戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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前々回で、やっべ!京だしてねぇ!!ってなったのは内緒

あと、なんでモブをこんなに喋らせな、いかんかったんや……


第十話  ~邂逅~

 夜の街を黒髪の女が歩いている。

 しっかりと見ると相当な美人なのだが、不機嫌そうな雰囲気を隠そうともしていない。

 

 そう、川神百代は不機嫌だった。

 

 休みの前だというのに、自分を除くファミリー全員予定があるとかで誰も自分にかまってはくれない。心底つまらない。

 

 キャップは千信館がきた初日鎌倉に行ったあと、江ノ島でシラス丼を食べたら、静岡のと食べ比べをしたくなった――という理由で静岡に行ったらしい、自転車で。だから未だ帰ってきてない。

 モロはゲーセンでの大会。

 ガクトはなんとかの宴。

 大和は食事に行くと言っていた。

 

 なにより妹たちがカラオケに行っているのが何とも悔しい。もちろん誘ってはくれたが、先のテストの結果と最近の素行の為に鉄心から呼び出されていたので泣く泣く断った、お説教から解放されたのが今さっき。もうこの時間だ流石にお開きの頃だろう。

 

 説教を食らったあと家に篭るという選択肢もないので街に出たのはいいもののまるで宛がない、基地に行ってもいいがどの道一人しかいないなら行ってもしょうがない。

そしてお腹もすいてきた、金さえあれば何処かに入って時間を潰せるがまずもって先立つものがない。

 

「あー、もー、つまらん!!こういう時、弟は姉を慰めるもんだぞーー、大和の薄情モノーー」

 繁華街の真ん中で百代は声を上げた。

 

 別に大和は百代をのけ者にしたわけじゃないし、大体にして今晩の面子に百代は関係がない。だから自分が言っていることが理不尽なのは理解をしているのだが、この欲求不満は何かにぶつけないと解消できそうにない。

 

 もう、関係なくてもいいから大和に電話をして会食の席に潜り込んでやろうかと、半ば本気で思い始めた時――声をかけられた。

 

「ねぇ、彼女、そんなに暇なら俺らと遊ばない?」

「そうそう、いい場所知ってんだよねー」

「なになに!よくみたら、すっげぇ美人じゃん」

 そう言って見るからに軽薄そうな男たちが声をかけてきた、人数は3人。週末ナンパ目的で街に繰り出した大学生……と、いったところか。

 

「うっとおしいな、さっさと消……」

 まで言おうとして、思い直す。

「ああ、別にいいぞ。だがお腹がすいててな、なんか食べさせてくれ」

 

「え?マジ?マジ?んじゃ俺いい店知ってんだよね」

「あのBar?高くね?」

「ばっか、そんなに飲みゃしねぇよ」

「OKOK、取り敢えず行こうぜ」

 

 そう言って、店を知っているらしい男が先導して歩いていく。

 これで飯にはありつける……

 百代の顔には笑みが張り付いていた。

 

 

――――川神某所 カラオケBOX前――――

 

 

「いやー、歌った歌ったぁ」

「はー、楽しかったー」

「自分も満足だ!」

「クリス最後歌いすぎー、マイク離しなさいよね」

「まぁまぁ、一子。楽しかったからいいじゃない」

「そうそう、鈴子もいってるけど、楽しかったからOKだよ」

「松風、私、人前で歌えましたよ……」

「よかったぞー、まゆっち、オラ「ぞうさん」きいて泣けたのはじめてだー」

 

 カラオケ組の面々は満足しきった様子で出てきた。

「おーし、んじゃこれからどうすっかなー、腹減ったしどっか食べいくか」

「おー、あっちゃんいいねー。その胸にさらに肉を付けるきかい?」

「あー?あゆ、おめぇはもうちょい肉つけたほうがいいんじゃねぇか?って、もう、つかねぇのかぁー」

「あーーー、あっちゃんいったな、言ってはならぬことなのに……この――そばもん!カール・クラフト!!」

「てめぇ、そばもんと水銀並べてんじゃねぇよ!全然ちげぇじゃねぇか!!」

 

「まったく、何二人でバカなこと言ってんのよ」

「そうだよ、ね、それよりクリス達はどうする?何か食べいく?」

 

「あー、アタシは帰るわ、お爺さまが心配してるかもしれないし」

「自分もかえるぞ、1時間ぐらい前から『早く帰ってきてください』ってマルさんからメールが来てるからな、10通位」

「じゃあ、私もクリスさんと一緒に帰ります」

 

 川神の面々とはここで解散ということになった。

「まったねー」

「またな!」

「おやすみなさい」

 

