戦真館×川神学園 【本編完結】   作:おおがみしょーい

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苦手な戦闘描写第二弾です

やっぱ、こう……書きなれてない感が半端なかです


第九話  ~夜戦~

「お疲れ、ブラックだけどいいか?」

 手に持った缶コーヒーを投げながら忠勝は鳴滝に声をかけた。

「あぁ問題ねぇ、悪りぃな」

 鳴滝は受け取ったブラックの缶コーヒーを空け喉をうるおす、疲れた体にコーヒーの苦さがしみる。

 

 川神の繁華街の奥、通称「親不孝通り」と呼ばれている一画で鳴滝淳士と源忠勝は話している。九鬼のクローン計画の為に「川神浄化計画」が行われたとはいえ、そこは川神。

 まだまだ街の胡散臭い部分は残っているし、こういうものはそもそも、なくそうとしても無くなりはしないものかもしれない。

 

「どうだよ、川神は。ろくでもねぇ街だろ」

「あぁ、まあな。でもこういうとこはどこも同じ様なもんだ、鎌倉だって夏になりゃ海はヤンキーであふれてるぜ」

「なるほどな……」

 

 そう言って会話は途切れた、特に話を良くする二人ではない。必然、こういう沈黙の時間が多くなる。今夜二人で巨人の代行業の手伝いをした際もこのように沈黙が流れる時間がそれなりにあった。

 だが、鳴滝自身こういう沈黙は嫌いじゃない。むしろ得意げになってペラ回してる奴は基本的に軽い奴が多い気がして好きになれない。

 

「それにしても、源。おめぇいつもこんな事してんのか?」

「あ、まぁな。親父一人じゃ流石にまわらねぇしな」

「それにしたって、学生がやるような仕事じゃねぇだろうに……」

「そればっかりは仕方ねぇ、としか言えねぇな。別に嫌々やってるわけじゃねぇし、それに今更大学って柄でもねぇからな」

「それを言えば俺だってそうだ、大学って柄じゃねぇ……そういうのは柊の領分だ」

「そういや、鳴滝、おまえ鎌倉じゃなんかバイトしてんのか?」

「ああ、柊と同じトコでな。バーテンだ」

「は?バーテン」

「なんだよ、文句あんのか?」

「いや、そのナリで接客とかできんのかよ」

「はっ、なめんな、余裕だそれくらい」

「……プッ」

「あっ!てめぇ、今、笑ったな!」

「悪ぃ、でもお前と柊が並んでバーテンやってるとか想像したらな……」

「ったく、言ってろ……」

 

 そう言うと鳴滝は飲み終わって空になった空き缶を近場のゴミ箱に放り投げた。

「今日の仕事はこれで終わりか?」

「ああ、親父から電話もねぇからこれで上がりだ。これからどうする、梅屋にでも行くか?」

「んあ?確かに腹減ったな、行くか」

「今日出たバイト代使い切るなよ?」

「あっ?さっきから思ってたけど、おめぇ、俺のこと結構バカにしてんだろ?」

「悪ぃ、なんかお前が相手だと、ついな」

「なんだそりゃ……」

 忠勝がこの手の冗談をいうのは珍しい、もしかしたら忠勝自身、自分が思っている以上にこの鳴滝という男を気に入っているのかもしれない。

 

 二人が梅屋に向かって歩きだそうとしたとき――

 

「ちょっと、やめてよ!!はなしてよ!!大声出すわよ!!」

 そんな女の声が聞こえる、

なんとはなしにそちらの方を見ると……

 

「おい、源、あいつウチのクラスの奴じゃねぇか?」

「ああ、小笠原だな。こんなとこで何やってんだアイツ……」

「アイツたしか鈴子達とカラオケ行くとか言ってたな、んじゃ帰りに……ってとこか」

「ったく、しょうがねぇな……」

 そう言って忠勝は声のする方へ行こうとする。

 

「おい、行くのか?」

「なんだよ?いかねぇのか?」

「――まさか」

「じゃあ、聞くなよ……」

 二人は小笠原の方へとかけて行く。

 

「おいっ!いい加減暴れんなって!」

「そうだって、観念しちゃいな、別に殺しゃしねぇんだからさ」

「そうそう、お互い気持ちいいことしようってだけじゃんー。むしろウィンウィンじゃん?」

「もう、部屋まで連れてかなくてもいんじゃね?」

「えー、でも外って汚れるからオレ嫌いなんだけどー」

「じゃあ、おめぇは見てろ」

 

 いよいよヤバそうな気配を感じ、千花は抵抗を激しくした。

 

