五月雨晴也の野望   作:漆原 涼介

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この前、『地の文を少なめにし、会話文を多めにして、臨場感を出させる!』……みたいな本を読みましたので、やってみました!……と言っても、あまり意識してません。


第十三話 天才軍師調略・完

『人が生涯を賭けても解けない問題』

人が一生賭けても解けない問題とは。それは簡単だ。人間、死後はどうなるのか。実際死んでみても、死人に口無し。死人からはなにも聞けない。いや、聞こえていないだけかも知れないが。人は誰しもが、いづれ死ぬ。必ず起こる出来事だというのに、誰もわかっていない。誰しもが身近に感じる『死』。あなたは死んだらどうなるか、知りたいと思うだろうか。わたしは知りたいと思うが、非常に怖い。知ってしまったら、この世界で今、生きている意味を無くしてしまうかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、この子が……あの竹中半兵衛……?」

 

その小さな体のどこに、信奈率いる織田軍を幾度も押し退ける力があるのか。晴也は疑問だった。確かにその青白い肌は、史実通りの病弱という特徴と一致していた。それでも、こんな泣きべそをかいてるこんな幼い子が……?

 

「くすん。い、いぢめないでください……」

「わが主は幼い頃からいじめられっ子でな。初対面の相手に不意打ちをして、自分をいじめる人物かどうかを試す癖があるのだ」

 

いつのまにやら復活した、竹中半兵衛の影武者・前鬼が晴也たちに説明した。説明した後は、くーんと鳴いて消えてしまった。しかし、随分と難しい性格だ。簡単にハイハイと動くような子ではないのだろう。

 

「……めんどう」

「……ひえぇ」

「犬千代。脅かすなって」

 

槍をちらつかせ始めた犬千代を制しし、晴也は半兵衛に微笑んだ。それを見た半兵衛は

一瞬泣き止んだが、またくすんくすんと泣き出してしまった。

 

「えっと……半兵衛。なにも俺たちは君を脅かすつもりで会いに来たんじゃないんだ」

「じゃ、じゃあ……」

「半兵衛。織田家に来ないか……?」

 

え……?

 

晴也の単刀直入の言葉に、半兵衛は言葉を失った。

 

「え、えっと……そ、それはできません」

 

半兵衛はなんとか言葉を絞り出した。それでも晴也は動ぜず話を続けた。

 

「君は好きで斎藤家に仕えている訳じゃない。あくまで、あの安藤っておっさんのために仕えているはずだ」

「は、はい……叔父さまのためなのが大半の理由です……よ、義龍さまは大男なので、かなり怖いですから……」

「だったら、おっさんと織田家にきてくれないか?もちろん安全は保障する」

 

半兵衛は斎藤家、というより安藤個人に恩を感じているはずだ。だったら安藤と半兵衛、両方を織田家に引き込めれば良い。だが……

 

「そ、それでも、やはり斎藤家……義龍さまへの義があります……」

 

やはり、そう簡単にはいかない。半兵衛は義を重んじる。例え最高の環境が用意されても「さあ、裏切れ」といって裏切れるような子ではない。

 

「う~ん……確かに義も大事だと思うが……こんなところで、寂しくないか?」

「そ、それは、大丈夫です……お友達がいますから……くすん」

「友達……?どこに?」

 

こんなさっぷう景なところで、半兵衛のような子が友達と言える人物がいるのだろうか。

 

「え、えっと……う、後ろに……」

 

半兵衛は晴也の後ろを指さした。それを見た晴也と犬千代は後ろを振り向く。

 

「……ちょ、ちょっと半兵衛ちゃんっ!?なんで言っちゃうのよ~」

 

振り向くと後ろには町娘の服装の女の子が。そこまでは良かった。茶髪が入っている長い髪を、無造作に整えていないのも別に気にしなかった。容姿も美少女の分類に入るほどだった。

 

ただ問題なのは………

 

「な、なんで浮いてるんだぁぁぁぁ!?」

 

その女の子はまるで幽霊のように、ふわりと浮いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ。ごめんね、驚かせちゃって」

 

女の子はぺこりと頭を下げ、音も立てずに正座した。……もちろん、浮いているので空中でだが。

 

「……あ、あの、幽霊さんかなにかで?」

 

晴也はおそるおそる聞いてみた。

 

「あっ、そうそう!わたし、幽霊なのよね」

 

女の子は軽々しく、てへっ!と舌を見せた。

 

