戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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出張先(ベトナム)から投稿
うまく投稿出来てるといいんだけど……




第二十話 ~集戦~

 燦然と光り輝く12の瞳が、西楚の覇王を見据えている。

 

「大杉!水希!頼んだわよ!」

「了解ッ!」

「おしっ!行こう、大杉くんっ!!」

 指揮官――鈴子の言葉に、まず飛び出したのは大杉栄光と世良水希。

 それぞれ解法と戟法を展開し、常人ではありえない速度で項羽へと向かっていく。

 それを見送った他の4人も、すっすっすっとそれぞれの持ち場へ移動していく。

 

 全員、項羽から一瞬たりとも目をそらさない。

 

 二人は縦にぴたりと並んで進んでいく、

先頭は栄光、その背中に隠れるように水希。

 

「さあ、来い!坂東武者共!!我が方天画戟の錆にしてくれるわ!!!」

 項羽はそう言うと向かってくる二人に対し槍を振るい衝撃波を放つ、

幾重にも振るわれた槍によって作られた衝撃波は暴風を超え竜巻の様相を呈して二人に襲い掛かる。

 

「水希!一秒後だッ!!」

「了解ッ!」

――なにの、とは言わない、

――なにが?とも問わない。

 

 栄光は右手を突き出しながらその竜巻に突っ込んでいく。

 その後ろにピタリと水希がついて行く。

 

 栄光の右手に編むは崩の解法。

 

「関羽だか張飛だかしらねぇけどよぉ、あんまオレ達、なめてんじゃねえぇぞォ!!」

 栄光はその咆哮と共に右手を一閃、

 

――すると

 

突撃してきた二人はもちろん、その他すべてを飲み込み吹き飛ばすはずの竜巻は唯のそよ風と化して霧散し、無力化される。

 

「なにっ?!」

 項羽の顔に驚愕の色が浮かぶ。

 

「水希ッ!!」

「はああああああああああ!!!!」

 右手を一閃してちょうど一秒、

すべての竜巻が無力化した直後に放たれた栄光の合図に刹那の狂いもなく水希が栄光の肩に左手をのせ馬跳びの要領で一足飛びに項羽の懐へと侵入する。

 

「はああああああああっ!」

「なめるなあああぁぁぁ!」

 

 水希の刀と項羽の槍が交差する。

 先の黛由紀江を比べても遜色がないほど、疾く、鋭く、美しい斬撃と項羽の全てを叩き潰すかのような重い斬撃がぶつかり合う。

 

 竜巻を無力化された驚愕からいちはやく立ち直り水希の斬撃に対応したのは流石、西楚の覇王と言えるかもしれない。

 しかし――項羽は理解していない。

 水希の――否、戦真館の意図を理解していない。

 

「やあっ!!!」

「なにっ!」

 

 何合目かの斬撃の応酬の後、水希はその後の反撃や体勢が崩れるのも度外視して逆袈裟に全霊の力を込め、方天画戟をはねのける。

 思わぬ攻撃に片手が離れ、跳ね上げる方天画戟。

 

「鈴子ッ!」

 

 その体勢の崩れた項羽めがけて放たれた矢のように疾る青い閃光――我堂鈴子、

先の二人よりも更に、疾く、鋭く、真っ直ぐに目標めがけて突撃する。

目標は――跳ね上がった方天画戟。

 

「せやっ!!」

 ガキッ!と薙刀が方天画戟と交差する。

 

「しまっ!!」

 有り余る疾さ、その全てがのった一撃により辛うじて握っていたもう片方の手も方天画戟から離れてしまう。

 

「淳士ッ!」

 

 飛ばされた方天画戟に意識が向いた、一瞬、

項羽は自らの懐に、とんでもない質量が飛び込んできたことを知る。

 

 それは言うなれば『岩』、

荒削りだが、強く、固く、そして重い……そんな『岩』。

 

 密着にも近い超至近距離。

 『岩』の左足が自身の右足近くに置かれていた――。

 『岩』の右拳が自身の胴の直線上に置かれていた――。

 

――マズイ!!!

 反射、本能……そしておそらく恐怖も、

あらゆる感情を総動員して項羽は身体をひねり、空いている腕で胴をその右拳から防御しようとした。

 

 すると、『岩』が静かに言う、

「――遅ぇ」

 

ドンッ!

