炎天下の東京エリアの路地裏。エアコンの室外機からは熱い空気が絶え間なく吐き出され、茹だるような気温で熱された温風とマッチしてより一層不快感を強めていた。
「……ったく。自分のお人よし加減にも吐き気がする」
所々焦げたスーツを脱ぎ、近場の紳士服店で購入した黒のブラウスの着込んだ零子は吐き捨てた。
彼女はつい先ほどまでパサードが起した爆発による火災の、人命救助にあたっていたのだ。水も被らずに火災現場に突入した時は流石に無謀かとも思ったが、最終的には女性も救えたのでなんとか事なきを得た。
そして女性にお礼を言われたものの、パサードに指定された駅のコインロッカーに向かうために適当に切り上げて現在に至るというわけだ。
さすがに焦げたスーツでいるのもどうかと思ったので、紳士服店で黒のブラウスを買ったが、店員からは随分と訝しげな視線で見られていた。まぁ行き着けの店でもないので顔などすぐに忘れてくれるだろう。
「それにしても、あのクソ爆弾魔。随分と人のことを弄んでくれる」
煤けた髪をかきあげた彼女は、自販機で買ったミネラルウォーターを頭上から引っかぶった。暑さと火災で火照った身体に冷たく、心地よい感覚が流れていく。ブラウスが濡れてしまったがこの炎天下ならばすぐに渇くだろう。
彼女は軽く頭を振って水気を払うと、もう一本のミネラルウォーターの封を切って口に含む。それと同時に、スカートのポケットから渋谷駅のコインロッカーの鍵を取り出した。
「次の目的地は渋谷駅……特に移動手段も移動時間も特に指定されてないからタクシーでも拾うか……」
彼女の言うとおり、今の位置から渋谷駅まではそれなりの距離がある。タクシーで向かった方が明らかに時間の短縮にもなるし、体力の回復もできる。だが、彼女は小さく息をついた後、買い物袋をその場に放り、路地を出ながらお気に入りのタバコを開けて一本咥え、流れるような手つきでライターで火をつける。
一度ゆっくりと煙を吸い込み、静かに吐き出した零子は目尻を僅かに上げた。
……やめた。時間制限もないんだったらゆっくり行った方が得だし、それに何よりも考えを整理する時間も取れる。
内心で思うと、そのまま渋谷駅に向けて歩き出し、パサードがなぜ自分を執拗に狙うのか、なぜ自分の過去をここまで深く知っているのかを考える。そしてそれらを踏まえた上で、彼が何者であるのか、果たして自分の知っている人物であるのかを導き出そうとした。
まず最初に彼が零子を狙う理由としては、自分に相当の恨みを抱いているほか理由がないだろう。または、ただ単に人をおちょくっているだけかもしれない。が、「それはないはずだ」と零子は踏んでいる。ただ人をおちょくるだけなら、いちいち自分の過去を詮索する必要はないし、無差別に爆弾を爆破させた方がよほど面白いだろう。
だから考えられるのは零子自身にたいそう恨みを抱いている人物となる。
では、自分に恨みを抱き、尚且つ過去の経歴をこれだけ知っている人物は誰だろうか。真っ先に思い当たるのは自衛隊にいたときに彼女を強制除隊させた上官共か、それとも同じ部隊だった仲間達の遺族か……。
思い出せばきりがないが、今はそれらを一つ一つ潰していこう。まず第一の上官どもだが、これはないに等しいだろう。確かにハイレシスは毛嫌いされていたが、彼等にとって不利益になる情報は持っていない。というか、当時の上官は今は隠居生活か、更に上の役職についているはずだ。今更過去を穿り返して大事にはさせないと思われるので、殆ど白と思っていいだろう。
となると、仲間達の遺族はどうだ? 実を言うとこれが結構怪しいと踏んでいたりする。遺族からすれば自分達の家族が死んだことほど悲しいことはない。だがハイレシスは自衛隊以外には秘匿に部隊だ。たとえ遺族であっても、情報の開示はされないはずだ。しかし、それはあくまでも「はず」である。絶対に開示されないわけではない。もしかしたら、どこかから情報が漏洩した可能性もある。
