よろしくお願いします。
第二十六話~共闘~
夜、川神学園の屋上に男たちが集結していた。
川神鉄心、ヒューム・ヘルシング、クラウディオ・ネエロ、鍋島正、そして元日本国総理大臣……
そうそうたる顔ぶれだ、もし今この場で何かが起きてこの5人が消えたとするならば、日本の――否、下手をしたら世界のパワーバランスが崩れるかもしれない。
しかし彼らはそんな自らの立場を気にせず、地べたにどかりと座りながら酒を酌み交わしている。
秋もだいぶ深まっている、流石に夜は肌寒いが彼らの周りには熱気がうずまいるような気さえする。
「ふー、いい酒だ。香りも素晴らしい」
ぐい呑を豪快に傾けながら鍋島が鼻からすぅと息を吸い酒の香りを楽しむ。
「そうじゃろ、ナベ。なんせ川神院特製の逸品じゃからな」
「しかし……あなたがこんな物を振舞うとは、なんかあるのですかい?」
「おい、総理大臣にもなると師匠の酒も素直に飲めんのか」
「元ですよ、元。まぁ、職業病だと思ってくださいよ」
元総理の言葉に鉄心は、
「まぁ、少し相談事があるのは確かじゃがな」
そう、少々バツが悪そうに答える。
「それで?その相談事とやらはなんだ?俺たちも呼ばれたということは関係のない話でもないんだろう」
「ふぅ……この喉越し……癖になりそうですな。あぁ失礼、あまりにいいお酒でしたもので」
遠慮なくグイグイと酒を干している九鬼の従者の零位と3位が鉄心に視線を向ける。
皆の視線が集まったところで鉄心が口を開く。
「まぁ、そろそろ今年も終わる。そこでモモ以外の新たな四天王を正式に決めたいと思ってな」
「夏までだったら黛、松永このあたりは決まっていただろうな……しかし……」
ヒュームの濁した語尾を、鍋島が引き継ぐ。
「おう、ここに来てとんでもねぇのが出てきたそうじゃないか。鎌倉の千信館だっけか?川神百代敗北はこっちまで伝わってきてるぜ」
「ああ、俺も映像で見たが。すげぇのが隠れてやがったな。しかも噂じゃ項羽も覚醒したって話じゃねぇか、なぁ九鬼の従者さんたちよ」
元総理の言葉にクラウディオが答える。
「えぇ、つい先だってまでイロイロと騒動を繰り返していましたが……ここに来てだいぶ落ち着かれました。まぁ、これも先ほどの千信館が絡んでいるのですが……」
そんな声を鉄心は聞きながら、
「そこでじゃ――」
と、本題に入る。
「儂は次代の四天王を決める大会をしようと思っている。かなり大掛かりな大会になる、そこでヒュームとクラウディオに来てもらったんじゃ」
「なるほど、九鬼をスポンサーにしようというわけか」
「よろしいかと思います。最近少々、九鬼は学園にご迷惑をおかけしていますので……」
そして、鉄心は自らの案をほかの面々に語り始める。
「なるほど、1対1ではなく2対2。これは戦略性がグッと増すな。そして東方と西方の2回大会か……」
「参加資格は25歳以下……まぁ、若手の選抜っちゃあこの程度だわな」
「東方の開催は10日後、予定地は七浜スタジアム……か、少し厳しいがいけるか?クラウディオ」
「容易い事にございます。野球もオフシーズンですし、各種マスコミもこの時期はネタに窮しているので食いつきはよろしいと思われます」
「儂はこれを『若獅子タッグマッチトーナメント』と名付けることにした」
「ふん、面白いじゃないか。帝様、局様それから揚羽様には俺から伝えよう。恐らく了承は取れるはずだ」
「今年最後のどでかい花火を上げようじゃねぇか」
「西方の方は12月に入ってからだから、まずは10日後の東方大会の告知だな」
「この時間でも明日のニュースには間に合うでしょう、会場、賞品その他もろもろは私が責任をもって手配いたします。なに、ご安心ください完璧に仕上げてきますゆえ……」
「よし!では、皆よろしく頼むぞ」
その鉄心の一言でこの場は解散となった。
川神に今年最後にして最大の祭典が開かれようとしていた。
―――――
全体朝礼のあと川神学園は喧騒に包まれていた。
もちろん『若獅子タッグマッチトーナメント』の開催が鉄心から、そして詳細が九鬼の従者部隊から告知されたからである。
詳細は、
・テーマは『絆』。
