戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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メインの話を考えついたのですが
ずっと四四八が出ずっぱりってのもなんなんで
今回は他のキャラにスポットを当ててみました

てか、展開がいい加減ワンパターンだなとか思い凹んでる今日この頃
俺の中のチャラ男の引き出しがもう空っぽです……


第十六話 ~友誼~

――おーし、次いくぞ!

カキーン

――バスッ!

 

 グローブとバットそして白球の音が七浜スタジアムに響わたる。

 現在は秋季キャンプ中の七浜ベイスターズ。

 今年はなんと万年最下位の座から脱出し――それでも5位なのだが――選手たちの顔にも例年以上にやる気が感じられる。

 とは言ってもこれはあくまで秋季キャンプ、主力の選手は休養中でグラウンドにいるのは若手と二軍上がりの選手。したがって観客はまばらだ。しかも現在は、平日の夕方近く、そろそろ練習も終わりという頃なのでそのまばらな観客も半分以上は帰る準備をしている。

 

 そんなほとんど人のいないスタジアムの席に大和田伊予は座っていた。

 

 秋季キャンプ中のスタジアムという所は、年頃の女子学生が平日の放課後訪れる場所としては、些か以上に珍しいところだが、

自他共に認める熱狂的なベイスターズファンである伊予としてはそれほど珍しいことでもない。川神から七浜まではそれほど離れていないため、学園を出て30分もあれば到着するので、この時期は若手のチェックも兼ねてそこそこ以上に足を運んでいる。

 

 因みに、千信館のある鎌倉まではそこから更に30分弱といったところだ。

 

 しかし、今日の伊予はいつもとだいぶ様子が違う。

 

 いつもなら知り合いのベイファンの人達と、今見ている若手の品評に今シーズンの愚痴、ストーブリーグの近況、来シーズンの期待などに花を咲かせることが多いのだが、今日は誰とも喋ってない。

さらに言うなら、あまり練習も見てないように見える。

 グラウンドに目を向けてはいたが、心ここにあらずといった具合で、グラウンドの中の練習は頭に入っていないようだ。

 

 今、伊予の心の大半を占めているのは、

愛する七浜ベイの黄金時代を築いた正捕手が宿敵名古屋の選手兼監督に就任したこと――ではない。

 友人である黛由紀江のことだ――

 

 先だっての川神百代と柊四四八の一戦は当然だが生徒の話題の的だ。

 そして、その中で割って入った由紀江に対して賛否が渦巻いているのだ。

 

 真剣勝負の中に割って入るなど常識はずれにも程がある――。

 嫌々、彼女は仲間の百代を助けようとしただけだ彼女の正義感こそ褒めるべき――。

 待て待て、それとこれとは話が別だそれを認めちゃ勝負自体が成り立たない――。

――etcetc、

 

 そんな勝手な外野の賛否の中、由紀江は由紀江で何か思うところがあるらしく、一人沈黙を守っている。それがまたいろんな噂や憶測などが飛び交う原因にもなっているようだ。

 

「はぁー……どうしてあげればいいのかなぁ……」

 伊予は今日何回目かの溜息をつく。

 

 一年では唯一の友人――由紀江はそろそろ冬休みが近くなる頃だというのに同学年で伊予以外の明確な友人がいない――として、何かしてあげたいと思っているのだけれど、どうしていいのか皆目見当がつかない。

 

 川神学園は確かに多くの超人的な人物が跋扈する特殊な学園だ。

 しかし、特殊な人間ばかりではない、一般の生徒も多くいる……むしろ一般の生徒の方が圧倒的に多い、伊予はその一般の生徒の中にいるのだ。

 だから、由紀江が何に悩んでいるかがわからないし、それ以前に今渦巻いている賛否がどういうものだが正確に理解していない。

 

 だから、相談にのろうにもなんといって声をかけていいのかがわからないのだ。

 

 そんな思案に暮れていると……

 

「あのー、スミマセン、そろそろ……」

「へ?ふえ?」

 係員らしき人に声をかけられた。

 その声に我に返ると、もう自分以外の観客の姿はいなく、グラウンドにも選手の影はなくなっていた。グラウンドの整備が始まっている。

 

