戦闘描写ばっか最近書いてる気がする……
尚、うまくなっている手応えはない模様……
戦闘開始の合図はガラスの割れる音だった。
百代と項羽はお互いを睨みつけたまま横に飛びガラスを破って外に出た。
――3階である、
しかし、二人に躊躇はない。重力に引かれ落下しながらも、壁を地面に見立てて相手に向けて突進していく。
素手――二人とも武器は持っていない。
「おい!清楚ちゃん、自慢の槍はつかわないのか?」
「ふん!おまえごとき素手で十分!!ひねり潰してくれるわっ!!」
落下しながら拳を出して打ち合う。
――相手の、
顔面へ 、 頭部へ 、 胸へ 、 腹へ 、 背へ 、 鎖骨へ 、 肝臓へ 、 心臓へ 、
お互いに半分は避けて、半分は身体にめり込んだ。
一旦離れて息を吸い、また打ち合う。
――今度は、
拳を 、 掌を 、 指を 、 脚を 、 脛を 、 肘を 、 膝を 、 額を
己の体の武器となるあらゆる部分をお互いに交わし合う。
半分はハズレ、半分は当たった。
「随分と情熱的じゃないか、私が柊に声をかけたのがそんなに悔しいか?」
「だまれ! だまれっ!! だまれぇっ!!!」
百代の挑発に激昂し項羽は思わず今までよりも大振りに拳を振るう。
百代はそれを見はからったように避けると、項羽の懐に入って襟をつかみすぐそこに近づいている地面へと思いっきり項羽を投げ飛ばした。
ドンッ!という地面にぶつかる音とカハッ!という項羽の口から空気が漏れる音が重なる。
百代は更にトドメをさすべく3階からの落下のスピードそのままに膝を立てて、倒れている項羽めがけてぶつかりにいった。
「ふっざけるなぁっ!!」
その膝を倒れたまま腕を交差して受け止める項羽、そしてその腕で百代を跳ね除ける、
「お――っとっと」
跳ね飛ばされた百代はグラウンドに着地する。
「――ふむ、今の攻防を見ただけでも、百代様の変化がわかりますな」
割れた窓から今のやりとりを見てクラウディオが四四八に向かって言う。
「今までは、戦いを少しでも長く伸ばすために意識的にスロースターターとなっていましたが……今回は良い意味で余裕を持って戦っているようです。これも教育のたまもの……でしょうか?」
そう言って柊の方を見る。
そんなクラウディオと視線を合わさずに、
「俺は唯(ただ)戦っただけです。気づき、学び、実践しているのは川神先輩自身ですよ」
そう言って百代の方を見る。
――その時、
百代と眼があう、
すると、百代は小さくニヤリと笑って人差し指で四四八を指差した、
そして、すぐに起き上がってきた項羽へと視線を戻す。
――この一戦、見届けてくれ。
そんな意志を受け取った四四八は、
「ふぅ……さっき再戦の申し込みをされて、受けてしまったのですが……少々早まったかなぁ」
少し苦笑気味に呟く。
「ほう、それはそれは……しかし、その早まったというのは……」
「こちらも万全を期さないと今度の川神先輩とやるのは厳しい……ということです」
「なるほど……」
開始のやり取りをみても、百代が先の一戦より一段上の領域に足を踏み入れたのが見て取れる。
もともと、能力としてはその段階にいたはずだが、戦いに対するスタンスが、心構えが、精神がそれを邪魔していたのだ。
そこを払拭した百代がその段階に至るというのは至極自然なことなのだろう。
そしてグラウンドでは立ちあがった項羽と百代が再び素手での打ち合いを始めていた。
拳を出し合い。
掌を交わし。
肘と膝がぶつかる。
拳の応酬は常人では眼で追う事すら難しく。
掌が外れた時にはそこに籠った闘気で後の校舎のガラスがビリビリ震え。
肘と膝がぶつかりあうとそこには小さな衝撃波が生まれる。
そんな戦いだ。
両者とも引かない、
『意』を押し付け合う、
お互いに暴風雨のような闘気と覇気を浴びながら前へ前へと進んでいく。
そして5分――動き続けて5分という通常ではありえない闘争時間流れた頃、
そんな時間や空間、熱量までも濃縮したような攻防の中で項羽が攻撃をもらう量が徐々にだが増えてきていた、
「くっ――」
「はっ――」