・形式は2vs2のタッグマッチ。リングの上に両者が並びたち4人での戦いとなる。
・どちらか片方がKOで敗戦。リングアウトは10カウントまでに戻らないと敗北。
・出場資格は25歳以下の男女。ペアは自由。
・開催は東方、西方の二箇所。東方の開催日は10日後、西方はおって告知。
・東方だからと言って西の強者が出てはいけないということはない。ただ、東方で出場した者は西方への出場は禁止。
・年明け、東方と西方の優勝者同士が戦い真の優勝者を決める。
・予選1日、決勝トーナメント1日の計2日間。
・刀剣類はレプリカまたは峰打ち。重火器は専用の弾を使ってもらう。
・優勝者には九鬼より豪華な商品をプレゼント。詳細はWEBで。
・その他、細かいレギュレージョンはWEBを参照。
九鬼が全面的にスポンサーになっているということもあり、間違いなく今年川神で……もしかしたら、日本で行われる武闘大会で一番の規模であろう。
発表はテレビカメラも入っていて、凄まじいばかりの盛り上がりだった。
川神学園内では誰とどう組めば優勝できるかというパートナー選びがすでに始まっており、朝礼の時よりもさらに熱気は膨れ上がっているように感じる。
―――――2-S組
勉学のエリート集団であるS組もこの話題には流石に熱を上げているらしく、各所でパートナー選びが始まっていた。
「私なんかが出たら瞬殺でしょうからもちろん出ませんが……ユキはどうするのですか?」
「トーマが出ないなら僕もでなーい」
「そうですか、では一緒に応援しましょう」
「うえーーーい」
冬馬の言葉に喜ぶ小雪。
「準は英雄と出るのですか?」
「おう!我も少し身体を動かさないといけないのでな」
「まぁ、英雄と一緒なら紋様にも注目されるしな」
英雄は準と組むらしい、準の方の動機は甚だ以上に不純だが……
「準、英雄は肩を壊してます、気をつけてあげてください」
「ああ、わかってるって」
冬馬の言葉に準が頷く。
「ホントに頼みましたよ!」
メイドバージョンの声であずみが小太刀を突きつけながら準に念を押す。
「おまっ、それ人にものを頼む態度じゃねぇだろ。いくら25以上で出場資格がないからっ……」
「おい……タコ……おめぇ、今何か言ったか?」
準の耳下で死神の声がする。
「いえ!なんでもありません!」
「心はリンコとでるんだー」
二人で並んで相談している心と鈴子を発見した小雪が言う。
「まぁの、高貴な此方についてこられるのは、同じく高貴な我堂ぐらいじゃろうて」
「私は別にどっちでも良かったんだけど、不二川さんがどうしてもって言うから……」
「にょほほ。10日後、高貴な此方達の本当の力を見せようぞ」
意外と面倒見の良い鈴子は心に捕まってしまったようだ。
「世良さんはどうされるつもりですか」
そんな面々を少し遠くで見ていた水希に冬馬が声をかける。
「え?私?私は今んとこ興味ないんだけど……柊くんと出れるなら出てもいいかなとか思ってる」
「ん?そういえば柊の奴いないな、どこいった?」
「四四八君ならパートナーの誘いが面倒になって退散していきましたよ」
「武神をそして項羽を倒した男だからな、組みたいやつも多いだろう」
「そうなのか、柊くんは行ってしまったのか……」
その言葉に義経がシュンとする。
「おや?義経さんも今回は出場されるのですね」
「おお!今回は我ら九鬼がスポンサーの大会だからな。義経たちクローンにも参加してもらう!」
「まぁ、九鬼には今まで世話になってるしね、ここで駄々こねるほど野暮じゃないよ……約一名を除いてだけど」
そう言って本人のいない与一に机をギロリと睨む。
「べ、弁慶。与一は義経がちゃんと説得する、だから暴力はいけない……」
「まぁ、主がそう言うならいいけどね。今回の主のパートナーは与一なわけだし」
「おや、弁慶さんが義経さんの相方を務めるのではないのですか」
「まぁ、相性的にね。二人して前衛じゃバランス悪いでしょう。私は私でパートナーを見つけてきます」
「なるほど、考えていらっしゃる。其の辺はさすが武蔵坊弁慶という事ですか」
「とにかく、与一もだが義経は柊くんの戦いを間近で見たい、出来れば戦いたい。だから出て欲しいと頼みたかったんだが……」