それにハイレシスが崩壊したのはガストレア戦争中の真っ只中だ。情報規制が上手くしかれていなかったことも視野に入れれば、ありえない話ではない。これから導くとなると遺族はかなり黒に近いグレーではないだろうか。
だとしてもこれらは全て仮説に過ぎない。証拠もなければ確固たる自信もない。さてはてどうしたものか。
考えながら三本目のタバコに火をつけようとした零子は、足を止めてポケットからスマホを取り出し、電話帳を開いた。連絡するのは民間警備会社の社員ではなく、今も防衛省に勤務している知り合いだ。確か部署は部署は人事部だった気がする。
『はい、なんのようですか。黒崎先輩』
返答の声音は面倒くささと、溜息が入り混じったようなものだった。声の質からして男性というのはすぐに分かった。
「私からの連絡には2コール以内に出ろと教えておいたはずだが?」
『だから出たじゃないですか』
「いいや、出てないな。今のは二回コールした後に三回目に入ったところだった。まったく、また教育が必要か?」
『わー、相変わらずの理不尽ー。……それで何で自分のところに電話して来たんスか? まさかただの悪戯のためだけにかけて来たってことはないッスよね』
「ああ。そのあたりは私もわきまえているさ。と言うか、私が連絡する時など体外何か問題が起きたときだろう? 志郎」
僅かに口角を上げながら言う彼女に、電話の向こう側にいる志郎とよばれた男性も小さく苦笑した様子だ。
彼の名は
卒業後は彼は零子とは別の大学に進学して防衛省に勤務したらしく、自衛隊にいた頃に再び顔を合わせることとなった。
『それで、自分に連絡するほどの問題ってなにがあったんスか?』
「ちょっと調べものをして欲しくてな。志郎。お前、私が所属していたハイレシスのことは知っているな」
『そりゃまぁ極秘事項だけど先輩が教えてくれましたからね。で、そのハイレシスについて調べて欲しいことってのは?』
「ハイレシスの私以外のメンバーの死亡記録と個人情報を調べて寄越せ。簡単だろう?」
そういうと同時に電話の向こう側で咽た志郎の咳ごむ声が聞こえた。
「大丈夫か?」
『ゲホ、ゲッホ! ……えーっと、先輩? それマジで言ってます?』
「マジもマジの大マジだ。でなければこんな連絡は入れん」
『デスヨネー……ってか、なんで急にハイレシスのことを?』
「そのあたりは気にするな。少し気になることがあるだけだ。それで、できるのか? できないのか?」
『できないって言ってもやらせるくせに。その質問意味あります? まぁ出来ないことはないんですが、色々犯罪ギリギリのことをしなくちゃいけないんで、最低でもあと二十分ぐらいは待ってください。こっちだって仕事とかあるんですから』
「ハッ、私達の税金でお
『はいはい。それじゃあ調べられたら連絡しますんで、あと、このデータ絶対に見せちゃダメですよ? 使ったら物理的に破壊するなりなんなりしてください。それじゃあ、また』
志郎は溜息交じりに電話を切った。
電話を終えた零子はスマホをしまいながら、咥えていたタバコに火をつけて再び紫煙を燻らせる。
……これでハイレシス全員分の死亡記録が手に入る。まぁどこまで上手くいくかはわからんが、それでもかなり核心に近づけるはずだ。
零子が考えているのはこうだ。まずハイレシスのメンバーの個人情報を今一度洗い直して彼等の家族構成を今一度洗いなおす。その中から東京エリアに在住のものを探し、更に彼等の今現在の年齢を計算して、今回のパサードの事件を起せるか解析するのだ。