 自らの胴体付近で起こった爆発に項羽は巻き込まれ吹き飛ばされる。

 そう、もはや爆発といっていい衝撃、

なんとか拳と腹の間に挿しこめた腕の感覚はなく、その腕の上からの衝撃のはずなのに撃たれた腹に穴があいてないかその目で確認しないと信じられない。

 

「しくじんじゃねぇぞ!真奈瀬ェ!!」

 『岩』――鳴滝淳士が叫ぶ。

 

「あいよ!」

 

 その声に応えるように未だ空中にいる項羽を幾重にも重ねられた帯が飛び、そして項羽を拘束する。

 

「クッソォオオ!!こんなものォォ!!」

 このままでは本当にマズイとようやく認識した項羽は、腕の痛みも腹の痛みも二の次にして、ありったけの力で拘束を跳ね除けようとするが、ビクともしない。

 

 その帯の所有者である晶も循法を帯に最大展開しながら耐える。

「――っくう!流石にキツい、長くわもたねぇわ……あゆ!さっさと決めちまいな!!」

 

「了解、美味しいとこ、もってっちゃうよー」

 そして、戦真館最後の一人の一撃が項羽に向かって放たれようとしていた。

 

 歩美はマスケット銃の照準を合わせる……

「Bingoォ!!!」

 

 掛け声と共に放たれた射の咒法に崩の解法を編んだ弾丸が狙いたがわず項羽めがけて飛んでいく、

 

 そして――

「――かっ! ……ちっ……くしょう……」

 寸部の狂いなく眉間に直撃した弾丸は西楚の覇王の意識を完全に刈り取った……

 

 ドサリ、と帯に拘束されたままグラウンドに崩れ落ちる項羽。

 

「――お見事」

 思わず、といったふうにクラウディオが感嘆の言葉を呟く。

 

ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!!!!

 川神学園全体から歓声が飛ぶ。

 

 

―――――川神学園 2-S組―――――

 

 

 歓声の中、英雄の警備のために2-Sに残ってグラウンドをみていたあずみが隣で同じように戦闘を見ていたマルギッテに声をかける。

 

「――おい、“猟犬”」

「――なんです?“女王蜂”」

 二人ともグラウンドを見ている。

 目を合わせてはいない、声だけ掛けている。

 

「お前んとの部隊でアレ……出来るか?」

 その問いを聞くとマルギッテはギロリと片目であずみを一瞥した後、直ぐにグラウンド目を移し自らの考えを口に出す。

「部隊から各種エキスパートを選抜隊として結成させ、敵の戦闘能力を偵察し、それを考慮したうえで作戦概要を5パターン以上検証し、そして1週間の訓練があれば……」

「なるほど、即興じゃ“出来ない”……っと」

「……」

 そのあずみの返しにマルギッテは答えない。

 

 そして逆にマルギッテが返す、

「自慢の九鬼従者部隊ならできますか?」

その問いにあずみは少々肩をすくめた感じでマルギッテをみて。

「戦闘能力の高い奴だけあつめりゃ、多分。だが、あの人数じゃ無理だ。あんなにいたら互いが邪魔して、最終的にヒューム、クラウディオあたりが単独で……みたいになるだろうな」

「……つまり“出来ない”っと」

 その言葉にあずみは今度はしっかり肩をすくめて同意の意をしめす。

 

 たとえ強敵相手と言えど、1人と戦うために6人という人数は多い……と言っていい。

 一度に襲いかかれる人数は限られているのだから、必然無駄な人員が出てきてしまう。

 もちろん、そこをうまくスイッチや役割分担をして最大限の効果を発揮するようにするのがすなわち『連携』というもので……

 

 その中でも戦真館の6人が見せたものは極上のものだ。

 

 彼ら6人が一つの個体として動いているのではないかと思われるほどの連動、

今回の一戦、世良水希が項羽の懐に入った時点で、ほぼ9割がた戦真館の勝利は確定していたのであろう。将棋で言えば『詰みまでの筋に入った』と言ったところか。

 

 そして、もし仮に、今回の一連の流れがどこかで切れたとしても、その対処も行われていたのだろうと思われる。

 何故なら先鋒を受け持った栄光、水希は自らの役目が終わった後は項羽から絶妙な距離をとり項羽の死角へ、死角へと、まわりこむような動きを見せていた。

 そういう意味でもやはり、栄光の突撃と水希の切り込みが成功した時点で戦真館の勝利だったのだ。

 

 従軍経験のあるあずみやマルギッテはもちろんだが、これを見た他の九鬼従者部隊の人間から見てもこの戦真館の見せた戦いは衝撃だろう。

 おそらく1対1で戦闘するには難しいであろう相手を6人でいともあっさり撃破する、連携、連動の妙を見せつけられた感じだ。

 

