戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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図らずもまた戦闘描写……
でも、真剣恋と戦真館ですもんね、戦闘描写なくちゃねぇ
(うまく書けてるかどうかは別として……白目)


第十九話 ~覚醒~

「うん、うん、そうかー……実は俺もソレだと思ったんだ。んで、実はもう検証も頼んである……なんだよ、柊にそう言われると照れるな……うん、そうだよね、わかったじゃあ」

 

 会話の終わった大和はピッと携帯を切る。

 

「柊なんだって?」

「うん、やっぱり俺と京が考えたのと同じだった」

「そうかー、んじゃ、ますます信憑性が高くなったなぁ」

 

 風間ファミリーは清楚から依頼を受けた日から毎日こうして集まり、情報を出し合い検証している。それによってここ数日で一人の歴史的人物に絞られた。

 

 最初はあまり自信がなかった大和だが、情報を検証していくうちに今ではこれしかないだろうと半ば確信している。京や柊も同じ結論に達していたことも大きい。

 現在は集めた情報を、天才と名高い七浜の久遠寺未有に頼み最後の検証を頼んである、おそらく今晩中には結果が出るだろう。

 

 この結果が一致すれば、明日、葉桜清楚自身に自らのクローンがだれかを報告することになっている。

 

「うーむ、まさかの人物だったな、その場に立ち会えないのが残念だ……あのクソジジイ、仕事を私に押しつけやがって……」

 

 百代は明日、鉄心の代わりとして川神院での業務に携わることになっているので、報告には立ち会えないのだ。四四八との一戦以来、鉄心は百代に川神院の手伝いを積極的にやらせるようになったし、嫌々ながらも百代もそれをひきうけている。

 

「そういえば、柊くんも柊くんで、お爺様とルー師範代と面談だっけ?」

 

 四四八はそろそろ半分が経過する学生交流の途中経過の報告を千信館にしなければならなく、そのための学園長との面談が明日という予定だ。

 

「やっぱり、モモ先輩と柊君がいないなら、延期した方がいいのかなぁ」

 

 モロが心配そうに言うが、

 

「いや、清楚ちゃんは不安がってる、早く教えてあげた方がいい。こちらの都合で伸ばすというのは駄目だと思う」

「俺も姉さんの意見に賛成。それに柊も早く知らせてあげた方がいいってさっきの電話で言ってた。だから、明日報告しよう」

 

 百代と大和が首を横に振る。

 

「よっし決まりだ! んじゃ、セッティングは任せたぜ、大和!」

 

 キャップがまとめるように宣言すると、大和に指示を出す。 

 

「わかった、清楚先輩に連絡しておく」

 

 そう言って大和は携帯を操作し始めた。

 

「あー、それにしてもあの清楚先輩がなぁー。なんかなぁーーー」

「ガクト残念そうだね……」

「自分はあまりこの人物の事は知らない……凄い人なのか?」

「アタシもアタシも! あっちの方で知ってるの関羽? くらいだもん」

「……クリスもワン子もあとで私が教えてあげる」

「やっぱり只者じゃなかったですね……」

「流石のオイラでも騅に勝てる気はしねぇぞ……」

「いや、松風が勝てる馬とか逆にどこにいるんだよ……」

 

「OK、清楚先輩から了解もらった、明日準備をして屋上に集合だ」

 

 雑談の間に大和が連絡をして戻ってきた。

 

「よぉし、みんな忘れんなよ!んじゃ、今日は解散ーーっ!」

 

 明日、葉桜清楚のルーツが報告される。

 その事が迎える結果を、今はまだ誰も知らないでいた……

 

 

―――――川神学園 屋上―――――

 

 

「――清楚先輩は項羽のクローンです!」

 

 キャップは一切の小細工をせず、結論をいきなり清楚にぶつけていった。

 

「え? え? 項羽ってあの……中国……の」

「そうです」

「え……でも、私……そんな……」

「ショックなのはわかります……ですが、清楚先輩が本気でしたので、こちらも本気で調べました。手掛かりが全てを物語っています」

 

 そういって風間ファミリーは清楚に関する様々な事柄が、『西楚の覇王』と呼ばれた項羽と一致することを告げる。

 

「ここに、まとめた資料があります、お渡し……しますね」

 

 そう言ってショックを隠そうともしない清楚に大和は資料の束を渡す。

 