「じゃあまた、学園でね」

「じゃあなー」

「バイバーイ」

「お疲れ様」

 

「さーて、んじゃマジな話、どこ行こっか」

「向こうのライブハウスの隣にパスタ屋さんがあったからそこにしようか?」

「わたし、カルボナーラ食べた―い」

「あんた、よくあんなコテコテのもの食べられるわね……」

「りんちゃんはもうちょっと食べないとー、美味しそうな身体にならないよ?」

「あんたに言われたくないわよ!てか、晶の時と言いあんた自虐ネタにでも凝ってるの」

「でも、私も鈴子はもうちょっと食べた方がいいと思うなぁ」

「おめぇは食べすぎなんだよ、水希」

 

 千信館の面々はキャイキャイと騒ぎながら、ライブハウスに隣接したパスタ屋目指して歩いて行った……

 そのライブハウスが今、魍魎の巣窟になっているとも知らずに……

 

 

―――――川神某所 地下Bar前―――――

 

 

 四四八達3人が店に入って行ったあと、京は入口で3時間近くウロウロとうろついていた。

 

 まさか、Barに入るのは想定外だった。他の店ならともかく制服のままの京は流石にBarには入れない、地下ということもあり入口以外に様子を伺うことができないのも口惜しい。制服を着替えてこなかった事があまりに手痛い……

 

「くうぅぅ……3人が入ってから3時間……音沙汰がない……中ではどんなハッテン場が繰り広げられているのか……あぁ、大和ぉ……なんという寝とられ感!!」

 

 この調子でBarの前で3時間近く悶えている。はたから見て非常に怪しい、むしろ今まで通報されてないことが奇跡だと言ってもいい。

 

 そんな風にいつ大和達が出てきてもいいように店の周りをウロついてる時、

「あれ……?モモ先輩?」

見慣れた顔が男の集団とともにBarに入って行っていくのを見た。

 女の子を侍らせている事は多いが、男の集団といるというのは珍しい、しかもなんともいえない笑顔を張りつかせていたようにもみえる。

 

 あんまり、いい感じじゃない……

 様子を見に行きたいが、最初のジレンマに立ち戻る。学生服じゃ流石にBarには入れない……京は新たに悶々とするものを抱えながら、再びBarの入口を睨みつけるのである。

 

「俺、ここよく来んだけど、女の子連れてくんの珍しいんだぜ」

「嘘つけよ、この前だって女と来てたくせに」

「ばっか、ちげぇよ、アレは妹、妹の誕生日にここに来たんですー」

「あっれ?おまえ妹なんかいたっけ」

「ちょ、おまっ、余計なこと言ってんじゃねぇよ」

 

 なにか勝手に盛り上がりながら、男3人は百代を囲みながら地下へと降りていく。

「あ、4人だけど席ある?」

 

 ウェイターに話して席に案内してもらう、

取り敢えずヤケ食いしてコイツ等に奢ってもらおう。そして、終わったら大和に遊んでもらおう。

などと百代が考えていると。

 

「あれ?あんた達、何してんのよ?」

「げっ、お前らこそなんでいんだよ」

 

 前に座ったテーブルの3人の女が男達に声をかける、知り合いらしい。

 

「何その娘。ちょっと、まさかあんた等、彼女持ちなのにナンパとかしてんの?」

「うっせぇな、いいだろ、関係ねぇじゃん」

「はぁ?なに自分の彼女に向かって関係ないとか言ってるわけぇ?」

 

 ギャンギャンと痴話喧嘩が始まった。

 

 要約するとこの男3人組の彼女(?)たちがそこの3人組らしい。かなりの偶然だが本人たちにとっては災難だろう。まあ、まずもって自分の彼女が知っている店に、ほかの女を連れてくるという事自体が論外なわけだが……

 

 席で頬杖をついて見ていたが、この痴話喧嘩終わる気配がない。

 流石に興が削がれて帰ろうとしたとき、男の一人が性懲りもなく引き止めに来た。

 

「ちょちょちょ、まってよ、場所変えよ、場所、ね?」

「は、この期に及んであんた何言ってんの、サイッテー!」

「だーー、うっるせぇな、黙ってろよ!!」

 そう言って袖を掴んできた女の顔を、男が思いっきり叩いた。

それをきっかけに、ほかの二人も目の前の女を跳ね除け、叩いて引き剥がす。

 

「ったく、メンドくせぇなぁ、ちょっと声かけただけで彼女気取りとかねぇから」

「だからこの店やだったんだよ!」

「あー、服のびちまったじゃんー」

 女には目もくれず、好き勝手なことを言う男たち。そんな男たちの肩に百代の手がポンと、置かれた。

 

