魔法科高校の転生者   作:南津

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1.5 新しい出会い

 オリエンテーションが終わり、それぞれ授業を見学することになった。今日明日と魔法科の授業を見ながら、新入生に魔法科高校に慣れてもらうのが目的の日程だ。

 一科の生徒には教員から個別指導を受ける権利がある。当然、各クラスにも授業毎に担当の教師が付くのだが、まだ見学の段階のため、工房を見学するグループと、練習場等を見学するグループにそれぞれ教師が付くようだった。

 もちろん、個人で回ることも許可されているので、友人と共に授業を回る者もいた。

 伊月もその一人で、文哉に誘われて一緒に授業を回ることになった。文哉に付いて来た沙妃も一緒だ。

「というか、初日から練習場を使う授業はあるのか? 進級してもカリキュラムの説明もあるだろうし」

 誰もいない練習場を見学していると、文哉が声を発した。

「あるんじゃない? 魔法理論は一年生で集中して習うから、二年からは実技の履修が増えるって事だし、練習場の使用スケジュールもどこかのクラスで埋まっているでしょ。それに上級生には今日で授業二日目。そうじゃないと新入生の見学の意味がないじゃない」

「あ~、そうだな」

「教員が引率して授業中の練習場に行っているんじゃないか?」

「おぉ、そうだな」

 いつ気が挙げた意見に文哉は今気づいたという感じで同意した。

 伊月が言うように、授業カリキュラムを知って、見学の行き先を考えている教員は、新入生を連れて回っている。使用していない練習場や工房も回るが、授業見学の意味での時間なので上級生の授業見学が中心だ。

「そうよ、誰かが自分たちで回ろうなんて言うから」

「……」

 文哉は沙妃の物言いに反論できない。無言で返しつつ、情報端末から構内の地図を表示する。

「そ、それなら工房にでも行ってみないか? CADの調整なんかで世話になる所だし、授業してなくても見るものがあるだろう」

「そうだな、魔法科高校の工房には俺も興味はある。国立大学付属という位だし、機械なんかも充実しているだろう」

「あれ文哉、CADの調整なんかできたんだ?」

「……」

 とりあえず、実験棟内の工房へ三人で向かうことになった。

 工房――工学実習室は、実際は企業の実験棟や実験室のような趣だった。情報工学系の仕事をしていた伊月も、前世ではよく目にしたような場所だ。

「へぇ……これが普通なのか?」

「高校の実習室というより企業の実験棟だな」

「すごいわね……魔工師志望でもない私たちじゃあまり縁のない場所だけどね」

 沙妃は工房に並んだ機材を眺めながら呟いた。

「魔法工学の授業で使うだろう。文哉達は魔法師志望なのか?」

「ああ、CAD位は自分で調整できるようにはしたいが、研究やプログラムなんかはよく分からねぇからな」

「私は自分のCADの点検くらいなら出来るけど、魔工師のタイプじゃないのよね」

 文哉も沙妃も、魔法師となるための一歩としてこの第一高校に進学した。現状、魔法師になるには国立の魔法大学を卒業するのが一番の近道だ。

 他にも様々な要因が重なれば、魔法師として仕事を得ることができるようになるが、誰もがそのような機会に恵まれるとは限らない。それに、魔法師が不足している現在、魔法大学卒業というだけで就職先に困るようなことは滅多にない。

「伊月は魔工師志望なのか?」

「いや、自分のCADは自分で弄るが、まだどちらとも決めたわけじゃない。選択授業は無難に選んだが、魔工師になるために選んだわけでは無いからな。この学校に来たのも取り敢えず大学へ入学する一番楽な手段だったからだ」

「へぇ、自分でCADを弄れるのか。今度機会があったら見てもらってもいいか?」

「あぁ。問題ない」

 第一高校の工房には見学者用の通路が設置されている。ますます、実験棟という表現が適切になってくるが、扱いによっては危険なものや、騒音を発する機材が多く置かれているため見学通路は当然遮音性のあるものが設置されている。