「あ、あ、あの、スミマセンでした!」

 伊予は慌ててお辞儀をすると鞄を持って一目散に出口に向かって駆け出していった。

 

 そんな纏まらない思考で、さらに慌てて出口に向かっていったため出口付近にいた同世代らしき男子にぶつかってしまう。

 

「きゃっ!」

「おわっ!」

 

 お互い倒れはしないがよろけた感じになりながら向き合う。

 

「す、すみませんでした!ちょっと考え事してたもので」

「あぁ、オレの方もあんま周り見てなかったからきにすんなって」

 そう言ってお互いが顔を合わせると……

 

「あれ?……大杉……先輩?」

「へ?なんでオレのこと知ってんの?」

 ぶつかった相手は、今話題の柊四四八と同じ鎌倉からきている大杉栄光だった。

 

 

―――――七浜スタジアム 周辺公園―――――

 

 

「へぇ、大杉先輩ってインライスケートの大会に登録するために来てたんですか」

「そそ、七浜ってそういうののメッカでさ、七浜スタジアムも野球やってないときなんかはそう言う大会結構やってんだぜ?」

 

 七浜はそのロケーションも相まってインラインスケートやスケートボード、BMXといったストリート系のニュースポーツのメッカである。その中でもレンガ倉庫や七浜スタジアムで開催される大会は規模もそうだが、七浜の大会というステータス的部分もありかなりレベルの高いものになっている。

 

「そうなんですか……私、野球一本なんで全然知りませんでした」

「野球一本って言ってっけど、学校帰りに秋季キャンプ見学とかする相当だよな」

「えへへ……よくいわれます」

 

 二人は七浜スタジアムの公園で話している。

 寄りかかっている柵の後ろは運河になっていてためか潮の香りが強い。

 

 伊予が栄光の名前を口にしてしまった手前、あのまま別れるのもなんとなくタイミングが悪くこうして世間話をしている。

 手には二人共ペットボトルを持っている。

 

「それにしても、この前モモ先輩と派手にやらかした四四八とかならともかく、オレのことなんてよく覚えてるよな。あ、もしかしてオレのことタイプだったり!……とか?」

「ち、違いますよ!というか、千信館の人たちは皆さん有名ですから、川神学園の生徒ならだいたい知ってると思いますよ」

「あ……そう……でも、そんなに力いっぱい否定しなくても良くない?」

「あ、あ、ごめんさい!私そういうのあんまり慣れてなくて……」

「ああ、嘘、嘘。気にすんなって、冗談だからさ、冗談」

「は、はぁ……」

 

 そんな世間話をしている最中だが、伊予は別のことを考えていた。

 あの噂の柊四四八の友人なら、今の由紀江の状況についてもなにかわかるかもしれない。

 少なくても今悶々と一人で悩んでいるよりマシだろう。

 栄光が思ったよりも話しやすいことも起因して、伊予は思い切って聞いてみることにした。

 

「あ、あの!大杉先輩」

「――あん?」

「実は……」

 

 

―――――

 

 

「なるほどねぇ、あの最後に四四八に斬りかかっていった……由紀江ちゃんだっけ?が悩んでると……んでもってこれまた同時に周囲からイロイロ言われてる……と」

「そうなんです、まゆっち――黛由紀江の事ですけど、の相談にのってあげたいんですけど、私、武道とか全然わからないし、まゆっちが最後柊先輩と戦ってたのもいいのか悪いのか全然分からいからどうしたらいいか……」

「ふーむ……」

「ごめんなさい……なんかいきなりこんな相談してしちゃって……」

 そう言いながら伊予は手に持ったジュースに視線を向ける。

 もうとっくに空っぽだ。

 

「ああ、イイって、イイって。てかさ、オレその由紀江ちゃんの気持ち、ちょっとわかっちゃうんだよね……たぶんだけど」

「え!ホントですか!!」

 栄光の言葉に伊予がバッと顔を上げる。

 

