戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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戦闘描写、戦闘描写……うーん、うーん(知恵熱)


第十三話 ~開戦~

「はあああああああああああああああああッ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 二人の裂帛がぶつかり合う。

 

 まず、手を出したのは百代。

 掌 、 脚 、 踵 、 肘 、 膝 、 額 、 拳 、 脛 、

百代のありとあらゆる部分が、凶器となって四四八の身体めがけて、動き、疾った。

 休まない。

 連続した攻撃だ。

 しかし、そのことごとくが空を切った。

 すべての攻撃を、四四八が躱し続けたのである。

 躱している。旋棍で受けたり、流したり、または足で受けたり、流したり、そういうことは一切しなかった。ただ紙一重の距離で、百代の攻撃を躱している。

 そして四四八は躱しながら百代を見ている、燦然と輝く緑色の双眸で、百代の全てを見透かすように。

 

 攻撃が始まってそろそろ一分が経とうとしている、

一分間、連続で攻撃し続けている百代はこの間、呼吸をすることはなかった。

「はっ――」

 ちょうど一分、初めて百代が息を吐いた、そこに間ができた。

 一秒の半分以下の間、間とも言えない間、だが四四八はそこを見逃さなかった。

 

 そこに合わせ一歩踏み込むと、旋棍を振るった。

 四四八の攻撃が始まった。

 

 眉間 、 人中 、 村雨 、 水月 、 月影 、 電光 、 夜光 、 丹田 、

人体の急所めがけて四四八の旋棍が振るわれる。

 休まない。

 百代と同じく連続した攻撃。

 百代はそれを、掌で脚で脛で肘で額で受け、払い、流している。

 百代の顔を笑っている、心底楽しそうに嗤っている。

 

 先ほどと同じように一分、四四八は動き続けた。

 百代と同じく一分、呼吸をしていない。

「ふっ――」

 同じようなタイミングで四四八が息を吐いた、同じように間ができた。

 先ほどと同じ一秒の半分にも満たない間、間とも言えない間、百代はやはり、そこに自らの拳をねじ込んできた。

 

 その時、四四八がすっと前に出た、速い動きではない、むしろ今までに比べれば半分以下かもしれない。前にでながら百代の攻撃を避ける。

 そのまま百代の懐に入り、拳を出したあとガラ空きになった月影――肝臓のあたりに旋棍の一撃を叩き込んだ。

 

「クッ!!」

 

 腹抑えながら、思いっきり後ろに飛び距離を取る百代。

 口には血が滲んでる、が、その口元は嗤っている。

「ふふふ……ははは……はぁーーはっはっはっはっは!!最高だ、やはりお前は最高だ!!まだだ、まだまだ、こんなもんじゃないだろう。もっとだ、もっと私を楽しませてくれ!!」

 瞬間回復で傷を癒すと、再び、四四八に襲いかかる。

 濃密な時間が再びはじまる。

 

「ふん――瞬間回復か、あんなもんに頼っているから攻防が雑なのだ、だから今の柊の攻撃にもあっさり引っかかる」

 クラウディオはヒュームが四四八の事を『柊』と呼んだ事に気づいたが、敢えては口にしなかった、つまり今の攻防が彼に柊四四八の価値を認めさせたのだろう。

 

 四四八は今、速い攻撃を繰り返したあと、ワザと動きの遅い攻撃を出したのだ。もちろん息を吐きスキを作ったのもワザと。そこに攻撃を誘い出し、さらに自らの動きを遅くすることで百代の予想を裏切ったのだ。四四八の攻撃が来るとき、百代は既に躱し終わった体勢にされていたのだ。

 

「うまく『拍子』を外しましたな。確かに百代様の様な本能で戦う方にはあのような攻撃は有効でしょうが……あの速い戦闘の最中、あえて緩急をつける。練達の域ですな柊様の体術は」

「しかも戦巧者だ、駆け引きも上手い。さらに奴は今、百代のすべてを見ようとしてる。何故だか知らんが攻撃を躱し続けてるのもそのせいだろう」

「しかしながら――」

「そう、それだけで勝てるほど武神も甘くない、さて、次はどうなるか……ふふん、他人の戦いを見て血が騒ぐなど何年ぶりだろうな――」

 

 四四八が展開してる能力(ユメ)は現在、戟法と解法。

 主に迅の戟法と透の解法を展開し百代と相対している。

 白兵戦の常道は戟法と循法の同時展開。速さと肉体を強化して、純粋に肉体の強度を上げることでアドバンテージを取る。

 しかし、四四八はあえて解法を選択した。

 

 百代の動きを見るために、百代の技を見るために、百代のクセを見るために。

 瞬間回復、致死蛍、炙り肉……百代の使った攻撃の特性は大体分かった、全部ではないが、見れた攻撃に対処できれば大きなアドバンテージになる。

 