(ま、まさか妖怪と幽霊を同時に見る日がくるなんてな……)

 

「えっと……どうしてここに?ていうか、し、死んでるの?」

「うん。わたしはただの町娘だったんだけど……。馬に轢かれたみたいで~」

 

自分が死んだという話をすると、少し沈んだ表情になったが、それでも直ぐに笑顔を戻した。

 

「名前は……?」

「ゆら、ピチピチの十六歳ですっ!」

「あ、ああ。俺は五月雨晴也」

「……犬千代」

 

とりあえず由来の熱気に流されつつ、俺たちも自己紹介をした。

 

そして犬千代は珍しそうに由来を観察し、槍でちょんちょんと突き始めた。

 

「おい、犬千代っ!?」

「あ、大丈夫です~。わたし、見ての通り透け透けなんで!」

 

槍が脇腹に貫通しているのに、そこからは血も出ず、痛みもないようだった。由来は自分の胸に指を押し込んだり、壁にめり込んだりしていた。

 

「やっぱり……本物……」

「はいっ!残念ながら」

 

またしても、てへっ!とどこかのアイドルのような笑顔を見せた。なぜ幽霊なのにこんなに前向きなんだろう。

 

「ゆら。なぜ君はここにいるんだ?死んだら、そうなるものなの?」

 

晴也は人間は死んだら終わりだと思っている。いや、もちろん天国と地獄があるかも知れないが。死後はどうなるかなど、この時代でも現代でも、おそらく、生涯をかけて考えても解決出来ない問題だ。

 

「う~ん。ただ単に、半兵衛ちゃんがかわいいからです!それと、なんで自分がこうなっているかわかりません。他の幽霊なんて、会ったことありませんし」

 

えらくあっさりと答えられてしまった。この子か特別なのだろうか?死んだのに、なぜか幽霊になって化けて出る……考えつくことは一つである。

 

「もしかして“未練”とか、あったりする?」

 

『未練』と言う言葉を聞いた瞬間、由来はあきらかに目が泳いだが「そ、そんなものありませんよ」と引きつった笑いをした。

 

「……そうか。まあ、なにか手伝えることがあれば言ってくれ」

 

その言葉に由来は勢いよく頭を縦に振った。余程その話題について触れられたくなかったようだ。

 

「さあて、帰るか~。犬千代~」

 

晴也は満足したように立ち上がった。

 

「……晴也?」

「半兵衛とゆら、ここで楽しくやってんだろ?俺たちが邪魔したら、それこそ半兵衛に悲しい思いをさせちまうだろ」

 

人の幸せを身勝手な理由で壊すほど、酷いことはない。そんなの、戦国時代では通じない理屈かも知れない。それでも晴也は、その心を持ち続けようと決めていた。

 

「は、晴也さん……」

「気にするな。あ、だけど半兵衛。こっちだってそれなりに背負ってるものがあるんだ。次の戦……容赦はしないぜ」

 

このことと戦は別物だ。悪いが、信奈を天下人にすることを諦める訳にはいかない。この戦乱の世を治められるのは、戦いの連鎖を引き起こした古きシステムをぶち破る風雲児。織田信奈しかいないからだ。

 

「……は、はい」

 

相当怖いことを言っているはずなのに、不思議なことに半兵衛は恐怖を感じなかった。

 

「おまえも、早く成仏しろよ」

「え~。成仏しちゃったら消えちゃうよぉ」

「それは知らん」

 

晴也と犬千代は部屋を出て行こう襖に手をかけた……だが

 

「五月雨氏!大変でござる!」

 

逆にあちらから襖が開かれ、五右衛門が飛び込んで来た。

 

「うわっ!どうした五右衛門!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五右衛門の情報はこうだった。

 

『半兵衛に謀反の疑いがあり。釈明のために半兵衛自ら登城せよ。さもなくば、安藤守就を処刑する』

 

「そ、そんな……」

「バカが……!半兵衛がいなきゃ、美濃は終わりだぜ」

 

半兵衛の悲しそうな顔を見た晴也は、ムカついた。こんな『義』を大切にする子が、謀反なんて考えるものか。

 

「き、きちんと話せば……わかってくれるはずです」

 

半兵衛は涙声で呟いた。

 

「ここまでやるってことは……多分、義龍は本気だぜ。それでも行くのか?」

「は、はい……叔父さまを見捨てる訳には……」

 

犬千代は「そんなに甘くない」と言い、由来も「危ないよぉ~」と慌てふためいていた。それをみた五右衛門は、密かに耳打ちをしてきた。

 

