五月雨晴也の野望   作:漆原 涼介

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すいません。「うどん」は知ってますが、「たどん」はよく分からないです。


第九話 美濃動乱

『人は何かに縋(すが)りたがる。』

宗教、仏教など様々な物に、人は縋る。誰にでも、あなたにだって経験はある筈だ。お寺で、お願いしますと小銭を入れ、頭を下げる。『~~~の高校に受かりますように』『~~~会社に就職出来ますように』『~~~と結婚出来ますように』などなど、人は心が弱くなった時ほど何かに縋りたくなるものだ。心のどこかで信じていなくても、そうしてしまうものだ。これは悪いことではない、それこそ人間なのだから。だがいくら願っても、叶わないものもある。世界は実力主義だ。運がなかった、ではない。『運も実力の内』というのだから、実力がなかったということだ。運とは自然と付いてくるものである。要するに人間、最後に『頼れるのは自分だけ』ということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が馬で街道に向かう途中、五右衛門が連れて来た川浪衆が合流。顔がめちゃくちゃ怖いが、そんなこと今言っていても仕方がない。そして、織田軍の若い兵士たちも合流、ざっと見て百五十近くの兵士だった。皆、鉄砲や槍を担ぐ姿には緊張の糸が見られる。恐らく、初陣のやつらが多いのだろう。

 

(ったく。信奈のやつ、普通こんな戦に初陣のやつらを出すか?)

 

これは、絶対死なせる訳にはいかねえな。そう決意を固めていると、織田軍ではないボロボロの兵士たちが後ろから走ってきた。馬の動きを止める。

 

「おまえら……さっきの……」

 

道三の娘を連れてきた兵士たちだった。そして、種子島を担いだ明智光秀が前に出る。

 

「わたしたちも、道三さまを助けに行くです!」

「ダメだね」

 

晴也は即答した。当たり前だ、こんなボロボロの兵士たちを連れて行っても戦で戦う体力が残っているはずがない。ましてや圧倒的不利な状況下である。

 

「役に立たなくても、わたしたちは道三さまに忠誠を誓っているです!助けに行くというのなら、わたしたちも!」

 

光秀は今にも手に持っている種子島が火を吹きそうな勢いで、晴也に迫った。

 

「ここでおまえらが助けに行って討ち死になんてしたらな、道三はこう言うぜ『死んで逝ったやつらのためにも、ワシはここに残らなければならん』ってな!」

 

ピタッと光秀の動きが止まる。それを見た晴也は、全員を見渡し、信奈が送った若い足軽たちにも声を荒げる。

 

「おまえらもよく聞けっ!『絶対死なねえ』って、やつだけ俺について来い!死ぬ、なんて思ってるやつはさっさと家に帰りやがれっ!」

 

足軽たちは顔を見合わせる。ど、どうする?という不安そうな声が耳に入ってくる。そして初めに何人かが、頭を下げて来た道を引き返し、続いて、数十人、また数十人と去って行った。

 

「……残ったのはこれだけか」

 

残ったのは約四割だった。 残った者たちは全て、信奈と道三の会見、更に織田家のお家騒動を解決したという晴也に希望を持った者たちだった。これだけ残れば充分だ、と晴也は思った。

しかし……

 

「で、おまえはなんで残ってるんだ?」

 

なぜか道三の兵士たちは潔く帰ったのに、光秀は堂々と立っていた。

 

「この明智十兵衛光秀……絶対死なないですっ!」

 

(……意外と頑固なんだなぁ)

 

しばし考えたが、直ぐに口を開いた。

 

「わかったよ、だがこの戦では俺の指示に従ってもらう。いいな?」

晴也の問いに皆が覚悟を決め、うなづいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川浪衆は、陸よりむしろ川での盗賊稼業を本業としている。とりわけ地元の長良川一帯は、彼らにとっては自分の庭のようなものであり、そして幸いなことに季節は梅雨の時期。深い朝霧がなかなか晴れず、晴也たちの乗った筏は尾張と美濃の国境を早々と越えて戦場へと潜入することができた。ここまでは順調。だが、晴也は思いがけない提案をする。

 

『ここは、二手に別れるーーーーーー』

 

 

 

 

 

 

 

浅瀬ではすでに、道三軍と斎藤義龍軍との死闘が繰り広げられていた。浅瀬ではすでに、道三軍の兵はちりぢりとなっていた。おそらく本陣を残すばかりだろう。霧が濃くなければ潜入は難しかった。どうやら運があるようだ。晴也は浅瀬へとあがり、道三の本陣まで一直線に駆ける。駆けながら、五右衛門から貰った「たどん」を投げまくる。朝霧の上に、煙幕攻撃。一時的に本陣周辺の視界がほとんぼきかなくなった隙を見て、晴也は床几の上に腰掛けていた道三の前まで辿り着いた。

