ついでなので今まであまり書いてこなかったキャラを書いたら
それなりの分量になってので投下
-追記-
ちょっと新たな展開を思いついたので
一人分シーンを追加させていただきました(4月9日)
「なぁなぁヒューム、凄かったな!」
九鬼紋白は帰りの車中、手をブンブンと振るって興奮を全身で表しながらヒュームに言う。
「そうですな、紋様」
いつもその他大勢にかけている言葉からは想像もできないほどに優しい声でヒュームが答える。某東城会の四代目に勝るとも劣らない豹変っぷりだ。
「川神百代を我の計画で倒すことができなかったのは口惜しいが、それにしても凄い戦いだった……なっ、ヒューム!」
「えぇ、素晴らしい戦いでしたね、私も久々に血が滾りました」
「そうか、ヒュームほどの者でもそうなのか。それにしても凄かった……」
紋白は『凄かった』を繰り返している。幼く見えるが紋白は馬鹿ではない、むしろ相当に頭のいい人間だ、その紋白が評して『凄かった』のありきたりな表現しか出てこないほど、紋白にとって今日の戦い――川神百代と柊四四八の戦いは衝撃的だったのだ。
「なぁ、ヒューム、あの柊四四八を九鬼にスカウトしよう!」
とてもいいことを思いついたという様に、紋白は目を輝かせてヒュームに言う。
「素晴らしいお考えだと思います」
「そうか、ヒュームもそう思うか!」
「えぇ、私の見立てでは柊が従者部隊に入って精進すれば、序列1位も夢ではない……と思っております」
「おお! そうか!それほどか!! ヒュームが言うならそうなのであろうな!!」
瞳をキラキラさせながら紋白がヒューム答えに反応する。
「よし! 明日朝一番で柊に会いにいくぞ!!」
「そうですか、では、朝遅れないよう本日は少し早目にお休みなられるのがよろしいかと……興奮されているようなので、お休みなる三〇分前に温めのミルクをお持ちするよう手配いたします」
「そうか、すまないなヒューム」
「いえ……そろそろ着きます。お座りになってください紋様」
「うん、わかった」
紋白はヒュームの言葉に素直に頷いて、シートに座りなおす。
――それにしても、凄かった。
紋白は最後にもう一度、車内から川神学園の方を見ながら心の中で呟いた。
―――――放課後 川神学園 屋上―――――
「あーー、マズったなぁ……」
松永燕は屋上で一人声を上げている。
もちろん、今日の川神百代と柊四四八の一戦のことである。
燕は九鬼から川神百代の打倒を依頼されていた、もちろん、自身も百代を倒すことで名をあげようという意思もあった。
しかし相手はあの武神・川神百代だ、バカ正直に真正面からぶつかっても勝てる見込みは薄い、故に、必勝を期すために色々な準備をしていた。
百代の技の種類、クセ、傾向、などの下調べはもちろん、交友関係に恋愛事情、家族事情、さらにそこに対する根回し……
なかなか思うように行かない部分と奥の手である平蜘蛛の調整遅れなどもあり、だらだらと半年近くも勝負を伸ばしていたら、まさか鎌倉から来てわずか一週間の人間に百代打倒を掠め取られるとは……
しかも、決着のつき方がこれまたマズい。
百代の大きな弱点であった精神面での弱さを完全に……とまではいかないかもしれないが、大部分で払拭されてしまった。今まで用意した百代打倒のプランが完全におじゃんだ。かえすがえすも、あの柊四四八という男が憎たらしい。
百代に勝利した――四四八自身はあの勝負からは自ら降りたのだから勝負は無効だと言っていたが、あれを四四八の勝利と言って違うという人間などいないだろうし、百夜自身、負けたと思っているだろう――四四八に勝負を挑んで勝てば、必然的に百代にも勝ったことになるのだろうが……残念ながら現状、柊四四八に勝てるビジョンが浮かばない。
柊四四八の強さは能力的なこと以上に、精神的な部分が大きい。燕自身、自身の能力はもちろんだが、それ以上に勝つための駆け引きや、もっと言うなら裏工作のようなものも得意としているので、ああいう精神面で文字通り隙のない人間は本当に相性が悪い。
