五月雨晴也の野望   作:漆原 涼介

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「ヨシ!いい加減くたばれ!」

「まだだっ!『球よけのヨシ』をなめんなよっ!」

~超人的な攻めと受け?~




第五話 勝家の誤解

尾張、清洲城。

 

「いぇーい!皆、飲め飲めぇ!」

「ちょ、ちょっと!勝家、飲み過ぎだぞ!」

 

会見が成功し、今日は成功を記念して祝杯の真っ最中。

というか、勝家が一方的に場の空気を上がらせている。

あの美濃が手に入るんだ!今夜は祝杯だぁ!という勝家に半ば強引に連れてこられた俺たち。

長秀さん、俺、犬千代、あとノリがいい足軽がいくらか。

 

「おい、ハル!おまえのお陰で美濃が手に入るんだぞぉ~。もっと喜べ~!」

「まだ手に入るって決まったわけじゃ……」

 

確かに道三は「信奈ちゃんの為じゃ、喜んで譲るぞい!」なんてこと言っていたが。

 

(確かに、うつけと呼ばれる信奈と同盟とするばかりか、美濃を譲るなんて言ってるんだもんな。そりゃいくらあの道三でもそれなりの反発は受けるだろう)

 

「よぉし、乾杯しよう!」

「勝家、もう十一回目だっつーのに……」

 

はぁ~とため息をつく晴也。

 

「こたびは姫さまと道三どののいざこざを丸く収めたとか、ありがとうございます。晴也どの」

「いえ、そんなに対したことはしてないですよ」

 

「よかった。あなたは顔だけではないようですね。九十点」と長秀さんがなかなかの点数をくれた。

 

「こいつぅ、生意気にもわたしの姫さまと仲良くしやがってぇ~」

「どこが仲良いんだよ!?しかもわたしのって……」

 

どうやら勝家は、信奈の小さい頃からのファンらしい。

 

「信奈さまはぁ……渡さないぞぉ~!」

「大丈夫だ、安心しろ。あんなの誰も盗らねえよ」

「うるさい!ほら、酒つげ酒っ!」

「うわっ、酒臭えから近寄るなっ!」

 

さらにどうやら勝家はお酒に弱い上に、酔うとからんでくる。

酔った足軽が、「ささ、どうぞ」と勝家のどぶろくを注ぎまくり、そのたびに勝家は一気飲み。

 

「プハッ!ゔまい!」

 

よくいるよなぁ、酒弱いくせにガブガブ飲む大人って。

 

「犬千代~、まだ帰らねえの?」

「……ういろう……おいしい」

 

犬千代は相当ういろうが好きらしい。

さっきから、ういろうがうまいということしか喋らない。

 

(確かに、いつもうこぎばっかじゃ飽きるよな。)

 

「そういえば、信奈は?」

「只今道三どの宛の便りを書いております」

「そうですか、あいつもだいぶ気が張ってましたからね。早く休めばいいのに」

「なんだぁ、さてはおまえ!姫さまのところに夜這いに行くつもりだなぁ!?」

「頼まれても行かねえよ!」

 

「この変態め~」と勝家が腕を引っ張って来た。

 

「わっ!バカっ!」

 

だらんとした態勢で座っていたので、簡単に引っ張られてしまった。

勝家も思った以上に簡単に引っ張れたので、俺の腕を引っ張ったまま倒れてしまった。

 

「ああ~痛ってえなぁ」

 

むにゅ。

あれ?

むにゅ。

…………。

むにゅむにゅ。

このやけに柔らかい触り心地は………!?