 企業ならば取引先などの人間が見学するために設置する場合もあるが、ここでは授業を見学するために設置されていた。その殆どが、今回のような新入生が見学する場合だ。

 見学用の通路に上がると、向かいから数名の生徒が歩いてくるのが解った。数名は何故かバツの悪い表情をしていたが、その後ろに向けられる視線から、何かあったのだろうと伊月は推測した。

 通路の先の見学スペースには、数名の生徒を率いた教師の姿があった。D組を引率していた教師ではなかったので、他のクラスの生徒達だろう。他に、生徒だけで来ている者はほとんど見かけない。その少ない生徒は皆、刺繍がないので二科の生徒ということだろう。

「やっぱ魔工師志望は少なそうだな」

「そうだな。教師の引率も少ないし、魔法師志望が多いのだろう。近年は九校戦も第一高校が勝っているし、魔法師のが集まって層が暑くなっているのだろう」

「お、九校戦か。今年は俺も出たいんだがな~……」

「無理ね」

「うぉい! 少し位希望を持たせてくれ!」

「男子十人に文哉が入る? 笑えるわね。新人戦は負けかな」

「おーい……そこまで言わなくてもいいんじゃ……ない、かな」

 がっくりと肩を落としてうなだれる。おそらく二人のいつもの遣り取りなのだろう。容赦のない言葉の中にもどこか漫才のような空気が漂っている。

 文哉は腐れ縁と言っていたが、二人は小学校に通う以前から付き合いだった。十師族や百家のように、非凡な資質を伝承する家計では無いが、同じ魔法師を輩出家として二人の家は交流があった。住居も近いということもあって中学までずっと同じ学校に通っていた。

「はぁ……伊月はどうなんだ?」

「九校戦か?」

「ああ。新人戦に選ばれるくらいはしそうだな。こう……雰囲気的に?」

「なによ、その雰囲気って……」

「どうかな。選考基準がわからないから何とも言えないが、実技試験の結果を基準にするなら選ばれる可能性はあるかな」

 実技試験で成績を調整するなら一番落としやすいのが干渉力だ。

 無意識領域下という魔法演算領域の特性上、処理速度は非常に落としにくい。咄嗟の場合に発揮されるのも処理速度で、変に数値を落とせばこれから先も面倒になる。

 演算規模(キャパシティ)は多工程の魔法を処理する際に性能が発揮される。魔法師として両親に恥じない成績を取るためには必要な才能だ。

 そんな理由で、伊月は魔法行使をする際に干渉力を抑えて魔法を行使している。普通に学校生活を送るだけなら、別段干渉力を発揮する場面は殆どないはずだ。

 硬化魔法で武装し、加重、加速、移動魔法などを瞬間的に多用する戦闘スタイルになっているのも、干渉力を発揮しなくても良い要因になっている。高い身体能力での格闘戦に必要なのは高い処理速度と演算容量、そして、妨害されない程度の干渉力だ。

 干渉力を抑えた結果、伊月の入試における実技成績は三席程度まで抑えられていた。ちなみに、伊月は知らないが、次席は同じ転生者だ。

「やっぱりな。オーラが違う、オーラが」

「オーラが見えるのか?」

「いや、見えんが」

「はぁ……いい加減なんだから」

 疲れたように呟いた沙妃の言葉で一旦会話が途切れる。

 その後も、三人で工房を見て回り、昼食の時間まで時間を潰していた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 昼休み。待ち合わせがあると伊月が言うと、二人共弁当を持参していたようで、自然と分かれることになった。

 二人と別れた伊月は待ち合わせ場所には数名の一科生がいた。近づいていくと、伊月の姿が見えたようで、話を切り上げた。

「悪いな、待たせたか?」

「ううん。丁度来たところ。行こっか」

 歩み寄ってきた彩花は先程まで話していた生徒たち――男ばかりだった――を置いて、伊月とともに食堂の中に入っていった。後ろから強烈な視線が注がれていたが、伊月は気にしないことにして、何事もなかったように彩花と並ぶ。

