戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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あ!自分ラブコメ(も)苦手かもしれない(白目)

てか、まずもってラブコメしてないですね……ごめんなさい……


第十八話 ~対話~

 放課後、葉桜清楚はいつもの様に図書館にいた。

 本棚の本を手にとっては数ページ、パラパラと目を通し、戻す。

 ジャンルも傾向もバラバラで目に付いたものを取っては戻すを繰り返している。

 本を読む、というより本に触っているという具合だ。

 

……その顔はあまり冴えない。

 

 今朝、自らの力に対して不安を持っていることを揚羽の従者である小十郎に話したら自分に試してみてくれという話になり、力を振るってみた。

 そうしたら自分でも信じられないくらいの力を発揮してしまい、小十郎を稽古場の外まで吹っ飛ばしてしまったのだ。

 当の小十郎は、いつも揚羽にそういった形で鍛えられているので、ピンピンしているのだが、やはりここ数日で一気に力が湧いて――というか、開放されてきているように感じる。

 依頼を出したのは昨日だが、早く分かってくれないかなと心だけが焦っている。

 どんなに周りが清楚は清楚だと言ってくれてもやはり不安は拭えない。

 この焦燥と不安を理解できるのは多分、自分しかいないのだろう……という諦めの気持ちもどこかにある。

 とにかく清楚は今、確かなものが欲しかった。

 すがりつけるような大きく、確かなものが……

 

 そんな中で清楚が図書室を選んだのは、当然の帰結と言える。

 図書室にくると、若干だが心が落ち着く。

 『本が好きな自分』という今感じられる一番確かなものを求めて、清楚は本に囲まれた一角で特にあてもなく本を手に取り開いている。

 

 そんな風にボーッと本を眺めながらさまよっていると、トンっと本棚で本を読んでいる男子生徒とぶつかってしまった――ぶつかったというより、清楚がぶつかりに行ってしまったという感じだ。

 

「キャッ!ご、ごめんなさい。ボーッしてて」

「いえ、こちらこそ……って、葉桜先輩じゃないですか」

「え?あ、柊……くん」

 清楚は顔をあげてぶつかった相手が初めて四四八であることを認識した。

 

「昨日はお疲れ様でした、それにしても失礼ですが少し珍しいですね、女性がこのエリアにいるのは」

 そう言われて清楚が周りを見ると、そこは歴史物……特に日本史の歴史的書物を集めたエリアだった、確かに女性が本を探すところとしては少し珍しいかもしれない。

 

「あ、別に何か探してたわけじゃないの……ちょっとイロイロ……ね」

「……ふむ」

 そういって顔を伏せる清楚を見て、四四八が提案する。

 

「もしよろしければ、昨日の続きということで少し話をしませんか?昨日の今日でなにが変わるかわかりませんが、人に話すとそれだけで色々整理ができるものですよ」

「え……そう……かな?じゃあ、お言葉に甘えちゃっても、いい?」

「ええ、もちろん。図書館の中ですと話しにくいですし……外の花壇の所に行きましょうか、今日はあまり寒くもないですし」

「あ、うん、そういえば今日まだお水あげてなかったな……」

「ああ、あの花壇、葉桜先輩が管理されていたんですか。綺麗な花が咲いてますね、近くを通ると金木犀の良い香りがします」

「そうそう、そろそろ終わっちゃいそうだけど、いい香りなのよね」

「それじゃあ、ついでと言ってはなんですが水やりの方もお手伝いしますよ」

「ホント!ありがとう、じゃあ行きましょうか」

 花の話題が出て少し落ち着いたのか、さっきよりも幾分元気な声で清楚が話す。

 清楚と四四八、花の話をしながら二人は花壇へと向かった……

 

 そういえば、今話題に出た金木犀は中国原産の植物だ、昨日清楚が好きだと言っていたヒナゲシも中国からやってきている……何か関係があるのだろうか……

 四四八はそんなことを考えていたが、口には出さなかった。

 