「“女王蜂”……いえ、あずみ。今回の一戦、九鬼は映像で残してはいませんか?」

「あ?マープルが出張ってきたんだ、桐山あたりが録ってるだろうさ」

「その映像、自分にも譲ってはくれませんか?」

「……ああ、いいぜ、手配しとく」

「……恩にきります」

 アルギッテのお願いなど――マルギッテからお願いをされたのなど今回が初めてだが、いつもなら軽口の2つや3つは投げて応対するのだろうが、今回に関してはマルギッテの気持ちも痛いほどわかるので、あずみは素直にマルギッテの要望に頷いた。

 

――さぁて、こっちも戻ったらミーティングだな。

 どうせ、マープルは出てこないだろう、だとするなら桐山に事情を聞かないといけない。

 余計な仕事が増えたな……とあずみは一人嘆息する。

――まったくこれだから老人が勝手に動くと面倒なんだ……

 と、いった愚痴も心の中に湧きあがるが、小さく首を振りそれを振り払うと、

――まずは英雄さまを無事に、そして確実に九鬼に届ける。今度の方針はその後だ……

そう、気持ちを入れ替え愛する主君のもとへと向かう。

 

 マルギッテはあずみがいなくなったあともグラウンドを見つめていた……

 

 

―――――川神学園 グラウンド―――――

 

 

 四四八と百代は校舎の壁の寄り掛かり、この一戦観戦していた。

「……すみませんでした」

 四四八はとなりで見ていた百代に声をかける。

「お前が謝る事じゃ、ないんじゃないか?」

「それでも……川神先輩の葉桜先輩に挑みたかったお気持ちはわかりますので……すみません」

 

 それを聞くと百代は小さく笑って答える。

「まぁ、しょうがない。清楚ちゃんの落とし前はまた次に付けるさ」

 そう言ってから、気絶した項羽を取り囲むようにして立っている6人に目を向けて、

「それにしても――見事なもんだな」

そう、四四八に言った。

 

「あの6人に束で掛かられたら俺だって勝てません」

「だろうな……だが、お前はあそこに入れるんだろう?」

「まぁ、それは……そうですね」

「……凄いな、千信館は……」

 驚き、敬意、いろんなものを込めて百代が言う。

「ありがとうございます」

 そう言うと四四八は倒れている項羽にむかって歩き出す。

 

「どうするんだ?」

 百代の問いに四四八が振り返って答える。

「葉桜先輩を保健室に連れて行きます。さきほど言いましたが俺にも責任がありますし、先輩を倒したのは俺の仲間です。俺が付き添うのが筋でしょう」

 それを聞いた百代は今度は苦笑の様なものを顔に浮かべて、

「真面目だねぇ……柊、清楚ちゃんが気がついたら百代が『次は自分だ』と言ってたと伝えてくれ」

 そういって、百代は既に立ち上がり今の一戦を観戦していた仲間たちの方へと歩いきだす。

「確かに、承りました」

 四四八はその背中に了解の言葉を投げる。

 百代は歩みを止めず首だけ振り返らせながら、手を挙げて感謝の意を示す。

 

 それを見た、四四八も再び仲間の取り囲む項羽の元へと歩き出す。

 

――そして、

「お疲れ、流石だな」

 残心をとかず未だ項羽を取り囲んでいる仲間達に声をかける。

 

「まっ、三国志にでてくる奴も俺等にかかっちゃこんなもんしょ」

「大杉くん……その辺の事はもうしゃべらない方がいいよ?折角、お近づきなれた後輩の娘もそれ聞いたら引いちゃうよ?」

「へ?え?マジ??どうして?どうしてよ!」

 水希の言葉に栄光が涙目になって聞いてくる。

 

「そんなことより!――どう?柊、わかった?私の実力。わかったら奴隷になりなさいよ!」

 そう言って鈴子は薄い胸をグッと張って四四八に言い放つ、

顎を少し上げて少々見下すような顔をしている。

 いわゆる“ドヤ顔”というやつだろう。

 そんな鈴子に少し苦笑を浮かべて四四八は、

「奴隷になるかはともかく……。この辺の指揮能力に関しては疑ってはいなかったんだが……まぁ、流石だよ、我堂」

そう、純粋な賛辞を贈る。

「え?え?な、な、なによ……あ、あんたらしくないじゃない……そ、そんなに素直に誉められると。ちょ、調子狂うのよ……ま、まぁ、いいわ……そんなに言うなら奴隷にしてあげるわよ……」