もし、ハイレシスの仲間の中に既婚者がいて、子供がいたとすれば、その子供が事件を起しているとも限らないからだ。まったく、今になって仲間達に子供の有無を聞いておくべきだったと思うとは中々に情けない話だ。
そしてもう一つの方、仲間達の死亡記録だが、これは殆ど勘というか、想像の域の問題となる。それはもし、あの時あの場所でガストレアに食い殺されたと思った仲間達に生き残りがいたらということだ。無論零子とてハイレシスのことがどれくらい記録されているのかは分かっていない。
記録は白紙かもしれないし、存在そのものが消されているかもしれない。まぁそうであればまた次の一手を考えるのみだ。しかし、最低でもこれは分かっている。パサードは自分にゆかりのある人物の知り合いか、その本人である可能性が高い。
「でも、もしハイレシスのメンバーが生き残っていた場合、爆弾の扱いに手馴れているヤツって言ったら、宗彦ぐらいだけど……アイツは私の目の前で喰われたはず……」
そうなのだ。かつての仲間の中で爆発物の操作に長けている人物は鞍馬宗彦だった。しかし彼は任務中に零子の目の前で、狼型のガストレアに頭をもぎ取られて死んでいる。これは紛れもない事実であったはずだ。
だがあの時は仲間全体に緊張が奔っていたので、もしかすると零子の見間違いと言うこともあるかもしれない。だから、一概に宗彦がパサードでないとは言い切れない。
零子は問題は解決しないままであるが、いつまでも立ち止まっているわけには行かないと、渋谷駅へ向かう足を速めた。
渋谷駅に到着したのはそれから三十分後だった。遠い遠いと思っていたが、早歩きで来てしまったのかかなり速く到着してしまった。残念なことに志郎からの連絡はまだない。それなりに手間取っているようだ。
「まぁこっちからお願いしてるから、時間がかかってもしょうがないが」
軽く肩を竦めながら零子は指定されたコインロッカーへ向かう。久しく駅など利用していないので少しだけ迷いそうになったが、やがて指定されたコインロッカーにたどり着いた。
番号を確認してその番号のロッカーの鍵穴に鍵を指して回すと、解錠することができた。中には黒いバッグのようなものが入っていたが、その形状と大きさからして、零子はその中に何が入っているかすぐに想像が出来た。
……縦の長さからして入ってるのは狙撃銃か。
思いつつもファスナーを下げると、中にはやはりと言うべきか、鈍い光を放つ黒い銃身が見えた。形状を見るに、旧ソ連のエフゲニー・F・ドラグノフが設計したドラグノフ狙撃銃の系譜のようだ。恐らくイズマッシュが近代化を施したSVDKだろう。
この銃はかつて零子が自衛隊にいたときに愛用していた、所謂愛銃と言うヤツだ。しかし、あの事件以来持つ気がうせてもう何年も触ってすらいない。それでもすぐに分かってしまうのは職業病だろうか。
肩を竦めつつ、ガンケースを取り出してそれを肩に掛けようとすると、ガンケースにセロハンテープで一枚の紙が貼り付けられているのが見えた。それを引っぺがして紙面を見てみると、どうやら次の指令の様だ。
「『ニューセルリエアンタワーの屋上へ向かえ』ってまた屋上? 銃に屋上って……まさか今度は狙撃で爆弾をとめるとかじゃないだろうな」
疑念を抱きつつも零子はガンケースを肩に掛けて指定されたビルへと足を進めた。
指定されたビルに入ろうと自動ドアをくぐろうとしたときだった。スカートのポケットにつっこんでいたスマホが震えた。どうやらメールが送られてきたようだ。
エレベーターに乗り込んで最上階のボタンを押し込み、扉を閉めるとエレベーターはゆっくりと動き出した。小さく溜息をついたあと、再びスマホの画面を見やると、そこには志郎が調べたハイレシスのメンバーの個人情報が写っていた。