 

―――――川神学園 花壇周辺―――――

 

 

 川神学園の花壇は今年最後であろう金木犀の香りに包まれている。

 

 そんな香りの中、清楚と四四八は花壇に水をやっている。

 無言である、いまのところ事務的なもの以外で会話は交わしてない。

 

 水をやりながら清楚は時折、目を伏せ考えるような仕草を見せる。

 何かを話そうとは思っているのだが、今の自分の胸の内をどう表現していいかわからない……だからどうしても黙ってしまう。

 

 しかしそろそろ、水やりも終わりそうだ……終わったら、流石に何か話をしないとまずいだろう。四四八は清楚のためにこの場を作ってくれたのだ、しかし、なんと言えばいいのか……

 

 そんなことを考えていると四四八が静かに語りだした。

 

「何か見えないものに操られているような感じで、自分の中に全く違う別の何かがいるような感じで、かといって全く身に覚えのないものでもない……」

 

 水をやりながら四四八は一人でしゃべっている、清楚の方は見ていない。

 

「だけど、これを認めたら一体今までの自分はどうなってしまうのだろうか?変わるのだろうか、変わらないのだろうか、それとも……消えてしまうのだろうか……」

 

 清楚がハッと口元を抑える、四四八はまだ清楚の方を向いてはいない。

 

「怖くて……不安で……だけど、不思議な程に馴染んでて……でも、それが逆におぞましくて……もう何を信じていいかわからない。本当に、自分は一体全体何なんだ。誰か、答えを知ってるなら教えてくれ、いや待て、教えないでくれ……もう、何が何だかわけがわからない……」

 

 そうして、最後に清楚の方を向いて、

「……といった所でしょうか?」

そう言った。

 

「どうして……」

 口元を抑えたまま清楚は呟いた。

 自分でも表現しきれなかった心の内が言葉にされているように思える。

 

 そんな清楚の驚きをよそに、水をやり終えた四四八はホールを片付けながら答える。

 

「俺も同じような経験がありまして……厳密に言うと違うのでしょうが……なかなかいい気分じゃないことは確かですよね、心中お察しします……」

「柊くん……」

「……聞きたいですか」

「柊くんが……良ければ」

「経緯も含めると、あまり愉快な話にはならないのですけど……それでもよければ」

「……おねがい、します」

「――わかりました」

 そういうと四四八は花壇の手頃な石の上に腰を下ろす。

「立ち話だと何ですから、座りませんか?」

 それに従い、清楚もその向かい側にある石の上に座る。

 

 清楚が座るのを確認してから、四四八はゆっくりと語り始めた。

「川神先輩との一戦を見ていただいたらわかると思うのですが、俺には――俺達には特殊な能力があります。俺達は能力(ユメ)と呼んでいますけど、これは俺達が元々持っていたものではないんですよ」

「え?」

「川神には学園長や川神先輩なんかを始めとした超人的な方々が多くいますけど、あの方々とは違い、俺達はある出来事を境に後天的に、まぁ、あえて同じ言い方をすれば超人になってしまった人間なんですよ」

 

「この能力(ユメ)を手に入れてしまった出来事は、危険で、異常で、異質で、命懸けで、血なまぐさく、そんな日常とはかけ離れたものでした。そんな世界にいきなり放り込まれたんです。そして、その出来事の発端となった事件で、俺は母を亡くしました……」

「……ッ!」

 驚きは声にもならずに、清楚は思わず息を飲んだ。

「母を亡くされ、自分と仲間は常に命の危険と隣り合わせ……そんな状況に置かれたとき、俺達が何を感じたか……わかりますか?」

 

――想像もつかない、というか想像することすら想像できない。清楚は素直に首を振る。

 