「女性にそういうことをする奴には、お仕置きが必要だなぁ……」

 振り返ったとき男が見たのは、顔に満面の笑みを浮かべた百代だった。

 次の瞬間、ゴキッ!っという音が男の右側でなった。

 男が、そちらに目をやると……そこで見たものは、通常ではありえない方向に折れ曲がっている自らの右腕だった――

 

――店内に男の絶叫が響き渡った。

 

「ん?なんか入口の方が騒がしくない?」

「ああ、痴話喧嘩でしょう。Barでは珍しいことでもありません、ねぇ四四八君」

「ん、まぁ、そうだな。お互いに酔ってることが多いから面倒臭いことこの上ない」

「あー、そりゃバーテンだもな、仲裁に入るわな」

「だから、最近はもっぱら鳴滝に任せてる。アイツがいって声かければ大抵の奴らはだまるからな」

「ははは、それはそれは、彼が仲裁に来たら辞めざるを得ませんね」

「バーテンというより、用心棒だな……」

「くはは、確かに。だけど鳴滝の前では言ってやるなよ、あれで真面目にバーテンやってんだから」

 

 痴話喧嘩を肴にそんな話をしていると……

 

ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!

 

 店内に絶叫が響き渡った。

「お、おい……」

「流石に見に行くか」

「そうですね、行きましょう」

 

 そうして悲鳴の上がった方に駆けつけた3人が見たものは――

「姉さん!!」

 手と足があらぬ方向に曲がって床に倒れふしている2人の男と、3人目の獲物と思わしき男を片手で持ち上げている川神百代の姿だった。

 

「おー、大和か。奇遇だなここにいたのか」

「そんなことより、姉さんなんだよこれ!」

「ああ、こいつら女性の扱いがなってなくてな、少々お仕置きしてる最中だ」

「それにしたって、やりすぎだ!」

「あん?大和……おまえ、私に口答えする気か?ちょっと今日は機嫌が悪くてな、たとえ大和でもちょっとお灸を据えちゃうぞ?」

「それでもヤバイって、最近姉さんちょっとおかしいよ!」

 

 そんな大和の態度が面白くないのか、大和の言葉を無視して男に目を向ける。

「ふん……取り敢えずお前で最後だ、生まれ変わったら次から女に優しくするんだな……」

 

 そう言って腕を振り上げ、その腕を振り下ろそうとしたとき――

 

「直江の言うとおり、やりすぎです川神先輩」

 四四八がその腕を掴んで止めていた。百代見つめるその目は、緑色に燦然と輝いている。

 

「ほう……私を止めるのか優等生……」

 そう言って百代は既に気絶している男を放り捨て、四四八に向かい合う。

 

「ならば、次の相手はお前がしてくれるのか?」

「断ります。此処では店に迷惑がかかる、そしてそれ以上に俺はあなたと戦う理由がない」

「ふん……ならばこれでも同じことが言えるか、なッ!!」

 

 そう言って百代は四四八の顔面に拳を繰り出した。

 

「姉さん!!!」

 それを見た大和が叫ぶ、

 

誰もが四四八の顔に拳が当たると思った直前――拳は四四八の鼻先でピタリと止められていた。

 

「……何故、避けなかった」

「この一発を喰らって騒ぎが収まるなら安いもの――そう思ったからです」

 

「フンッ……つまらん男だ……興が削がれた。帰る」

 そう言ってクルリと踵を返すと出口へと向かっていった。

 

 そんな百代と四四八を大和が交互に見比べている。

 

 四四八が大和に黙って小さく顎をしゃくり出口の方を示す。

 冬馬も小さく頷いて大和を促す。

 大和は目で礼を言い、百代のあとを追いかけていった。

 

「けが人はウチの方に連絡をしておきましたから、もうすぐ救急車が来ると思います。店の方は……まぁ、特に何かが壊れたというわけでもないみたいなので、あとで私の方から謝っておきますよ」

「すまないな、葵」

「いえいえ、四四八君が穏便に済ませてくれたので、この程度で済んだのですよ」

「直江がいなかったらもっと酷い事になってたろうさ」

「ああ、そうですね。大和君にもあとでお礼を言っておきましょう」

「というか、あいつ、マメみたいだから、向こうから謝罪の連絡がありそうだけどな」

「まぁ、あるでしょうね。その辺はとても気がききますから」

 

 店内もようやく落ち着いてきたようだ、ウエイター達が散らかったイスやテーブルを片付け始めている。

 

