五月雨晴也の野望   作:漆原 涼介

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第一章 狂わされた運命
第一話 晴也と信奈


五月雨(さみだれ)晴也(はるや)は、走っていた。戦国時代の合戦の真ん中を、突っ切っていた。茂みから出てくる敵の剣や槍を弾き、後ろと前両方から来る矢を全て叩き落としながら。

 

「はぁはぁ……クソっ!」

 

手に持っている木刀をチラリと見て思う。

 

(いつも通り道場に向う筈だったのに……なんでこんな事になってんだ!?)

 

彼は剣道をするために、道場に向かっていた。確かにその時の木刀だ。

証拠に頂天と言う文字が刻まれている。別にそういう痛い言葉が好きなわけではない、高校の剣道インターハイの優勝商品だからだ。そう、五月雨 晴也は高校界No.1の剣道選手だ。幼い頃、父親は流派・五月雨流を創り出し、そこで彼を鍛え上げた。

おかげで剣道で同年代に敵なしとまで言われた。

 

(どうにかこの状況から抜け出さねえと!)

 

とにかく晴也は走る。ここから抜けるために。しかし、足に何かが引っかかって転んでしまった。死体。それは戦国時代なら当たり前の光景だ。だが、あまりに晴也の現実からかけ離れていた。うっ、と晴也は口を塞ぐ。

 

(何なんだよ……これは!?)

 

 

 

風を斬り裂く音が聞こえた。近くの林の中から、弓矢な射かけらたのだ。

五本、十本、二十本。鏃は金属製で、胸に刺さったら即死モノである。

逃げなくちゃ、と五月雨は逃げようとするが足が上手く動かない。

死ぬ。そう思った瞬間。

 

「坊主、あぶないみゃあ!」

 

助けられた。後ろから首根っこを掴まれ、そのまま引きづられ、間一髪。

さっきまで自分が居たところは矢が刺さりまくっていた。しばらくそのまま走って、茂みの中に逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから!わしは一国一城の主になって、女の子にモテモテになるだみゃあ!」

 

「はあ…」

 

 

(何だが、イマイチ戦国時代の足軽とは思えないような人だなぁ。)

 

「坊主はいいのぉ…そんな美少年面だと、モテモテだにゃ」

 

晴也自身あまり自覚は無いが、パッと見は美少女と見間違うほどの美貌の持ち主である。それに、背中の半分は隠すほどの長く綺麗な黒髪を一つにまとめている。現代でいういわゆるイケメンの類に入る。

 

とにかく、ここは濃尾平野。旗印で分かっていたが、今川と織田が戦っているところだ。おっさんは今川方の足軽らしいが、隙を見て織田に寝返るつもりだったらしい。

 

「足軽のおっさん……俺も織田家に行くよ」

 

(ここでじっとしてても仕方ない……)

 

足の震えは、もう止まっていた。

 

「ありがたいにゃ坊主!ならば、わしの弟分になれみゃ!」

 

「えっ!?……あ、ああ、なる!一緒に織田家に仕えよう!」

 

弟分って……どういう事だ…?とりあえず織田に仕官すれば、状況が変わるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぐっ?」

 

小柄な足軽が、いきなり胸を押さえてうずくまった。

 

「どうした、足軽のおっさん?」

 

「……流れ弾に当たったみゃあ……運がなかったみゃあ」

 

たちまち、鎧の胸当てが紅い血に染まっていった。あまりに突然。

 

「えっ……」

 

マジかよ?人間って、こんなにあっけなく死ぬのかよ?晴也の顔色がみるみる青くなっていく。

 

「坊主。わしはこれまでだみゃ。わしのモテモテの夢、頼んだみゃあ……」

 

すでに心の臓が止まろうとしていた。

足軽の瞼がゆっくりと閉じていく。

 

「お、おい待てよおっさん!?まだ俺は、あんたの名前も聞いてねえ!」

 

「……わしの名は……木下……藤吉郎……」

 

………木下藤吉郎…?木下藤吉郎って…羽柴秀吉……豊臣秀吉じゃ……!