「かっ――」
百代の攻撃が項羽に突き刺さる度、項羽の口から息が漏れる。
よく見ると項羽が攻撃をくらう回数が多くなっていると同時に、百代が攻撃をかわす数も増えている。
百代は見ている。
項羽の攻撃を余すところなく。
この磨きぬかれた真剣を突きつけ合っているかのような攻防のさなかに、百代は項羽をみていた、
そして出した結論が――項羽は素直すぎる、である。
流石に眼で攻撃場所を示すなどと言った初歩の初歩は流石にしないが、それでも、項羽の爪先の向きが、肩の方向が、肘の角度が、踵への体重が、次に来る攻撃を物語っている。
――そのことを理解した。
爪先がこめかみを狙うといえば、右足が舞い上がる。
肩が右拳だといえば、右の拳が飛んでくる。
肘が左のフックだといえば、左の掌がかぎづめに振るわれる。
踵が膝だといえば、あまたず膝がぶつかってくる。
そしてリズムがあるのも読める、
「シッ!」
「シッ!」
「シッ!」
足と拳、そしてその他あらゆる部分が飛んできている攻撃の中で一つのリズムが出来ている。
それが読める。
そのリズムの間の中に、拳を、掌を、脚をねじ込んで当てている。
今までしていなかったことではない、今まで意識しないでやっていたのだ。
しかし、それを意識することでまた違った世界が広がった。
もちろん百代とてそれを項羽相手に簡単に見ているわけでも読んでいるわけでも、考えているわけでもない。
しかし、今まで至らなかった新たな感覚に百代は感動していた。
そして一度考えだしたら止まらない、連鎖的に相手の情報を処理しながら項羽との攻撃と防御を繰り返す。
力と力、技と技の攻防の間に生じる閃光の様な意識の疾走、その刹那に密度の濃い閃きと思考を繰り返す。
――そうかこれか、これなのか柊はこれをこの右左の掌でやっていた奴の防御をのか崩す、確かに肘これは膝素晴らしい隙だ戦いに深みいいぞがそこの隙に私の渾身の右足だ――ほうら入った……。
――項羽が百代の蹴りを食らって吹っ飛んでいく。
「ふん、百代の奴は確かに一皮むけたな。読みや駆け引きなんぞは元来、実力が伯仲してこそ真価を発揮する。ああも有効だと、百代は生まれ変わった気分だろうな」
いつの間にか傍に来ていたヒュームが顎鬚を触りながら今の攻防を見て言う。
『戦術、戦略、読み、思考、駆け引きなんぞは圧倒的な力の前では無意味』という考えはある意味正しい。百代はどちらかというとそちらの考えだった、というよりむしろ自らが圧倒的すぎたため、その考えにしか到れなかった。
しかし、逆説的に言うならば『圧倒的な差がない限りそれらは常に有効』なのだ。
そして自らより格上の相手にはこれらを使用しなければ、勝機はまずもってない。
そのことを百代は四四八との一戦で痛感していたのだ。
「それに――」
ヒュームはさらに続ける。
「戦いというものを考えだしたというものそうだが、むやみやたらと『気』を使わなくなったようだ。百代はもともと『気』の容量が多い人間だが、ああいう形で省エネを覚えたとすると……なかなかに厄介だな。なぁ、柊?」
そう言ってにやりと笑い四四八を見る、
「まったくですな、一回の敗北であそこまで学べるのも。また、才能でしょう。ねぇ、柊様」
そう言ってクラウディオも口に小さな笑みを浮かべて四四八を見る。
そんな二人の視線に苦笑しながら、
「何度も言いますが、自分は戦っただけです。そこから学び高みへ至ったのは川神先輩のそして、先輩の仲間の力です」
そう、四四八は答える。
「ふん、謙虚なことだな。まぁ、しかし――」
そう言ってヒュームは再びグラウンドに視線を戻す、
「そうですな、敗北を糧としない方も……いらっしゃいますな……」
そう言ってクラウディオもグラウンドに視線を戻す。
二人の視線の先には、項羽がいた。
「……」
四四八も無言で項羽を見る。
打ち合いの最後百代からの蹴りで吹き飛ばされた項羽はなんとか両足で地面を踏みつけ、百代を睨む、
「はぁっ、はぁっ、はぁっ――くうっ!!」
そして乱れる息を、歯を食いしばって整えようとする。