全員分の個人情報を見やるが、その中には特にこれと言ったものはない。というか、ハイレシスのメンバーには既婚者はおらず、そして彼等の両親も殆どはガストレア大戦中に命を落としているようだった。ただ一人、花塚愛実には祖父母がいたらしいが、残念ながら年齢を考えても今回のような事件は起せないだろう。最年長である東堂誠一でさえ結婚していなかったようで、息子や娘の情報もない。
「なるほど……」
顎に手を当てて考え込むと、今度はそれぞれの死亡記録に目を通す。上から順に見ていくと、『城之内辰護 殉職、花塚愛実 殉職、松永光 殉職、黒崎零子 除隊、鞍馬宗彦 殉職』と言う風にかなり簡素な死亡記録が書かれていた。しかし、その中には含まれず、一人だけ別枠で名前を書かれているものがいた。
その人物の名前が書かれている欄にはこうあった。
『任務中行方不明者』と。
そしてその欄にあった名前こそが、零子達ハイレシスのメンバーを統率していたメンバー最年長の男性、『東堂誠一』であった。
「東堂隊長が行方不明……?」
そう呟いた瞬間、零子は自分が既に屋上へ到達していることに気が付いた。無意識のうちにここまで来てしまったようだ。それほど東堂が行方不明であることが衝撃的だったのだろう。
唐突にパサードから渡された携帯が鳴った。スマホをしまってからそれに出ると、相変わらずの変声機で変換された機械的な声が聞こえた。
『人命救助など下らんことをしているかとも思ったが、存外速く到着したな』
「それはどうも。それで、次は私に何をさせるつもりなのかしら? このドラグノフで的当てでもして爆弾解除でもするのかしら」
『ハハ、それもまた面白いがいい加減貴様も疲れただろうと思ってね。ここで最終局面にしてやろう』
「てことはこのビルごと爆破する?」
『ああ。私との勝負に負ければそうなる。そして更に、君が負けると同時に東京エリア中に設置した爆弾をいっせいに爆破してやる。クク、さぞかし綺麗な花火があがることだろうなぁ』
面白げに言うパサードの声は相変わらずの機械音声だが、その中には明らかな意思が込められていた。彼は冗談ぬきで絶対にやるだろう。しかも設置した爆弾の殆どは人が集まる場所においているに違いない。
もしそれらが一気に爆破でもされれば、犠牲者ははかりしれない。なんとしてもとめなくてはならない。
『さて、では勝負の内容を……』
「その前にひとつ良いかしら」
パサードの声を遮るようにして零子が言うと、彼も『なんだ』と返してきた。その声には僅かに苛立ちが見える。
「こちらとしては貴方の招待が分からず仕舞いってのは中々気持ち悪くてね。だからこちら側でも色々調べさせてもらったわ」
『なに? それはルールを破ったことに』
「ならないわね。何せ私が連絡を取ったのは私の部下でもなければ警察でもない。ただ少しおえらい職場で働いている、大切な後輩だもの。最初貴方は警察と部下に連絡するなと言った。そう考えればこれはまったくルール違反ではないと思うのだけれど?」
またしてもパサードの言葉を遮った零子は挑発するように言葉を連ねていく。
『屁理屈を……!』
「屁理屈結構。こっちは自分の命賭けてるわけだしね。それに準備不足な貴方だって悪いと思うわ。パサード……いや……」
そして零子は最後の言葉をつむぎだす。殆ど自分の想像の域を出ないことだが、それでも確かめなくてはいけないことだ。
「……東堂誠一。ハイレシスの隊長にして私の狙撃の師匠。それが貴方でしょう?」
『……』
パサードは答えない。沈黙は否定か肯定か……はたまた別のナニカか。
数秒間の沈黙の後、携帯から聞こえてきたのは懐かしいテノール調の声だった。
『いつから気付いた、黒崎』
この返答からして誠一であることは間違いない。と言うか声の感じで間違いようがなかった。