 待ち合わせは食堂近くだったので、直ぐに中の様子が見えてきた。辺りには新入生らしい真新しい制服を着た生徒が溢れていた。広い食堂とは言え、生徒全員を収容する設計にはなっていないので、早めに席を確保しないと暫く待つことになりそうだった。

「日替わりランチ……杏仁豆腐」

 彩花はデザートで昼食を選択するようだ。とはいえ、無難な選択に伊月も同じものを食べることにする。

 出された食事を受け取り、空いている席を探す。丁度席を立った生徒が居た一角を目指す。食堂のテーブルは、長椅子のついた、ゆったりとした対面式四人がけの物で、詰めれば六人は座れそうだ。

 この一角は食堂利用の初期の集団が座っていたのか、他のテーブルも食事を終えた生徒が次々と席を立っていく。

 伊月たちはテーブルにつくと、早速食事を始める。

「さっきから気になってたんだが、その包はなんだ?」

 彩花は最初から小さな包を持っていた。弁当にしては小さいが、食堂に行くので弁当ではないと思っていた。

「ん? これ?」

「ああ」

「これはデザートだよ。果物の詰め合わせ」

「あぁ、なるほど」

 彩花が持っていたのは果物の入った保存容器だった。過去の入院生活もあって、果物を食べる習慣が染み付いている彩花は、弁当を用意するときなど何時も果物の詰め合わせを用意していた。

 食堂を利用するといっても、メニューが分からなかったのでデザートだけでも用意してきていたのだ。

「あ」

「ん?」

 彩花の声に反応し伊月が顔を上げると、彼女は伊月の後ろを見ていた。

「あ、彩花ちゃんだ。一緒にいいかな?」

 その声に反応して伊月は後ろを振り返る。

 そこには一科の制服を着た男子を引き連れた、数名の女子生徒が立っていた。

「いいですよ。……でもみんなは座れないかな?」

「大丈夫、大丈夫。詰めれば四人は座れるよね」

「あの、お邪魔します……」

 女子の人数は四人だったらしく、女子生徒は同じテーブルに集まる。後ろの男子生徒はひとつのテーブルに座れる人数を大きく超えている。

「ああ、大丈夫だが……後ろの男子は……」

「平気、平気、隣も空いてるしね!」

 四人の女子の中で、ひときわ元気な少女が伊月の疑問に答えた。

 元気なのはいいが、他の女子生徒に比べて明らかに小柄で、本当に高校生なのか疑問に思える体型だった。

「あ、その目知ってますよ! 私の体型を馬鹿にした目です!」

「ん? ……あぁ、残念だったね」

 伊月は、心底悲しそうな目を少女に向ける。

「う、その目も知ってます。別に哀れんでほしくなんかないんだから!」

「はいはい。彩花、誰だコイツは?」

「あ、紹介します。彼がD組の小鳥遊伊月ちゃんです。で、彼女が八千古島(やちこじま)早苗(さなえ)ちゃんです」

 四人の女子生徒は次々と席に座っていく。比較的小柄な体型の二人が伊月の隣に並ぶように座った。

「そのとなりの北山雫さんとこっちの光井ほのかさんは知ってますよね」

 いつ気の座る長椅子には八千古島と北山が座っていた。男子が一人混じっているため多少狭いが、八千古島が小柄なため問題なく納まっている。

 反対側には二人の少女が座った。伊月はその二人ともに見覚えがあった。

「ああ、入学式の時の二人だろ」

「はい、そして、最後に私の隣に座っている司波深雪さんです。伊月ちゃん以外、ここにいる皆A組ですね」

 彩花の隣には今年の主席入学者であり、原作ヒロインの司波深雪が静かに座っていた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 


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