「恐怖とか……怒りとか……もちろんそういうものはありました。ですが、その中で俺たちは感じてたんですよ……高揚、喜びそして懐かしさ……そういったものを」

 清楚は黙って聞いている。

「あんな、異常な状況を前にして、ついに戻ってきた!まってました!あぁ、血が滾(たぎ)る!そんな使命感にも似た思いを俺達は感じていたんです……」

 

 そう言ったあと四四八は少し自嘲気味に笑い、先を続ける。

 

「まったく……訳がわかりませんよね。でもその思いはその出来事の決着をつけた今も能力(ユメ)と共に俺達の胸にあります。そしてその感情の答えを俺達は見つけ出せていません……見出す術がわからないというのもありますが、これの真相がわかったことで自らがどうにかなってしまうのではないかという気持ちもあります。だから少し前まではこの能力(ユメ)ごと見ないようにしてきたぐらいです。だから俺は……」

 

 そう言って清楚の方へ目を向けて、

「尊敬しているんですよ……葉桜先輩のことを……」

そう言った。

 

「え?どうして?」

 今の話の中に自分が関係する部分があったとは思えない、なので素直に疑問を口にした。

 

「葉桜先輩はその自身の中にある力と不安に一人向き合おうとしています、それはそう簡単に出来るものではない……と、思います。少なくても、俺は――俺達は一人じゃなかったからこそ向き合えました、一人だったら……どうなっていたか……」

「柊くん……」

 

「ですから、こうも思うんです。自らの心に偽りをつくらず、自らを知りわきまえようとする。それは『忠』であり、『智』です。それをしっかりと持っている葉桜先輩が自身のルーツなどに負けるはずがない……と」

「それって……あと、『仁』とか『義』とか『信』?」

「それに、『礼』、『孝』、『悌』――」

「仁義八行!八犬伝だね!」

「正解です」

「仁義八行 如是畜生発菩提心か……なんか柊くんにピッタリな感じがする、自分に厳しいところなんかが特に……」

「自分に厳しいのかどうかは、自分ではあまり分かりません……ですが、仁義八行を心に常に持ち生きていたいとは思っています……」

「強いなぁ、柊くんは……」

「俺は、葉桜先輩がとても強い……と思っています」

「そうかな……へへへ、ありがとう」

 

 そういうと、清楚はトンッ立ち上がりウーンと伸びをする。

 

「ありがとう柊くん、柊くんがそう言ってくれるなら、どうなるかわからないけど、私頑張ってみる!」

「頑張ってください、微力ながら応援させていただきます」

「ありがとう、柊くんが応援してくれれば百人力だね」

「俺の応援にそんな効果があるかわかりませんよ」

「あー、大人な対応だなぁ。女の子にそういうふうに言われたんなら素直に喜んだほうがいいよ」

「スミマセン、素なんですよ。晶達にもよく言われます、反応がつまらないって」

 

 それを聞くと清楚は眉をピクリと反応させる。

「へー……そうなんだ……よく言われるんだ……あの娘達に……ふーん」

 

 そう呟くと、清楚は少し考える素振りを見せて……

――よしっ!と小さく気合を入れる。

 

 そして、いきなり四四八の手を取るとグイッと引っ張って、そのままズンズンと歩いていく、

「ちょっ、ちょっ、なんですか、いきなり」

四四八が慌てて後を追う、手は繋がれたままだ。

「もうそろそろ、校門しまっちゃうから早く帰ろう!」

「いや、それはいいんですけど、手を……」

「ん?なにか問題でも?」

 ニッコリと笑った清楚の顔が、なんだか若干怒ったようにも見える。

「い、いえ、なんでもありません……」

 本能的に何か触れてはいけないものなのだろうと感じた四四八は言葉の後半部を飲み込んだ。

 

 四四八は清楚に手を引かれたままスイスイ号が置いてある駐輪場まで連れて行かれた、少ないがすれ違った生徒からは好奇の視線をもらってしまった。

 

 

―――――川神市某所 川神学園寮―――――

 

 