「……なんだろう……此の感覚、前も一回あった……そうだ……この歌……この歌を見た時……」

 

 夢遊病者の様にフラフラとしながら、大和の渡された資料に目を通すと、一枚の紙の前でピタリと手を止め呟きだす。

 呟きというよりは、独白……誰にむかって話しているわけでもなく唯、言葉が漏れてしまっているというそんな具合だ。

 

「力……山を抜き 気世……を蓋う 時……利あらずして 騅……逝かず」

「……垓下の歌」

 

 清楚の呟きを耳にした大和がその内容に気付く。

 楚漢戦争の最後の戦いである垓下の戦いにおいて、西楚の覇王・項羽が愛人である虞美人に送った詩だ。

 

「騅の……逝か……ざる 奈何……すべ……き……」

 

 呟きは苦しさを増して、傍から見ても明らかにおかしい。

 

「おいこれ、止めた方がいいんじゃないのか」

「……なんかヤバい感じ」

 

 空気までもじっとりと重くなったきがする。

 

「清楚先輩! 清楚先輩! 聞えますか?」

 

「虞や……虞や…… 若を……奈何……せん……」

「清楚先輩大丈夫ですか!」

 

 大和が駆け寄って肩をたたくより一瞬早く、清楚が垓下の歌を諳んじ終わる……

 

「大和!! 危ないっ!!!!!」

 

 ――次の瞬間、清楚を中心に膨大な力の暴風が巻き起こる。

 

「おっわ!」

 

 暴風に巻き込まれそうになった大和を京が素早く捕まえて既のところで屋上から飛び降りた。

 

「わあああああ」 「どわあああああ」

 

 由紀江がモロとガクトを捕まえて同じく飛びおりる。

 

「ひゃああ!」 「くううっ!」 「よおっと」

 

 ワン子、クリス、キャップはそれぞれ自分で飛び退いている。

 

 

―――――川神学園 1-S組―――――

 

 

「――失礼」

 

 突如とした力の出現を感じ取ったヒュームは紋白を抱え一気に九鬼に向けて飛ぶ。

 立て続けに3度ほど飛び九鬼の本社に到着すると、九鬼のシェルターにいる従者部隊に紋白をまかせ、今度は本社の中央部に飛んだ。

 

「おい、項羽が目覚めたぞ」

 

 ヒュームはそこにいるマープルに多少以上に非難を込めた声で言う。

 

「なんだって? まったく……早まったとは思っていたけど、これほどとはね……桐山!」

「――こちらに」

「まずは川神学園の放送をジャックしな、そして揚羽様にご連絡だ。あとオズマに至急こちらに来るよう言うんだよ」

「英雄様はどのように?」

「クラウディオとあずみがいる、英雄様は大丈夫だろう。それよりヒューム」

「ふんっ、わかっている。約束だからな」

 

 そう言ってヒュームは再び川神学園に向けて跳躍した。

 

 

―――――川神某所 川神院―――――

 

 

「――ッ!! なんだこの力……まさか清楚ちゃんか!」

 

 今日清楚に調査の報告をしているであろうファミリーの顔が浮かぶ。

 まさかこんな形になるとは――百代は川神院にいる自分を呪った、その時、

 

「百代様いってください、こちらは大丈夫です」

 

 こちらも何かを感じ取ったのだろう、高僧の一人が百代に声をかけてきた。

 

「……ありがとう」

 

 そう答えるが早いか、百代の姿はかき消える。

 百代は全速力で川神学園目指し疾った――

 

 

―――――川神学園 屋上―――――

 

 

 風間ファミリーがグラウンドへと避難した後の屋上。

 力と闘気の傍流の中心で、清楚が佇んでいる。

 ――そして清楚がカッと目を開く、その瞳は慈愛に満ちた今までの清楚の瞳ではなく真っ赤に輝く獣のような瞳だった。

 

「……んはっ!!!!」

 

 口を三日月型に開き清楚が笑う、その笑も今までの清楚のものとはかけ離れたものだ。

 

「はーっはっはっはっはっはっ!!!ようやく目覚めたぞーーーーーっ!!!!」

 

 歓喜、狂喜、喜悦、雀躍……この世のありとあらゆる喜びの感情をかき混ぜながら清楚が哄笑する。

 

「そして素晴らしいぞ!!この力ぁ!!!」

 

 清楚の内から溢れ出した闘気がユラユラと蜃気楼のように清楚の体を包んでいる。

 