 

「わぁぁぁぁぁ!ごめん、勝家!」

 

引っ張られたのと逆の方の腕の手で、見事に勝家の胸を鷲掴みにしていた。

慌てて手を離そうと思ったら、なぜか勝家は俺の手掴んで、

「信奈さまぁ~。この無駄にでかい胸で良ければいくらでも~」と言って離してくれない。

そこへ

ガラッ。

俺の一番近くの襖が開いた。

 

「あら?あんたたちまだい………」

 

信奈だった。

 

 

「………、」

 

ばっと視線を落とすと、どう見ても晴也が勝家を押し倒しているようにしか見えない光景がそこに。

 

「…………、」

「……あっ、えっとね!?これはアレだよ!不可抗力!模擬戦の時とおな「死ねぇぇぇ!この変態乳揉みサルぅぅぅぅ!」」

 

最近信奈は、ハルではなくサルとも呼ぶようになってしまった。

しかし、今はそれどころではない。

今までくらった信奈の蹴りの中で、一番痛い一撃が俺の頭にクリティカルヒットしたのだ。

「いだい!めっさ痛い!」

 

ゴロゴロと頭を押さえて畳を転がりまわる。

 

「だから!これは不可抗力なんだ!」

「し、信じられない……一度ならず二度までも勝家のおっぱいを……」

「違う違う!別に勝家のおっ……胸になんて興味ねえ!」

「なんだとぉ~!あたしの胸に興味がねぇだとお!」

 

勝家が酔っ払いながら抱きついてきた。

 

「お、おい!」

「……小さくても……平気?」

 

更に犬千代までもが頬を赤らめて抱きついてきた。

おまえもついに酔ったのか。

 

「おまえら!酔い過ぎだっつーの!」

「……犬千代は……ヒック……酔って……ヒック……なんか……ヒック……ない」

 

「まだ未成年だろう!」というツッコミも、この戦国時代じゃ通用しない。

 

「もう!疲れたから寝るわ!」

 

よくわからないが信奈が怒って出て行ってしまった。

 

「そうですね、そろそろわたしも……」

「な、長秀さん!こいつらどうするんですかっ!?」

 

ドロドロに酔った足軽と、自分にひっついてくる犬千代と勝家を指差す。

 

「……そうですね。犬千代どのら足軽は特に問題はないでしょうが、勝家どのは信勝さまの家老。こんなところで寝て風邪をひかれては困りますね」

 

こ、この人、さりげなく犬千代たちはどうでもいいと言ってるな。

 

「既に布団は敷いてあります。申し訳ございませんが、連れて行ってあげてもらえませんか?わたしはここの後片付けをしますから」

「わ、わかりました……」

 

 

 

 

 

 

 

酔い潰れた勝家はとても歩けるような状態ではないので、仕方なく肩を貸している。

歩く度に、勝家の巨大メロンが当たるので、緊張してしまった。

 

「よ、よし、着いた!ほら、布団に入れ」

「う、うーん」

「はぁ~。仕方ねえなぁ」

 

勝家を横にして、布団をかけてやった。

 

「よし、んじゃ俺も帰ろうか……」

 

思えば、この時が今日一番油断していたのかもしれない。

帰ろうと思って勝家から部屋を離れようと思ったら、腕が掴まれた。

 

「う、う、う、」

「う?」

「うわぁぁぁ!あたしの胸を揉むなあぁぁぁぁぁ!」

「今頃かよっ!?」

 

勝家の全力右ストレートが晴也の溝を貫いた。

 

「ガハッ!?」

 

口からさっき食ったういろうやらなにやらが出ようとしていた。

 

「こ、根性だぁぁぁ……」

 

なんとか吐くのを踏みとどまったが、晴也は痛みで倒れてしまった。

 

「か、勝家~。計った……な?」

「うう、すやすや」

 

ね、寝相悪過ぎだろ……と晴也は遠のいていく意識の中でつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

~明け方~

 

「うぅ……頭いたぁ~」

 

勝家は重たい頭をボリボリとかいて目覚めた。

 

「んん?」

 

手になにかが当たった。

枕にしては……大き過ぎる……。

おそるおそる勝家が振り向く。

そこには……

 

「わ、わあああああああ~!?」

 

すやすやと寝ている晴也がいた。

 

「な、なにがっ!?どうなって!?」

 

自分が昨夜、祝杯をやって飲みまくったことは覚えているが。

それ以外がどうしても思い出せない。

 

(ま、ままままままままさか!?)