 

「道三っ!見つけたぜ!」

「小僧っ!?なぜ来た!?」

 

道三率いる数人の家臣たちは、今にも敵の大群に突撃しようとしていた。本当の間一髪、と言ったところだろう。

 

「尾張に来てもらうぜ、爺さん」

「断るっ!」

 

ですよね~、と予想通りの返答にため息を吐いた。仕方ない、なんとか説得しようと拳を握りしめた。

 

「この頑固爺がっ!遺されたやつらの気持ちも考えやがれっ!」

 

そう言って光秀たちの方を見入った。光秀は、必死に種子島で近づく敵を撃ち抜いていた。

狙いが正確で、頭や胸に確実に穴を空かせていた……っと、あんまり見てると吐きそうだ。いつまで経っても人の死に慣れない自分が恨めしい。

 

「この大馬鹿者っ!!」

 

くわあっ!と眦をつりあげながら、道三は晴也を一喝した。凄まじい声の衝撃だが、ここで怖気つくわけにはいかなかった。

 

「……悪いが、絶対引かねえよ。最終手段は……足の何本かは覚悟してもらう」

 

冷静に晴也は木刀を引き抜いた。脅しではない、これは本気だ。静かに道三の額に木刀を突き立てた。

 

「……おまえまでもが死んだらどうする?おまえはあの子の、信奈どのの唯一の希望なのだ」

「……俺が?」

 

それはなにかの勘違いだろう、と続いて出そうになった言葉を、なんとか飲み込んだ。

 

「夢は誰かと共有してこそ夢なのだ。信奈どのの夢を理解出来るのは、未来人である坊主だけじゃ。一人だけの夢はただの野望。この国を野望で焼き尽くすか、夢で彩るかはおまえの肩にかかっているのだ。……信奈どのを導いてやってくれ」

 

某主人公なら「わかった!任せろ!」なんて言いそうだが、晴也は違った。ため息をつきながら、めんどくさそうに言い放つ。

 

「やだ。めんどくさ」

「な、なにっ!?」

 

あまりの予想外過ぎる答えに、道三は驚愕としていた。

 

「あいつを導くのは、俺だけじゃ無理なんだよ。今だって、犬千代、長秀さん、勝家がいるから、今のあいつがある。あいつはなあ、非情にはなりきれないんだよ。所詮、まだまだ若い女の子だぜ?あいつの周りには、まだまだ信奈自身大切と思えるやつが必要なんだよ」

「……坊主」

「これは信奈のためだけじゃない。あの十兵衛って子のためでもあるんだよ。あんなボロボロなのに、それでもあんたを助けるってさ。凄え覚悟だよな。なあ、道三?」

「……この戦は、ワシの完敗じゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

~尾張・清洲城~

 

とりあえず道三の娘である帰蝶を保護し、足軽部隊を送った。しかし、それでも信奈は晴れない表情だった。

 

「……ハルのやつ、大丈夫かしら?」

 

と信奈はずっと同じ道を行ったり来たりしている。いくら足軽部隊を送っても、それは全員経験不足の兵。若いものたちではないと晴也について行けないだろう。しかし、やはり心配だ。こんなにも家臣を心配になったことがあっただろうか。

 

「さっきからそればかりですよ、姫さま」

 

そんな信奈を、長秀は少し悲しそうな顔で見ていた。願わくば、自らも出陣して加勢しに行きたいのはやまやまだが、今川に対しての牽制、砦の警備など他にもやらなければいけないことは多々ある。これは長秀が優秀であるが故、仕事が多いのである。

 

「やっぱり、あたしが行きますっ!ハルだけじゃ……」

「……それは、ダメ」

 

槍をぶんぶんと振り回している勝家の裾を、犬千代が掴んだ。やはりどちらも表情は優れない。

 

「な、なんだよっ!?犬千代は心配じゃないのかっ!?」

「……心配だけど、晴也なら大丈夫」

 

勝家は「犬千代……あたしよりしっかりしてるのか……」と落ち込んで座り込んでしまった。犬千代は、晴也を侍大将にするための米運搬の際に、五右衛門率いる川並衆と少し面識を得ている。皆、正に盗賊と言った厳つい顔の屈強な男たちだった。そして頭である五右衛門が幼女だからか、自分にはそれなりに優しくしてくれた。恐らく、それなりの修羅場をくぐってきた者たちだろう。