「フフフ、あそこか……」

 

 そう言って屋上から風間ファミリーを見つけると、清楚はグラウンドに飛んだ。

 

「まずお前たちに礼を言っておかないとなぁ、とく俺の正体を見破り封印を解いてくれた……」

 

 音もなくファミリーの前に降り立った清楚は大和たちに言う。

 

「……清楚……先輩?」

「違う! 俺は覇王だ――覇王と呼べ!!」

「せ、清楚先輩……の人格は消えてしまったんですか……?」

 

 由紀江が恐る恐るといった感じで聞く。

 

「俺は俺。清楚は俺、項羽は清楚。全てはひとつ、俺は長いあいだ心の片隅に封じられていたが、ようやく混じりあった。こう言えばわかりやすいか?」

「いや!何言ってっか分かんねぇから、清楚先輩はだからどうなったんだよ!」

 

 ガクトが一歩前に出て思わずといったふうに口にするが、次の瞬間、ガクトはプールにむけて放り投げられていた。

 

「わ、わ、うわああああああああああああああああああ」

「お前の発言を許した覚えはない……」

 

 ガクトを天高く放り投げ、見下したような目で清楚――いや、項羽が呟く。

 

「ちょっと、あんた、何してんの――」

 

 一子が項羽に文句を言いきる前に放送が入る――聞いたことのない老婆の声だ。

 

『聞こえるかい清楚……いや項羽』

「おお!その声はマープルか!」

『目覚めちまったようだね、しょうがない一度帰ってきな』

「帰る? 何故? 俺は目覚めたばかりで元気がいっぱいなのだぞ? まぁ、見ていろ日本ぐらいなら今日中に落としてやるさ!!」

『馬鹿なこと言ってんじゃないよ、さっさ帰って来な! そしてこれからの教育カリキュラムを構築しなおしさ、勉強ももちろんやってもらうよ』

「勉強!? ボケたかマープル!! 勉強なんぞ自分の名前がかけるだけでじゅうぶんだろう!」

『まったく……こりゃ話が通じそうにないね。鼻っ柱をおる必要もありそうだ――』

 

 そう言うと放送の声――マープルは川上学園全校生徒にむけて発信をした。

 

『川上学園の皆、聞きな。3-S組の葉桜清楚が暴走した。彼女は西楚の覇王と呼ばれた項羽さね。彼女を取り押さえた者にはあたしの私財から褒美をとらせる! あたしゃ九鬼従者部隊序列2位 マープルさね!!』

 

「よろしいのですか?ここまで騒ぎを大きくしてしまって」

 

 傍らに控えている桐山が眉をひそめて聞く。

 

「バレちまったら腹をくくるさ……むしろ、強敵を次々となぎ倒す項羽のデモンストレーションにすればいい。鮮烈デビューというやつさ。桐山、映像の記録を忘れるんじゃないよ」

「かしこまりました」

「ヒュームとクラウディオに抑えられるまで派手に暴れ回ればいいさね」

「……それにしましても、あそこまで思考が変わるとは」

「はぁ……やはり、25歳くらいまで勉強させてから目覚めさせたかったね」

 

 やれやれ……といった感じで星の図書館は溜息をつく。

 

 マープルの放送後、グラウンドは早くも混沌の様相を呈していた。

 学園長とルー師範代から『教室で待機、葉桜清楚に向かっていくのはいいが、それは自己責任』という通達がまわり、大多数の生徒は教室からグラウンドの様子を見ている。

 しかし、そこは血気盛んな川神学園の生徒、かなりの人数が項羽に向かって戦いを挑んでいった。

 

「スイ!俺のところに来い!お前ならすぐに来れるだろう!」

 

 そんな生徒たちを面白そうに眺めながら、項羽は天高く手を突き上げ声を上げる。すると、その声に応えはるか向こうから大型のバイクがまっすぐ項羽のもとにやってくる――道中、項羽に向かう生徒を蹴散らしながら。

 

「お前も、俺の覚醒に伴い、真の姿に目覚めたか!」

「このようなところですが、皆様、改めてよろしくお願いいたします」

 

 自転車の時と同じくなんとも紳士的な声でスイスイ号が話す。

 

「スイ! 武器を出せ、方天画戟でいく!」

 

 項羽の呼びかけに応え、スイスイ号から一本の槍が項羽に手渡される。

 呂布が愛用したと言われる月牙が片方のみに付いた槍。それを項羽が構える。

 

「さぁ、来い、戦士達!俺に挑め!!共に武で語ろうではないか!!!」

 

 オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!