 

「あ、あたしとこいつがぁぁぁぁぁ!?」

「な、なんだっ!?敵!?あ、おはよう勝家」

 

勝家の悲鳴じみた叫び声に、晴也は飛び起きた。

 

「って……おはようじゃねえ!昨日はなにしやがるんだ!」

「き、昨日!?まさか……あたしから……!?」

「おまえのせいだぞっ!ほら、ここ……」

 

と言っておそらく青アザになっているであろう、脇腹の部分を見せようかと思ったら。

 

「ひぃぃぃぃ!?や、やめてくれぇ!?あたしがやったことは何も覚えてないんだよお!?」

 

なにを勘違いしたのだろう、両腕で胸を隠し始めた。

 

「なぜに…胸を隠す?」

「せ、責任を持てと言うのだなっ!?わわわわわわかった!」

 

そう言ってなぜか勝家は服を脱ぎ出した。

 

「わぁぁぁぁぁ!?なにやってるんだよ!?」

「も、もう!これで勘弁してくれえええ!」

「お、おまえはなにか勘違いをしているぞっ!?」

 

えっ?と脱ぐ動作がピタッとギリギリのラインで止まった。

 

(と、止めるタイミングを間違えただろうか……)

 

と少し残念に思えてきた。

 

「か、勘違い?」

「そ、そうだぞ。別に昨夜俺たちは何もなかったぞ!」

「え、ええええええぇぇぇぇっ!?」

 

(ふう、やっとわかってもらえたか……)

 

良かったぁと勝家が胸を撫で下ろした。

 

「だが……」

「……ん?」

「だったらなぜわたしと一緒に寝てたんだぁぁぁぁぁぁ!?」

「そ、それはおまえが!」

「そうか……わかったぞ!おまえ、さてはあたしのところへ夜這いにきて、それでうっかり寝てしまったんだろう!はははははは!バカなやつだっ!」

 

(……織田家には、まともなやつがいないのか……?)

 

 

 

 

 

 

尾張では楽市・楽座と呼ばれる、人々が自由に行き来できる市場が作られ、かつてない賑わいと繁栄をもたらしていた。

そこを歩く二人、晴也と勝家。

 

「うー、まだ気持ち悪い……」

「おいおい、無理するなよ」

 

二日酔いで、口を抑えて辛そうにしている勝家の背中をさすってやった。

 

「ひゃあ!?」

 

勝家は以外にも子猫のようなかわいい声を漏らした。

晴也は思わぬ反応に目をパチクリさせる。

 

「か、勝家っ!?」

「うぅ……あたしは男に触られるのが苦手なんだよぉ」

 

ぷっ、と晴也は笑いを溢した。

 

「あははははっ!勝家、おまえ以外と純情なんだな?」

「なっ!?なんだとっ!?」

「いや、悪くねえよ。結構かわいいとこあるじゃん」

 

すると勝家は頬を赤らめて、「くっ、サル野郎のくせに……」と恥ずかしいそうにして

いる。やがて人通りの多いところへ通ると、

 

「あら、水も滴るいい男とはこのことだわ」

「かっこいいわねぇ」

「あれが二枚目ってやつかしら」

 

周りの女たちは晴也に釘付けとなっていた。

 

「な、なあ。おまえ、女に疎いって言われないか?」

「?ああ、この時代に来る前は、結構言われてたな」

「なぜ言われてるか、わかるか?」

「いや、知らん」

 

どうやったらここまで疎くなれるんだよ、と感心した。

 

「まあ……女とは……昔……色々…あったからな……」

「……悲しいこと?」

 

「いや、なんでもない」と少し晴也は悲しそうな顔をした。

それは晴也自身にとって相当のトラウマだったから。

 

「それにしても、いいのか?わざわざ俺の家にこなくてもいいぞ」

「いや、場所くらいは把握しておこうかと思ってな」

 

「あ、いや、別に、おまえに興味なんてないからな」と勝家が付け足した。

 

「……二人とも」

「「うあっ!?」」

「って、犬千代?」

「……うん」

 

昨日はとうとう最後にデロデロとなってしまった、犬千代がそこにいた。

 

「犬千代、おまえずっとついて来てたのか?」

「……うん……二人とも……逢い引き?」

「な、な、ななななななわけないだろっ!」

 

勝家は明らかに動揺し、なぜか晴也に脇腹をガツガツと小突いてくる。

 

「や、やめろ。そこは痛い……」

「……ん……あそこ」

 