「時間も時間だ、俺達もそろそろ行こう」

「そうですね……申し訳ありません。最後の最後でケチがついてしまって」

「別に葵のせいじゃないさ、もちろん直江のせいでもない」

「また、お誘いしてもいいですか?仕切り直しということでまた3人で飲みましょう」

「別にお構わないが、なんか、2人に俺がいじられているようにしか感じなかったんだがな」

「ふふふ、そういうつもりはなかったのですが。まぁ、それも人徳ということで」

 そう言いながら、会計を済ませ店を出ていく。

 

 この時、柊四四八と川神百代は初めて邂逅したのだ――

 

 

―――――川神某所 ライブハウス前―――――

 

 

「はー、食った食った、うまかったな、ここのパスタ」

「晶、あんたオッサン臭いわよ」

「やー、みっちゃん相変わらず食べるよねー、どこに入ってるの?」

「んー、別腹?」

「どこに、パスタ3皿入る別腹があんだよ、牛かよ」

「あっちゃんに牛とか言われてもねぇ……」

「そうよ、あんたこそ、牛じゃない……」

 そんなことを言いながら店から出ると……

 

「うおっ!なんだこりゃ」

 そこはライブハウスから吐き出された男どもで溢れてた。

 魍魎の宴SPは第一部が終了し、第二部 ~童帝厳選レアモノAV鑑賞会~の間の休憩時間となっていた。

 二部のために体力を回復させようと、魍魎たちは散り散りにちっていく。

 

「ライブでも終わったんかね?」

「でも、男ばっかじゃない、なんなのよ」

「んー、地下アイドルとかじゃない、結構人気あったりするし」

「そうかぁ、でもさ、なんか見たことある顔多いような……キャッ!」

 

 そんな風に話していると、男の一人と水希がぶつかり二人して尻餅を付いた。

「ス、ス、スミマセン!」

「ああ、こちらこそゴメンなさい前見てなかったもんで」

「え……あ……水希……」

「え?……どこかでお会いしましたっけ?」

「いや、えっと、その……うわあああああああああああああ!!」

 

 そう言って男はいきなり叫び声を上げながら去っていった。

 男の転んでたところに、何か布のようなものが落ちているのを見つけ水希が、

「あのーーーー、何か落としましたよーーー」

と、声をかけてみたが、男の姿はもう見えなかった。

 

「水希、あんた大丈夫?」

「うん、私は大丈夫だけど……これ落とし物みたいなのよね」

「なんだ?ハンカチか?」

「広げてみたら?名前書いてあるかもしれないし」

 

 そうね――

 水希はそういって布を広げた――すると……

 

「ちょ、これパンツじゃない!」

「おいおい、あいつ下着泥棒かよ!最低だな!!」

「だからあんなに挙動不審だったんだねぇ……ってみっちゃん、どうしたの?」

 

「これ、あたしんだ……」

「へ?マジで?」

「うん、最近お気に入りのが一枚なくなって探してたんだ……」

「ねぇ、じゃあ、下着泥棒ウチの寮に潜り込んだってわけ?ちょっと寮母さんにいったほうがいいんじゃない?」

 そんな話をしていると――

 

「げっ、お前等なんでこんなとこいんだよ!」

 ライブハウスから出てきた栄光とバッタリ鉢合わせる。

 

「「「「 あっ…… 」」」」

 

「え?なに?なんだよ、なんだよ??」

 怒気を漂わせながらジリジリと詰め寄る4人に涙目になる栄光、

「栄光ぅ、ちょぉぉっと、聞きたいことがあるんだ」

「いい、大杉くん、世の中にはねやっていい事と悪いことがあるんだよ?」

「不潔!変態!!最っ低!!!あんた、これから私の半径1m以内に入ってこないでくれない」

「栄光くんさぁ、もう観念しちゃいなよ、これ以上の抵抗は罪を重くするだけだよ?」

 

「ひっ!ひいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 

 深夜の川神に栄光の悲鳴が響き渡った。

 

 

―――――

 

 

「大杉……お前なにやってんだ?」

 

 深夜、怪我の治療と食事を済ませた鳴滝が寮に戻ってくると、

2階のベランダから首に『私はカール・クラフトです』と書かれたプレートをかけられた半裸の栄光がみのむしの様に吊るされていた……

 

 こうして、各々の川神での夜が終わっていく……

 




一番難産の回でした
前3回の夜遊び回との時間経過が違和感なく校正しようとして四苦八苦……
あと、どうやったら自然に百代と四四八を会わせられるかなと考えこんな感じになりました

お付き合い頂きましてありがとうございます。

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