 

「……大丈夫」

 

と犬千代は誰にも聞こえないくらいの声の大きさで、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鉄砲隊、撃てぇ!」

 

晴也のかけ声により、一斉に鉄砲の火が吹く。龍軍の兵士たちを撃ち抜いて行く。地面は梅雨によりぬかっているので、義龍軍の兵士は鉄砲隊に中々近づくことが出来ない。これは一時的な時間稼ぎ。道三軍の撤退を援護する。

 

「くっ!怯むなっ!連続して撃つことは出来ぬぞっ!」

 

そう、種子島は連射が不可。義龍軍はこちらとの距離をじわじわと詰めてくる。

 

「鉄砲隊、下がれっ!槍部隊、前に出ろっ!」

 

鉄砲隊が弾を込める間、槍部隊が応戦する。通常ならばこれで距離を縮められ、乱戦となる……だが

 

「な、なんだっ!?あの槍の長さはっ!?」

 

こちらの槍部隊の槍の長さに、驚く義龍軍。この時代、槍術というのがあって、槍の戦いは間合いを有利に取るのはもちろん、懐に入られたときは、柄でどつく、という戦法らしい。柄でどつくためには、槍の長さはある程度限界がある。だが、その常識は打ち破られる。

 

「いいか、余計なことはするなっ!突きまくれっ!」

 

槍の戦い方にバリエーションなどいらない、一つの機能だけが洗練されていれば良い。という、やはり信奈らしい合理的な考え方だ。後々聞くと、戦国時代の長槍の長さの常識は、『九尺、約2.7メートル』だったそうなのだが、信奈は、『二丈一尺、約6.4メートル』と言う思い切った長尺に改めたそうである。もちろん、長いと敵に先に穂先が届くので、有利であることは間違いないが、その分相手が懐に入ると進退極まりない。この状況下では、もちろん無理して攻めなくても良い。

 

「槍部隊、後退!鉄砲隊、前進!」

 

その号令により槍部隊と鉄砲隊の位置が逆転する。あくまで鉄砲隊の準備の時間を稼ぐ。そして、鉄砲がまたしても火を吹く。

 

「地形の悪さを利用し、槍部隊と鉄砲隊を巧みに使いこなす……凄いです」

 

光秀が後ろで唖然とする。会見で見た時はただのバカとしか思えなかったのに……訂正します、と呟いた。もちろん鉄砲の轟音により、晴也には聞こえないが。確かに凄まじい連携だが、それでも圧倒的に数が足りない。次第に敵との距離が縮められていく。

 

「くっ……まだか、五右衛門っ!」

 

 

一方五右衛門たち川並衆は、敵の小舟全てに火をつけていた。晴也が二手に別れたのには理由がある。

 

『仮に逃げても、追撃されては、それなりの被害がでてしまうだろう。……だったら、敵の船を全て燃やしてくれ』

 

「早く、どんどん火をつけるでごしゃる!」

「親分が噛んだっ!」

「たまらねえやぁ!」

「おいら、これだけでご飯三杯はいけるぜ!」

「う、うるさい!」

 

五右衛門は炮烙玉を小舟目がけて投げる。舟は火が燃え上がり、数分したら廃となるだろう。川並衆も確実に一つ一つ舟を燃やし、全て使用不可の状態となった。

 

 

 

 

「流石に限界か……」

 

晴也も木刀を振るって敵を蹴散らしていたが、流石に彼一人で戦局が変わる程、この戦国時代は優しくない。もはや味方の足軽たちの体力も限界に近いだろう。動きが鈍っていた。

 

「……全軍!川岸に行けっ!急げっ!」

 

晴也は最後の「たどん」を投げ、一時的に相手の視界を奪った。それを見た足軽たちは川岸に引き返していく。

 

「あんたはどうするですっ!?」

「殿(しんがり)は俺がやるっ!おまえらはさっさと行けっ!」

 

近づく敵の兵を木刀で薙ぎ払いながら晴也は言った。

 

「だったら、わたしも残るですっ!」

「なに言ってやがる!おまえじゃ……」

 

光秀は種子島を捨て、刀を抜いた。

 

「わたしは鹿島新当流の免許皆伝です!」

「……ええっ!?あの塚原卜伝が興した流派をっ!?」

 

晴也は歴史好き、剣道好きなだけではなく更に流派の知識もそれなりにある。神の一太刀とも言われたあの鹿島新当流………

 

(こ、こいつ……見かけに寄らず強いのか?)