 ただリスクもある、現状、循法を展開していないため攻撃をくらうのはとても危険だ。故にすべての攻撃を避けている。

 透の解法で動きを読んで、迅の戟法で躱す……反撃の時は同じく透の解放で動きを読み、剛の戟法で攻撃する。

 

 最初の攻防と合わせて、都合四度百代と拳を合わせた。

 四度とも最終的に四四八が一撃入れて、百代が後退するという展開だ。

 ただ、瞬間回復のためそのまま仕切り直しになってしまう。

 

「ならば……しかけるか――ッ!」

 

 そう言って四四八は初めて自ら攻撃に出た。

 この四回の攻防で見極めた、百代クセを突く。

 

「なっ――」

 

 今まで待に徹していた四四八の初めての能動的な攻撃、

そして速い、一気に距離を詰めてきた。が、何を狙ったのか旋棍を下げ頭部ががら空きになっている。

――罠だ!

 と、百代は理解した、理解したが体が反応した。百代は思考より本能のファイターだ、隙があればそこを攻撃してしまう。

 

「故に、至極読みやすい――」

 

 その攻撃を紙一重で躱すと、一撃目に与えた打撃と寸部変わらぬところに、再び旋棍の一閃を叩きつける。

 

「かはっ!」

 

 百代の身体がくの字に折れ曲がる、

百代は今までと同じように飛んで距離をとろうした、が、四四八の右手が空中にいる百代の足を掴んでいた。

 

「今回は……逃しません」

 

 四四八はそう言うと、そのまま百代を思いっきり固い地面に叩きつけた。

 

「くはっ――!」

 

 百代の肺の中の空気が強制的に吐き出される音がした、

そこに四四八は旋棍の一撃を追撃として叩き込む、

手応えがあった。

 瞬間回復される前に意識を刈り取る――

その意思を込めて最後に踵による踏みつけを百代の顔面に叩き込もうとした――その時

 

「――なめるなぁあああ!!!! 川神流 大爆発!!!!」

 

 倒れている百代の双眸が紅くギラリと光る。

 そして自身を中心として破壊の気を一気に開放した。

 

「くうっ!」

 

 回避が不可能と判断し四四八は両手の旋棍で身体をかばいつつ、崩の解法で衝撃を崩しながら同時に思いっきり後方に飛んだ。

 それでも、大爆発を躱しきれずに爆風に巻き込まれ吹っ飛ばされる。

 

 何とか両足で着地し、百代の方に目を向ける。

 百代はさっきと同じ場所に立っている、だが、今までとは明らかに違っていた。

 

 髪がザワザワと逆立ち、先ほどよりも強い笑みが顔に浮かんでいる。

 が、その笑みが奇妙だ。動かない。

 表情というものは、基本的に始まりと終わりがある。

 人が仮面を不気味だと思うのは、表情が固まっているからで、それは通常起こりえないことだから。だから人は仮面に忌避感を感じるのだ。

 

 百代はいま顔に嗤う仮面をかぶったようだ、ドキリとするほど美しく、ゾクリとするほど怖い笑顔だ……

 

「あぁ……楽しいなぁ、柊……こんなに楽しいのは始めてかもしれない……」

ビックリするほど優しい声で、百代が四四八に語りかける。

 

「だがら惜しい……本当に惜しいよ……これで終わりにしてしまうなんて、な!!!」

 

 そういった百代の姿が掻き消えた。

 瞬間、四四八は危険を察知し、素早く印を結び、戟法と循法を展開させる。

 

 展開と同時に百代が目の前に現れた、そして攻撃、四四八はそれを旋棍で受ける。

ドンッ!

 目の前で爆発が起こったような衝撃に四四八の身体が浮く。

 いままでよりも、数倍速く、数倍重い。

 

 川神百代の本領がここに発揮された。

 

「そらそらそらそらっ!!どうしたどうしたどうしたどうしたっ!!」

 

 先ほどよりも、更に荒唐無稽で強力な攻撃が四四八に襲いかかる。

 戦略、戦術、読み、思考、駆け引き、

そんなものは糞くらえとばかりに、ただただ一切、自らのチカラで相手を叩き潰す、そんな攻撃を百代は続けている。

 

 四四八はそんな攻撃を旋棍で受け、払い、流して、凌いでいる。

 しかし、現状、反撃の隙は皆無。一匹の野獣とかした川神百代に間や拍子といった機微は既に存在しない。

 ただただ、体力の続くまま相手を攻撃し続ける。

 

 隙がないなら作り出すまで……

 

 四四八は腹を決めて、反撃に出る。

 最後の攻撃を捌いて一気に後ろに飛ぶ、百代は逃すまいと同じく四四八についてくる。

 四四八はそこに咒法の一撃を放つ。

 この戦い初めて見せる咒法の一撃、不意を突かれ百代の足が一瞬止まる。

 