「時間を稼ぎ、安藤氏を捨て置かれよ。さすれば半兵衛は義龍へ遺恨を抱き、五月雨氏にお味方いたちゅ」

 

五右衛門の言葉に、晴也は目を細めた。

 

「おい……本気で言ってねえよな?」

「……そ、それは」

 

五右衛門は全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。ただ睨まれただけだというのに、こんなにも恐怖を感じるなど……と五右衛門は震えた。

 

「五月雨晴也が、そんな手を使うとでも?」

「……思わないでござる」

「正解だ。五右衛門、犬千代、ゆら、俺は半兵衛と共に稲葉山城に行くぜ」

 

晴也の言葉に全員が驚いた。因縁の敵を助けるというのだ。放っておけば、勝手に処刑され、美濃が攻略しやすくなるというのに。

 

「……晴也……甘すぎ……でも」

「全く……そう言うと思ったでござる」

「え、わ、わたしも行く~!」

 

全員が晴也に賛同した。

 

「ぐすっ……あ、ありがとうございます」

 

そう言うと、半兵衛は涙を流した。もちろん恐怖の涙などではなく、感謝の涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半兵衛が登城し、晴也も半兵衛の小姓として通してもらった。

当然ながら、義龍含め美濃三人衆と家来たちが晴也と半兵衛の周りを囲んでいた。

 

「た、竹中半兵衛、参りました」

「お、おなご!?しかも子供っ!?」

「馬鹿な、半兵衛は男であったぞ!!」

 

今まで影武者である前鬼にしか会ったことがなかった家臣たちはざわつき始めた。義龍は数回面識があるので「ふん」と鼻を鳴らしていた。

 

晴也は半兵衛のやや後ろに座っていた。犬千代と由来、五右衛門には安藤救出を頼んでいる。時間を稼げばそれで五右衛門たちが安藤を救出してくれる。

 

「む、謀反などしません……」

「ならば、なぜ織田を全滅させなかった。全滅させる機会はいくらでもあったはずだ」

「無用な血を流させないため……」

「バカ者!敵を滅ぼすのが軍師の務めであろう!」

 

義龍に一喝され、半兵衛は「すいません、すいません」と頭を下げた。思わず晴也の手に力が入る。

 

その後も「義龍が一喝し、半兵衛が謝る」とループが繰り返された。もう何度続いたかわからなくなり、次第に半兵衛は泣き出していたが、それでも義龍は話を止めなかった。

 

「やはり、きさ「しつけえんだよ!このだるま野郎!」な、なにっ!?」

 

遂に晴也が怒りをあらわにし、立ち上がった。

 

「バカはてめえなんだよ!その耳は飾りか!?なんで半兵衛の言っていることを聞こうとしない!」

「な、何者だ!?」

「五月雨晴也……半兵衛の小姓だ」

 

一瞬、織田家と口から出そうになった言葉を、なんとか飲み込んだ。

 

「小姓風情が……」

「そうやって話を聞こうとしないから、いつまで経っても、道三っていう壁を超えられねえんだよ!」

 

その言葉を聞いた義龍は「貴様ぁぁぁぁぁ!」と顔を真っ赤にし、まさにだるまとなっていた。

 

「斬れっ!こやつを斬り捨てろ!」

 

侍達が一斉に抜刀し、晴也と半兵衛を取り囲んだ。晴也も木刀を抜いたが、兵力差は圧倒的である。

 

兵士たちが晴也たちに襲いかかろうとした、次の瞬間、

 

「五月雨氏!安藤氏は救出したでござる!!」

 

煙幕とともに五右衛門が出現した。

 

(流石!相棒、いい仕事しやがる!)

 

「逃げるぞ、半兵衛!」

 

晴也は半兵衛を手を掴もうと手を伸ばした、だが半兵衛は逆方向から強引に引っ張られた。

 

「半兵衛!貴様だけは逃がさん。儂の下で一生働いてもらう!」

 

それは義龍だった。大きな手が、半兵衛の小さな腕を掴んでいたのだ。

 

「ふざけんな!半兵衛は道具じゃねえんだよっ!」

 

晴也は木刀で義龍に襲いかかろうとした。だが、その必要は無用だった。

 

なぜなら……

 

「きゃあああああああ!!」

 

半兵衛が黄色い悲鳴をあげた。すると半兵衛の懐に入っていたお札が乱舞した。

 

「「「「十二天将、見参!」」」」

 

初顔の式神たちが次々と現れた。なんと総勢十四体!

