分割しても良かったかなぁ
あと、前話に追記をしました
まだ見てなくて、ご興味のある方はあわせてご覧ください
「おーい、四四八、大丈夫かぁ」
もう何度目かになる仲間からの声に四四八は弱々しく答える。
「……大丈夫だ」
しかし、そういう四四八の身体はフラフラして今にも倒れそうだ。
四四八は百代との一戦を終え、寮へと帰る途中だ。珍しく千信館の仲間全員と一緒に帰っている。もちろん彼らは四四八を心配してついているのだ。
最後の百代の勝負の申し出を受けて、制限時間いっぱいで引き分けになるまで戦ったあとは二人共精も根も尽き果ててグラウンドに倒れ込んでしまった。
そして、保健室に運ばれた二人を待っていたのは鬼のような形相で涙を貯めているというとても器用な芸当をしている晶だった。
そして晶の能力(ユメ)による治癒をうけ(もちろん百代は驚いていたが)、帰宅の路についているというわけだ。
ただ、晶の治癒で怪我などは治っているが、気力や体力といったところまでは流石の晶でも戻せない、必然、現在の四四八は歩く……というか、立っているのが精一杯という感じになっている。
クラウディオから送迎の申し出をされてはいたが丁重に断った、百代が歩いて――というかほとんど大和に引きずられてだが――帰っているのを見て、自分が送ってもらうわけには行かなかった。意地……というか、もはや痩せ我慢の境地だが、その辺が四四八の四四八たる所以であろう。
そんなわけで、当然歩みは遅くなる。
仲間たちは四四八の歩みに合わせてくれている。
そのことについて、仲間たちに謝るのは失礼だろう。だから、四四八は傍にいてくれる千信館の仲間に素直に甘えることにしている。
「それにしてもホントにフラフラよ、だらしないわねぇ。いっそ淳士におぶってもらったら?」
「はぁ? なんで俺が野郎なんておぶわなきゃいけねぇんだよ」
「あら? なに淳士、女の子ならいいって言うの?スケベ!あんた意外とムッツリなのよね」
「あぁ?! 治療中の柊の上半身ガン見だった奴がよく言うぜ」
「あばばばばばばばば、ばっかじゃないの! デ、デタラメ言わないでよ。わ、私はそんな柊のゴツゴツした身体なんか……そんな、興味ない……し」
そんなことを言いながら、顔を真っ赤にして四四八の方をチラッチラッとみている鈴子を鳴滝は呆れたように見て、嘆息する。
「でもモモ先輩、凄かったなぁ。まさか、四四八がここまでボロボロになるとわねぇ」
「そうね、晶なんか途中で泣いてたし」
「泣いてねーーよ!」
「いやー、流石あっちゃん。こういう時のヒロイン力は高いよね。泣いてたし」
「だから、泣いてねーーーし!!」
「だって晶。勝負終わったらスゲーダッシュで保健室いってたじゃん。泣いてたし」
「テメェ、栄光。村雨丸で頭カチ割んぞ!」
「ちょ、なんでオレだけ!!」
そんな仲間の会話にツッコミを入れる気力もないが、それでも少しづつ歩を進めようやく寮までたどり着いた。
「ふう……おまえら、ありがとうな」
そう礼を言って、部屋に戻ろうとする――と、寮にたどり着いた事で気が抜けたのか、四四八は足をもつれさせてしまった。
「うおっ!」
「キャッ!」
前にいた水希を巻き込むようにして倒れこむ。
「お、おい四四八、水希。大丈夫か?」
「ったく、だから無理すんなって言ったろ」
「鳴滝くん、お姫様抱っこで運んであげちゃいなよ」
「あ?だから、しねぇって」
「もう、水希大丈夫?――って柊!!」
鈴子が声を上げる。
「いてて……柊くん大丈夫? って――ッ!!!!!!」
水希が息を呑む。
「……っつう」
四四八が目を開いたときそこには見慣れないものがあった、周りも薄暗い、
――なんだこれは?