「ちょっと!ほんと!!やめてよ!!!誰かーーーッ!!!」

「おい!うっるせぇぞ!!」

 気の短い一人が、千花の頬をはたこうと手を振りかぶった、

 

――その時、

 

「おい」

その手を止めた忠勝が男達に声をかける。

「――ッ! 源!鳴滝くん!!」

 千花が声を上げる。

 

「あ?何?彼氏??」

「そういうんじゃねぇけど、まぁ、知り合いだ。だから、この辺にしといてくんねぇかな?」

「はっ?意味分かんねぇ、流石にオレ等もここまで来て、はいそうですかって訳にはいかねぇんだよ!」

 

 そう言って、一人が忠勝に殴りかかっていく。

 それを――

「おらぁ!」

横から鳴滝が一撃で男の意識を刈り取る。

 鳴滝の一撃を喰らった男は糸の切れた操り人形のように道路に崩れ落ちる。

「二人でいんのに、一人を完全無視とか馬鹿じゃねぇのか」

 

「てめぇら……」

 一人やられて事態をようやく把握したのか、残りの5人は忠勝と鳴滝から離れ、対峙するような位置に下がる、

「行くぞォ!」

一人の男の声を合図に残りの4人も一斉に動き出した。

 

 忠勝に向かってきたのは2人。

 忠勝は殴りかかってきた男の拳が自分に届くより前に、ジャブを相手の顔面に拳を叩き込んだ

メチッという感触とともに相手がグラつく。

 そこを掴んでもう一人の方へと投げつける、投げつけられた男はバランスを崩して転んだ、そこへ――

「うりゃっ!!」

 その男の顔をサッカーボールを蹴る要領で蹴り上げる、歯が折れたのか白いものが道路の脇にすっ飛んでいった。

 

 が、次の瞬間、

「この野郎っ!!」

そんな声と共に忠勝は両足をガッシリと掴まれた、初めに殴った男が忠勝を転ばせようと両足を掴んできたのだ。複数人相手の時、転ばされるというのはそれだけで致命的だ、忠勝は転ばぬように下半身に力を入れる、その時――

 

「だから、二人いんのにもう一人完全に無視してんじゃねぇって、ホント馬鹿だろお前等」

 

 そんな声とともに、丸太のような足が忠勝の足を掴んでいた男に頭に踏み下ろされた。

 グシャ!っという音と共にアスファルトに男の顔が激突する。

 忠勝が周りを見ると、鳴滝に向かっていったであろう男3人が向こうの方で道路に倒れ伏してる、ピクリとも動かない。

 

 ふぅと息を吐き、鳴滝に礼を言う。

「ありがとな、助けてもらって」

「ああ、思ったより歯ごたえがなかったからな、3人で来といてなさけねぇ」

 

 なんて男だ……そんな鳴滝の言葉に苦笑しながら、今度は千花に声をかける。

「おい、大丈夫か?とりあえず家まで送ってやる、商店街の方だよな?」

 そういいながら、千花の近くに来たとき、暗闇から声が聞こえた。

 

「おいおい、小便してる間にどうするか決めてると思ったら、どうなってんだこりゃ――」

 

 暗闇から男が現れた。

 長髪の左腕に入れ墨をしたガタイのいい男だ、暴力の気配を隠そうともしていない。

 男――板垣竜兵は忠勝と鳴滝に向かって言った。

 

「パスポートがないのがバレて強制送還くらって帰ってみたら、てめぇ等見たいのと会うとわな、つくづく川神はおもしれぇ。別に女はどうでもいい、向こうに行くのに金が入用だったってだけだ。だが、いまはそれもどうでもいい」

 そう言って竜兵がニヤリと笑う、凄みを帯びた笑みだ。

 

「このまま帰れるとか思ってねぇよな……」

 竜兵は腰を落とし戦闘態勢に入る。

 

「……おい、そこの女連れて端に寄ってろ。寝てるやつらが起きるかもしれねぇ、見といてくれ」

 鳴滝が忠勝に声をかける。

「――やんのか」

「――ああ」

「……わかった」

 

 短いやりとりのあと忠勝は千花の手を引いて竜兵から十分な距離を取る。

 それを確認してから、鳴滝は竜兵に声をかけた。

 

「こいよ、相手になってやる」

 そういって、鳴滝は左足を、軽く前へ踏み出し、

左手を、ふわりと前へ出した、

右腕をたたんで、右の拳を脇の下に引いて、

そして、最後に腰を落とした。

 

「おいおい、なんだそりゃ――」

 それを見た竜兵が声をかけるが、もう鳴滝はしゃべらない、ただ竜兵を睨みつけている。

 