 

 その声を合図として川神学園の生徒たちが項羽に襲いかかる。

 項羽は生徒たちを槍の一閃でなぎ倒しながら如何にも楽しげに笑う。

 

「はーーっはっはっはっはっ!!どうしたどうした、川神の戦士はこんなものか!!!腹の足しにもならんぞ!!!!」

 

 そんな傍若無人な項羽の様子を見ながら、

 

「くうぅぅ、仲間を投げられてあの態度!もう完っ全に怒ったんだからね!」

「ワン子の言うとおりだ、あの傍若無人目に余る!」

「……まったく……清楚先輩変わりすぎ」

「行きましょう……皆さん」

 

 川神一子、クリスティアーネ・フリードリヒ、椎名京、黛由紀江――風間ファミリーの4人が武器を構える。

 

「んはっ!なかなか食いごたえがありそうなのがいるじゃないか!!」

 

 そんな4人に気づいた項羽がニヤリと、口元に強い笑を浮かべる。

 

 そんな挑発的な笑に釣られるかのように、一子が突撃する。

 

「いくわよっ!川神流 山崩し!!」

 

 一子は薙刀を頭上で回し、相手の頭上ではなく足へと薙刀を走らせる。

 しかしそれを読んでいたかのように項羽はするりと躱し声を上げる。

 

「んはっ! なかなかに面白い武器じゃないか! 見ていて飽きない、褒美を取らせるぞ!! はーっはっは!!」

 

「くうう、馬鹿にしてぇえ! はあっ! たあっ! せいやっ!!」

 

 そのまま連続して薙刀を振るう、しかし薙刀独自の変幻自在の斬撃軌道も覇王にはかすりもしない。

 

「面白い!面白い武器だが……そこまでだな、もっと精進して出直すがいい!!」

 

 袈裟懸けに甘く入った最後の斬撃を手で払われ、体勢の崩れたところに項羽の蹴りが入る。

 

「きゃああ――!」

 

 その蹴りをまともにくらい、校門の方へと吹っ飛ばされる一子。

 

「やっべぇ!大丈夫か!ワン子!!」

 

 キャップが慌てて駆け寄る。

 

「貴様ァ!! クリスティアーネ・フリードリヒ!! 参るッ!!」

 

 今度はレイピアを構えたクリスが項羽に突進していく。

 クリスはレイピアを閃かせ1、2、3とリズムよく刺突を放つ、狙うは胴。

 面積が広く一番攻撃の当たりやすい部分だ。

 

「おお! 怒りを飲み込み攻勢にでるか! 声もよく通る、戦場でも聞こえそうだ! お前、兵を束ねる将たる器を持っているな!!」

 

 そんな嘲笑にも似た賞賛を完全に無視して、クリスは項羽の胴に執拗に突きの一撃を加える続ける。

 しかし当たらない、項羽はその全てを躱している。

 だが、クリスにとてもそれは想定の範囲内、本命は意識が下へ集中したあとでの顔への一撃。

 

「せやっ!!」

 

 その渾身の刺突を今までよりも深く、強い踏み込みで放つ。

 

 が、そのレイピアの一撃を項羽は片手で刃を握り鼻先で攻撃を強引に止める。

 

「なっ!」

「まぁ、そこそこ面白かった……が! 目でバレバレだ出直してこい! そしてそこのお前もな!!!」

 

 そう言うとレイピアごとグイッとクリスの身体を引き寄せると、襟を持ち上げ力任せに投げ飛ばした。

 

「――えっ?」

 

 ――その先には、隙へ矢をねじ込もうと矢をつがえていた京。

 

「「きゃあ!!」」

 

 避けるわけにも行かず、京はクリスとともに地面へと激突する。

 

「守るもののいない弓兵など唯の的だ! 未熟者がっ!」

「京! クリス!」

 

 こちらは近くにいたモロが駆け寄った。

 

 くっ! 私はまた同じ誤ちを――っ!