織田信長に仕え、農民の子から天下人にまで上り詰める男。日本史上最大の出世を果たした、英雄の中の英雄!俺が尊敬する武将No.1の秀吉さんだ!言われてみれば、確かにサル顏……。

 

 

「待てよ!おっさん死ぬな!あんたは織田信長に仕えて、この国を……!」

 

「……信長とは誰じゃ?……織田の殿さまの名は……のぶ……な……」

 

……こときれた。晴也の腕の中で、天下人となり、さらに一代の英雄となる、晴也が最も尊敬して好きだった秀吉が、足軽のままでひっそりと死んでしまった。

 

(ありえねぇ……こんなの、俺が習った知識と違う。あいつとやってたゲームだって、こんなイベントはねえぞ…)

 

ポツンと、彼はまたひとりぼっちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~」

 

思わず溜息をついてしまう。まさかの秀吉さんの死亡。

やっぱ夢?と思ったが、秀吉さんの屍はあまりにリアルだった。

 

(俺…どうすりゃいいかなぁ)

 

今、晴也はとにかく織田の本陣に向かっていた。どことなく足取りが重い。

 

(秀吉さんだったならもっといっぱい話したかったなぁ)

 

しかし、そうしたら俺が秀吉さんの代わりをしなくちゃなんないんじゃないか?

 

(……まさかな)

 

「やっと着いた~ってあれ?」

 

すでに大将を守る近衛兵たちも前線へ出てしまっており、本陣はがら空きとなっていた。ところが、である。そこに、いずこからともなく急襲してきた今川方の決死隊が切り込みをかけていた。

 

(これ、ヤバイんじゃないか)

 

晴也の考え通り、織田信長とおぼしき格好をした人物が敵に、四方八方から取り囲まれていた。

 

(秀吉さん死んで、信長まで死んだら歴史めちゃくちゃだっ!)

 

晴也は信長?へと飛んできた槍を、木刀で叩き落とした。

 

 

 

 

 

SIDE:織田信奈

 

(これは絶体絶命ね……)

 

もはや大局では織田軍の勝利は必然。だが、総大将の自分がやられちゃ意味がない。

 

(さて、どうしようかしら……)

 

信奈自体弱いわけではないが、勝家や犬千代には遠く及ばない。愛用の種子島に弾を込める前に恐らく斬り殺されてしまう。あくまで一般的に戦えるレベル。

相手が多数いる状態は、正直キツイ。すると、自分のもとへ頭めがけて槍が飛んできた。

 

「くっ!」

 

応戦しようとする前に、その槍は叩き落された。とっさに叩き落とした人物を見た。

 

(誰……こいつ………)

 

私の兵?違う、かといって今川でもなさそう。自分に負けず劣らずの奇妙な格好。

肩の半分を隠す綺麗な長い髪を一つまとめて、木刀を握りしめている。チラッとこちらを見て、また敵に振り返った。一瞬だったのでハッキリとは顔が見えない。

 

「……ん?」

 

今度はこちらを凝視してきた。見ると、相手の顔も自分に負けず劣らず綺麗な顔をしていた。一瞬見惚れてしまうほどに。

 

(女の娘、かしら)

 

「な、なによ?」

 

「も、もしかして………え、えっと、名前は?」

 

声で判断すると、男だ。しかも、ありえないことにこの状況で名前を聞いてきた。

 

「は?」

 

そんなの決まってるじゃないと強く言って、すぅー、はぁーと息を吸い

 

「尾張の大名、織田信奈よ!」

 

と言い捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:五月雨 晴也

 

(マジかよ、このちっこいのが織田信長、じゃなくて織田信奈!?)