犬千代が指を指したところに人だかりが出来ていた。

 

「ん……あれは……」

 

 

 

 

「おらぁ!ちょっと来いやぁ!」

「きゃあ!や、やめてください!」

三人の男が、一人の若い娘を取り囲んでいた。

 

「俺たちは泣く子も黙る、織田勘十郎信勝さまの足軽だぞぉ!」

「そうだぎゃ!俺たちに抵抗するなぎゃ!」

 

もう一人の、体が大きなやつが娘の細い腕を掴んでいた。

 

「さあ?もう仕事なぞ出来なくしてやるぞぉ?」

「い、痛い!離してください!」

 

それでも男は止めず、力強く、娘の腕を掴んでいた。

周りの人たちは、助けても得はないと誰もが見て見ぬ振りをしていた。

 

「さあ?俺たちに奉仕してもらおうかぁ?」

「ああ、ならしてやるよ」

 

瞬間、晴也が男の腕を娘から剥がし、捻った。

 

「い、いででででででっ!?」

「き、金太っ!?」

 

ぷっ、と思わず笑いが込み上げ、男を離してしまった。

 

「あはははははっ!金太って!おもしろい名前だなぁ!」

「こ、このガキっ!顔の形がちょっと良いからって、調子のってんじゃねえぞ!」

 

殴りかかってきた二人を、同時に回し蹴りで迎え撃った。

 

「あぎゃあっ!?」

「そげぶっ!?」

 

二人の男は一気に金太?と呼ばれた男の後ろにまでぶっ飛ぶ。

 

「なっ!?おまえ、何者だっ!?」

 

晴也は大きく息を吸って、

 

「俺こそ!織田信奈の草履取り!……から出世して今は足軽の五月雨晴也だぁ!どうだ!凄いだろっ!」

 

場の空気が、一瞬静まる。

 

「くははははっ!あのうつけ姫の足軽かっ!どうりで貴様は「おい、おまえらっ!」ひぃっ!?か、か、勝家さまっ!?」

「これは、どういうことだ?」

「も、ももももも元々はこの娘が俺たちに無礼な態度を取ったから!」

 

勝家が話に加わってから、バカ三人は顔は青ざめていた。

 

「取ったのか?」

「と、取っていません!」

 

そうか、と言って三人のバカを……めんどうだ『三バカ』と名付けよう。

その三バカを勝家が睨んだ。

ひぃっ!?とまるで鬼を見た様なブルブルと震えている。

 

「い、いや、本当にこの娘がっ!」

「だったら最初から見ていたやつらに聞いて見るか?」

 

晴也は近くの野次馬たちを見渡して言った。

うっ!と三バカは顔を強張らせる。

 

「す、すいませんでしたあああ!」

「今日のところは見逃す……だがまたやったら……」

「ひぃっ!?ず、ずみませんでしたぁぁぁぁぁ!」

 

まるでサルのようにもの凄い逃げ足の速さで走って行った。

そうとう勝家が怖いんだろうな。

 

「あ、あの!ありがとうございます!」

「ああ、気をつけろよ」

「次またちょっかいを出されたら、あたしを呼ぶがいい」

 

おおおおお!と周りから拍手喝采が起きた。

 

「さ、さすが柴田さまだや!」

「あの御仁もなかなかのもんだで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~長屋~

 

「良かったな、犬千代。お礼にういろう貰って」

「……、」

「あー、機嫌直せよ」

 

どうやら犬千代は、さっきの時に出番がなくて拗ねてしまったらしい。

 

「んじゃ、今度ういろうを食べに行こう!俺の奢りで!」

「……それなら……いい」

 

犬千代に僅からながら、笑みが溢れた。

 

「あ、勝家。ここが俺の家……あれ?」

 

なぜか俺の家の周りに、乱暴そうな若侍たちが取り囲んでいた。

勝家は相当驚いていたようだった。

 

「誰だ、おまえら?」

「やあ、君が姉上の草履取り、ハル君かい?」

 

 

 

 

 

 

 

 




オリキャラの『三バカ』を出しました。
後々活躍させるつもり……かな。
それと、会話と会話の空きを埋めてみました。
こっちの方が読みやすいかな……
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