「それは四四八君次第ですが、まぁ、彼は厄介事を進んで背負いますからね。出ないということはないと思いますよ」
「……」
そんな会話を聞きながら水希は主のいない四四八の机に目を向けて――フンッといって目を逸らす。
そんな水希を鈴子が心配そうに見つめていた。
―――――2-F組
「よおっし、豪華賞品めざして。誰と組むかなぁ」
キャップが物色を始めている。
「俺様も参加するぜ!そして、賞品の中にあった『豪華温泉郷ペアチケット』で松永先輩を誘って……うおおおおおおお、やる気出てきたあああ!!」
「ガクトは誰と組むの」
「ふふん……俺様に死角はない、既に目星は付けてあるのさ」
そう言ってモロにニヤリと笑う。
「クリはマルギッテと?」
「そうだ、自分とマルさんのペアなら無敵だ!なんたってマルさんは凄いからな!」
クリスは得意げに胸を張る。
「いやー、皆元気だねぇ、あたしはパスだよ、パス」
「なんだよ晶でねえのか?」
「でないよ、面倒くさい。別に栄光たちが出るのは止めやしないけどな。まぁ、一子達も怪我したらあたしんとこ来な、治してやっから」
「大杉、そういうおめぇはでるのか?」
「ん?そりゃ、テレビも来るって言うしオレの栄光ロード的に出ないわけにはいかないっしょ」
「栄光くん、パートナーの目星付いてるの?」
「それは……いまから考える。最終的には四四八に頼むかなぁ」
「いや、四四八いまスゲー量の誘い受けてんだろ」
「だな、後でってのは厳しいんじゃねぇか……まぁ、出るかどうかも分かんねぇけどな。ここんとこ戦い続きだからな柊の奴」
千信館の面々も出るか出ないかは別として興味はあるようだ。
「あー、アタシはどうしようかなぁ」
そんな時、一子が声を上げる。
「京は出ないのよね?」
「うん、大和が出る時のために身体は空けておく……」
「うぅ……どうしよう」
その言葉に机で寝ていた忠勝がムクリと起き上がったその時――
「とうっ!! 美 少 女 推 参 ! !」
百代がどこからともなく現れた。
「ん?お姉さまどうしたの?」
今回の大会はもちろん百代も出場できる。
だから、今はパートナーの申込みで身動きが取れないと思っていたのだが……
そんな百代の口から一子に驚くような提案が投げられた。
「ワン子。まだパートナーが決まっていなかったら……私と組まないか?」
「え?えぇっ?!で、でも、私とお姉さまじゃ強さが全然……」
百代の言葉にピンっと嬉しそうに犬耳を立てたが、直ぐにシュンと垂れ下がる。
「なぁ、ワン子。確かにタイマンなら私とワン子じゃ相当差がある……でも今回はタッグ戦しかも テーマは絆だ。そこら辺のやつと組んでも私の力は半分も出せずにやられてしまうかもしれない。だから、今、私の力をしっかり引き出せるのは私が完全に動きを把握しているワン子だと思ってる。だから、どうだ組まないか?」
「お姉さま……」
夢に思わなかった百代の提案に一子の目に思わず涙が貯まる。そして、
「うん!うん!!お姉さま、アタシ頑張る!お姉さまの足引っ張らないように頑張る!!」
「ようし、その意気だ。明日から朝の鍛錬に連携の練習を組み込むぞ。ついてこいよ」
「うん!うん!!ありがとう、お姉さま!!」
そう言って一子は百代の胸に飛び込む。
それを見ていた忠勝は自分の役目はないなとばかりに睡眠の体勢に戻ろうとする。
すると、頭上から声がかかる。
ぶっきらぼうな、言葉をちぎって投げているようなそんな声だ。
「なぁ、おい。俺はまだちょっとリハビリが必要みたいでな。悪ぃけど、付き合ってくんねぇか?」
顔を上げると鳴滝がそっぽを向きながら忠勝に声をかけていた。
恥ずかしいのか、少し口がとんがっている。
「あ?なんだ、仕事の依頼かよ?俺は高いぜ」
そういって、忠勝は鳴滝に笑いかける。
「友達価格にしといてくれよ」
「考えとくよ」
そう言うと、お互いにフッと笑って、拳をゴンと軽くぶつける。
その喧騒を面白そうにそして興味深そうに眺めている大和の元にメールが来る。
送信者 松永燕
相談があるんで、至急、屋上まできて!