「我堂……おまえ俺の話聞いてないだろう?」

 自らの髪の毛の毛先をいじりながらモジモジと照れる鈴子に四四八が今度ははっきり呆れたようにツッコミをいれた。

 

「なぁ、鈴子の奴、何回同じ事やれば気が済むんだ?」

「まぁ、あれは顔芸とならんでりんちゃんの持ちネタだからねぇー」

 それを見ていた鳴滝と歩美がやれやれと言った感じで嘆息する。

 

「なぁ、四四八。清楚先輩の怪我……」

 そんな中、項羽の傍で様子を見ていた晶が四四八に声をかける。

 

 何を言いたいのか察した四四八は晶――だけでなく、他の仲間にも向けて話す、

「いや、葉桜先輩の治療は俺が受け持とう。俺には葉桜先輩を起こしてしまった責任がある……それに――流石に負けた相手から治療を受けるってのは先輩としても受け入れられないだろうしな」

――わかった。

 そういうふうに頷き、晶は四四八に場所を譲る。

 

 四四八はまだ拘束されたままの項羽を抱き上げると保健室に向かおうとして、

「では自分は保健室で葉桜先輩の治療をさせていただきます――よろしいですね?」

そう、いつの間にか傍に来ていたクラウディオに話しかける。

 

「ええ、よろしくお願い致します。私は校門でお待ちしております、清楚様――項羽様がお気づきになられましたら、お手数ですがお声をかけて下さい」

「治療に立ち会わなくていいですか?」

「そこまで野暮ではないつもりですし、何より柊様を信用しておりますので」

「わかりました」

「むしろ、いっその事、襲って下されば項羽様もおとなしくなるのではないかなと……」

「……ジョークとしてはあまり性質がいいものじゃないと思いますが」

「これは失礼……」

 そういって深々と頭を下げるクラウディオに四四八は背を向けて、保健室へと歩みを進める。

 

 後の方で鈴子が、

――さっきあんなこと言っておいて……この天然ジゴロ!浮気者!

――おい、鈴子。気持ちはわかるけどさぁ、しょうがねぇーじゃん。

――そうそう、柊くんあれ素だからさ。

――うんうん、いちいちドキドキしてたら心臓いくつあっても足りないよー。

 などの罵声と自らに対する不当な評価が交わされている様に聞こえたが、取りあえず無視して保健室へと急ぐ。

 

 戦真館と中華の英傑の対戦は戦真館の勝利の形で幕が閉じた……

 

 

―――――川神学園 保健室―――――

 

 

「う……うぅん……」

 なにか眩しいものが顔にあたっている様に感じ、項羽は目を覚ます。

「ここ……は……?」

 そういって上半身を起こしてあたりを見回すと、ベットがいくつか置いてありカーテンの向こう側に包帯や薬などが置いてある棚が見え、窓からは夕日が差しこんでいる、おそらく自分はこの夕日で目が覚めたのだろう――どうやら、自分は保健室に居て、しかももう夕方の遅い時間のようだ。

何故そんなところにこんな時間に居るのだろうと記憶を探り……

 

「――ッ!!」

 戦真館との一戦を思い出し慌てて身体を見回す。

 最後、鳴滝の拳を防御した腕には包帯が巻かれてあるが、他は特に何かをされた様なところはない、痛みもない。

 ただ、戦闘の後のけだるさの様なものがあるだけだ。

 脇を見ると椅子が置いてある。もしかしたら、九鬼の誰かが自分を治療してくれたのだろうか……そんなことを寝起きの頭で考えていると、

 

「おや?起きられましたか――おはようございます、葉桜先輩」

扉からペットボトルを手にした男が入ってきて、項羽に気付き声をかける。

――四四八だ。

 

「喉が乾いてると思いまして……どうぞ」

 そういって、コップにペットボトルの中身――ミネラルウォーターを注ぐと項羽へ手渡した。

 

「んっ、んっ、んっ――はぁっ!」

 手渡されたコップに入っているミネラルウォーターをみて、初めて自分は喉が渇いているという事を認識した項羽はそれを一気に飲み干す。そして、無言でグイッと空のコップを四四八へと差し出す。

 

 意図を察した四四八はそのコップに再びミネラルウォーターを注ぎながら、

「あまり一気に飲まない方がいいですよ。身体が驚いてしまいます」

 