 スイスイ号のところで手は離されたが、そのまま二人は帰宅の路につき昨日と同じく九鬼のトンネル前で別れた。

 清楚は始終、照れているというか、怒っているというか、なんとも形容し難い様子だったが……まぁ、図書館で会った時のように落ち込んでいるわけじゃなさそうだったので良しとしよう。そういうふう思い、四四八は深く考えるのをやめた。

 

 昨日に引き続きそれなりに遅い時間になってしまった。

 連絡入れてあるが、もう仲間は食堂で食事をしているようだ。

 

「ただいま、悪かったな遅くなって」

 そう言いながら食堂に顔を出す。

 

「おう、お帰り四四八。今、用意するから着替えてきちゃいなよ」

「ああ、わかった、スマンな晶」

 今日は晶が食事当番だ、温かそうな天ぷら蕎麦が仲間達の前に置かれている。

 天ぷらはサツマイモ、椎茸、舞茸、それに人参のかき揚げと旬の野菜をたっぷりと使っている、蕎麦屋の娘の面目躍如といったところか。

 

「柊、あんた最近遅いじゃない。どうせ学園で変なことでもしてんでしょ、いやらしい!」

「鈴子……おめぇ、どうやったら柊が学校にのここってるってコトでそこまで発想が飛躍できるんだ……」

「はっ!だってそこにいる大杉だって、なんか最近学園の下級生に手してんじゃない、もう男なんてみんな獣よ!け・も・の!」

「へっへ~、ま、モテる男はつらいなぁ、なっ!四四八!」

「何故そこで、俺に声がかかる」

「え?だってお前、ここ昨日今日って清楚先輩と一緒に居るんだろ?」

 

――ピクッ!と女性陣の肩と耳が動く、

 

「いいよなぁ、清楚先輩。あんな人もう絶滅危惧種だぜ?ガラパゴス諸島のイグアナみたいに!!」

「お前、もうちょっとましな例えはできんのか」

 いろいろあるだろうに、トキとか……

「というか、なんで知ってんだ。お前ストーカーか?」

「ばっ!オレじゃねぇよ、ヨンパチだよ。アイツいつも放課後、目当ての女子を放課後見て回ってるから、そんとき昨日と今日と連続で清楚先輩が四四八といたって教えてくれたんだ」

「なんだそりゃ、くっだらねぇことしてんなぁ……」

 鳴滝がさもくだらんというふうに言う。

 

「まぁ、その辺はゆっくり聞くからさっさと着替えてきなよ、ゆーっくり聞くからさ……」

 晶が厨房から顔を出しながら四四八にいう、

「ほうほう、ほほへん、ふわひふひひはひほね(そうそう、そのへん、詳しく聞かないとね)」

口を天ぷらでいっぱいにした水希が頬をハムスターのように膨らましながら答える。

 二人とも調子はいつもと一緒だがなんというか目が違う、

花壇で清楚が最後に見せた視線と近い……様な気がする。

「世良……口の中身は飲みこんで話せ、はしたない」

 そういってとりあえず四四八は部屋に着替えに戻った。

 

 戻ってくると席に出来たてのそばが置いてあった。

 天ぷらは揚げたてを持ってくるつもりらしく晶はいまだ厨房に居る。

 

「ねぇねぇ、んでさ最終的にどういう事なの四四八くん」

 四四八がいただきます、と言って箸を持ったそばから歩美が聞いてくる。

「まぁ、あまり人に話すようなことじゃないから、お前達も一応ここだけの話にしておけよ。実は――」

 

 そう言って四四八は葉桜清楚の現状を仲間達に話した。

 

 

―――――

 

 