 ともに倒れモロに助けられているクリスと京をみて由紀江が唇を噛む。

 

「おいおい、貴様一人になってしまったぞ? どうする?」

 

 一言で連携――といっても、その種類は非常に多岐にわたる。

 多数vs多数 1vs多数 強敵vs多数 etcetc 自身の状況が2人以上だった場合、常に連携というものは取れる状況にはなる。なる、が、それが出来るかと言うとそれはそれで別の問題だ。

 相手との信頼関係、相方の特徴把握、戦術の徹底……様々な要素を集約してはじめて成果が期待できる。だが、その難易度に見合った成果が期待出来るのもまた確かであり、故に練達した軍隊は常に連携の訓練を怠らない。

 

 今回の一子達のように、4人で相対しながら結果1vs1が3回というような状況はあまり好ましくない。京だけはその特性も相まって援護の気配を見せてはいたが、潰されてしまった。

 しかしこれは一子達がこのような状況――強敵相手に仲間複数で相対す、戦闘に慣れていないという経験不足によるものなので致し方ないとも言える。

 したがって、一子とクリスがそれぞれに項羽に立ち向かっていった時点で由紀江にできることはほぼ何もなかったとは言え……やはり、先の戦い――百代 対 四四八、での悔いが心の中に残っている。

 

 その悔しさを振り払うように由紀江は名乗りを上げる。

 

「黛流 黛由紀江……まいりますっ!!!!!」

 

 疾く、鋭く、美しい斬撃が連続して項羽を襲う。

 剣を志す者なら見惚れてしまうような斬撃の連続をいとも簡単に躱しながら項羽は由紀江に向かって言い放つ、

 

「んはっ!! いい太刀筋ではないか!! 我が軍の剣術指南役として向かい入れてやっても良いぞ!!」

「お断りします!!」

 

 そんな軽口に由紀江は間髪いれずに怒ったような声で返す。

 

「なに?俺の誘いを断るというのか……この無礼者が!!」

 

 そう言って項羽はこの戦いで初めて槍を振るう。

 

「くっ!」

 

 圧倒的な力がこもった一撃に刀が払われる。

 

「今度はこちらからだ、そぉらっ! そぉらっ!! そぉらっ!!!」

 

 項羽は手に持った槍を縦横無尽にはしらせ由紀江をおそう、力強く、空気ごと相手を断つかのような重さのある連撃だ、

 

 が、

 

 ――疾やさは柊先輩ほどじゃない! ならば!

 

 由紀江はその連撃のすべてを躱す。

 四四八と打ち合ったときは四四八の鋭く疾い旋棍の連撃を、刀を使い受けて、流すことしかできなかったが、これならば躱すことができる。

 躱すことができるなら――反撃の機会がある。

 その一瞬を見逃さぬよう由紀江は全神経を項羽へと集中させる。

 

「どうした、どうした、どうした、どうしたっ! 逃げ回ってるだけじゃぁ、勝てないぞ!!」

 

 項羽の連撃は止まらない、止まらないが、項羽も機械ではない常に同じペースで攻撃はできない。

 

(――見えたっ!)

 

 その連撃に生まれた一瞬の『間』、その『間』に由紀江は剣先をねじ込んだ。

 

「そこっ!!」

 

 渾身の突きの一閃が項羽を襲う、

 

――ガキッ!という硬いものがぶつかる音がする。

 

「なっ!」

 

 由紀江が驚愕の表情を浮かべる。

 それもそうだろう、項羽は由紀江の一撃をこともあろうか歯で噛んで止めたのだ。

 

「ぺっ! やはり刀か……鉄の味しかせんわ。おい! 今の一撃、良かったぞ。褒美をやらんとなぁ……」

 

 そう言ってニタリと笑った項羽は、攻撃後で体勢の崩れた由紀江の腹に力のこもった蹴りを放つ。

 

「くっ――はっ」

 

 由紀江はその衝撃で吹き飛ばされて、グラウンドに転がる。

 

「まゆっち!」

 

 最後まで事の成り行きを見守っていた大和が由紀江に駆け寄る。

 

「ふう……まぁ、肩慣らしとしては悪くなかった、さて、次はどうしようか……」

 

 グラウンドに多数の生徒の倒れ伏した姿を見ながら覇王が少し考えるような仕草を見せる。

 

 ――その時、

 

「葉桜先輩! これは……」

 

 学園長やルーとともに、生徒の安全確保に動いていた四四八がグラウンドにやって来た。

 

「おお!柊か!お前にも礼を言わねばならんな!俺の封印を解く手伝いをしてくれたのだからな!」

 