 竜兵の職業は傭兵だ――傭兵だったと言うべきかもしれない。川神浄化計画を嫌って海外へ飛び出し、戦地への移動の際パスポートがないのがバレて強制送還するまでの半年近く常に戦場に身を置いていた。

 だから、ヤバイやつの気配にはこの半年でとても敏感になった、そして今、目の前の男にそのセンサーがうるさいほど鳴り響いている、コイツは危険だ、と

 

 なのに、コイツの構えはなんなんだ、

構えが言っている。叫んでいる。

 俺はお前に、この右拳を打ち込むぞ、と――

自分で自分の出す技を予告するような構えだ。

 

 左手で竜兵の攻撃を払うかもしれない。

 左手で竜兵の攻撃を受けるかもしれない。

 左手で竜兵の攻撃を流すかもしれない。

 

 しかし、当てるのはこの右拳、そう構えが語っている。

 

 こんなもの普通はありえない、

出す攻撃がわかっていれば躱されてしまうからだ、受けられてしまうからだ、流されてしまうからだ。

 

 そんなことを考えていると……

 

 じりっ、っと一歩、鳴滝が前に出た。

 それに合わせて同じく一歩、竜兵が後ろに下がる――その時、竜兵の顔がさっと赤くなる。

 

 なぜ自分は今下がったのか、まだ距離は十分ある、間合いの取り合いをしてる段階ではない。確かにコイツはヤバイと警告音はなっている、しかし、ビビッてはいない。ビビッてはいないはずだ……なのになぜ下がったのか、なぜ、コイツの圧力に押されたのか。

 

 答えは出ている、自分はビビッているのだ。目の前の鳴滝と呼ばれた男に……

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 だから、それを否定するように竜兵は叫びながら鳴滝めがけて突進していった。

 考えるのはヤメだ、奴が右拳を当てたいならば当てればいい、俺はそれを耐えるなり、避けるなり、流すなりしてやつに組み付く。組み付いて倒す。

倒したあと、殴る。

 部隊でも、戦場でもこの方法で勝ってきた、だから、もう考えるのはヤメだ。

 

ヒュッ――

 

 竜兵が突進を始めたのと同時に鳴滝の側頭部めがけて何かが飛んできた。

 石だ――赤ん坊の拳ほどもあろうかという石が、鳴滝の死角から鳴滝のこめかみ付近に投げつけられていた。

 

「鳴滝!!」

 それに気づいた忠勝が鳴滝に警告のための声をかける。

 

 が、鳴滝は動かない――

いや、動いた――動いたか動かないかわからないくらい微妙に首を回し額で石を受け止める。目は竜兵からそらさない。額から血が流れてきてた。

 

 竜兵は既に鳴滝の目前まで迫ってきてる。

 鳴滝の左手が竜兵の視界を防ぐようにふっと前に出す、それを嫌って竜兵がその手を左手で払う。隙間が出来た――

 

「おらぁっ!!」

 

 鳴滝がその隙間に右拳をねじ込み、打ち抜く。入った。

 だが、竜兵は倒れずに鳴滝に組み付いた、しかし、鳴滝は倒れない、

 

 竜兵は動かない。

 

 鳴滝も動かない。

 

 ちょうど鳴滝の右脇腹のあたりに竜兵の頭がある。その頭が、鳴滝の右脇腹を滑って落ちていく。ごとりと、竜兵の身体が道路に沈んだ。

 そのまま動かなくなった。

 

――パチパチパチパチ

 

 石の飛んできた方から場違いな拍手とともに男が現れた。

 無精ひげを蓄えた男だ、竜兵と同じく暴力の気配を隠そうともしてない。

 その男――釈迦堂刑部は鳴滝に話しかける。

 

「兄ちゃんスゲェな……んでもって、怖えぇなぁ……」

 鳴滝は黙っている、額から流れる血をぬぐいもせずに今度は釈迦堂を睨みつける。

 

「そこに寝てんのは俺の弟子でな、あ、元になるか。ま、どっちでもいいや。その弟子がさ無茶な喧嘩してるみてぇだから、まぁ、師匠としちゃぁ、ちょっと援護させてもらったってわけよ。意味なかったみたいだけどな」

 石のことを言っているのだ、悪いとはまるで思っていないようだ。

 

「んで、ついでで申し訳ないんだけどさ。足元のそいつこっちに寄越しちゃくんねぇかな?弟子をそのままって訳にもいかないもんでな」

「連れて行きたきゃ、テメェが来い」

「だよなぁ、でもさ、兄ちゃんいいのかい?俺がこのまま近づいたら……始まっちまうぜ……」

 

 釈迦堂がそろりと言う、なにが?とは鳴滝は問わない。わかっているからだ。

 