だから、
「あーーーー、ホンっト、マズったなーーーー……」
燕は屋上で一人声を上げているのだ。
しかし、このまま何もしないと九鬼との契約が破棄となり、それはそれで非常にマズい。
「さぁて、どうしたもんか……」
誰もいなくなった屋上でゴロンと寝っ転がった燕は一人思案にくれていた。
―――――放課後 川神市 多摩大橋付近―――――
源氏の三人は一緒に帰路についていた、徒歩だ。
通常ならば義経の笑い声や、与一の悪態、それに対する弁慶のツッコミ――物理的なものを含む―― などでそれなりに騒がしいのだが、本日に限っては三人とも無言だ。
原因は明白、義経が一言も喋らないからだ。
うつむき、なにか思案に暮れるようにして、ただトボトボと歩いている。
なんといってもこの三人の中心は義経なのだ、義経が黙っていると必然、ほかの二人も口数が少なくなる。
「なあ、義経のヤツ、どうしちまったんだよ」
すっすっと与一が義経の後方にいる弁慶の横まで近づいて、小声で語りかける。
「私も知らん、モモ先輩と柊の一戦を見てからずっとあの調子だ」
「まぁ、たしかにスゲェ戦いだったけどよ……もしかして凹んでるのか?馬鹿じゃねぇの、ありゃ無理だろ。二人共バケモンだぜバケモン」
「与一ぃ……主に向かって馬鹿とは何だ馬鹿とは……お前はむしろ、もうちょっと源氏の自覚を持ったほうがいいんじゃないかぁ」
「ちょっ、ちょっ、いてぇ、いてぇって姉御!てか、絞まってる、絞まってる!!」
突如としてかけられた弁慶のスリーパーホールドに対して与一はパンパンと弁慶の腕を叩いて、ギブアップの意思を表明する。
そんな時、前を歩いていた義経がいきなり立ち止まる。
後ろの二人も、それに気づき立ち止まる――スリーパーホールドはとけていない……
義経はクルリと後ろを向き、弁慶と与一に向かい合うと、宣言するようにいった。
「弁慶、与一、義経は決めたぞ! 義経は柊くんになる!!」
「 「……はあ? 」」
あまりにも突拍子な結論だけの宣言に、弁慶も与一も思わず気のない返事をする。
「義経は今日の柊くんの戦いを見て思った。義経が目指すべきは柊くんなんだと、柊くんこそ、義経の目標なんだと!」
つまり、義経は今日の一戦をみて、柊四四八の生き方こそが、源義経のクローンとしてこの世に生まれた自分の目指すべき生き方なのだと言っているのだ。
確かに四四八の理と情を兼ね備え、自身の可能性を微塵も疑わず、それでいて傲慢になることもなく、仲間を何より大切にする様は武士道の理想といってもいいかもしれない。あの生き方をするためにどれだけの自問と厳しさを己に課してきたのか、想像を絶する。
「まぁ、気持ちはわからなくわねぇがな。んで、具体的にどうするんだ?」
「え? そ、それは……今から考える……」
一気にシュンとしてしまった義経に与一が追い討ちをかける。
「んだよ、なんにも考えてないのかよ、んじゃ、無理じゃねぇか」
「うぅ……与一の言うとおりだ……義経は未熟だ、これじゃあ柊くんになれない……」
義経がさらに肩を落とす。
「与一ぃぃぃ……もうちょっとなぁ、言い方ってもんがあるだろおおぉぉ……」
「ちょおおおお!!ギブ、ギブギブギブギブ!!!」
解けていなかったスリーパーホールドを再び絞められ、与一がパンパンパンパンと弁慶の腕を叩く。
そんな中、どこからともなく現れたクラウディオが、義経に声をかける。
「義経様。僭越ながらご提案させていただきますと、まずは柊様とのご交流を深めてみてはいかがでしょうか」
「……え?」
「柊様の生き方を目指す。私も素晴らしいことかと思います。ですが柊様の境地、一朝一夕で到(いた)れるものとも思えません。ですから、柊様とご交流を深め、話を聞き、人となりを感じれば、その道筋も見えてくるかと思われます。無論、易い道ではないと思われますが……」
「そうか……そうだな! 世良さんとはよく話が、柊くんとはあまり話したことがないな! よし! 義経はまず、柊くんと友達になることからはじめる!!」