 

「あ、あやかしだああああ!」

「む、謀反だああああ!」

「こ、こんなのに勝てっこない!逃げろおおおおお!」

 

義龍はその光景に唖然とした。その間にも兵士たちは巨大な式神たちに追い回され、大混乱と化していた。

 

「悪いが、わが主は返してもらおう」

「な、なにっ!?」

 

いつの間にやら、狐に化けた前鬼が半兵衛を両手に抱えていた。義龍が手に抱えていたものは、いつのまにか小さな小鬼となっていた。

 

「あ、ありえん!」

「ありえねえことをやるのが、天才軍師なんだよっ!てめえは器と力をはき違えてるってことに、気づきやがれええぇぇぇぇ!!!」

 

晴也は義龍の顔面を、あえて木刀ではなく拳でぶん殴った。義龍の体は、竹とんぼのように回転し、逃げ回っている兵士たちに激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やり過ぎたかな……」

 

もはや、稲葉山城の敵は全員逃げ出していた。式神たちも、次第に消えていった。

 

「は、半兵衛……おまえ、チートキャラだったんだな」

「……こ、ここまでするつもりは……」

 

稲葉山城の広間はきた時と一変、嵐でも通り過ぎたようにボロボロとなっていた。その光景をみた五右衛門は「あ、ありえないでござる……」と呟いた。確かに、戦国時代に陰陽師なんていうチートキャラがいたのは驚きだった。一人で城を乗っ取ることが出来るほどとは……。

 

「……はぅ」

 

突如、半兵衛は膝から崩れ落ちた。

 

「お、おい半兵衛っ!?」

 

半兵衛はごほごほと咳き込み、顔も赤かった。晴也は半兵衛のおでこを触る。

 

「熱があるじゃねえか……五右衛門!城から出るぞ!」

「しかし、最早この城は我らが「知るかっ!」……ふぅ、そう言うと思ったでごじゃる」

 

晴也を背負い、右衛門とともに無人の城から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

稲葉山城から少し離れた河口湖。

晴也、半兵衛、五右衛門が到着。すでに待ち合わせていた安藤とゆらが合流した。

 

「すみません。わたしのために……」

 

だいぶ調子が戻った半兵衛が申し訳なさそうに頭を下げ始めた。

 

「いや、気にするな」

「でも……わたしを見捨てていれば……」

「あんな城、いつでも取れるよ。それに、そんな方法で取った城なんか、信奈は受け取らないと思う」

「晴也さんは……なぜ織田家に?」

「そうだなあ。無駄な血を流させたくないから……かな」

「……天下取りを目指せば、犠牲は出ます」

「ああ、わかってるさ……それでも俺は、自分を捨てたくない。助けられるものは、全て助けたいんだ」

 

そう言って晴也は微笑んだ。半兵衛は、その笑みを生涯忘れることはない。半兵衛の心では、なにかが消えて、なにかが生まれた。

 

「む、無茶苦茶です……」

 

と、口では悪く言ってしまう。

 

「ああ、無茶苦茶だ。だが、無茶だろうがなんだろうがこの先、俺は一生変わらねえ。なにかを得るためになにかを捨てるような……そんなやつには、なりたくないんだ」

 

半兵衛はその時、確信した。

 

自分の気持ちがなんなのか。

 

この胸が高鳴るものなんなのか。

 

体が暑くなってしまうのはなんなのか。

 

「晴也さんは……ほんもののおバカさんです」

「……そうだな」

「おバカさんは……放っておけないです……」

「え?」

「あなたを……守ってあげたいです」

 

晴也はえ?え?と連呼しながら周りを見渡すが、安藤にはニヤニヤと笑われ、ゆらには「いけ~!やっちゃえ~☆」と言われ、なぜか犬千代と、五右衛門までもがイラついているように、むむむとわめいていた。

 

「竹中半兵衛は、織田家ではなく、五月雨晴也さんにお仕えいたします」

 

 

こうしてーーーー

 

織田家には最高の逸材が仲間になると同時に、犬千代たちには恋敵? として仲間となるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




オリキャラ

・ゆら
長い茶髪の美少女。元気120%の女の子。
幽霊であるため、透け透けとなっている。

※名前変更あるかも。


式神がいるなら、幽霊だっているんじゃないかと思い、出しました。
まあ、こいつがどうなるかはこれからに期待。

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