「残念ながら殆ど想像の域を出ませんでしたよ。ただ、さっきも言った調べたことを踏まえて、一度今日の最初から考え直して見たんです。最初から私のことを前々から知っている人物ではあるだろうとは考えていました。でも、思い出してみれば簡単なことでした。貴方は以前から優秀な人物でしたが、肝心なところで妙に詰めが甘い。そして笑い方が自然発生的なものではなく、作ったような笑いなのは相変わらずですね」
『ほう、そこまで見抜いたか。変声機を使ってもその辺りまでは隠し通せなかったというわけだな』
「まぁそれに気がつかなくても、どちらにせよカマを駆けてみる気ではいましたけど」
『ハッ、カマかけとは随分と賢しい手を使うようになったものだ』
「それだけ時が流れたということですよ」
タバコを捨ててグシグシとヒールで踏んで火を消す。彼女の言うとおり、ハイレシスが壊滅し、自衛隊を除隊してからもう何年も経過している。
零子は再び新しいタバコを咥えて火をつけると、誠一に問いを投げかける。
「東堂さん。なぜ今まで連絡を入れてくれなかったばかりか、こんなテロじみたまねを?」
『そんなこと語るには値しない……といいたいが、まぁいいだろう。なぜ私がこんなことを初め、貴様の命を狙うのかそれは至って単純なことだよ、黒崎』
電話の向こうで彼は一拍置い語り始めた。
『全ては私達の活動を認めず、ハイレシスを解散させた連中に復讐する為だ』
「ならばどうして最初から上の連中を狙わず、何の罪もない人たちを巻き込んだんですか!」
『そう熱くなるな。全ては実験だよ。なにぶん爆弾など鞍馬よりも上手くは扱えんからな。実験期間が必要だったのだよ』
「実験? そんなことのために無関係の人たちを巻き込んだと?」
『そんなこととは言ってくれるな。それに今の東京エリアがあるのは我々が必死で守ったからだろう。守ってやったんだから実験用のモルモット位にはなってくれんと困る』
声は冷たく、非情なものだった。過去の彼も時に非情とも言える行動をとってはいたが、このような横暴で自己中心的な性格ではなかった。それだけハイレシスの壊滅が彼を変えてしまったということか。
『それに今回のゲームは一種の試験でもあったのだよ。お前を私の仲間にするためのね』
「仲間?」
『ああ。私と組んで奴等への復讐を遂げようじゃないか。ハイレシスを壊滅させたあのクソッタレ共を皆殺しにするんだ。楽しいだろうなぁ。復讐を完遂すれば皆の魂も喜ぶだろうさ。どうだ? お前も奴等に怨みがないわけではないだろう? 何せ部隊を解体されたんだからな』
「……」
彼の言葉に沈黙した。いや、実際のところは絶句したという方が正しいか。
……まさかここまで歪むとはな。実直だったからこそ反動強すぎるということか。だが、それにしても……。
零子は拳をグッと握り締めた。ブチリという音が聞こえたので掌の皮が切れたのだろう。現に拳の隙間からは赤い血が滲み出していた。
人がこうも変わるものかと驚嘆もあったが、それ以上に今の彼女にあるのは怒りと言う感情だった。
「実験で人の命を奪う……守ってやったのだから役に立てとは……神にでもなったつもりか、東堂」
『あ?』
先ほどまでの零子とはまったく別人のような、低い声に誠一自身驚いたのだろう。マヌケな声が聞こえてきた。
『なにか言ったか、黒崎?』
「ああ、言ったとも。貴様の復讐などに私は何の興味もない。貴様の言葉も私の胸には届いてないどいない。今私にあるのは、貴様が許せないという憤怒だけだ」
『ほう……。私を裏切るのか? 自衛隊を除隊した時のように、また私を裏切るというのか』
「裏切りか……妄想に囚われるのも大概にして欲しいものだな。過去をいつまでも引き摺って、挙句の果てに復讐とは、まったく反吐がでそうになるよ。東堂」