「素晴らしいお考えかと」
「よし、そうと決まれば、明日、朝一番に声をかけよう! ……でも、なんて声をかければいいんだろう……べ、弁慶、義経はどうしたら柊くんと友達になれるんだろう」
涙目になって弁慶に助けをこう義経。
「よーしよしよし、主よ、私と一緒に考えようなぁ。大丈夫、主はこんなにも可愛いんだ、柊と友達になるくらいなんでもない」
締め落とした与一を放り出し、弁慶は義経を抱きしめいかにも愛おしいというように頭を撫でる。
「べ、弁慶くすぐったい」
「いいじゃないか……そうだ、今日は久しぶりに一緒にお風呂に入ろう……隅々まで洗ってやるぞ、そして、そこで明日の相談をしようじゃないか」
じゃれあう二人と、締め落とされて道路に横たわっている与一。
いつもの調子を取り戻した三人をクラウディオが静かに頷きながらに見守っていた。
―――――放課後 川神学園 花壇―――――
葉桜清楚は川神学園の一角にある花壇で日課の水やりをしている。
「ごめんね、みんな。今日はちょっとイロイロあってくるのが遅くなっちゃった」
いつもの様に、花一つ一つに語りかけるように水をやっていく。
その姿は、その名の通り『清楚』または『可憐』という言葉をそのまま形にしたといってもいいかもしれない。
そんな清楚の顔が不意に曇る――
頭にあるのは、友人でもある川神百代と柊四四八との一戦、
あの一戦のことを思うと胸が『高鳴る』――
そう、胸が高鳴ってしまうのだ……
葉桜清楚は、源氏の三人と同じく偉人のクローンだ。
しかし、自らが誰のクローンなのかは知らされていない。
成人になった時に教える。その時までに精進を重ねろ、クローン4人の生みの親、母親のような存在である人物は清楚にそう言っている。
自分は本が好きだし、体は鍛えているがあまり武というものに興味がない、
源氏の三人が武人なのを鑑みれば、バランス的に自分は文人の偉人なのかなと、勝手に思っていたりする。
しかし――
だとするならば、あの戦いを見た自分の胸の高鳴りは何なんだろうか――
ドクン――
最後、仲間の支えで再び立った川神百代の美しさを思うと胸が高鳴る……
ドクン――
最後まで百代の全力をその身で受け止め続けた柊四四八の雄雄しさを思うと胸が高鳴る……
いままで、自らの正体に疑問を持つことが全くなかったわけではない。
ないが、自分の母親のような存在――マープルの事を信頼していたし、自分が誰であっても、自分は自分。そうも思っていた。
しかし、こうまで自分が思ってもいなかった感情に出くわすと……不安になる……
そういえばこの花壇の水やりを手伝ってくれる2-Fの千花や真与が川神学園には生徒の依頼を独自に解決するシステムがあるということを言ってた気がする。
「……依頼。してみよう……かな」
夕暮れの花壇に清楚のつぶやきが吸い込まれていく……
―――――放課後 川神学園 廊下―――――
忍足あずみとマルギッテ・エーベルバッハは川神学園の廊下を歩いていた。
無言だ。
別に示し合わせたわけではない、ただ教室をでるタイミングが同じで、進む方向が同じ。
そういった感じだ。
故に無言。あえて話す必要もない――
そんな中、不意にマルギッテが口を開く、
「――いいですか、‘女王蜂’」
「――なんだよ、‘猟犬’」
二人共戦場での異名で呼び合う、
視線は合わせない、二人共進行方向を向いている。
歩みも止めない、二人共歩き続けている。
「先の、川神百代と柊四四八の一戦なにか思うところはありましたか?」
「――ないね」
あずみはマルギッテの質問に即答する。
「アタイはもう傭兵じゃない、英雄様に仕えるメイドだ。誰が強いとか弱いとか、誰それの思想がどうとか、そういうのはもう卒業してる」
「――そうですか」
また無言の時間が流れる、歩みは止まらない。
「お前の方こそどうなんだよ、‘猟犬’。もしかして身体が火照って止まらない、なんて言うなよ」
あずみの下品な返しに鋭い一瞥で答えると、