脚というか太ももと、下着――パンツが見える。色は白く花が腰のあたりに散りばめてあり随分と可愛らしいデザイのモノだ、水希らしいといえば水希らしいチョイスかもしれない。
現状を鑑みて、水希を巻き込んで倒れたときスカートに顔を突っ込んだというところか――全く器用な倒れ方をしたもんだ、そう思いながら……
「ああ……悪かったな世良」
そう詫びを入れながら立ち上がり、部屋に戻ろうとする――と、
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとぉ!! 乙女のスカートに顔突っ込んどいてそれだけ?もっと他にないの!」
我に返った水希が顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
そんな声に首だけ振り返り、見下したような目で四四八は言う。
「いいか、世良。俺はいま非常に疲れてるんだ……だから、お前のパンツなんて心っ底どうでもいいんだよ――」
「なっ、なっ、なっ……ッ!」
「ああ、それと、食事は冷蔵庫にでも入れててくれ。起きたとき食べれそうなら食べる、じゃあな、おやすみ」
そう言い放つと、そのまま部屋に入りドアを閉める。
四四八のあまりの言い草に口をパクパクさせていた水希が我に返り、
「乙女のパンツなんだと思ってるのよーーー! 今日私が食事当番なの忘れてるでしょ! 柊くんのご飯なんかぜーーーーーーったい作ってやんないんだから、ばかーーーーーーーッ!!!!」
水希の声が寮内に響き渡る。
「すげぇな、柊……。あの所業であの態度かよ」
「ある意味、男らしいっちゃあ男らしいけどなー」
「何言ってんの! 不潔よ! 不潔!!」
「まぁ、なんつうか、水希が可愛そうだわなー」
「みっちゃん、大丈夫。みっちゃんのパンツに価値を見出しくれる人もきっといるはずだよ」
歩美の慰めにもなってない慰めを聞きながら水希は四四八の部屋を涙目で睨んでいる。
柊四四八の激闘の一日はこうして幕を閉じた……
―――――川神市某所 風間ファミリー秘密基地―――――
「大和ぉー、お姉ちゃんは疲れた。ジュースを取ってくれー」
基地内のソファーにだらしなく寝そべってる百代が大和に声をかける。
「姉さん、こぼすから飲む時はちゃんと起きて飲みなよ」
そういって大和がペットボトルを手渡す。
「大和が口移しで飲ませてくれたらこぼさないんだけどなぁ」
ペットボトルを受け取った百代がニヤリと笑いながら言う。
「はいはい、わかったわかった。わかったからちゃんと起きて――」
と、そんな百代の軽口をスルーしようとした時――
「その案のったーーーーーー! 大和……私にもそれ……してッ」
京がズズズっと詰め寄ってくる。
「いや、だから、俺スルーしようとしてたじゃん……」
風間ファミリーの秘密基地。現在ファミリー全員が揃っている。
あの激闘のあと、覆いかぶさるように大和にしなだれかかる百代をなかば引きずる様にして帰ってきた。本当は川神院に連れて変えろうと思っていたのだが、百代が基地に行きたいとダダをこねたので基地まで連れてきた。
一子が鉄心に連絡を入れたところ、遅くなってもいいから二人で帰って来いという答えが返ってきた。今日の一戦に対する鉄心なりの配慮なのかもしれない。
「それにしても、とにかくスゲー戦いだったな」
「もうなんか、神座万象シリーズとかに片足突っ込んでるよね……」
「柊のやつ、あんなに目立ちやがって……勉強もできてあんなに強いとか反則だろう!」
「……しかもイケメン」
「だーーーー、やり直しを要求する!!」
「誰にやり直しを要求するのだ? ガクト」
「聞いてるか神様! あんたは不公平だぞおおおおお!!!!」
そんなファミリーの会話の中に入らず一人うつむいている一子に気づき大和が声をかける。
「どうした、ワン子。元気ないじゃないか」