お願い(>人<;)
それを見た大和は首をひねる。
――はて、自分に何のようだろう。自分と出ても何のメリットもないだろうに
ただ、相談自体には興味があったので。
「ちょっと外すわ」
そう仲間たちに声をかけてクラスから出て行った。
「……」
その背中を京がジッと見つめていた。
―――――屋上
「ごめん!わざわざ呼び出しちゃって」
燕は開口一番手を目の前でパンと合わせて謝ってきた。
「全然、それで相談ってなに?」
「うん、予想はしてると思うんだけどタッグトーナメントの事なんだ」
燕は大和に向き直り言ってきた。
「タッグトーナメントって……俺じゃパートナーとしては役に立ちませんよ?」
「あ!そこまで迷惑かけられないよ、だから、手伝いして欲しいんだ」
「手伝い?何のです?」
「……打倒・柊四四八、の」
すっと真剣な顔になると燕は真面目な声で宣言した。
「柊を倒す?本気で言ってるんですか?」
「うん、本気も本気、真剣(マジ)です。だって今回はタイマンするわけじゃないんだよ?こんなチャンス多分二度とないと思うんだよね」
「……なるほど、実力差が通常よりも開かないし、戦術、戦略の入る余地が大きい、ということですね」
「正解!頭のいい子、お姉さん好きだぞー」
そう言って燕は大和の頭をなでなでする。
「ちょ、ちょっと、やめてくださいよ」
大和はそんな燕に抵抗しながら考える。
――柊を倒す。
改めて考えてゾクリとした。
なんとも心揺さぶられる挑戦だ。
直接的じゃないにしろ自分の憧れであるあの男に一矢報いることができるなら、それは自分の大きな自信になるんじゃなかと、そんなふうに大和は考えた。
それに燕自身、本当に本気なのだろう。
燕が転校してきた当初、大和は大分ちょっかいをかけられた。
今からしてみればそれは百代への牽制の意味が強かったのではないだろうか。
だから、百代が四四八に負けて自分の利用価値というのは燕の中で大分下がったはずだ、そんな自分に燕が声をかけてきたということは、なりふり構わず本気で柊を倒そうとしているのだ、そう大和は思った。
そんな彼女を応援してあげたい気持ちもあり。
「わかりました、お手伝いしますよ。燕さん」
「ホントに!ありがとう!!やっぱ大和くんは頼りになるなぁ」
そう言って今度は大和をギュウと抱きしめる。
「ちょっと、ちょっと、わかりましたから。いったん離れましょう」
「なーに、いつも、ももちゃんにはやられてるくせに意外とウブなんだから」
そういって燕は手を口に持ってきてクスクスと笑う。
「もう、からかってないで話を進めましょうよ、時間あんまりないですよ」
「ごめん、そうだね」
「で、俺は具体的に何をすればいいんですか?」
「大和くんにはまず、2つお願いしたいことがあるんだ」
「お聞きしましょう」
二人は顔を近づける。
「まず一つは柊くんを大会に出場させること。そしてその時にパートナーは千信館の人間じゃない人にすること」
「まぁ、柊が出場しないんじゃ意味ないですしね。後半の方は……せっかくタッグのデメリットが出るところなのに既に連携が完成されてる千信館の人間と出るとそのデメリットが帳消しになっちゃうってとこですかね」
「OK、わかってるじゃない」
「これ千信館の人間じゃなきゃ誰でもいいですか?」
「うん、強くないに越したことはないけど……まぁ、誰でもいいよ」
「極端な話、姉さんでも?」
「うん、極端な話ももちゃんでもいいくらい」
燕は四四八と百代が組むよりも、四四八と千信館の誰かが組む方が難しくなると思っているようだ。
「わかりました、じゃあ2つめは?」
「2つめは私のパートナー探し、出来れば千信館の誰かと組みたい」
「それは、なぜ?」
「千信館の人なら、柊くんをよく知ってるし戦い慣れてると思うから。それに連携というものに慣れてるというのもある。でも私は3年で千信館の人たちとは面識がないから大和くんに仲介してもらいたいんだ」
「わかりました……なかなか難しいミッションですね」
「うん、だから大和くんに頼んでるんだ」
「最後にひとつ聞いていいですか」
