少々短いですが第二章のプロローグだと思って頂ければと思います
第十七話 ~対面~
既に深夜と言ってもいい時間。
広大な九鬼の本社の一室。
一部の人間以外は知られていない部屋に従者部隊序列2位、星の図書館の異名を持つマープルは佇んでいた。
他に燕尾服姿の男が2人いる。
ヒューム・ヘルシングとクラウディオ・ネエロだ。
九鬼の従者部隊の0番、2番、3番が一堂に会す。
他の従者部隊の面々がみたら、何事かと目を見張るかもしれない。
「それで、どうするつもりだ?」
まず口を開いたのはヒューム、いつものように尊大な態度で問いかける。
「どうする?とは一体どういうことだい?」
その質問にマープルが答える。
「とぼけるな、武士道プランの事だ。源氏の連中は、まぁ、あのままでもいいだろうが――葉桜清楚が目覚め始めているぞ」
「このまま予定より早く目覚めてしまいますと、精神的にも戦闘力的にも十全とはいかぬ覚醒になってしまうやも……しれませんな」
ヒュームとクラウディオの言葉にわかっていると言わんばかりにマープルが答える。
「ふん、そんな事を言ってもあんな一戦を目の前でやられちゃあねぇ。あれで血が湧かなきゃそれはそれで中華の英傑の名折れだろうさ」
「……ふん」
「……確かに」
ヒュームもクラウディオも形は違えどマープルの言葉に同意の意を示す。
「そうだとしても、何の手だてもせずに放置しておくつもりか?まぁ、鉄心と同じく“教育”を柊四四八に任せてしまうというのも、俺個人的には面白いと思っているがな」
そういってヒュームがニヤリと笑う。
「まぁ、それも一つの手立てでしょう、義経様達もなかなかいい影響を受けている様ですので――与一様は……まぁ、あれは病気でございますから、治るまでゆっくり待つしかないと思われますが……」
それを聞いたマープルが面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「フンっ、ヒューム・ヘルシングやクラウディオ・ネエロ程の男達が随分な入れこみ用じゃないか、そこまでの物かい?柊四四八は……」
「そうは言いましても、柊様をはじめとした千信館の方々はあなたの求めている若者たちなんじゃありませんかな?マープル」
それを聞いたマープルはやれやれという様に首を振りながら答える。
「わかってない、わかってないねぇ。柊四四八をはじめとした千信館の面々が素晴らしいのはあたしも認めるよ?だがね、あの7人が眩しく光ってる現状こそが問題なんだよ」
「……ふん」
「……ふむ」
「千信館が眩しく見えるってことは、珍しいってことさ。珍しいってことは、まわりは全然あのレベルには達してないってことさ。つまり、あたしの憂慮はまるで解決しちゃいないんだよ」
「……」
「……」
沈黙があたりを支配する。
「……話がそれたね。葉桜清楚の事は正直様子見だね。無理矢理封印を強化して抑えようとしてもそれはそれでいい影響が出るとも思えないし。まったく武神だけならまだしも、あんなのが鎌倉に隠れてたとはね……」
「ふん、これだから世の中は面白い、長生きってのはするもんだな」
「同感ですな」
「まったく……いつからそんな好々爺になったんだい、鬼のヘルシングとミスターパーフェクトの名が泣くってもんじゃないか」
「異名など勝手に泣かせておけばいい、俺は物の価値がわからぬほどに年を喰ったつもりはないんでな」
「まぁまぁ、ヒュームもマープルも……もし、葉桜清楚が覚醒してしまったら私とヒュームで事にあたりましょう。そのあとは……まぁ、流れを見極めるしかありませんな」
「……ふんっ」
「……フンっ」
クラウディオのまとめで会合はお開きとなった。
ヒュームとクラウディオが去った後、マープルはひとり呟いた。
「あたしだって千信館の若者見たいなモンばかりなら武士道プランなんざ立ちあげちゃいないさ……」
そして、盟友である二人の男が推した人物を思い浮かべる。
「柊四四八に戦真館かい……まぁ、お手並み拝見といこうじゃないか……あたしに若者の可能性をみせておくれ……」