「でも、こちらもあんまり派手に動きたくないんだよねぇ――でもってそこで提案なんだが……俺は5秒ごとにそちらに近づく5秒ごとに1歩づつだ、俺の提案飲んでくれるなら5秒ごとに1歩づつ下がってくれ、いいかい、んじゃ」

 

 

 

 

 

 

 釈迦堂が数を数え始める、そして丁度5の時、一歩前に出る。

 同時に鳴滝も一歩後ろに下がる。

 

 

 

 

 

5 

 

 再び釈迦堂が数を数え、一歩踏み出す。

 鳴滝が一歩下がる、ピリピリとした緊張感があたりを包む、

外から見ている忠勝でさえ息が詰まりそうだった。

 

 同じ動作を何回か繰り返して、数歩の距離をたっぷり30秒近く使って釈迦堂は竜兵のものへたどり着いた。

 

「おおぉい、生きてるか?……だめだ、完全にノビてやがる……」

 竜兵の様子を探って再び鳴滝に視線を戻す。

「さっきも言ったが、兄ちゃんすげぇな……こいつもともと頑丈だったが、戦地にいって更に堅くなってたんだがなぁ、その竜兵が一撃ねぇ……」

 感心したように呟くそして。

「んで、これもさっきも言ったが、兄ちゃん怖いねぇ……いつでも俺に飛びかかれるように準備万端じゃねぇか……」

 

 そう言いながら、釈迦堂は竜兵を肩に担ぐ。

「でも、今はあんまり目立ちたくはねぇんだ、だから今日のところはこれで帰らせてもらうぜ」

 そういってクルリと後ろを向き歩き出す――

 

 と、その瞬間――竜兵の身体が鳴滝めがけて飛んできた。

 

 釈迦堂が担いだ竜兵を鳴滝めがけて投げつけてきたのだ。

 選択肢としては避けるしかない、右か、左か……鳴滝の選択は、下。

 頭を下げて竜兵の体をくぐる。

 

 そしてその先には、竜兵の身体に隠れるように釈迦堂が空中を疾っていた。

 

「でぇえりゃ!」

 釈迦堂は低い姿勢の鳴滝めがけて踵を打ち下ろてきた。

 その踵を鳴滝は右の拳で迎え撃つ、靴を履いている踵、それは一つの凶器といってもいい、それを裸の拳で迎え撃った。

 

 踵と拳がぶつかり合う、ゴンッ!と硬いものがぶつかり合う音がする。

 時間が止まったかのような一瞬のあと、

釈迦堂は鳴滝の力を反動に使い前に飛び、地面にぶつかるスレスレで竜兵の身体を捕まえると、一気に担ぎ直して、今度は全速力で鳴滝とは逆の方へ駆けていった。

 

「……大ボラ吹きが」

 たっぷり20秒、釈迦堂が駆けていった方向を睨みつけたあと、鳴滝はつぶやいた。

 

「おい、鳴滝大丈夫か!」

「大丈夫!鳴滝くん!!」

 我に返った忠勝と千花が近づいてくる。

 

「ああ、大したことねぇ」

「でも、血がいっぱい出てる……」

 鳴滝の拳と額からは血が流れている。

 

「あ、気にすんな、なめときゃ治る」

「でも、私のせいで……ごめんなさい……」

「そう思ってんなら、もうちょい気をつけるんだな。鈴子あたりに送ってもらえりゃよかったんだ」

「……うん」

 まあ、千花が悪いわけではないのだろう、攻めても仕方ない。だから、慣れないことだと分かってはいたが、強引に話題を変えた。

 

「なぁ、源、さっきのでさらに腹が減ったわ。こいつ送ったついでに梅屋行こうぜ」

「あっ?その前に怪我の治療だろ、送ったあとに事務所いくぞ、事務所」

「はぁ、こんなもん舐めときゃ治るって言ったろ、それより腹減ってんだよ」

「ああ、わかったよ、とにかく行くぞ、ほらお前も」

 

 そういって3人は商店街に向かって歩きだした。

 

「あの…源も鳴滝くんもありがとう、助けてくれて……」

 家への道すがら、千花は何度も二人に礼をいったが返ってくる言葉は二人共一緒だった。

 

「「……気にすんな」」

 

 前にも感じてたが、この二人やっぱり似てるな……千花はそんなことを思っていた……

 

 




√が違うため未だ破段に目覚めない鳴滝を
鳴滝の戦闘CGの構えから妄想して書いてみました
某マッキーみたいになってしまったのは、自分のボキャブラリーの少なさですorz

あと、地の文の人名は基本名前なのですが
鳴滝と釈迦堂だけはどうしてもしっくりこなかったので苗字表記です

お付き合い頂きまして、ありがとうございます

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