「そこっ!」

 

 流れる身体の向きを強引に変え、止まった百代に旋棍の一撃を一閃、

あたった――と、感じた瞬間、百代は身体を反らしてその一撃を避けていた。

 そして、二人の瞳が合う……百代がにやりと嗤った。

 

「くっそっ!」

 

 体勢が不十分のまま百代は四四八の襟をつかみ思いっきり上空に投げ捨てた。

「これで、おわりだぁあ!!」

 四四八を追いかけ、百代も飛ぶ、

そのまま四四八を空中でガッシリ掴むと、一緒に頭から急降下をはじめる。

 

「川神流 飯綱落とし!! そして 川神流 人間爆弾!!!」

 

 落下中に自らの気を爆発させて、更にそのまま四四八を地面に叩きつけた。

 地面から夥しい土煙が上がる。

 その中から百代が飛び出し、瞬間回復で回復をする。

 

「あれが、モモ先輩の本気……」

「ヤバイ、あれ、ヤバイだろ?」

 学園中が目にした百代の本気に恐怖を感じているようだ。

 

「かー、スゲェ、スゲェとは思ってたけど、モモ先輩あんなスゲェのか」

「お姉さまの本気初めて見たかも」

「……私も、モモ先輩あんなとこまでいってたんだね」

 ファミリーの面々も驚きを隠せないようだが、そんな中で、

 

「はん、女がキレて見境なくなってるだけじゃねぇか、何が本気だよ」

鳴滝の声が響く。

 

「おい鳴滝、今のモモ先輩見てなんも感じないのか」

 忠勝の問いに面倒くさいと言わんばかりに答える。

 

「だから言ってんだろ、ありゃ女がキレでヒステリーかましてるだけじゃねぇか、あれが武神ってなら、武神も大したことねぇな」

「俺も鳴滝に同感。四四八がなんでこの戦いを承諾したか。なんとなくだけどわかったわ」

 鳴滝の言葉に栄光が同意する。

 

「そんなこと言ったって、柊くん、お姉さまにやられちゃったじゃない」

「やられてないよ」

 一子の言葉を歩美が即座に否定する、それを皮切りに、千信館の面々が口を開く。

 

「ウチの大将があの程度でくたばるわけねぇだろ」

「まぁ、なんとなくはわかったけど、なんで四四八のヤツ最初っから本気でやらなかったんかね」

「それじゃあ意味がないからでしょ、これは柊お得意のスパルタなんだから」

「四四八くん、検事とかより先生になったほうがいいんじゃないかなぁ、って最近思う」

 一人、晶だけがグラウンドの土煙を凝視して耐えるように窓辺りを掴んでいる。

「晶、気持ちはわかるけど。ダメだよ手だしちゃ」

「わかってる、わかってるけどさぁ……」

 そんな晶に水希が声をかけている。

 

 千信館は全員、四四八がやられたとは思ってないのだ。

 

 と、その時、土煙の中から朗々と歌い上げる声が響く……

 

 

「わが心、奥までわれがしるべせよ、わが行く道は、われのみぞ知る」

 

 

 大僧正慈円の一首、その後、意志を持った力強い言葉が飛ぶ。

 

 

「破段、顕象――仁義八行 如是畜生発菩提心!!」

 

 

 気配を感じ取った百代が反応するより早く、土煙の中から出てきた四四八が百代の顔をアイアンクローの要領で掴み、持ち上げる。

 

「がああぁぁぁ、はな……せっ!!」

 

 百代は必死に抵抗するが、ビクともしない。

 

「何故だ――何故、あなたはそんなにも空っぽなんだ!!」

 

 百代を持ち上げたまま怒気を孕んだ声で四四八が言う。

 

「芯がない!覚悟がない!!なにより、戦の真がみあたらない!!矛を止める神を冠してその体たらく、見るに耐えない!!!」

 

 そういって持ち上げていた百代を無造作に放り投げた。

「くううっ」

 空中で体勢を立て直し百代は四四八と向かい合う。

 

「汚れた武神の金看板、俺が叩き壊してあげましょう……」

「やれるもんならやってみろ、お前に芯とやらがあるのなら、それごと叩きおってやる」

 

 戦いの第二幕が上がる――

 

 




最初はリアルっぽく、だんだん厨二っぽくっ
という感じにしてみたかったのですが……う~~ん

あと四四八の詠唱はオリジナルです
詠唱は正田作品の華なのでやらせてたげたかったんですけど
今回あるのとないのがあるんですよね……
ということで、なんともしっくりきた慈円の和歌を使わせていただきました

お付き合い頂きましてありがとうござます

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