百代が攻撃や防御の時のみうまく気を使っているのとは反対に、項羽は常に気を全開に発散させながら戦っていた。
必然消耗も激しい。
そんな項羽を見ながら百代が口を開く。
「清楚ちゃん……すまなかったな。私の八つ当たりに付き合わせて」
「なんのことだっ!!!」
自分と比べ余裕のありそうな百代の姿を悔しそうに見ながら項羽が叫ぶ。
「仇討ちといったが、ホントは筋違いも甚だしい……ワン子達は武士娘だ、それ相応の覚悟を持って自らの意思で西楚の覇王に向かっていった。それを倒されたから私がやり返すというのは、ワン子達に失礼だ」
百代は静かに語っている、
「だから、これはあの時あの場にいて妹たちを守れなかった私自身への苛立ちだ。それに付き合わせてしまった、だから、すまなかった」
そう言って百代は謝罪をする。
―――――
3階から二人の様子を見ていた四四八はクルリと踵を返すと、階段へと向かっていこうとした。
「――おい、何処に行く?」
その背中にヒュームが声をかける。
「治療の準備へ、これでも項羽についている范増なもので」
身体の向きは変えずに、首を回し肩をすくめながら四四八は答える。
「よろしいのですか?九鬼としましては面倒事を押し付けてしまったようで心苦しいのですが……」
と、今度はクラウディオが申し訳なさそうに言う。
「歴史上の范増は項羽が離間の計に掛かり疑われるまで傍若無人な項羽を支えました。俺も歴史上の軍師にあやかってもう少し頑張ってみます」
「そうですか――誠にありがとうございます」
「――物好きなやつめ」
腰を折って礼をするクラウディオとニヤリと笑うヒューム。
「――では」
そういって、四四八は階段を下りていった。
その姿を見ながら、
「さて、歴史上の項羽は范増に見限られて歴史から姿を消していきましたが、今回はどうなることやら……」
「かつての范増はしらんが、今回の范増は随分と面倒見がいいみたいだからな」
さも愉快そうに二人の老執事は顔に笑みを浮かべて、最終局面に向かうグラウンドに目を向ける。
―――――
はぁっ! はぁっ! はぁっ!
息が整わない、
さっきから大きく吸って、息を止めて、吐いてを繰り返しているが、
一向に荒ぶる息が整わない。
同時にこんな自分に向かってこない百代にも腹が立っている、
余裕のつもりかっ! ふざけるなっ! 俺は西楚の覇王だぞっ!!
そんな思いとは裏腹に、肺が声として息を出してはくれない。
そしてそんな自分に語りかけてくる百代の声が煩わしくてしょうがない。
「そして、もう一つ。清楚ちゃん、ありがとう」
何を言っているっ? 第一俺は覇王だっ! 清楚ではないっ!! 修正しろっ!!!
「私は清楚ちゃんのおかげで。一つ上へ行けたきがする……これでまた、胸を張って柊と戦える」
なんだとっ? 柊だとっ? あいつは俺のだっ!! お前が気安く名を呼ぶなっ!!!
「本当に、ありがとう――だから――」
「五月蝿い、煩い、うるさぁいっ!!!!黙っていろこの泥棒猫がぁあああっ!!!!」
そう叫びながら、最後の全身全霊の一撃を放つため項羽は百代に向かって突撃した。
百代は微動だにせず、項羽を迎え撃つ。
――そして、二つの拳が交わされる
項羽の拳は百代の頬をかすめて空を切り、
百代の拳は項羽の顔面に刺さっていた。
「ち……く……しょう……」
項羽は意識が途切れる瞬間、優しげな百代の声を聞く。
「だから――清楚ちゃんも早く上がって来い、待ってるぞ」
この言葉を聞きながら項羽の意識は深い闇の中に落ちていった。
―――――川神学園 保健室―――――
「う……うぅん……」
項羽は目に当たる光の眩しさにうっすらと目を開ける、
――昨日も同じようなことがあったな……
などと、寝起きのはっきりとしない頭で考えていると……。
「――ッ!!」
昨日と全く同じ状況であることに気づき、上半身を起こそう……と、試みて失敗する。
力が入らないのだ。
しかし、痛みはない、
動かせる首を巡らして周りを見ると、やはり昨日と同じように椅子が置いてある。
――柊が治療をしてくれたのだろうか……?