「あ……うん、ちょっと……」
「らしくねぇぞ、何かあるなら話してみろ」
「……いや、柊くんがあんなに強いってことは。鈴子ももっと強かったのかなぁ……って。アタシが弱かったから手抜かれちゃってたのかなぁ……て」
「……ワン子」
そんな一子の頭に手がポンと置かれ優しく頭を撫でる、寝そべったままの百代が一子の頭を撫でている。
「まぁ、向こうにも向こうの事情があるんだろう、しょうがないさ。だがな、ワン子。悔しいのなら精進しよう、私も敗けて心底悔しい……だから一緒に強くなろう……な」
「お姉さま……うん!そうね、そうよね!落ち込んでなんかいられないわよね!! 勇往邁進!! 頑張るわよ!!」
「そうだ、その意気だ。ワン子は強いな……」
「えへへ……」
百代の言葉に一子は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑う。
「まゆまゆも大丈夫か?」
もう一人会話に加わらず疲れた感じにソファーに座っている由紀江に百代が声をかける。
「え! いえ!! 大丈夫です、大丈夫です!」
そんな声にビックリしたように声を上げる。
「……でも、まゆっち顔色悪いよ? 疲れてない」
「おー、そう言われればそうだなぁ、ホント大丈夫か?」
京とキャップが由紀江の顔を覗き込むようにして言う。
「え……いや、いや……ホントに大丈夫です!」
顔を近づけられて慌てたように由紀江がパタパタと手を振った。
「まぁ、あの柊と打ち合ったんだ、しょうがないさ。私なんかまだ一人で歩いて家まで戻れる気がしない」
「そ、それはモモ先輩はあんに長時間戦っていたのですから、私なんかほんの少しです、ほんの少ししか戦ってないのに……」
「今の自分では、柊四四八に届かないと解ってしまった……か」
「……はい」
「まぁ、それは私もだ。私も柊四四八には届かなかった、届かなかったばかりか完膚無きまでに叩き潰された。お互い修行が足りないな、まゆまゆ」
「そう……ですね……精進しなければ」
「ああ……そうだな」
そんな話をしていると、寝そべっていた百代がすっと上半身を持ち上げた。
「外の空気を吸いたくなった、大和、屋上まで連れてってくれ」
「屋上くらいひとりで行けるだろう?」
「やだ、いけない、あー、こんな甲斐性のない弟を持ってお姉ちゃんは不幸だなぁ」
「わかった、わかったから、ったくしょうがないなぁ――ってちょ――」
そうやって立ち上がった大和に再び覆いかぶさるようにしなだれかかる百代。
「さぁ、連れて行ってくれー」
「わっかったよー、てか、さっきも思ったんだけど姉さんちょっと重くなったんじゃない?」
「……大和ぉぉ、お前は女性に言っていいことと悪いことの区別もつかない馬鹿者だったかぁ……」
「いや、この体勢で首絞めるのは、マズ、マズい!」
そんなことを言いながら大和は百代を屋上へと連れて行く。
日はとっくに沈み、空には星が輝いている。
秋ということもありそれなりに肌寒いが、この一日であった様々なことで興奮した頭には丁度いい涼しさかもしれない。
屋上についた百代は壁に手を付き、多少よろけるようにして壁を背にして座る。
「本当に一人じゃ歩けないのね」
「まぁな、文字通り精根尽きはてたって感じだ。空っぽだ、私の中にある川神百代というものを根こそぎ使って戦ったからな」
沈黙が降りる、ただ、苦しい沈黙じゃない――二人共空を見上げている。
「……なあ、大和。ありがとうな」
「なにがさ――」
「私は大和のおかげで立つことができた、大和がいなかったら今こうしていない。多分、抜け殻になってしまっていたよ」
「それ、さっきも聞いたよ」
「それでもさ、改めて礼を言いたくてな」
「じゃあ、どういたしまして。まぁ、姉の面倒を見るのは弟だって古今東西決まってるからね」
そう軽口を叩いたあと、再び大和が口を開く。
「実を言うとさ、柊から電話があったんだ」