「なに?」
「俺がこんなふうに動いて、それは反則になりませんか?流石に九鬼の従者の目を盗んでこの手の話ができるとは思えないんですけど」
「其の辺は大丈夫!WEBでレギュレーション確認したけど、試合以外で外部の協力を禁止した項目はなかった」
「マネージャー、セコンドに関しては特に制限はないわけですね」
「うん」
「わかりました、その2つ取り敢えず動いてみます。放課後連絡しますね」
「ありがとう、大和くん。本当に」
「お礼はこの2件と最後に柊にちゃんと勝ったら貰います」
「ご褒美用意しとくよ!」
「楽しみにしてます」
そう言って携帯をいじりながら、大和は屋上をあとにした。
その一部始終を京に聞かれているとも知らずに……
大和は階段を下りながら携帯を操作する。
ブルル、
持ってる携帯が震える。
さっき送ったメールの返信だ。差出人は四四八……
――柊はいま図書室に避難してるのか。
それを確認した大和は再び携帯をいじり耳に当てる。
「あ、もしもし、覇王先輩ですか?……あ、すみません今日は清楚先輩だったんですね。いや、トーナメントのことでパートナー探してるんじゃないかなと思って……えぇ、えぇ、ですよね。その柊ですけど今、図書室に避難してるみたいですよ。はい、はい、清楚先輩が言えば断りませんよ、大丈夫ですって。いえ、いえ、じゃあ……」
大和は電話を切った。
おそらくこれで四四八は覇王(清楚)先輩とトーナメントに出ることになるだろう。柊のあの性格だ清楚に押されれば十中八九折れるだろう。
――次は燕さんのパートナーだな……見たところあの人しかいないんだけど……放課後声をかけてみるか。
そう考えながら、大和は教室へと戻ってく。
柊四四八が項羽とタッグを組んだという報は、昼休みの川神学園に衝撃を与えた。
―――――
放課後校門付近。
一人の少女が少し足早に校門をくぐり抜けていった。
なにか少しでも早く学園から離れたい、そんな意志が見て取れる。
事実、少女――世良水希は機嫌が悪かった。
水希自身機嫌の悪い理由は解っている。
四四八がタッグの相手として、自分ではなく他の女性――清楚先輩を選んだからだ。
もちろん選ぶのは四四八の自由だからいいのだが、清楚は水希が四四八にタッグを申し込むより前に図書室にいた四四八を見つけて口説き落とした。それがなんとも歯がゆい。おそらく自分が押せば四四八は一緒に出てくれただろうという半ば確信めいたものもあるだけに、悔しい。
さらにそれが先だって四四八にキスをして、自分たちにライバル宣言をした清楚だというのも悔しさに拍車をかけている。
――あーー、なんか甘いものでも食べて帰ろう。
そうでもしないと落ち着かない。
そんなことを考えていると……
「世良さん!」
水希の背中に声がかかる。
振り向いてみると大和が息を切らせながら走ってきていた。
「直江くん?」
「はぁはぁ、いや、流石にもう帰ってるとは思ってなくて……世良さん、ちょっと話があるんだけど付き合ってもらえない?」
その言葉に水希は少し考えて、
「いいよ、でも私いま、すっっっっごくスイーツな気分なんだ。オススメある?」
「じゃあ、商店街の『くず餅パフェ』なんてどう?結構なボリュームでだよ」
「む、それはまだ食べたことがない。OKそこにしよう」
「了解ー」
そう言って二人は商店街へと向かっていった。
―――――喫茶店内
「でさ、それで柊くんなんて言ったと思う?」
口をくず餅とアイスでいっぱいにしながら水希がしゃべる。
「さぁ、なんて言ったの?」
大和そんな水希の話――愚痴を聞きながらホットコーヒーをすする。
因みにこの四四八に関する愚痴と聞き方によってはノロケにも聞こえるものを30分も大和は聞き続けている。
「俺は今疲れているんだ……だからお前のパンツなんて心底どうでもいいんだよ……ですって!」
若干四四八の口調を真似して水希が言う。
「おぉ……それは凄いな……」
「しっつれいしちゃうよね、乙女心なっっっにもわかってないんだもん!あの朴念仁!!」