 

「あんたはなんの流派なのですか?」

「……五月雨流」

「あはははははっ!聞いたことないです!所詮、名も無き流派ですねっ!」

「んだとおっ!クソっ!いっそこの時代でも生み出してやろうかっ!」

「……はぁ?」

 

(くそっ!絶対この時代に五月雨流出せば結構イケると思んだが。まじで道場でも開こうかな。そしたら……俺が師匠か……へへっ、いい響きだなあ)

 

一人でニヤニヤ笑っている晴也に、光秀はぞぞぉっと少し引いた。

 

「うわあ、キモイですー」

「なにぃ!?」

 

今にも二人はお互いの流派を競って斬り合いにでもなりそうだったが……二人は周りの状況を見てハッとした。義龍軍が取り囲んでいたのだ。

 

「おい、おまえのせいだぞっ!」

「あんたが悪いですっ!」

 

酷く場違いな空気に耐えられなくなった義龍軍の家臣が一人、前に出た。

 

「み、みちるしちょうだ「「うるせえ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……五月雨氏は?」

 

合流地点の浅瀬にいないことを不思議に思った五右衛門が、近くの足軽に聞いてみた。

 

「それがぁ、殿をやるって」

「なっ!?直ぐに助けに行くでごじゃる!」

 

直ぐに晴也の元へ向かおうとした、その時、どこからか声が聞こえた。

 

「五右衛門~!筏出せぇ!」

「さ、五月雨氏!?」

「い、いくらこの十兵衛でも、これは流石にやばいです~!」

 

晴也、光秀が義龍軍の大軍を引き連れて駆け込んできた。五右衛門はありったけの炮烙玉を敵に投げつける。

 

「急げぇ!撤退するぞっ!」

 

筏に全員乗り込み、撤退を開始した。義龍軍は小舟がないことに驚き、なにもすることが出来なかった。諦めまいと、矢が射られたが、運が良かった。もはや夜となって視界が効かなくなっていたので、射られてもこちらに当たることはない。なんとか川を渡り切り、川を見やっても、敵の追撃はない。「助かった」と安堵のため息を吐こうとした、その時だった。

 

「目指すは親父どのの首のみだ!突撃!」

 

ただ、唯一義龍率いる敵の騎馬隊が川を迂回して突っ込んできていた。これはやばいな……と流石に焦る晴也。だが、川岸を見て微笑んだ。

 

「残念だな、あと一歩ってやつだ!」

「なにっ!?」

 

なんと尾張領の川岸で織田軍が待ち構えていた。まさか織田勢が待ち伏せをしているとは予想していなかった斎藤義龍は、忌々しげに舌打ちをしながら自軍に撤退を命じた。

 

「退け、退けっ!」

 

道三の首を取るべく猛追してきたため、せっかくの騎馬隊も孤立無援となっていた。そこを狙われたら、撃破されるのは時間の問題だと悟ったからだ。義龍もさすがに道三の養子にして跡継ぎだった男、戦の駆け引きには長けていた。道三仕込みの軍法を頭に叩き込まれているのだろう。だから、退く時も速かった。

 

「いや~、まじ助かったよ、おまえら!」

 

なんと待ち構えていたのは、さっき晴也に覚悟を促され帰った足軽たちだった。鉄砲や槍を構えて待機していてくれたのだ。流石の義龍も経験不足の素人集団だとは思わなかっただろう。

 

「あ……はははは。死ぬかと……思いましたぎゃ」

「お、おい顔か引きつってるぞ。あ、は、は、は」

「お、おまえらぁ~!」

 

感動深く、思わず足軽たちに抱きついてしまった。死ぬ気で待っていてくれたこいつらに感動した!

 

「今夜は宴だあ!」

 

「「「「おー!!!」」」

 

そう盛り上がっていた時、足軽の一人が駆け込んできた。

 

「大変ですっ!今川義元、尾張領へ侵攻してきましたっ!」

「………へ?」

 

 

 

 

 




ええっと、あまり気にしないでもらいたいんですが、最初の意味不明な文が不快であるなら申し出て下さい。
そのようなご意見が多かった場合は、やめます。
後、オリ展開はとりあえず桶狭間が終わってから結構出そうかなと思っています。
地の文は、やはり整理したほうが見やすいかもです。
これからはしっかり改行に気をつけて書いていきたいと思います。
PS暇な人は「たどん」を教えて下さい。※解決しました。

ーーーーーーーーーー追記ーーーーーーーーーーーーー
次の話で、信奈が躍る敦盛の舞いの歌詞を出してもいいのでしょうか?
歌詞と言っても三行以下の短い分ですが……(笑)

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