「なるほどねぇ、ま、そりゃ知りたくなるのが人情だわな」

 天ぷらを揚げている晶が厨房の方から声を出す。

「んで、ぶっちゃけた話どうなのよ、四四八は目星ついてんのか?」

 食べ終わり既にペットボトルのお茶でくつろいでいる栄光は言う。

「ああ、ザックリとは……な」

「え、ホントホント!聞かせて、聞かせて!!」

 こちらも食べ終わった歩美が身を乗り出して聞いてくる。

「駄目だ。プライベートなことだし、それに確かという確証もない。直江とも相談しなきゃならんしな」

「でも、やっぱりちょっと気になるよねぇ」

 そういう水希はまだ蕎麦を手繰っている、鳴滝にきいたら4杯目らしい……

「まぁ、外見から想像すると、文士の偉人って感じだけどね」

 鈴子はお茶を啜っている、こちらちゃんと急須から湯呑に注いだものの様だ。

「確かに、他の女どもとは毛色がちがうわな」

 鳴滝は外で買ってきた缶コーヒーを飲んでいる、無糖のブラックなのがなんとも鳴滝らしい。

 

「なによ、淳士あんたもああいうのが好みなわけ?ほんっと、男なんかみんな馬鹿よね!」

「あっ?勝手に決めてんじゃねぇよ、おめぇの方こそ何焦ってんだよ。空の急須なんか、何回動かしても茶なんて出ねぇぞ」

「ちょっ!ばっ!、馬鹿いってんじゃないわよ。これはあれよ……あれ……最後の一滴まで注がないともったいないじゃない!」

「あー、そうかよ」

 やれやれといった感じにに鳴滝がため息をつく。

「てゆーかさ、四四八的にはどうなんだよ!やっぱ一緒に居ると癒されたー、みたいになるわけ?」

「俺は知り合ってまだ2日だぞ?それに当面は葉桜先輩の悩みを解決するのが先決だ。さらに言うならこういうのは一方的な事じゃないからな、葉桜先輩にも選ぶ権利がある訳だし」

「でもでも、清楚先輩は、モモ先輩との一戦で四四八くんの事を意識しだしたって事は、四四八くんよりも意識してた期間は長いわけだし―、これはわからないよー」

 歩美がニシシといやらしい笑みを浮かべる。

「あん?なに歩美、応援しちゃうの?いいのかよお前――あでっ!」

 栄光の眉間に歩美のもっていたペットボトルの蓋が直撃した。

「栄光くーん、口は災いのもとっていう諺、覚えておいた方がいいよー」

 

「でさ、大杉くんの質問に戻る訳なんだけど。柊くん的には、清楚先輩はありなわけ?なしなわけ?」

 4杯目の蕎麦を汁まで飲み干してようやく満足したのか、水希が聞いてくる。

「それ、答えなきゃいけないのか?」

「いーじゃない、こういうの話題、学生の特権だと思うけどなー」

 水希の言葉に女性陣がウンウンとうなずく。

 

「まったく……」

 そう言って四四八は改めて考えてみる。

 容姿は……文句なく美人だろう、スタイルは……とてもいい、性格は……素晴らしい、頭も……とてもいい。

 つまり結論としては――

「あり……だろうな、普通に考えて」

 

「「「「 ふう~~~~~ん 」」」」

 女性陣4人が興味深そうに声を上げる。

 

「ま、その辺は四四八がきめることだけどなぁー。ほい、かき揚げお待ち」

 晶が厨房から出てきて、人参のかき揚げを四四八の蕎麦の上にのせる。人参のかき揚げにしては若干色が赤いようにも見える。

「ああ、ありがとう」

「今日の片付けは栄光だよな。あとよろしく、あたしは風呂入ってくるわー。四四八―、残さず食ってくれよー。愛情詰め込んであるからさ」

 そう悪戯っぽい笑いをしながら晶が食堂から出ていく。

「はー、眠い。私はそろそろ寝るわ」

「鈴子は相変わらず早いねー」

「ほんとほんと、あたしなんかこれからが本番なのにー」

「あんたはゲームしてないでさっさと寝なさいよ」

 晶の退出を皮きりに女性陣がゾロゾロと退席していく。

 