 栄光は伊予を見ないで話し始める、視線は若干下を向いているようだ。

「多分さ、由紀江ちゃん。悔しいんだと思うぜ」

「悔しい……ですか?柊先輩に負けた……から?」

「うーん、たぶん違うな。由紀江ちゃんはさ、何もできなかった自分が悔しいんだと思う」

「なにもできなかった?」

「そっ、仲間のピンチに颯爽と駆けつけたのに、その相手には全然かなわなくて……逆にその仲間に助けられちゃって。情けなくて、ショボくて、悔しくて。んでもって、そんな自分が許せなくて……」

「……」

「たぶん、そういう事なんじゃないかなぁ。だから、周りの事とか多分……というか、きっと気にしてないぜ、ああいう時はもうホント、自分のことしか分かんなくなっちまうからさ……」

「大杉先輩……」

 

――大杉先輩もそうだったんですか?

 伊予は出てきそうになる言葉をグッと飲み込んだ。

 こういった会話はあまり慣れていないが、今思ったことがきいてはいけないことだという位は自分でもわかった。

 だから伊予は、次の栄光の言葉に驚いた。

 

「オレも、そうだったからさ――」

「――え?」

 

「オレも、結構イロイロあってさ。最初っからわかっちゃあいたんだけど、それでも自分が如何にビビりで、雑魚いか、改めて突きつけられた時にゃあ流石に堪えたわ……ショボくて、情けなくて、歯痒くて、苦しくて、悔しくて……もうとにかく自分が許せなくってさ、ありゃ、シンドイかったわ……」

 

「……」

 伊予が黙って聞いていると、栄光が顔を上げて言う。

 

「でもさ、そんなシンドイ時、あいつら――四四八達がいてくれたからさ、四四八達がこんなビビリな俺を信じて待っててくれたから。だったらやるしかねぇじゃん。俺はビビリで雑魚かったけど、卑怯モンには絶対なりたくなかった。四四八達が自慢してくれるようなヤツになりたくて歯食いしばって頑張った。だから、四四八が大一番で俺に言ってくれたコト、すっげぇ嬉しかった――栄光(エイコー)なんだろ、見せてみろってな――ああ、やっぱりなんも言わなくても、あいつら俺のこと本当に信じてくれてんだ……ってさ」

「大杉先輩……」

「だからさ、伊予ちゃんも――」

 

 栄光が改めて伊予の方を向いて話そうとしたとき……

 

「あっれぇー、大杉じゃーん」

 如何にもストリートという感じの男たち数人が声をかけてきた、栄光と顔見知りらしいがあまり友好的とは言えない雰囲気だ。

 見た感じガラはあまりよくない……

 

「なになに、今日ここにいるってことはあれ?スラロームの登録?」

「マジかよ、彼女連れで激アツじゃん」

「てか、マジカノ?結構カワイくね?」

 そう言いながらジリジリと栄光と伊予を囲むように近づいてくる。

 

「ちげーよ、ただの後輩」

 栄光はそういいながらそっと伊予を庇うように前に出る。

 

「てかさー、大杉、大会でんならこの前みたいなちょこちょこしたトリックやめてくんない?」

「そーそー、お前が目の前で刻むから調子狂うんだよねー」

「今回、全国の予選も兼ねてんだから、オメーみてーに遊び半分のやつとか邪魔なんだけど」

「もういっそ、ここででれなくしちゃうとか、どーよ」

「なにそれ、ひどくね?別にいいけど」

 

 男たちが勝手なことを喋る。

 伊予はあまりの展開にカバンを抱えて震えている。

 後ろは柵で、その後ろは運河だ逃げ場はない、

 栄光だけでこんな大勢のガラの悪い男たち、相手に出来るかわからない。

 

 そんな時、栄光が伊予にだけ聞こえる声で囁いてきた。

「……伊予ちゃん、カバンしっかりもってな」

 

「おい!大杉!きいてんのかよ!!!」

 そう言って一人の男が掴みかかろうとしたとき――

 

「ヒャッ!」

 栄光は腰をかがめると、伊予をお姫様抱っこの要領で抱え、トンッと柵の上に乗った。

 

 そして――

「てめぇ等みたいなノロマに捕まるかよバーーーカ、あばよォッ!!!」

そう言って伊予を抱えたまま運河に向かって身を投げた。

 

「え!え!きゃあーーーーーーーーーーーーー!!」

 先ほどよりも更に衝撃的な展開に伊予は栄光の腕の中で叫び、ギュッと目をつぶる!