 自慢げに胸を張り四四八に目を向ける。

 

「どうだ、西楚の覇王が俺の正体だ! さぁ、感そうを……っ! ん、くっ……!」

 

「葉桜先輩!」

 

 急に苦しみだした清楚を心配して四四八が近づこうとすると、今まで紅だった瞳が消え四四八の知る清楚の瞳が浮かび上がる。

 

「……あなたは……」

「大丈夫、大丈夫だから……柊くん。ありがとう、心配してくれて……」

 

 そう言って、力なく四四八に笑いかけると、その瞳は再び紅くなる。

 

「……フゥ……」

 

 項羽……と思われる人格が息を吐く。

 何か一瞬、人格が入れ替わったそんな感じだ。

 

 それを見た四四八は、

 

「そう……ですか、葉桜先輩は葉桜先輩……なのですね」

 

 そう、少し安堵の表情を浮かべたが――直後、厳しい顔に戻り、

 

「しかし、この暴挙さすがに黙ってはいられません。自分がこの事態を引き起こした片棒を担いでいるとなれば尚更です」

 

 そういって、すっ、と腰を落とし構えを取ろうとする。

 

「なんだ、柊! 俺と戦ってくれるのか!? これはいい、お前を見た時から身体の疼きが止まらなかったのだ!!」

 

 そう言って項羽も槍を構えようとすると、

 

 ――その時、頭上と背後からふってきた。

 

「まぁ、待て柊。これは九鬼の不始末でもある。ここは俺たちに任せてもらおう」

「という訳で、譲って頂けませんかな柊様。流石にここで仕事をしないとお給料が下がってしまいます」

 

 そういいながら、ヒューム・ヘルシングとクラウディオ・ネエロが現れる。

 いつもと同じ立ち振る舞いのはずだが……そこには隠しきれないほどの闘気が漏れ出している。臨戦態勢……といった気配だ。

 

「ほう……ヒュームにクラウディオ。おまえら俺を止められるとでも思っているのか?俺は西楚の覇王、項羽だぞ!!」

 

 そんな項羽言葉に従者二人はやれやれといったように言葉を交わす。

 

「赤子が……実力の差というものすら気づかんのか」

「この辺はおいおい教えていくしかなさそうですな……」

 

 ――そして第3の挑戦者が現れた。

 

 彼方から飛んできた百代がグラウンドに降り立ったのだ。

 百代は項羽を見ていない。

 百代の視線の先にはぐったりと倒れ、大和たちから介抱を受けている4人の武士娘たちの姿だ。

 

「なぁ、清楚ちゃん。もしあれをやったのが清楚ちゃんなら……」

 

 ここで初めて百代は項羽を真っ赤な瞳でギロリ睨みつけ、

 

「私は清楚ちゃんにお仕置きをしなきゃいけないなぁ……」

 

 そう凄みを帯びた声で言う。

 

「武神か! ああ、俺はなんでも構わない! 誰がメインディッシュでもな!!」

 

 強者4人に囲まれながらも、項羽は楽しくて仕方ないといったふうに声を上げる。

 

「おい百代、引っ込んでいろ。これは九鬼の問題だ」

「何を言ってるジジィ……私は、私の仲間に手を出したやつを許せないと言っているんだ、お前の筋など聞いてない」

「なに?」

「はん!」

 

 ヒュームと百代がにらみ合う。

 

 ぎりっ、と二人のあいだの空間の密度が一気に濃くなっていく。

 

 ――刹那、二人の右手が目にも止まらぬ速さで動いた。

 

「――ぬっ!」

「――むっ!」

 

 二人は同時に声を上げた。

 

「落ち着いてください、俺達がここでぶつかっても何の解決にもなりません」

 

 四四八の声が響く。

 ヒュームと百代の腕は二人のあいだに入った四四八によって止められていた。

 

「……ふんっ!」

「……はんっ!」

 

 その言葉に、二人は手を引く。

 

「ふむ、しかし困りましたな。三者ともそれぞれに戦う理由があります。この場合誰が戦ってもわだかまりが残ってしまう……さて……」

 

 クラウディオが考え込むような素振りを見せたとき……

 

「その役目、私たちが請負います」

 

 項羽を含めた全員が声の方に目を向けると――

 

「――おまえ達」

 

 そこには鈴子を先頭に千信館……いや、戦真館(トゥルース)の制服に身を包んだ戦真館の6人がいた。

 