 四四八はそんな彼女たちに声をかけながら、揚げたてのかき揚げにかぶり付いた。

――すると

 口に広がったのは人参の甘み――ではなく、辛味……というかむしろ痛み……

「うっ!!――ゲッホ!!ゴッホ!!」

「おいおい、どうした柊」

「大丈夫か、ほれお茶」

 

 栄光から差し出されたお茶を礼も言わず受け取ると、一気に飲み干す。

 

「ハァハァ……いったいなんだってんだ……」

 かき揚げの断面を見るとそこには人参だけでなく唐辛子がたっぷりと練りこまれている。

「なんなんだ、晶の奴こんな子供じみた悪戯を……明日、一言言ってやらないと……」

 そんなことをブツブツと四四八がいっていると……

 

「なー、四四八、それはちょっとよしといた方がいいと思うぜー」

「ああ、俺もそう思うぜ柊、ここは甘んじて受けとけ」

「はぁ?鳴滝までどうした?」

 

「おい、大杉。さっきのお前のセリフじゃねえがモテる男はたしかに大変そうだな……」

「確かに……世の中、ほどほどが一番ってことだな」

「意味がわからんぞ、お前達まで……」

 

 釈然としない顔の四四八をなだめながら栄光と鳴滝は小さくため息をついた……

 

 

―――――川神市 九鬼本社ビル 浴場―――――

 

 

 清楚は少し熱めのお湯に身体を浸して今日の出来事を回想する。

 

 清楚は柊四四八の強さの根本を見たきがする。

 四四八の強さ、生き方は大多数の人間がまず目指そうとするものだ。

 だが、それを貫くことの難しさ、辛さ、厳しさを目の当たりにして大抵の人間はその生き方を諦めてしまう。

 だからこそ、大多数の人からはそんな生き方をしている柊四四八が眩しく映るのだろう。

 

 そんな四四八が自分のことを尊敬していると言ってくれた、強いと言ってくれた、

それだけのことで何とかなるのではないかと思っている自分がいる。

「不思議な人だなぁ……」

 四四八がそばにいると、どんな状況も何とかなってしまうような気がする。

 

 クローンであるため、父というものが自分にはいない。

 そして源氏の三人が年下ということもあり、兄というものもいない。

 九鬼の人々や従者部隊は自分にとても良くしてくれるが、やはりどこか公私がまざっている印象がある。

 そう考えると、四四八は清楚が初めて出会った『頼りになる男性』なのかもしれない。

 

 そして清楚は花壇を出るときの行動を思いだし、湯船で頭を抱える。

 

 自分は何故、最後あのような行動をとったのだろうか、

いまだに自分で自分が信じられない。

 千信館の女子生徒が四四八と一緒にいるということを考えたら、勝手に体が動いてしまった。

 

 四四八の大きくてゴツゴツした、如何にも男の人という手の感触がいまでも清楚の手に残っている。

 

 変な女だと思われてはいないだろうか――。

 はしたない女だと思われてはいないだろうか―。、

 そんなことを帰ってから今までそのような事を悶々と考えている。

 

「清楚先輩ー、はいってるー?」

 

 弁慶の声が聞こえる、考え事をしてたせいで随分と長湯をしてしまったかもしれない。

 

「あ、弁慶ちゃん。もうでるから大丈夫よ」

 そういって、湯船から上がる。

 身体が火照っているのは果たして湯船に浸かっていたからだけだろうか……

 

 そして清楚は気づく――

 朝、九鬼を出るときは押しつぶされそうなくらいだった不安や恐怖が、いまは心の片隅に置かれていることを、

原因は考えるまでもなく花壇で話したあの人だろう……

 

「やっぱり、不思議な人だなぁ……」

 

 清楚は浴場を出るとき、再びそう呟いた……

 

 




自分の中でラブコメがゲシュタルト崩壊おこしてます

九鬼のお風呂のシーンで
いや、九鬼もっと風呂いっぱいあんでしょってツッコミは無しの方向で……w

お付き合い頂きましてありがとうございます

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