 

 落ちる!!

 と思った瞬間、衝撃や水の冷たさはなかなかやってこない、

おそるおそる目を開けると……自分は運河の上を飛んでいた。

 

 そう栄光は――空中を疾ってた。

 

「え?え?え?えええええええ!!」

 あまりに衝撃的な展開の連続に目を白黒させている伊予に栄光が話しかける。

 

「さっきの話の続きだけどさ、やっぱ伊予ちゃん、その由紀江ちゃんと話したほうがいいよ」

「へ?ふぇ?」

 この展開で普通に話しかけられて、伊予は最初、栄光が何の事を言っているのかわからなかった。

 

「もしかしたらさ、伊予ちゃんは由紀江ちゃんの悩みを解決はしてあげられないかもしんない。でもさ別にそれだけが友達の出来る事じゃないと思うんだ」

 まっすぐ前を見ながら、栄光は続ける。

「話を聞いて、一緒にメシ食って、一緒に遊んで、全部出来ない時は一緒にいるだけでもありがたいもんなんだぜ……」

 

 そのあと少し間を空けて伊予の方を見ると最後に、

「なんせ、経験者は語る――だからな!」

と言って、ニカッと笑った。

 

「大杉先輩……」

 伊予はその言葉を聞いて、決意する。

 よし!今日帰ったらまゆっちに電話だ。多分長電話になるからジュースとあと、お菓子を買って帰ろう。

 週の初めから長電話というのはあまりよくないが、まぁ、今日だけは勘弁してもらおう

そう、心に決めると栄光に向かって笑顔で礼を言う。

 

「ありがとうございます!帰ったら、まゆっちに電話してみようかと思います」

「おー、してみろしてみろ。意外と待ってたりするんだぜ、なんせ――」

「経験者は語る――ですか?」

「そうそう!」

 そう言って、二人で声を上げて笑う。

 

Prrrrrrr,Prrrrrr

 

 そんな時携帯の音が鳴る。

 カバンの中からではないから栄光のだろう。

 栄光は伊予を抱えたまま器用に首からかけた携帯を肩と耳に挟む、

すると――

 

『栄光!貴様どこほっつき歩いてるんだ!!』

 抱えている伊予に聞こえるくらいの怒号が携帯から放たれる。

『栄光……お前が七浜に行く用事のついでに中華街で晩飯を買ってくるといったのだぞ、よもや忘れてなどいないだろうな……』

「え、や、わ、忘れてねぇよ?」

『……波の音?お前まさか、まだ七浜にいるとかいわないよな……』

「え、や、ちょっ、これにはイロイロわけが……」

『そうか……もういいわかった。食事はこちらで用意する……もちろんお前の分はない。七浜で中華まんでも喰らってろ!馬鹿者め!!』

「ちょ!!四四八まってくれ、俺この前、晶たちに取られて財布空っぽなn……」

ツーツーツー

 無慈悲な機械音が携帯の奥から流れている。

 

 魍魎の宴の騒動のあと、千信館の女性陣に締め上げられ童帝から受け取った売上をまるまる接収された栄光は現在ほぼ無一文、帰りの電車賃くらいはなんとかなるがそれ以上は難しい……

 もちろん皆から集めた晩飯代はもってるが、これに手をつけるなんて恐ろしくて出来ようはずがない。

 

「あーーー、マジか……」

「……プッ、フフフ」

 ガックリと肩を落とす栄光を見て伊予が耐え切れず笑い出す。

 そんな伊予をみて、栄光も諦めたように笑う。

 

「フフフ……」

「へへへ……」

 

 飛んでいる二つの影を出たばかりの月が見守っていた……

 

 




如何でしたでしょうか
戦真館でもおそらくトップクラスの人気があるであろう栄光
そんな栄光っぽさをだせてたらいいなぁ

読んだあと
「栄光爆発しろ」
って思ってくれたら幸いです

お付き合い頂きましてありがとうございます

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