「戦真館、我堂鈴子以下6名。西楚の覇王・項羽の取り押さえ、名乗りを上げさせていただきます!」

 

「ほう……」

「ふむ……」

「むっ……」

 

 それを聞き、従者2人と百代が声を上げる。

 そして、少し思案したクラウディオが口を開く。

 

「今まで、まずは川神学園の生徒との勝負を優先させてきました。そう言う意味では純粋に勝負を挑んでいる彼らとの対戦を先にさせるのがいいかと思うのですが……如何でしょう? ヒュームそれに百代様……」

 

「俺は構わん、面白いものが見れるかもしれないしな」

「私は……」

 

 百代は妹をはじめとする仲間たちが起き上がり始めたのを見て、

 

「もし、千信館のヤツらがしくじった場合。その次にやれると確約できるなら、それでいい」

 

 そう答える。

 

「では、決まりですな。よろしいですね柊様、手出しは無用ですよ」

「――はい、ですが、声はかけさせていただきます」

「どうぞ……」

 

 そういって四四八は6人の下へ向かっていく。

 

「――おまえ達」

 

 しかし何を言えばいいかわからず、先ほどと同じようなつぶやきをしてしまう。

 そんなとき鈴子を皮切りに仲間たちが次々に四四八に声をかける。

 

「柊、あんた私たちがあんたとモモ先輩の一戦見て何もわからなかったとか思ってないでしょうね。見くびらないでくれない」

「そうそう、柊くんの真(マコト)、ちゃんと届いてるよ」

「つうわけで、俺たちもリハビリしなきゃなんねぇからな」

「関羽だか張飛だかしらねぇけど、まっ、余裕っしょ!」

「栄光、それ両方ちげぇからな?」

「まぁ、復帰戦としては相手にとって不足なし! だよね」

 

 それを聞いた四四八は仲間たちにかけるべき言葉をようやく思いついた。

 

「おまえ達……葉桜先輩を――頼んだぞ」

 

 ――任せとけ! 仲間たちが異口同音の言葉を口にする。

 

 そして6人はグラウンドにならぶ。

 

「指揮は私が取るわ、文句ないわね」

「OK―、頼りにしてるよ、鈴子」

「ああ、かまわねぇ」

「私は柊ほど甘くないんだからね、わかった? 大杉!!」

「ちょ! なんでオレだけ名指しなんだよ」

「りんちゃん。りんちゃんこそ、四四八くん見てるからって張り切りすぎちゃダメだよ!」

「なっ! なんで、そこで柊の名前出てくんのよ! か、か、関係ないじゃない!!」

「おい、あゆ……なんで戦闘前に指揮官混乱させてんだよ……」

 

 いつもの変わらぬ調子で会話を交わす6人――。

 しかし、いつもとまるで違う様相の6人――。

 

 鈴子が一歩前に出て宣言する。

 

「戦真館 我堂鈴子以下6名! 葉桜先輩、お相手させていただきます!!」

 

「っんは!! 待ちくたびれたぞ!! さっきは4人で今回は6人か。人数なんぞどうでもいい!!なんせ俺は西楚の覇王だ!! 10人だろうと100人だろうと変わらぬわ!!」

 

 そうして、6人はそれぞれ武器を構える。

 項羽も槍を構える。

 

 校庭に静寂が舞い降りた。

 

 その静寂を破るように、鈴子が激を飛ばす。

 

「柊が見てるんだから、恥ずかしいトコ見せんじゃないわよ!!」

 

「「「「「 了解ッ! 」」」」」

 

「千信館が柊だけじゃないってとこ、川神の連中に見せつけてやるんだから!!!」

 

「「「「「 あたりまえッ!! 」」」」」

 

「目標 西楚の覇王・項羽 いくわよ!!!!」

 

「「「「「 オオッ!!!!! 」」」」」

 

 能力(ユメ)を持つ戦真館の6名が、中華の英傑に挑む、川神学園すべての視線がその一戦に注がれていた。

 




(個人的に)いいところ(だと思ってるの)ですが
明日からベトナムの方へ出張に行く関係で、更新はちょっと遅くなるかもしれません
ただ、向こうだと夜暇なんでネットがつながれば投稿できる……かも

戦闘描写さえあまりうまくないと思っいるところに
なんと集団戦を書くという暴挙にでた自分!はたして!!

お付き合い頂きましてありがとうございます

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