 

秀吉さんが言ってたことは聞き間違いじゃなかったのか。容姿は煤で頬やおでこが若干黒いが、一目で分かる、美少女だった。服装はゲームでよく見かける、織田信長の若きファッションにそっくりだった。

 

(あいつとやったゲームがこんなところで役立つとは……)

 

「な、なんだこいつ!」

 

「新手の織田兵だ!」

 

「たった一人だぞ!先にやってしまえ!」

 

痺れを切らした今川の足軽達からが斬りかかってきた。

それを木刀で上手く受け流しつつ、

 

「おまえは隠れてろよ!」

 

と織田信奈に言い放った。

 

「なっ!?お、おまえじゃないわよ!」

 

……あぁもうめんどくせえ、速攻で片付けてやる。

俺は突かれた槍を掴み、逆にこちらに引き寄せ木刀で側頭部をぶっ叩いた。

もう、剣道の試合のようにしっかりと当てれば勝ちなんて簡単なもんじゃない。

やらなきゃ死ぬ。

 

(……かと言って殺したくねえな)

 

ていうか殺せない。絶体人殺しなんてなりたくない。

 

それなりの手心を加えて、相手を倒していく。木刀より重い、刀を振るっているのだ。隙は充分過ぎるほどあった。鎧によって当てる所は制限されてしまうが、『現代の宮本武蔵』とまで言われた晴也の実力は伊達ではなかった。ヤケになった武将が、五月雨を真っ二つにしようと大きく刀を振りかぶる。晴也は姿勢を低くし、左手は前へ、木刀を持っている右手を矢を引くように後ろへ引く。ギリギリのタイミングで、後ろへ引いた腕を相手の顔面に突き出す。相手はなにが起きたのかも分からず、ぶっ飛ばされた。突きを繰り出すスピードが、まさに閃光と言われたことにより付けられた、その名を、『一閃』。

晴也のお箱芸である。突かれた相手はぐぉぉお!?悲鳴じみた声を出しながら、顔を抑え倒れこんでいる。

 

「大丈夫だ。顔が変形するほどじゃねえよ」

 

残りの足軽は、敵わないとみて逃げたした。

 

「ご主君、戦はお味方の大勝利です!ご無事でしたか!」

 

騎馬隊を率いて、馬に乗った鎧武者が駆けてきた。ん、なんか……

 

(胸が………おいおいこいつも女かよ……)

 

「私は大丈夫!このまま今川を追い出すのよ!」

 

はっ!と、鎧武者が駆けて行った。

 

「んで……」

 

「ん?」

 

「あんたは、なにこのわたしをおまえ呼ばわりしてんのよ!」

 

ガンッ!顔面めがけてわらじばきの足の裏が飛んできた。

 

「いってぇ!なにすんだよ!?」

 

「私のことも知らないの?あんた何者よ!」

 

「俺は…ッ!?」

 

種子島の銃口を俺の口に突っ込もうとしていた。銃口を掴んで上を向かせる。

 

「なにすんだよ!?」

 

「いいから、さっさっと答えなさい!」

 

「俺は、五月雨晴也だ!」

 

「変な名前ね。……ハルでいいわ!」

 

(こいつ……勝手にあだ名つけやがって……助けた奴を蹴飛ばすし、なんなんだよ!?)

 

「あんた、妙にちんちくりんな服着てるし、剣術はデタラメなほど強いし、どう考えても並の人間じゃないから、本当はサルにしようかと思ったんだけど……」

 

滅茶苦茶な奴だなぁ。

「ま、顔だけいいからサルはやめとくわ」

 

「そうか?んじゃ、俺はおまえのことサルって呼んでやるよ」

 

「はぁ!?意味わかんないわよ!」

 

「いやだって、サルって小さいし、その格好のほうがサルだろ」

 

「はぁ!?次言ったら、ここで打ち首よ!」

 

「そうか、サルは嫌だか。だったらなんの動物がいい?」

 

「だから!私は織田信奈!ノ・ブ・ナ!」

 

これが彼らにとって始めての夫婦?喧嘩になることは、誰も知らない。

 

 

 

 

 




文才がない処女作ですので、意見をよろしくお願いします。

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