――いや、あいつは俺から離れていったのだ九鬼のだれかだろう、
――でも、柊は優しいからな……
そんなことをシーツの中で考えていると、保健室のドアが開く。
ビクッ!として慌ててシーツを頭までかぶって身を隠す項羽。
なぜ自分がそんなことをしたのかよくわからない。でも、入ってきたのが自分の思っている人物じゃなかったとき、もしかしたら自分は泣いてしまうんじゃないか……そんなふうに項羽は思ったのだ。
コツ、コツ、コツと足音がベットに近づいてくる。
ドキ、ドキ、ドキと鼓動がなるのがわかる。
そして、ベットの傍で立ち止まりカーテンを開く音がする――そして、
「あれ?気がつかれましたか?覇王先輩」
四四八の声がした。
その声に項羽はシーツを目元まで下げて目だけ出して四四八の存在を確認する。
「なんでお前がここにいるんだ、お前は范増を降りたのだろう」
しかし自分の気持ちとは裏腹に口から出てきた言葉は憎まれ口だ。
その言葉に四四八は苦笑をして、
「こちらも少々大人気なかったと思いまして……先輩がよろしければもう少し役についていてもいいですか?」
と、四四八が答える。
「……お前がそこまで言うなら、しょうがないな……まぁ、俺は覇王だからな、器も大きいんだ……許してやる」
四四八はその項羽の言葉を聞きながら、
「ありがとうございます。はい、水を用意しました。飲めますか?」
そういって、手に持ったグラスを項羽へと渡す。
四四八の手を借りてなんとか上半身を起こすと、今日は昨日の四四八のいい付けを守りゆっくりと水を喉に流し込む。
ミネラルウォーターが身体に染み渡るようだ。
そして人心地つくと、
「なぁ、武神はどこだ?」
「川神先輩ならもうとっくに帰りましたよ」
「くそっ!武神めっ!!方天画戟さえあったら、あんな泥棒猫に遅れは取らなかったのにっ!!」
そう言って悔しそうにシーツを握る。
昨日と同じく敗北を受け入れていない項羽を呆れたように見ながら、四四八は話す、
「まぁ、再戦はいつでもできます。今日は覇王先輩も疲れているみたいですし、帰ったほうがよろしいですよ」
「……まぁ、柊が言うなら、しょうがないな……」
「ありがとうございます。クラウディオさん、呼んできますね」
そう言って出ていこうとする四四八の裾をキュッと項羽が握って止める。
「ん?なんですか?先輩」
項羽の方に向きを変えて四四八は聞く。
項羽は四四八と目を合わさずにブツブツとやっと聞き取れるくらいの大きさでつぶやく。
「俺は今……その疲れてて、力が出ない……だから……その……」
「はぁ」
「えっと……お……おんぶしてスイスイ号のところまで連れて行ってくれ……」
「はぁ?」
「だーーーーっ!何回も言わせるな、おんぶしろと言ってるんだ!!俺の軍師ならそれくらい察しろ!!!」
「いや……そんな無茶な……」
あまりに唐突で身勝手な言い分に反論する四四八。
しかしこうなってしまったらしょうがないか……と諦め項羽に背中を向けてしゃがむ。
「どうぞ、覇王先輩」
「お、おう」
なんとか身体を起こし四四八の背中にしなだれかかる項羽。
「じゃあ、行きますよ。捕まっててくださいね」
「わ、わかった……」
そう言って四四八が立ち上がる。
自分で言ったことだったが、四四八の背中におぶわれて首に手を回していると、鼓動がどんどんと早くなっているのがわかる。
しかし、同時に広く固い、男性を象徴するような背中におぶわれていると、安心感からか気持ちがすぅーと落ち着いてくる。
「ん?覇王先輩?先輩?」
異変に気づき、四四八が背中の項羽に声をかけると、
スー、スー、スー、
規則正しい寝息の返事が返ってきた。
「やれやれ……まったく手のかかる主人だ……」
四四八そう呟いて、スイスイ号のもとへとゆっくりと歩いきだす、
項羽を起こさないように、ゆっくりと。
西楚の覇王が目覚めて2日、
早くも項羽は2回目の完敗を喫した……
そして、やはり項羽のみがその事実を受け止めようとはしていなかった……
四四八対百代とはまた違った壁越え同士の戦いでした、
前の戦いとは違う表現で戦闘描写を書いてみましたが……如何でしたでしょうか?
うまく百代の成長が伝わっていればいいなと思ってます
お付き合い頂きましてありがとうございます。