そう言ってマープルは一人瞑想に入る。
星の図書館はいったいどのような未来を見ているのであろうか……
―――――川神学園 食堂―――――
「いや……なんかウチの姉さんがスミマセン……」
「そんなに気にしないで、頼んだのはこっちなんだし」
「そうなんですけど……やっぱり身内のことですし、スミマセン……」
「フフフ、いい子だね、大和くんは」
大和は今、葉桜清楚と食堂にいる、
――事情聴取をするためだ。
川神百代と柊四四八の一戦以来自らの内から湧き上がる力と高ぶりに対する不安でいっぱいだった清楚はついに学園への依頼を決行した。
競り落としたのはキャップ――風間ファミリーだ。
そして依頼後初の事情聴取ということになったのだが……ここで問題が起きた。
百代がセクハラな質問ばかりしてまったくもって核心的な質問ができないのである。
学園長が同席してくれたおかげで、そのセクハラな質問に対する罰を百代はかされるわけなんだが、その度に話が止まってしまう。
これじゃあ先に進まないということで、キャップが役割分担を提案して、清楚から話を聞き出すのは大和、それ以外は今ある手がかりを精査するということになった。
「なんか照れますね、清楚先輩にそういうふうに言われると、まぁ、とにかくお話聞かせていただきますね」
「うん、よろしくお願いするね」
「まずは――」
そうやってしばらく大和と清楚が会話をしていると、
「あれ?直江じゃないか、珍しいなこんな時間に」
よく通る、誠実そうな声が大和に向けてかけられた――四四八だ。
「ん?あ、柊じゃん、そっちこそ珍しいんじゃない?こんな時間に食堂なんて」
「え?え?柊……くん?」
四四八の存在を認識して清楚はわかりやすいほどに狼狽えた。
「ああ、図書室にいてな、ちょっと喉が渇いたんで寄ってみた……って、スマン。連れがいたのか邪魔したな」
清楚の存在を確認して四四八が謝る。
「いや、気にしないで、ちょっと清楚先輩と話をね……って、あっ!柊!ちょっと待っててくんない?」
「ん?ああ、別に構わないが」
いきなり何かを思いつき大和は、携帯で誰かと話してる。
なんとなく手持ち無沙汰になり、大和の相手――清楚に目を向けると、相手もこちらを見ていたようでバッチリと目があう、
その瞬間慌てたように清楚は目をそらす。
その姿を見て、初対面の相手にこんなにも避けられるのかと、若干凹む四四八。
最近百代との一戦の影響か『怖い人』というイメージがついたようで学園内でなんとなく遠目で見られているような気がする、そんなこともあり、四四八は今、清楚のような態度に結構敏感だったりする。
実際のところは『怖い人』というより『凄い人』という認識の方が大きいのだが……其の辺は主観的評価と、客観的評価の違いといったところだろう。
そんな気まずいやりとりをやっていると、電話が終わったようで大和が帰ってきた。
「ああ、ゴメン、ちょっとキャップとか他のメンバーに相談してたんだ、柊入れていいかって」
「は?なんのことだ?」
「いや、今ウチのファミリーで依頼を受けててさ、んで依頼主がそこの葉桜清楚先輩。知ってるでしょ?」
「まぁ、名前くらいは……」
「んでさ、その依頼をちょっと手伝ってくれないかなぁってね。柊みたいな奴が一緒なら多分早めにカタがつくと思うんだよね、そういうコトでちょっとキャップ達と相談してたんだ」
「いや、まぁ、なにか手伝うって言うんならそれは構わないんだが……」
そういって四四八はさっきの清楚の態度を思い出して
「葉桜先輩が……良いというのでしたら……」
そう言って清楚の方を見ると……
「……柊くんさえよければ、私は是非お願いしたい……な」
そう四四八とは目を合わさずに答えた。
「よし、んじゃ詳細から説明するな」
そういって、大和が経緯を話し始めた。
――――――
「なるほど、ご自分のルーツを知りたいと……」
「うん、でね、ちょっとだけ補足させてもらっていい?」
そう言って清楚は自分が自身が何のクローンなのか気になり始めたきっかけが百代と四四八の一戦であること、