「え?」
「昨日の夜、明日姉さんと戦うって。それで、もしもの時は姉さんの事は俺がちゃんと見てろって念を押された」
「そう、だったのか……」
「正直、あのときは何言われてるかわからなかったし、今も自分がしたことがよかったのか全然わからないけど、姉さんがそう言ってくれるってことは、少しは姉さんの役に立った……かな?」
「ああ、大和がいてくれて、良かった……本当に」
再び会話が途切れそうになったとき、大和が気になっていたことを告げる。
「ねぇ、姉さんは柊のことどう思ってるの?」
「は? どういうことだ?」
「いや、だって最後の勝負の申込み方、あれ聞き方によっちゃ愛の告白みたいだったよ」
「ん? そうなのか……そういうつもりはなかったんだが……はぁん、さては大和お前妬いてるなぁ。ふふ~ん、可愛い奴だなあ」
そういって大和の頭を近くに寄せると抱きかかえグリグリと頭を撫でる
「ちょっと、ちょっと!髪がグシャグシャになる」
「だったら正直にいえ~、妬いてるのかぁ」
「妬いてるよ、妬いてる。そりゃ、妬かないわけ無いでしょ」
「え? 本当に?」
大和の言葉にびっくりして思わず声を上げる。
大和はその隙に百代の束縛を振りほどくと立ち上がると手櫛で髪を直す。
「そりゃ、大好きなお姉ちゃんが他の男を目で追ってればヤキモチの一つも焼きたくなるでしょう」
「あ……あぁ……」
予想外の対応に百代が動揺を示すが大和はなんでもないかのように先を続ける。
「でもさ……気持ちわからなくもないんだよね、俺も柊四四八って男に憧れちゃったからさ」
「……大和」
「俺、いつか柊みたいな男になりたい。無理かもしれないし、無茶かもしれないし、出来ないかもしれない。でもさアイツみてなにか感じなきゃ、男じゃないでしょ。だからさ、頑張ってみようと思うんだ――姉さんとの約束守るために……」
「――大和」
そう言うと百代は震える足に力を入れて、大和に抱きつく。
「ちょ、どうしたの」
「いや……大和、少し見ないあいだにいい男になったな……」
「なんなんだよ、いきなり」
「まぁ、見てなかった私が悪いんだが……なぁ、大和」
「なに?姉さん」
「お互い……強くなろうな」
「――うん」
血の繋がらない姉弟二人を秋の星空だけが見ている。
川神百代の激闘の日はこうして幕を閉じた……
―――――翌日 川神学園正門前――――
「……不覚だ、まさか日課のランニングができない時間に起きるとは」
昨日あれから部屋に戻り、文字通り泥のように眠って気がついたら既に朝の7時に近かった。
ここ5年日課として続けていたランニングを外的要因以外で休んだのは初めてだ。
それだけ、昨日の一戦の疲れがたまっていたのだろう。
現に今も、身体の奥底には疲労が道路に落ちたガムのようにこびり付いているのがわかる。だが、まぁ、これは少しづつ剥がしていけばいい……と自分では理解している。
「まぁ、それでもしっかり起きるあたりらしいちゃあ、らしいけどな」
「ほんっと、鉄人だよねぇ四四八くんは」
一緒の登校している4人が言う。
因みに鈴子は薙刀部の朝練で先に行き、水希は何故か機嫌が悪いらしく四四八の顔をみたら先に行ってしまった。
「そういや、世良のやつはどうしたんだ? なんかプリプリ怒ってたが」
「いや、柊。それ、おめえが言うか?」
「いやー、ホント、これは同じ女として水希には同情するわー」
珍しく長時間眠ったこともあり、寮に帰ってきた前後がどうにも記憶が曖昧だ……まぁ、じきに思い出すだろう。そんな風に切り替えて正門をくぐると。
「柊、おはよう」
「お、柊、おはよう」
風間ファミリーの面々がいて、百代と大和がこちらに気づき近づきながら挨拶をしてきた。
「おはようございます、川神先輩、あと直江も」
「身体はどうだ? 柊」
「もうすっかり大丈夫です……とはなかなか言えませんね、疲れがこびりついてます」
