

「学園生は一人一枚支給されるからね、興味ない人もいるし。意外と集まるもんなんですよ」

「まぁ、出処はなんでもいいや。OK確かに受け取った、ホール好きに使っていいぜ。ほい、鍵。最後閉めたら前の飲み屋のマスターに渡しといてくれ」

「了解、ありがとございます」

「何言ってんだ、こっちこそプレミアチケットサンキューな」

 そう言って、ホールの管理人である男はホクホク顔で繁華街に消えていく。

「さて、俺もお仕事頑張りますか」

 そう言って、大和は携帯を操作しながらノートパソコンを手に持って落ち着ける場所を求め繁華街を歩いて行く。

「あ、そうそう直江だけど。うん、うん……え?その話マジ?ちょっと詳しく聞かせてよ……えー、この前ノート貸したじゃん。そうそう期末近いしさ、ね」

頻繁にくるメールと着信をさばきながら、大和は歩く。

 大和の仕事はこれから大会前日までが本番だ。

 

 タッグトーナメントまであと八日。

 

 




もう少し書きたいペアもあったのですが、
ダラダラ長くなりすぎかなとも思って主要の三チーム。

side分けというわけではないのですが、16チームからのチョイスということで、
場面わけにはPICK UPと付けさせていただいてます。

ここから決戦前夜>予選>トーナメントと進んでいきます。

お付き合い頂きまして、ありがとうございます。

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