そう言って自分の言葉に興奮したのか、再び皿のパフェを口の中に猛烈な勢いで運んでいく。
こんな姿でもなんとも愛らしく見えるのだから、美人は得である。
「それでその柊は清楚先輩と組んじゃったしねぇ」
白々しいとは思いつつ、大和はいう。
その言葉にピクッと水希の身体が止まる。
「世良さん、今回の優勝賞品の内容みた?」
フルフルと水希は首を横に振る。
「色々あるんだけど、目玉の一つは『豪華温泉郷ペアご招待券』」
その言葉にバッと水希が顔を上げる。
口はハムスターのように膨らんでいる……
「まぁ、柊も賞品がなにかはわかってなかったと思うけど。これで清楚先輩と柊のペアが優勝しちゃうと二人で温泉郷へ……なんてこともありえちゃうんだよね」
それを聞いた水希はビクンと雷鳴にうたれたように身体を動かし、ごくんと口の中にあったくず餅を飲み込んだ。
「それ、ほんと?」
「ホントだよ、賞品内容見せようか?」
「いや、いい、後で確認してみる」
そう言って水希が黙る。
頃合だな、そう思い大和が本題を切り出す。
「そこで……こういうやり方での誘い方はあんまりよくないとは思ってるんだけど、今、本気で柊を倒そうと思っている人物がパートナーを探しているんだよね。世良さんその人のパートナーにならない?」
「え?私が?」
「うん、世良さんパートナー決まってないでしょ?」
「それは、そうだけど……」
「今の聞いて、世良さんが柊のことどんな風に思ってるか大体わかったからさ。だったら指くわえて見てる訳にもいかないんじゃない?」
「……」
「こんな風に煽って悪いとは思ってるんだけど。どう?その人と話だけでもしてみない?」
「うん、わかった。一回会ってみる」
「ありがと、んじゃ呼び出すね」
そう言って大和は携帯を手馴れた感じで操作した。
数分もせずに燕がやって来る。
「松永先輩……?」
「燕でいいよん、水希ちゃん。あ、水希ちゃんでいい?」
「ええ、いいですよ」
二人が挨拶を済ませると、横にいた大和が伝票を持って立ち上がる。
「じゃあ、あとは任せますよ燕さん。世良さんあとは燕さんと話して。俺の役目はここまで、じゃあね」
「大和くんサンキュー、いい仕事してくれたよ。また連絡する」
そんな言葉に伝票をヒラヒラさせて大和は挨拶をする。
大和がいなくなったのを確認すると、燕は水希に向き直って話をはじめる。
「大和くんから大体のことは聞いてると思うんだけど、私は今回のタッグトーナメントで柊くんを倒したい」
「それは、なんでです?」
「今や柊くんは武芸者の間じゃ注目の的だよ。武神と項羽を討ち取ったんだから。私はいろんな事情があってね家名をあげたいんだ、だからその為に打倒・柊四四八を掲げてるの」
「……」
「そして水希ちゃんも違う理由で柊くんを止めたい。違う?」
「……」
「私達の利害は一致してると思うんだけどな」
そういって燕は水希の瞳を覗き込む。
水希は花壇での清楚のキスを思い出していた。
これで大和の言うように二人で温泉旅行などに行こうものなら、もはや取り返しがつかなくなってしまうのは明白だ。
自分の前から四四八がいなくなる。
千信館のほかの誰かじゃなくて、どこの馬の骨とも知らぬ女に四四八が寝取られる。
――絶っ対にやだっ!!
――絶っっ対にやだっ!!!
だから――
「わかりました、燕……さん」
「なに?」
「私、柊くんを、止めます!」
「よっし!同盟成立!!よろしく、水希ちゃん!!」
そういって燕は手を差し出す、
それを水希はグッと握り締める。
外はもう暗くなり始めていた……
活動報告には源氏と書いたのですが、申し訳ありません。
流れ的に燕編がしっくりきたんで、燕編の開始です。
タッグトーナメントが西方、東方に分かれてるのは作者側の都合です。
統一にしてしまうと天神館が入ってきてしまい、千信館を入れた状態で、
16チームに絞ることが難しくなってしまったので二つに分けるという設定にさせていただきました。
天神館はのちのちしっかり出す予定ですので、もうしばらくお待ちください。
お付き合い頂きまして、ありがとうございます。