「そうか、私もだ。この時間に学園にいることを心の底から褒めたい気分だ」
「姉さん珍しく俺が起こしに行っても起きなくて、最終的に学園長の技で起きたからねぇ」
「それは……また、ダイナミックな目覚まし時計だな……」
「まぁ、そんなことより。昨日のことはありがとうな。まだ面と向かってお礼も言ってなかったから気になってたんだ」
「いえ、俺の方こそイロイロ無礼を働いてすみませんでした」
「いや、柊のおかげで自分の足りないものが見えたきがする、だからありがとう」
そういって百代は右手を差し出す、意図を察して四四八も右手で握り返す。
「少しでもお役にたてたのなら幸いです」
「また、戦ってくれるか」
「試合でよければ喜んで」
そんな二人を大和が満足そうに見ている。
その時、黒塗りのリムジンと人力車が正門に到着する。
「 「フハハハハハーーーーッ! 我、顕現である!!」 」
在学中の二人の九鬼が揃って現れた。
九鬼の二人は従者を引き連れて、百代と四四八の元にやってくる。
「川神百代、柊四四八。昨日の一戦見事であった。我は感動したぞ!」
「我も同じです兄上、そこで柊四四八、お主九鬼に来ぬか?」
そう言って紋白がピシっ!と四四八に名刺を差し出す。
「……え? あ、俺ですか?」
九鬼兄妹のあまりの濃さに一瞬反応が遅れて名刺を受け取る。
「九鬼は優秀な人材にはいつでも門を開いておる!」
「柊をお前が来るなら我はいつでも歓迎するぞ」
「興味があったらいつでも我に声をかけてくれ!」
「ではまた教室でな!!」
「 「フハハハハハーーーーーーッ!!」 」
九鬼の二人は一方的に用件だけ言うとそのまま校舎へと仲良さそうに歩いて行った。
名刺を手に持ち、あまりの展開に呆然と立ち尽くしてる四四八に従者二人が声をかける。
「まぁ、お前は赤子の中でもだいぶ見込みがある方だ。九鬼に来るならオレが直々に鍛えてやろう。光栄に思うんだな」
「まぁ、来るっていうなら歓迎するぜ、優等生」
そういってヒュームとあずみはそれぞれの主のもとへ向かっていった。
それを見ていた大和がおかしそうに四四八にいう。
「いやー、柊はこれから大変だぞ」
「何がだ?」
「そりゃ、姉さん。武神・川神百代に勝ったんだ、反響がこんなもんで済むはずないさ」
「そうだな、いろんなやつからラブコールが来るかもな。甘いもんじゃないと思うが」
そう言って大和と百代はニヤニヤと笑う。
その話が終わらぬうちに、次の来客が現れた。
「モモちゃん、大和くん、おっはよー」
「おー、燕か、おはよう」
「燕さん、おはよう」
「うんうん、そしてそこにいるのが噂の柊四四八くんっと、はじめまして、私、松永燕。燕でいいよん」
「はじめまして、燕先輩。柊です」
「うんうん、礼儀正しいねー、んじゃご褒美に、はいコレ」
「……納豆?」
「そそ、ウチ松永納豆っていう納豆作ってるの、私も納豆小町として活躍中―、よろしくね」
「え?あぁ……はい」
どう反応していいか困惑している四四八をよそに、
「んじゃ、モモちゃんまた教室でねー。大和くんも柊くんもまたねー」
そういって手を振りながら校舎へ入っていく。
「よぉし、取り敢えず、ファーストアプローチは終了。まぁ、こうなったら腹くくって柊くんをターゲットにするしかないもんねぇ」
燕が一晩考えて出した結論がコレ、最初の紋白の意向とは少々違うが名を知らしめるという意味では問題ないだろう。
「よし、いっちょ頑張りますか」
そういって自分に気合を入れた燕は、四四八攻略のための作戦を練っていく。
燕がそんなことを考えているとは露知らぬ二人のもとには正門での最後の来客が来ていた。
「あ……モモちゃん、おはよう」
「おー、清楚ちゃん。今日も清楚だなぁ、あー清楚ちゃんマジ清楚」
「姉さん、なんか言葉遊びにみたいになってるよ」
「んー、それにしても、清楚ちゃん。ちょっと元気がないんじゃないのか?」