それを思い出すたびに力が湧き上がってくること、
そして偶然ではあるがその当事者である四四八と知り合えたことで四四八と話してなにかわかるんじゃないかと思っていること。
そういうことを説明した。
「だから、さっきはゴメンなさい……失礼な態度とっちゃって」
「気にしないでください、そういうことなら仕方ありませんし。それにそういう理由なら俺にも原因があるのでしょう。ご協力させていただきますよ、葉桜先輩」
「ありがとう、柊くん」
「よし!んじゃ、早速続きと行きますか」
こうして事情聴取は再開された、
時折雑談も交えながら、手がかりとなるようなトピックスは四四八がメモをとっていく。
雑談に関しては3人とも本好きということで、必然的に本の話題が多くなる。
「柊は文学本とか以外だとなんのジャンルを読む?」
「そうだな……歴史モノあと、推理小説なんかもよく読むな」
「わぁ、推理小説とかなんか柊くんっぽい!」
「確かになー、やっぱ本格派のアガサとかクイーンとか?」
「そうだな、あと日本だと『館シリーズ』とかかな」
「あはっ、なんかイメージどおり。推理小説って結構個性出るのよね、大和くんは?」
「俺は……そうですね、乱歩とか横溝とかその辺りが好きですね」
「これまた王道といえば王道だな、ただ、このへんは結構偏執的な話も入ってるからな。そう言う意味じゃ直江、お前Sなんじゃないか?」
「それ、柊にだけは言われなくないんだけど」
「ふふふ、そうかもね、モモちゃんによれば柊くんスパルタみたいだし」
「まぁ、否定はしませんよ、殴られて喜ぶ趣味はありませんし。それよりも推理モノなら葉桜先輩は何が好きなんですか?」
「そうね……やっぱりコナン・ドイルかしら!」
「おっと、これまたど真ん中ですね。最近だと王道過ぎてなんか敬遠されてる感じもありますけど……」
「くだらん、王道は面白いからこそ王道なんだ。最終的に歴史に残るのはすべからく王道だ」
「ふふふ、そうかもね」
そういった感じで会話は食堂が閉まる時間まで続いた。
―――――川神市 帰宅路―――――
「ふふふ、怒られちゃったね」
言葉の内容とは裏腹に嬉しそうに清楚が言う。
「だいぶ長居しましたからね」
「気がついたら周りが暗くてビックリした」
歩きながら会話はまだ続いている。
「久しぶりに本の話したから、なんか読みたくなったな。図書室行ってみようかな。最近行ってないし」
「川神学園の図書室は蔵書量相当なもんだな、千信館もかなりあったが川神学園は規模が違う、行かないのはもったいないぞ」
「そういえば、柊くんのこと図書室でよくみるかも」
「今度からは声をかけてください、俺もそうします」
「うん、そうするね」
未だ止まない会話を続けていると、分かれ道のところに出る。
「今日はここまでだね、ホント二人とも楽しかった、ありがとう」
「いえ、こちらこそ楽しかったです、葉桜先輩」
「そうそう、あ、清楚先輩もしよければ緊急用に番号教えてくれませんか?」
「うん、いいよ。スイスイ号お願い」
「了解しました、清楚。赤外線を半径2mに発信」
「柊もだしなよ」
「ん?あ、俺もか?」
「柊くん、いらない?」
若干残念そうな顔で、清楚が呟く、
「清楚を悲しませるとはふてぇ野郎だ!」
スイスイ号にも凄まれる。
「ああ、いや、そんなつもりじゃ、いただきます」
そう言って慌てて携帯を出す。
「うふふ、よかった」
「じゃあ、何かわかったらお知らせします」
「直江、メモはあとでメールする」
「OK頼んだ。じゃあ清楚先輩おやすみなさい」
「葉桜先輩、おやすみなさい」
「うん、柊くんも大和くんも、ありがとう。おやすみなさい」
これが、柊四四八と葉桜清楚の初邂逅、
葉桜清楚は自らのルーツをまだ知らない……
ということで
マジコイ側のヒロインは一粒で二度お美味しい(?)葉桜先輩です
個人的にですがマジコイのキャラで四四八のとなりに並んで
一番しっくりきたのが葉桜先輩でした
これからはvs覇王にむけて話を作っていこうと思います
お付き合い頂きましてありがとうございます