「フンっ!」

項羽はそんな四四八の言葉に余計なお世話と言わんばかりに、視線をそらし注がれたコップを再び一気に傾ける――

 

「んっ、んっ!!――ゲッホッ!エッホッ!!」

「ああ……だから言ったんですよ」

 忠告を無視して一気に飲もうとしむせる項羽に四四八がハンカチを差し出すと、

奪い取るようにそれ受け取るとを口にあてて口拭うと、そして若干涙を浮かべたような真っ赤な瞳で四四八を睨みつける。

 

「柊、どういうつもりだ?」

「どういうつもり……とは?」

「貴様はあいつらの仲間だろう、なんでここに居る」

「確かにあいつらは俺の仲間ですが、さっきも言ったように俺には葉桜先輩を目覚めさせた責任もありますから、治療を受け持たせていただきました。どこか痛いところありませんか?服を脱がすわけにはいかなかったので取りあえず全身に治療を施しておいたのですが……」

「ああ……それは大丈夫だが、というか俺は覇王だ!清楚ではない!覇王と呼べ、覇王と!」

「ふむ……覇王先輩……でよろしいですか?」

「フンっ!本当は“様”づけが正しいのだが……まぁ、治療をしてくれたお前だ、“特別に”先輩扱いでかまわないぞ!」

 項羽は腰に手を当て豊かな胸をグイっと張って四四八に答える。

 

 そして今度は思い出したように、

「そうだ!柊!あいつらはどこ行った?!」

「あいつらって鈴子達ですか?流石にもう帰りましたよ」

「なんだと!まだ決着はついてないというのに……あの卑怯者め!6対1とか多勢に無勢だろう!!それに、俺がちょっと気を失ってる間に逃げるとは……」

項羽の言葉に流石の四四八も言葉を失う。

 

 6対1を全員の前で受け入れたのは項羽だし、

気を失って二時間以上も眠っていたのも項羽だ。

 これで流石に決着がついてないとは……傍から見たらありえないだろう。

 

 しかしこれを正しくツッコんでも同じような問答が無駄に繰り返されるだけだというのは容易に想像できたので、

「まぁ、再戦をしたければ明日以降にすれば良いんじゃないですか?今日はもう遅いですし――」

「そうか……まぁ、お前が言うならしょうがない。我慢してやるか」

「ありがとうございます、ではクラウディオさんを呼んできますね」

そう項羽をおさめると、クラウディオを呼びに再び扉を出て行こうとする、と、

 

「――ん?」

「む……なんだ?」

 四四八は項羽の顔の何かに気付き足を止める。

 

「ちょっとスミマセン」

 そういって手で項羽の前髪を上にあげ、顔を覗き込むように近付ける。

「お、おい!!なんだ!!なんだ!!」

 四四八の行動に顔を赤くしてうろたえる項羽。

 

 そんな項羽をよそに四四八は、

「ああ、やっぱりこんなところにも傷がある。髪の毛で見えませんでした。最後の歩美の一発だな……少し動かないでください」

そういうと、額に手を当てて活の循法をおくりこむ。

 

 四四八の手からなんとも心地よい光が当てられる。

 清楚の記憶にある、大きく、ゴツゴツした、何からでも守ってくれそうな、そんな手だ。

 

「ふう……これで大丈夫です、傷も残らないと思いますよ」

「あ……あぁ……ありがとう……」

 うつむき顔を赤くした項羽が初めて四四八に礼を述べる。

「いえ、ではクラウディオさんを呼んできますね」

 そう言って今度こそ、四四八は出て行った。

 

 額には未だ四四八の手の感触が残っている。

 うつむいたまま、四四八の出て行くのを見ていた項羽は、手に四四八のハンカチを未だ握りしめていることに気がつく、

クラウディオを呼んで帰ってきたところで返そうか……とも考えたが、

 

――いや、明日返せばいいだろう

 そう思いハンカチをソッとポケットの中にしまう。

 

 こうして、葉桜清楚が西楚の覇王として覚醒した一日は終わった、

覇王の完敗という結末をもって。

 しかし、その事実を項羽のみが受け入れていなかった……

 

 




というわけで、戦真館のチームとしての戦闘を書いてみました
もともと戦闘描写があまり得意ではないのですが
そこに来てこのような集団戦……

やはり戦真館の華はチーム戦かなとも思ってますので
これを皮切りに勉強していこうと思います

お付き合いいただきましてありがとうございます

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