「え? そ、そんなことないよ……え? 柊……くん?」
清楚はそこに四四八がいることを初めて認識して、目を見開いた。
「わ、わ、私もういくね、じゃあね」
そう言って清楚は逃げるように去っていった。
「どうしちゃったんだろう、清楚ちゃん……」
「どうせ姉さんがまたセクハラしたんだろう」
「失礼だな、今日はまだしてない」
「どうでもいいが、この俺の手の中の名刺と納豆はどうすればいいんだ?」
そんなやりとりの向こう側で清楚は一人激しく動く胸の動きを抑えようと必死になっていた。
「私、本当にどうしちゃったんだろう……」
あのまま、二人のいる空間に居続けたら、もう自分が自分でいられなくなる。そんな恐怖に駆られて逃げるように――というか、逃げてきてしまった。
「やっぱり、依頼……してみよう……かな」
清楚のつぶやきは朝の校舎の喧騒に飲まれていった……
―――――川神学園 2-S組―――――
昨日の疲れが抜けきれてない現状で、朝から濃い面子との遭遇をなんとか終えてクラスに入ってきた四四八を待っていたのは、義経の第一声だった。
「柊くん! おはよう!!」
四四八を見つけるとダダダッ!と駆け寄ってきて詰め寄るように朝の挨拶をする。
「お、おう……おはよう」
「義経は……義経は、柊くんの昨日の一戦感動した!! だから……だから……ッ!」
「ガンバレー、主、ガンバレー」
何か言おうと必死になっている義経と、まるでやる気のない応援を後ろでしている弁慶。
四四八が状況を把握しかねていると、意を決したように義経が声を上げる。
「柊くん、よ、よ、義経と友達になって欲しい!!!!」
「え? ああ、それは構わないが……」
「ほ、本当か! やったー、弁慶、義経はやったぞ!」
「ほーら言っただろう、柊と友達になるなんて主にとっては簡単な事なんだ」
義経は弁慶の胸に飛び込み、弁慶はそんな義経を愛おしそうに撫でる。
「けっ、バカくせぇ……」
与一はその光景を自分の席から眺めて悪態をつく。
そんな主従をわけがわからないという感じで見ていると、今度はマルギッテが声をかける。
「柊四四八、校章が曲がってます。ああいった過激な一戦のあとでは気が緩むものです、改めて気を引き締めることを心得なさい!」
「はい! 了解しました!」
昨日からの疲れと、朝からの怒涛の展開で混乱している四四八はマルギッテの軍隊口調におもわず戦真館での返事を返してしまう。しかしマルギッテ自身はそのことには触れず――
「おや、肩にホコリもついてますね」
そう言って、四四八の肩のホコリを自ら払うと、満足そうに四四八をみて、
「うん、これで完璧です。では――」
そう言って席へと戻っていく。
「ふふふ、モテモテですね」
最後に冬馬がやってくる。
「まったく、なにがなんなんだか……」
「まぁ、四四八君はそれだけのことをしたということで、甘んじて受け入れるしかありませんよ」
「直江にも同じことを言われたよ」
「ふふふ……そうですか……」
「なんだよ、その笑いは」
「いえ、まだまだ退屈せずには済みそうだなと思いまして、お、そろそろHRの時間ですね。席に着きますか」
そういってお互いが席に着くと、先に席についていた水希と鈴子が声をかけてきた。
「柊くん、随分とモテモテだよねー、鼻の下伸ばしちゃって、ヤな感じー」
「ほんとよ、不潔、変態、最っ低。奴隷の分際で身の程をわきまえなさいよね」
「おいおい、お前らまでなんだんだ……」
「しーらない」
「ふん!」
――まったくなんだっていうだ、そう思い四四八は一人溜息をつく。
川神での生活はまだ半分以上残っている、まだまだ波乱は起きそうだ――
ラッキースケベに対してあんな対応ができるキャラを
自分はほかに知りませんw
都合6話にわたって書いてきた四四八対百代の戦いはこれで終わりです
お付き合い頂きまして、ありがとうございます