「そうですね、軍人としても同じ旋棍使いとしても興味は付きません。ですが、自分は川神百代との戦闘を禁止されている身……その川神百代に勝利した柊四四八の扱いについて、軍からお達しが来てもおかしくはありません……」
と、少々残念そうにつぶやいた。左手が無意識の内に眼帯を触っている。
階段についた、どうやらここで行き先が異なるらしい。
「そうかい、まぁ、昔のよしみだ。もし対戦することになったら応援ぐらいはしてやるよ」
「不要のことだと心得なさい、自分にはお嬢様の声援があれば充分です」
「へっ……そうかよ」
それを最後に、二人は別の方向へ歩いていく。振り返りもしないし、声もかけない。
マルギッテは無性にクリスの声が聞きたくなった。
携帯を取り出し、クリスの番号を表示しようとして――いや、いっそ会いに行ってしまおう、そんな風に考え携帯をしまう。
マルギッテはクリスに持っていくお土産の事を考えながら校門を後にした。
―――――閉門前 川神学園 グラウンド―――――
九鬼英雄はグラウンドを見ている。
既に激闘は終わり、従者部隊による後片付けも終了している、校門が閉まる時間も近づいてる事もありグラウンドに人影はほとんどいない。
そんなグラウンドを英雄は腕を組み、校舎を背にして仁王立ちのようにしながら見ている――いや、睨んでいると言ってもいいかもしれない。
そんな英雄の背に声がかかる。
「英雄、こんなところに居たんですか。あずみさんが探していましたよ」
冬馬だ、だが、英雄はそんな冬馬の声に振り向きはしない。
「先の柊君の一戦を考えているのですか?」
英雄はまだ答えない。
そんな英雄にかまわず、冬馬は続ける。
「私は、武道に関しては門外漢なのでわかりませんが、あの一戦胸にくるものがありました。柊四四八という人物は存外、人の心を揺さぶるのが得意なようです……」
そんな中、不意に英雄が口を開く。
「柊は……凄い男だな……」
重く、強くそして気持ちのこもった言葉が紡がれる。
「男子として生を受けた限り、柊のように生きてみたい……我は心からそう思う」
そんな英雄の言葉を聞いて冬馬は英雄の隣に並び答える、
視線は同じくグラウンドに向けられている。
「私は柊四四八という人間に憧れています。ですが、同時に九鬼英雄という人間にも憧れています。九鬼英雄の生き方は、決して柊四四八に劣っていない。私はそう、思っています」
「……トーマ」
英雄ははじめて、グラウンドから視線を冬馬にうつし呟く。
そんな英雄と視線を合わせ再び冬馬が言う。
「私は、九鬼英雄と柊四四八という世界でも類を見ない素晴らしい男に同時に交流が持てた事、本当に幸運だと思っています。本当に……」
「そうか……そうか……」
眼をつぶり、冬馬の言葉を噛みしめる様にして深呼吸をすると、
今度は一転して張りのある声で冬馬に話す。
「我が友・トーマよ! 先だって柊と直江を伴って会食をしたようだな!」
「ええ、とても有意義な一時でしたよ」
「そうか……ならば、次は我もいくぞ!声をかけろ、予定は空けておく! 四人で朝まで語り明かそうではないか!! フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「ええ、それはいいですね。是非実現させましょう」
「英雄様ーーーーーッ!! そろそろ校門が閉まってしまいますよーーーーーーっ!!」
校門のあたりであずみが手を振っている。
「おお!あずみ、今行く!!」
そんなあずみに大声で答えて、冬馬に向き直り言う。
「トーマよ。よければ送っていくぞ」
「そうですか、ではお言葉に甘えさせていただきましょう」
そして二人して校門に向けて歩き出した。
こうして様々な人々に、様々な思いを残し、激闘の一日は幕を閉じた……
書いてて楽しかったのは源氏の3人
心はだそうだそうと思ったけど
友達がいないから出せなかった……
心……まゆっちより友達いない?
-追記-
清楚のシーンを追加させていただきました
お付き合いいただきまして、ありがとうございます