捲くし立てるように言葉を連ねていく。
「過去に起きたことを変える事は不可能だ。ましてや死者が喜ぶ? 空想に酔うのも大概にしろ。貴様は警察に突き出して法によって相応の罰を受けてもらう」
『そうか、私に罰を与えるか……。では交渉は決裂だな。変わりに貴様を殺してやるぞ、黒崎。今すぐにな』
そう言って誠一は通話を切った。
零子も携帯をしまおうとしたが、視界の端で何かが光った。だがあの光り方には見覚えがある。アレは照準機の反射光で違いないはずだ。
光の正体が反射光だと核心した瞬間、またしても視界の中で何かが発光した。陽光交じりでよく見えなかったが、あれは
弾かれるようにそちらを見ると同時に、眼帯を掠めるようにして何かが駆け抜けて言った。その何かを特定するのは容易すぎた。なにせ、照準機の反射光と発火炎とくれば、来るものはただ一つ。
銃弾だ。
これはもう確認せずとも分かることだ。発火炎が見えたのは今いるビルから南西方向のビルの屋上だ。どうやら最初から交渉が決裂した時にこちらを抹殺するために控えていたようだ。と言うかそうでない方がおかしいか。
すると、第二撃をしらせる発火炎が上がった。だが零子はその場から動かない。
「いいだろう。狙撃勝負をしたいのならやってやる」
呟く彼女の瞳には眼帯がなく、目尻よりやや後ろのあたりから斬った様な傷跡が見えた。先ほどの狙撃の弾丸を掠めてしまったのだろう。大した傷ではない。
瞬間、彼女の元へライフルの弾丸が急接近してくるが、彼女はそれを難なく回避して見せた。
傷跡からやや視線をずらすと、そこには幾何学的な模様が高速回転する黒い瞳があった。
ハイレシス崩壊の折に使い物にならなくなった瞳の代わり。代用品と言うには余りにハイスペックな義眼だ。名前を『二一式黒膂石義眼試作機』と言う。四賢人と謳われる友人、室戸菫が作っていたものだ。
これによって零子は弾丸を避けることが出来たのだ。義眼に備わっている演算装置による思考の加速、気温、湿度、風向、風速……様々な外部的要因を計算する力で、彼女は人智を超えた回避術を手に入れている。
零子は第三撃が来る前に手早くガンケースを開くと、中からドラグノフとマガジンを取り出して手馴れた様子で弾丸を
すると、後方の方で銃弾によって屋上が抉れた。そのまま零子は奔り続け、あの位置からは狙うことが出来ない死角にもぐりこむと、照準機に額を当てた後、静かに言い放った。
「復讐心にかられた亡霊は今ここで退場してもらう」
どうもお久しぶりの更新です。
四月末からですから約三ヶ月? ですかね。かなり間を空けてしまって申し訳ありませんでした。色々忙しかったものでして。テストとかもありましたからね。
まぁ私の近況はどうでもいいとして、とりあえずこんな感じです。この流れで行くと次の話しで終わりますね。まぁ最後はどういう終わり方をするのか……。
はっきり言ってしまいますと、七巻の内容に入る前に新キャラを入れるための話をしたいのです。
「まだ新キャラ増えるのかよ」って思う方もいらっしゃるかと存じますが、ガンガン増えて行くと思われます。因みに新たなキャラは主要メンバーになる予定です。実を言うとかなりお気に入りですw
また、このキャラにも元ネタとしているキャラがいます。恐らく分かる方ならすぐに分かってしまうと思います。すごく簡単です。というか殆どまんま言っても過言ではありません。
それでは急ぎ足でしたが、次の更新で零子さん編完結します。
その次はいよいよ七巻の内容に入って行きますが、八巻が出ないので更新がまた止まるかもしれませんが、がんばって行きたいと思います。
では、感想ありましたらよろしくお願いします。